説明

内燃機関の吸気流制御装置

【課題】燃料付着の抑制と燃料効率の向上とを両立させることができる内燃機関の吸気流制御装置を提供する。
【解決手段】吸気通路10に燃料の噴霧方向を変更可能とした燃料噴射手段30、40を備えている内燃機関1Aの吸気流制御装置であって、前記燃料噴射手段が燃料噴射する位置より上流で、弁体26を開閉制御して前記吸気通路内を流れる吸気流ARを調整する吸気流制御手段25と、前記弁体の開度に応じて前記燃料噴射手段を制御して、燃料の噴霧方向が前記吸気流制御手段で調整された吸気流に沿う向きとなるように変更し、前記吸気流を強化する制御手段6Aとを、更に備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸気流制御装置に関する。より詳細には、吸気通路内に吸気流制御弁を備えている内燃機関の吸気流制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気通路に燃料噴射弁(インジェクタ)を配置して混合気を燃焼室に供給し、これを燃焼させることによって駆動力を得る内燃機関は従来から広く知られている。そして、1つの吸気通路の途中に1つの燃料噴射弁を配備するのが一般的であるが、例えば特許文献1では複数のインジェクタを配備した燃料噴射装置について提案している。この燃料噴射装置は各インジェクタの燃料噴射軸線が互いに交差するように配設され、吸気の流速に応じて各インジェクタからの燃料噴射量の比率を変化させるものである。これにより噴射された燃料同士を衝突させて燃料噴霧の方向を吸気弁の傘部に指向させて、吸気通路壁面への燃料付着を低減させている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−314413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記内燃機関については、従来、種々、多数の改善提案がなされており、燃焼室内での燃焼効率や出力の向上を図る技術などが特に多く検討されている。例えば燃焼室内にタンブル(縦渦流)或いはスワール(横渦流)などと称される渦流を形成せるため、吸気通路内に吸気流制御弁を配備する構造が提案されていた。ところが、上記特許文献1は、噴射された燃料同士を衝突させて壁面への燃料付着を抑制することを目的とした技術を単に提案するだけであるので、燃料噴射した方向によっては吸気流の障害となり吸気流を乱して燃焼効率や出力を低減させてしまうことが懸念される。
【0005】
そこで、本発明の目的は、燃料付着の抑制と燃料効率の向上とを両立させることができる内燃機関の吸気流制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、吸気通路に燃料の噴霧方向を変更可能とした燃料噴射手段を備えている内燃機関の吸気流制御装置であって、前記燃料噴射手段が燃料噴射する位置より上流で、弁体を開閉制御して前記吸気通路内を流れる吸気流を調整する吸気流制御手段と、前記弁体の開度に応じて前記燃料噴射手段を制御して、燃料の噴霧方向が前記吸気流制御手段で調整された吸気流に沿う向きとなるように変更し、前記吸気流を強化する制御手段とを、更に備えていることを特徴とする内燃機関の吸気流制御装置によって達成できる。
【0007】
本発明によると、制御手段が弁体の開度に応じて燃料噴射手段を制御し、燃料の噴霧方向が吸気流制御手段で調整された吸気流に沿う向きとなるように変更して吸気流を強化する。よって、内燃機関の燃料効率や出力の向上を図ることができる。そして、このように吸気流に沿うように燃料噴霧を行うと噴霧した燃料が吸気流に乗って下流にスムーズに流れるので周辺部への付着も合せて抑制できる。
【0008】
また、前記燃料噴射手段は燃料の噴霧方向が互いに異なるように搭載した複数の燃料噴射弁を含み、前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記複数の燃料噴射弁からいずれかを選択して燃料を噴射させる構成であってもよい。
【0009】
また、前記燃料噴射手段は燃料の噴霧方向が互いに異なるように搭載した複数の燃料噴射弁を含み、前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記複数の燃料噴射弁の燃料噴射割合を変更して燃料を噴射させる構成であってもよい。
【0010】
またさらに、前記燃料噴射手段は、単独の燃料噴射弁に設けた燃料の噴霧方向を可変とする噴射方向変更構造を含み、前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記噴射方向変更構造を制御して燃料を噴射させる構成であってもよい。
【0011】
