説明

内燃機関の滑り要素を被覆する方法、及び、その滑り要素、特に、ピストンリング又はシリンダライナ

内燃機関の滑り要素、特に、ピストンリング又はシリンダライナを被覆する方法において、硬質材料の層が堆積される間、DLC相が前記硬質材料の層内に埋め込まれる。内燃機関のピストンリング又はシリンダライナ等の滑り要素は、DLC相が埋め込まれた硬質材料の層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の滑り要素、特に、ピストンリング又はシリンダライナを被覆する方法、及び、その滑り要素に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングは、上下に動くピストンとシリンダ壁との間を可能な限り完璧に封止するために内燃機関に使用される。さらに、ピストンリングは、シリンダ壁上にある油をぬぐい取るよう、及び、潤滑に対するその油の有用性を維持するよう役立つ。ピストンリングに定められた根本的な要求は、内燃機関の作動中のある程度の極限条件下での可能な限り少ない摩擦及び可能な限り長い使用期間である。これは、ピストンリングに定められた要求を可能な限り長くピストンリングが満たす磨耗挙動を意味している。同じことが、ピストンリングが滑り接触するシリンダライナの磨耗挙動にも当てはまる。
【0003】
国際公開WO2007/020139A1号は、接着剤層、正四面体炭素の中間層、及び、非晶質炭素の外層を有した、ピストンリングであり得る基板を記載している。
【0004】
出願人のドイツ特許出願DE 10 2005 063 123 B3号は、磨耗層及び慣らし層(run−in layer)を含む例えばピストンリング等の滑り要素に関連している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底にある目的は、内燃機関の滑り要素、特に、ピストンリング又はシリンダライナを被覆する方法を提供することであり、当該方法によって、摩擦値に関する要求も使用期間に関する要求も考慮に入れられる。さらに、摩擦値及び長い使用期間が有利な様式で組み合わされる滑り要素が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、一方で、請求項1に記載の方法によって解消される。
【0007】
これに従って、滑り要素、特に、例えばピストンリング又はシリンダライナ等の内燃機関の滑り要素が、硬質材料の層の堆積によって被覆される。本発明によると、堆積の間、硬質材料の層内に、又は、言い換えるとそこに平行にDLC相が埋め込まれる。従って、DLC被覆が硬質材料の層の「上」で、及び/又は、別の被覆工程で実行されることはないが、記述された埋め込みが形成されるように平行及び好ましくは硬質材料の層の堆積と同時に実行される本発明による方法は、以前から知られた方法とは異なる。DLC相の埋め込みは、「in situでの取り込み」とも呼ぶことができる。有利な摩擦挙動は硬質材料の相とDLC相の平行での存在によって達成されることが検査において判る。さらに、有利な磨耗挙動を見つけることができる。言い換えると、磨耗量は、要求に従った使用期間を確実にする範囲内にある。DLC相の埋め込みは、さらに、有利な様式で硬質材料の層にその厚さに沿って異なる特性を提供することを可能にする。例えば、硬質材料の層の表面上及び/又は最上の層に対する磨耗挙動を、有利な慣らし挙動が達成されるように調整することができ、一方で、硬質材料の層のより低い所で横たわる領域は、不変に有利な磨耗挙動が達成されるように、適したDLC相の埋め込みによって形成される。
【0008】
本発明による方法の好ましい発展が、さらなる請求項において記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
硬質材料の層に対して、少なくとも10μmの厚さが好ましい。DLCの埋め込みは、従って、特性に有利な範囲で提供することができる。同時に、前述の厚さの層は、上側での慣らし層の供給、さらに、より低い位置での特定の特性を有した層の供給を可能にする。
【0010】
硬質材料の被覆にとって、周期表の4番目及び/又は5番目及び/又は6番目の亜族の要素の窒化物を有すること、又は、完全にこれらの要素から成ることでさえもさらに好ましい。特に、有利な特性は、前述の要素と共に見つけることができる。窒化クロム(CrN)の硬質材料の被覆が特に好ましい。
【0011】
このことは、硬質材料の被覆が、例えばホウ素、炭素、酸素、及び/又は珪素等のさらなる要素を含む本発明による硬質材料の被覆において改善することができる熱抵抗及び/又は擦りきず抵抗に関しても同様に当てはまる。
【0012】
埋め込まれるDLC相は、均一に分布させることができる。特に、硬質材料の相に対して0.1から99.9%という相含有量が存在し得る。
【0013】
一部の領域におけるもう1つの手段及び/又は補足として、100%の局所的な相含有量を有するようにDLC埋め込みを局在化させることができ、特に、100%DLC埋め込みの相を構成することができる。要求次第で、前述の実施形態のうちどちらに対しても優れた特性を見つけることができる。
