説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】脈動による燃圧ピーク値を抑えるとともに燃料噴射量も好適に確保することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン11は、ポート噴射用インジェクタ22と筒内噴射用インジェクタ17とを備える。電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力が機関運転状態に基づいて設定される目標圧力となるように制御する。また、電子制御装置30は、燃料の温度が低いときには、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力が、機関運転状態に基づいて設定される目標圧力よりも低い圧力となるように制限する制限処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁を備える内燃機関が知られている。この内燃機関では、筒内用噴射弁に供給される燃料の圧力が機関運転状態に基づいて設定される目標圧力となるように制御される。
【0003】
ここで、筒内用噴射弁に燃料を供給する燃料供給系内では脈動が発生することが知られており、こうした脈動、つまり燃料圧力の変動時における燃圧ピーク値(燃圧最大値)に耐えられるように燃料供給系は構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−234543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図5に示すように、燃料の体積弾性率は、燃料温度が低温になるほど大きくなるため、燃料温度が低くなるに伴って燃料は圧縮されにくくなる。そのため、脈動発生時の上記燃圧ピーク値は、燃料温度が低くなるに伴って高くなる傾向があり、筒内用噴射弁の燃料供給系はそうした低温時の燃圧ピーク値に合わせて耐圧性や噴射弁の駆動回路等が構築されている。そのため、筒内用噴射弁の燃料供給系や同噴射弁の駆動回路等はある程度の大型化や重量増加等が避けられない。
【0006】
筒内用噴射弁の燃料供給系や同噴射弁の駆動回路等をより小型化したり、軽量化したりするには、低温時における脈動の燃圧ピーク値を抑えるのが有効であり、これは筒内用噴射弁に供給される燃料の圧力を可能な範囲内で低くすることで具現化することができる。しかし、このようにして供給燃圧を低下させると、例えば機関全負荷時に要求される燃料噴射量を、噴射可能期間内に全量噴射することが困難になるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脈動による燃圧ピーク値を抑えるとともに燃料噴射量も好適に確保することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、機関の燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁を備え、前記筒内用噴射弁に供給される燃料の圧力が機関運転状態に基づいて設定される目標圧力となるように制御する内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記燃料の温度が所定値よりも低いときには、前記燃料の圧力が前記目標圧力よりも低い圧力となるように制限する制限処理を実行することをその要旨とする。
【0009】
同構成によれば、燃料の温度が所定値よりも低く脈動の燃圧ピーク値が高くなりやすいときには、機関運転状態に基づいて設定される目標圧力よりも低い圧力となるように燃料の圧力は制限されることにより、筒内用噴射弁の燃料供給系内の圧力が低くされる。従って、燃料温度の低温時における脈動の燃圧ピーク値が抑えられるようになる。他方、燃料の温度が上記所定値以上のときには、燃料圧力が制限されないため、例えば機関全負荷時の要求燃料噴射量を、噴射可能期間内に全量噴射することも可能になる。
【0010】
従って、同構成によれば、燃料温度の低温時において脈動により生じる燃圧ピーク値を抑えるとともに燃料噴射量も好適に確保することができるようになる。
上記制限処理としては、請求項2に記載の発明によるように、前記制限処理は、前記燃料の圧力に対するガード値を設定する処理であり、前記ガード値は、前記燃料の温度が低いときほどより小さい値に設定される、という構成を採用することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記制限処理は、機関運転状態に基づいて算出される前記筒内用噴射弁の燃料噴射量が所定値を超えているときに実行されることをその要旨とする。
【0012】
