説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】脱離HCの酸化のための空燃比のリーン制御を負荷に応じて変化させることにより、リーン制御中のNOxの排出を極力低減する。
【解決手段】排気通路3に配置した三元触媒9と、その下流に配置したHCの吸着機能と酸化機能をもつHC処理装置10とを備える。HC処理装置10でのHCの脱離を判定したら、HCの脱離中は空燃比をリーン制御する。このとき機関負荷を検出し、負荷に応じてHC脱離時の空燃比のリーン度合いを補正する。これにより、脱離HCの酸化機能を維持する一方で、三元触媒でのリーン制御中のNOxの還元機能を維持し、NOxの排出量を減らす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の排気ガス浄化装置に関する。
【0002】
【従来の技術】内燃機関の排気通路に三元触媒と共にその下流にHC吸着機能を有する触媒を介装したものが知られている(例えば特開平7−144119号参照)。これは機関の始動直後など、三元触媒が活性温度に達していない冷間運転時に生じるHCを一次的にHC吸着触媒に吸着し、外部への排出を抑制するものである。
【0003】このHC吸着触媒は、所定の温度以上では、吸着していたHCを脱離してしまうので、この脱離温度に達すると、空燃比を一次的にリーン化し、酸素雰囲気のもとで脱離したHCを触媒内で酸化するようにしている。
【0004】この場合、空燃比のリーン化を脱離したHC量に対応して正確に制御するために、特開平6−81637号にもあるが、HC吸着触媒の下流側に空燃比センサを設置し、リーン度合いを目標値にフィードバック制御したり、あるいはHCの脱離開始までの燃料供給量を積算して吸着量を推定し、これに対応してリーン度合いを制御したりしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、HC吸着触媒からHCが脱離するときに、空燃比をリーン化すると、この間に排気中に含まれるNOxについては、上流の三元触媒での還元作用が弱くなるため、NOxの多くがそのまま排出されてしまう。
【0006】とくにリーン制御中に機関が高負荷状態になると、エンジンから排出されるNOxが急増するため、NOx排出量の増大が問題となる。
【0007】本発明は、このような問題を解決するために提案されたもので、脱離HCの酸化のための空燃比のリーン制御を負荷に応じて変化させることにより、NOxの排出を極力低減することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、排気通路に配置した三元触媒と、その下流に配置したHCの吸着機能と酸化機能をもつHC処理装置と、HC処理装置でのHCの脱離を判定する手段と、HCの脱離判定中は空燃比をリーンに制御する手段とを備えた内燃機関において、機関負荷を検出する手段と、負荷に応じてHC脱離時の前記空燃比のリーン度合いを補正する手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】第2の発明は、第1の発明において、前記空燃比の補正手段は、負荷が大きくなるほどリーン度合いを小さくする。
【0010】第3の発明は、第1の発明において、前記空燃比の補正手段は、アイドル運転時にリーン度合いを大きくする。
【0011】第4の発明は、第1の発明において、前記空燃比の補正手段は、減速時にリーン度合いを大きくする。
【0012】第5の発明は、第1〜第4の発明において、前記空燃比の補正手段は、HCの脱離開始からの時間が長くほるほどリーン度合いを小さくする。
【0013】第6の発明は、第1から第5の発明において、前記空燃比の補正手段は、リーン制御中に所定の高負荷に移行したら一時的に空燃比をリッチ化する。
【0014】
【発明の作用、効果】本発明によれば、HC処理装置からのHCの脱離時に空燃比をリーン制御するにあたり、そのときの負荷に応じてリーン度合いを補正している。このため、HC処理装置での脱離HCの酸化機能は維持する一方で、その上流における三元触媒でのNOx還元機能が低下するのを防いでいる。したがって排気中のNOxが増加する負荷の大きい運転時など、リーン度合いを減らすことにより、NOx還元率を高め、NOxの排出量の増大を抑制できる。
【0015】第3、第4の発明では、負荷の小さいアイドル時や減速時など、もともとNOxの少ない運転時には、リーン度合いを大きくして、HC処理装置での脱離HCの酸化作用の確実性を高められる。
