説明

内燃機関の自動停止再始動装置

【課題】内燃機関の自動停止後の惰性回転中の再始動要件成立に応じて、速やかに内燃機関の再始動を行うことができる内燃機関の自動停止再始動装置を得る。
【解決手段】自動停止要件が成立して内燃機関の回転が停止するまでに再始動要件が成立した時に、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出してリングギア16と噛み合せて、内燃機関の再始動制御を行う再始動制御手段を備え、内燃機関の回転速度がゼロでない所定回転速度以下で再始動要件が成立した時に、ピニオン押し出し装置18でピニオンギア17を押し出すと共に、再始動要件成立時の内燃機関の回転速度に応じてスタータモータ19の駆動待ち時間の調整を行うスタータモータ待ち時間調整手段により、スタータモータ19を駆動させて速やかに再始動を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の運転中に所定の自動停止要件が成立した場合に内燃機関を自動停止させ、自動停止中に所定の再始動要件が成立した場合に内燃機関を再始動させる内燃機関の自動停止再始動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される内燃機関においては、消費燃料削減を主目的として、内燃機関の自動停止再始動装置(いわゆるアイドリングストップ装置)を採用したものがある。この内燃機関の自動停止再始動装置は、車両を運転中の運転者の減速、停車操作に応じた所定の自動停止要件が成立している場合に内燃機関を自動的に停止させ、運転者が車両を発進させる操作に応じた所定の再始動要件が成立した場合に内燃機関を自動的に再始動させるようにしている。
【0003】
このような内燃機関の自動停止再始動装置の再始動において、自動停止後の内燃機関の回転速度が惰性回転中に運転者が車両を発進させる操作(再始動要求動作)を行っても、内燃機関のクランク軸に連結されたリングギアと内燃機関の始動動作を行うスタータに設けたピニオンギアとの回転速度差があることによってピニオンギアとリングギアが噛み合うことが出来ず、内燃機関が停止するまで内燃機関の再始動を待つ必要があり運転者の再始動要求動作に対応できないという問題があった。
【0004】
上述の問題を解決するため、再始動要求動作に応じてリングギアとピニオンギアの回転速度を監視しながら、ピニオンギアの回転速度がリングギアの回転速度に同期後、ピニオンギアを移動させて、ピニオンギアとリングギアを噛み合わせて再始動を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−330813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、リングギアの回転速度とピニオンギアの回転速度を検出するセンサが必要であること、また、リングギアとピニオンギアの両者の回転速度を監視しながらピニオンギアとリングギアの回転速度が同期するようピニオンギアの回転速度を調整するためピニオンギア(スタータモータ)の制御手段が複雑になるという問題点があった。さらに、ピニオンギアの回転速度を調整するためにスタータモータに分巻コイルを使用しているので、スタータの装置構造が複雑になってスタータ重量及びコストが増大する可能性という問題点があった。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、ピニオンギアの回転速度、リングギアの回転速度を検出するセンサを設けず、リングギアとピニオンギアの両者の回転速度を監視する必要がなくてもピニオンギアとリングギアを噛み合わせることができ、また、ピニオンギアの回転速度を調整する分巻コイルを設けることなくスタータモータを駆動させて、スタータモータの制御手段やスタータの装置構造を簡易にすることができ、かつ、スタータの重量及びコストの増大を抑制することができる内燃機関の自動停止再始動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関の自動停止再始動装置は、内燃機関の運転中に所定の自動停止要件が成立した場合は内燃機関を自動停止させ、自動停止中に所定の再始動要件が成立した場合は内燃機関を再始動させる内燃機関の自動停止再始動装置であって、前記内燃機関の回転速度を演算する回転速度演算手段と、前記内燃機関のクランク軸に連結されたリングギアと噛み合い、このリングギアを回転駆動させるピニオンギア、このピニオンギアを前記リングギアと噛み合せるためのピニオン押し出し装置、前記ピニオンギアを回転駆動させるスタータモータ、及び前記スタータモータを駆動させるスタータモータ駆動装置を有するスタータと、前記内燃機関が自動停止後の惰性回転中に前記所定の再始動要件が成立した場合に、前記回転速度演算手段により演算された再始動要件成立時の内燃機関の回転速度が、前記スタータモータの駆動と前記ピニオンギアの押し出しの順番で前記スタータを動作することができる下限の回転速度よりも小さいときは、前記ピニオンギアを前記ピニオン押し出し装置によって押し出し、予め求めた複数の特性に基づいて演算した、前記スタータモータの駆動待ち時間の経過後に、前記スタータモータを前記スタータモータ駆動装置によって駆動させ、前記内燃機関の燃焼室へ燃料噴射弁から燃料供給を再開させる再始動制御手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る内燃機関の自動停止再始動装置によれば、内燃機関の運転中に自動停止要件が成立し内燃機関の惰性回転中の再始動要件成立時にピニオンギアを押し出すと共に再始動要件成立時の内燃機関の回転速度に応じてスタータモータの駆動待ち時間を調整するので、ピニオンギアの回転速度をリングギアの回転速度以上にすることなく、ピニオンギアとリングギアを確実に噛み合わせることができて速やかに再始動動作を行うことができる。また、ピニオンギアの回転速度の監視やピニオンギアの回転速度をリングギアの回転速度に同期するように調整することなく再始動動作が行えるので、ピニオンギア(スタータモータ)の制御手段、及びスタータモータの装置構造を複雑にすることがない。さらに、スタータモータの装置構造を複雑にすることがないのでスタータの重量、及びコストを増大させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の自動停止再始動の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の再始動制御手段の動作を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の再始動制御手段の動作を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置のスタータモータ駆動特性を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置のスタータモータ待ち時間調整手段の動作を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の内燃機関の回転速度低下特性を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置のスタータモータ待ち時間調整手段の動作を示すフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の惰性回転中の再始動要件成立時(第2の所定回転速度Ne2>再始動要求Nereq)の挙動を示すタイミングチャートである。
【図10】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の惰性回転中の再始動要件成立時(第2の所定回転速度Ne2>再始動要求Nereq)の挙動を示すタイミングチャートである。
【図11】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の惰性回転中の再始動要件成立時(再始動要求Nereq≧第1の所定回転速度Ne1)の挙動を示すタイミングチャートである。
【図12】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の惰性回転中の再始動要件成立時(第1の所定回転速度Ne1>再始動要求Nereq≧第2の所定回転速度Ne2)の挙動を示すタイミングチャートである。
【図13】この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置のスタータモータ待ち時間調整手段の動作を示すブロック図である。
【図14】この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置のスタータモータ待ち時間調整手段の動作を示すフローチャートである。
【図15】この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置のバッテリ電圧特性を示す図である。