そして、前記燃料噴射方向変更構造には、噴射向きが異なる複数種の噴孔を有する燃料噴射弁のノズルボディ構造、又はハウジングの搭載角度を変更する燃料噴射弁の回動構造を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料付着の抑制と燃料効率の向上とを両立させることができる内燃機関の吸気流制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る好ましい形態を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Aの概略を模式的に示した図である。内燃機関1Aは、従来の内燃機関と同様に、シリンダ2内にピストン3が上下動自在に配置されている。ピストン3の上方には燃焼室4が形成されている。この燃焼室4に臨むように点火プラグ5が配備されている。さらに、燃焼室4には吸気を供給する吸気通路としての吸気ポート10及び発生した排気ガスを排出するための排気ポート20がそれぞれ接続されている。そして、吸気ポート10の燃焼室4側の開口部には吸気弁11、また排気ポート20には排気弁21がそれぞれ配備されている。なお、吸気通路には吸気ポート10の上流に接続されるインテークマニホールドや吸気ダクトなども含まれる。そして、吸気通路の途中にはエアクリーナ、エアフロメータ、スロットルバルブなどが適宜に配置されているが、ここではこれらの図示を省略している。
【0015】
この内燃機関1Aの吸気ポート10内には、燃焼室4内での燃焼を促進するタンブル流TSを生成させための吸気流制御手段としてタンブル流制御弁25が配設されている。このタンブル流制御弁25は後述するECU6Aの制御の下で、吸気ポート10内を流れる吸気流ARを調整して燃焼室4内にタンブル流TSを生成させる。より具体的には、弁体26を立ち上り姿勢にすることにより、吸気ポート10内で吸気流ARを片側(図1では内壁上側)に片寄って流れる偏流を形成する。この偏流を燃焼室4に流し込むことによりタンブル流TSを形成して、混合気の均質燃焼を促進することができる。これにより、内燃機関1Aは燃焼効率や出力を向上させる。上記偏流は弁体26の立ち上り度合(吸気ポートの開度)で変更でき、これに応じて燃焼室4に形成するりタンブル流TSも調整できる。
【0016】
タンブル流制御弁25は、上記のように吸気ポート内を開閉する板状の弁体26を有している。この弁体26は吸気ポート10の内壁下側に設定した支軸27を中心に回動可能である。支軸27にはアクチュエータ28の駆動力が接続されおり、アクチュエータ28により弁体26が開閉される。アクチュエータ28は、後述するECU6Aにより制御されている。
【0017】
図1で例示する弁体26は、吸気ポート10内の流路面積(横断面積)を最も開いた状態(弁体26が下壁面上に寝ている状態)から反時計方向へ回動されて回動角度θが変化する。この回動角度θを大きく設定して弁体26が立ち上がった姿勢になると、吸気ポート内が最も絞られた状態となり、燃焼室4内に相対的に強いタンブル流TSを形成できる。なお、弁体26の「開度」と言う場合、吸気ポート10内の流路面積の大小を考慮したもので、弁体26を寝かせたときが開度が大で、流路面積を大きく確保した場合である。よって、上記回動角度θと「開度」とは、大小が逆の関係となる。すなわち、弁体26の回動角度θが大きい場合、吸気ポート10内の流路面積が絞られるので開度は小となる。
【0018】
つぎに、吸気ポート10に設けられている燃料噴射の構成について説明する。一般に、内燃機関は吸気ポートの所定位置に燃料噴射弁(インジェクタ)を備えている。そして、インジェクタは通常、一定の姿勢で搭載(設置)されている。よって、インジェクタからの燃料噴霧の方向は、一般に一定であって、変更できない。しかし、本実施例装置のようにタンブル流制御弁25を採用した構造の場合、弁体26の開度によって吸気ポート内を流れる吸気流ARの状態が変化する。前述したように、燃焼室4内にタンブル流TSを形成するときには、弁体26が立ち姿勢となり上側に片寄った偏流が形成される。さらに、弁体26の回動角度θにより吸気流ARの向きが変化する。
【0019】
このように吸気流ARの方向が変化するのに対して、一般に燃料噴霧の方向は一定である。よって、弁体26の開度が変更されたときに、吸気流ARの方向と燃料噴霧の方向とが不一致となる(交差する)状態が頻繁に発生することになる。そして、燃料噴霧方向と吸気流方向とが交差すると、燃焼室4内での燃焼向上のために形成しているタンブル流が減衰されてしまう。この点について図2を参照して説明する。
【0020】
図2は、吸気ポートに配置したタンブル流制御弁の弁体の回動角度とインジェクタの噴霧方向との関係を説明するための模式図である。なお、ここでの説明理解を容易とするため、この図2では、図1で示している構成部分と対応する部位には同じ符号を用いている。
