説明

共重合体ラテックス組成物、紙塗工用組成物及び塗工紙

【課題】塗工紙用途に使用された場合に、該塗工紙のピック強度及び湿潤ピック強度を向上させ、塗工紙を再利用する工程における離解性にも優れた、共重合体ラデックス組成物を提供する。
【解決手段】(イ)(a)共役ジエン系単量体30〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、(c)その他の共重合可能な単量体33〜69.5質量%(但し該(a)、該(b)、及び該(c)の合計量は100質量%)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)、(ロ)ハロシアノアセトアミド系化合物0.003〜0.1質量部、及び(ハ)アルコール系化合物0.01〜0.8質量部、を含んでなる共重合体ラテックス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙用顔料バインダー、カーペットバッキング剤、接着剤、粘着剤、繊維結合剤及び塗料などに用いられる共重合体ラテックスに関する。これらの中でも特に塗工紙用顔料バインダーとして好適に用いられる共重合体ラテックスに関する。更に詳しくは、塗工紙の接着強度(ピック強度及び湿潤ピック強度)及び離解性に優れる共重合体ラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
共重合体ラテックスは例えば、紙塗工用顔料バインダー、各種接着剤及び粘着剤、不織布や人工皮革などの繊維結合用バインダーあるいは塗料など広範な用途に用いられている。これらの用途に用いられる共重合体ラテックスには、基材や配合される顔料などに対する優れた接着力が要求される。
【0003】
塗工紙は、例えば、紙の印刷適性の向上及び光沢などの光学特性の向上を目的として、抄造された原紙表面に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの顔料、それらのバインダーとしての共重合体ラテックス、及び粘度調整剤又は補助バインダーとしての水溶性高分子(スターチ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなど)を好ましい主構成成分とする紙塗工用組成物(紙塗工剤)が塗工されて形成されているものである。顔料バインダーとして用いられる共重合体ラテックスの性質は、これを利用した塗工紙の表面強度や印刷品質、塗工紙の離解性に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
ここで、バインダーとしての共重合ラテックスとしては、従来からスチレンとブタジエンを主要モノマー成分として乳化重合により形成されたスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス、いわゆるSBラテックスが汎用的に用いられている。
【0005】
近年、印刷の高速化や高度化が進み塗工紙及び顔料バインダーに対する要求水準はますます高度化している。特にインクのタックによる紙表面の破壊に対する抵抗性、いわゆるドライピック強度の向上や、湿し水の存在下に印刷を行う時に重要となる、水を塗布した時のインクピック抵抗性である湿潤ピック強度の向上が求められている。更には塗工紙の生産コストを抑制する目的で、比較的高コストの原材料であるラテックスの使用割合を減らす意味でも、ラテックスの接着強度の向上が望まれている。
【0006】
また、環境問題への対応や生産コストを抑制する目的で塗工紙を再利用することが求められる。そのため、塗工紙の塗工成分が原紙のパルプから離脱、分散しやすいという離解性に対する要求が高まっている。さらに、抄紙工程の乾燥用ロール汚れに対する抵抗性は離解性と相関していることが知られており、操業性の観点からも離解性の向上が望まれている。
【0007】
このような事情のもと、特許文献1(特開平10−007706号公報)には、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩とを併用し、数平均粒子径100nm以下の共重合体ラテックスを得ることにより、高いピック強度を得る方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2(特開平07−316212号公報)には、特定の組成の単量体をα−メチルスチレンダイマーの存在下で乳化重合するに際し、一段目と二段目に用いる水の量をある一定範囲に設定して数平均粒子径を60〜160nmの範囲にすることにより、ピック強度と湿潤ピック強度を向上させる方法が提案されている。
【0009】
特許文献3(特開2008−144058号公報)においては、特定の組成の単量体をα−メチルスチレンダイマーの存在下で乳化重合することでピック強度を向上させる方法が提案されている。
【0010】
特許文献4(特開平11−012979号公報)においては、酵素変性により特定の粘度に至るまで粘度を低下せしめたカチオン化澱粉を紙力増強剤として使用することにより、優れたピック強度と離解性を向上させる方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、比較的アルキルベンゼンスルホン酸塩の使用量が多いため耐水性が低下し、良好な湿潤ピック強度が得られない場合がある。
【0012】
特許文献2に記載の方法においては、離解性の観点からなお改善の余地がある。
【0013】
また、特許文献3に記載の方法においては、湿潤ピック強度或いは離解性の観点からなお改善の余地がある。
【0014】
特許文献4に記載の方法においては、湿潤ピック強度の観点からなお改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−007706号公報
【特許文献2】特開平07−316212号公報
【特許文献3】特開2008−144058号公報
