説明

内燃機関の制御装置

【課題】電動機非設置型の過給機を備える内燃機関であっても、ターボラグの発生を防止可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】アイドルストップ条件が成立したと判定された場合、温度センサの検出値が、判定値よりも低いかが判定される(ステップ110)。温度センサの検出値が判定値よりも低いと判定された場合は、圧力センサの検出値が、判定値よりも高いか否かが判定される(ステップ120)。温度センサの検出値が、判定値以上と判定された場合は、エンジンの一部の気筒を停止させる(ステップ130)。ステップ120で圧力センサの検出値が判定値よりも高いと判定された場合は、エンジンの一部の気筒を停止させ(ステップ130)、そうでない場合は、エンジン10の全ての気筒を停止する(ステップ140)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関し、より詳細には、過給機を備え、所定アイドルストップ条件が成立した際に自動で停止し、その後、再始動させるようにした内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃費向上や二酸化炭素排出量の低減を目的として、車両信号待ちの間や渋滞停止の間等にエンジンを一時的に停止させ、その後、再始動させる所謂アイドルストップが知られている。また、このようなアイドルストップを、過給機を備える内燃機関に適用したものも知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、過給機を備える内燃機関において、過給機の温度が所定値以上の場合にアイドルストップを一時的に禁止することが開示されている。また、例えば特許文献2には、電動機付きの過給機を備える内燃機関において、アイドルストップ後、機関再始動に先立って電動機を作動させることが開示されている。上記特許文献1のような過給機を備える内燃機関においては、アイドルストップ後の機関再始動時に、運転者のアクセル踏み込みに対する過給圧のレスポンス遅れ(以下、「ターボラグ」と称す。)の発生や、それに伴うドラビリの悪化といった問題がある。この点、特許文献2の制御装置によれば、機関再始動に先立って電動機を作動させるので、ターボ回転数を予め上昇させておくことができる。従って、ターボラグの発生やドラビリの悪化を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−042003号公報
【特許文献2】特開2008−095669号公報
【特許文献3】特開2002−276411号公報
【特許文献4】特開2010−084516号公報
【特許文献5】特開2006−046250号公報
【特許文献6】特開2010−084660号公報
【特許文献7】特開2004−225561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2では、電動機の作動のためにバッテリを使用しているので、バッテリの電力使用量が増え、燃費悪化を招来する可能性がある。また、機関再始動前にバッテリを使用すれば、機関始動時に使用するスタータモータに十分な電力を供給できず機関始動性が低下する可能性がある。従って、このような問題を発生させることなく、ターボラグの発生を防止可能な改良を行う必要があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものである。即ち、電動機非設置型の過給機を備える内燃機関であっても、ターボラグの発生を防止可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、複数の気筒を有する内燃機関の制御装置であって、
排気エネルギにより作動し前記複数の気筒への吸気を過給する過給機と、
前記過給機を一時的に停止させ、その後に再作動させると仮定した場合に、前記過給機の再作動の際に前記複数の気筒に吸入される新気量に関する所定条件の成否を判定する所定条件判定手段と、
前記所定条件が成立する場合には前記複数の気筒の全てを停止し、前記所定条件が非成立の場合には前記複数の気筒のうちの一部を停止するアイドルストップ手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
外気温を取得する外気温取得手段を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気温が設定温度よりも低いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、
外気圧を取得する外気圧取得手段を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気圧が設定圧力よりも高いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする。
【0010】
第4の発明は、第1の発明において、
外気温を取得する外気温取得手段と、
外気圧を取得する外気圧取得手段と、を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気温が設定温度よりも低く、かつ前記外気圧が設定圧力よりも高いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、所定条件判定手段によって、過給機を再作動させる際における複数の気筒に吸入される新気量に関する所定条件の成否を判定できる。過給機を再作動させる際に、複数の気筒に吸入される新気量が少なければその回転が不十分となるのでターボラグの発生に繋がり易くなる。そのため、所定条件の成否を判定できれば、上記新気量が十分な状況では全気筒を停止させ、上記新気量が少なくなるような状況では、一部の気筒のみを停止させることが可能となる。従って、本発明によれば、電動機を用いることなく、ターボラグの発生を防止しつつ、気筒停止による燃費向上を図ることができる。
【0012】
