説明

内燃機関及びその制御方法

【課題】エンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態では、必要十分な量のエンジンオイルによる潤滑と冷却を行うことができ、また、補助ブレーキの作動状態では、確実に燃料が噴射されていない状態でエンジン駆動軸のエネルギーを回収して可変オイルポンプを駆動して、燃費の悪化を回避しながらエンジンオイルの供給量を増加して、必要な制動力を効率よく得ることができる内燃機関及びその制御方法を提供する。
【解決手段】可変オイルポンプ20と補助ブレーキシステム30を制御する制御装置40を備えた内燃機関10において、内燃機関10の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態で実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態で実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロの状態のときには、可変オイルポンプ20によるエンジンオイルの供給量を増量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及びその制御方法に関し、より詳細には、自動車エンジンや産業用エンジン等の内燃機関において、高負荷状態では、エンジンオイルの供給量を増量して、必要十分な量のエンジンオイルで潤滑と冷却を効率よく行うことができ、また、補助ブレーキの作動状態では、燃費の悪化を回避しながらエンジンオイルの供給量を増加して、必要な制動力を効率よく得ることができる可変オイルポンプを備えた内燃機関及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の内燃機関を使用する自動車用エンジンや産業用エンジン等における排気ガス規制は年々厳しくなってきている。これに加えて近年は世界的な地球温暖化対応として、厳しい燃費規制も導入されている。これらに対応するため、最新のエンジンは燃焼を改善することによる燃費の改善のための研究開発と共に、内燃機関であるエンジン本体のフリクションを低減することによる燃費の改善のための研究開発も同時に行われてきている。しかし、内燃機関の燃費の改善としてのエンジン本体における燃焼効率の向上が略限界に達していることから、近年はエンジン本体のフリクション低減のための研究開発が活発化している。
【0003】
これに関連した新技術の一つとして、小さい排気量のエンジンを高出力化させることで、フリクションの大きな大型エンジンに代わって、エンジンフリクションの小さい小型のエンジンを搭載するという、低燃費化を狙った、いわゆる、ダウンサイジング化がある。例えば、図5の点線で示した従来の全負荷性能曲線を、その上方に実線で示した性能曲線になるように高出力化させることで、燃費改善を可能とする。
【0004】
このエンジンのダウンサイジング化により、エンジン負荷がこれまでのエンジンよりも増加するため、ピストンやクランク軸受等に対してのエンジンオイルの供給量を増加する必要が生じる。
【0005】
また、一方で、エンジンダウンサイジング化による制動力低下の問題に絡んで、エンジンオイルの供給量を増加する必要が生じている。つまり、車両重量と同等以上の貨物を積載する商用車においては、エンジンのダウンサイジング化によりエンジンブレーキ力が低下し、通常のフットブレーキだけでは制動力が不足となるため、排気ブレーキやリターダ等の補助ブレーキを備える必要があり、また、更にこれを補うための新たな補助ブレーキシステムが必要になってきている。
【0006】
この新たな補助ブレーキシステムの一つとして、エンジンの排気弁に油圧で作動するバルブを取り付け、エンジン圧縮中にこのバルブを作動させてエンジンの圧縮ガスを開放し、エンジンのエネルギーを大きな制動エネルギーに変換する圧縮型開放ブレーキシステムが開発されている。この圧縮型開放ブレーキシステムでは、このバルブを作動させるために高圧の油圧が必要であり、エンジンオイルの供給量の増加が必要となる。
【0007】
これに関連して、アイドリングストップ時及びその後の際始動時に排気弁を開いて筒内圧縮圧を開放するエンジン停止時開弁手段を備え、エンジンのオイルポンプに連通する補助油圧ユニット(蓄圧器を備えている)を用いて排気弁を開くエンジンブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、エンジン潤滑油による蓄圧室の油圧により排気弁を、正規のバルブタイミングとは独立して圧縮行程で開弁するエンジンブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
