説明

内燃機関の制御装置

【課題】スロットルバルブにデポジットが付着している場合にISC学習値がリセットされたとき、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングを抑制してアイドル回転数を安定させることができる内燃機関の制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンシステムにおいて、ECU20がエアコンカット時におけるISC学習増量条件が成立しているか否かを判断し(S4)、ISC学習増量条件が成立している場合に(S4:YES)、ISC学習値を増量する(S5)。これにより、エンジン1の吸入空気量が増加し、エンジン回転がエアコンカット実施回転数よりも下がらなくなって、エンジン回転数がハンチングしなくなりアイドル回転数が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のアイドル運転時におけるエンジン回転数(アイドル回転数)を安定させる内燃機関の制御装置に関する。特に、エアコンスイッチがオンされた状態におけるアイドル回転数を安定させる内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載されるエンジンのアイドル回転数制御としては、エンジンの吸気通路に電子制御式のスロットルバルブを設け、実際のアイドル回転数が目標アイドル回転数に一致するようにスロットルバルブの開度を調整してアイドル回転数を制御するという方法が採られている。
【0003】
このようなアイドル回転数制御では、実際のアイドル回転数を目標アイドル回転数にするスロットルバルブの開度に応じた吸入空気量をISC学習値として学習し、そのISC学習値をスロットルバルブの開度に反映させる学習制御(以下、ISC学習制御ともという)が行われている。
【0004】
ここで、エアコンを作動させた場合には、エアコン作動分のエンジン出力を向上させるために、アイドル回転数を上昇させている。その一方、エンジンストールを防止するために、エアコン作動中にアイドル回転数が所定回転数以下に低下した場合、エアコンの作動を禁止するエアコンカットが実施されるようになっている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−108650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、経年変化などによりスロットルバルブにデポジットが付着している場合、車両整備時などのバッテリクリア等によってISC学習値がリセットされた状態でエンジンが始動されてエアコンがオンされると、次のような問題が発生するおそれがあった。すなわち、スロットルバルブにデポジットが付着している状態でISC学習値がリセットされると、デポジットが付着していない状態(新品状態)で目標アイドル回転数を確保するスロットルバルブの開度になるようなISC学習値を初期セットする。このため、デポジットが付着している状態では、吸入空気量が不足してしまい、アイドル回転数が低下してしまう。このとき、エアコンがオンされる(又はエンジン始動時にエアコンがオンされている)と、エンジンストール防止のためにエアコンカットが実施される。そして、エアコンカットが実施されると、エアコンの負荷がエンジンに作用しなくなるため、アイドル回転数が上昇してエアコンカットから復帰し、エアコンが作動する。その結果、再び吸入空気量が不足してアイドル回転数が低下する。
【0006】
このように、スロットルバルブにデポジットが付着している場合に、バッテリクリア等によってISC学習値がリセットされた状態でエアコンがオンされていると、アイドル回転数の低下に対するエアコンカットによるアイドル回転数の上昇と、エアコンカットからの復帰によるアイドル回転数の低下とが繰り返し発生する。つまり、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生してしまうおそれがあった。
【0007】
そして、このアイドル回転数のハンチングは、ISCのフィードバック制御量が更新されて吸入空気量が大きくなるまで続いてしまう。また、ISC学習値を学習(更新)しないと、再始動後にアイドル回転数のハンチングが再発してしまう。ISCのフィードバック制御量は、再始動時にクリアされてしまうからである。