【特許文献4】特開平11−012979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上のような状況から、塗工紙のピック強度及び湿潤ピック強度を向上させることができ、塗工紙の損紙を再利用する工程における離解性に秀でた共重合体ラテックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の組成の共重合体ラテックスと、特定量のハロシアノアセトアミド系化合物及びアルコール系化合物とを含んでなる共重合体ラテックス組成物が上記課題を解決しうることを見出し、さらに研究を進めて本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち本発明は、以下の通りである。
[1](イ)(a)共役ジエン系単量体30〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)その他の共重合可能な単量体33〜69.5質量%(但し、該(a)、該(b)、及び該(c)の合計量は100質量%)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)、(ロ)ハロシアノアセトアミド系化合物:0.003〜0.1質量部、及び(ハ)アルコール系化合物0.01〜0.8質量部、を含んでなる共重合体ラテックス組成物。
[2]前記(ロ)成分が、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドである、上記[1]記載の共重合体ラテックス組成物。
[3]前記(ハ)成分が、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジエチレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物である、上記[1]又は[2]記載の共重合体ラテックス組成物。
[4]前記乳化重合は、乳化重合の途中に重合温度の降温が行われる、上記[1]から[3]のいずれかに記載の共重合体ラテックス組成物。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の共重合体ラテックス組成物を含む紙塗工用組成物。
[6]上記[5]に記載の紙塗工用組成物を用いて製造される塗工紙。
【発明の効果】
【0019】
本発明の共重合体ラテックス組成物によれば、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度及び離解性を向上させる共重合体ラテックスを提供することができる。
【0020】
すなわち、共重合体ラテックスを製造するに際し、原料単量体の組成を特定範囲に限定するとともに、この共重合体ラテックスと、特定量のハロシアノアセトアミド系化合物及びアルコール系化合物とを含んでなる共重合体ラテックス組成物とすることこそ、本発明の本質が存するのである。
【0021】
また、本発明の紙塗工用組成物及び塗工紙によれば、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度及び離解性を著しく優れるものにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0023】
本発明の共重合体ラテックス組成物は、(イ)(a)共役ジエン系単量体30〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)その他の共重合可能な単量体33〜69.5質量%(但し(a)、(b)、及び(c)の合計量は100質量%)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)、(ロ)ハロシアノアセトアミド系化合物:0.003〜0.1質量部、及び(ハ)アルコール系化合物0.01〜0.8質量部、を含んでなる共重合体ラテックス組成物である。以下、これらについて順次説明する。
共重合体ラテックス(イ)
【0024】
本発明の共重合体ラテックス組成物を構成する共重合体ラテックス(イ)は、(a)共役ジエン系単量体30〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及びその他の共重合可能な単量体33〜69.5質量%(但し、(a)、(b)、及び(c)の合計量は100質量部)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる。
共役ジエン系単量体(a)
【0025】
共重合体ラテックス(イ)の必須成分である共役ジエン系単量体(a)は共重合体に柔軟性を与え、ピック強度、衝撃吸収性を与えるために有効な成分であり、該共重合体を構成する全単量体(すなわち、単量体(a)、(b)及び(c)の合計)を100質量%とした場合、30〜60質量%、好ましくは35〜55質量%、より好ましくは38〜53質量%の割合で用いられる。この範囲の割合で用いられることによって、共重合体ラテックスは優れたピック強度を発現し、かつ優れた耐湿潤ベタツキ性を発現する。使用される共役ジエン系単量体(a)の好ましい例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体(b)
エチレン系不飽和カルボン酸単量体(b)は、塗工紙のピック強度の向上と共重合体ラテックスの分散安定性を確保するために必須の成分で、共重合体ラテックスの共重合体を構成する全単量体(すなわち、単量体(a)、(b)、及び(c)の合計)を100質量%とした場合、0.5〜7質量%、好ましくは1〜5質量%、最も好ましくは1.5〜4.5質量%の割合で用いられる。該エチレン系不飽和カルボン酸単量体をこの割合で用いることにより、共重合体ラテックスに必要な分散安定性が付与され、また共重合体ラテックスの粘度が適正化されて取扱いに支障が来たされない。エチレン系不飽和カルボン酸単量体(b)の好ましい例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの単量体が挙げられ、これらはそれぞれ1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