【図16】この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置の惰性回転中の再始動要件成立時(第2の所定回転速度Ne2>再始動要求Nereq)の挙動を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の内燃機関の自動停止再始動装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置について図1から図12までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の構成を示す図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0013】
図1において、内燃機関(以下、エンジンと称す)1への空気を吸入する吸気管10の上流部には、エアフィルタ2が設けられている。このエアフィルタ2の下流部には、吸入空気の温度を検出する吸気温センサ3及びエアフロセンサ4が設けられている。そのエアフロセンサ4の下流部には、モータ5によって吸入空気の流量を調節するスロットル弁6と、スロットル弁6の開度を検出するスロットル開度センサ7が設けられている。
【0014】
そして、スロットル弁6の下流には、サージタンク9と、そのサージタンク9の吸気圧力を検出する吸気圧力センサ8が設けられている。サージタンク9の下流には、エンジン1の各気筒の燃焼室に吸入空気を供給する吸気マニホルド11が設けられている。各気筒の吸気ポート近傍に燃料噴射弁12が設けられ、燃焼室に供給された空気と燃料噴射弁12から供給された燃料の混合気を、各気筒の燃焼室に設けた図示しない点火プラグによって着火することで燃焼が発生する。その燃焼ガスは、排気管14や図示しない触媒を通して大気に排出される。
【0015】
また、エンジン1には、エンジン1の冷却水温を検出する図示しない水温センサや、エンジン1のクランク軸が所定角度回転する毎に信号を検出するクランク角センサ13が設けられている。このクランク角センサ13の検出信号を基に、後述するエンジンコントロールユニット(以下、ECUと称す)22のクランク角度演算手段や回転速度演算手段によりクランク角度の演算やエンジン1の回転速度Neの演算を行う。
【0016】
更に、エンジン1には、図示しないキーオンでの始動や再始動のために、エンジン1の図示しないクランク軸に連結されているリングギア16を回転駆動させるスタータ15が設けられている。また、エンジン1には、クランク軸には図示しないクラッチが接続されており、このクラッチは、後述するECU22からの駆動信号を受けて係合、開放動作を行い、さらに図示しない変速機と接続される。エンジン1の運転時の出力は、クラッチが係合状態で変速機を介して図示しない車輪に伝達される。また、このスタータ15は、リングギア16と噛み合い、リングギア16を回転駆動させるピニオンギア17と、そのピニオンギア17をリングギア16に噛み合せるためのピニオン押し出し装置18と、スタータモータ19を駆動させピニオンギア17を回転駆動させる直巻きコイル式のスタータモータ駆動装置20とを備えている。このスタータモータ駆動装置20とピニオン押し出し装置18は、ECU22からの駆動信号によって個々で駆動される。スタータ15の動作に関しては後述する。また、バッテリ21は、スタータ15及びECU22や上述の各種センサに電力を供給する。
【0017】
ECU22は、上述した各種センサの出力信号や、図示しないアクセルペダルの踏み込み量、図示しないブレーキペダルの踏み込み量等の検出信号を入力する入出力インターフェース22Aと、エンジン1の自動停止再始動の制御実施可否等を演算するCPU(マイクロプロセッサ)22Bと、CPU22Bの種々の演算で使用する制御プログラムや各種定数を格納するROM(リードオンリーメモリ)22Cと、CPU22Bでの演算結果を一時的に格納するRAM(ランダムアクセスメモリ)22Dと、CPU22Bからの演算結果に応じて燃料噴射弁12等に駆動信号を送る駆動回路22Eとを備えている。
【0018】
このECU22は、上述したクランク角センサ13の検出信号を基に、エンジン1の回転速度の演算を実行するのはもちろん、吸気温センサ3等の各種センサの検出信号を基に、ROM22Cに格納されている制御プログラムと制御定数を使用し、エンジン1の運転状態を判断するとともに、運転者の意思に応じた駆動信号や制御量を燃料噴射弁12やモータ5等に出力してエンジン1を制御する。また、ECU22は、本発明に係るエンジン1の自動停止要件や再始動要件の成立可否の判断を行うともに、自動停止要件成立後のスロットル弁6の制御量やクラッチの制御を行い、再始動要件成立時のスタータ15の制御を行う。
【0019】
ここで、スタータ15の動作について説明する。まず、キーオン始動や、エンジン1の自動停止後でエンジン1の回転が停止後の再始動要件成立時には、各種センサの入力信号を基に、ECU22により始動演算、再始動演算が行われる。ECU22からピニオン押し出し装置18へ駆動信号が送られ、通電が開始されることでピニオンギア17が押し出されてリングギア16に噛み合う。その後、ECU22からスタータモータ駆動装置20へ駆動信号が送られ、スタータモータ19へバッテリ21から電力が供給されてスタータモータ19が駆動し、ピニオンギア17、リングギア16を介してエンジン1が回転駆動を開始することでクランキングが開始される。
【0020】
また、エンジン1の自動停止後の惰性回転中の再始動要件成立後は、後述するようにクランク角センサ13の検出信号等を基に、ECU22によりエンジン1の回転速度Neに応じてECU22からスタータモータ駆動装置20又はピニオン押し出し装置18へ駆動信号が送られてスタータ15が駆動される。
【0021】
つぎに、この実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0022】
まず、エンジン1の自動停止再始動の動作について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。図2は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置の自動停止再始動の動作を示すフローチャートであり、ECU22において実行される。
【0023】
最初に、ステップ(以下、単に「S」と記す)101で、ECU22は、再始動要求フラグの判定を行う。この再始動要求フラグは、後述する自動停止制御の実施後、再始動要件が成立し再始動制御手段(再始動制御プログラム)の実施中のみに成立するフラグである。エンジン1が自動停止以外での停止や通常運転時は成立しない。
【0024】
エンジン1が通常運転時や自動停止以外での停止状態では、S101はYes判定であるのでS102に進み、No判定のとき、つまり再始動要求フラグが1の時は自動停止後、再始動制御手段を実施中であるので後述するS106に進む。
【0025】
S102に進むと、次は自動停止実施フラグの判定を行う。この自動停止実施フラグは、後述するエンジン1の自動停止要件が成立し、自動停止制御が実施された時のみ成立するフラグであり、エンジン1が通常運転時や自動停止以外の停止では成立しない。このS102でYes判定の時は、エンジン1が通常運転時または自動停止以外の停止であるので、S103に進み、No判定の時はエンジン1が自動停止中であるので、後述するS105に進む。
【0026】
S103に進むと、今度は自動停止要件の成立可否判定を行う。この自動停止要件は、例えば水温センサの検出温度が所定温度(例えば、65度)以上であるか、また車両速度が所定速度(例えば、15km/h)以上となったことを1度以上検出しているか、また現在の車両速度が所定速度(例えば、0km/h)以下であるか、またブレーキペダルは踏み込まれているか、またアクセルペダルの踏み込み量が所定値(例えば、踏み込み量なし)以下であるか等、運転者の減速、停車動作を判断する様々な情報を総合して自動停止要件の成立可否を行うようにしている。
【0027】
この自動停止要件が成立している場合は、S103の判定はYes判定となるので、S104に進んで自動停止制御を実施すると共に自動停止実施フラグを1にしてS105に進む。S104で自動停止制御が実施されると、燃料噴射弁12への駆動信号を停止してエンジン1への燃料供給を停止すると共に、スロットル弁の制御量を制限する。さらに、クラッチを開放してエンジン1と変速機との連結状態を解除する等の自動停止制御が実施される。自動停止制御でのスロットル弁6の制御量を制限し、エンジン1とクラッチとの係合状態を解除することで、自動停止制御後のエンジン1の回転速度Neの回転変動を抑制できるので、エンジン1の回転速度Neは、一律の割合で低下させることができる。一方、S103でNo判定の時は、例えば車両速度が所定速度以上になったことを1度も検出していない等で自動停止要件の一条件以上が成立していないのでリターンされる。
【0028】
S105に進むと、次は再始動要件の成立可否判定を行う。この再始動要件は、例えば、ブレーキペダルの踏み込み量が所定値(例えば、踏み込み量なし)以下であるか、またアクセルペダルが所定値(例えば、踏み込み量なしに対し1割以上の踏み込み量)以上であるか等、運転者の発進意思を判断する様々な情報や、吸気温センサ3等のエンジン1に設けているセンサ等に電力を供給するバッテリ21の状態等を総合して、再始動要件の成立可否判定を行うようにしている。