これらのエンジンオイルの供給量の増量要求を満たすために、エンジンのオイルポンプを大型化させると、この大型化によりエンジンフリクションが増加し、エンジンの燃費が悪化するという問題がある。
【0009】
一方、オイルポンプにおいても、従来のままでは、無駄が多く、エンジンが必要とした最適なポンプ仕事となっていないことに焦点を当てて、オイルポンプの可変化による燃費改善が注目されている。通常、このオイルポンプは、エンジン駆動部とギヤ又はベルト等によって連結されており、エンジンの出力を直接伝達されて回転駆動している。従って、一般的にオイルポンプの回転数はエンジン回転数に比例している。また、このオイルポンプの仕様及び流量は、エンジン運転で一番厳しいエンジン全負荷運転条件を基にして選定されている。
【0010】
しかしながら、エンジンオイルはエンジン各部の潤滑やピストン等の冷却の必要に応じて供給すべきものであり、エンジン側で必要なエンジンオイルの最適流量は、必ずしも、エンジン回転数に比例するものでは無く、それぞれのエンジンの運転状態(エンジン回転数、エンジン負荷)に応じて最適な流量に調整されるのがベストである。従って、現状のオイルポンプの駆動方法ではエンジン運転条件によっては無駄な仕事をしていることになる。そのため、この無駄な仕事量を低減させることで燃費を改善することを狙って、エンジンオイルの供給量を変化可能にするために、様々な可変オイルポンプが開発されている。
【0011】
また、この可変オイルポンプにおけるエンジンオイルの供給量に対する要求も、エンジンに取り付けられた各装置の影響を受けて非常に複雑化してきており、機械的にエンジン回転数の増加に応じてオイルポンプで供給されるエンジンオイルの圧力を増加するように制御しているオイルポンプの制御では、これらの細かいオイルポンプの制御の要求に対して対応が困難となっている。
【0012】
上記のように、内燃機関では、燃費改善のために、可変オイルポンプの採用などを行ってエンジンオイルの供給量を最適にする制御を試みているが、内燃機関及び車両側の様々な状態に応じた油圧を実現するための供給量がきめ細かく要求され、この要求に見合った最適な供給量でエンジンオイルを供給することが、技術的に非常に難しいという問題がある。
【0013】
これに関連して、エンジン等の駆動源によって回転駆動されるオイルポンプの吐出される作動油の一部を還流させる制御弁として、サブポート、メインポート、制御ポートを設けてその組み合わせによりオイルポンプを第1〜第4制御モードで運転可能にして、オイルポンプ装置の小型・軽量化を図るとともに、ポンプ負荷の低減を最大限に図るオイルポンプ装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、このオイルポンプ装置では、構造も制御も複雑となるという問題がある。
【0014】
また、オイルポンプから無段変速機への作動油の吐出量を車両の運転状況によって切り換えることにより、燃費性能を良好に保つオイルポンプ制御装置が提案され、エンジンの運転状況で、エンジン低回転、車両停止、ブレーキ操作時等の幾つかの場合に、オイルポンプから吐出される作動油を切換弁によって切り換え、作動油の流通量を低速運転時の約半分に抑制している(例えば、特許文献4参照)。このオイルポンプ制御装置では、エンジン出力が小さく潤滑の必要が少ないエンジンの運転状態のときに作動油の量を減少させているだけであり、エンジン駆動軸からのエネルギー回収を行っていないので、燃費改善には限界があるという問題がある。
【0015】
つまり、近年の内燃機関であるエンジンには、エンジンの燃費改善を行うためには、少しでもエンジンフリクションを低減する必要があり、そのため、最適なオイル供給が可能なオイルポンプの可変システム化の開発が行われているが、エンジン高出力化によりエンジン高負荷状態ではエンジンオイルの高流量化を要求され、一方では車両制動力を増強する補助ブレーキシステムに供給するためにもエンジンオイルの高圧化が要求されるなど、オイルポンプに要求される内容が多様化している。
【0016】