【0021】
図2(A)は強いタンブル流を形成するときの状態を模式的に示している。このとき、タンブル流制御弁の弁体26は回動角度θ1が約90度で立ち上がった姿勢となるその結果、吸気ポート10内の流路面積が小さく絞られて、吸気流AR−1は上壁下面に沿う流れとなる。この場合、インジェクタIN−1からの燃料噴霧の方向FE−1を、吸気ポート10の下面に沿うようにすれば、発生させた吸気流AR−1を強化できる。よって、この場合のインジェクタIN−1の搭載角度A1は、吸気ポート10上壁に沿うように相対的に小さい角度とするのが好ましいことになる。
【0022】
上記に対して、図2(B)は中程度のタンブル流を形成するときの状態を模式的に示している。このときには、タンブル流制御弁25の弁体26は回動角度θ2であり、(A)の場合と比較すると回動角度が小さくなり幾分か寝た姿勢となる。ここでは吸気ポート10内の流路は半分程度までに広げられて(開度が大きくされて)、吸気流AR−2は中央より上側半分に片寄った流れとなる。この場合はインジェクタIN−2の搭載角度A2は、(A)の搭載角度A1の場合よりも大きく設定して、燃料噴霧の方向FE−2が吸気流AR−2に沿うように調整するのが好ましいことになる。
【0023】
ところが、従来にあっては、インジェクタの搭載角度が一定であるので図2で説明したような要求を満たす構成を備えた吸気流制御装置は存在していない。このような要求を満たすような新規な構成を具備するのが本実施例装置である。
【0024】
なお、先に指摘した特許文献1の燃料噴射装置は、2つのインジェクタから燃料噴霧を行うことで噴霧同士を衝突させて、燃料の噴霧量比率で噴霧方向を変化させる。これにより衝突後の噴霧方向を吸気弁の傘部に指向させて、周辺部への燃料付着低減を図っている。これに対して、本実施装置はタンブル流制御弁で調整された吸気流ARの流れに沿うように、インジェクタから燃料を噴霧することで吸気流ARを強化して燃焼室内での燃焼促進を図るものである。また、吸気流ARに沿うように燃料噴霧を行うことで、噴霧した燃料を吸気流ARに乗せて下流にスムーズに流して周辺部への付着も合せて抑制できる。このような観点から実施例1の内燃機関1Aは構成されている。
【0025】
図1を再度、参照して内燃機関1Aが備えている燃料噴射に係る構成を説明する。吸気ポート10の上部に、搭載角度が異なる2個のインジェクタが設置してある。第1のインジェクタ30は水平な線に対して搭載角度αであり、燃料を噴射する噴孔31はタンブル流制御弁25より下流側に設定されている。第2のインジェクタ40は、第1のインジェクタ30より下流側に設置されている。この第2のインジェクタ40は搭載角度βに設定され、噴孔41は噴孔31より下流側に設定されている。
【0026】
第1のインジェクタ30の搭載角度αは、第2のインジェクタ40の搭載角度βより角度が小さく設定してある。すなわち、第1のインジェクタ30の方が、第2のインジェクタ40より寝かせた姿勢に設定されている。例えば、この第1のインジェクタ30は、弁体26の回動角度θが60度より大きくされ相対的に強いタンブル流を形成する状態のとき(弁体26の開度が小さいとき)に選択されて、燃料を噴射させる。一方、第2のインジェクタ40は、弁体26の回動角度θが60度以下であり中低程度までのタンブル流を形成する状態のとき及びタンブル流を形成しないときに選択されて、燃料を噴射させる。内燃機関1Aでは予め定めた基準角度θpを境界として、第1のインジェクタ30又は第2のインジェクタ40のいずれからの燃料噴射が実施されることになる。
【0027】
内燃機関1はECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)6Aによって全体的に制御されている。ECU6Aは、図示しないCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力回路などを有して構成されている。このECU6Aにはクランク角センサ、シリンダ温度(水温)センサ、アクセルセンサなど各種のセンサから出力が供給されている。ECU6Aは、これらの出力に基づいて点火プラグ5の点火タイミングや、吸気・排気弁11、21の駆動タイミングなどを適切に制御して内燃機関1を円滑に駆動される。そのためにROMにはCPUが実行する種々の処理が記述されたプログラムを格納されている。そして、本実施例の場合には、特にタンブル流制御弁25の弁体26の開度に応じて上記インジェクタ30、40を選択的に採用して適切な燃料噴射を実行し、燃焼室4内での効率的な燃焼制御を促進するプログラムが格納してある。すなわち、上記ECU6Aは弁体26の開度に応じて燃料噴射手段を制御する制御手段として機能する。本実施例の場合、ECU6Aは燃料噴霧方向がタンブル流制御弁25で調整された吸気流ARに沿う向きとなるように、インジェクタ30、40を選択的に採用して吸気流を強化する。
