内燃機関の動弁試験装置
【課題】内燃機関の特性変動があっても早期に弁動作遅れを低減できる内燃機関の動弁試験装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の動弁試験装置は、内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関の特性変動に応じて補償波形を補正し、弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し弁駆動装置を制御する。
【解決手段】内燃機関の動弁試験装置は、内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関の特性変動に応じて補償波形を補正し、弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し弁駆動装置を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気弁、排気弁を試験的に駆動するための内燃機関の動弁試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の制御の自由度を高めるため、油圧アクチュエータ及び油圧サーボ弁等を用いて吸気弁、排気弁を制御する油圧式の弁駆動装置がある。例えば、弁の開閉動作(リフト)のみをアクチュエータにて行う、弁駆動装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の弁駆動装置では、自由な弁制御が可能となるものの、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れが生じる。そこで、弁駆動装置は、弁駆動ピストンの変位を計測し、次のサイクルの弁制御に偏差をフィードバックしている。これにより、内燃機関の特性変動に変化がない場合、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れを繰り返しフィードバックして補償することで、弁動作遅れは徐々に低減することができる。しかしながら、内燃機関の特性が変動すると、弁動作遅れを補償する前提が変化してしまうため、弁動作遅れの低減時間がかかることがある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、内燃機関の特性変動があっても早期に弁動作遅れを低減できる内燃機関の動弁試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために本発明は、内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御することを特徴とする。
【0007】
これにより、内燃機関の特性の変動に追随し、早期に弁動作のずれを低減できる。内燃機関の特性変動に対して補償波形を粗調整することができるので、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償される。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本実施形態の内燃機関の動弁試験装置はそのような機構を有さない。このため、本実施形態の内燃機関の動弁試験装置では、吸排気弁の開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁及び吸気弁の開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関の動弁試験装置とすることができる。例えば、内燃機関の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行うことが好ましい。
【0009】
これにより、内燃機関での回転数の変動に追従して、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関での高回転の追従も可能となる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行うことが好ましい。
【0011】
これにより、内燃機関での負荷トルクの変動に追従して、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記制御装置は、補正された前記補償目標リフト波形で前記弁駆動ピストンを駆動して実応答波形を取得し、補正された前記補償目標リフト波形と前記実応答波形との差が目標誤差に到達しない場合には、補正された前記補償目標リフト波形を前記補償波形でさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い実応答とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内燃機関の動弁試験装置によれば、内燃機関の特性変動があっても早期に弁動作遅れを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。
【図2】図2は、弁駆動装置の概要図である。
【図3】図3は、制御装置の構成図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本実施形態に係る補償波形の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る補償波形の演算の手順を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、本実施形態に係る補償目標リフト波形の一例を示す説明図である。
【図8】図8は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。
【図9】図9は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。
【図10】図10は、内燃機関の回転数変化の一例を示す説明図である。
【図11】図11は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。
【図12】図12は、比較例の補償波形の一例を示す説明図である。
【図13】図13は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。
【図14】図14は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図15】図15は、本実施形態の補償波形補正データの一例を示す説明図である。
【図16】図16は、内燃機関の負荷トルク変化の一例を示す説明図である。
【図17】図17は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
(実施形態1)
本実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。図2は、弁駆動装置の概要図である。図3は、制御装置の構成図である。本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置100(以下、動弁試験装置という。)に用いられる動弁装置は、シリンダブロック3内での燃焼用ピストン2の上下動に伴い、エンジンバルブとしての排気弁4a及び吸気弁4bを駆動する装置である。
【0017】
図1に示すように、動弁試験装置100は、内燃機関1(エンジン)に設置される弁駆動装置10と、内燃機関1の状態を計測する計測装置20、21と、弁駆動装置10に油圧を供給する油圧ユニット30と、弁駆動装置10を制御する制御装置80と、信号ラインI1、I2、I3、I4、I5と、油圧ラインO1及びO2と、を有している。なお、ダイナモ200は、電力変換装置である。ダイナモ200は、必須の構成要素ではなく付加要素であり、例えば後述する試験装置として使用する場合に用いる。
【0018】
図2に示すように、弁駆動装置10は、弁駆動シリンダ11と、弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12と、弁駆動ピストン12を駆動するためのサーボ弁13と、弁駆動ピストン12の位置を計測する変位計15とを有している。図1に示すように内燃機関1は、シリンダブロック3と、クランクケース9と、燃焼用ピストン2と、クランクシャフト7と、コネクティングロッド8とを有している。燃焼用ピストン2とクランクシャフト7とがコネクティングロッド8で連結されている。このような構造により、燃焼用ピストン2の往復運動がクランクシャフト7で回転運動に変換される。
【0019】
また、図1及び図2に示すように内燃機関1は、排気弁4a及び吸気弁4bと、弁ロッド5と、バルブスプリング6とを有している。排気弁4a、吸気弁4bは、各々、弁ロッド5の下端に固定されており、弁ロッド5に設けられたバルブスプリング6により閉弁方向に力が付勢されている。弁駆動装置10は、内燃機関1上に搭載され、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続されている。又は、弁駆動装置10は、弁閉止時にわずかな隙間をあけ配置される。これにより、弁駆動ピストン12を駆動すると、弁ロッド5に応じて排気弁4a及び吸気弁4bが駆動される。なお、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続される場合には、バルブスプリング6は不要となる。
【0020】
図2に示す弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12は、油圧アクチュエータであって、弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11に油圧が供給されると伸びて排気弁4a又は吸気弁4bを開動作させる。また弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11から油圧が排出されると縮んで排気弁4a又は吸気弁4bを閉動作させる。サーボ弁13は、弁駆動シリンダ11の外部側面に取り付けられている。サーボ弁13は、後述する油圧ユニット30と油圧の供給ラインである油圧ラインO1及び戻りラインである油圧ラインO2で接続されている。サーボ弁13は、制御装置80からの信号ラインI2の指示に基づいて弁駆動シリンダ11への油圧の供給又は弁駆動シリンダ11から油圧の排出を制御する。例えば、サーボ弁13は、スプール、油路、電磁コイル等により構成されている。変位計15は、弁駆動シリンダ11での弁駆動ピストン12の位置を計測し、計測した位置データを制御装置80へ出力する。
【0021】
変位計15には、例えばLVDT(Linear Variable Differential Transformer:差動変圧器)のような非接触式の変位センサが用いられている。ここで、変位計15は、弁駆動ピストン12の位置を計測することができる。また、弁駆動ピストン12の変位計15は信号ラインI3を通じて、上述した制御装置80へ接続されている。
【0022】
図1に示す計測装置20は、内燃機関1の回転数を計測するエンコーダである。また、計測装置21は、内燃機関1のクランク角度を計測するクランク角センサである。計測装置20、21で計測された内燃機関1の回転数情報及びクランク角度情報は、制御装置80へ出力される。ここで、回転数というときには、各クランク角度での単位時間当たりの角度変化である回転速度をいうものとする。