これに対し、単純に、この供給量の増加の要求に従って単純にオイルポンプの大型化を行うとエンジンの燃費は悪化する一方となる。これらを改善する手段としてこれまでにも可変オイルポンプの提案は提出されているが不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2001−152822号公報
【特許文献2】特開平11−223114号公報
【特許文献3】特開平10−318158号公報
【特許文献4】特開2005−114103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記のような、一方では、内燃機関のフリクションを少しでも低減させたいという要求があり、他方では、ダウンサイジング化のエンジンで、エンジンオイルによる潤滑と冷却が必要な高負荷状態が発生するために、また、ダウンサイジング化されたエンジンにおけるエンジンブレーキ不足に対して、車両制動力を増強するための補助ブレーキシステムの作動のために、エンジンオイルの供給量の増加が要求されているという状況を鑑みてなされたものである。
【0019】
そして、本発明の目的は、内燃機関の運転状態が、エンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態では、エンジンオイルの供給量を増量して、必要十分な量のエンジンオイルで潤滑と冷却を効率よく行うことができ、また、補助ブレーキの作動状態では、確実に燃料が噴射されていない状態でエンジン駆動軸のエネルギーを回収して可変オイルポンプを駆動することで、燃費の悪化を回避しながらエンジンオイルの供給量を増加して、補助ブレーキ力を増加し、必要な制動力を効率よく得ることができる内燃機関及びその制御方法を提供することにある。
【0020】
つまり、本発明の目的は、様々なエンジン・ドライバー及び車両などからの状況に応じて要求されるエンジンオイルの供給量の増減に対して、様々なエンジンや車両の状態に応じて、可変オイルポンプの出力を細かく制御できるようにして、エンジンの燃費改善を達成できる内燃機関及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、内燃機関のエンジン回転数に対してエンジンオイルの供給量を変化させることができる可変オイルポンプと、該可変オイルポンプから供給されるエンジンオイルを使用する補助ブレーキシステムと、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段を有して前記可変オイルポンプと前記補助ブレーキシステムを制御する制御装置とを備えた内燃機関において、前記制御装置が、前記運転状態検出手段で検出した内燃機関の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のときには、前記可変オイルポンプによるエンジンオイルの供給量を増量する制御を行うように構成する。
【0022】
この構成によれば、内燃機関の運転状態がエンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態のときには、エンジンオイルの供給量を増量し、必要十分な量のエンジンオイル量で潤滑と冷却を効率よく行うことができる。
【0023】
また、補助ブレーキの作動状態において、車両の減速状態及び制動状態を正確に検出するために、制御装置からエンジンに実際に噴射している実燃料噴射量若しくは実際に指示している指示燃料噴射量がゼロになっているとの判定を更に用いることで、確実に燃料が噴射されていない状態で、エンジン駆動軸の回転エネルギーを回収して可変オイルポンプを駆動できる。これにより、可変オイルポンプによるエンジンオイルの供給量の増量を行うことができるので、この増量のための燃料の消費量の増加を回避できる。従って、燃費の悪化を回避しながら、補助ブレーキシステムにエンジンオイルをその供給量を増加して供給することができ、必要な制動力を効率よく得ることができる。
【0024】
なお、この補助ブレーキの作動状態の判定は、例えば、補助ブレーキ作動スイッチがON、アクセルスイッチがOFF、クラッチスイッチがOFF、トランスミッションのニュートラルスイッチがOFFの全部が成立するか否かで判定することができる。また、可変オイルポンプの供給量の増加は、可変オイルポンプの構成にもよるが、可変オイルポンプとエンジン駆動軸の間のギヤ比の変更、可変ポンプに設けた電磁クラッチのONによる第2オイルポンプの稼働などにより行うことができる。
【0025】