その他の共重合可能な単量体(c)
また、他の原料として、上記(a)〜(b)単量体と共重合可能なその他の単量体(c)を含む。この単量体(c)を適宜選択することにより、共重合体ラテックスにさまざまな特性を付与できる。その他の共重合可能な単量体(c)の好ましい例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシアルキルエステル類、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、p−スチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩などが挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記共重合体ラテックス(イ)を乳化重合するに当たり、その重合温度に関しては、重合中に重合温度の降温が行われる工程を含むことが好ましい。ここで言う降温とは、任意の20分間において重合温度が0.1℃以上降下していることを指すものである。また、好ましくは本発明においては、前記降温における温度の降下速度が1〜10℃/hrの範囲内である。更に好ましくは降下速度は、2〜5℃/hrの範囲内であり、最も好ましくは2.5〜4℃/hrの範囲内である。重合温度の降下速度をこの範囲とすることにより、ピック強度及び機械的安定性の一層良好な共重合体ラテックスが得られ、かつ量産を考慮した大型実機設備においても温度コントロールが困難になることがない。
【0029】
前記共重合体ラテックス(イ)の乳化重合においては上記各成分の他、乳化剤、ラジカル開始剤、連鎖移動剤、各種重合調整剤などを適宜配合し得る。
このような乳化剤としては、アニオン、カチオン、両性若しくは非イオン性の界面活性剤、又は反応性乳化剤を用いることができる。
これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することも可能である。
【0030】
好ましい界面活性剤の例としては、例えば、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤、などが挙げられる。
【0031】
また、乳化分散させるための乳化分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、その他の界面活性剤や両性界面活性剤などが挙げられる。
このような乳化分散可能な各種分散は1種を単独で、あるいは複数組み合わせて使用することが可能である。
【0032】
ラジカル開始剤は、熱又は還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、本発明においては無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することが可能である。好ましい例としてはペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などがあり、具体的にはペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル及びクメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられ、これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また酸性亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩及びロンガリットなどの還元剤を重合開始剤と組み合わせて用いる、いわゆるレドックス重合法を用いることもできる。
【0033】
前記共重合体ラテックス(イ)を製造するに当たっては、ラジカル重合で通常用いられる公知の連鎖移動剤や重合遅延剤を用いることが可能である。連鎖移動剤や重合遅延剤の好ましい例としては、核置換α−メチルスチレンの二量体であるα−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン及びt−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラメチルチウラジウムジスルフィド及びテトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類、四塩化炭素及び四臭化炭素などのハロゲン化誘導体、並びに2−エチルヘキシルチオグリコレートなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記共重合体ラテックス(イ)を製造する場合の重合温度は、通常40〜100℃の範囲であるが、生産効率と、得られる共重合体ラテックスを使用した塗工紙のピック強度等の品質の観点からは、重合開始時の重合温度は、55〜85℃の範囲内が好ましく、より好ましくは60〜80℃、更に好ましくは70〜80℃の範囲内である。
【0035】
前記共重合体ラテックス(イ)を製造する場合の重合固形分濃度は、生産効率と、乳化重合時の粒子径制御の観点から、好ましくは35〜60質量%であり、より好ましくは40〜50質量%である。ここにいう固形分濃度とは、共重合体ラテックスを乾燥することにより得られる固形分質量の、乾燥前の共重合体ラテックス質量に対する割合を言う。
【0036】
前記共重合体ラテックス(イ)の製造に際しては、粒子径の調整のため公知のシード重合法を用いることも可能であり、シードを作製後同一反応系内で共重合体ラテックスの重合を行うインターナルシード法、及び別途作製したシードを用いるエクスターナルシード法などの方法を適宜選択して用いることができる。