筒内用噴射弁の燃料噴射量が多いときには、同筒内用噴射弁の燃料供給系内で発生する脈動が大きくなりやすく、上述した燃圧ピーク値も高くなりやすい。そこで、同構成によるように、筒内用噴射弁の燃料噴射量が所定値を超えているときに上記制限処理を実行することにより、同制限処理を効果的に実行させることができる。
【0013】
なお、燃料の温度はセンサ等で直接検出するほか、請求項4に記載の発明によるように、機関の冷却水温を代用するようにしてもよい。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、吸気通路に燃料を噴射する吸気通路用噴射弁を備えており、機関運転状態に基づいて算出される燃料噴射量と燃料圧力とに基づいて前記筒内用噴射弁の燃料噴射時間を算出し、この算出された燃料噴射時間が噴射可能時間を超えているときには、前記燃料噴射量の一部を前記吸気通路用噴射弁から噴射することをその要旨とする。
【0014】
燃料圧力が低くなると、機関運転状態に基づいて算出される燃料噴射量の全量を筒内用噴射弁から噴射させるために必要な燃料噴射時間は長くなる。そのため、場合によっては、筒内用噴射弁の噴射停止時期が吸気下死点を超えることもある。このように噴射停止時期が吸気下死点を超えると、燃料と吸気との混合時間が不足してスモークが発生しやすくなる。このように内燃機関には、筒内用噴射弁から燃料を噴射するに際して最適な期間が存在し、そうした最適な期間である噴射可能時間を超えて燃料噴射を行うと機関運転状態に悪影響を与える。
【0015】
ここで、上述した制限処理が実行されると燃料圧力は低くなるため、算出される筒内用噴射弁の燃料噴射時間が長くなりやすく、上記の理由によりスモークが発生しやすくなる。この点、同構成では、筒内用噴射弁の燃料噴射時間が噴射可能時間を超えているときには、燃料噴射量の一部を吸気通路用噴射弁から噴射するようにしている。従って、筒内用噴射弁から噴射する燃料量が少なくなることで筒内用噴射弁の燃料噴射時間は短くなり、これにより筒内用噴射弁の噴射停止時期が吸気下死点を超えることが抑制される。そのため、燃料圧力の制限処理が行われるときに生じやすいスモークの発生を抑えることができる。
【0016】
上記噴射可能時間としては、請求項6に記載の発明によるように、機関運転状態に基づいて算出される筒内用噴射弁の噴射開始時期から機関のピストンが吸気下死点に達するまでの時間を上記噴射可能時間として設定することにより、上述したスモークの発生を好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第1実施形態にあって、これが適用されるエンジンの構造を示す模式図。
【図2】同実施形態における燃圧の制限処理についてその手順を示すフローチャート。
【図3】冷却水温とガード値との関係を示すグラフ。
【図4】第2実施形態における噴射切替処理の手順を示すフローチャート。
【図5】燃料温度と体積弾性率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、この発明にかかる内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、内燃機関11の気筒12内にはピストン13が備えられている。ピストン13は、内燃機関11の出力軸であるクランクシャフト15にコンロッド14を介して連結されており、コンロッド14によりピストン13の往復運動がクランクシャフト15の回転運動に変換される。
【0020】
気筒12内にあってピストン13の上方には燃焼室16が区画形成されており、この燃焼室16に向かって筒内噴射用インジェクタ17(筒内用噴射弁)が取り付けられている。筒内噴射用インジェクタ17には、周知の燃料供給系を通じて高圧燃料が供給されている。そして、この筒内噴射用インジェクタ17の開弁駆動により、燃料が燃焼室16内に直接噴射供給される(筒内噴射)。
【0021】
また、燃焼室16には、その内部に形成される燃料と空気とからなる混合気に対して点火を行う点火プラグ18が取り付けられている。この点火プラグ18による混合気への点火タイミングは、点火プラグ18の上方に設けられたイグナイタ19によって調整される。
【0022】
更に、上記燃焼室16には、吸気通路20及び排気通路21が連通されている。そして、燃焼室16と吸気通路20との連通部分、すなわち吸気ポート20aには、同吸気ポート20aに燃料を噴射するポート噴射用インジェクタ22(吸気通路用燃料噴射弁)が設けられている。このポート噴射用インジェクタ22には、周知の機構を通じて低圧燃料が供給されている。そして、このポート噴射用インジェクタ22の開弁駆動に伴って、燃料が吸気ポート20aに噴射される(ポート噴射)。また、吸気通路20には燃焼室16に導入される空気量を調量するスロットルバルブが設けられている。