上記の可変オイルポンプを備えた内燃機関において、前記補助ブレーキシステムが、内燃機関のシリンダの排気弁に油圧で作動するバルブを設けた圧縮型開放ブレーキシステムであるように構成する。この構成を採用すると、圧縮型開放ブレーキシステムで、燃費の悪化を回避しながら、必要な制動力を効率よく得ることができる。
【0026】
そして、上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の制御方法は、内燃機関のエンジン回転数に対してエンジンオイルの供給量を変化させることができる可変オイルポンプと、該可変オイルポンプから供給されるエンジンオイルを使用する補助ブレーキシステムと、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段を有して前記可変オイルポンプと前記補助ブレーキシステムを制御する制御装置とを備えた内燃機関の制御方法において、前記運転状態検出手段で検出した内燃機関の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のときには、前記可変オイルポンプによるエンジンオイルの供給量を増量することを特徴とする方法である。
【0027】
この方法によれば、内燃機関の運転状態がエンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態のときには、エンジンオイルの供給量を増量し、必要十分な量のエンジンオイル量で潤滑と冷却を効率よく行うことができる。また、補助ブレーキの作動状態において、実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロになっているとの判定を更に用いることで、エンジンオイルの供給量の増量のための燃料消費を回避でき、エンジン駆動軸のエネルギーを効率よく回収して、補助ブレーキ力を増加し、必要な制動力を効率よく得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る内燃機関及びその制御方法によれば、内燃機関の運転状態が、エンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態では、エンジンオイルの供給量を増量して、必要十分な量のエンジンオイルによる潤滑と冷却を効率よく行うことができ、また、補助ブレーキの作動状態では、確実に燃料が噴射されていない状態でエンジン駆動軸のエネルギーを回収して可変オイルポンプを駆動し、燃費の悪化を回避しながらエンジンオイルの供給量を増加して、補助ブレーキ力を増加し、必要な制動力を効率よく得ることができる。
【0029】
特に、本発明では、車両の減速時及び制動状態を正確に検出する制御のために、実際に検出された実燃料噴射量、若しくは、制御装置からエンジンに実際に指示している指示燃料噴射量を用いており、これにより、確実に燃料が噴射されていない車両の減速時、及び制動状態を把握して、可変オイルポンプの供給量を増加する制御を行うことができるので、燃費の悪化がなく効率良く可変オイルポンプの制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の内燃機関の可変オイルポンプに関係する構成を示す図である。
【図2】可変オイルポンプの制御フローの一例を示す図である。
【図3】可変オイルポンプ用の高負荷時基本作動マップの一例を示す図である。
【図4】可変オイルポンプ用の補助ブレーキ基本作動マップの一例を示す図である。
【図5】内燃機関のエンジン回転数とエンジン出力と可変オイルポンプの基本作動領域との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関及びその制御方法について、図面を参照しながら説明する。なお、ここでは、一般的なクラッチ付きのマニアルトランスミッションで説明するが、オートマチックトランスミッションや自動変速トランスミッション(スムーサ)等においても、個々の車両によって取り付けるセンサの種類が異なる場合もあるが、本発明は適用できる。また、本発明は、車両搭載のディーゼルエンジンのみならず、車両搭載のその他のエンジンや産業用のエンジンや発電用のエンジン等の内燃機関全般において適用できる。
【0032】
