説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】粉末尿素を用いてNOXを良好に還元する。
【解決手段】機関排気通路内に粉末尿素供給弁15が配置され、粉末尿素供給弁15とNOX選択還元触媒14との間にウォールフロー型の水吸着触媒13が配置される。この水吸着触媒13には排気ガスの流通する触媒表面上に、排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は侵入可能である径の細孔が無数に形成される。粉末尿素は排気ガス中に含まれる水分子および水吸着触媒13に吸着されている水分子により加水分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機関排気通路内にNOX選択還元触媒を配置し、NOX選択還元触媒上流の機関排気通路内に粉末尿素供給弁を配置し、粉末尿素供給弁とNOX選択還元触媒との間にパティキュレートフィルタや加水分解触媒からなる粉末尿素昇華促進手段を配置し、粉末尿素供給弁から供給された粉末尿素を粉末尿素昇華促進手段により気体尿素に昇華させ、気体尿素から発生したアンモニアによりNOX選択還元触媒において排気ガス中に含まれるNOXを選択的に還元するようにした内燃機関が公知である(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
無論、NOX選択還元触媒に尿素水を供給するようにしても尿素水から発生するアンモニアによってNOXを浄化することができる。しかしながら同じ量のアンモニアを発生させるのに必要な粉末尿素の容積は尿素水の容積よりもかなり小さく、斯くして車両への搭載性からみると粉末尿素を用いることは極めて好ましいと言える。また、粉末尿素は尿素水のように凍結することもないので尿素水を用いた場合のように凍結防止策を施こす必要もなく、従ってこの意味からも粉末尿素を用いることは好ましいと言える。従って上述の内燃機関ではNOXを還元するために粉末尿素が用いられている。
【特許文献1】特開2002−155733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上述の内燃機関では粉末尿素昇華促進手段を用いて排気ガス温により粉末尿素を気体尿素に昇華させるようにしている。しかしながら粉末尿素の昇華温度は150℃から160℃とかなり高く、従って排気ガスが低いときには粉末尿素を十分に昇華させることができず、斯くしてアンモニアを十分に発生させることができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するために本発明によれば、機関排気通路内にNOX選択還元触媒を配置し、NOX選択還元触媒上流の機関排気通路内に粉末尿素供給弁を配置し、粉末尿素供給弁からの供給粉末尿素から発生したアンモニアによりNOX選択還元触媒において排気ガス中に含まれるNOXを選択的に還元するようにした内燃機関の排気浄化装置において、粉末尿素供給弁とNOX選択還元触媒との間にウォールフロー型の水吸着触媒を配置し、この水吸着触媒は排気ガスの流通する触媒表面上に、排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は侵入可能である径の細孔が無数に形成されており、排気ガス中に含まれる水分子は水吸着触媒の細孔内に吸着され、粉末尿素供給弁から供給された粉末尿素は排気ガス中に含まれる水分子および水吸着触媒に吸着されている水分子により加水分解されてアンモニアが生成せしめられる。
【発明の効果】
【0006】
排気ガス中に含まれる水分子に加え水吸着触媒に吸着されている水分子を用いて粉末尿素を加水分解することによってNOXの還元に必要な量の粉末尿素を加水分解することができ、NOXの還元に必要な量のアンモニアを生成することができる。粉末尿素の加水分解温度は90℃程度であり、従って排気ガス温が低いときでもアンモニアを十分に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドを夫々示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口は吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0008】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口は排気管12を介して水吸着触媒13の入口に連結される。水吸着触媒13の下流には例えばFeゼオライトからなるNOX選択還元触媒14が配置される。水吸着触媒13上流の排気管12内には粉末尿素供給弁15が配置されており、図1においてGで示されるように粉末尿素供給弁15からは粉末尿素が水吸着触媒13の上流側端面全体に向けて噴射される。