【0023】
また、排気通路21の下流には、混合気の空燃比が所定範囲内の値となっているときに浄化機能を発揮する排気浄化装置100が設けられている。
内燃機関11の機関制御は、電子制御装置30により行われている。電子制御装置30は、機関制御に係る各種処理を実施する中央演算処理装置(CPU)、制御用のプログラムや機関制御に必要な情報を記憶するメモリ、筒内噴射用インジェクタ17やポート噴射用インジェクタ22の駆動回路、並びにイグナイタ19等の駆動回路等を備えて構成されている。
【0024】
電子制御装置30には、機関運転状態を検出する各種のセンサが接続されている。例えばクランクセンサ31によって機関出力軸であるクランクシャフト15の位相角、すなわちクランク角が検出され、これに基づいて機関回転速度NEが算出される。またアクセルセンサ33によって、アクセル操作量ACCPが検出される。また、電子制御装置30には、吸気通路20内を流れる空気の量を検出するエアフロエータ34の検出信号が入力され、この検出信号に基づいて吸入空気量Qaが検出される。さらに電子制御装置30には、機関冷却水の温度(冷却水温THW)を検出する水温センサ35、吸気の温度(吸気温THA)を検出する温度センサ36、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力(燃圧Pr)を検出する燃圧センサ37等、機関制御に必要なセンサの検出信号が入力されている。そして電子制御装置30は、こうした各種センサの検出信号によって把握される内燃機関11の運転状況に応じて、燃料噴射制御や点火時期制御を始めとする各種機関制御を実施する。
【0025】
電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17及びポート噴射用インジェクタ22からそれぞれ噴射される燃料の噴射比率Rを機関負荷や機関回転速度に基づいて変更することで複数の噴射形態を具現化する。例えば、低負荷運転領域ではポート噴射用インジェクタ22だけを用いて燃料噴射を行い、高負荷運転領域では筒内噴射用インジェクタ17だけを用いて燃料噴射を行う。そして中負荷運転領域では、ポート噴射用インジェクタ22及び筒内噴射用インジェクタ17の双方から燃料噴射を行う。
【0026】
なお、本実施形態では、上記噴射比率Rは、機関負荷や機関回転速度に基づき「0≦R≦1」の範囲内で可変設定される。そして、機関運転状態に基づいて設定される燃料噴射量Qに噴射比率Rを乗算した量がポート噴射用インジェクタ22の燃料噴射量として設定され、燃料噴射量Qに(1−噴射比率R)を乗算した量が筒内噴射用インジェクタ17の燃料噴射量として設定される。従って、例えばR=1のときには、ポート噴射用インジェクタ22を使用したポート噴射のみが実行され、R=0のときには、筒内噴射用インジェクタ17を使用した筒内噴射のみが実行される。
【0027】
また、電子制御装置30は、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の目標燃圧Ppを機関負荷や機関回転速度等の機関運転状態に基づいて設定する。そして、実際の燃圧Prと目標燃圧Ppとが一致するように筒内噴射用インジェクタ17の燃料供給系を制御する。より具体的には、筒内噴射用インジェクタ17に燃料を吐出する高圧ポンプの吐出量を制御する。
【0028】
さて、本実施形態では、図2に示すように、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の燃圧を制限する制限処理を実行するようにしている。なお、本処理は、電子制御装置30によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0029】
本処理は開始されるとまず、現在設定されている目標燃圧Ppが読み込まれる(S100)。
次に、冷却水温THWに基づいて目標燃圧Ppのガード値Gが算出される(S110)。ここでは、図3に示すように、冷却水温THWが低いほどガード値Gは小さい値となるように可変設定される。なお、本実施形態では、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の温度を代用する値として冷却水温THWを用いるようにしているが、センサ等を利用して、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の温度を直接検出するようにしてもよい。
【0030】
次に、目標燃圧Ppがガード値Gよりも高いか否かが判定され(S120)、目標燃圧Ppがガード値Gよりも高いときには(S120:YES)、ステップS110で算出されたガード値Gが目標燃圧Ppに設定されて(S130)、本処理は一旦終了される。
