説明

内燃機関の自動停止制御装置

【課題】始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能な内燃機関の自動停止制御装置を提供する。
【解決手段】この内燃機関の自動停止制御装置は、始動性の異なるガソリンとアルコールとの混合燃料またはガソリンもしくはアルコール単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止要求に基づいてその機関運転を自動停止する制御装置であって、自動停止要求が設定され且つ冷却水温THWが境界線f(ALC,THW)の冷却水温THW軸上の値以下であるときには機関の自動停止制御を禁止し、同境界線f(ALC,THW)は始動性の低いアルコールの混合燃料における割合が大きくなるにつれて機関温度が増大するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止要求に基づいてその機関運転を自動停止する制御装置であって、機関要求が設定され且つ機関温度が禁止値以下であるときには機関の自動停止を禁止する内燃機関の自動停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、運転中の車両停止時などに機関運転を自動停止して燃費の向上を図る、いわゆるエコラン技術が知られている。機関運転の自動停止の後に、アクセルペダルの踏み込みによって運転者が運転の再開意思を示したときには、これにともなって機関運転が自動再始動される。
【0003】
さて、周知のように冷間始動のように機関温度が低いときには燃焼が不安定となり始動に際して不具合が生じるなど、始動性が悪化する。これはエコランのための自動再始動においても同様の問題である。機関運転の自動停止後、自動再始動時に機関温度が低いことに起因して自動再始動時の始動性が悪化する。従って、このようなエコランにおいては、機関温度が所定値未満のときはエコランすなわち自動停止を禁止するような制御を行うことが提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−295281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、ガソリンとアルコールとの混合燃料を燃焼させる内燃機関を搭載したフレキシブル燃料車両が普及している。さらに、混合燃料中のアルコール濃度が0〜100%の間で利用可能なものも実用化されており、このような車両では補給される燃料によって常に混合燃料中のアルコール濃度が変化している。
【0005】
ところがアルコールはガソリンに比べて気化し難いために低温時に着火し難く、冷間始動に向かない、すなわち始動性が低いと言える。このため、混合燃料中のアルコール濃度が高い状態で機関温度が所定値以上であることのみに基づいて上述のような自動停止制御を行うと、始動性の悪い状態で再始動を行わなければならない等の問題を生じることになる。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能な内燃機関の自動停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止要求に基づいてその機関運転を自動停止する制御装置であって、前記自動停止要求が設定され且つ機関温度が禁止値以下であるときには前記機関の自動停止制御を禁止する内燃機関の自動停止制御装置において、第1燃料と第2燃料のうちの始動性の低い前記第2燃料の前記混合燃料における割合が大きくなるにつれて前記禁止値を増大することを要旨としている。
【0008】
この発明では、始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用する内燃機関の機関運転中に、機関運転の自動停止を行うときに、始動性の低い第2燃料の割合に基づいてこの機関の自動停止制御を禁止するか否かを判断している。
【0009】
一般に、機関温度が低いと機関の始動性は低下する。始動性の異なる2種類の燃料の混合燃料を使用する内燃機関においては、始動性の高い方の燃料単独で使用するときと比較して、始動性の低い方の燃料の割合が大きくなるにつれて始動性が低くなっていくと考えられる。すなわち、第2燃料の割合が大きいほど始動性は低下することになる。
【0010】
このため、機関運転において自動停止制御を行う内燃機関で機関温度が低いときに自動停止制御を行った後、再始動時に始動性の悪化が生じる可能性が、第2燃料の割合が大きくなるにつれて高くなることになる。そこで、上記発明のように禁止値を可変設定し、機関運転の自動停止を行わないようにすることで、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能である。
【0011】
従って、始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能となる。