【0029】
S105において、Yes判定の時は、再始動要件が成立しているので、S106に進み、後述する再始動制御手段を実行するとともに、回転速度演算手段によって演算された、再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neを再始動要求NereqとしてECU22内のRAM22Dに格納する。この再始動要求Nereqは、後述する再始動制御手段の実行が終了するまではRAM22Dに格納され、再始動制御手段の実行が終了するとRAM22Dから消去される。一方、S105でNo判定の時は、ブレーキペダルが踏み込まれている等、再始動要件の一つ以上の条件が成立しておらず、エンジン1の自動停止状態を継続するためリターンされる。
【0030】
上述のように、エンジン1の自動停止と再始動が実施される。次に、S106で実行する再始動制御手段について説明する。本発明の実施の形態1に係る再始動制御手段は、図3に示すブロック図の流れで再始動制御が実行される。まず、上述のS105において再始動要件が成立したときの再始動要求Nereqに応じて、再始動制御動作判定を実施する。この再始動制御動作判定に関しては後述する。この再始動制御動作判定に応じて、燃料供給の再開のみを行って再始動制御完了判定を行う「再始動制御手段1(再始動制御プログラム1)」と、スタータモータ駆動と、ピニオンギア押し出し条件判定と、ピニオンギア押し出しを行い、燃料供給を再開して再始動制御完了判定を行う「再始動制御手段2(再始動制御プログラム2)」と、ピニオンギア押し出しと、スタータモータの待ち時間の調整(スタータモータ待ち時間調整手段)と、スタータモータ駆動を行い、燃料供給を再開して再始動完了判定を行う「再始動制御手段3(再始動制御プログラム3)」に分けられる。次に再始動制御手段について説明する。再始動制御手段のフローチャートを図4に示す。
【0031】
まず、S201で再始動要求フラグの判定を行う。図4に示す再始動制御手段は、再始動要件が成立して初めて実行されるので、初回実行時には再始動要求フラグは成立していない。2回目以降の実行では後述するS202で再始動要求フラグが成立する。再始動制御手段の初回実行時ではS201の判定はYes判定であるので、S202に進む。一方、2回目以降の実行時は再始動要求フラグが成立しているので、No判定となり、後述するS208に進む。
【0032】
S202に進むと、前述したように初回の再始動制御を実行するので、再始動要求フラグが1になると共に、自動停止実施フラグを0(ゼロ)にしてS203に進み、S203、S204で再始動要求Nereqと所定回転速度Ne1とNe2との比較を行う。このS203、S204で行う判定が図3のブロック図で言う再始動制御動作判定に相当する。S203に進むと、ECU22内のRAM22Dから再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neを格納した再始動要求Nereqを読み込んで、第1の所定回転速度Ne1との比較を行う。
【0033】
エンジン1の自動停止要件が成立すると、様々な自動停止制御が実行されてエンジン1は惰性回転しながらエンジン1の回転速度Neは徐々に低下していく。しかし、エンジン1が停止するまでの期間の全てでスタータ15が駆動して再始動する必要があるかというとそうではなく、燃料噴射弁12からエンジン1へ燃料供給を再開するだけでエンジン1の再始動が可能な下限の回転速度Neがある。つまり、その下限の回転速度になるまでに再始動要件が成立した場合は一般的な燃料カットからの復帰と同様になり、スタータ15を駆動させる必要がないので、スタータ15の駆動判定としてその下限の回転速度を第1の所定回転速度Ne1とし、S203で再始動時要求Nereqと第1の所定回転速度Ne1とを比較する。この第1の所定回転速度Ne1は、例えば550r/minに設定されており、ECU22内のROM22Cに予め格納されている。
【0034】
S203でYes判定の時は、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1以上、つまり燃料噴射弁12からの燃料供給のみでエンジン1が再始動可能であり、スタータ15を駆動させる必要がないので図3で言うと再始動制御手段1となってS207に進む。S203でNo判定の時は、燃料噴射弁12からの燃料供給だけではエンジン1の再始動が困難な回転速度での再始動要件成立になるので、S204に進む。
【0035】
S207に進むと、燃料噴射弁12からエンジン1への燃料供給を再開して、一旦再始動制御手段を終了してリターンする。また、S204に進んだ場合は、再始動要求Nereqと第2の所定回転速度Ne2を比較する。
【0036】
エンジン1の回転速度Neが第1の所定回転速度Ne1より小さくなると、燃料噴射弁12からの燃料供給のみではエンジン1の再始動が困難になるので、エンジン1の再始動にはスタータ15の補助が必要になる。しかし、スタータモータ駆動装置20によるスタータモータ19の駆動なしで、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出しても、クランク軸に連結されたリングギア16の回転速度(エンジン1の回転速度Neと同義になるので、以下はエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)と称す)とピニオンギア17の回転速度Nmとの回転速度差(Ne−Nm)が大きく、ピニオンギア17とリングギア16は噛み合うことが困難である。そこで、再始動要件成立時に、まずスタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19を駆動させて、ピニオンギア17を回転駆動させた後、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出す。この動作によって、ピニオンギア17の回転速度Nmとエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)との回転速度差を小さくすることができてリングギア16と噛み合うことが可能になる。つまり、スタータモータ19の駆動、ピニオンギア17の押し出しの順番でスタータ15を動作することができる下限の回転速度を第2の所定回転速度Ne2としている。この第2の所定回転速度Ne2は、例えば250r/minに設定され、ECU22内のROM22Cに予め格納されている。
【0037】
S204で再始動要求Nereqと第2の所定回転速度Ne2とを比較して、Yes判定の時は、スタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19を駆動させて、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出してエンジン1の再始動を補助するためS206に進む。一方、S204でNo判定の時は、ピニオンギア17を押し出した後、スタータモータ19を駆動させてエンジン1の再始動を補助するためS205に進む。S206に進む場合は、図3で言うと再始動制御手段2となり、S205に進む場合は、図3で言うと再始動制御手段3となる。
【0038】
S205に進むと、ピニオンギア17をピニオン押し出し装置18によって押し出して、一旦再始動制御手段を終了してリターンする。また、S206に進んだ場合はスタータモータ駆動装置20によってスタータモータ19を駆動させ、ピニオンギア17の回転駆動が開始されて、一旦再始動制御手段を終了してリターンする。
【0039】
2回目の再始動制御手段が実行されると、再始動制御手段の実施中であり、再始動要求フラグが成立しているので、S201でNo判定となり、S208に進む。S208に進むと、燃料供給を実施したかの判定を行う。S208でYes判定の場合は前述したS207や後述するS214での燃料供給が再開されているので、S209に進んで再始動が完了したかの判定を行う。一方、S208でNo判定の場合は、未だ燃料供給が再開できない状態であるので、S211に進む。
【0040】
S209に進むと再始動が完了したかの判定行う。この判定は、例えばエンジン1の回転速度Neが所定回転速度以上になっていると判定した場合にYes判定となる。この所定回転速度は、再始動要求Nereqに応じて、別々の値がECU22内のROM22Cに格納されており、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1以上の時は、例えば850r/min、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1より低い時は、例えば500r/minに設定されている。
【0041】