【0037】
前記共重合体ラテックス(イ)のトルエン不溶分は、80〜96質量%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは85〜95質量%の範囲にあり、最も好ましくは89〜93質量%の範囲にある。該トルエン不溶分の量をこれらの範囲とすることにより共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性が一層向上し、バッキングロール汚れ等のロール汚れトラブルを回避することと、優れたピック強度、湿潤ピック強度、印刷光沢をより顕著に達成することが可能となる。共重合体ラテックスのトルエン不溶分の調整は、重合反応中に使用する連鎖移動剤の使用量を調整することにより可能である。前記連鎖移動剤の重合系内への添加方法としては、一括添加、回分的添加、及び連続的添加のいずれでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0038】
また、前記共重合体ラテックス(イ)の粒子径は、60〜130nmであることが好ましい。該粒子径は、より好ましくは70〜110nmであり、最も好ましくは80〜100nmである。この範囲の粒子径に設定することにより、共重合体ラテックスの粘度を好適な範囲に調整することが可能であり、作業性の低下を防ぐことができる。この範囲の粒子径に設定することにより、更には、一層優れたピック強度、湿潤ピック強度、を達成することが可能となる。
【0039】
前記共重合体ラテックス(イ)には、必要に応じて公知の各種重合調整剤を用いることができる。これらはたとえばpH調整剤及びキレート剤などであり、pH調整剤の好ましい例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムなどが挙げられ、キレート剤の好ましい例としてはエチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0040】
共重合体ラテックス(イ)の、最終製品としての固形分濃度についても特に制限はなく、該固形分濃度は通常30〜60質量%の範囲に希釈又は濃縮して調製される。
【0041】
ハロシアノアセトアミド系化合物(ロ)
ハロシアノアセトアミド系化合物(ロ)は、塗工紙の離解性の向上を確保するために必須の成分で、共重合体ラテックス(イ)100質量部(固形分換算)に対し、0.003〜0.1質量部、好ましくは0.005〜0.08質量部、最も好ましくは0.01〜0.06質量部の割合で用いられる。ハロシアノアセトアミド系化合物(ロ)をこの割合で用いることにより、共重合体ラテックスは優れた離解性を発現し、かつ優れた耐湿潤ベタツキ性を発現する。ハロシアノアセトアミド系化合物(ロ)は、好ましくは、少なくとも1のハロゲノ基と少なくとも1のシアノ基とを有するカルボン酸アミド化合物であり、その好ましい例としては、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−クロロ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2,2−ジクロロ−3−ニトリロプロピオンアミド、N−メチル−2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドが挙げられ、その中でも最も好ましいのは2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドである。
【0042】
アルコール系化合物(ハ)
アルコール系化合物(ハ)は、塗工紙のピック強度の向上を確保するために必須の成分で、共重合体ラテックス(イ)100質量部(固形分換算)に対し、0.01〜0.8質量部、好ましくは0.03〜0.6質量部、最も好ましくは0.05〜0.4質量部の割合で用いられる。アルコール系化合物(ハ)をこの割合で用いることにより、共重合体ラテックスは優れたピック強度を発現し、かつ優れた耐湿潤ベタツキ性を発現する。アルコール系化合物(ハ)は、好ましくは、少なくとも1のヒドロキシ基を有する炭化水素化合物であり、その好ましい例としては、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類などが挙げられ、その中でも最も好ましいのはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールである。これらはそれぞれ1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
共重合体ラテックス組成物
本発明の共重合体ラテックス組成物は上述の共重合体ラテックス(イ)、ハロシアノアセトアミド化合物(b)、及びアルコール系化合物(ハ)を上述の割合で含んでなる組成物である。従って、当該組成物は上記(イ)、(ロ)、及び(ハ)のみで構成されていても良いし、それ以外の成分を含んでいても良い。
【0044】
本発明の共重合体ラテックス組成物には、その効果を大きく損ねない限り、必要に応じて各種添加剤を添加すること、あるいは他のラテックスを混合して用いることが可能であり、例えば分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、印刷適性向上剤及び滑剤などを添加することが可能であり、アルカリ感応型ラテックス又は有機顔料などを混合して用いることもできる。
【0045】
次に、本発明の共重合体ラテックス組成物を用いる方法について説明する。