本発明の係る実施の形態の内燃機関は、図1に示すように、可変オイルポンプ20を備えた内燃機関(エンジン)10であり、この内燃機関10は、可変オイルポンプ20と、この可変オイルポンプ20から供給されるエンジンオイルを使用する補助ブレーキシステム30と、内燃機関10の運転状態を検出する運転状態検出手段41を有して可変オイルポンプ20と補助ブレーキシステム30を制御する制御装置40とを備えて構成される。
【0033】
この可変オイルポンプ20は、エンジン本体11に設けられたエンジン駆動軸12のギヤ列13から駆動力を得ると共に、内燃機関10のエンジン回転数Neに対してエンジンオイルの供給量を変化させることができるように構成される。つまり、この可変オイルポンプ20は、エンジンオイルの供給量が内燃機関10のエンジン回転数Neに比例して変化させることができないオイルポンプではなく、同一のエンジン回転数Neに対してエンジンオイルの供給量を変化させることができるオイルポンプで構成する。
【0034】
例えば、この可変オイルポンプ20としては、第1オイルポンプ(メインオイルポンプ)21と第2オイルポンプ(セカンダリオイルポンプ)22の2系列のポンプで構成して、電磁クラッチ23をOFFにした場合では、第2オイルポンプ22は稼働せず、第1オイルポンプ21のみを稼働して、所定の流量でエンジンオイルを供給し、電磁クラッチ23をONにした場合は、第1オイルポンプ21の稼働に加えて第2オイルポンプ22も稼働させてエンジンオイルの流量を増加するように構成したオイルポンプを用いることができる。
【0035】
補助ブレーキシステム30は、可変オイルポンプ20から供給されるエンジンオイルを使用するシステムであり、例えば、内燃機関10の排気弁に可変オイルポンプ20から電磁弁31を経由して供給されるエンジンオイルの油圧で作動するバルブ(排気弁作動バルブ)32を設けた圧縮型開放ブレーキシステムで形成することができる。この圧縮型開放ブレーキシステムでは、このバルブ32を、内燃機関10のピストンの圧縮行程中に作動させてシリンダ内の圧縮ガスを開放し、内燃機関10のエネルギーを大きな制動エネルギーに変換し、補助ブレーキとしての役割を果たす。
【0036】
また、制御装置40は、内燃機関10の運転状態を検出する運転状態検出手段41を備え、この運転状態検出手段41で検出したデータを基に可変オイルポンプ20と補助ブレーキシステム30を制御するように構成される。
【0037】
この運転状態検出手段41は、エンジン回転数Neをエンジン回転数センサ14で検出し、実燃料噴射量Qmを燃料噴射量センサ15で検出する。また、この補助ブレーキの作動状態の判定に関係して、内燃機関10を搭載した車両50の運転席の補助ブレーキ作動スイッチ51のON−OFF、アクセルスイッチ52のON−OFF、クラッチスイッチ53のON−OFF、トランスミッションのニュートラルスイッチ54のON−OFFを検出するように構成される。
【0038】
つまり、この圧縮型開放ブレーキシステムで構成される補助ブレーキシステム30は、基本的には、内燃機関10のフリクションを増加させてエンジンブレーキ力を増大させることで、車両50の制動力を増加させるシステムである。従って、車両50が加速状態でないことはもとより、なお、かつ、エンジンブレーキ力が車両50に有効に作動することが可能な状態であることが必要となる。すなわち、車両50のタイヤとエンジンのクランク軸が連結されている状態であることが必要である。つまり、クラッチが作動状態であったり、トランスミッションがニュートラル等の状態であったりした場合にはエンジンブレーキは作動しない。そのため、これらの状態でないことを検知し、把握してから補助ブレーキを使用する必要がある。
【0039】
次に、本発明の係る実施の形態の内燃機関の制御方法について説明する。この制御方法は、制御装置40によって実施される制御方法であり、図2に示すような制御フローにより実施される。
【0040】
この図2の制御フローは、エンジンの運転開始と共に、上級の制御フローから呼ばれるとスタートして、ステップS11〜ステップS18又はステップS11〜ステップS19を実施して上級フローにリターンし、エンジンの運転終了まで、繰り返し上級フローから呼ばれてはリターンするものとして示されている。なお、第2オイルポンプ22のON−OFF作動は、電気的に作動する電磁クラッチ23を使用して説明しているが、その他の機械的に作動するクラッチにおいても、作動のための制御とその効果は同じである。
【0041】
図2の制御フローがスタートすると、ステップS11で、エンジン回転数Neとエンジン負荷Lを入力する。このエンジン負荷Lはアクセル開度センサ(図示しない)で検出されるアクセル開度Acなどから算出する。次のステップS12では、このエンジン回転数Neとエンジン負荷Lから燃料噴射量Qcを算出する。