S209において、Yes判定の場合は、エンジン1の再始動が完了判定、例えばエンジン1の回転速度Neが前述の所定回転速度以上になっているので、S210に進んで再始動制御を終了する。この再始動制御の終了は、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1以上の時は、スタータ15は未駆動であるためスタータ15の駆動停止動作はないが、スロットル弁6の制御量を通常制御量にする。また、クラッチを開放状態から係合状態に移行する等の自動停止再始動中に実行していた様々な制御を終了する。また、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1より低い時は、スタータ15が駆動して再始動制御手段を実行しているので、ピニオン押し出し装置18によるピニオンギア17の押し出しを終了すると共に、スタータモータ駆動装置20によるスタータモータ19の駆動を終了する。また、スロットル弁6の制御量を通常制御量にする。また、クラッチを開放状態から係合状態に移行する等の自動停止再始動中に実行していた様々な制御を終了する。そして、再始動要求フラグを0にして、再始動制御手段が終了しリターンされる。
【0042】
S209でNo判定の時は、エンジン1の再始動が未だ完了していない、例えばエンジン1の回転速度Neが所定回転速度以上になっていないので、リターンされる。
【0043】
S208でNo判定となりS211に進んだ場合は、スタータモータ19が駆動中か否かの判定を行う。この判定はS204で再始動要求Nereqと第2の所定回転速度Ne2の比較結果を受けての判定であり、Yes判定つまりスタータモータ19が駆動している場合にはS212に進み、No判定つまりピニオンギア17が押し出されている場合はS215に進む。このS211の判定は、再始動制御手段の初回実行時にS204で行う判定と同義になるので、再始動要求Nereqと第2の所定回転速度Ne2との比較判定にしても何ら問題はない。
【0044】
S211がYes判定でS212に進んだ場合は、スタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19が駆動されてピニオンギア17が回転駆動を開始しているので、次はピニオン押し出し条件の成立可否判定を行う。エンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)はスロットル弁6の制御量を制限する等の自動停止制御実行により惰性低下中のエンジン1の回転変動が抑制されながら時間経過と共に低下していく。一方、リングギア16と噛み合っていないピニオンギア17の回転速度Nmは、図5に示すスタータモータ駆動装置20によるスタータモータ19の駆動時間とピニオンギア17の回転速度Nmの関係があるので、時間経過と共に上昇していく。図5のスタータモータ駆動時間とピニオンギア17の回転速度Nmとの関係(スタータモータ駆動特性)は、ECU22内のROM22Cに予め実験等によって求めて格納されているので、ピニオンギア17の回転速度Nmはスタータモータ19の駆動時間を計測することで知ることができる。従って、エンジン1の回転速度Neとピニオンギア17の回転速度Nmとの回転速度差(Ne−Nm)は、スタータモータ19の駆動時間を用いることで算出することができる。
【0045】
つまり、スタータモータ19の駆動時間が所定時間後には、エンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)とピニオンギア17の回転速度Nmとの回転速度差がリングギア16とピニオンギア17が噛み合い回転速度差になっていることになり、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出すことができるから、スタータモータ19の駆動時間が所定時間経過したか否かをピニオン押し出し条件としてS212で判定する。
【0046】
S212でYes判定つまり、スタータモータ19の駆動時間が所定時間経過している場合は、エンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)とピニオンギア17の回転速度Nmとの回転速度差が噛み合い回転速度差になっていることになるのでS213に進み、No判定の場合はスタータモータ19の駆動時間が所定時間経過していない、つまりエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)とピニオンギア17の回転速度Nmとの回転速度差が噛み合い回転速度差になっていないので、一旦再始動制御手段を終了してリターンする。
【0047】
S213に進むと、ピニオン押し出し装置18によりピニオンギア17を押し出して、S214に進み、燃料噴射弁12からエンジン1の燃焼室へ燃料供給を再開して、一旦再始動制御手段を終了してリターンする。
【0048】
また、S211でNo判定の場合はS215に進む。S215に進んだ場合は、再始動要求Nereqは第2の所定回転速度Ne2より小さく、ピニオンギア17はピニオン押し出し装置18により押し出し中、かつスタータモータ19が駆動していないので回転駆動していない。また、ピニオンギア17が回転駆動していないため、エンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)との回転速度差が大きく、リングギア16とピニオンギア17の噛み合いが困難である。そこで、ピニオンギア17の押し出し中にスタータモータ19を駆動してピニオンギア17を回転駆動させて、リングギア16とピニオンギア17を噛み合わせるためのスタータモータ待ち時間調整手段(スタータモータ待ち時間調整プログラム)がS215で実行される。
【0049】
ここで、S215で実行されるスタータモータ待ち時間調整手段について説明する。ピニオンギア17が押し出されてリングギア16と噛み合うまでは、ピニオンギア17の停止位置とリングギア16との間に距離があるので噛み合い完了時間Te、例えば0.06sec程度の時間を要する。また、スタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19が駆動を開始してもピニオンギア17が回転駆動するまでは無効時間Td、例えば0.01sec程度の時間を要する。この無効時間Tdから噛み合い完了時間Teまでに、スタータモータ19の駆動によるピニオンギア17の回転速度Nmとエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)との回転速度差が噛み合い回転速度差になれば、ピニオンギア17の押し出し中にスタータモータ19を駆動させながらリングギア16とピニオンギア17を噛み合わせることが可能であるので、ピニオンギア17の押し出し後からスタータモータ19の駆動までの待ち時間を設定する。そのスタータモータ待ち時間調整手段の動作は図6のようになる。この図6は、左側のグラフが図7、右側のグラフが図5をそれぞれ示す。スタータモータ駆動待ち時間は、図6に示すように、噛み合い完了時間Teと再始動要求時のエンジン回転速度Nereqと無効時間Td等のパラメータを用いて算出する。
【0050】
まず、噛み合い完了時間Teと再始動要求Nereqから噛み合い完了時間後のエンジン1の回転速度Neを求める。第2の所定回転速度Ne2より小さい回転速度からエンジン1が停止するまでに要する時間は実験等によって求めた図7に示すような、内燃機関の回転速度低下特性の関係があり、予めECU22内のROM22Cに格納されている。図6の左側に示すように、再始動要求Nereqと図7の関係と噛み合い完了時間Teを用いれば、再始動要求Nereqに対応する時間を基準時間とする噛み合い完了時間Te後のエンジン1の回転速度Neが算出できる。
【0051】
また、噛み合い完了時間Teまでのピニオンギア17の回転速度Nmは図5に示すスタータモータ19の駆動時間とピニオンギア17の回転速度Nmとの関係があるので、スタータモータ19の駆動時間でピニオンギア17の回転速度Nmが算出できる。逆を言うと、図6の右側に示すように、ピニオンギア17の回転速度Nmを噛み合いに必要な回転速度まで到達するのに必要な時間も算出できる。また、無効時間Tdは図5から算出される。前述したように図5の関係もECU22内のROM22Cに予め格納されている。
【0052】
従って、再始動要件成立時(再始動要求Nereqに対応する時間)を基準時間として図7からピニオンギア17の押し出し後から噛み合い完了時間Teまでのエンジン1の回転速度Ne(Te)を算出する。このエンジン1の回転速度Ne(Te)と図5の関係を用いると、再始動要件成立後にピニオンギア17の押し出しとスタータモータ19の駆動を実行した場合に、ピニオンギア17がエンジン1の回転速度Ne(Te)に到達するまでのスタータモータ駆動時間Tm(Ne)が算出できる。
【0053】
このスタータモータ駆動時間Tm(Ne)が噛み合い完了時間Te以下の値であれば、ピニオンギア17の押し出し中、もしくは同時にスタータモータ19を駆動させることでリングギア16とピニオンギア17を噛み合わせることができる。しかし、図5に示すように、スタータモータ19を駆動させてもピニオンギア17が回転駆動できない無効時間Tdがあり、スタータモータ駆動時間Tm(Ne)がこの無効時間Td以下の場合は再始動要件成立時の再始動要求Nereqが充分低く、スタータモータ19を駆動させなくても噛み合うことが可能である。また、スタータモータ19を駆動させた場合、ピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)を越えた状態で噛み合わせる可能性があるので、スタータモータ19の駆動を許可しないようにする。このような演算及び判定をS215で行う。