【0023】
制御装置80は、弁駆動装置10を制御する装置である。図1に示すように、制御装置80は、信号ラインI1を介して油圧ユニット30を起動又は停止する制御を行う。また、制御装置80は、信号ラインI2を介してサーボ弁13を制御できる。また、制御装置80は、信号ラインI3、I4、I5を介して変位計15及び計測装置20、21に接続されている。次に、図3を用いて、制御装置80を説明する。
【0024】
図3に示す制御装置80は、入力処理回路81と、入力ポート82と、処理部90と、記憶部94と、出力ポート83と、出力処理回路84と、を有する。処理部90は、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)91と、RAM(Random Access Memory)92と、ROM(Read Only Memory)93とを含んでいる。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが付随していてもよい。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが必要に応じて接続可能である。また制御装置80は表示装置85と、入力装置86とがなくても動作可能である。
【0025】
処理部90と、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83とは、バス87、バス88、バス89を介して接続される。バス87、バス88及びバス89により、処理部90のCPU91は、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83と相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。
【0026】
入力ポート82には、入力処理回路81が接続されている。入力処理回路81には、例えば、計測データisが接続されている。そして、計測データisは、入力処理回路81に備えられるノイズフィルタやA/Dコンバータ等により、処理部90が利用できる信号に変換されてから、入力ポート82を介して処理部90へ送られる。これにより、処理部90は、必要な情報を取得することができる。計測データisは、例えば変位計15、計測装置20、21から信号ラインI3、I4、I5を介して取得した変位データ、クランク角度データ、回転数データである。
【0027】
出力ポート83には、出力処理回路84が接続されている。出力処理回路84には、表示装置85や、外部出力用の端子が接続されている。出力処理回路84は、表示装置制御回路、弁駆動装置等の制御信号回路、信号増幅回路等を備えている。出力処理回路84は、処理部90が算出したサーボ弁13への信号データを表示装置85に表示させる表示信号として出力したり、サーボ弁13へ伝達する指示信号idとして出力したりする。表示装置85は、例えば液晶表示パネルやCRT(Cathode Ray Tube)等を用いることができる。指示信号idは、サーボ弁13へ信号ラインI2を介して伝達される。
【0028】
記憶部94は、動弁試験装置100の動作手順を含むコンピュータプログラム等が記憶されている。ここで、記憶部94は、RAMのような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ハードディスクドライブあるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0029】
上記コンピュータプログラムは、処理部90へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。また、この制御装置80は、コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。
【0030】
また、動弁試験装置100の動作手順は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション、あるいは制御用コンピュータ等のコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。また、このプログラムは、ハードディスク等の記録装置、フレキシブルディスク(FD)、ROM、CD−ROM、MO、DVD、フラッシュメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0031】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」には、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線網を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含むものとする。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0032】
次に、図1から図4を用いて、内燃機関の動弁試験装置の動作を説明する。図4は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【0033】
図4に示すように、制御装置80は、計測装置20、21からリアルタイムに内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得する(ステップS1)。例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストン2が2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する(ステップS2)。
【0034】
次に、制御装置80は、目標リフト波形と同一のドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。
【0035】
制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。図5は、本実施形態に係る補償波形の一例を示す説明図である。図5には、横軸をクランク角度、縦軸をリフト量とした目標リフト波形と、その補償波形の一例が記載されている。例えば、制御装置80は、図5に示す目標リフト波形Trと、応答波形Resとの差を演算する。制御装置80が演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する(ステップS7)。
【0036】
図6は、本実施形態に係る補償波形の演算の手順を説明するフローチャートである。動弁試験装置100の制御装置80は、ドライブ波(x)と応答波形Resを記憶部94又はRAM92に記憶する(ステップS81)。
【0037】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の動特性計算を行う(ステップS82)。上述した1サイクルの目標リフト波形Tr及び応答波形Resは、クランク角度をインデックスとして回転数と共に記憶されているので、これを時間の経過に伴う、時刻をインデックスとした時間ドライブ波及び時間応答波形に変換する。時間ドライブ波に対する時間応答波形の時間に関する位相ずれが弁駆動装置10の動作遅れ特性であり、時間ドライブ波に対する時間応答波形の振幅減衰が弁駆動装置10の応答振幅減衰特性である。動作遅れと応答振幅減衰を合わせて弁駆動装置10の動特性(動作特性)と呼ぶ。制御装置80は、弁駆動装置10の動特性を時間ドライブ波と時間応答波形から計算し、記憶部94又はRAM92に記憶する。動作特性は伝達関数Res=G(x)の形で計算する。
【0038】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性計算を行う(ステップS84)。逆動特性計算としては、例えば、逆伝達関数を計算する。すなわち、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性計算は、上述した動作特性が伝達関数の形で計算されていると、動作特性の伝達関数の逆関数である逆伝達関数x=G−1(Res)を計算すればよい。
【0039】
次に、制御装置80は、目標リフト波形(時間目標リフト波形)Trから応答波形(時間応答波形)Resを引いた偏差波形Eを生成する。制御装置80は、偏差波形に上述した逆動特性を作用させ補償波形Txを生成する。例えば、偏差波形に前記逆伝達関数を作用させると補償波形Txが計算できる(ステップS85)。なお、本実施形態では、制御装置80が補償波形Txの各成分を作成したが、制御装置80とは異なるコンピュータシステムで補償波形の各成分を作成し、補償波形の各成分のデータを伝送して記憶部94又はRAM92に記憶するようにしてもよい。
【0040】
また、実際の弁駆動装置10の動特性(動作特性)を元に補償波形を作成したが、シミュレーションで補償波形を作成してもよい。まず、予め、弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルを作成する。解析モデルは、高次の常微分非線形方程式で記述され、コンピュータを用いた数値計算により、その解として弁駆動ピストン12の変位等を求めることができる。弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルは、弁駆動ピストン12の質量、ストローク、弁駆動ピストン12と弁駆動シリンダ11との間の摩擦係数、バルブスプリング6のばね定数、弁駆動シリンダ11への油圧の供給及び排出と弁駆動シリンダ11内での油の圧縮、供給と排出を切り替えるサーボ弁13動作の遅れ等を考慮して作成される。解析可能なモデルでは、ドライブ波で弁駆動装置10(アクチュエータ)を駆動したときの応答波形が計算できる。作成した解析モデルを用いて、内燃機関1(エンジン)の回転数毎に弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルにドライブ波の入力を与え、その入力に対する応答をコンピュータでシミュレーションする。そして、上述した補償波形の作成手順にて補償波形を作成することができる。図7は、本実施形態に係る補償目標リフト波形の一例を示す説明図である。
【0041】
図7には、横軸をクランク角度、縦軸をリフト量とし、吸気波形及び排気波形を同時表示した補償目標リフト波形の一例が記載されている。図5に示すように、目標リフト波形Trは、補正波形Txにより上述した応答波形Resとより近似している補償目標リフト波形となっているはずである。また、補償目標リフト波形は、クランク角度と、リフト量との相関関係で表され、回転数によって変化しない。しかしながら、補償目標リフト波形は、リフト量と時間との関係とすると、回転数によりリフト量変化の振幅(リフト幅)が変化するので、補償波形も変える必要がある。図8及び図9は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。図8及び図9は、横軸を時間、縦軸をリフト量とし、吸気波形及び排気波形を同時表示した図7に示す補償目標リフト波形を示している。図9に示す内燃機関1の回転数は、図8に示す内燃機関1の回転数に対し3倍の回転数である。これにより、図9に示す吸気波形及び排気波形の単位時間当たりの数は、図8に示す吸気波形及び排気波形の単位時間当たりの数よりも増えることになる。
【0042】