第2〜第4の発明によれば、外気温度、外気圧力またはこれらの組み合わせにより上記所定条件を設定できる。外気温度、外気圧力またはこれらの組み合わせによれば、過給機を一時的に停止させ、その後に再作動させると仮定した場合に、該過給機の再作動の際に複数の気筒に吸入される新気量の多少を推定できる。また、外気温度、外気圧力は、簡便な構成により容易に取得が可能である。従って、これらの発明によれば、簡便な構成でターボラグの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態のシステム構成を説明するための図である。
【図2】実施の形態において、ECU50により実行されるターボ回転数制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1および図2を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態のシステム構成を説明するための図である。本実施の形態のシステムは、車両に搭載される内燃機関としてのエンジン10を備えている。なお、エンジン10の気筒数および気筒配置は、特に限定されるものではない。
【0015】
エンジン10の各気筒には、燃料を筒内に直接噴射するインジェクタ12が設置されている。インジェクタ12は、これらに共通のコモンレール14に接続されている。コモンレール14内には、サプライポンプ16によって加圧された燃料が貯留されている。そして、コモンレール14内から各インジェクタ12へ、加圧された燃料が供給される。
【0016】
また、図1に示すように、エンジン10には、排気通路18が排気マニホールド20を介して接続されている。排気通路18の途中には、ターボチャージャ22のタービン22aが配置されている。同様に、エンジン10には、吸気通路24が吸気マニホールド26を介して接続されている。吸気通路24の途中には、ターボチャージャ22のコンプレッサ22bと、インタークーラ28とが配置されている。吸気通路24の入口付近には、エアクリーナ30が設けられている。エアクリーナ30を通って吸入された空気は、ターボチャージャ22のコンプレッサ22bで圧縮された後、インタークーラ28で冷却され、吸気マニホールド26を通って各気筒内に吸入される。
【0017】
インタークーラ28と吸気マニホールド26との間の吸気通路24には、電子制御式のスロットル弁32が設置されている。スロットル弁32の近傍には、スロットル弁32の開度を検出するスロットルポジションセンサ(図示せず)が設けられている。
【0018】
また、本実施形態のシステムは、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50の出力側には、インジェクタ12等が接続されている。一方、ECU50の入力側には、外気温度を検出する温度センサ34、外気圧を検出する圧力センサ36等が接続されている。温度センサ34および圧力センサ36の設置箇所は特に限定されず、また、温度センサ34および圧力センサ36の代わりに既設の冷却水温センサや吸気管圧センサといった、外気温度や外気圧力を検出可能なセンサを用いることも可能である。ECU50は、これらのセンサ信号に基づいて、インジェクタ12等の各種アクチュエータを制御することができる。
【0019】
[実施の形態の特徴]
ECU50によるエンジン10の制御の一つに、スタート&ストップ制御(以下、「S&S制御」と称す。)がある。S&S制御は、燃費向上を目的としてアイドリング時にエンジン10を一時的に停止させ、その後再始動させる制御である。しかしながら、S&S制御において、エンジン10を一時的に停止させればタービン22aの回転も停止する。そのため、再始動時にはこの回転数ゼロの状態からタービン22aの回転が開始することになる。従って、エンジン10の再始動時にスロットル弁32を開いたとしても、筒内に吸入される新気量は、NAエンジンの始動時における新気量と変わらないことになる。よって、NAトルクから過給圧が立ち上がるまでのターボラグが発生してしまう。
【0020】
特に、近年の燃費に対する要求の高まりから、大排気量のエンジンと同等の出力を確保しつつ、小排気量化による燃費向上を狙った小型の過給エンジンが開発されている。このような小型過給エンジンは、小排気量であるが故にNAトルクも小さい。従って、本実施形態のエンジン10にこのような小型過給エンジンを適用した場合、過給圧の立ち上がりが遅れ易く、ターボラグの発生確率が極めて高くなってしまう。そこで、本実施の形態においては、一定のターボ回転数を維持すべく、外気の条件(温度および圧力)に応じ、上述したS&S制御と、エンジン10の一部の気筒を停止させる気筒停止制御とを切り替えて実行することとした(ターボ回転数制御)。
【0021】
本実施の形態におけるターボ回転数制御は、具体的に、外気温が常温(25℃)よりも低い場合や外気圧が高い場合にS&S制御を実行し、そうでない場合に気筒停止制御を実行するものである。外気温が常温よりも低い場合、新気の体積が小さくなるのでスロットル弁32を開いた際に筒内に吸入される新気量が多くなる。また、外気圧力が高い場合、吸気管圧と筒内圧との差圧が大きくなるので、負圧により筒内に吸入される新気量が多くなる。
【0022】
一方、外気温が常温以上の場合や外気圧が低い場合は、筒内に吸入される新気量が相対的に少なくなる。従って、ターボ回転数制御によれば、筒内に吸入される新気量の変動を補償可能となるので、車両の再発進時における過給圧の立ち上がりを早めてターボラグの発生を防止できる。特に、気筒停止制御を実行すれば、一部の気筒への燃料供給が遮断されるので、アイドリング時に比して燃費を向上できる。従って、ターボラグの発生防止と、燃費向上とを両立できる。
【0023】
[本実施形態における具体的処理]
次に、図2を参照して、上述したターボ回転数制御を実現するための具体的な処理について説明する。図2は、本実施形態において、ECU50により実行されるターボ回転数制御を示すフローチャートである。
【0024】