【0009】
粉末尿素供給弁15は粉末尿素供給管16を介して粉末尿素タンク17に連結され、粉末尿素タンク17内に貯留されている粉末尿素が粉末尿素供給管16を介して粉末尿素供給弁15に送り込まれる。粉末尿素タンク17内の粉末尿素を粉末尿素供給弁15に送り込んで粉末尿素供給弁15から噴射させるために例えば高圧ガスが使用されるがここでは粉末尿素の噴射方法に関する詳細な説明を省略する。
【0010】
一方、排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路18を介して互いに連結され、EGR通路18内には電子制御式EGR制御弁19が配置される。また、EGR通路18周りにはEGR通路18内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置20が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置20内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管21を介してコモンレール22に連結され、このコモンレール22は電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ23を介して燃料タンク24に連結される。燃料タンク24内に貯蔵されている燃料は燃料ポンプ23によってコモンレール22内に供給され、コモンレール22内に供給された燃料は各燃料供給管21を介して燃料噴射弁3に供給される。
【0011】
図2(A)および(B)は水吸着触媒13の構造を示している。なお、図2(A)は水吸着触媒13の正面図を示しており、図2(B)は水吸着触媒13の側面断面図を示している。図2(A)および(B)に示されるように水吸着触媒13はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路30,31を具備する。これら排気流通路は下流端が栓32により閉塞された排気ガス流入通路30と、上流端が栓33により閉塞された排気ガス流出通路31とにより構成される。なお、図2(A)においてハッチングを付した部分は栓33を示している。従って排気ガス流入通路30および排気ガス流出通路31は薄肉の隔壁34を介して交互に配置される。云い換えると排気ガス流入通路30および排気ガス流出通路31は各排気ガス流入通路30が4つの排気ガス流出通路31によって包囲され、各排気ガス流入通路31が4つの排気ガス流入通路30によって包囲されるように配置される。
【0012】
水吸着触媒13の基体は例えばコージライトのような多孔質材料から形成されており、従って排気ガス流入通路30内に流入した排気ガスは図2(B)において矢印で示されるように周囲の隔壁34内を通って隣接する排気ガス流出通路31内に流出する。即ち、水吸着触媒13はウォールフロー型の水吸着触媒からなる。このように水吸着触媒13をウォールフロー型にすると排気ガスは隔壁34を通り抜けるが粉末尿素供給弁15から噴射された粉末尿素は隔壁34を通り抜けることができず、これら粉末尿素は排気ガス流入通路30内に蓄積される。
【0013】
ところで本発明では粉末尿素供給弁15から噴射された粉末尿素を排気ガス中に含まれる水分により加水分解してアンモニアを発生させ(CO(NH22+H2O→CO2+2NH3)、発生したアンモニアをNOX選択還元触媒15に吸着させ、NOX選択還元触媒15に吸着したアンモニアによって排気ガス中に含まれるNOXを還元するようにしている。従って本発明ではNOX選択還元触媒15にNOXを還元するのに十分な量のアンモニアを吸着させておくことが必要であり、そのためには十分な吸着アンモニア量を確保するのに必要な量のアンモニアを粉末尿素から発生させる必要がある。
【0014】
ところで排気ガス中には粉末尿素を加水分解して必要な量のアンモニアを発生させるのに十分な量の水分が含まれている。しかしながら粉末尿素を排気ガス中に噴射した場合、粉末尿素は排気ガスの極く一部としか接触しない。従ってこの場合排気ガス中に含まれる水分の極く一部しか粉末尿素の加水分解に使用されないので必要な量のアンモニアを発生させることはできない。
【0015】