【0042】
次のステップS13では、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qcを基に、図3に示すような、可変オイルポンプ用の高負荷時基本作動マップを参照して、可変オイルポンプ20の作動指数Pを算出する。
【0043】
図3では、横方向のエンジン回転数Neと縦方向の燃料噴射量Qに対して可変オイルポンプ20の作動指数Pを「0」又は「1」をテーブル形式で示してある。作動指数Pが「0」は、電磁クラッチ23をOFFにして、第1オイルポンプ21のみ稼働し、第2オイルポンプ22を停止することを意味しており、作動指数Pが「1」は、電磁クラッチ23をONにして、第1オイルポンプ21の稼働に加えて、第2オイルポンプ22も稼働することを意味している。
【0044】
図3では、エンジン回転数Neが1000rpm以上で、燃料噴射量Qが80mm3/st以上の高負荷状態で「1」となり、その他の内燃機関10の運転状態では「0」となっている。この図3は、基本稼働領域を示す図5の図中の上部のエンジン高出力化でトルクの上昇によりエンジンオイルが不足する「全負荷出力UP」(斜線部)で、第2オイルポンプ22を追加稼働することを示している。なお、この図3に示すような可変オイルポンプ用の高負荷時基本作動マップは、事前にエンジンテストベンチで性能試験を行い、エンジンオイルの増量が必要な状態であるエンジン領域を予め調査して作成される。
【0045】
次のステップS14では、ステップS13で算出した作動指数Pが「0」であるか「1」であるかを判定する。この判定で作動指数Pが「1」であれば(YES)、ステップS19に行き、電磁クラッチ23をONにして第2オイルポンプ22を所定の時間の間稼働してリターンする。この所定の時間は、ステップS14やS16の作動指数の判定のインターバルやステップS17の減速状態の判定のインターバルやステップS18の実燃料噴射量の判定のインターバルに関係する時間であり、予め設定される。なお、リターン後は再度上級フローに呼ばれてスタートする。
【0046】
ステップS14の判定で作動指数Pが「0」であれば(NO)、ステップS15に行き、エンジン回転数Neと燃料噴射量Qcを基に、図4に示すような、可変オイルポンプ用の補助ブレーキ基本作動マップを参照して、可変オイルポンプ20の作動指数Pを算出する。図4では、エンジン回転数Neに関係なく、燃料噴射量Qが0mm3/stで「1」となり、その他の内燃機関10の運転状態では「0」となっている。この図4は、基本稼働領域を示す図5の図中の下段の補助ブレーキ作動によりエンジンオイルが必要な「補助ブレーキ作動」(斜線部)で、第2オイルポンプ22を追加稼働することを示している。
【0047】
なお、この図4に示すような可変オイルポンプ用の補助ブレーキ基本作動マップは、エンジンブレーキを使用する状態であるエンジンの燃料噴射量Qがゼロになる領域を設定して作成される。
【0048】
次のステップS16では、ステップS15で算出した作動指数Pが「0」であるか「1」であるかを判定する。この判定で作動指数Pが「1」であれば(YES)、ステップS17に行き、減速状態又は補助ブレーキ作動状態にあるか否かを判定する。
【0049】
このステップS17の減速状態であるか否かの判定は、ステップS12で算出された燃料噴射量Qcがゼロであるか否かで判定する。また、補助ブレーキの作動状態の判定は、補助ブレーキ作動スイッチ51がON、アクセルスイッチ52がOFF、クラッチスイッチ53がOFF、トランスミッションのニュートラルスイッチ54がOFFの全部が成立するときに、補助ブレーキの作動状態であると判定する。
【0050】
この補助ブレーキ作動スイッチ51は、運転者が車両減速時又は車両制動時に補助ブレーキシステム30を使う意思があるときに、運転者本人がこの補助ブレーキ作動スイッチ51をONにすることにより、補助ブレーキシステム30が作動可能となるものである。なお、この補助ブレーキ作動スイッチ51をONにしても、補助ブレーキシステム30が作動するための、次に示す条件がすべて満たされなければ、補助ブレーキシステム30は作動しない。
【0051】