図2に示すルーチンでは、先ず、ECU50は、アイドルストップ条件の成否を判定する(ステップ100)。本ステップにおいて、アイドルストップ条件は、例えば、アクセルペダルが踏み込まれていない状態であり、かつ、バッテリの蓄電量が必要量以上であり、かつ、車速ゼロの状態が設定時間以上継続し、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれた状態である場合に設定される。アイドルストップ条件の全てが成立しないと判定された場合には、ECU50は、本ルーチンを終了し、通常のエンジン制御に戻る。
【0025】
一方、アイドルストップ条件が成立すると判定された場合には、ECU50は、外気温が低温か否かを判定する(ステップ110)。本ステップにおいて、具体的に、ECU50は、温度センサ34の検出値が、外気温の判定値よりも低いか否かを判定する。なお、本実施の形態において、外気温の判定値は常温であり、予めECU50内部に記憶された値が用いられるものとする。ECU50は、温度センサ34の検出値が常温よりも低いと判定された場合はステップ120に進み、そうでないと判定された場合はステップ130に進む。
【0026】
ステップ120において、ECU50は、外気圧が低圧でないか否かを判定する。本ステップにおいて、具体的に、ECU50は、圧力センサ36の検出値が外気圧の判定値よりも高いか否かを判定する。なお、本実施の形態において、外気圧の判定値は予め実験やシミュレーション等により設定され、予めECU50内部に記憶された値が用いられるものとする。ECU50は、圧力センサ36の検出値が上記判定値よりも高いと判定された場合には、ステップ140に進み、そうでないと判定された場合にはステップ130に進む。
【0027】
ステップ130において、ECU50は、エンジン10の一部の気筒を停止させる気筒停止制御を実行する。具体的に、ECU50は、インジェクタ12を制御してエンジン10のうちの1つの気筒への燃料供給を遮断する。一方、ステップ140において、ECU50は、エンジン10の全ての気筒を停止させ、上記アイドルストップ条件の少なくとも1つが非成立となった場合にこれらの気筒を再始動するS&S制御を実行する。
【0028】
以上、図2に示したルーチンによれば、温度センサ34の検出値が常温以上と判定された場合や、圧力センサ36の検出値が外気圧の判定値以下と判定された場合に、エンジン10の一部の気筒を停止させる気筒停止制御を実行できる。従って、車両の再発進時における過給圧の立ち上がりを早めてターボラグの発生を防止でき、ターボラグの発生に伴うドラビリの悪化をも防止できる。
【0029】
ところで、上述した本実施の形態においては、図2に示したルーチンにおいて、ステップ110、120の判定条件を用いて、S&S制御と気筒停止制御とを切り替えたが、これらの条件のうちの一つの条件を用いて、これらの制御を切り替えてもよい。更に言えば、S&S制御によりエンジン10の全気筒を停止させ、その後、再始動させると仮定した場合に、再始動後に筒内に吸入される新気量の多少を判別できる条件であれば、これらの制御を切り替える他の条件として適用が可能である。
【0030】
なお、上述した本実施の形態においては、ECU50が図2のステップ110、120の処理を実行することにより上記第1の発明における「所定条件判定手段」が、同図ステップ130、140の処理を実行することにより上記第1の発明における「アイドルストップ手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した本実施の形態においては、温度センサ34が上記第2、4の発明における「外気温取得手段」に該当する。
また、上述した本実施の形態においては、圧力センサ36が上記第3、4の発明における「外気圧取得手段」に該当する。
【符号の説明】
【0031】
10 エンジン
12 インジェクタ
14 コモンレール
16 サプライポンプ
18 排気通路
20 排気マニホールド
22 ターボチャージャ
22a タービン
22b コンプレッサ
24 吸気通路
26 吸気マニホールド
28 インタークーラ
30 エアクリーナ
32 スロットル弁
34 温度センサ
36 圧力センサ
50 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関の制御装置であって、
排気エネルギにより作動し前記複数の気筒への吸気を過給する過給機と、
前記過給機を一時的に停止させ、その後に再作動させると仮定した場合に、前記過給機の再作動の際に前記複数の気筒に吸入される新気量に関する所定条件の成否を判定する所定条件判定手段と、
前記所定条件が成立する場合には前記複数の気筒の全てを停止し、前記所定条件が非成立の場合には前記複数の気筒のうちの一部を停止するアイドルストップ手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
外気温を取得する外気温取得手段を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気温が設定温度よりも低いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
外気圧を取得する外気圧取得手段を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気圧が設定圧力よりも高いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
外気温を取得する外気温取得手段と、
外気圧を取得する外気圧取得手段と、を備え、
前記所定条件判定手段は、前記外気温が設定温度よりも低く、かつ前記外気圧が設定圧力よりも高いか否かにより前記所定条件の成否を判定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180819(P2012−180819A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45976(P2011−45976)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】