【0012】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、前記機関温度が前記禁止値よりも大きな判定上限値以上のときには、前記自動停止制御を許可することを要旨としている。
【0013】
この発明では、機関温度が判定上限値以上であったときには、第2燃料の割合に関わらず自動停止制御の禁止を行わないようにしている。第2燃料の割合が高い、もしくは使用する燃料が第2燃料単独の状態であったとしても、機関温度が判定上限値以上であるときには機関の自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じ難くなる。このため、このような判定上限値を設定することで、自動停止制御の不要な禁止を行う機会を減らすことが可能となる。
【0014】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置において、前記機関温度が前記禁止値よりも小さな判定下限値以下のときには、前記自動停止制御を禁止することを要旨としている。
【0015】
この発明では、機関温度が判定下限値以下であったときには、第2燃料の割合に関わらず自動停止制御を禁止するようにしている。機関温度が所定値以下であると、比較的始動性の高い第1燃料の割合が高い、もしくは使用する燃料が第1燃料単独の状態であったとしても、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じやすいと考えられる。このため、このような所定値を設定することで、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能となる。
【0016】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、前記混合燃料における前記第2燃料の割合が大きくなるにつれて、すなわち前記第2燃料の割合が0%から100%に近づくにつれてこれと比例して前記禁止値を増大するように可変設定することを要旨としている。
【0017】
混合燃料を用いるときには、始動性は第2燃料の割合に応じて変化している。上記発明では、第2燃料の割合の範囲を0%から100%として、この範囲内で禁止値を可変設定していることから、的確な禁止値を設定できるようになる。
【0018】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、前記機関温度が前記禁止値よりも小さな判定下限値以下のときには前記機関の自動停止制御を禁止し、前記機関温度が前記禁止値よりも大きな判定上限値以上のときには前記機関の自動停止制御を許可し、前記機関温度が前記判定下限値と前記上限値の範囲内であるときには、前記第2燃料の前記混合燃料における割合が大きくなるにつれて前記禁止値を増大するように可変設定することを要旨としている。
【0019】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、前記第1燃料はガソリンであり、前記第2燃料はアルコールであることを要旨としている。
【0020】
この発明では、第1燃料をガソリンとし、第1燃料より始動性の低い第2燃料をアルコールとしている。一般に、アルコールはガソリンに比べて始動性が低く特に冷間始動に適していない。このため、ガソリンとアルコールの混合燃料を使用可能な内燃機関において、混合燃料中のアルコールの割合が大きくなることでガソリン単独のときよりも始動性が低くなることに起因して発生する自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図4を参照して、本発明の内燃機関の自動停止制御装置をガソリン及びアルコールの混合燃料を用いるフレキシブル燃料車両の自動停止制御装置として具体化した一実施形態について説明する。
【0022】
図1に示されるように、内燃機関1は、吸入空気と燃料との混合気を燃焼させる機関本体10と、この機関本体10の燃焼室11に吸入空気及び燃料を供給する吸気管12と、燃焼室11での燃焼後の排気を外部に送り出す排気管13とを備えている。さらに、吸気管12に燃料を供給する燃料供給装置20と、内燃機関1の各種装置を統括的に制御する制御装置30とを備えて構成されている。
【0023】
機関本体10は、燃焼室11での混合気の燃焼を通じて往復運動するピストン14と、このピストン14の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト15と、吸気管12と燃焼室11との接続部を開閉する吸気弁16と、排気管13と燃焼室11との接続部を開閉する排気弁17とを備えている。クランクシャフト15の端にはフライホイール(図示略)が取り付けられている。機関運転の始動時にはスタータモータ(図示略)がフライホールに接続される。さらに、機関本体10には冷却水を保持するウォータジャケット18と、燃焼室11内に送り込まれた燃料と吸気の混合気を燃焼させるための点火プラグ19が設けられている。
【0024】
