説明

内燃機関におけるクランク軸の軸受け装置

【課題】潤滑油ポンプのオイル切れを防止する。
【解決手段】クランク軸6を,クランクケース内の複数の軸受け部8と,この各軸受け部にボルト9にて締結の軸受けキャップ体10とで回転自在に軸支し,前記各軸受けキャップ体の相互間を軸受けビーム体11にて連結し,この軸受けビーム体に,潤滑油ポンプを設けて成る内燃機関において,前記軸受けビーム体11に,前記クランクケース内からオイルパン内に落下する潤滑油を受け止めてオイルパン7内に導くように構成したオイル受け板17a,17bを一体に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関において,そのクランク軸を,クランクケース内において軸支するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,内燃機関におけるクランク軸は,シリンダブロックの下部におけるクランクケース内に一体に設けた複数個の軸受け部と,この各軸受け部の各々に対してボルトにて締結される軸受けキャップ体とによって回転自在に軸支するという構成にしていることは,従来から良く知られている。
【0003】
先行技術としての特許文献1は,前記の構成を前提とし,前記各軸受けキャップ体の相互間を,クランク軸の軸線方向に延びる軸受けビーム部材にて連結することにより,軸受け強度のアップを図る一方,内燃機関における潤滑油ポンプを,前記軸受けビーム部材に設けることを提案している。
【0004】
また,別の先行技術としての特許文献2には,内燃機関における潤滑油ポンプを,前記各軸受けキャップ体のうち相隣接する二つの軸受けキャップ体に,これに跨がるようにして取付けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−29127号公報
【特許文献2】特開平8−270426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記両先行技術における潤滑油ポンプは,そのいずれも,前記クランクケースの下部にこれを塞ぐように取付けたオイルパン内に溜まる潤滑油を吸い込んで内燃機関における各種の作動部分に供給するのであるが,前記クランク軸における各軸受け部等を潤滑したあとの潤滑油は,細かい油滴になって,前記クランクケース及びオイルパン内を,クランク軸の回転で横方向に飛散しながら前記オイルパンに落下することにより,前記オイルパンの内底に溜まる潤滑油は,泡立った状態になるばかりか,潤滑油面がクランク軸の回転で大きく波うちすることになるから,前記潤滑油ポンプに,空気の吸い込みに起因してのオイル切れが発生するおそれが大きくなり,しかも,潤滑油の劣化が早められるという問題があった。
【0007】
本発明は,この問題を,部品点数及び組み立て手数の増大を招来することなく解消することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「クランク軸を,シリンダブロックの下部におけるクランクケース内に設けた複数の軸受け部と,この各軸受け部の各々にボルトにて締結の軸受けキャップ体とで回転自在に軸支し,前記各軸受けキャップ体の相互間を前記クランク軸の軸線方向に延びる軸受けビーム体にて連結し,この軸受けビーム体に,前記クランクケースに取り付けたオイルパンの内底に溜まる潤滑油を吸い込む潤滑油ポンプを設けて成る内燃機関において,
前記軸受けビーム体に,前記クランクケース内からオイルパン内に落下する潤滑油を受け止めてオイルパン内に導くように構成したオイル受け板が一体に設けられている。」
ことを特徴としている。
【0009】
請求項2には,
「前記請求項1の記載において,前記オイル受け板の上面のうち前記クランク軸におけるクランクピンに該当する部分には,窪所が凹み形成され,この窪所には,前記オイルパン内へのオイル落とし孔が設けられている。」
ことを特徴としている。
【0010】
請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において,前記潤滑油ポンプは,前記軸受けビーム体及びオイル受け板とは別体の構成であり,前記軸受けビーム体の左右両側に一体に設けたボス部に対してボルト締結にて取付けられている。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1によると,クランクケース内をクランク軸の回転等にて飛散している潤滑油は,オイル受け板の上面に落下し,ここで大きな油滴に集合したのちオイルパン内に落下することになるから,前記オイルパンの内底に溜まる潤滑油の泡立ちを小さくすることができ,しかも,前記クランク軸の回転による影響が潤滑油の油面に及ぶことを前記オイル受け板にて遮断でき,潤滑油面の波立ちを抑制できるから,潤滑油ポンプに,空気の吸い込みに起因してのオイル切れが発生するおそれを確実に低減できる。
【0012】
その上,前記オイル受け板を軸受けビーム体に一体に設けることによって,前記軸受けビームを大幅に強度アップすることができるとともに,前記オイル受け板を前記軸受けビーム体とは別体に構成して,当該軸受けビーム体又はオイルパン等に取付けるように構成した場合に比べて,部品点数を少なくできることに加えて,組み立て及び分解に要する手数を大幅に低減できる。
【0013】
また,請求項2によると,クランク軸のうちクランクピンに対する部分に供給された潤滑油は,クランクピンがクランク軸を中心に回転するとの遠心力にて,より細かな油滴になって周囲に飛散するが,この油滴は窪所に入って大きな油的に集められることになるから,前記した効果を助長できる利点がある。
【0014】
更にまた,請求項3によると,潤滑油ポンプは,軸受けビーム体の左右両側に一体に設けたボス部に対して取付けられていることにより,この潤滑油ポンプと前記軸受けビーム体との両方を互いに補強することができる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】内燃機関の縦断正面図である。
【図2】図1のII−II視底面図である。
【図3】図1のIII −III 視断面図である。
【図4】図1のIV−IV視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図4の図面について説明する。