【0031】
このステップS130の処理が行われた場合には、目標燃圧Ppは、機関運転状態に応じて設定された圧力よりも低い圧力に設定される。従って、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力も、機関運転状態に基づいて算出された目標燃圧Ppよりも低いガード値Gの圧力にまで低下される。
【0032】
ここで、ガード値Gは、冷却水温THWが低いほど小さい値となるため、冷却水温THWが低いときほど、つまり燃料の温度が所定値Aよりも低いときほど、ガード値Gによる目標燃圧Ppの制限(ステップS130の処理)が行われやすくなる。このようにして冷却水温THWが低いときほど、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力を機関運転状態に基づいて算出される目標燃圧Ppよりも低い圧力となるように制限する制限処理が実行されやすくなる。なお、上記所定値Aは、「機関運転状態に基づいて算出される目標燃圧Ppが、冷却水温THWに基づいて算出されるガード値Gによって制限されるときの燃料温度」と定義することが可能である。
【0033】
一方、ステップS120にて、目標燃圧Ppがガード値G以下であると判定されるときには(S120:NO)、上記ステップS130の処理、つまり燃圧の制限処理を行うことなく、本処理は一旦終了される。このようにしてステップS120にて否定判定された場合には、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の圧力は、機関運転状態に基づいて算出された目標燃圧Ppとなるように制御される。
【0034】
次に、本実施形態の作用を説明する。
冷却水温THWが低く、脈動の燃圧ピーク値が高くなりやすいときには、機関運転状態に基づいて設定される目標燃圧Ppよりも低い圧力となるように燃圧Prが制限される。より具体的には、冷却水温が低いときほど、つまり燃料温度が低いときほど小さい値となるガード値Gが算出され、このガード値Gによって目標燃圧Ppが制限されることにより、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の燃圧Prは制限される。これにより筒内噴射用インジェクタ17の燃料供給系内の圧力は低くなる。従って、燃料温度の低温時における脈動の燃圧ピーク値が抑えられるようになる。他方、冷却水温THWが高く、燃料温度が高いときには、ガード値Gが大きい値となり、実質的には燃料圧力が制限されなくなる。そのため、例えば機関全負荷時に要求される燃料噴射量Qを、噴射可能期間内に全量噴射することも可能になる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)冷却水温THWが低く、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の温度が所定値よりも低いときには、筒内噴射用インジェクタ17に供給される燃料の燃圧Prが機関運転状態に基づいて設定される目標燃圧Ppよりも低い圧力となるように制限する制限処理を実行するようにしている。従って、燃料温度の低温時において脈動により生じる燃圧ピーク値を抑えるとともに燃料噴射量も好適に確保することができるようになる。
(第2実施形態)
次に、この発明にかかる内燃機関の燃料噴射制御装置を具体化した第2実施形態について、図4を参照して説明する。
【0036】
燃料圧力が低くなると、機関運転状態に基づいて算出される燃料噴射量Qの全量を筒内噴射用インジェクタ17から噴射させるために必要な筒内噴射時間DTAUは長くなる。そのため、場合によっては、筒内噴射用インジェクタ17の噴射停止時期が吸気下死点を超えることもある。このように噴射停止時期が吸気下死点を超えると、燃料と吸気との混合時間が不足してスモークが発生しやすくなる。このように内燃機関11には、筒内噴射用インジェクタ17から燃料を噴射するに際して最適な期間が存在し、そうした最適な期間である筒内噴射可能時間DTAUEを超えて燃料噴射を行うと機関運転状態に悪影響を与える。
【0037】
ここで、上述した燃圧の制限処理が実行されると燃圧Prは低くなるため、算出される筒内噴射時間DTAUが長くなりやすく、上記の理由によりスモークが発生しやすくなる。
【0038】
そこで、本実施形態では、上述した燃圧の制限処理に加えて、更に図4に示す噴射切替処理も実行することでスモークの発生を抑えるようにしている。なお、この噴射切替処理も電子制御装置30によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0039】