【0028】
図3は、ECU6Aによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。ECU6Aは、例えば内燃機関のイグニッションスイッチがオンされたときにこのルーチンを起動する。ECU6Aは、弁体26の回動角度θが予め設定した基準角度θp(例えば60度)を超えているか否かを確認する(S101)。このように判断に用いる基準角度θpはROMに記憶され、必要なときに呼び出し可能にされている。また、前述したように、ECU6Aには複数のセンサの出力が供給されて内燃機関1Aの駆動を全体的に制御している。この制御で、ECU6Aはセンサの出力に基づき必要に応じて燃焼室4にタンブル流TSを形成させる。その際に、ECU6Aはアクチュエータ28に駆動信号を供給して弁体26の開度を変更させる。よって、ECU6A自身で、弁体26の回動角度θを確認できる。
【0029】
ECU6Aは、上記ステップS101で回動角度θが基準角度θpを越える場合には吸気ポート10内の開度が小さく設定され、強いタンブル流を形成するため吸気流がポート内の壁面に沿って流れている状況である。よって、ECU6Aは搭載角度が小さい第1のインジェクタ30を選択して燃料噴霧を実行する(S102)。
【0030】
一方、回動角度θが基準角度θp以下である場合には吸気ポート10内の流路面積が一定以上に確保されている。この場合にはタンブル流を形成しない、或いは相対的に弱いタンブル流を形成するように吸気流が調整されている。よって、ECU6Aは搭載角度が大きい第2のインジェクタ40を選択して燃料噴霧を実行する(S103)。
【0031】
以上説明したように、内燃機関1AのECU6Aは、タンブル流制御弁25の弁体26の開度に応じて、燃料を噴射させるインジェクタ30、40を変更する。このとき、ECU6Aはタンブル流制御弁25によって調整された吸気流ARの流れに噴霧方向が近いインジェクタを選択することで吸気流を強化(アシスト)する。よって、この内燃機関1Aは、燃焼室4内に形成するタンブル流を強めて燃焼効率や出力を向上させることができる。
【0032】
また、吸気流ARに沿うように噴射される燃料は、その流れに乗って一緒に流れる状態となる。その結果、インジェクタ30、40から噴射された燃料は、周辺に飛び散ることを抑制して燃焼室4へ流入させることができる。よって、噴射された燃料の周辺部への飛散、付着を抑制できるという効果も期待できる。
【実施例2】
【0033】
更に、図4から図7を参照して、本発明の実施例2について説明する。図4は、実施例2に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Bの概略を模式的に示した図である。この図2において実施例1の内燃機関1Aと同じ部位に同一の符号を付すことで、重複する説明を省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0034】
前述した実施例1では、ECU6Aが弁体26の回動角度θが基準角度θp以上であるか否かによって、第1のインジェクタ30又は第2のインジェクタ40のいずれかに一方から燃料を噴射していた。これに対して、本実施例2ではECU6Bが第1のインジェクタ30及び第2のインジェクタ40から同時に燃料噴射することが可能とされている。このように2つのインジェクタから同時に燃料噴射すると、2つ噴霧方向が合流されて1つの合流噴霧方向Vとなる。合流噴霧方向Vは、第1のインジェクタ30と第2のインジェクタ40との噴射割合(合流させる比率)を調整することで変更できるので、そのときにタンブル流制御弁25で調整されている吸気流の向きと一致するように制御できる。よって、実施例2によれば、より確実にタンブル流を強化できる。なお、合流噴霧方向Vは、搭載角度の場合と同様に水平線HLを基準に設定してある。
【0035】
図5は、上記合流噴霧方向Vの範囲について示した図である。この図で示すように、合流噴霧方向Vは第1のインジェクタ30の搭載角αと第2のインジェクタ40の搭載角βとの間の角度範囲となる。第1のインジェクタ30と第2のインジェクタ40との噴射割合(0〜100%)によって、この角度範囲内で合流噴霧方向Vを任意に設定できる。なお、図4では第2のインジェクタ40の搭載角βが、実施例1の図1の場合よりも大きく設定してある。これにより合流噴霧方向Vをより広範囲に設定できるようにしている。
【0036】