【0054】
S215でスタータモータ待ち時間調整手段が実行されると、まず図8のS301でスタータモータ駆動時間Tm(Ne)の計算実施可否を判定する。このスタータモータ駆動時間Tm(Ne)は後述するS303、S304に従って算出されるので、スタータモータ待ち時間調整手段の1回目のルーチンでは当然未計算であり、Yes判定となってS302に進み、2回目以降の実行時はスタータモータ駆動時間Tm(Ne)が計算されているので、後述するS305に進む。
【0055】
S302に進むと、予めECU22内のROM22Cに格納されている噛み合い完了時間Te、無効時間Tdと、RAM22Dに格納されている再始動要求Nereqを読み込み、S303に進む。
【0056】
次に、S303に進むと、読み込んだ再始動要求Nereqに対応する時間を基準時間として、噛み合い完了時間Te後のエンジン1の回転速度Ne(Te)を、図6の左側の関係(図7の関係)を用いて算出して、S304に進む。
【0057】
次に、S304に進むと、図6の右側の関係(図5の関係)を用いて、再始動要求Nereqが、噛み合い完了時間Te後のエンジン1の回転速度Ne(Te)に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間Tm(Ne)を算出して、S305に進む。
【0058】
そして、S305に進むと、スタータモータ駆動時間Tm(Ne)がS302で読み込んだ噛み合い完了時間Teと無効時間Tdの間にあるかの判定を行う。スタータモータ駆動時間Tm(Ne)が噛み合い完了時間Teと無効時間Tdの間にあれば、ピニオンギア17の押し出し中にスタータモータ19を駆動させることで、リングギア16とピニオンギア17が噛み合わせることができる。S305でYes判定の場合はS306へ進み、No判定の時はS307に進む。
【0059】
S306に進むと、噛み合い完了時間Teとスタータモータ駆動時間Tm(Ne)との時間差(Te−Tm(Ne))を計算し、その時間差が経過したかの判定を行う。この噛み合い完了時間Teとスタータモータ駆動時間Tm(Ne)との時間差がスタータモータ19の駆動待ち時間になる。S306でYes判定ならば、スタータモータ19の駆動待ち時間経過となるので、再始動制御手段のS216に進みスタータモータ19をスタータモータ駆動装置20により駆動させて、S214に進み燃料噴射弁12からの燃料供給を再開して、再始動制御手段を一旦終了する。S306でNo判定の時は、スタータモータ19の駆動待ち時間を経過していないので、スタータモータ待ち時間調整手段を一旦終了すると共に再始動制御手段を一旦終了してリターンする。
【0060】
一方、S305でNo判定の時は、再始動要求Nereqが低くエンジン1の回転速度Neが充分低下してエンジン1の回転が停止に近い状態でリングギア16とピニオンギア17を噛み合わせることになりスタータモータ19を駆動しても即噛み合い完了になるうえ、スタータモータ19を駆動させた場合、ピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)を越えた状態で噛み合わせることになって噛み合いが失敗する可能性が高くなる。そこで、S307においてスタータモータ19の駆動を、噛み合い完了時間Te以上経過するまで禁止するため、ピニオンギア17が押し出されてからの時間が噛み合い完了時間Te以上経過しているかの判定を行う。この場合、噛み合い完了時間Teがスタータモータ19の駆動待ち時間になる。
【0061】
S307に進むと、ピニオンギア17の押し出し開始からの時間が噛み合い完了時間Te以上が経過したかの判定を行い、ピニオンギア17の押し出し開始からの時間が噛み合い完了時間Te以上経過している場合はYes判定となり、ピニオンギア17とリングギア16の噛み合いが完了していると判断して、再始動制御手段のS216に進みスタータモータ19をスタータモータ駆動装置20により駆動させて、S214に進み燃料噴射弁12からの燃料供給を再開し再始動制御手段を一旦終了してリターンする。S307でNo判定の場合は、ピニオンギア17の押し出し開始からの時間が噛み合い完了時間Teだけ経過しておらず、ピニオンギア17とリングギア16の噛み合いが完了していないと判断して一旦再始動制御手段を終了する。
【0062】
以上、本実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置において、自動停止制御から再始動制御までの動作を図9から図12までのタイミングチャートを用いて説明する。図9は自動停止制御開始から再始動制御終了までのタイミングチャートであって、自動停止実施フラグ(A)、再始動要求フラグ(B)、ピニオン押し出しフラグ(C)、スタータモータ駆動フラグ(D)、クラッチ係合状態(E)、内燃機関回転速度Ne(F)、スロットル弁制御量(G)をそれぞれ示している。尚、内燃機関回転速度Ne(F)において、実線は再始動制御手段を実行する場合の回転速度、一点鎖線は再始動制御手段を実行しない場合の回転速度を示している。
【0063】
図9から図12までにおける再始動要件が成立しない場合の自動停止時のエンジン1の回転速度Neの挙動について最初に説明する。時刻T1で自動停止要件が成立すると、燃料噴射弁12からの燃料供給が停止されるとともに、スロットル弁制御量(G)が所定制限量TH_limに制限される。また、クラッチ係合状態(E)を開放動作する等の自動停止制御を実施し、自動停止実施フラグ(A)が1にセットされる。スロットル弁制御量(G)を制限すること、またクラッチ係合状態(E)を開放動作することでエンジン1の回転速度Neの回転変動が抑制され、エンジン1の回転速度Neは一律の割合で低下していく。そして、時刻T2以降でエンジン1の回転速度Neは第1の所定回転速度Ne1以下になり、時刻T3以降でエンジン1の回転速度Neは第2の所定回転速度Ne2以下になる。そして、時刻T4でエンジン1は完全停止する。
【0064】
前述のようなエンジン1の回転速度Neの挙動に対して、まず図9、図10でスタータモータ待ち時間調整手段が動作する場合、図3で言うと再始動制御手段3について説明する。まず、時刻T1で自動停止要件が成立すると燃料噴射弁12からの燃料供給が停止されるとともに、スロットル弁制御量(G)が所定制限量TH_limに制限され、またクラッチ係合状態(E)を開放動作する等の自動停止制御を実施し、自動停止実施フラグ(A)が1にセットされる。
【0065】
時刻T2、時刻T3になっても再始動要件が成立しないので自動停止制御が継続されて、時刻T5で再始動要件が成立する。時刻T5で運転者がブレーキペダルを離してアクセルペダルを踏む等により再始動要件が成立すると、エンジン1の回転速度Ne(F)は第1の所定回転速度Ne1、第2の所定回転速度Ne2よりも低いので、ピニオン押し出しフラグ(C)が1になりピニオンギア17を押し出し始めると同時に、スタータモータ待ち時間調整手段によって噛み合い完了時間Teまでの時間内にスタータモータ19を駆動するか否かの判定が実行される。
【0066】
まず、図9の場合は、噛み合い完了時間Teまでにスタータモータ19を駆動する場合の挙動であり、時刻T6でスターモータ駆動フラグ(D)が1になると共にスタータモータ19の駆動を開始し、燃料供給も再開する。そして、ピニオンギア17とリングギア16が時刻T7で噛み合い、エンジン1がスタータ15によって加速され、燃料供給も再開しているので、エンジン1の燃焼が再開して、エンジン1の回転速度Neが上昇して、時刻T8で再始動が完了する。
【0067】
時刻T8で再始動完了判定になると、再始動制御手段を終了して、ピニオン押し出しフラグ(C)と、スタータモータ駆動フラグ(D)が0(ゼロ)になり、スタータ15の駆動を停止すると共に、スロットル弁制御量(G)は通常の制御量へ、またクラッチを係合動作する(図9(E))等の通常動作に移行して、再始動要求フラグ(B)を0(ゼロ)にする。
【0068】
次に、図9と異なり、再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neが低い場合の図10について説明する。図10は、スタータモータ待ち時間調整手段の判定において、スタータ駆動待ち時間が噛み合い完了時間Te以上もしくは無効時間Td以下となった場合は噛み合い完了時間Teまでスタータモータ19は駆動せず、噛み合い完了時間Te経過後にスタータモータ19を駆動して再始動制御を行ったときのタイミングチャートである。時刻T5で再始動要件が成立して自動停止実施フラグ(A)が0になり、再始動要求フラグ(B)とピニオン押し出しフラグ(C)が1となり再始動制御が始まるが、スタータモータ待ち時間調整手段での結果がスタータモータ19を駆動しないという結果となるので、スタータモータ19の駆動は噛み合い完了時間Te経過後に駆動することになる。
【0069】
時刻T6でピニオン押し出しから噛み合い完了時間Teが経過するので、噛み合いが完了していると判断し、スタータモータ19を駆動してエンジン1を加速すると共に燃料供給を再開する。その後、エンジン1の回転速度Neの上昇と燃料供給の再開によってエンジン1の燃焼が再開し、時刻T7で再始動が完了する。