この場合、必要な量のアンモニアを発生させるためには排気ガス中に含まれる水分全体を可能な限り粉末尿素の加水分解に使用する必要があり、そのために本発明では粉末尿素供給弁15とNOX選択還元触媒14との間にウォールフロー型の水吸着触媒13を配置するようにしている。即ち、本発明では排気ガス中に含まれる水分子を水吸着触媒13に吸着させ、粉末尿素供給弁15から供給された粉末尿素を排気ガス中に含まれる水分子および水吸着触媒13に吸着されている水分子の双方により加水分解するようにしている。このようにすると必要な量のアンモニアを発生させることができる。
【0016】
ところで排気ガス中の水分は排気ガスの流通する水吸着触媒13表面上に存在する細孔内に侵入して保持され、従って水吸着触媒13は排気ガスの流通する触媒表面上に無数の細孔を有している。一方、排気ガス中には炭化水素分子、即ちHC分子が含まれており、このHC分子も細孔内に侵入する。しかしながらHC分子が先に細孔内に侵入してしまうともはや水分子は細孔内に侵入することができなくなる。従って水分子を細孔内に侵入させて細孔内に保持するためにはHC分子が細孔内に侵入しないようにする必要がある。
【0017】
ところで水分子の径は排気ガス中に含まれるHC分子の径よりも小さい。即ち、水分子径はほぼ0.3nmである。これに対し、排気ガス中に含まれるHC分子のうちで最小径のものはメタンCH4であってメタンの径はほぼ0.4nmである。従って細孔の径をHC分子は侵入しないが水分子は侵入可能な径に形成しておくと細孔内にはHC分子は侵入せず、水分子が侵入することになる。
【0018】
従って本発明では、水吸着触媒13には排気ガスの流通する触媒表面上に、排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は侵入可能である径の細孔が無数に形成されている。その結果、排気ガス中に含まれる水分子は水吸着触媒13の細孔内に吸着され、粉末尿素供給弁15から供給された粉末尿素は排気ガス中に含まれる水分子および水吸着触媒に吸着されている水分子により加水分解されてアンモニアが生成される。
【0019】
ところで本発明による実施例では水吸着触媒13の基体上にX型ゼオライトのコート層が形成されている。即ち、本発明による実施例では水吸着触媒13として強力な水吸着能を有するX型ゼオライトが用いられている。図3(A)はこのX型ゼオライトの表面上に形成された細孔40を図解的に表している。このX型ゼオライトの細孔40の径d1はかなり大きく、従ってこのX型ゼオライトをそのまま使用すると細孔40内にHC分子が侵入する。
【0020】
そこで本発明による実施例では図3(B)に示されるようにX型ゼオライトの細孔40の入口部に積層状のシリカ層41を形成することによって排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は侵入可能である径d2まで細孔径が縮少せしめられている。
【0021】
このシリカ層41を形成する方法は公知であって、例えばゼオライト結晶表面のシラノール基とテトラメトキシシランSi(OCH34を反応させた後、加水分解してシラノール基を再生させ、次いでこの操作を数回繰返した後、焼成する。焼成すると積層状のシリカ層41が形成され、このシリカ層41によって細孔40の径がd2まで縮少せしめられる。本発明による実施例では細孔40の径が0.3nmまで縮少せしめられている。
【0022】
このように本発明では水吸着触媒13には多量の水が吸着されており、粉末尿素供給弁15から噴射された粉末尿素は排気ガス流入通路30内に蓄積されるので粉末尿素供給弁15から噴射された全ての粉末尿素が水吸着触媒13内において良好に加水分解される。その結果、NOX選択還元触媒15への十分な吸着アンモニア量を確保するのに必要な量のアンモニアが粉末尿素から生成され、斯くして高いNOX浄化率を得ることができることになる。
【0023】
なお、図1に示される実施例において水吸着触媒13とNOX選択還元触媒14との間に加水分解を促進するための加水分解促進触媒を配置することもできる。
【0024】
また、排気ガス中に含まれる気体状の水分を捕獲するために粉末尿素供給弁15に送り込まれる粉末尿素内、例えば粉末尿素タンク17内の粉末尿素内に保水能を有する粉末状のゲル化剤を混合させることもできる。このゲル化剤としては保水能を有する高吸水性ポリマ、例えばポリアクリル酸ナトリウムを用いることもできるし、グリセリンとソルビットの混合物を使用することもできる。このようなゲル化剤を用いることによって水吸着触媒13の保水能力を高めることができる。
【0025】