この噴射切替処理が開始されるとまず、現在の機関運転領域が、筒内噴射のみを行う運転領域であるか否かが判定される(S200)。ここでは、機関回転速度及び機関負荷等に基づいて設定された噴射比率Rが「0」である場合に肯定判定される。そして、筒内噴射のみを行う運転領域ではないと判定されるときには(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
【0040】
一方、筒内噴射のみを行う運転領域であると判定されるときには(S200:YES)、現在設定されている燃料噴射量Q及び燃圧Prに基づいて筒内噴射時間DTAUが算出される(S210)。この筒内噴射時間DTAUは、筒内噴射用インジェクタ17から気筒に対して燃料噴射量Qを供給するために必要な噴射時間であり、燃料噴射量Qが多いほど、あるいは燃圧Prが低いときほど、より長い時間が設定される。
【0041】
次に、機関回転速度NE及び噴射開始時期TSに基づいて筒内噴射可能時間DTAUEが算出される(S220)。噴射開始時期TSは、筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射を開始する時期であり、機関運転状態に基づいて可変設定される。そして、この噴射開始時期TSから吸気下死点までのクランク角と現在の機関回転速度NEとに基づき、噴射開始時期TSから機関のピストンが吸気下死点に達するまでの時間が算出され、この算出された時間が筒内噴射可能時間DTAUEとして設定される。
【0042】
そして、ステップS210で算出された筒内噴射時間DTAUが、ステップS220で算出された筒内噴射可能時間DTAUE以下であるか否かが判定される(S230)。
そして、筒内噴射時間DTAUが筒内噴射可能時間DTAUE以下であるときには(S230:YES)、現在設定されている燃料噴射量Qの全量を、ピストンが吸気下死点に達する前に筒内噴射用インジェクタ17から噴射することができる。そのため、噴射比率Rは「0」のまま維持されて筒内噴射のみが実行され(S240)、本処理は一旦終了される。
【0043】
一方、ステップS230にて、筒内噴射時間DTAUが筒内噴射可能時間DTAUEを超えているときには(S230:NO)、現在設定されている燃料噴射量Qの全量を、ピストンが吸気下死点に達する前に筒内噴射用インジェクタ17から噴射することができず、このままではスモークが発生するおそれがある。そのため、燃料噴射量Qの一部をポート噴射用インジェクタ22から噴射させるべく、筒内噴射及びポート噴射が実行されて(S250)、本処理は一旦終了される。ステップS250では、筒内噴射のみを行う運転領域であっても、筒内噴射及びポート噴射を行うために噴射切替が行われる。この噴射切替に際しては、噴射比率Rとして事前に適宜設定された固定値を設定してもよいが、本実施形態では、以下のようにして噴射比率Rを算出するようにしている。
【0044】
まず、筒内噴射用インジェクタ17から上記筒内噴射可能時間DTAUEだけ燃料噴射を行ったときに同筒内噴射用インジェクタ17から噴射される燃料噴射量である筒内噴射量Q1が、現在の燃圧Pr及び筒内噴射可能時間DTAUEに基づいて算出される。そして、現在設定されている燃料噴射量Q及び筒内噴射量Q1に基づき、次式(1)から噴射比率Rが算出される。
【0045】

噴射比率R=(Q−Q1)/Q …(1)

(Q−Q1)の値は、燃料噴射量Qのうちでポート噴射用インジェクタ22から噴射させる燃料量を示す。
【0046】
次に、本実施形態の作用を説明する。
筒内噴射時間DTAUが筒内噴射可能時間DTAUEを超えており、現在設定されている燃料噴射量Qの全量を、ピストンが吸気下死点に達する前に筒内噴射用インジェクタ17から噴射することができないときには、燃料噴射量Qの一部がポート噴射用インジェクタ22から噴射される。従って、筒内噴射用インジェクタ17から噴射する燃料量が少なくなることで筒内噴射時間DTAUは短くなり、これにより筒内噴射用インジェクタ17の噴射停止時期が吸気下死点を超えることが抑制される。そのため、燃圧の制限処理が行われるときに生じやすいスモークの発生が抑えられる。
【0047】
また、筒内噴射用インジェクタ17の噴射開始時期TSから機関のピストンが吸気下死点に達するまでの時間を筒内噴射可能時間DTAUEとして設定するようにしている。そのため、吸気下死点以降での筒内噴射用インジェクタ17からの燃料噴射を抑えることができ、これによりスモークの発生がより適切に抑えられる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記(1)に記載の効果に加えて、更に以下の効果を得ることができる。