図6は、弁体26の回動角度θと目標燃料割合との関係例を示した図である。この図6の縦軸は、燃料噴射の合計量を100%としてインジェクタ間の噴射割合(燃料噴射率)を示している。この実施例2の場合には合流噴霧方向Vを複数段に変更できる。すなわち、実施例1の場合と比較して、弁体26の開度変化により細やかに対応して、吸気流に沿う向きとなるように燃料の噴霧方向を変更できる。よって、図6の横軸には実施例1では1つであった基準角度が複数(ここでは4個)設定されている。
【0037】
横軸は、弁体26の回動角度θが大きくなるに従って、第1のインジェクタ30の噴射率が増えるような設定となっている。最初の第1の基準角度θp0はタンブル流を形成しない、或いは弱いタンブル流が形成されている場合である。この場合は第1のインジェクタ30と第2のインジェクタ40の噴射率を50%ずつとしている。これに対して、最後の第4の基準角度θpEは回動角度θが最大で最も強いタンブル流が形成されている場合である。この場合には第1のインジェクタ30だけから燃料を噴射させる。そして、上記第1の基準角度θp0と第4の基準角度θpEとの間に、第2の基準角度θp1、第3の基準角度θp2を設定して、より細やかに噴霧方向を変更できるようにしてある。図6で示すような基準角度のデータもROMに記憶されており、ECU6Bが適宜に読み出して使用できるようにされている。
【0038】
なお、実施例2の場合には、前述のように第2のインジェクタ40の搭載角度βが実施例1の場合より大きめに設定されている。よって、第2のインジェクタ40だけから燃料を噴射すると、吸気ポート10の内壁面に燃料が吹付けられてしまうので好ましくない。そこで、回動角度θが第1の基準角度θp0以下の場合には、第1のインジェクタ30の噴射割合を少なくとも50%程度として、合流噴霧方向Vが燃焼室に向くように設計してある。
【0039】
図7は、ECU6Bによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。このECU6Bの場合も、例えば内燃機関のイグニッションスイッチがオンされたときに本ルーチンを起動する。ECU6Bは、弁体26の回動角度θが予め設定した第1の基準角度θp0を超えているか否かを確認する(S201)。ECU6Bは、このステップS201で回動角度θが第1の基準角度θp0未満である場合には吸気ポート10内の開度が相当に大きく設定された状況にあると判断する。よって、ECU6Bは第1の基準角度θp0未満に応じた目標燃料割合(第1のインジェクタ30が50%及び第2のインジェクタ40が50%)を設定して燃料噴霧を実行する(S202)。
【0040】
一方、回動角度θが第1の基準角度θp0以上であった場合(S201)、更に回動角度θが第2の基準角度θp1を超えているか否かを確認する(S203)。このステップS203で回動角度θが第2の基準角度θp1未満である場合には吸気ポート10内の開度が中程度に設定された状況にあると判断する。よって、ECU6Bは第2の基準角度θp1未満に応じた目標燃料割合(第1のインジェクタ30が55%及び第2のインジェクタ40が45%)を設定して燃料噴霧を実行する(S204)。
【0041】
以下同様に、ECU6Bは第3の基準角度θp2を用いて回動角度θの大小を判断する(S205)。回動角度θが第3の基準角度θp2未満であるである場合には目標燃料割合(第1のインジェクタ30が75%及び第2のインジェクタ40が25%)を設定する(S206)。回動角度が第3の基準角度θp2以上である場合には、ECU6Bは最大の基準角度θpEにほぼ近いと判断して(S207)、目標燃料割合(第1のインジェクタ30が100%及び第2のインジェクタ40が0%)を設定した燃料噴霧を実行して(S208)、本ルーチンによる処理を完了する。
【0042】
以上で説明したように、実施例2に係る内燃機関1BのECU6Bの場合は、弁体26の開度に応じてインジェクタ30、40の噴射割合を変えることにより合成噴霧方向Vを変更して燃料を噴射させる。よって、噴霧方向が吸気流ARの流れに沿うように、より確実に調整して吸気流を強化させることができる。従って、実施例2の内燃機関1Bは、燃焼室4内に形成するタンブル流をより確実に強めて燃焼効率や出力を向上させることができる。
【実施例3】
【0043】
更に、図8から図11を参照して、本発明の実施例3について説明する。図8は、実施例3に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Cの概略を模式的に示した図である。この実施例3についても重複する説明を省略して実施例1、2と異なる部分を中心に説明する。
【0044】