【0016】第5の発明では、HC脱離開始直後に脱離量が多く、時間の経過とともに徐々に脱離量が少なくなるHC処理装置のHC脱離特性に適合した過不足のない量の酸素をHC処理装置に供給できる。
【0017】第6の発明では、空燃比のリーン制御中に高負荷に移行したときは、一時的にリッチ空燃比とすることにより、それまでのリーン制御によって三元触媒にストレージされていた酸素を速やかに放出させ、三元触媒を三元点近傍に戻すことができ、以降の高負荷におけるNOx還元性能を確保することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の最良の実施形態を図面にしたがって説明する。
【0019】図1において、1は内燃機関、2はその吸気通路、3は排気通路である。4は吸気通路2の途中に設けたエアフローメータ、5と6はスロットル弁と、その開度を検出するスロットル開度センサである。7は機関吸気ポートに燃料を噴射供給する燃料噴射弁、8は点火栓である。
【0020】9は排気通路3に介装した三元触媒、10はその下流に配置され、排気低温時には排気中のHCを吸着すると共に、排気温度の上昇により吸着されたHCの脱離時にはこれを酸化する触媒機能を併有するHC処理装置である。11は三元触媒9の上流に配置された空燃比センサ、12はHC処理装置10の温度を検出する温度センサである。
【0021】13は前記エアフローメータ4からの吸入空気量信号、図示しない回転数センサからの機関回転数信号、空燃比センサ11からの排気空燃比信号、スロットル開度センサ6からのスロットル開度信号等にもとづいて、空燃比や点火時期を制御するコントローラである。
【0022】とくにこのコントローラ13は、HC処理装置10が吸着したHCの脱離時期を判定し、このときに空燃比を一時的にリーンに制御することでHCの酸化を行うにあたり、そのときの運転条件、すなわち負荷状態に応じてリーン度合いを補正(変化)させ、HCの浄化機能を保ちつつ、三元触媒9でのNOxの浄化率の悪化を抑制するようになっている。
【0023】この空燃比のリーン制御について、図2のフローチャートにしたがって、詳しく説明する。なお、このフローは所定の単位時間でもって繰り返される。
【0024】まず、ステップS1で機関のコールド状態にあるかどうかの判定を行う。このコールド状態とは、HC処理装置10がHCを吸着しうる状態にあるかどうかを判定するもので、もし処理装置の温度が十分に高く、HCが完全に脱離してしまっているならば、そのまま制御を終了する。
【0025】コールド状態のときは、ステップS2に進んで、HC処理装置10が吸着したHCの脱離開始状態にあるかどうか判定する。この脱離開始の判定は温度センサ12の出力に基づいて行われるが、これに限らず、例えば運転開始からの履歴等に基づいて触媒温度を推定し、判断することもできる。HCの脱離開始と判断されたときは、ステップS3で脱離が終了したかどうかを、例えば脱離開始後の経過時間等に基づいて判断する。HCの脱離が開始されてから終了するまでの時間は、脱離開始時のHCの吸着量、そのときの排気流量などによっても変化するので、これらに対応して判定される。
【0026】HCの脱離中であると判定されると、ステップS4に移行して、機関の負荷条件を推定(検出)する。負荷条件の推定は、機関回転数、車速、スロットル開度、アイドルスイッチのオンオフ、吸入空気量、エンジンブースト等のパラメータに基づいて推定される。
【0027】そして、ステップS5ではこの推定負荷に基づいて空燃比のリーン度合いを決定し、燃料噴射弁からの噴射量を制御する。空燃比は、そのときの負荷が大きくなるほど、つまりNOxが発生しやすい状態になるほどリーン度合いを小さくし、これによりHC処理装置での脱離HCの酸化処理を維持しつつ、その上流の三元触媒でのNOxの還元処理能力を高め、NOxの排出を抑制する。
【0028】また空燃比のリーン化は、NOxの発生が極めて少ないアイドル時などリーン度合いを最大にし、同じく減速時などの過渡運転時にもリーン度合いを大きくする。さらに、上記いずれの場合についても、脱離開始からの時間の経過に伴い徐々にリーン度合いを小さくしていくことで、脱離開始後の時間経過とともに徐々に脱離量が減少していく特性に適合させられる。
【0029】このようにして、HCの脱離中は空燃比のリーン度合いをそのときの負荷状態に応じて制御し、HCの酸化と共にNOxの低減を図る。
【0030】次に全体的な作用について説明する。
【0031】機関のコールド運転時など三元触媒9が活性化する前の状態にあっては、排気中のHCは触媒で酸化されないが、HC処理装置10で吸着され、外部への放出が防止される。