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、スロットルバルブにデポジットが付着している場合にISC学習値がリセットされたとき、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングを抑制してアイドル回転数を安定させることができる内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するためになされた本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関のアイドル運転時に実際のアイドル回転数が目標アイドル回転数に一致するように吸入空気量を学習するアイドル回転数学習制御手段と、エアコンが作動しているときにアイドル回転数が所定回転数以下に低下した場合にエアコンの作動を禁止するエアコンカット手段とを備えた内燃機関の制御装置において、前記アイドル回転数学習制御手段は、前記エアコンカット手段によりエアコンの作動が禁止された場合に、吸入空気量の学習値を所定量増やすことを特徴とする。
【0010】
この内燃機関の制御装置では、エアコンカット手段によってエアコンの作動が禁止された場合には、アイドル回転数学習制御手段により、吸入空気量の学習値が所定量増やされる。このため、スロットルバルブにデポジットが付着している場合に、バッテリクリア等によって学習値がリセットされても、エアコンカットから復帰した際、吸入空気量が増加しているのでアイドル回転数の低下が抑制される。その結果、アイドル回転数がエアコンカットが実施される所定回転数まで低下しなくなる。これにより、エアコンカットから復帰した後に、再度エアコンカットが実施されなくなるため、アイドル回転数のハンチングが抑制され、アイドル回転数を安定させることができる。
【0011】
本発明に係る内燃機関の制御装置においては、前記アイドル回転数学習制御手段は、吸入空気量の学習値を単位時間当たり一定量ずつ増やすことが望ましい。
【0012】
吸入空気量の学習値を一度に増やしてしまうと、スロットルバルブへのデポジットの付着態様(量や付着状態など)によっては、バッテリクリア等によって学習値がリセットされた状態でエアコンカットから復帰した際、吸入空気量が過剰となりアイドル回転数が上昇し過ぎるおそれがある。
【0013】
このため、この内燃機関の制御装置では、エアコンカット手段によりエアコンの作動が禁止された場合には、吸入空気量の学習値を単位時間当たり一定量ずつ増やす(除変する)ようにしている。これにより、エアコンカットから復帰した際に、吸入空気量が過剰となることが確実に防止されるので、アイドル回転数を過剰に上昇させることなく安定させることができる。
【0014】
また、本発明に係る内燃機関の制御装置においては、前記アイドル回転数学習制御手段は、前記エアコンカット手段によるエアコンの作動禁止が所定回数以上実施された後に、吸入空気量の学習値を所定量増やすことが望ましい。
【0015】
エアコンカットは、経年変化などによりスロットルバルブにデポジットが付着している場合に吸入空気が不足して発生する他、内燃機関に負荷が一時的にかかった場合でも実施される。つまり、スロットルバルブにデポジットが付着していない場合でも実施される。このような場合、エアコンカット手段によりエアコンの作動が禁止されたときに、アイドル回転数学習制御手段により吸入空気量の学習値を所定量増やしまうと、エアコンカットから復帰した際、吸入空気量が過剰となりアイドル回転数が上昇し過ぎるおそれがある。そして、スロットルバルブにデポジットが付着していない場合にエアコンカットが実際された場合には、エアコンカットの実施と復帰が繰り返して行われることはない。
【0016】
このため、この内燃機関の制御装置では、エアコンカット手段によるエアコンの作動禁止が所定回数以上実施された後に、吸入空気量の学習値を所定量増やすようにしている。これにより、スロットルバルブにデポジットが付着していない場合にエアコンカットが実施されても、吸入空気量の学習値が増やされることがない。すなわち、スロットルバルブにデポジットが付着している場合にエアコンカットが実施されたときにのみ、吸入空気量の学習値が増やされる。これにより、エアコンカットから復帰した際、スロットルバルブへのデポジットの付着の有無に関係なく、アイドル回転数学習制御手段により適切な吸入空気量とすることができるので、アイドル回転数を安定させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、上記した通り、スロットルバルブにデポジットが付着している場合にISC学習値がリセットされたとき、エアコンカットにより発生するアイドル回転数のハンチングを抑制してアイドル回転数を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の内燃機関の制御装置を具体化した最も好適な実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。そこで、本実施の形態に係る内燃機関の制御装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係る制御装置を適用したエンジンシステムを示す概略構成図である。