図10は、内燃機関の回転数変化の一例を示す説明図である。例えば、図10に示す内燃機関1の回転数の変動は、低い回転数で一定である期間MA、高い回転数で一定である期間MC、期間MAから期間MCへ向かって回転数が増加する期間MB、期間MCから回転数が低下する期間MDがある。
【0043】
動弁試験装置100の制御装置80は、回転変動を常時監視し、回転変動ΔNeを演算する。回転変動ΔNeは、時間tと時間t−1との回転数の差を演算し、例えば、ΔNe=Ne(t)−Ne(t−1)を演算する。例えば、期間MBにおける回転変動ΔNeである回転変動ΔNeuは、回転数が増加しているので、プラスの所定値となる。期間MDにおける回転変動ΔNeである回転変動ΔNedは、回転数が減少しているので、マイナスの所定値となる。制御装置80は、予めRAM92又は記憶部94に記憶しているしきい値と回転変動ΔNeの絶対値を比較し、回転変動ΔNeがしきい値を越えているか判断する手順を行う(ステップS8)。例えば、図10に示す期間MA、又は期間MCであれば、回転変動ΔNeの絶対値が0に近く、しきい値を越えないと判断する。このように、制御装置80が回転変動がしきい値を越えないと判断する場合(ステップS8、No)、補償波形で補償目標リフト波形を生成し、ドライブ波を生成する(ステップS3)。回転変動がしきい値を越えると判断する場合(ステップS8、Yes)については、後述する。制御装置80は、補償されたドライブ波(補償ドライブ波)によりPID制御する(ステップS4)。すなわち、制御装置80は、補償ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0044】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する手順を行う(ステップS7)。このように、目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで繰り返されるので、本実施形態の動弁試験装置100は、回転変動の変化が緩やかであれば、目標誤差を達成した応答となるようにドライブ波の精度が高まる。
【0045】
内燃機関1の回転変動が所定のしきい値を越える場合について説明する。制御装置80は、予めRAM92又は記憶部94に記憶しているしきい値と回転変動ΔNeの絶対値を比較し、回転変動ΔNeがしきい値を越えていると判断する(ステップS8、Yes)。例えば、図10に示す期間MB、又は期間MDであれば、ΔNeの絶対値がしきい値を越えると判断する。図11は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。図12は、比較例の補償波形の一例を示す説明図である。
【0046】
図11及び図12には、図10に示す期間MA、期間MB、期間MC、期間MDに対応する本実施形態の補償目標リフト波形Tr2及び応答波形Resが横軸を時間、縦軸をリフト量として表示されている。期間MA、期間MB、期間MC、期間MDにおいて、補償目標リフト波形Tr2は同じであり、回転数の変化に応じて、リフト量変化の振幅(リフト幅)が変化する。図11では、制御装置80が本実施形態の補償波形の補正の手順を行う(ステップS9)。図12では、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわない。
【0047】
図10に示す期間MAでは、回転数がほぼ一定で、回転変動ΔNeが緩やかである。これにより、図11及び図12に示すように、制御装置80は、補償波形Txaにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。
【0048】
次に、図10に示す期間MBでは、内燃機関1の回転数が増加し、回転変動ΔNeuが生じている。これにより、制御装置80は、補償波形Txaの補正を行う。例えば、図11に示すように、制御装置80は、補償波形Txaに補正関数TUを加え、補償波形Txbとする。補正関数TUは、例えば、TU=k×ΔNeuであり、kは所定の係数又は関数である。ΔNeuは、プラスの値であり、補償波形Txbは補償波形Txaよりも補償量が大きくなる。その結果、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。これに対し、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわないため、図12に示す期間MBでは、補償波形Txbaは補償波形Txaと補償するリフト量が同等となる。その結果、補償目標リフト波形Tr2と応答波形Resとの目標誤差がある状態となり、何度も補償波形の演算が必要となる。図10に示す期間MCでは、回転数がほぼ一定で、回転変動ΔNeが緩やかである。図12に示す期間MCでは、いずれ補償波形Txcを演算し、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができる。制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なうことにより、回転変動の追随が早くなる。その結果、図11に示す期間MAから期間MCまでに、目標リフト波形に補償波形Txbの粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く補償波形Txcとなる。
【0049】
次に、図10に示す期間MDでは、内燃機関1の回転数が減少し、回転変動ΔNedが生じている。これにより、制御装置80は、補償波形Txcの補正を行う。例えば、図11に示すように、制御装置80は、補償波形Txcに補正関数TDを加え、補償波形Txdとする。補正関数TDは、例えば、TD=k×ΔNedであり、kは所定の係数又は関数である。ΔNedは、マイナスの値であり、補償波形Txdは補償波形Txcよりも補償量が小さくなる。その結果、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。これに対し、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわないため、図12に示す期間MDでは、補償波形Txdcは補償波形Txcと補償量が同等となる。その結果、補償目標リフト波形Tr2と応答波形Resとの目標誤差がある状態となり、何度も補償波形の演算が必要となる。以上説明したように制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なうことにより、回転変動の追随が早くなる。その結果、図11に示す補償目標リフト波形Tr2に補償波形Txdの粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く目標誤差を小さくすることができる。
【0050】
図13は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。図13に示すブロック線図では、目標リフト波形生成ブロック51、補償波形生成ブロック71と、補償波形補正データブロック59と、PID制御ブロック55と、サーボ弁13と、弁駆動ピストン12と、弁駆動シリンダ11と、変位計15と、応答波形ブロック54とを含んでいる。目標リフト波形生成ブロック51の目標リフト波形Trの信号Pは、補償波形生成ブロック71の出力の信号Qと加算点52で加算され、補償目標リフト波形Tr2の信号Rとなる。なお、目標リフト波形Trを補償する必要がなければ、補償波形生成ブロック71での信号Qはなくなり、信号Rは目標リフト波形Trの信号Pと同じとなる。この加算された信号Rは、さらに補償波形補正データブロック59の出力の信号Sと加算点52Aで加算され、信号Tとなる。補償波形補正データブロック59では、制御装置80が上述した補正関数TU又は補正関数TDの補正データを、CPU91で演算する、又は予め記憶した補正関数TU又は補正関数TDの補正データを記憶部94又はRAM92からRAM92のワークエリアに読み出し、補償目標リフト波形Tr2を補正する。つまり、制御装置80は、補償目標リフト波形Tr2に対して、補償波形の補正を行う(ステップS9)。
【0051】
ここで、CPU91は、応答波形ブロック54において、変位計15が弁駆動シリンダ11内で駆動する弁駆動ピストン12の変位データをフィードバックし、応答波形Resの信号Uに変換する。補償波形補正データブロック59により補正された補償目標リフト波形Tr2である信号Tは、信号Uと加算点53で加算(フィードバック接続)され、偏差信号Vとなる。つまり、制御装置80は、フィードバックした変位データの偏差を演算し補償されたドライブ波とする。そして補償されたドライブ波である偏差信号VがPID制御ブロック55へ送出される。PID制御ブロック55では、偏差信号Vがサーボ弁13の制御信号Wへ変換される。これにより、図1に示す制御装置80は、サーボ弁13を制御する。サーボ弁13は、油圧Opを制御し、弁駆動シリンダ11内で駆動する弁駆動ピストン12を制御する。なお、上述した加算点において適宜補正ゲインを加えてもよい。補正ゲインは1でもよいが、装置特性変化や繰り返しによる過補償を考慮して0〜1の可変値をとるようにしていることが好ましい。
【0052】
図4に示すように、制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出し、補償目標リフト波形Tr2で補償されたドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、補償されたドライブ波(補償ドライブ波)によりPID制御する(ステップS4)。すなわち、制御装置80は、補償ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0053】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する手順を行う(ステップS7)。
【0054】
本実施形態の制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算し、演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで、上述した補償波形Txの演算(ステップS7)を行うことになる。ステップS3からステップS9までの手順が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで繰り返されるので、本実施形態の動弁試験装置100は、目標誤差を達成した応答をするドライブ波を生成できる。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0055】
演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下であれば(ステップS6、Yes)、応答振幅減衰と動作遅れが補償されたので補償を終了する。
【0056】
上述したように、本実施形態の動弁試験装置100は、弁駆動ピストン12及び弁駆動シリンダ11を有し、内燃機関1の排気弁4a又は吸気弁4bの少なくとも一方を駆動可能な弁駆動装置10と、弁駆動シリンダ12に油圧を供給する油圧ユニット30と、弁駆動装置10を制御する制御装置80と、を有する。制御装置80は、内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得し、弁駆動装置10の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形Txを記憶し、内燃機関1の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関1の特性変動に応じて補償波形Txを補正し、弁駆動ピストン12を駆動しようとする目標リフト波形Trに、補正された補償波形Txを加えて補償目標リフト波形Tr2を作成し、補償目標リフト波形Tr2によりドライブ波を生成し弁駆動装置10を制御する。