【0070】
時刻T7で再始動が完了すると、再始動制御手段を終了して、ピニオン押し出しフラグ(C)と、スタータモータ駆動フラグ(D)が0になり、スロットル弁制御量(G)は通常の制御量へ、またクラッチを係合動作する(図10(E))等の通常動作に移行して、再始動要求フラグ(B)を0にする。
【0071】
次に、スタータ15が駆動しなくても再始動が完了する再始動制御手段1について説明する。タイミングチャートは図11に示すようになる。時刻T1で自動停止要件が成立すると、燃料噴射弁12からの燃料供給が停止されるとともに、スロットル弁制御量(G)を所定制限量TH_limに制限され、またクラッチ係合状態(E)を開放動作する等の自動停止制御を実施し、自動停止実施フラグ(A)が1にセットされる。
【0072】
図11において、エンジン1の回転速度Ne(F)が時刻T1から時刻T2の間の時刻T5で運転者がブレーキペダルを離してアクセルペダルを踏む等により再始動要件が成立すると、第1の所定回転速度Ne1以上のエンジン1の回転速度Neであるので、スタータ15が駆動する必要がないので、燃料噴射弁12からの燃料供給が再開されるとともにスロットル弁制御量(G)が再始動時の開度に設定される。また、自動停止実施フラグ(A)が0になり、再始動要求フラグ(B)が1にセットされる。
【0073】
燃料噴射弁12からの燃料供給が再開されたことで、エンジン1の燃焼が再開してエンジン1の回転速度Neが上昇に転じて時刻がT6になると、再始動完了と判断して再始動制御手段を終了して、スロットル弁制御量(G)を通常制御に応じた制御量に切り替えると共に、クラッチを係合動作する(E)等の通常動作に移行して、再始動要求フラグ(B)を0にする。また、再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1以上であるので、スタータ15を駆動させることがなく、ピニオン押し出しフラグ(C)とスタータモータ駆動フラグ(D)は0のままとなる。
【0074】
次に、図12について説明する。図12は、本実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置における再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neが高く、スタータモータ19の駆動後、ピニオンギア17を押し出す再始動制御手段2によって再始動制御を行う場合のタイミングチャートである。
【0075】
図12において、時刻T1で自動停止要件が成立すると、燃料噴射弁12からの燃料供給が停止されるとともに、スロットル弁制御量(G)を所定制限量TH_limに制限され、またクラッチ係合状態(E)を開放動作する等の自動停止制御を実施し、自動停止実施フラグ(A)が1にセットされる。
【0076】
次に、時刻T2の第1の所定回転速度Ne1までエンジン1の回転速度が低下しても再始動要件は成立していなので自動停止制御を継続する。時刻T5で再始動要件が成立すると、再始動要求フラグ(B)が1にセットされると共に、再始動要件成立時の再始動要求Nereqが第1の所定回転速度Ne1より低く、第2の所定回転速度Ne2以上の判定となるので、スタータモータ駆動フラグ(D)が1になり、スタータモータ19が駆動してピニオンギア17が回転駆動し始める(図12(F)の破線参照)。
【0077】
そして、時刻T6でピニオンギア17の回転速度Nmとエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)との回転速度差が噛み合い回転速度差になったので、ピニオン押し出し条件が成立しピニオン押し出しフラグ(C)が1にセットされ、ピニオンギア17が押し出されると共に、燃料噴射弁12からの燃料供給が再開される。そして、時刻T7でリングギア16とピニオンギア17が噛み合い、スタータ15でのエンジン1の加速が開始されることと、燃料噴射弁12からの燃料供給の開始によりエンジン1の燃焼が再開されたことで、エンジン1の回転速度Neは上昇していき、時刻T8で再始動完了となる(図12(F))。
【0078】
時刻T8で再始動完了となると、再始動制御手段を終了して、ピニオン押し出しフラグ(C)と、スタータモータ駆動フラグ(D)が0になり、スタータ15の駆動を停止すると共に、スロットル弁制御量(G)は通常の制御量へ、またクラッチを係合動作する(図12(E))等の通常動作に移行して、再始動要求フラグ(B)を0にする。
【0079】
以上、本発明の実施の形態1に係る内燃機関の自動停止再始動装置によれば、リングギア16とピニオンギア17の回転速度の検出するセンサ等を設けることがなくても、再始動要件成立に応じてリングギア16とピニオンギア17を確実に噛み合わせることができて速やかに再始動制御を行うことができるので、スタータ15の制御手段を複雑にすることがない。また、図5に示すような直巻きコイルのスタータモータ駆動特性を用いることで、スタータ15の装置構造が簡易に出来ると共にスタータ15の重量やコストの増大を抑制することができる。
【0080】
また、再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neが低い場合、つまりピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)を超える可能性が高い再始動要件では、スタータモータ待ち時間調整手段によりピニオンギア17とリングギア16の噛み合い完了時間Teまでスタータモータ19を駆動させないので、ピニオンギア17とリングギア16の噛み合いが失敗することはなく内燃機関の再始動を行うことができる。
【0081】
さらに、エンジン1の自動停止中のスロットル弁6の制御量を制限するので、自動停止後のエンジン1の回転変動を抑制することができ、ピニオンギア17とリングギア16を確実に噛み合わせることができるので、速やかに再始動を行うことができる。
【0082】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置について図13から図16までを参照しながら説明する。なお、この発明の実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置の構成は、上記の実施の形態1と同じである。
【0083】
この実施の形態2のシステム構成図、内燃機関の自動停止再始動装置の制御フローチャート、再始動制御手段のブロック図及び制御フローチャートは、上記の実施の形態1と異なる点はなく、相違点はスタータモータ待ち時間調整手段(スタータモータ待ち時間調整プログラム)だけであるので、実施の形態1と同様の箇所の説明は省略して相違箇所のみ説明する。
【0084】
この実施の形態2におけるスタータモータ待ち時間調整手段の動作は図13に示すようになり、実施の形態1に対して、バッテリ電圧の変動を考慮してスタータモータの駆動待ち時間を設定するようにしており、詳細は図14のフローチャートを参照しながら説明する。なお、図13は、図6と同様に、左側のグラフが図7、右側のグラフが図5をそれぞれ示す。
【0085】
まず、スタータモータ待ち時間調整手段が実行されると、S401でスタータモータ駆動時間Tm(Ne)の計算実施可否を判定する。このスタータモータ駆動時間Tm(Ne)は後述する順序に沿って計算され、スタータモータ待ち時間調整手段の1回目のルーチンでは当然未計算であるので、Yes判定となりS402に進み、2回目以降の実行時はスタータモータ駆動時間Tm(Ne)が計算されているので、後述するS407に進む。
【0086】
S402に進むと、予めECU22内のROM22Cに格納されている、噛み合い完了時間Te、無効時間Tdと、RAM22Dに格納されている再始動要求Nereqを読み込み、S403に進む。
【0087】
次に、S403に進むと、読み込んだ再始動要求Nereqに対応する時間を基準時間として、噛み合い完了時間Te後のエンジン1の回転速度Ne(Te)を図13の左側の関係(図7の関係)から算出して、S404に進む。
【0088】
次に、S404に進むと、図13の右側の関係(図5の関係)を用いて、再始動要求Nereqが、噛み合い完了時間Te後のエンジン1の回転速度Ne(Te)に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間Tm(Ne)を算出して、S405に進む。
【0089】
そして、S405に進んで、今度はバッテリ21の電圧最小値VB_minを読み込む。このバッテリ21の電圧最小値VB_minは、キーオン始動やその他自動停止再始動時でスタータ15が動作した時のバッテリ21の電圧が大きく変化した時のバッテリ21の電圧値の最小値であり、ECU22が動作中は常にECU22内のRAM22Dにスタータ15が駆動した時にバッテリ21の電圧が最小値になるたびに更新される。
【0090】
次に、S406に進み、噛み合い完了時間Teと予め実験等によって求めてECU22内のROM22Cに格納している図15に示すバッテリ21の電圧VBと噛み合い完了時間Teの関係(バッテリ電圧特性)から、電圧最小値における噛み合い完了時間Te(VB_min)を算出して、その差分、つまり噛み合い完了遅れ時間ΔTe(=Te−Te(VB_min))を算出してS407に進む。