【0019】
エンジンシステムを構成する多気筒のエンジン1は、その吸気系に吸気マニホールド2、エアダクト3及びエアクリーナ4を備えている。これら吸気マニホールド2、エアダクト3及びエアクリーナ4の内部により、エンジン1に外気を吸入させる一連の吸気通路5が構成されている。また、エンジン1は、その排気系に排気マニホールド6、排気管7及び触媒コンバータ8を備えている。これら排気マニホールド6、排気管7及び触媒コンバータ8の内部により、エンジン1から排気ガスを排出する一連の排気通路9が構成されている。
【0020】
エンジン1には、複数の燃焼室10のそれぞれに対応して燃料噴射弁(インジェクタ)11が設けられている。これらインジェクタ11には、燃料タンク(図示略)から燃料ポンプ(図示略)により燃料が供給される。各インジェクタ11に供給された燃料は、各インジェクタ11が作動することにより、吸気ポート12へ向けて噴射される。吸気通路5には、エアクリーナ4を通って清浄化された空気が導入される。この導入された空気と噴射された燃料とが混合気を形成して各燃焼室10に吸入される。吸入された混合気は、各燃焼室10にて、点火装置13が作動することにより、点火されて爆発燃焼する。燃焼後の排気ガスは、排気通路9を通じて外部へ排出される。
【0021】
吸気マニホールド2は、吸気の脈動を沈静化するためのサージタンク14と、そのタンク14から各気筒へ分岐する複数の分岐パイプ15と、サージタンク14の空気流上流側に位置するスロットルボディ16とを備えている。スロットルボディ16には、スロットルバルブ17が設けられている。スロットルバルブ17は、運転者によるアクセルペダル(図示略)の操作に連動して開閉するものである。スロットルバルブ17が開閉されることにより、吸気通路5を流れる空気量(吸気量)が調節される。そして、吸気通路5を流れる空気量(吸気量)を測定するために、エアダクト3にエアフローメータ31が設けられている。
【0022】
スロットルバルブ17には、その開度(スロットル開度)TAを検出するためのスロットルセンサ21が設けられている。サージタンク14には、吸気圧PMを検出するための吸気圧センサ22が設けられている。エンジン1には、その回転速度(エンジン回転速度)NEを検出するための回転速度センサ23が設けられている。エンジン1には、その内部を流れる冷却水の温度(冷却水温)THWを検出するための水温センサ24が設けられている。
【0023】
そして、エンジン1の運転を制御するために、電子制御装置(ECU)20が設けられている。ECU20は、周知のように中央処理装置(CPU)及びメモリなどを備える。ECU20には、上記した各種センサ21〜24が接続されている。同じく、ECU20には、各インジェクタ11および点火装置13がそれぞれ接続されている。さらに、ECU20は、車両に搭載されているエアコン(A/C)50、及びブレーキスイッチ51にも接続されている。
【0024】
このECU20は、各種センサ21〜24からの検出信号に基づき、各インジェクタ11及び点火装置13を制御することにより、燃料噴射制御及び点火時期制御を実行する。また、ECU20は、各種センサ21〜24、およびエアフローメータ31に基づき、エンジン1のアイドルスピードコントロール制御(ISC学習制御)を実行する。ISC学習制御は、エンジン1のアイドル運転時に行われる制御である。すなわち、アイドル運転時のエンジン回転数を目標のアイドル回転数に一致させるべく、実際のアイドル回転数を目標アイドル回転数にするスロットルバルブの開度に応じた吸入空気量をISC学習値として学習し、そのISC学習値をスロットルバルブの開度に反映させる制御である。なお、ECU20が本発明の「アイドル回転数学習制御手段」に相当する。
【0025】
また、ECU20は、エンジン1のアイドル運転時にエアコン50がオンされている状態で、エアコン50の負荷によるエンジン1のストールを防止するために、アイドル回転数が所定回転数以下に低下した場合にはエアコン50の作動を禁止する。つまり、ECU20は、本発明の「エアコンカット手段」に相当する。
【0026】
ここで、経年変化などによりスロットルバルブ17にデポジットが付着している場合(ISC学習値イニシャルでは吸入空気量不足になる場合)に、車両整備時などのバッテリクリア等によってISC学習値がリセットされた状態でエンジン1が始動されてエアコン50がオンされると、図2に示すように、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生してしまう。なお、図2は、エアコンカットによってアイドル回転数がハンチングしたときの各種信号及びエンジン回転数を示すタイムチャートである。