燃料供給装置20は、燃料を貯留する燃料タンク22と、吸気管12に燃料を噴射する燃料噴射弁21と、燃料タンク22と燃料噴射弁21とを接続する燃料供給管23とを備えて構成されている。燃料タンク22には、燃料としてアルコールまたはガソリンまたはこれらの混合燃料が貯留されているとともに、燃料タンク22の内部にアルコール濃度センサ33が備えられている。
【0025】
制御装置30は、機関運転状態等をモニタする各種センサ、すなわち水温センサ32、アルコール濃度センサ33、アクセルポジションセンサ34および回転速度センサ35を含む各種センサと、これらセンサの出力に基づいて各装置の動作を制御する電子制御装置31とにより構成されている。水温センサ32は、ウォータジャケット18内の冷却水の温度に応じた信号を出力する。冷却水の温度は内燃機関温度に相関するため、水温センサの値「冷却水温THW」を検出することで内燃機関温度を間接的に計測することが可能である。また、アルコール濃度センサ33は燃料タンク内の燃料のアルコール濃度に応じた信号「アルコール濃度ALC」を出力する。また、アクセルポジションセンサ34はアクセルペダルの踏み込みに応じた信号「アクセル信号AP」を出力する。また回転速度センサ35は、クランクシャフト15の回転速度に応じた信号を出力する。
【0026】
制御装置30は内燃機関の運転中に運転者がアクセルペダルを離してアクセル信号APが踏み込み量「0」の状態すなわちアクセル「OFF」且つ回転速度センサ35から検出される値や走行速度が十分小さくなるなどの条件が成立したときに、燃費の向上のために機関運転を自動で停止させる。具体的には燃料噴射弁21からの燃料噴射停止や点火プラグ19の作動等を禁止して、機関運転を停止させる。この後、再びアクセルペダルが踏まれてアクセル信号がアクセルペダルの踏み込み量「0」よりも大きい状態すなわちアクセル「ON」になったときには、機関運転を再開させるべく、通常の始動時と同様にスタータモータの駆動によって内燃機関を再始動する。このとき、機関温度が低いと再始動し難いなどの問題が生じるため、機関運転の自動停止制御には自動停止を行う前に、「自動停止制御許可判定」を行って、自動停止制御の許可あるいは非許可を判定するようにしている。この判定には、始動性と関わる機関温度と相関する冷却水温THW及び、アルコール濃度ALCに基づいて行われる。そして、自動停止制御が許可であるときには、自動停止可能であり、自動停止制御が非許可であるときには、他の条件が成立していても、自動停止は禁止される。
【0027】
図2を参照して、「自動停止制御許可判定処理」について詳述する。なお、この処理は所定の演算処理ごとに繰り返し実行される。
まず、ステップS1にてイグニッションスイッチがONであるか否かの判定がなされる。OFFである旨判定した場合には、本処理は終了する。ONである旨判定すると、ステップS2以下へと進む。ステップS2にてアクセル信号APの取得、アルコール濃度ALCの取得、冷却水温THWの取得が行われる。これらは運転中において適時電子制御装置31に送信され、記録されている。次にステップS3にてアクセル信号APがONからOFFになったか否かを判定する。アクセル信号APがONのまま維持されているときには本処理は一旦終了する。アクセル信号APがONからOFFになった旨判定した場合には、ステップS4へと進む。
【0028】
ステップS4では、冷却水温THWが判定上限値Tb未満であるか否かを判定する。内燃機関の機関温度の指標となる冷却水温THWが判定上限値Tb以上であるときには、機関温度が低いことによる自動停止後の再始動に不具合が生じない可能性が高いと考えられるため、ステップS7にて自動停止制御の許可フラグをONにして本処理を終了する。また、ステップS4にて冷却水温THWが所定値Tb未満であったときには、ステップS5へと進む。なお、この判定上限値Tbとしては、実験により求められた実験値が設定され、一例として50℃が挙げられる。
【0029】
ステップS5では、冷却水温THWが判定下限値Taより大きいか否かを判定する。内燃機関の機関温度の指標となる冷却水温THWが判定下限値Ta以下であるときには始動性の高いガソリン単独の燃料であっても機関温度が低いことによる自動停止後の再始動に不具合が生じる可能性が高いと考えられるため、ステップS8にて自動停止制御の許可フラグをOFFにして本処理を終了する。また、ステップS5にて冷却水温THWが判定下限値Taより大きかったときには、ステップS6へと進む。なお、この判定下限値Taとしては、実験により求められた実験値が設定され、一例として−10℃が挙げられる。
【0030】
ステップS6では、アルコール濃度ALCと冷却水温THWとに基づいた自動停止制御の許可条件が成立しているか否かを判定する。この許可条件は、アルコール濃度ALCと冷却水温THWとの関係が図3にて示すマップ上の境界線f(ALC,THW)によって区切られる領域(許可領域と非許可領域)のどちらにあるかによって行われる。アクセルOFF時のアルコール濃度ALCと冷却水温THWに基づいて判定し、許可領域にある場合は、ステップS7へと進み自動停止制御の許可フラグをONにし、非許可領域にある場合は、ステップS8へと進み、自動停止制御の許可フラグをOFFにして本処理を終了する。