【0091】
ここで、噛み合い完了遅れ時間の算出について説明する。通常、キーオン始動や自動停止から再始動制御が開始されてスタータ15が駆動するたびにバッテリ21の電圧は大きく変化する。また、ピニオン押し出し装置18により押し出されるピニオンギア17がリングギア16に噛み合うまでの噛み合い完了時間とバッテリ21の電圧は図15のような関係になる。バッテリ21の電圧が低いほどピニオン押し出し装置18への供給電力が小さくなるので、ピニオンギア17とリングギア16が噛み合うまでの噛み合い完了時間は遅くなる傾向になる。
【0092】
しかし、再始動制御中のバッテリ21の電圧変化値はスタータモータ19が駆動されることでわかるが、その時にはピニオンギア17は押し出し中であり、電圧変化に応じてスタータモータ19の駆動力を変更してもピニオンギア17の回転速度上昇を抑制することが困難で、ピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)より大きくなってピニオンギア17とリングギア16の噛み合いが失敗する可能性がある。そこで、バッテリ21の電圧最小値VB_minを用いて、図15の関係から噛み合い完了遅れ時間ΔTeを算出して、その噛み合い完了遅れ時間分だけスタータモータ19の駆動開始時間を遅らせることで、確実な噛み合いを実現することができる。また、バッテリ21の電圧最小値を用いることで、再始動制御手段の実行時点の最大のスタータモータ19の駆動遅れを設定することになるので、ピニオンギア17の回転速度Nmの過度の上昇を抑制できる、つまりピニオンギア17の回転速度Nmをエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)以上になることを極力少なくすることができる。
【0093】
S407に進むと、スタータモータ駆動時間Tm(Ne)と噛み合い完了遅れ時間ΔTeの和(加算時間)がS402で読み込んだ噛み合い完了時間Teと無効時間Tdの間にあるかの判定を行う。スタータモータ駆動時間Tm(Ne)と噛み合い完了遅れ時間ΔTeの和が噛み合い完了時間Teと無効時間Tdの間にあれば、ピニオンギア17の押し出し中にスタータモータ19を駆動させることで、リングギア16とピニオンギア17を噛み合わせることができるので、S407でYes判定の場合はS408へ進み、No判定の時はS409に進む。
【0094】
S407において、噛み合い完了遅れ時間ΔTeを噛み合い完了時間Teには加算していないが、スタータモータ19が駆動されていない場合はピニオン押し出し装置18への電力変化が少ないから、ピニオンギア17とリングギア16の噛み合い完了時間は最も速くなる。また、スタータモータ19が駆動される場合は噛み合い完了時間は変化するが、バッテリ21の電圧変動はバッテリ21の状態により毎回同じとは限らない。また、スタータモータの駆動待ち時間が長い場合、つまりスタータモータ19の駆動時間が短くなる再始動要件成立時は、噛み合い完了時間Teの変化は大きくないので、噛み合い完了遅れ時間ΔTeを考慮すると、噛み合いに失敗する可能性がある。そのため、スタータモータ19が駆動されていない場合はECU22内のROM22Cに格納されている噛み合い完了時間Teのみで比較演算するようにしている。
【0095】
そして、S408に進むと、噛み合い完了時間Teとスタータモータ駆動時間Tm(Ne)及び噛み合い完了遅れ時間ΔTeの加算時間との時間差(Te−Tm(Ne)+ΔTe)を計算し、その時間差が経過したかの判定を行う。この時間差がスタータモータ19の駆動待ち時間となり、S408でYes判定の時はスタータモータ19の駆動待ち時間経過となるので、再始動制御手段のS216に進みスタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19を駆動させてS214に進み燃料噴射弁12からの燃料供給を再開して、スタータモータ待ち時間調整手段を終了すると共に、再始動制御手段を一旦終了してリターンする。S408でNo判定の場合は、スタータモータ駆動待ち時間を経過していないので、再始動制御手段を一旦終了してリターンする。
【0096】
S407でNo判定の時は、S409で実施の形態1と同様にピニオンギア17の押し出し開始からの時間が噛み合い完了時間Te以上経過したかの判定を行う。Yes判定であれば、リングギア16とピニオンギア17の噛み合いが完了していると判断して、再始動制御手段のS216に進み、スタータモータ駆動装置20によりスタータモータ19を駆動させて、S214に進んで燃料噴射弁12からの燃料噴射を再開して、スタータモータ待ち時間調整手段を終了すると共に、再始動制御手段を一旦終了する。この場合、噛み合い完了時間Teがスタータモータ19の駆動待ち時間になる。S409でNo判定であれば、一旦再始動制御を終了する。
【0097】
次に、この実施の形態2の動作について、図16に示すタイミングチャートで説明する。図16は、図9に対して、バッテリ電圧VB(H)とピニオンギア移動量(I)が加わる。まず、時刻T1で自動停止要件が成立すると燃料噴射弁12からの燃料供給が停止されるとともに、スロットル弁制御量(G)を所定制限量TH_limに制限する。また、クラッチ係合状態(E)を開放動作する等の自動停止制御を実施し、自動停止実施フラグ(A)が1にセットされる。スロットル弁制御量(G)を制限することと、またクラッチ係合状態(E)を開放動作することでエンジン1の回転速度Neの回転変動が抑制され、エンジン1の回転速度Neは一律の割合で低下していく。
【0098】
時刻T2、時刻T3の時点でも再始動要件は成立していないので、自動停止制御が継続され、時刻T5で再始動要件が成立する。再始動要件が成立したエンジン1の回転速度Neは第1の所定回転速度Ne1、第2の所定回転速度Ne2よりも低いので、ピニオン押し出しフラグ(C)が1になりピニオンギア17が押し出され始める(図16(I))と同時に、噛み合い完了時間Teまでの時間でスタータモータ19の駆動判定を行うが、実施の形態1とは異なり、スタータモータ19の駆動判定にバッテリ21の電圧最小値VB_minを用いて噛み合い完了遅れ時間ΔTeが考慮される。
【0099】
噛み合い完了遅れ時間ΔTeがない場合、時刻T6でスタータモータ19が駆動し、ピニオンギア17が回転駆動し始めるが、噛み合い完了遅れ時間ΔTeを考慮することで、スタータモータ19の駆動開始時間は時刻T6からT6’へと遅れる。噛み合い完了遅れ時間ΔTeだけスタータモータ19の駆動が遅れることで、ピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)を上回ることがなくなる。また、スタータモータ19が駆動するので、バッテリ21の電圧が大きく低下する(図16(H)の時刻T6’)。
【0100】
その後、ピニオンギア17の回転速度Nmが上昇しながら(図16(F)の破線)、リングギア16へ向かって移動(図16(I))して、時刻T7でピニオンギア17とリングギア16が噛み合い、エンジン1が加速されると共に燃料噴射が再開されているので、エンジン1の燃焼が再開してエンジン1の回転速度Neが上昇していき、時刻T8で再始動が完了する。
【0101】
時刻T8で再始動完了となると、ピニオン押し出しフラグ(C)と、スタータモータ駆動フラグ(D)が0になると共に、スロットル制御量(G)が通常の制御量へ、またクラッチ係合状態(E)を係合動作する等の再始動制御から通常制御に移行して、再始動制御が終了すると共に再始動要求フラグ(B)を0にする。また、再始動制御手段が終了し、スタータ15の駆動が停止されるので、バッテリ電圧VB(H)が回復し、ピニオンギア移動量(I)も停止位置に戻る。
【0102】
以上、本実施の形態2に係る内燃機関の自動停止再始動装置によれば、リングギア16とピニオンギア17の回転速度の検出するセンサ等を設けることがなくても、再始動要件成立に応じてピニオンギア17とリングギア16を確実に噛み合わせることができて速やかに再始動制御を行うことができるので、スタータ15の制御手段を複雑にすることがない。また、エンジン1の惰性回転中の第2の所定回転速度Ne2以下で再始動要件が成立した時のピニオン押し出し中にスタータモータ19を駆動させてピニオンギア17とリングギア16を噛み合わせて再始動を行う時にピニオン押し出し装置18の電圧変動を見込んでスタータモータ19の駆動を調整するので、ピニオンギア17とリングギア16が確実に噛み合わせて再始動を行うことができる。さらに、図5に示すような直巻きコイルのスタータモータ駆動特性を用いることで、スタータ15の装置構造が簡易に出来ると共にスタータ15の重量やコストの増大を抑制することができる。
【0103】
また、再始動要件成立時のエンジン1の回転速度Neが低い場合、つまりピニオンギア17の回転速度Nmがエンジン1の回転速度Ne(リングギア16の回転速度)を超える可能性が高い再始動要件では、スタータモータ待ち時間調整手段によりピニオンギア17とリングギア16の噛み合い完了時間Teまでスタータモータ19の駆動を禁止するので、ピニオンギア17とリングギア16の噛み合いが失敗することなく内燃機関の再始動を行うことができる。