【0014】
上記のように、DLC相の相含有量は、硬質材料の層の厚さを介して、好ましくは1又は複数の成分を介して変えることができる。従って、被覆の特性は、厚さに沿って全体として変えることができ、特に各ケースにおける要求に対してよく適合させることができる。
【0015】
硬質材料の層の表面上及び/又は最上の1から2μm内のDLC相の相含有量を、残りの被覆と比較して増やすことは特に有利であると証明した。これは、慣らし挙動を有利な様式で改善する。
【0016】
前述の目的は、請求項10に記載された滑り要素によってさらに解消される。得ることができる好ましい実施形態及び利点は、その結果、本発明による方法を参考にして記述されたものに一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の滑り要素、特に、ピストンリング又はシリンダライナを被覆する方法であって、硬質材料の層の堆積中に該硬質材料の層内へDLC相が埋め込まれる、方法。
【請求項2】
前記硬質材料の層は10μm以上の厚さで堆積されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬質材料の層は、周期表の4番目及び/又は5番目及び/又は6番目の亜族の要素の窒化物を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記硬質材料の層は、例えば、ホウ素、炭素、酸素、及び/又は、珪素等のさらなる要素をさらに有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記埋め込みは均一に分布されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記DLC相は、0.1から99.9%の相含有量を有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記DLC相は、100%までの局所的な相含有量を有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記DLC相の相含有量は、前記層の厚さを介して変えられることを特徴とする、請求項1乃至4、6、及び、7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記硬質材料の層の表面上及び/又は最上の1から2μm内の前記DLC相の相含有量は残りの層と比較して増やされることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
硬質材料の層が、埋め込まれたDLC相を含む、内燃機関の例えばピストンリング又はシリンダライナ等の滑り要素。
【請求項11】
前記硬質材料の層が10μm以上の厚さを有することを特徴とする、請求項10に記載の滑り要素。
【請求項12】
前記硬質材料の層は、周期表の4番目及び/又は5番目及び/又は6番目の亜族の要素の窒化物を有することを特徴とする、請求項10又は11に記載の滑り要素。
【請求項13】
前記硬質材料の層は、例えば、ホウ素、炭素、酸素、及び/又は、珪素等のさらなる要素をさらに有することを特徴とする、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の滑り要素。
【請求項14】
前記埋め込みは均一に分布されることを特徴とする、請求項10乃至13のいずれか一項に記載の滑り要素。
【請求項15】
前記DLC相は、0.1から99.9%の相含有量を有することを特徴とする、請求項10乃至14のいずれか一項に記載の滑り要素。
【請求項16】
前記DLC相は、100%までの局所的な相含有量を有することを特徴とする、請求項10乃至15のいずれか一項に記載の滑り要素。
【請求項17】
前記DLC相の相含有量は、前記層の厚さを介して変えられることを特徴とする、請求項10乃至13、15、及び、16のいずれか一項に記載の滑り要素。
【請求項18】
前記硬質材料の層の表面上及び/又は最上の1から2μm内の前記DLC相の相含有量は残りの層と比較して増やされることを特徴とする、請求項10乃至17のいずれか一項に記載の滑り要素。

【公表番号】特表2012−506011(P2012−506011A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531485(P2011−531485)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063472
【国際公開番号】WO2010/043669
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(511081750)フェデラル−モーグル ブルシャイド ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】