まず、本発明の共重合体ラテックス組成物を塗工紙用のバインダーとして使用する場合について説明するに、かかる場合には、まず紙塗工用組成物を調製する。該紙塗工用組成物は、通常行われている実施態様で製造することができる。すなわち、例えば、分散剤を溶解させた水中に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト及びタルクなどの無機顔料、並びにプラスチックピグメントやバインダーピグメントとして知られる有機顔料から選ばれる顔料、澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースなどから選ばれる水溶性高分子、並びに増粘剤、染料、消泡剤、防腐剤、耐水化剤、滑剤、印刷適性向上剤、pH調整剤及び保水剤などから選ばれる各種添加剤とともに共重合体ラテックス組成物を添加して混合し、均一な分散液(紙塗工用組成物)とする。
【0046】
顔料と共重合体ラテックス組成物との使用割合は、紙塗工用組成物の使用目的によって適宜決定することができるが、顔料100質量部に対して共重合体ラテックス組成物3〜30質量部(固形分換算)を用いることが好ましい。そして、この紙塗工用組成物は、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター及びバーコーターなどを用いる通常の方法によって原紙に塗工することができるが、かかる塗工においてはブレードコーターを用いることが好ましい。塗工形態も、原紙に対し片面、又は表裏の両面に塗工されうるものであり、また片面当たりの塗工回数についても1回であるシングル塗工の他、2回の塗工工程を行ういわゆるダブル塗工に供することもできる。この場合、本発明の共重合体ラテックス組成物はその下塗り用紙塗工用組成物、及び上塗り用紙塗工用組成物のいずれにも用いることができる。
【0047】
なお、前述の紙塗工用組成物を塗工原紙の表面に塗工処理して、印刷用塗工紙又は印刷用塗工板紙を得ることができる。この印刷用塗工紙又は印刷用塗工板紙は、オフセット枚葉式印刷用紙、オフセット輪転式印刷用紙、グラビア式印刷用紙、フレキソ印刷用紙及び凸版式印刷用紙などの各種印刷用紙及び各種印刷用板紙に好適に用いられる。
【0048】
また、本発明の共重合体ラテックス組成物は、紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤の他、接着剤及び各種塗料にも用いることができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、各物性の評価は、下記の通りの方法で行った。
評価(1)塗工紙物性(ピック強度)
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、印刷インク(ティーアンドケイ東華社製SDスーパーデラックス50紅B;タック18)0.4ccを塗工紙サンプルに重ね刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。
【0050】
評価は相対的な10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
評価(2)塗工紙物性(湿潤ピック強度)
RI印刷試験機(明製作所製)を用いてスリーブロールで塗工紙表面に給水し、その直後に印刷インク(ティーアンドケイ東華社製SDスーパーデラックス50紅B;タック15)0.4cc1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。
【0051】
評価は相対的な10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
評価(3)塗工紙物性(離解性)
3cmに裂いた塗工紙片20gを980gの水中に入れ撹拌機(プライミクス社製ROBOMICS)を用いて3000rpmで撹拌し、紙片が完全に離解するまでの時間を測定。
【0052】
評価は相対的な10点評価法とし、離解するまでの時間が短いものほど高得点とした。
表1〜4の記載内容から、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した場合、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度、離解性はいずれも高いレベルにあった。
【0053】
[実施例1]
共重合体ラテックス組成物の調製
表1に示した重合初期原料、並びに第一工程に記載の単量体及び連鎖移動剤の混合物のうち15質量%を撹拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に入れ、内温を78℃に調節した。
その後、ペルオキソ二硫酸ナトリウム0.8質量部を添加して重合を開始した。その15分後、第一工程に記載の単量体及び連鎖移動剤混合物のうち残りの85質量%を3時間かけて反応器に添加し、ペルオキソ二硫酸ナトリウム添加30分後から、表1記載の水溶液を一定速度で第一工程終了まで添加した。
【0054】
第一工程終了と同時に、表1に示した第二工程に記載の単量体及び連鎖移動剤を2時間かけて連続添加した。
【0055】
第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物の連続添加開始時点から、重合温度即ち耐圧反応器の内温の降温を降下速度2.9℃/hrで開始し、重合温度が70℃になった時点で降温を終了した。また、第二工程開始30分後から1時間かけて表1に示したイタコン酸を用いた15質量%水溶液を一定速度で連続的に添加した。
単量体添加が終わって一時間後から一時間かけて95℃まで温度を上昇させ、その後40分間95℃で維持し、共重合体ラテックスを得た。
得られたラテックスは、200メッシュ金網で濾過し、共重合体ラテックスに対して水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpHを7.5に調整した。
【0056】
