説明

内燃機関の断熱構造体

【課題】内燃機関の構造部材に取り付けられる断熱構造体において、薄膜の断熱材が必要な箇所にも適用することができる技術を提供をする。
【解決手段】複数の多孔質材が連結された断熱材3と、加熱消失性を有し断熱材3に含浸される有機材40と、を含み、前記した有機材40を介して内燃機関の構造部材20に接合されるようにした。この断熱構造体10によれば、断熱構造体10の表面に位置する有機材40を焼失させることができるとともに、構造部材20との接合面近傍に位置する有機材40を焼失させずに残留させることができる。その結果、断熱構造体10と構造部材20の接合状態を悪化させることなく、断熱構造体10の厚さを薄くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の構造部材に接合される断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに搭載される内燃機関において、構造部材の耐熱性の向上や、冷却損失の低減などを目的として、断熱材が設けられる場合がある。ところで、断熱材と構造部材とが直接接合されると、それらの接合界面において剥離などが発生する可能性がある。このような問題に対し、接着剤が含浸された多孔質材を介して断熱材と構造部材とを接合する方法が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した方法によると、断熱材と構造部材との間に介在する部材により厚さが増すため、薄膜の断熱材が必要な箇所に適用することができない可能性がある。
【0005】
本発明は、上記したような種々の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の断熱構造体において、薄膜の断熱材が必要な箇所にも適用し得る技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するために、多孔質の断熱材に有機材を含浸させるとともに、断熱材が有機材を介して内燃機関の構造部材に接合されるようにした。
【0007】
詳細には、本発明に係わる内燃機関の断熱構造体は、
複数の多孔質材が連結された断熱材と、
加熱消失性を有し、前記断熱材に含浸される有機材と、
を含み、
前記有機材を介して内燃機関の構造部材に接合されるようにした。
【0008】
このように構成された内燃機関の断熱構造体によれば、断熱構造体の表面に位置する有機材は、内燃機関が発生する熱を受けて消失する。その結果、断熱構造体の表面近傍に位置する断熱材が露出し、断熱機能が働くようになる。
【0009】
また、断熱構造体において該断熱構造体の表面から離間した部位、特に構造部材との接合面近傍に位置する有機材は、露出した断熱材の断熱作用により加熱を免れるため、消失することなく残留する。その結果、断熱構造体と構造部材との接合状態が維持される。さらに、断熱材と構造部材との熱膨張差は有機材によって減衰されるため、接合界面の剥離も抑制される。
【0010】
したがって、本発明に係わる内燃機関の断熱構造体によれば、断熱構造体と構造部材との接合状態の悪化を抑制しつつ、断熱構造体の厚みを抑えることができる。その結果、本発明の断熱構造体は、薄膜の断熱材が必要な箇所にも適用することができる。
【0011】
本発明の有機材としては、断熱材より高い熱伝導率を有する有機材を用いることができる。その場合、断熱構造体の表面において、有機材が均一に消失する。その結果、断熱構造体の表面において、断熱材の露出度合を均一にすることができる。
【0012】
本発明において、断熱構造体が接合される構造部材は、樹脂成形材であってもよく、あるいは金属であってもよい。なお、構造部材が金属である場合は、本発明に係わる有機材として、有機系接着剤を用いることもできる。その場合、断熱構造体と金属製の構造部材との接合状態の悪化を抑制しつつ、断熱構造体の厚みを抑えることができる。
【0013】
また、本発明の断熱構造体が接合される構造部材としては、内燃機関の冷却水により冷却される構造部材が望ましい。これは、内燃機関が発生する熱、特に燃料が燃焼した際に発生する熱が冷却水へ放熱されると、冷却損失が大きくなり易いからである。
【0014】