【0057】
これにより、内燃機関1の特性の変動に追随し、早期に弁動作のずれを低減できる。内燃機関1の特性変動に対して補償波形Txを粗調整することができるので、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償される。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本実施形態の動弁試験装置100はそのような機構を有さない。このため、本実施形態の動弁試験装置100では、排気弁4a又は吸気弁4bの開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁4a及び吸気弁4bの開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関1の動弁試験装置とすることができる。例えば、内燃機関1の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0058】
また、本実施形態の動弁試験装置100は、上述した内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、制御装置80は、回転数が増加する場合、補償波形Txのリフト量を増加させる補正を行う。又は制御装置80は、回転数が減少する場合、補償波形Txのリフト量を減少させる補正を行う。
【0059】
これにより、本実施形態の動弁試験装置100は、内燃機関1での回転数の変動に追従して、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関1での高回転の追従も可能となる。
【0060】
上述したように本実施形態の動弁試験装置100では、制御装置80は、補正した補償目標リフト波形Tr2の実応答データである応答波形Resを取得し、補正した補償目標リフト波形Tr2と、実応答波形Resとの差が目標誤差に到達しない場合には、補償目標リフト波形Tr2を補償波形Txでさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0061】
(実施形態2)
図14は、本実施形態に係る動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。本実施形態に係る動弁試験装置は、実施形態1と同じであるが負荷トルクに応じて補償目標リフト波形に補正を加えている。次の説明においては、実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0062】
図1に示すように、本実施形態の動弁試験装置は、ダイナモ200を含み、制御装置80は、信号ラインI6からダイナモ200が取得する負荷トルクデータを取得する。図14は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。図14に示すように、制御装置80は、計測装置20、21、及びダイナモ200からリアルタイムに内燃機関1のクランク角度、回転数データ、負荷トルクデータを取得する(ステップS21)。制御装置80は、本来所望のクランク角度毎にリフト量が与えられた目標リフト波形が記憶部94又はRAM92に記憶されているものとする。例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストンが2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する(ステップS2)。
【0063】
次に、制御装置80は、目標リフト波形と同一のドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。
【0064】
制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。制御装置80が演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する(ステップS7)。
【0065】
図15は、本実施形態の補償波形補正データの一例を示す説明図である。制御装置80は、図15に示す横軸が負荷トルクとし、縦軸が補償波形Txのリフト幅とした場合、負荷トルクと補償波形Txのリフト幅との相関関係を示す補償波形補正データを予めCPU91で演算し、RAM92又は記憶部94に記憶している。これにより、制御装置80は、補償波形Txにたいして補正する補正関数L=L(l)を記憶していることになる。
【0066】
図16は、内燃機関の負荷トルク変化の一例を示す説明図である。図17は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。図16に示すように、内燃機関1の負荷トルクは、期間LA、期間LB、期間LC毎に変化する。制御装置80は、図16に示す期間LA、期間LB、期間LCの境界をしきい値としてRAM92又は記憶部94に記憶している。制御装置80は、負荷トルク変動を常時監視し、内燃機関1の負荷トルクがしきい値を越えて期間LA、期間LB、期間LCのいずれかになるか、つまり負荷トルク変動がしきい値を越えるか判断する手順を行う(ステップS28)。
【0067】
制御装置80が負荷トルク変動がしきい値を越えないと判断する場合(ステップS28、No)、補償波形で補償目標リフト波形を生成し、ドライブ波を生成する(ステップS3)。以後、制御装置80は、実施形態1に説明したように手順を行う。
【0068】
制御装置80が負荷トルク変動がしきい値を越えると判断する場合(ステップS28、Yes)、制御装置80は、補償波形Txの補正をする手順を行う(ステップS29)。例えば、制御装置80は、図17に示す期間LAから期間LBへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LAにおける補償波形Txeに対して、補正関数L=L(b)を加え、期間LBにおける補償波形Txfとする補正を行う。これにより、補償波形Txfは、補償波形Txeよりもリフト幅が大きくなる。同様に、制御装置80は、図17に示す期間LBから期間LCへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LBにおける補償波形Txfに対して、補正関数L=L(c)を加え、期間LCにおける補償波形Txgとする補正を行う。
【0069】
逆に、制御装置80は、図17に示す期間LCから期間LBへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LCにおける補償波形Txgに対して、補正関数L=L(b)を加え、期間LBにおける補償波形Txfとする補正を行う。これにより、制御装置80は、図17に示すしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動した場合、補償波形Txe、Txf、Txgに対して補正関数Lにより粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く目標誤差を小さくする。以後、制御装置80は、実施形態1に説明したように手順を行う。
【0070】
上述したように、本実施形態の動弁試験装置100は、制御装置80は、内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得し、弁駆動装置10の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形Txを記憶し、内燃機関1の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関1の特性変動に応じて補償波形Txを補正し、弁駆動ピストン12を駆動しようとする目標リフト波形Trに、補正された前記補償波形Txを加えて補償目標リフト波形Tr2を作成し、補償目標リフト波形Tr2によりドライブ波を生成し弁駆動装置10を制御する。ここで、上述した内燃機関1の特性が内燃機関1の負荷トルクであり、制御装置80は、負荷トルクが増加する場合、補償波形Txのリフト幅を増加させる補正を行う。又は制御装置80は、負荷トルクが減少する場合、補償波形Txのリフト幅を減少させる補正を行う。これにより、動弁試験装置100は、内燃機関1での負荷トルクの変動に追従して、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る動弁試験装置は、内燃機関の吸気弁又は排気弁を開閉駆動する試験機に適している。なお、本発明は、内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御する内燃機関の動弁装置にも適用できる。また、前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行う内燃機関の動弁装置であると、より好ましい。あるいは、前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行う内燃機関の動弁装置であると、より好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1 内燃機関
2 燃焼用ピストン
3 シリンダブロック
4a 排気弁
4b 吸気弁
5 弁ロッド
6 バルブスプリング
7 クランクシャフト
8 コネクティングロッド
9 クランクケース
10 弁駆動装置
11 弁駆動シリンダ
12 弁駆動ピストン
13 サーボ弁
15 変位計
20、21 計測装置
30 油圧ユニット
80 制御装置
100 動弁試験装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気弁、排気弁を試験的に駆動するための内燃機関の動弁試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の制御の自由度を高めるため、油圧アクチュエータ及び油圧サーボ弁等を用いて吸気弁、排気弁を制御する油圧式の弁駆動装置がある。例えば、弁の開閉動作(リフト)のみをアクチュエータにて行う、弁駆動装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の弁駆動装置では、自由な弁制御が可能となるものの、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れが生じる。そこで、弁駆動装置は、弁駆動ピストンの変位を計測し、次のサイクルの弁制御に偏差をフィードバックしている。これにより、内燃機関の特性変動に変化がない場合、油圧アクチュエータの動作遅れに起因する弁動作遅れを繰り返しフィードバックして補償することで、弁動作遅れは徐々に低減することができる。しかしながら、内燃機関の特性が変動すると、弁動作遅れを補償する前提が変化してしまうため、弁動作遅れの低減時間がかかることがある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、内燃機関の特性変動があっても早期に弁動作遅れを低減できる内燃機関の動弁試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために本発明は、内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御することを特徴とする。