【0032】HC処理装置10では排気温度が上昇し、所定の温度に達すると、それまで吸着保持されていたHCが脱離を始める。この脱離したHCの排出を防ぐため、脱離開始が判定されると、コントローラ13により空燃比のリーン化制御が行われる。空燃比をリーンにすることで、排気中の酸素濃度が増し、脱離したHCをHC処理装置10の触媒機能で酸化処理することができる。
【0033】ただし、この空燃比のリーン化により、上流側の三元触媒9は、酸化還元作用のうち、還元作用の働きが弱まり、排気中のHC、COの酸化はできても、NOxの還元が不十分になる。
【0034】そこでコントローラ13は、HCの脱離中の負荷状態を判断し、負荷が大きいときほど空燃比のリーン化度合いを小さくする。排気中のNOx量は、機関負荷に依存して変動し、負荷の増大に応じて排出量も増える傾向がある。したがって、このような状態では、空燃比のリーン化度合いを小さくすると、三元触媒9でのNOx還元作用が強まり、NOxの浄化率の悪化を抑制できる。
【0035】ただしこの場合でも、空燃比自体はリーンであるので、HC処理装置10での脱離HCの酸化機能は維持され、HCの排出量も抑制される。
【0036】排気中のNOx量はエンジン負荷が小さいとき、例えばアイドル時や減速時などには非常に少なく、このようなときには三元触媒9での還元作用が弱くても問題はなく、したがってこの状態では、空燃比のリーン度合いを脱離HCの特性に合わせて大きくすることで、HCの酸化処理の確実性を高める。
【0037】なお、HCの脱離に対しての空燃比のリーン制御中に機関が高負荷に移行したら、空燃比を一時的に理論空燃比よりもリッチな状態すると、それまで三元触媒9にストレージされていた酸素が消費され、触媒中の酸素が減り、三元触媒内を三元点に戻すことができ、高負荷での良好なNOx還元特性を確保できる。
【0038】上記において、HC処理装置10としては、同一の触媒担体の上流側にゼオライト等のHC吸着剤を担持させ、下流側に触媒を担持させたり、あるいは互いに混合状態にして担持させたり、触媒担体の表層に触媒、深層にHC吸着剤を担持させたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す概略構成図。
【図2】空燃比のリーン制御の内容を示すフローチャート。
【符号の説明】
1 内燃機関
2 吸気通路
3 排気通路
9 三元触媒
10 HC処理装置
12 温度センサ
13 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】排気通路に配置した三元触媒と、その下流に配置したHCの吸着機能と酸化機能をもつHC処理装置と、HC処理装置でのHCの脱離を判定する手段と、HCの脱離判定中は空燃比をリーンに制御する手段とを備えた内燃機関において、機関負荷を検出する手段と、負荷に応じてHC脱離時の前記空燃比のリーン度合いを補正する手段とを備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】前記空燃比の補正手段は、負荷が大きくなるほどリーン度合いを小さくする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】前記空燃比の補正手段は、アイドル運転時にリーン度合いを大きくする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】前記空燃比の補正手段は、減速時にリーン度合いを大きくする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】前記空燃比の補正手段は、HCの脱離開始からの経過時間が長くなるほどリーン度合いを小さくする請求項1〜4のいずれか一つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】前記空燃比の補正手段は、リーン制御中に所定の高負荷に移行したら一時的に空燃比をリッチ化する請求項1〜5のいずれか一つに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−2132(P2000−2132A)
【公開日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−166884
【出願日】平成10年6月15日(1998.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】