本発明において、有機材が含浸された断熱材の厚さ(加熱消失した部位を除く部分の厚さ)は、断熱材と金属製の構造部材との熱膨張差を吸収可能な範囲の最小値以上に設定されるようにしてもよい。その場合、断熱構造体の厚さは、断熱構造体と金属製の構造部材との接合状態が悪化しない範囲において可及的に薄くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の内燃機関の断熱構造体によれば、断熱構造体と構造部材との接合状態の悪化を抑制しつつ、断熱構造体の厚みを抑えることができる。その結果、本発明の内燃機関の断熱構造体は、薄膜の断熱材が必要な箇所にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施例において未使用時の断熱構造体の構成を示す図である。
【図2】第1の実施例において使用時の断熱構造体の構成を示す図である。
【図3】第2の実施例において未使用時の断熱構造体の構成を示す図である。
【図4】第2の実施例において使用時の断熱構造体の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について図1,2に基づいて説明する。図1は未使用時(新品状態)における断熱構造体の構成を示し、図2は使用時における断熱構造体の構成を示す。なお、本実施例では、樹脂製の構造部材(樹脂成形体)に断熱構造体を適用する場合について述べる。
【0019】
図1,2において、断熱構造体1は、樹脂製の構造部材2と一体成形されている。断熱構造体1は、複数の多孔質材を耐熱性の高い接合媒体によって連結させた断熱材3と、断熱材3に含浸されるとともに断熱材3を被覆する有機系樹脂4と、から形成されている。なお、断熱材3を形成する多孔質材としてはセラミックなどを用いることができる。有機系樹脂4としては、HやCを主成分とする合成樹脂などを用いることができる。また、構造部材2は、断熱構造体1の有機系樹脂4と同性状の樹脂で形成されてもよく、あるいは有機系樹脂4とは異なる性状の樹脂で形成されてもよい。
【0020】
上記した断熱構造体1は、有機系樹脂4の中に断熱材3を浸した状態で成形される。なお、構造部材2が有機系樹脂4と同性状の樹脂で成形される場合は、樹脂の中に断熱材3
を浸した状態で断熱構造体1および構造部材2を一体成形してもよい。
【0021】
このように構成された断熱構造体1が内燃機関に取り付けられると、内燃機関が発生する熱により断熱構造体1の表面が加熱される。その場合、断熱構造体1の表面に位置する有機系樹脂4が焼失することになる。その結果、図2に示すように、断熱構造体1の表面付近に位置する断熱材3が露出する。
【0022】
図2に示すように、断熱構造体1の表面付近の断熱材3が露出すると、当該断熱構造体1の断熱機能が働くようになる。その結果、構造部材2へ伝わる熱量を減少させることができる。さらに、露出した断熱材3は、断熱構造体1における構造部材2との接合部分(図1,2中の破線を参照)近傍に位置する有機系樹脂4へ伝わる熱量をも減少させる。そのため、前記した接合部分近傍に位置する有機系樹脂4は、消失せずに残留する。その結果、断熱構造体1と構造部材2との接合状態が適切に保たれる。
【0023】
したがって、本実施例によれば、断熱構造体1と構造部材2との接合状態の悪化を抑制しつつ、断熱構造体1の厚みを抑えることができる。そのため、本実施例の断熱構造体1は、薄膜の断熱材が必要な箇所に適用することが可能となる。
【0024】
<実施例2>
次に、本発明の第2の実施例について図3,4に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0025】
前述した第1の実施例と本実施例との相違点は、断熱構造体が金属製の構造部材に接合される点にある。図3は未使用時における断熱構造体の構成を示し、図4は使用時における断熱構造体の構成を示す。
【0026】
図3,4において、断熱構造体10は、金属製の構造部材20に接合されている。断熱構造体10は、複数の多孔質材を耐熱性の高い接合媒体によって連結させた断熱材3と、断熱材3に含浸された有機系接着剤40と、から形成されている。なお、有機系接着剤40としては、HやCを主成分とする接着剤を用いることができる。その際、有機系接着剤40の成分は、該有機系接着剤40のヤング率が断熱材3のヤング率の100分の1から20分の1の範囲に収まるように定められると好適である。また、断熱構造体10と構造部材20とは、前記した有機系接着剤40により接合されている。
【0027】
上記した断熱構造体10は、断熱材3に有機系接着剤40を含浸させることにより成形される。また、断熱構造体10と構造部材20との接合は、有機系接着剤40が含浸された断熱材3を構造部材20へ固定した状態で前記有機系接着剤40を固化させることにより成される。
【0028】