【符号の説明】
【0104】
1 エンジン、2 エアフィルタ、3 吸気温センサ、4 エアフロセンサ、5 モータ、6 スロットル弁、7 スロットル開度センサ、8 吸気圧力センサ、9 サージタンク、10 吸気管、11 吸気マニホルド、12 燃料噴射弁、13 クランク角センサ、14 排気管、15 スタータ、16 リングギア、17 ピニオンギア、18 ピニオン押し出し装置、19 スタータモータ、20 スタータモータ駆動装置、21 バッテリ、22 ECU、22A 入出力インターフェース、22B CPU、22C ROM、22D RAM、22E 駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転中に所定の自動停止要件が成立した場合は内燃機関を自動停止させ、自動停止中に所定の再始動要件が成立した場合は内燃機関を再始動させる内燃機関の自動停止再始動装置であって、
前記内燃機関の回転速度を演算する回転速度演算手段と、
前記内燃機関のクランク軸に連結されたリングギアと噛み合い、このリングギアを回転駆動させるピニオンギア、このピニオンギアを前記リングギアと噛み合せるためのピニオン押し出し装置、前記ピニオンギアを回転駆動させるスタータモータ、及び前記スタータモータを駆動させるスタータモータ駆動装置を有するスタータと、
前記内燃機関が自動停止後の惰性回転中に前記所定の再始動要件が成立した場合に、前記回転速度演算手段により演算された再始動要件成立時の内燃機関の回転速度が、前記スタータモータの駆動と前記ピニオンギアの押し出しの順番で前記スタータを動作することができる下限の回転速度よりも小さいときは、
前記ピニオンギアを前記ピニオン押し出し装置によって押し出し、
予め求めた複数の特性に基づいて演算した、前記スタータモータの駆動待ち時間の経過後に、
前記スタータモータを前記スタータモータ駆動装置によって駆動させ、
前記内燃機関の燃焼室へ燃料噴射弁から燃料供給を再開させる再始動制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の自動停止再始動装置。
【請求項2】
前記再始動制御手段は、前記スタータモータの駆動待ち時間を求めるスタータモータ待ち時間調整手段を含み、
前記スタータモータ待ち時間調整手段は、
時間と内燃機関の回転速度の関係を表す内燃機関の回転速度低下特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度に対応する時間を基準時間として、前記ピニオンギアが押し出されて前記リングギアと噛み合うまでの時間である噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度を算出し、
前記スタータモータの駆動時間と前記ピニオンギアの回転速度の関係を表すスタータモータ駆動特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度が前記噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間を算出し、
前記スタータモータ駆動時間が、前記スタータモータ駆動装置により前記スタータモータが駆動を開始して前記ピニオンギアが回転駆動するまでの時間である無効時間よりも大きく、かつ前記噛み合い完了時間以下の場合は、前記噛み合い完了時間と前記スタータモータ駆動時間との時間差が経過したときには、前記時間差を、前記スタータモータの駆動待ち時間として求める
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の自動停止再始動装置。
【請求項3】
前記再始動制御手段は、前記スタータモータの駆動待ち時間を求めるスタータモータ待ち時間調整手段を含み、
前記スタータモータ待ち時間調整手段は、
時間と内燃機関の回転速度の関係を表す内燃機関の回転速度低下特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度に対応する時間を基準時間として、前記ピニオンギアが押し出されて前記リングギアと噛み合うまでの時間である噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度を算出し、
前記スタータモータの駆動時間と前記ピニオンギアの回転速度の関係を表すスタータモータ駆動特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度が前記噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間を算出し、
前記スタータモータ駆動時間が、前記スタータモータ駆動装置により前記スタータモータが駆動を開始して前記ピニオンギアが回転駆動するまでの時間である無効時間以下、あるいは前記噛み合い完了時間よりも大きい場合は、前記ピニオンギアの押し出し開始からの時間が前記噛み合い完了時間だけ経過したときには、前記噛み合い完了時間を、前記スタータモータの駆動待ち時間として求める
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の自動停止再始動装置。
【請求項4】
前記再始動制御手段は、前記スタータモータの駆動待ち時間を求めるスタータモータ待ち時間調整手段を含み、
前記スタータモータ待ち時間調整手段は、
時間と内燃機関の回転速度の関係を表す内燃機関の回転速度低下特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度に対応する時間を基準時間として、前記ピニオンギアが押し出されて前記リングギアと噛み合うまでの時間である噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度を算出し、
前記スタータモータの駆動時間と前記ピニオンギアの回転速度の関係を表すスタータモータ駆動特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度が前記噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間を算出し、
前記スタータに電力を供給するバッテリの電圧と前記噛み合い完了時間の関係を表すバッテリ電圧特性を用いて、電圧最小値における噛み合い完了時間を算出して、前記噛み合い完了時間と前記電圧最小値における噛み合い完了時間の差分である噛み合い完了遅れ時間を算出し、
前記スタータモータ駆動時間と前記噛み合い完了遅れ時間の加算時間が、前記スタータモータ駆動装置により前記スタータモータが駆動を開始して前記ピニオンギアが回転駆動するまでの時間である無効時間よりも大きく、かつ前記噛み合い完了時間以下の場合は、前記噛み合い完了時間と前記加算時間との時間差が経過したときには、前記時間差を、前記スタータモータの駆動待ち時間として求める
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の自動停止再始動装置。
【請求項5】
前記再始動制御手段は、前記スタータモータの駆動待ち時間を求めるスタータモータ待ち時間調整手段を含み、
前記スタータモータ待ち時間調整手段は、
時間と内燃機関の回転速度の関係を表す内燃機関の回転速度低下特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度に対応する時間を基準時間として、前記ピニオンギアが押し出されて前記リングギアと噛み合うまでの時間である噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度を算出し、
前記スタータモータの駆動時間と前記ピニオンギアの回転速度の関係を表すスタータモータ駆動特性を用いて、前記再始動要求時の内燃機関の回転速度が前記噛み合い完了時間後の内燃機関の回転速度に到達するまでに必要な時間であるスタータモータ駆動時間を算出し、
前記スタータに電力を供給するバッテリの電圧と前記噛み合い完了時間の関係を表すバッテリ電圧特性を用いて、電圧最小値における噛み合い完了時間を算出して、前記噛み合い完了時間と前記電圧最小値における噛み合い完了時間の差分である噛み合い完了遅れ時間を算出し、
前記スタータモータ駆動時間と前記噛み合い完了遅れ時間の加算時間が、前記スタータモータ駆動装置により前記スタータモータが駆動を開始して前記ピニオンギアが回転駆動するまでの時間である無効時間以下、あるいは前記噛み合い完了時間よりも大きい場合は、前記ピニオンギアの押し出し開始からの時間が前記噛み合い完了時間だけ経過したときには、前記噛み合い完了時間を、前記スタータモータの駆動待ち時間として求める
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の自動停止再始動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−237218(P2012−237218A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105788(P2011−105788)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】