(2)筒内噴射用インジェクタ17の筒内噴射時間DTAUが筒内噴射可能時間DTAUEを超えているときには、燃料噴射量Qの一部をポート噴射用インジェクタ22から噴射させるようにしている。そのため、燃圧の制限処理が行われるときに生じやすいスモークの発生を抑えることができる。
【0049】
(3)筒内噴射可能時間DTAUEとして、機関運転状態に基づいて算出される筒内噴射用インジェクタ17の噴射開始時期TSから機関のピストンが吸気下死点に達するまでの時間を設定するようにしている。そのため、上述したスモークの発生を好適に抑えることができる。
【0050】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・筒内噴射用インジェクタ17の燃料噴射量が多いときには、筒内噴射用インジェクタ17の燃料供給系内で発生する脈動が大きくなりやすく、上述した燃圧ピーク値も高くなりやすい。そこで、算出された筒内噴射用インジェクタ17の燃料噴射量Qが予め定められた所定値を超えているときに上記制限処理を実行するようにしてもよい。この場合には、同制限処理を効果的に実行させることができる。
【0051】
・上記制限処理では、目標燃圧Ppに対するガード値Gを設定するようにした。この他、燃料温度や冷却水温THWが所定値よりも低いときには、機関運転状態に基づいて設定される目標燃圧Ppが低くなるように同目標燃圧Ppを補正する補正値を算出するようにしてもよい。
【0052】
・冷却水温THWに基づいてガード値Gを可変設定するようにした。この他、ガード値Gを一定値とし、燃料温度や冷却水温THWが所定値よりも低いときに、ガード値Gによる目標燃圧Ppの制限を実行するようにしてもよい。この場合でも、燃料温度の低温時において脈動により生じる燃圧ピーク値を抑えるとともに燃料噴射量も好適に確保することができる。
【符号の説明】
【0053】
11…内燃機関、12…気筒、13…ピストン、14…コンロッド、15…クランクシャフト、16…燃焼室、17…筒内噴射用インジェクタ、18…点火プラグ、19…イグナイタ、20…吸気通路、20a…吸気ポート、21…排気通路、22…ポート噴射用インジェクタ、30…電子制御装置、31…クランクセンサ、33…アクセルセンサ、34…エアフロメータ、35…水温センサ、36…温度センサ、37…燃圧センサ、100…排気浄化装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関の燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内用噴射弁を備え、前記筒内用噴射弁に供給される燃料の圧力が機関運転状態に基づいて設定される目標圧力となるように制御する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記燃料の温度が所定値よりも低いときには、前記燃料の圧力が前記目標圧力よりも低い圧力となるように制限する制限処理を実行する
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記制限処理は、前記燃料の圧力に対するガード値を設定する処理であり、前記ガード値は、前記燃料の温度が低いときほどより小さい値に設定される
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記制限処理は、機関運転状態に基づいて算出される前記筒内用噴射弁の燃料噴射量が所定値を超えているときに実行される
請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料の温度として機関の冷却水温を代用する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
吸気通路に燃料を噴射する吸気通路用噴射弁を備えており、
機関運転状態に基づいて算出される燃料噴射量と燃料圧力とに基づいて前記筒内用噴射弁の燃料噴射時間を算出し、この算出された燃料噴射時間が噴射可能時間を超えているときには、前記燃料噴射量の一部を前記吸気通路用噴射弁から噴射する
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記噴射可能時間は、機関運転状態に基づいて算出される前記筒内用噴射弁の燃料開始時期から機関のピストンが吸気下死点に達するまでの時間である
請求項5に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−57274(P2013−57274A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195317(P2011−195317)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】