【0027】
このようにエンジン回転数がハンチングするのは、スロットルバルブ17にデポジットが付着しておりISC学習値イニシャルでは吸入空気量不足になる場合、ISC学習値がリセットされた状態でエアコン50がオンされる(又はエンジン始動時にエアコンがオンされている)と、吸入空気量が不足してしまい、アイドル回転数が低下してしまう(図2の時刻t0〜t1間参照)。
【0028】
そして、時刻t1において、エンジン回転数がエアコンカット実施回転数まで低下すると、エアコンカットが実施(オン)される。これにより、エンジン1のストールが防止される。その結果、エアコン50の負荷がエンジン1に作用しなくなり、時刻t2において、エンジン回転数が上昇してエアコン復帰回転数に達すると、エアコンカットがオフされて(エアコンカットから復帰して)、エアコン50が作動し始める。このため、再び吸入空気量が不足してアイドル回転数が低下して、エアコンカットが実施される。以後、エアコンカットからの復帰、エアコンカットの実施が繰り返される。このようにして、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生してしまうのである。
【0029】
なお、このようなアイドル回転数のハンチングは、ECU20によって行われているISCフィードバックにより吸入空気量が所定量(エンジン回転数がエアコンカット実施回転数を下回らない量)になるまで継続する。また、ISCフィードバックにより吸入空気量が増えてアイドル回転数のハンチングが収まったとしても、エンジン1の再始動時にISCフィードバックはクリアされるため、ISC学習値が更新されていないと、エンジン1の再始動後にアイドル回転数のハンチングが再発してしまう。なお、ISC学習値の更新は、一般的に水温センサ24で検出される温度が所定値以上になっている状態(エンジン1の暖機完了後)のアイドル時に行われる。
【0030】
このため、本実施の形態のエンジンシステムでは、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが抑制するために、以下に述べるハンチング抑制制御を実施している。そこで、このハンチング抑制制御について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3は、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチング抑制制御の内容を示すフローチャートである。図4は、ハンチング抑制制御を実施した際における各種信号及びエンジン回転数を示すタイムチャートである。なお、図3に示すハンチング抑制制御はエンジン1の運転中に数msで繰り返し実施される。また、ISC学習制御については公知の方法により実施される。
【0031】
まず、ECU20は、エンジン1がアイドル運転時においてエアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生しているか否かを判断する。具体的には、前回のエアコンカットから所定時間(本実施の形態では4秒)未満、かつアイドル運転状態が所定時間(本実施の形態では3秒)以上であるか否かが判断される(ステップ(以下、「S」とも記す)1)。なお、アイドル運転状態であるか否かの判断については公知の方法により行えばよい。
【0032】
そして、ECU20は、エンジン1がアイドル運転時においてエアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生していると判断すると(S1:YES)、エアコンカットの開始タイミングであるか否かを判断する(ステップ2)。一方、ECU20は、エンジン1がアイドル運転時においてエアコンカットによるアイドル回転数のハンチングが発生していないと判断すると(S1:NO)、エアコンカット回数をクリアし(ステップ6)、後述するステップ4の処理を実行する。
【0033】
ここで、ステップ2の処理時においてエアコンカットの開始タイミングであれば(S2:YES)、ECU20はエアコンカット回数をカウントアップする(ステップ3)。一方、ステップ2の処理時においてエアコンカットの開始タイミングでなけらば(S2:NO)、ECU20はエアコンカット回数をカウントアップすることなく、後述するステップ4の処理を実行する。
【0034】
そして、ECU20はステップ4において、エアコンカット時におけるISC学習増量条件が成立しているか否かを判断する。ここで、ISC学習増量条件は、(1)ISC学習の完了(学習値の更新)履歴がないこと、(2)ECU20がエンジンシステムの異常(故障)を検出していないこと、(3)ブレーキスイッチ51がオンされていること、(4)エアコンカット回数が所定回数(本実施の形態では3回)以上であること、(5)エアコンカット開始タイミングであることであり、(1)〜(5)の条件がすべて成立した場合に限り、ISC学習増量条件が成立していると判断される。