【0031】
そして、ステップS7にて設定された自動停止制御の許可フラグのON及び、車速が所定速度以下か、アクセルONからアクセルOFFになって所定時間が経過したか等の自動停止制御の他の開始条件成立をもって自動停止制御の開始が決定される。
【0032】
図3を参照して「自動停止制御許可判定処理」に使われる、「アルコール濃度ALCと冷却水温THWとに基づいた自動停止制御の許可条件」について詳述する。
冷却水温THWが判定下限値Ta以下であるときはガソリンが100%であっても着火し難く、結果として始動性が悪化するため、判定下限値Ta以下であるときにはアルコール濃度ALCに関わらず自動停止制御は非許可となる。また、冷却水温THWが判定上限値Tb以上であるときにはアルコールが100%であっても始動が良好に行えると考えられるため、アルコール濃度ALCに関わらず自動停止制御を許可することになる。
【0033】
さて、冷却水温THWが判定下限値Taより大きく判定上限値Tb未満となる範囲内にあるときは、冷却水温THWが高くなるにつれて、自動停止制御を許可するアルコール濃度ALCの範囲が広くなる。逆を言えば、機関運転時のアルコール濃度ALCが高くなるにつれて、自動停止制御を許可する冷却水温THWの範囲が狭くなる。詳しくは図中の実線にて表されるアルコール濃度ALCが大きくなるにつれて冷却水温THWも大きくなる境界線f(ALC,THW)によって許可範囲(図中斜線部)と非許可範囲とが決定される。
【0034】
任意のアルコール濃度ALCを所定濃度Axとしたとき、所定濃度Axと境界線f(ALC,THW)から求められる冷却水温THW軸上の値を所定水温Txとすると、アクセルONからアクセルOFFとなったときの冷却水温THWが所定水温Tx以上であれば自動停止制御は許可され、所定水温Tx未満であれば非許可となる。
【0035】
図4を参照して「自動停止制御許可判定処理」の実行態様の一例について説明する。なお、本図における内燃機関の運転に使用される混合燃料のアルコール濃度ALCは濃度Axである。
【0036】
時刻t1にてイグニッションスイッチがONとなると、内燃機関1の運転が開始される。この後、時刻t2において運転者がアクセルペダルを踏み込むことにより、アクセル信号がONとなるとともに車両の走行が開始される。時刻t3にてアクセル信号がOFFとなると、冷却水温THWとアルコール濃度ALCとに基づいて自動停止制御許可フラグの設定判定がなされる。
【0037】
時刻t3における冷却水温は判定上限値Tb及び所定水温Txよりも低いため、自動停止制御は許可されない。このため、自動停止制御許可フラグはOFFのまま維持される。従って、この自動停止制御フラグのOFFをもって、自動停止制御を実行するのに必要な他の条件が成立していても、自動停止制御は行われない。時刻t4にてアクセル信号が入力されると車両は再び走行を開始する。さらに時刻t5において再びアクセル信号がOFFとなるとともに車両が停止すると、このときは冷却水温が所定水温Txを超えているため、自動停止制御許可フラグがONとなり、自動停止制御を行うことが可能となり、自動停止制御を実行するのに必要な他の条件が成立したときは、自動停止制御が実行される。
【0038】
時刻t6にて車両の走行が再開された後に、さらに時刻t7にてアクセル信号がOFFになったことを検出すると、このときの冷却水温THWはアルコール濃度ALCに関わらず自動停止制御が許可される冷却水温THWの判定上限値Tbを超えていることによって、自動停止制御許可フラグはONの状態を維持することになる。自動停止制御を実行するのに必要な他の条件が成立したときは、自動停止制御が実行される。この後、車両は時刻t8にて走行を再開し、以降アクセル信号のOFFを検出するたびに同様の自動停止制御の許可フラグの設定が行われる。
【0039】
[実施形態の効果]
以上詳述したように、本実施形態の内燃機関の自動停止制御装置によれば以下に示す効果が得られるようになる。
【0040】
(1)本実施形態では、始動性の異なるガソリンとアルコールとの混合燃料またはガソリンもしくはアルコール単独の燃料を使用する内燃機関1の機関運転中に、機関運転の自動停止を行うときに、始動性の低いアルコールの割合に基づいてこの機関の自動停止制御を禁止するか否かを判断している。
【0041】
一般に、機関温度(冷却水温THW)が低いと機関の始動性は低下する。始動性の異なる2種類の燃料の混合燃料を使用する内燃機関1においては、始動性の高いガソリン単独で使用するときと比較して、始動性の低いアルコールの割合が大きくなるにつれて始動性が低くなっていくと考えられる。すなわち、アルコールの割合が大きいほど始動性は低下することになる。
【0042】
このため、機関運転において自動停止制御を行う内燃機関1で冷却水温THWが低いときに自動停止制御を行った後、再始動時に始動性の悪化が生じる可能性が、アルコールの割合が大きくなるにつれて高くなることになる。そこで、本実施形態のように境界線f(ALC,THW)に基づく禁止値を可変設定し、機関運転の自動停止を行わないようにすることで、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能である。