【0017】
これらの図において,符号1は,複数の気筒を備えた内燃機関を示し,この内燃機関1は,三つのシリンダ3を有するシリンダブロック2と,その上面に前記各シリンダ3の頂部を塞ぐように締結したシリンダヘッド4と,前記シリンダブロック2の下部におけるクランクケース5内に軸支した一本のクランク軸6と,前記クランクケース5の下面にその内部を密閉するように締結したオイルパン7とを備えている。
【0018】
前記クランク軸6は,前記クランクケース5の内部に一体に設けた複数個の軸受け部8と,この各軸受け部8の各々に対して左右一対のボルト9にて着脱可能に締結される軸受けキャップ体10とによって回転自在に軸支されている。
【0019】
前記オイルパン7の内部には,前記各軸受けキャップ体10の相互間を連結するための軸受けビーム体11が,前記クランク軸6の軸線方向に延びるように配設されている。
【0020】
この軸受けビーム体11は,アルミニウム等の軽合金製で,前記各軸受けキャップ体10とは別体に構成され,平行に延びる二本のリブ11aを一体に備えている。
【0021】
更に,前記軸受けビーム体11は,図3に示すように,前記各軸受けキャップ体10の各々に,当該軸受けキャップ体10における軸受け部8への取付け用ボルト9による締結と同時に,このボルト9の締結にて固着されており,これにより,前記クランク軸6における軸受け強度のアップを図るように構成されている。
【0022】
前記軸受けビーム体11における一端部分には,その一対のリブ11aを挟む左右両側にボス部12が一体に設けられ,これらのボス部12には,潤滑油ポンプ13がボルト14による締結にて取付けられている。
【0023】
なお,前記各ボス部12の相互間には,これらを一体に連結するように構成した補強リブ15が一体に設けられている。
【0024】
前記潤滑油ポンプ13は,前記クランク軸6からの無端チエン16による動力伝達にて回転駆動されることにより,前記オイルパン7の内底に溜まる潤滑油を吸い込んで,内燃機関1おける各種の作動部分に供給するという構成である。
【0025】
そして,前記軸受けビーム体11の左右両側には,オイル受け板17a,17bを,外向きに延びるように一体に設けて,前記クランクケース5内から前記オイルパン7内に落下する潤滑油を,このオイル受け板17a,17bの上面にて一旦受け止めるように構成している。
【0026】
これにより,クランクケース5内をクランク軸6の回転等にて飛散している潤滑油は,前記オイル受け板17a,17bの上面に落下し,ここで大きな油滴に集合したのちオイルパン7内に落下することになるから,前記オイルパン7の内底に溜まる潤滑油の泡立ちを小さくすることができ,しかも,前記クランク軸6の回転による影響が潤滑油の油面に及ぶことを前記オイル受け板17a,17bにて遮断できる。
【0027】
前記オイル受け板17a,17bにおける上面のうち,前記クランク軸6における各クランクピン6aの部分には,窪所18が凹み形成されている。
【0028】
この窪所18の内部には,図4に示すように,前記クランクピン6aと前記シリンダ3内のピストン19とを連結するコンロッド20の大端部20aが通過するという構成であり,その最も深い部分には,前記オイルパン7内へのオイル落とし孔21が設けられている。
【0029】
これによると,前記クランク軸6のうちクランクピン6aに対する部分に供給された潤滑油は,クランクピン6aがクランク軸6を中心に回転するときの遠心力にて,より細かな油滴になって周囲に飛散するが,この油滴は前記窪所18に入って大きな油滴に集められ,そして,オイル落とし孔21からオイルパン7内に導かれる。
【0030】
なお,前記窪所18内の部分には,前記コンロッド20の大端部20aにおけるボルト20bを挿入したり,このボルト20bを締結したりするための貫通孔22が設けられている。
【符号の説明】
【0031】
1 内燃機関
2 シリンダブロック
3 シリンダ
4 シリンダヘッド
5 クランクケース
6 クランク軸
7 オイルパン
8 軸受け部
9 ボルト
10 軸受けキャップ体
11 軸受けビーム体
12 潤滑油ポンプ用ボス部
13 潤滑油ポンプ
17a,17b オイル受け板
18 窪所
21 オイル落とし孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を,シリンダブロックの下部におけるクランクケース内に設けた複数の軸受け部と,この各軸受け部の各々にボルトにて締結の軸受けキャップ体とで回転自在に軸支し,前記各軸受けキャップ体の相互間を前記クランク軸の軸線方向に延びる軸受けビーム体にて連結し,この軸受けビーム体に,前記クランクケースに取り付けたオイルパンの内底に溜まる潤滑油を吸い込む潤滑油ポンプを設けて成る内燃機関において,
前記軸受けビーム体に,前記クランクケース内からオイルパン内に落下する潤滑油を受け止めてオイルパン内に導くように構成したオイル受け板が一体に設けられていることを特徴とする内燃機関におけるクランク軸の軸受け装置。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記オイル受け板の上面のうち前記クランク軸におけるクランクピンに該当する部分には,窪所が凹み形成され,この窪所には,前記オイルパン内へのオイル落とし孔が設けられていることを特徴とする内燃機関におけるクランク軸の軸受け装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において,前記潤滑油ポンプは,前記軸受けビーム体及びオイル受け板とは別体の構成であり,前記軸受けビーム体の左右両側に一体に設けたボス部に対してボルト締結にて取付けられていることを特徴とする内燃機関におけるクランク軸の軸受け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223391(P2010−223391A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73379(P2009−73379)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】