【0035】
このステップ4の処理において、ECU20が上記(1)〜(5)の条件をすべて満たしていると判断すると(S4:YES)、ECU20はISC学習値を所定量だけ増量する(ステップ5)。本実施の形態では、ISC学習値が0.1L/sだけ増量される。このように、ISC学習値を単位時間当たり一定量ずつ増やす(除変する)ことにより、エアコンカットから復帰した際に、吸入空気量が過剰となることを確実に防止している。これにより、エアコンカットから復帰した際に、吸入空気量が過剰となってエンジン回転数(アイドル回転数)が過剰に上昇することなく安定させることができる。
【0036】
一方、ステップ4の処理において、ECU20が上記(1)〜(5)の条件のうち1つでも満たしていないと判断すると(S4:NO)、ECU20はISC学習値を増量することなく、ハンチング抑制制御を一旦終了する。これにより、エアコンカットによってアイドリング回転がハンチングしている場合に限り、ISC学習値を所定量だけ増量することができる。
【0037】
ここで、エアコンカットは、経年変化などによりスロットルバルブ17にデポジットが付着している場合に吸入空気量が不足して発生する他、エンジン1に負荷が一時的にかかった場合にも実施される。つまり、スロットルバルブ17にデポジットが付着していない場合でも実施されるおそれがある。例えば、エンジンシステムの異常(故障)によって、アイドル回転数が低下してエアコンカットが実施される場合もあり得る。このような場合、エアコンカットによりエアコン50の作動が禁止されたときに、ISC学習値を所定量増やしてしまうと、エアコンカットから復帰した際、吸入空気量が過剰となりエンジン回転数が上昇し過ぎてしまい、アイドル回転数を不安定にしてしまう。このため、ISC学習増量条件の1つに、エンジンシステムに異常(故障)がないことを含めている。
【0038】
また、スロットルバルブ17にデポジットが付着してISC学習値イニシャルで吸入空気量不足にならなければ、エアコンカットが実施されても、エアコンカットの実施と復帰が繰り返して行われることはない。つまり、アイドリング運転時にエンジン回転数がハンチングすることはない。このため、ISC学習増量条件の1つに、エアコンカット回数が所定回数(本実施の形態では3回)以上であることを含めている。これにより、スロットルバルブ17にデポジットが付着してISC学習値イニシャルで吸入空気量不足になる場合にエアコンカットが実施されたときに限り、ISC学習値を増やすことができるので、エアコンカットによるアイドル回転数のハンチングを回避してアイドル回転数を安定させることができる。
【0039】
さらに、ISC学習増量条件の1つに、ブレーキスイッチ51がオンされていることを含めているので、ISC学習値を所定量だけ増量させたときに、エンジン回転数が上昇することによって車両が飛び出すことを確実に防止することができる。
【0040】
ここで、スロットルバルブ17にデポジットが付着してISC学習値イニシャルでは吸入空気量不足になっており、このような状態でバッテリクリアによってISC学習値がリセットされ、エンジンが始動された後にエアコン50のスイッチが、図4に示すように時刻t0でオンされたとする。そうすると、吸入空気量が不足してしまい、アイドル回転数が低下してしまう(図4の時刻t0〜t1間)。
【0041】
その後、時刻t1において、エンジン回転数がエアコンカット実施回転数まで低下すると、エアコンカットが実施(オン)される。このとき、エアコンカット開始タイミングであるので、エアコンカット回数がカウントアップされる(図3においてS2:YES,S3)。これにより、エアコンカット回数が「1」となる。このとき、エアコンカット回数が所定回数(本実施の形態では「3」)以上ではないので、ISC学習増量条件が成立せず、ISC学習値が増やされることはない(図3においてS4:NO)。
【0042】
そして、エアコンカットが実施されると、エアコン50の負荷がエンジン1に作用しなくなり、時刻t2において、エンジン回転数が上昇してエアコン復帰回転数に達する。そうすると、エアコンカットがオフされて(エアコンカットから復帰して)、エアコン50が作動し始める。このため、再び吸入空気量が不足してアイドル回転数が低下して、エアコンカットが実施される。以後、エアコンカットからの復帰、エアコンカットの実施が繰り返される。
【0043】