【0007】
これにより、内燃機関の特性の変動に追随し、早期に弁動作のずれを低減できる。内燃機関の特性変動に対して補償波形を粗調整することができるので、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償される。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本実施形態の内燃機関の動弁試験装置はそのような機構を有さない。このため、本実施形態の内燃機関の動弁試験装置では、吸排気弁の開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁及び吸気弁の開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関の動弁試験装置とすることができる。例えば、内燃機関の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行うことが好ましい。
【0009】
これにより、内燃機関での回転数の変動に追従して、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関での高回転の追従も可能となる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行うことが好ましい。
【0011】
これにより、内燃機関での負荷トルクの変動に追従して、弁駆動ピストンの応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記制御装置は、補正された前記補償目標リフト波形で前記弁駆動ピストンを駆動して実応答波形を取得し、補正された前記補償目標リフト波形と前記実応答波形との差が目標誤差に到達しない場合には、補正された前記補償目標リフト波形を前記補償波形でさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い実応答とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内燃機関の動弁試験装置によれば、内燃機関の特性変動があっても早期に弁動作遅れを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。
【図2】図2は、弁駆動装置の概要図である。
【図3】図3は、制御装置の構成図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本実施形態に係る補償波形の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、本実施形態に係る補償波形の演算の手順を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、本実施形態に係る補償目標リフト波形の一例を示す説明図である。
【図8】図8は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。
【図9】図9は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。
【図10】図10は、内燃機関の回転数変化の一例を示す説明図である。
【図11】図11は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。
【図12】図12は、比較例の補償波形の一例を示す説明図である。
【図13】図13は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。
【図14】図14は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図15】図15は、本実施形態の補償波形補正データの一例を示す説明図である。
【図16】図16は、内燃機関の負荷トルク変化の一例を示す説明図である。
【図17】図17は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
(実施形態1)
本実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の構成図である。図2は、弁駆動装置の概要図である。図3は、制御装置の構成図である。本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置100(以下、動弁試験装置という。)に用いられる動弁装置は、シリンダブロック3内での燃焼用ピストン2の上下動に伴い、エンジンバルブとしての排気弁4a及び吸気弁4bを駆動する装置である。
【0017】
図1に示すように、動弁試験装置100は、内燃機関1(エンジン)に設置される弁駆動装置10と、内燃機関1の状態を計測する計測装置20、21と、弁駆動装置10に油圧を供給する油圧ユニット30と、弁駆動装置10を制御する制御装置80と、信号ラインI1、I2、I3、I4、I5と、油圧ラインO1及びO2と、を有している。なお、ダイナモ200は、電力変換装置である。ダイナモ200は、必須の構成要素ではなく付加要素であり、例えば後述する試験装置として使用する場合に用いる。
【0018】
図2に示すように、弁駆動装置10は、弁駆動シリンダ11と、弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12と、弁駆動ピストン12を駆動するためのサーボ弁13と、弁駆動ピストン12の位置を計測する変位計15とを有している。図1に示すように内燃機関1は、シリンダブロック3と、クランクケース9と、燃焼用ピストン2と、クランクシャフト7と、コネクティングロッド8とを有している。燃焼用ピストン2とクランクシャフト7とがコネクティングロッド8で連結されている。このような構造により、燃焼用ピストン2の往復運動がクランクシャフト7で回転運動に変換される。
【0019】
また、図1及び図2に示すように内燃機関1は、排気弁4a及び吸気弁4bと、弁ロッド5と、バルブスプリング6とを有している。排気弁4a、吸気弁4bは、各々、弁ロッド5の下端に固定されており、弁ロッド5に設けられたバルブスプリング6により閉弁方向に力が付勢されている。弁駆動装置10は、内燃機関1上に搭載され、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続されている。又は、弁駆動装置10は、弁閉止時にわずかな隙間をあけ配置される。これにより、弁駆動ピストン12を駆動すると、弁ロッド5に応じて排気弁4a及び吸気弁4bが駆動される。なお、弁駆動ピストン12が弁ロッド5と接続される場合には、バルブスプリング6は不要となる。
【0020】
図2に示す弁駆動シリンダ11内に移動可能に収納された弁駆動ピストン12は、油圧アクチュエータであって、弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11に油圧が供給されると伸びて排気弁4a又は吸気弁4bを開動作させる。また弁駆動ピストン12は弁駆動シリンダ11から油圧が排出されると縮んで排気弁4a又は吸気弁4bを閉動作させる。サーボ弁13は、弁駆動シリンダ11の外部側面に取り付けられている。サーボ弁13は、後述する油圧ユニット30と油圧の供給ラインである油圧ラインO1及び戻りラインである油圧ラインO2で接続されている。サーボ弁13は、制御装置80からの信号ラインI2の指示に基づいて弁駆動シリンダ11への油圧の供給又は弁駆動シリンダ11から油圧の排出を制御する。例えば、サーボ弁13は、スプール、油路、電磁コイル等により構成されている。変位計15は、弁駆動シリンダ11での弁駆動ピストン12の位置を計測し、計測した位置データを制御装置80へ出力する。
【0021】
変位計15には、例えばLVDT(Linear Variable Differential Transformer:差動変圧器)のような非接触式の変位センサが用いられている。ここで、変位計15は、弁駆動ピストン12の位置を計測することができる。また、弁駆動ピストン12の変位計15は信号ラインI3を通じて、上述した制御装置80へ接続されている。
【0022】
図1に示す計測装置20は、内燃機関1の回転数を計測するエンコーダである。また、計測装置21は、内燃機関1のクランク角度を計測するクランク角センサである。計測装置20、21で計測された内燃機関1の回転数情報及びクランク角度情報は、制御装置80へ出力される。ここで、回転数というときには、各クランク角度での単位時間当たりの角度変化である回転速度をいうものとする。
【0023】
制御装置80は、弁駆動装置10を制御する装置である。図1に示すように、制御装置80は、信号ラインI1を介して油圧ユニット30を起動又は停止する制御を行う。また、制御装置80は、信号ラインI2を介してサーボ弁13を制御できる。また、制御装置80は、信号ラインI3、I4、I5を介して変位計15及び計測装置20、21に接続されている。次に、図3を用いて、制御装置80を説明する。
【0024】
図3に示す制御装置80は、入力処理回路81と、入力ポート82と、処理部90と、記憶部94と、出力ポート83と、出力処理回路84と、を有する。処理部90は、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)91と、RAM(Random Access Memory)92と、ROM(Read Only Memory)93とを含んでいる。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが付随していてもよい。制御装置80には、表示装置85と、入力装置86とが必要に応じて接続可能である。また制御装置80は表示装置85と、入力装置86とがなくても動作可能である。
【0025】
処理部90と、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83とは、バス87、バス88、バス89を介して接続される。バス87、バス88及びバス89により、処理部90のCPU91は、記憶部94と、入力ポート82及び出力ポート83と相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。
【0026】
入力ポート82には、入力処理回路81が接続されている。入力処理回路81には、例えば、計測データisが接続されている。そして、計測データisは、入力処理回路81に備えられるノイズフィルタやA/Dコンバータ等により、処理部90が利用できる信号に変換されてから、入力ポート82を介して処理部90へ送られる。これにより、処理部90は、必要な情報を取得することができる。計測データisは、例えば変位計15、計測装置20、21から信号ラインI3、I4、I5を介して取得した変位データ、クランク角度データ、回転数データである。
【0027】
出力ポート83には、出力処理回路84が接続されている。出力処理回路84には、表示装置85や、外部出力用の端子が接続されている。出力処理回路84は、表示装置制御回路、弁駆動装置等の制御信号回路、信号増幅回路等を備えている。出力処理回路84は、処理部90が算出したサーボ弁13への信号データを表示装置85に表示させる表示信号として出力したり、サーボ弁13へ伝達する指示信号idとして出力したりする。表示装置85は、例えば液晶表示パネルやCRT(Cathode Ray Tube)等を用いることができる。指示信号idは、サーボ弁13へ信号ラインI2を介して伝達される。