アクセルスイッチ52は、補助ブレーキシステム30を作動させる一つの情報として、車両を加速させるのか、又は、これから減速若しくは停止させるのかの運転者の意思を判定するために使用される。運転者がアクセルペダルから足を離して、このアクセルスイッチ52がOFFにならないと、補助ブレーキシステム30は作動しない。
【0052】
クラッチスイッチ53も、また、トランスミッションのニュートラルスイッチ54も、アクセルスイッチ52と同様であり、運転者がクラッチペダルから足を離して、このクラッチスイッチ53がOFFにならないと、補助ブレーキシステム30は作動せず、運転者がトランスミッションのニュートラルスイッチ54をOFFしないと、補助ブレーキシステム30は作動しないように構成される。
【0053】
言い換えれば、補助ブレーキ作動スイッチ51のONで運転者が補助ブレーキシステム30を作動させるための意思を確認し、アクセルスイッチ52のOFF、クラッチスイッチ53のOFF、トランスミッションのニュートラルスイッチ54のOFFで補助ブレーキシステム30が作動可能な状態にあることを確認する。つまり、エンジンブレーキの効果がない状態では、補助ブレーキシステム30は作動しないように構成される。
【0054】
このステップS17の判定で減速状態又は補助ブレーキの作動状態であれば(YES)、ステップS18に行き、燃料噴射量センサ15で検出された実燃料噴射量Qm(若しくは制御装置40からの燃料噴射装置への指示量である指示燃料噴射量Qt)がゼロ(Qm=0)であるか否かの判定をする。この判定で、実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロであれば(Qm=0、Qt=0:YES)、ステップS19に行き、電磁クラッチ23をONにして第2オイルポンプ22を所定の時間の間稼働してリターンする。この所定の時間は、ステップS14やS16の作動指数の判定のインターバルやステップS17の減速状態又は補助ブレーキの作動状態の判定のインターバルやステップS18の実燃料噴射量の判定のインターバルに関係する時間であり、予め設定される。
【0055】
また、ステップS16の判定で作動指数Pが「0」であっても(NO)、ステップS17の判定で非減速状態かつ補助ブレーキの非作動状態であっても(NO)、また、ステップS18の判定で実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロでなくても(Qm≠0、Qt≠0:NO)、ステップS20に行き、電磁クラッチ23をOFFにして第2オイルポンプ22を停止、第1オイルポンプ21のみで、所定の時間の間稼働してリターンする。この所定の時間は、ステップS14やS16の作動指数の判定のインターバルやステップS17の減速状態又は補助ブレーキの作動状態の判定のインターバルやステップS18の実燃料噴射量の判定のインターバルに関係する時間であり、予め設定される。なお、リターン後は再度上級フローに呼ばれてスタートする。
【0056】
この制御により、運転状態検出手段41で検出した内燃機関10の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態かつ実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態でかつ実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロの状態のときには、可変オイルポンプ20によるエンジンオイルの供給量を増量することができる。
【0057】
従って、上記の内燃機関10及び内燃機関の制御方法によれば、内燃機関10の運転状態が、エンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態のときには、エンジンオイルの供給量を増量し、必要十分な量のエンジンオイルによる潤滑と冷却を効率よく行うことができる。
【0058】
また、減速状態及び補助ブレーキの作動状態においては、車両の減速状態及び制動状態を正確に検出するために、制御装置からエンジンに実際に噴射されている燃料量である実燃料噴射量Qm(若しくは制御装置40からの燃料噴射装置への指示量である指示燃料噴射量Qt)がゼロになっているとの判定を更に用いることで、確実に燃料が噴射されていない状態で可変オイルポンプ20におけるエンジンオイルの供給量の増量を行うことができるので、この増量のための燃料消費を回避できる。
【0059】