このように構成された断熱構造体10が内燃機関に取り付けられると、内燃機関が発生する熱により断熱構造体10の表面が加熱される。その場合、断熱構造体10の表面に位置する有機系接着剤40が焼失することになる。その結果、図4に示すように、断熱構造体10の表面付近に位置する断熱材3が露出する。
【0029】
図4に示すように、断熱構造体10の表面付近の断熱材3が露出すると、当該断熱構造体10の断熱機能が働くようになる。その結果、構造部材20へ伝わる熱量を減少させることができる。さらに、露出した断熱材3は、断熱構造体10における構造部材20との接合部分近傍に位置する有機系接着剤40へ伝わる熱量をも減少させる。そのため、前記した接合部分近傍に位置する有機系接着剤40は、消失せずに残留する。その結果、断熱構造体10と構造部材20との接合状態が適切に保たれる。
【0030】
ところで、断熱構造体10(断熱材3)と構造部材20は、熱膨張率が相異する。よって、断熱構造体10の表面に位置する有機系接着剤40が消失した後において、有機系接着剤40が含浸された部分の厚さ(図4中のt)は、断熱構造体10と構造部材20との熱膨張差を吸収可能な最小の厚さtminに所定のマージンを加算した厚さになることが好ましい。なお、前記した最小の厚さtminは、以下に式によって演算することができる。
【0031】
tmin=D*(E/E)*(α−α)*ΔT
上記の式において、Dは、断熱構造体10と構造部材20との接合面の長さ(図4中のD)である。E,Eは、断熱材3、有機系接着剤40のそれぞれのヤング率である。α0,αは、構造部材20、断熱材3のそれぞれの熱膨張率である。ΔTは、接合界面の温度変化量である。
【0032】
前記した最小の厚さtminが求められると、それに消失部分の厚さtbとマージンtmとを加算することにより、新品時における断熱構造体10の適切な厚さを求めることができる。また、断熱材3の材質や有機系接着剤40の性状は、接合面の長さDに対する前記した厚さtの比率が100分の1から10分の1の範囲に収まるように定められてもよい。
【0033】
このようにして断熱構造体10の厚さが定められると、断熱構造体10と構造部材20との接合状態が悪化しない範囲において、断熱構造体10の厚さを可及的に薄くすることができる。その結果、本実施例における断熱構造体10は、内燃機関の燃焼室を形成するピストン頂面、シリンダヘッドの内壁面、あるいはバルブの弁体などに取り付けることが可能となる。そのような場合は、燃焼室内で燃料が燃焼した際に発生する熱が冷却水へ放熱され難くなるため、内燃機関の冷却損失を少なく抑えることも可能になる。
【符号の説明】
【0034】
1 断熱構造体
2 構造部材
3 断熱材
4 有機系樹脂
10 断熱構造体
20 構造部材
40 有機系接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の多孔質材が連結された断熱材と、
加熱消失性を有し、前記断熱材に含浸される有機材と、
を含み、
前記有機材を介して内燃機関の構造部材に接合される内燃機関の断熱構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記有機材の熱伝導率は、前記断熱材の熱伝導率より高い内燃機関の断熱構造体。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記構造部材は、樹脂成形材である内燃機関の断熱構造体。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記構造部材は、金属成形材であり、
前記有機材は、有機系接着剤である内燃機関の断熱構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項において、前記構造部材は、内燃機関の冷却水により冷却される部材である内燃機関の断熱構造体。
【請求項6】
請求項4において、有機材が含浸された断熱材の厚さは、前記断熱材と前記金属との熱膨張差を吸収可能な範囲の最小値以上に設定される内燃機関の断熱構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31752(P2012−31752A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170094(P2010−170094)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】