【0028】
記憶部94は、動弁試験装置100の動作手順を含むコンピュータプログラム等が記憶されている。ここで、記憶部94は、RAMのような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ハードディスクドライブあるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0029】
上記コンピュータプログラムは、処理部90へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。また、この制御装置80は、コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、動弁試験装置100の動作手順を実行するものであってもよい。
【0030】
また、動弁試験装置100の動作手順は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション、あるいは制御用コンピュータ等のコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。また、このプログラムは、ハードディスク等の記録装置、フレキシブルディスク(FD)、ROM、CD−ROM、MO、DVD、フラッシュメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0031】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」には、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線網を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含むものとする。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0032】
次に、図1から図4を用いて、内燃機関の動弁試験装置の動作を説明する。図4は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。
【0033】
図4に示すように、制御装置80は、計測装置20、21からリアルタイムに内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得する(ステップS1)。例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストン2が2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する(ステップS2)。
【0034】
次に、制御装置80は、目標リフト波形と同一のドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。
【0035】
制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。図5は、本実施形態に係る補償波形の一例を示す説明図である。図5には、横軸をクランク角度、縦軸をリフト量とした目標リフト波形と、その補償波形の一例が記載されている。例えば、制御装置80は、図5に示す目標リフト波形Trと、応答波形Resとの差を演算する。制御装置80が演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する(ステップS7)。
【0036】
図6は、本実施形態に係る補償波形の演算の手順を説明するフローチャートである。動弁試験装置100の制御装置80は、ドライブ波(x)と応答波形Resを記憶部94又はRAM92に記憶する(ステップS81)。
【0037】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の動特性計算を行う(ステップS82)。上述した1サイクルの目標リフト波形Tr及び応答波形Resは、クランク角度をインデックスとして回転数と共に記憶されているので、これを時間の経過に伴う、時刻をインデックスとした時間ドライブ波及び時間応答波形に変換する。時間ドライブ波に対する時間応答波形の時間に関する位相ずれが弁駆動装置10の動作遅れ特性であり、時間ドライブ波に対する時間応答波形の振幅減衰が弁駆動装置10の応答振幅減衰特性である。動作遅れと応答振幅減衰を合わせて弁駆動装置10の動特性(動作特性)と呼ぶ。制御装置80は、弁駆動装置10の動特性を時間ドライブ波と時間応答波形から計算し、記憶部94又はRAM92に記憶する。動作特性は伝達関数Res=G(x)の形で計算する。
【0038】
次に、制御装置80は、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性計算を行う(ステップS84)。逆動特性計算としては、例えば、逆伝達関数を計算する。すなわち、弁駆動装置10の動作特性の逆動特性計算は、上述した動作特性が伝達関数の形で計算されていると、動作特性の伝達関数の逆関数である逆伝達関数x=G−1(Res)を計算すればよい。
【0039】
次に、制御装置80は、目標リフト波形(時間目標リフト波形)Trから応答波形(時間応答波形)Resを引いた偏差波形Eを生成する。制御装置80は、偏差波形に上述した逆動特性を作用させ補償波形Txを生成する。例えば、偏差波形に前記逆伝達関数を作用させると補償波形Txが計算できる(ステップS85)。なお、本実施形態では、制御装置80が補償波形Txの各成分を作成したが、制御装置80とは異なるコンピュータシステムで補償波形の各成分を作成し、補償波形の各成分のデータを伝送して記憶部94又はRAM92に記憶するようにしてもよい。
【0040】
また、実際の弁駆動装置10の動特性(動作特性)を元に補償波形を作成したが、シミュレーションで補償波形を作成してもよい。まず、予め、弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルを作成する。解析モデルは、高次の常微分非線形方程式で記述され、コンピュータを用いた数値計算により、その解として弁駆動ピストン12の変位等を求めることができる。弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルは、弁駆動ピストン12の質量、ストローク、弁駆動ピストン12と弁駆動シリンダ11との間の摩擦係数、バルブスプリング6のばね定数、弁駆動シリンダ11への油圧の供給及び排出と弁駆動シリンダ11内での油の圧縮、供給と排出を切り替えるサーボ弁13動作の遅れ等を考慮して作成される。解析可能なモデルでは、ドライブ波で弁駆動装置10(アクチュエータ)を駆動したときの応答波形が計算できる。作成した解析モデルを用いて、内燃機関1(エンジン)の回転数毎に弁駆動装置10(アクチュエータ)の解析モデルにドライブ波の入力を与え、その入力に対する応答をコンピュータでシミュレーションする。そして、上述した補償波形の作成手順にて補償波形を作成することができる。図7は、本実施形態に係る補償目標リフト波形の一例を示す説明図である。
【0041】
図7には、横軸をクランク角度、縦軸をリフト量とし、吸気波形及び排気波形を同時表示した補償目標リフト波形の一例が記載されている。図5に示すように、目標リフト波形Trは、補正波形Txにより上述した応答波形Resとより近似している補償目標リフト波形となっているはずである。また、補償目標リフト波形は、クランク角度と、リフト量との相関関係で表され、回転数によって変化しない。しかしながら、補償目標リフト波形は、リフト量と時間との関係とすると、回転数によりリフト量変化の振幅(リフト幅)が変化するので、補償波形も変える必要がある。図8及び図9は、リフト量と時間との関係の一例を示す説明図である。図8及び図9は、横軸を時間、縦軸をリフト量とし、吸気波形及び排気波形を同時表示した図7に示す補償目標リフト波形を示している。図9に示す内燃機関1の回転数は、図8に示す内燃機関1の回転数に対し3倍の回転数である。これにより、図9に示す吸気波形及び排気波形の単位時間当たりの数は、図8に示す吸気波形及び排気波形の単位時間当たりの数よりも増えることになる。
【0042】
図10は、内燃機関の回転数変化の一例を示す説明図である。例えば、図10に示す内燃機関1の回転数の変動は、低い回転数で一定である期間MA、高い回転数で一定である期間MC、期間MAから期間MCへ向かって回転数が増加する期間MB、期間MCから回転数が低下する期間MDがある。
【0043】
動弁試験装置100の制御装置80は、回転変動を常時監視し、回転変動ΔNeを演算する。回転変動ΔNeは、時間tと時間t−1との回転数の差を演算し、例えば、ΔNe=Ne(t)−Ne(t−1)を演算する。例えば、期間MBにおける回転変動ΔNeである回転変動ΔNeuは、回転数が増加しているので、プラスの所定値となる。期間MDにおける回転変動ΔNeである回転変動ΔNedは、回転数が減少しているので、マイナスの所定値となる。制御装置80は、予めRAM92又は記憶部94に記憶しているしきい値と回転変動ΔNeの絶対値を比較し、回転変動ΔNeがしきい値を越えているか判断する手順を行う(ステップS8)。例えば、図10に示す期間MA、又は期間MCであれば、回転変動ΔNeの絶対値が0に近く、しきい値を越えないと判断する。このように、制御装置80が回転変動がしきい値を越えないと判断する場合(ステップS8、No)、補償波形で補償目標リフト波形を生成し、ドライブ波を生成する(ステップS3)。回転変動がしきい値を越えると判断する場合(ステップS8、Yes)については、後述する。制御装置80は、補償されたドライブ波(補償ドライブ波)によりPID制御する(ステップS4)。すなわち、制御装置80は、補償ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0044】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する手順を行う(ステップS7)。このように、目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで繰り返されるので、本実施形態の動弁試験装置100は、回転変動の変化が緩やかであれば、目標誤差を達成した応答となるようにドライブ波の精度が高まる。
【0045】
内燃機関1の回転変動が所定のしきい値を越える場合について説明する。制御装置80は、予めRAM92又は記憶部94に記憶しているしきい値と回転変動ΔNeの絶対値を比較し、回転変動ΔNeがしきい値を越えていると判断する(ステップS8、Yes)。例えば、図10に示す期間MB、又は期間MDであれば、ΔNeの絶対値がしきい値を越えると判断する。図11は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。図12は、比較例の補償波形の一例を示す説明図である。
【0046】
図11及び図12には、図10に示す期間MA、期間MB、期間MC、期間MDに対応する本実施形態の補償目標リフト波形Tr2及び応答波形Resが横軸を時間、縦軸をリフト量として表示されている。期間MA、期間MB、期間MC、期間MDにおいて、補償目標リフト波形Tr2は同じであり、回転数の変化に応じて、リフト量変化の振幅(リフト幅)が変化する。図11では、制御装置80が本実施形態の補償波形の補正の手順を行う(ステップS9)。図12では、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわない。