図4に別の実施例を示す。この実施例では粉末尿素供給弁15上流の機関排気通路内にパティキュレートフィルタ42が配置されており、NOX選択還元触媒14の下流に酸化触媒43が配置されている。また、粉末尿素供給弁15は高圧空気供給管44を介して高圧空気タンク45にも連結されており、粉末尿素供給弁15は粉末尿素と空気とを選択的に供給可能に形成されている。この粉末尿素と空気との供給切換作用はコンピュータ制御の電子制御ユニット46の出力信号に基づいて行われる。
【0026】
この実施例では通常、粉末尿素供給弁15から粉末尿素が噴射されている。これに対し、パティキュレートフィルタ42の再生時には粉末尿素供給弁15は粉末尿素の供給を停止して空気を供給するように切換えられる。即ち、パティキュレートフィルタ42の再生時にはパティキュレートフィルタ42から流出する排気ガス中には十分な酸素が存在しなくなるが、この実施例ではパティキュレートフィルタ42の再生時に粉末尿素供給弁15から空気が供給されるのでパティキュレートフィルタ42から流出する燃えかす等の微粒子を酸化触媒43において酸化させることができる。
【0027】
図5に排気浄化制御ルーチンを示す。図5を参照するとまず初めにステップ50においてパティキュレートフィルタ42の再生時であるか否かが判別される。パティキュレートフィルタ42の再生時でないときにはステップ51に進んで粉末尿素供給弁15から粉末尿素が供給され、パティキュレートフィルタ42の再生時にはステップ52に進んで粉末尿素供給弁15から空気が供給される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】圧縮着火式内燃機関の全体図である。
【図2】水吸着触媒を示す図である。
【図3】水吸着触媒の細孔を図解的に示す図である。
【図4】圧縮着火式内燃機関の別の実施例を示す全体図である。
【図5】排気浄化制御を行うためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
4 吸気マニホルド
5 排気マニホルド
7 排気ターボチャージャ
13 水吸着触媒
14 NOX選択還元触媒
15 粉末尿素供給弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内にNOX選択還元触媒に配置し、該NOX選択還元触媒上流の機関排気通路内に粉末尿素供給弁を配置し、粉末尿素供給弁からの供給粉末尿素から発生したアンモニアによりNOX選択還元触媒において排気ガス中に含まれるNOXを選択的に還元するようにした内燃機関の排気浄化装置において、上記粉末尿素供給弁とNOX選択還元触媒との間にウォールフロー型の水吸着触媒を配置し、該水吸着触媒には排気ガスの流通する触媒表面上に、排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は侵入可能である径の細孔が無数に形成されており、排気ガス中に含まれる水分子は水吸着触媒の該細孔内に吸着され、粉末尿素供給弁から供給された粉末尿素は排気ガス中に含まれる水分子および水吸着触媒に吸着されている水分子により加水分解されてアンモニアが生成せしめられる内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
水吸着触媒としてX型ゼオライトを用い、X型ゼオライトの細孔の入口部に積層状のシリカ層を形成することによって排気ガス中に含まれる炭化水素分子は侵入しないが排気ガス中に含まれる水分子は浸入可能である径まで細孔径が縮少せしめられている請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
粉末尿素供給弁に送り込まれる粉末尿素内に保水能を有するゲル化剤を混合した請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
粉末尿素供給弁上流の機関排気通路内にパティキュレートフィルタを配置し、粉末尿素供給弁が粉末尿素と空気とを選択的に供給可能に形成されており、パティキュレートフィルタの再生時には粉末尿素供給弁は粉末尿素の供給を停止して空気を供給する請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−209889(P2009−209889A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56441(P2008−56441)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】