前述した実施例1、2はインジェクタを複数(上記例では2個)備えていた。そして、燃料噴射させるインジェクタからを切替えること、或いは、同時に燃料噴射するインジェクタの噴射割合を適宜に調整することで、燃料の噴霧方向がタンブル流制御弁25で調整された吸気流に沿う向きとなるようにしていた。すなわち、実施例1、2では燃料噴射手段として、燃料の噴霧方向が互いに異なる複数のインジェクタ(燃料噴射弁)が採用されていた。しかし、本発明で採用可能な燃料噴射手段の形態は、このように複数のインジェクタを備える場合に限るものではない。以下で説明する実施例3は、単独のインジェクタを採用して実施例1、2と同様の効果が得られるように構成した内燃機関の吸気流制御装置である。
【0045】
図8で、吸気ポート10には1つのインジェクタ50が配備されている。このインジェクタ50も前述した実施例1、2と同様に、ECU6Cによって制御されている。インジェクタ50は、ここでは図示していない噴射方向変更構造によって燃料噴霧方向を変更できるように設計されている。ECU6Cは、インジェクタ50の燃料噴射のタイミングと共に、噴射方向変更構造も同時に制御して噴射方向を適切に変更する。これにより、実施例1、2の場合と同様に噴射した燃料により吸気流を強化する。
【0046】
図9は、弁体26の回動角度θと図8で示す水平基準でのインジェクタ50の燃料噴霧角γとの関係について示している図である。回動角度θが大きいほど、すなわち開度が小さいほど噴霧角γが小さくなるように設定してある。ECU6CはROM内に図9で示すようなデータを記憶しており、回動角度θに応じてインジェクタ50の噴霧角γを変更して吸気流を強化する。
【0047】
図10は、インジェクタ50の噴射方向変更構造として採用できる構成の一例を示した図である。(A)はインジェクタ50のノズルボディに形成する噴孔により噴霧角γを変更する場合について示している。このインジェクタ50のノズルボディには、異なる噴霧角γ1、γ2の噴孔51a、51bが形成してある。また、ノズルボディ内に配備したニードル弁52はインナニードル52aとアウタニードル52bとで形成されている。これらは、アクチュエータ53で駆動されることで噴孔51a、51bのいずれかを開いて、燃料を噴射する。アクチュエータ53はECU6Cによって制御されている。よって、単独のインジェクタ50で、弁体26の開度に応じて噴射方向を変更して燃料の噴射で吸気流を強化できる。
【0048】
また、(B)はインジェクタ50に回動構造を付加して搭載角度δを変更する場合について示している。このインジェクタ50のハウジング56は支点57を中心に回動可能に設定されており、アクチュエータ55により回動されて搭載角度δがδ1からδ2の範囲で変更できる。アクチュエータ55は、ECU6によって制御されている。よって、(B)の場合も単独のインジェクタ50で弁体26の開度に応じて噴射方向を変更して燃料噴射で吸気流を強化できる。
【0049】
なお、図10(B)の場合にはアクチュエータ55を駆動して搭載角度γをγ1からγ2の範囲に設定できるので、実施例2の場合と同様に実質的に燃料噴射方向を複数段に変更できる。また、図10(A)の場合、噴射された燃料噴霧が互いに干渉しないように各噴孔を設定したときには、噴孔をいずれかに切り替えての燃料噴射となる。しかし、互いに干渉するように噴孔の向きを設定してもよい。この場合には、インナニードル52aとアウタニードル52bのリフト量を調整して同時に噴射すると合成噴霧を実施できる。よって、この場合には実施例2の場合と同様に燃料噴霧方向を複数段に変更できる。
【0050】
図11は、噴射方向変更構造として図10(A)で示す噴霧角が異なる2個の噴孔を有するインジェクタのECU6Cによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。ECU6Cは、弁体26の回動角度θが予め設定した基準角度θp(例えば60度)を超えているか否かを確認する(S301)。このステップS301で回動角度θが基準角度θpを越える場合には、ECU6Cは噴霧角度が小さい第1の噴霧角度γ1の噴孔が開くように制御して燃料噴霧を実行する(S302)。一方、回動角度θが基準角度θp以下である場合、ECU6Cは噴霧角度が大きい第2の噴霧角度γ2の噴孔が開くように制御して燃料噴霧を実行する(S303)。
【0051】
以上で説明した、実施例3の場合は単独のインジェクタを配備して、実施例1或いは実施例2の場合と同様に噴霧方向が吸気流ARの流れに沿うように制御して吸気流を強化させることができる。
【0052】
なお、上記実施例では吸気流制御手段としてタンブル流制御弁25を採用して、燃焼室4内にタンブル流(縦の渦流)を形成する場合について説明した。しかし、これに限らず吸気流制御手段がスワール流(横の渦流)を形成するスワール流制御弁であってもよい。また、実施例1、2ではインジェクタ(燃料噴射弁)を2個配備した場合を例示しているが、もちろん3個以上としてもよい。
【0053】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Aの概略を模式的に示した図である。