【0043】
従って、始動性の異なるガソリンとアルコールとの混合燃料またはガソリンもしくはアルコール単独の燃料を使用可能な内燃機関1について、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能となる。
【0044】
(2)本実施形態では、冷却水温THWが判定上限値Tb以上であったときには、アルコールの割合に関わらず自動停止制御の禁止を行わないようにしている。アルコールの割合が高い、もしくは使用する燃料がアルコール単独の状態であったとしても、冷却水温THWが判定上限値Tb以上であるときには機関の自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じ難くなる。このため、このような判定上限値Tbを設定することで、自動停止制御の不要な禁止を行う機会を減らすことが可能となる。
【0045】
(3)本実施形態では、冷却水温THWが判定下限値Ta以下であったときには、アルコールの割合に関わらず自動停止制御を禁止するようにしている。冷却水温THWが判定下限値Ta以下であると、比較的始動性の高いガソリンの割合が高い、もしくは使用する燃料がガソリン単独の状態であったとしても、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じやすいと考えられる。このため、このような所定値を設定することで、自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能となる。
【0046】
(4)混合燃料を用いるときには、始動性はアルコールの割合に応じて変化している。上記発明では、アルコールの割合の範囲を0%から100%として、この範囲内で禁止値を可変設定していることから、的確な禁止値を設定できるようになる。
【0047】
(5)一般に、アルコールはガソリンに比べて始動性が低く、特に冷間始動に適していない。このため、本実施形態では、ガソリンとアルコールの混合燃料を使用可能な内燃機関1において、混合燃料中のアルコールの割合が大きくなることでガソリン単独のときよりも始動性が低くなることに起因して発生する自動停止後の再始動時の始動性の悪化が生じることを抑制可能である。
【0048】
(6)冷間始動時にはスタータモータのスタータの作動トルクが大きくなってしまう。また、バッテリの消耗も大きい。本実施形態では、冷却水温THWが低いときには自動停止及び再始動を行わないようにしているため、低温時に再始動を行うことによる冷間始動に由来するスタータの磨耗とバッテリの消耗を低減可能である。
【0049】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示す態様をもって実施することもできる。
【0050】
・上記実施形態では、アクセル信号APがOFFになったときに自動停止制御の許可フラグの設定を判断したが、アクセルがON・OFFどちらの状態であっても自動停止制御許可フラグの設定を行うようにすることもできる。これは例えば機関運転中は常に冷却水温THWを取得し、その運転時におけるアルコール濃度ALCに対して冷却水温THWが自動停止制御の許可あるいは非許可の範囲に転じたことをもって自動停止制御の許可フラグの設定を変更するようにすることが考えられる。
【0051】
・上記実施形態では、境界線f(ALC,THW)をアルコール濃度ALCと冷却水温THWとの間で比例関係とするようにしたが、これは実験値や制御の状況に応じて曲線や、段階状となるようにしても良い。
【0052】
・上記実施形態では、機関温度の指標として冷却水温THWを使用したが、これは機関温度を間接的に示すものであれば良い。例えば、吸気管12を流れる吸入空気の温度が考えられる。いずれにしても、機関温度を監視できるような値であれば、上記実施形態の効果を得ることはできる。
【0053】
・上記実施形態では、アルコール濃度ALCを燃料タンク22内に設けられたアルコール濃度センサ33によって検出したが、これはアルコール濃度センサ33でなくとも、運転時におけるアルコール濃度ALCを推定する構成としても良い。例えば運転者が自らアルコール濃度ALCもしくはこれに関する値を設定するような構成であっても良い。
【0054】
・上記実施形態では、判定上限値Tbをアルコール濃度ALCが100%のときの境界線f(ALC,THW)の冷却水温THW軸の値と一致させるようにした。しかし、これはアルコール濃度が100%未満であるときの任意のアルコール濃度ALCを濃度Ayとしたときの境界線f(ALC,THW)の冷却水温THW軸の値である水温Tyと判定上限値Tbを一致させるようにしても良い。すなわち、アルコール濃度が濃度Ay以上であるときには、アクセルOFF時の冷却水温THWが判定上限値Tb以上か判定上限値Tb未満かによって自動停止制御がそれぞれ許可あるいは非許可となる。
【0055】