しかしながら、本実施の形態では、エアコンカット回数が3回となる時刻t3において、ISC学習増量条件が成立して(図3においてS4:YES)、ISC学習値が増やされる(図3においてS5)。そして、時刻t3以降においてエアコンカットが実施されるタイミングでISC学習値が徐々に(本実施の形態では、0.1L/sずつ)増やされていく。その結果、ISC学習値を増量してから数回のエアコンカットの実施/復帰が繰り返された後、エンジン回転がエアコンカット実施回転数よりも下がらなくなり、エンジン回転数がハンチングしなくなってアイドル回転数が安定する。そして、この場合には、ISC学習値が増量される度に学習(更新)されるので、エンジン1の再始動後において、アイドル回転数のハンチングが再発することがない。
【0044】
そして、図2と図4とを比較すると、図4に示す場合の方がエンジン回転数のハンチング時間が短いことが明らかである。つまり、本実施の形態に係るエンジンシステムによれば、エアコンカットによって発生するアイドル回転数のハンチングを効果的に抑制してハンチングを短時間で収束させることができる。
【0045】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係るエンジンシステムによれば、ECU20がエアコンカット時におけるISC学習増量条件が成立しているか否かを判断し(S4)、ISC学習増量条件が成立している場合に(S4:YES)、ISC学習値を増量する(S5)。これにより、エンジン1の吸入空気量が増加し、エンジン回転がエアコンカット実施回転数よりも下がらなくなって、エンジン回転数がハンチングしなくなりアイドル回転数が安定する。そして、ISC学習値が増量されるとその学習値が更新されるので、エンジン1の再始動後において、アイドル回転数のハンチングが再発することがない。
【0046】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、ISC学習増量条件の1つとして、ブレーキスイッチ51のオン(ブレーキが踏まれていること)を入れているが、この条件の代わりにシフトレバーがN(ニュートラル)又はP(パーキング)となっていることを入れることもできる。また、AT車ではなく、MT車の場合にはブレーキスイッチのオン(ブレーキが踏まれていること)という条件をなくすこともできる。MT車であれば、ISC学習値を増量してエンジン1の回転数が上昇したとしても、アイドリング運転状態ではクラッチが係合していないので車両が飛び出すことがないからである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施の形態に係る制御装置を適用したエンジンシステムを示す概略構成図である。
【図2】エアコンカットによってアイドル回転数がハンチングしたときの各種信号及びエンジン回転数を示すタイムチャートである。
【図3】エアコンカットによるアイドル回転数のハンチング抑制制御の内容を示すフローチャートである。
【図4】ハンチング抑制制御を実施した際における各種信号及びエンジン回転数を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
16 スロットルボディ
17 スロットルバルブ
20 ECU
21 スロットルセンサ
22 吸気圧センサ
23 回転速度センサ
31 エアフローメータ
50 エアコン
51 ブレーキスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のアイドル運転時に実際のアイドル回転数が目標アイドル回転数に一致するように吸入空気量を学習するアイドル回転数学習制御手段と、エアコンが作動しているときにアイドル回転数が所定回転数以下に低下した場合にエアコンの作動を禁止するエアコンカット手段とを備えた内燃機関の制御装置において、
前記アイドル回転数学習制御手段は、前記エアコンカット手段によりエアコンの作動が禁止された場合に、吸入空気量の学習値を所定量増やす
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載する内燃機関の制御装置において、
前記アイドル回転数学習制御手段は、吸入空気量の学習値を単位時間当たり一定量ずつ増やす
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する内燃機関の制御装置において、
前記アイドル回転数学習制御手段は、前記エアコンカット手段によるエアコンの作動禁止が所定回数以上実施された後に、吸入空気量の学習値を所定量増やす
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−31691(P2010−31691A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192514(P2008−192514)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】