【0047】
図10に示す期間MAでは、回転数がほぼ一定で、回転変動ΔNeが緩やかである。これにより、図11及び図12に示すように、制御装置80は、補償波形Txaにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。
【0048】
次に、図10に示す期間MBでは、内燃機関1の回転数が増加し、回転変動ΔNeuが生じている。これにより、制御装置80は、補償波形Txaの補正を行う。例えば、図11に示すように、制御装置80は、補償波形Txaに補正関数TUを加え、補償波形Txbとする。補正関数TUは、例えば、TU=k×ΔNeuであり、kは所定の係数又は関数である。ΔNeuは、プラスの値であり、補償波形Txbは補償波形Txaよりも補償量が大きくなる。その結果、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。これに対し、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわないため、図12に示す期間MBでは、補償波形Txbaは補償波形Txaと補償するリフト量が同等となる。その結果、補償目標リフト波形Tr2と応答波形Resとの目標誤差がある状態となり、何度も補償波形の演算が必要となる。図10に示す期間MCでは、回転数がほぼ一定で、回転変動ΔNeが緩やかである。図12に示す期間MCでは、いずれ補償波形Txcを演算し、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができる。制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なうことにより、回転変動の追随が早くなる。その結果、図11に示す期間MAから期間MCまでに、目標リフト波形に補償波形Txbの粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く補償波形Txcとなる。
【0049】
次に、図10に示す期間MDでは、内燃機関1の回転数が減少し、回転変動ΔNedが生じている。これにより、制御装置80は、補償波形Txcの補正を行う。例えば、図11に示すように、制御装置80は、補償波形Txcに補正関数TDを加え、補償波形Txdとする。補正関数TDは、例えば、TD=k×ΔNedであり、kは所定の係数又は関数である。ΔNedは、マイナスの値であり、補償波形Txdは補償波形Txcよりも補償量が小さくなる。その結果、補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、目標誤差を小さくすることができている。これに対し、制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なわないため、図12に示す期間MDでは、補償波形Txdcは補償波形Txcと補償量が同等となる。その結果、補償目標リフト波形Tr2と応答波形Resとの目標誤差がある状態となり、何度も補償波形の演算が必要となる。以上説明したように制御装置80は、本実施形態の補償波形の補正の手順を行なうことにより、回転変動の追随が早くなる。その結果、図11に示す補償目標リフト波形Tr2に補償波形Txdの粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く目標誤差を小さくすることができる。
【0050】
図13は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置のブロック線図を示す説明図である。図13に示すブロック線図では、目標リフト波形生成ブロック51、補償波形生成ブロック71と、補償波形補正データブロック59と、PID制御ブロック55と、サーボ弁13と、弁駆動ピストン12と、弁駆動シリンダ11と、変位計15と、応答波形ブロック54とを含んでいる。目標リフト波形生成ブロック51の目標リフト波形Trの信号Pは、補償波形生成ブロック71の出力の信号Qと加算点52で加算され、補償目標リフト波形Tr2の信号Rとなる。なお、目標リフト波形Trを補償する必要がなければ、補償波形生成ブロック71での信号Qはなくなり、信号Rは目標リフト波形Trの信号Pと同じとなる。この加算された信号Rは、さらに補償波形補正データブロック59の出力の信号Sと加算点52Aで加算され、信号Tとなる。補償波形補正データブロック59では、制御装置80が上述した補正関数TU又は補正関数TDの補正データを、CPU91で演算する、又は予め記憶した補正関数TU又は補正関数TDの補正データを記憶部94又はRAM92からRAM92のワークエリアに読み出し、補償目標リフト波形Tr2を補正する。つまり、制御装置80は、補償目標リフト波形Tr2に対して、補償波形の補正を行う(ステップS9)。
【0051】
ここで、CPU91は、応答波形ブロック54において、変位計15が弁駆動シリンダ11内で駆動する弁駆動ピストン12の変位データをフィードバックし、応答波形Resの信号Uに変換する。補償波形補正データブロック59により補正された補償目標リフト波形Tr2である信号Tは、信号Uと加算点53で加算(フィードバック接続)され、偏差信号Vとなる。つまり、制御装置80は、フィードバックした変位データの偏差を演算し補償されたドライブ波とする。そして補償されたドライブ波である偏差信号VがPID制御ブロック55へ送出される。PID制御ブロック55では、偏差信号Vがサーボ弁13の制御信号Wへ変換される。これにより、図1に示す制御装置80は、サーボ弁13を制御する。サーボ弁13は、油圧Opを制御し、弁駆動シリンダ11内で駆動する弁駆動ピストン12を制御する。なお、上述した加算点において適宜補正ゲインを加えてもよい。補正ゲインは1でもよいが、装置特性変化や繰り返しによる過補償を考慮して0〜1の可変値をとるようにしていることが好ましい。
【0052】
図4に示すように、制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出し、補償目標リフト波形Tr2で補償されたドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、補償されたドライブ波(補償ドライブ波)によりPID制御する(ステップS4)。すなわち、制御装置80は、補償ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。
【0053】
制御装置80は、応答波形である弁駆動ピストン12の変位データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する手順を行う(ステップS7)。
【0054】
本実施形態の制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算し、演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで、上述した補償波形Txの演算(ステップS7)を行うことになる。ステップS3からステップS9までの手順が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以内となるまで繰り返されるので、本実施形態の動弁試験装置100は、目標誤差を達成した応答をするドライブ波を生成できる。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0055】
演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下であれば(ステップS6、Yes)、応答振幅減衰と動作遅れが補償されたので補償を終了する。
【0056】
上述したように、本実施形態の動弁試験装置100は、弁駆動ピストン12及び弁駆動シリンダ11を有し、内燃機関1の排気弁4a又は吸気弁4bの少なくとも一方を駆動可能な弁駆動装置10と、弁駆動シリンダ12に油圧を供給する油圧ユニット30と、弁駆動装置10を制御する制御装置80と、を有する。制御装置80は、内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得し、弁駆動装置10の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形Txを記憶し、内燃機関1の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関1の特性変動に応じて補償波形Txを補正し、弁駆動ピストン12を駆動しようとする目標リフト波形Trに、補正された補償波形Txを加えて補償目標リフト波形Tr2を作成し、補償目標リフト波形Tr2によりドライブ波を生成し弁駆動装置10を制御する。
【0057】
これにより、内燃機関1の特性の変動に追随し、早期に弁動作のずれを低減できる。内燃機関1の特性変動に対して補償波形Txを粗調整することができるので、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れがより早く補償される。また、クランクシャフトによってカムシャフトを駆動する機構はカムの位相が固定であるが、本実施形態の動弁試験装置100はそのような機構を有さない。このため、本実施形態の動弁試験装置100では、排気弁4a又は吸気弁4bの開閉タイミング、リフト量、作動角又は排気弁4a及び吸気弁4bの開閉時期のオーバーラップ等の弁動作プロフィールを任意に変更できる自由度の高い内燃機関1の動弁試験装置とすることができる。例えば、内燃機関1の動弁試験において、燃焼が不安定となる負荷領域でも内燃機関の運転の安定化を図り、かつ燃焼効率を高めることができるリフトパターンを見出すことができる。これにより、カムシャフトの弁駆動装置の設計へフィードバックして高性能なカムシャフトの弁駆動装置を作ることに寄与できる。
【0058】
また、本実施形態の動弁試験装置100は、上述した内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、制御装置80は、回転数が増加する場合、補償波形Txのリフト量を増加させる補正を行う。又は制御装置80は、回転数が減少する場合、補償波形Txのリフト量を減少させる補正を行う。
【0059】
これにより、本実施形態の動弁試験装置100は、内燃機関1での回転数の変動に追従して、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。また、油圧アクチュエータは出力が高く、内燃機関1での高回転の追従も可能となる。
【0060】
上述したように本実施形態の動弁試験装置100では、制御装置80は、補正した補償目標リフト波形Tr2の実応答データである応答波形Resを取得し、補正した補償目標リフト波形Tr2と、実応答波形Resとの差が目標誤差に到達しない場合には、補償目標リフト波形Tr2を補償波形Txでさらに補正することが好ましい。これにより、精度の高い応答とすることができる。
【0061】
(実施形態2)
図14は、本実施形態に係る動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。本実施形態に係る動弁試験装置は、実施形態1と同じであるが負荷トルクに応じて補償目標リフト波形に補正を加えている。次の説明においては、実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0062】