スチームストリッピング法により未反応単量体を除去し、さらに濃縮後、水酸化ナトリウム水溶液を加え、この共重合体ラテックスに表1記載の量の2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド及びエチレングリコールを添加後、最終的に固形分濃度50%、pH8に調整した。
得られた共重合体ラテックス組成物をラテックス組成物Aとした。これから、後述の塗工紙の調製記載の方法で塗工紙を調整し、その塗工紙物性を評価し、表3に記載した。
【0057】
[実施例2〜7]表1記載の配合量をもって実施例1と同様の方法で重合を行い、さらに表1記載のハロシアノアセトアミド系化合物及びアルコール系化合物を添加することでラテックス組成物B、C、D、E、F、Gを得た。なお、実施例4は重合温度の降温を行わなかった。
塗工紙物性を評価し、表3に記載した。
【0058】
[比較例1〜7]表2記載の事項(配合量、及び重合温度の降下速度)以外は、実施例1と同様の方法で重合を行い、ラテックス組成物H、I、J、K、L、M、Nを得た。
塗工紙物性を評価し、表4に記載した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
塗工紙の調製
まず、共重合体ラテックスを除く以下の構成材料でマスターカラーを調製した。
【0064】
微粒カオリンクレー:50質量部
粗粒カオリンクレー:10質量部
重質炭酸カルシウム(微粒):30質量部
重質炭酸カルシウム(粗粒):10質量部
ポリアクリル酸ナトリウム:0.2質量部
水酸化ナトリウム:0.1質量部
リン酸エステル化でんぷん:2.5質量部
水(塗工液の全固形分が68質量%となるように添加)
なお、微粒カオリンクレーとしては、ハイドラグロス90(米国、J.M.HUBER社製;粒子径2μm以下の割合=96質量%以上)、粗粒カオリンクレーとしては、ハイドラスパース(米国、J.M.HUBER社製;粒子径2μm以下の割合=80〜82質量%)、微粒重質炭酸カルシウムとしてはカービタル97(イメリスミネラルズ・ジャパン社製;粒子径2μm以下の割合=97質量%以上)、粗粒重質炭酸カルシウムとしてはカービタル75(イメリスミネラルズ・ジャパン社製;粒子径2μm以下の割合=75質量%)、ポリアクリル酸ナトリウムとしてはアロンT−40(東亞合成社製)及びリン酸エステル化でんぷんとしてはMS−4600(日本食品加工社製)をそれぞれ使用した。
【0065】
このマスターカラーを目開き50μmの金属網に通過させて濾過した後、小分けし、各々のマスターカラーに、顔料100質量部当たり10質量部の割合で前記共重合体ラテックス組成物の調製において調製した共重合体ラテックスA〜Nのいずれか(表3又は4に従い選択される)、及び最終固形分が64質量%になるよう水を、それぞれ添加し混合して塗工カラーを得た。
次いで、上記塗工カラーを塗工量が片面13g/mになるよう、坪量74g/mの塗工原紙にブレードコーターで塗工し、乾燥した。
その後、ロール温度50℃、線圧147000N/mでスーパーカレンダー処理を行い、塗工紙を得た。
得られた塗工紙を印刷試験(上記の評価(1)〜(3))に用いた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によって得られる共重合体ラテックスは、紙塗工における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、接着剤、繊維結合剤及び塗料などに好ましく用いられる。
【0067】
更に、本発明で得られる共重合体ラテックスは、高いピック強度、湿潤ピック強度、及び離解性を持つ塗工紙を与え得るため、印刷用塗工紙分野で好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)(a)共役ジエン系単量体30〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)その他の共重合可能な単量体33〜69.5質量%(但し該(a)、該(b)、及び該(c)の合計量は100質量%)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)、
(ロ)ハロシアノアセトアミド系化合物0.003〜0.1質量部、及び
(ハ)アルコール系化合物0.01〜0.8質量部、
を含んでなる共重合体ラテックス組成物。
【請求項2】
前記(ロ)成分が、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミドである、請求項1記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項3】
前記(ハ)成分が、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジエチレングリコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物である、請求項1又は2記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項4】
前記乳化重合は、乳化重合の途中に重合温度の降温が行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の共重合体ラテックス組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の共重合体ラテックス組成物を含む紙塗工用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の紙塗工用組成物を用いて製造される塗工紙。

【公開番号】特開2011−225631(P2011−225631A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93609(P2010−93609)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】