この実燃料噴射量Qm(若しくは指示燃料噴射量Qt)がゼロの判定を入れることで、一般的なセンサだけでは実際にエンジン燃料がまだ噴射されている状態も発生し、この状態で可変オイルポンプ20を作動させると、この作動のために燃料を増加してしまい、エンジンの燃費悪化を引き起こしてしまうので、これを回避する。
【0060】
従って、燃費の悪化を回避しながら、内燃機関10のエンジン駆動軸12のエネルギーを回収して、可変オイルポンプ20を駆動し、エンジンオイルの供給量を増加して補助ブレーキシステム30へエンジンオイルを供給することができ、補助ブレーキ力を増加し、必要な制動力を効率よく得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の内燃機関及び内燃機関の制御方法は、エンジンオイルの大量供給が必要な高負荷状態では、エンジンオイルの供給量を増量して、必要十分な量のエンジンオイルによる潤滑と冷却を効率よく行うことができ、また、補助ブレーキの作動時では、確実に燃料が噴射されていない状態でエンジン駆動軸のエネルギーを回収して可変オイルポンプを駆動し、燃費の悪化を回避しながらエンジンオイルの供給量を増加して、補助ブレーキ力を増加し、必要な制動力を効率よく得ることができるので、自動車に搭載する内燃機関や建設機械用や発電用の内燃機関等の広範囲の内燃機関において利用できる。
【符号の説明】
【0062】
10 内燃機関
11 エンジン本体
12 エンジン駆動軸
13 ギヤ列
14 エンジン回転数センサ
15 燃料噴射量センサ
20 可変オイルポンプ
21 第1オイルポンプ
22 第2オイルポンプ
23 電磁クラッチ
30 補助ブレーキシステム
31 電磁弁
32 排気弁作動バルブ
40 制御装置
41 運転状態検出手段
50 車両
51 補助ブレーキ作動スイッチ
52 アクセルスイッチ
53 クラッチスイッチ
54 トランスミッションのニュートラルスイッチ
Ac アクセル開度
L エンジン負荷
Ne エンジン回転数
P 作動指数
Q 燃料噴射量
Qc 算出された燃料噴射量
Qm 実燃料噴射量
Qt 指示燃料噴射量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のエンジン回転数に対してエンジンオイルの供給量を変化させることができる可変オイルポンプと、該可変オイルポンプから供給されるエンジンオイルを使用する補助ブレーキシステムと、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段を有して前記可変オイルポンプと前記補助ブレーキシステムを制御する制御装置とを備えた内燃機関において、前記制御装置が、前記運転状態検出手段で検出した内燃機関の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のときには、前記可変オイルポンプによるエンジンオイルの供給量を増量する制御を行うことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記補助ブレーキシステムが、内燃機関のシリンダの排気弁に油圧で作動するバルブを設けた圧縮型開放ブレーキシステムであることを特徴とする請求項1記載の内燃機関。
【請求項3】
内燃機関のエンジン回転数に対してエンジンオイルの供給量を変化させることができる可変オイルポンプと、該可変オイルポンプから供給されるエンジンオイルを使用する補助ブレーキシステムと、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段を有して前記可変オイルポンプと前記補助ブレーキシステムを制御する制御装置とを備えた内燃機関の制御方法において、前記運転状態検出手段で検出した内燃機関の運転状態が、高負荷状態のとき、減速状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のとき、及び、補助ブレーキの作動状態で実燃料噴射量若しくは指示燃料噴射量がゼロの状態のときには、前記可変オイルポンプによるエンジンオイルの供給量を増量することを特徴とする内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7318(P2013−7318A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140196(P2011−140196)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】