図1に示すように、本実施形態の動弁試験装置は、ダイナモ200を含み、制御装置80は、信号ラインI6からダイナモ200が取得する負荷トルクデータを取得する。図14は、本実施形態に係る内燃機関の動弁試験装置の動作を示すフローチャートである。図14に示すように、制御装置80は、計測装置20、21、及びダイナモ200からリアルタイムに内燃機関1のクランク角度、回転数データ、負荷トルクデータを取得する(ステップS21)。制御装置80は、本来所望のクランク角度毎にリフト量が与えられた目標リフト波形が記憶部94又はRAM92に記憶されているものとする。例えば、4ストロークエンジンでは燃焼用ピストンが2往復する間に、吸気・圧縮・膨張・排気の4行程を行うことで1サイクルを完結する。制御装置80は、この1サイクル分の目標リフト波形を生成する(ステップS2)。
【0063】
次に、制御装置80は、目標リフト波形と同一のドライブ波を生成する(ステップS3)。制御装置80は、ドライブ波で弁駆動ピストン12を駆動し、弁駆動ピストン12の変位を変位計15で検出し、クランク角度毎に応答波形として記憶部94又はRAM92に記憶する。制御装置80は、変位データをフィードバックしドライブ波との偏差を算出しPID制御する(ステップS4)。
【0064】
制御装置80は、弁駆動ピストン12の応答波形データを取得し(ステップS5)、目標リフト波形と応答波形との差(誤差)を演算する。制御装置80が演算した差が目標誤差(例えば±0.1mmの範囲内)以下でないならば(ステップS6、No)、制御装置80は、図5に示す補償波形Txを演算する(ステップS7)。
【0065】
図15は、本実施形態の補償波形補正データの一例を示す説明図である。制御装置80は、図15に示す横軸が負荷トルクとし、縦軸が補償波形Txのリフト幅とした場合、負荷トルクと補償波形Txのリフト幅との相関関係を示す補償波形補正データを予めCPU91で演算し、RAM92又は記憶部94に記憶している。これにより、制御装置80は、補償波形Txにたいして補正する補正関数L=L(l)を記憶していることになる。
【0066】
図16は、内燃機関の負荷トルク変化の一例を示す説明図である。図17は、本実施形態の補償波形の一例を示す説明図である。図16に示すように、内燃機関1の負荷トルクは、期間LA、期間LB、期間LC毎に変化する。制御装置80は、図16に示す期間LA、期間LB、期間LCの境界をしきい値としてRAM92又は記憶部94に記憶している。制御装置80は、負荷トルク変動を常時監視し、内燃機関1の負荷トルクがしきい値を越えて期間LA、期間LB、期間LCのいずれかになるか、つまり負荷トルク変動がしきい値を越えるか判断する手順を行う(ステップS28)。
【0067】
制御装置80が負荷トルク変動がしきい値を越えないと判断する場合(ステップS28、No)、補償波形で補償目標リフト波形を生成し、ドライブ波を生成する(ステップS3)。以後、制御装置80は、実施形態1に説明したように手順を行う。
【0068】
制御装置80が負荷トルク変動がしきい値を越えると判断する場合(ステップS28、Yes)、制御装置80は、補償波形Txの補正をする手順を行う(ステップS29)。例えば、制御装置80は、図17に示す期間LAから期間LBへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LAにおける補償波形Txeに対して、補正関数L=L(b)を加え、期間LBにおける補償波形Txfとする補正を行う。これにより、補償波形Txfは、補償波形Txeよりもリフト幅が大きくなる。同様に、制御装置80は、図17に示す期間LBから期間LCへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LBにおける補償波形Txfに対して、補正関数L=L(c)を加え、期間LCにおける補償波形Txgとする補正を行う。
【0069】
逆に、制御装置80は、図17に示す期間LCから期間LBへしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動したと判断する場合、期間LCにおける補償波形Txgに対して、補正関数L=L(b)を加え、期間LBにおける補償波形Txfとする補正を行う。これにより、制御装置80は、図17に示すしきい値を超えて内燃機関1の負荷トルクが変動した場合、補償波形Txe、Txf、Txgに対して補正関数Lにより粗調整を施すことにより補償目標リフト波形Tr2を応答波形Resと近似させ、より早く目標誤差を小さくする。以後、制御装置80は、実施形態1に説明したように手順を行う。
【0070】
上述したように、本実施形態の動弁試験装置100は、制御装置80は、内燃機関1のクランク角度及び回転数データを取得し、弁駆動装置10の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形Txを記憶し、内燃機関1の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、内燃機関1の特性変動に応じて補償波形Txを補正し、弁駆動ピストン12を駆動しようとする目標リフト波形Trに、補正された前記補償波形Txを加えて補償目標リフト波形Tr2を作成し、補償目標リフト波形Tr2によりドライブ波を生成し弁駆動装置10を制御する。ここで、上述した内燃機関1の特性が内燃機関1の負荷トルクであり、制御装置80は、負荷トルクが増加する場合、補償波形Txのリフト幅を増加させる補正を行う。又は制御装置80は、負荷トルクが減少する場合、補償波形Txのリフト幅を減少させる補正を行う。これにより、動弁試験装置100は、内燃機関1での負荷トルクの変動に追従して、弁駆動ピストン12の応答振幅減衰と動作遅れをより早く補償することができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る動弁試験装置は、内燃機関の吸気弁又は排気弁を開閉駆動する試験機に適している。なお、本発明は、内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御する内燃機関の動弁装置にも適用できる。また、前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行う内燃機関の動弁装置であると、より好ましい。あるいは、前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行う内燃機関の動弁装置であると、より好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1 内燃機関
2 燃焼用ピストン
3 シリンダブロック
4a 排気弁
4b 吸気弁
5 弁ロッド
6 バルブスプリング
7 クランクシャフト
8 コネクティングロッド
9 クランクケース
10 弁駆動装置
11 弁駆動シリンダ
12 弁駆動ピストン
13 サーボ弁
15 変位計
20、21 計測装置
30 油圧ユニット
80 制御装置
100 動弁試験装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、
前記制御装置は、
前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、
前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、
前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御することを特徴とする内燃機関の動弁試験装置。
【請求項2】
前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、
前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行う請求項1に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【請求項3】
前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、
前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行う請求項1又は2に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【請求項4】
前記制御装置は、補正された前記補償目標リフト波形で前記弁駆動ピストンを駆動して実応答波形を取得し、補正された前記補償目標リフト波形と前記実応答波形との差が目標誤差に到達しない場合には、補正された前記補償目標リフト波形を前記補償波形でさらに補正する請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【請求項1】
内燃機関の排気弁又は吸気弁を駆動可能な弁駆動ピストン及び弁駆動シリンダを有する弁駆動装置と、前記弁駆動シリンダに油圧を供給する油圧ユニットと、前記弁駆動装置を制御する制御装置と、を有する内燃機関の動弁試験装置において、
前記制御装置は、
前記内燃機関のクランク角度及び回転数データを取得し、前記弁駆動装置の動作特性に基づく応答振幅減衰と動作遅れとを演算した補償波形を記憶し、
前記内燃機関の特性が所定のしきい値を越えて変動する場合、前記内燃機関の特性変動に応じて前記補償波形を補正し、
前記弁駆動ピストンを駆動しようとする目標リフト波形に、補正された前記補償波形を加えて補償目標リフト波形を作成し、前記補償目標リフト波形によりドライブ波を生成し前記弁駆動装置を制御することを特徴とする内燃機関の動弁試験装置。
【請求項2】
前記内燃機関の特性が内燃機関の回転数であり、
前記制御装置は、前記回転数が増加する場合前記補償波形のリフト量を増加させる、又は前記回転数が減少する場合前記補償波形のリフト量を減少させる補正を行う請求項1に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【請求項3】
前記内燃機関の特性が内燃機関の負荷トルクであり、
前記制御装置は、前記負荷トルクが増加する場合前記補償波形のリフト幅を増加させる、又は前記負荷トルクが減少する場合前記補償波形のリフト幅を減少させる補正を行う請求項1又は2に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【請求項4】
前記制御装置は、補正された前記補償目標リフト波形で前記弁駆動ピストンを駆動して実応答波形を取得し、補正された前記補償目標リフト波形と前記実応答波形との差が目標誤差に到達しない場合には、補正された前記補償目標リフト波形を前記補償波形でさらに補正する請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の動弁試験装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−2338(P2013−2338A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133442(P2011−133442)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】
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