【図2】吸気ポートに配置したタンブル流制御弁の弁体の回動角度とインジェクタの噴霧方向との関係を説明するための模式図であり、(A)は強いタンブル流を形成するときの状態を模式的に示し、(B)は中程度のタンブル流を形成するときの状態を模式的に示している。
【図3】ECUによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。
【図4】実施例2に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Bの概略を模式的に示した図である。
【図5】合流噴霧方向の範囲について示した図である。
【図6】弁体26の回動角度θと目標燃料割合との関係例を示した図である。
【図7】ECUによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。
【図8】実施例3に係る吸気流制御装置が適用されている内燃機関1Cの概略を模式的に示した図である。
【図9】弁体の回動角度とインジェクタの燃料噴霧角との関係について示した図である。
【図10】インジェクタの噴射方向変更構造として採用できる構成の一例を示した図である。
【図11】図10(A)で示す噴霧角が異なる2個の噴孔を有するインジェクタのECUによって実行されるルーチンの一例を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
1(1A,1B,1C) 内燃機関
6(6A,6B,6C) ECU(制御手段)
10 吸気通路
20 燃料噴射系
25 タンブル流制御弁(吸気流制御手段)
26 弁体
30 第1のインジェクタ(燃料噴射弁)
40 第2のインジェクタ(燃料噴射弁)
AR 吸気流
TS タンブル流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に燃料の噴霧方向を変更可能とした燃料噴射手段を備えている内燃機関の吸気流制御装置であって、
前記燃料噴射手段が燃料噴射する位置より上流で、弁体を開閉制御して前記吸気通路内を流れる吸気流を調整する吸気流制御手段と、
前記弁体の開度に応じて前記燃料噴射手段を制御して、燃料の噴霧方向が前記吸気流制御手段で調整された吸気流に沿う向きとなるように変更し、前記吸気流を強化する制御手段とを、更に備えていることを特徴とする内燃機関の吸気流制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射手段は燃料の噴霧方向が互いに異なるように搭載した複数の燃料噴射弁を含み、
前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記複数の燃料噴射弁からいずれかを選択して燃料を噴射させる、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸気流制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射手段は燃料の噴霧方向が互いに異なるように搭載した複数の燃料噴射弁を含み、
前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記複数の燃料噴射弁の燃料噴射割合を変更して燃料を噴射させる、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸気流制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射手段は、単独の燃料噴射弁に設けた燃料の噴霧方向を可変とする噴射方向変更構造を含み、
前記制御手段は、前記吸気流制御手段の前記弁体の開度に応じて、前記噴射方向変更構造を制御して燃料を噴射させる、ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸気流制御装置。
【請求項5】
前記燃料噴射方向変更構造には、噴射向きが異なる複数種の噴孔を有する燃料噴射弁のノズルボディ構造、又はハウジングの搭載角度を変更する燃料噴射弁の回動構造を含む、ことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の吸気流制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−163824(P2008−163824A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353861(P2006−353861)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】