・上記実施形態では、判定下限値Taをアルコール濃度ALCが0%のときの境界線f(ALC,THW)の冷却水温THW軸の値と一致させるようにした。しかし、これはアルコール濃度が0%より大きいときの任意のアルコール濃度ALCを濃度Azとしたときの境界線f(ALC,THW)の冷却水温THW軸の値である水温Tzと判定下限値Taを一致させるようにしても良い。すなわち、アルコール濃度が濃度Az未満であるときには、アクセルOFF時の冷却水温THWが判定下限値Ta以上か判定上限値Ta未満かによって自動停止制御がそれぞれ非許可あるいは許可となる。
【0056】
・上記実施形態では、始動性の異なるガソリンとアルコールとの混合燃料またはガソリンもしくはアルコール単独の燃料を使用可能な内燃機関1を想定した。しかし、これは始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止要求に基づいてその機関運転を自動停止する制御装置を備える自動停止制御装置であれば、いずれの内燃機関についても本発明の適用は可能である。この場合にも上記実施形態に準じた作用効果を奏することはできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の内燃機関の自動停止制御装置を具体化した一実施形態について、同装置を搭載した内燃機関の構成を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態において実行される「自動停止制御許可判定処理」について、その処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態において実行される「自動停止制御許可判定処理」に用いる冷却水温THWとアルコール濃度ALCとの関係を示すマップ。
【図4】同実施形態の「自動停止制御許可判定処理」について、その実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0058】
1…内燃機関、10…機関本体、11…燃焼室、12…吸気管、13…排気管、14…ピストン、15…クランクシャフト、16…吸気弁、17…排気弁、18…ウォータジャケット、19…点火プラグ、20…燃料供給装置、21…燃料噴射弁、22…燃料タンク、23…燃料供給管、30…制御装置、31…電子制御装置、32…水温センサ、33…アルコール濃度センサ、34…アクセルポジションセンサ、35…回転速度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動性の異なる第1燃料と第2燃料との混合燃料または第1燃料もしくは第2燃料単独の燃料を使用可能な内燃機関について、自動停止要求に基づいてその機関運転を自動停止する制御装置であって、前記自動停止要求が設定され且つ機関温度が禁止値以下であるときには前記機関の自動停止制御を禁止する内燃機関の自動停止制御装置において、
第1燃料と第2燃料のうちの始動性の低い前記第2燃料の前記混合燃料における割合が大きくなるにつれて前記禁止値を増大する
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、
前記機関温度が前記禁止値よりも大きな判定上限値以上のときには、前記自動停止制御を許可する
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記機関温度が前記禁止値よりも小さな判定下限値以下のときには、前記自動停止制御を禁止する
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、
前記混合燃料における前記第2燃料の割合が大きくなるにつれて、すなわち前記第2燃料の割合が0%から100%に近づくにつれてこれと比例して前記禁止値を増大するように可変設定する
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、
前記機関温度が前記禁止値よりも小さな判定下限値以下のときには前記機関の自動停止制御を禁止し、前記機関温度が前記禁止値よりも大きな判定上限値以上のときには前記機関の自動停止制御を許可し、前記機関温度が前記判定下限値と前記上限値の範囲内であるときには、前記第2燃料の前記混合燃料における割合が大きくなるにつれて前記禁止値を増大するように可変設定する
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の自動停止制御装置において、
前記第1燃料はガソリンであり、前記第2燃料はアルコールである
ことを特徴とする内燃機関の自動停止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−96066(P2010−96066A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266638(P2008−266638)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】