内燃機関用シリンダヘッド
本発明は、外側構造体(2)内に鋳設された少なくとも1つの鋳造体(4)を備え、外側構造体(2)と鋳造体(4)とは異なった材料からなる軽量構造内燃機関用シリンダヘッド(1)に関する。高度な疲れ強さと高度な耐熱衝撃性とを達成するために、少なくとも1つの鋳造体(4)は支持構造体(3)を形成するとともにシリンダヘッドねじを収容する少なくとも1つのねじノズル(5)を形成するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側構造体内に鋳設された少なくとも1つの鋳造体を備え、外側構造体と鋳造体とは異なった材料からなる軽量構造内燃機関用シリンダヘッドに関する。さらに本発明は、ストローク弁によって密閉可能な、燃焼室内に開口する少なくとも1つのガス交換路孔を有し、前記ストローク弁は密閉状態において、シリンダヘッドによって形成された弁座上に接当するように構成したピストン往復機関とくに内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッドに関する。さらに本発明は上記シリンダヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に乗用車ディーゼルエンジン・シリンダヘッドの出力密度の増大はシリンダヘッドの疲れ強さならびに耐熱衝撃性によって制限される。疲れ強さの不足により、ピーク圧力の増大に伴って特にウォータジャケットならびにガス交換路領域において疲れ破壊が生じるおそれがある。シリンダヘッドへの熱伝達は出力に対しておおよそ一定な割合となっている。これにより、表面温度振幅は少なくとも出力密度に比例して増大し、そのため、耐熱衝撃性が不十分であれば各熱サイクル中にシリンダヘッドの損傷が生ずることになる。
【0003】
高度な疲れ強さはねずみ鋳鉄製、特にGJV(バーミキュラ黒鉛鋳鉄)製のシリンダヘッドによって実現可能である。アルミニウム合金からねずみ鋳鉄への切換えは危険ゾーンの疲れ強さに関しおおよそ50%の上昇をもたらす。ただし、ねずみ鋳鉄製シリンダヘッドの短所は、Al−Si−Mg合金の約5分の1に低下してしまう熱伝導性の悪化である。これによって、ねずみ鋳鉄製シリンダヘッドの最大温度はさらに高くなる(約400℃)。この温度レベルは中度の出力密度で達成されてしまう。出力密度の高まりによる温度負荷の増大は大幅な強度低下をもたらすとともに熱機械亀裂発生による大幅な寿命低下をもたらすことになる。加えてさらに、乗用車の場合の比較的密集配置されたエンジンの幾何的条件によっても、熱的交番負荷のもとで大幅な寿命低下となる。したがって、疲れ強さおよび剛性に対する要求を考慮すると鋼製ないしねずみ鋳鉄製のシリンダヘッドが有利であり、耐熱衝撃性に対する要求を考慮するとむしろアルミニウム製シリンダヘッドが有利となる。
【0004】
複合材料からシリンダヘッドを製造することはすでに公知である。欧州特許公開公報第0262240号(特許文献1)は、底板と、別個に製造された上側部材とを有し、これらが互いに着脱式に連結されているシリンダヘッドを記載している。この技術では、底板は上側部材よりも高度な耐熱性を有すると同時に上側部材よりも低い熱伝導性を有する材料で構成されている。短所は高負荷領域に複合ゾーンが形成されるとともに底板による熱伝達の低下が生ずることであり、これによって出力サイクルにおいて高い熱的交番負荷にさらされ当該材料損傷が生ずるとともにガス側における高い部材温度が発生する。
【0005】
欧州特許公開公報第0462850号(特許文献2)から、シリンダヘッドにおいて壁面強度を高めるために繊維強化されたインサートを弁孔の間に鋳設することが知られている。この技術では、移行ゾーンにおける連結に関して問題が生じる。さらに、熱伝導性の低下が温度振幅の高まりをもたらす点が短所である。加えてさらに、複合材料は強い脆化傾向を有しており、これにより熱的交番負荷下で大幅な寿命低下が生ずる。
【0006】
ドイツ特許公開公報第3100755号(特許文献3)は、バルブブリッジ間を分散強化焼結アルミニウムからなる1つまたは複数の挿入方式で補強した内燃機関用シリンダヘッドを記載している。ただし、鋳設プロセスにおけるアルミニウム焼結部材の連結は、移行領域が熱的・機械的高負荷領域にあるために、非常に困難である。長期耐久特性はこれらの対策によっても改善することはできない。
【0007】
内燃機関シリンダヘッド用の弁座を製作するため、弁座が形成さるべき箇所にエネルギーを供給することにより、付加材料をシリンダヘッドに融着することが知られている。この種の弁座および弁座製作方法は以下の文献つまり、国際公開第2004/048756号(特許文献4)、ドイツ特許公開公報第19912889号(特許文献5)、ドイツ特許公報第10329912号(特許文献6)または国際公開第99/02839号(特許文献7)から公知である。さらに、ドイツ特許公開公報第10218563号(特許文献8)から、レーザプレーティング法を使用した弁座製作方法が公知である。
【0008】
さらに、耐摩耗性を高めるために局所的溶融プロセスによって金属鋳造材料の組織を変化させることが知られている。溶融コーティングは、鋳造組織とは異なる耐摩耗性材料を層形成しなければならないために、比較的手間がかかると共に高コストである。さらに、弁座を誘導加熱焼入れすることが知られている。ただし、誘導加熱焼入れされた弁座の構造は、例えば、過給式内燃機関の排気弁で達成されるような高温時に、十分な安定性を維持できないという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許公開公報第0262240号
【特許文献2】欧州特許公開公報第0462850号
【特許文献3】ドイツ特許公開公報第3100755号
【特許文献4】国際公開第2004/048756号
【特許文献5】ドイツ特許公開公報第19912889号
【特許文献6】ドイツ特許公報第10329912号
【特許文献7】国際公開第99/02839号
【特許文献8】ドイツ特許公開公報第10218563号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を回避して、高度な疲れ強さと高度な耐熱衝撃性とを有するシリンダヘッドを提供することである。本発明のさらなる目的は、冒頭に述べたタイプのシリンダヘッドにおいて安定した耐摩耗性弁座をできるだけ容易な方法で製作することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は本発明により、前記鋳造体が支持構造体を形成するとともにシリンダヘッドねじを収容する少なくとも1つのねじノズルを形成することによって達成される。好ましくは、前記鋳造体はシリンダごとに、燃焼室内に開口する構成部材の収容に使用される少なくとも1つの好ましくは中央に位置する挿入部材を形成する。
【0012】
疲れ強さを向上させるには、少なくとも2本のねじノズルがノズル軸心に対して好ましくは垂直に配置された少なくとも1つの第1の補強材を介して互いに連結されているのが好適であり、その際、前記ねじノズルまたは前記挿入部材あるいはその両方を円筒スリーブとして形成してもよい。この場合、前記中央に位置する挿入部材は燃焼室隔壁のガス側から、同所における熱伝導に悪い影響を及ぼさないように、切り離されて形成されている。前記挿入部材とガス側との間には前記外側構造体領域が配置されており、前記挿入部材は前記外側構造体内に埋設されている。前記円筒形挿入部材は、エンジン型式に応じ、点火プラグまたはインジェクタを収容する。前記挿入部材の形状は目的とされた用途に応じて決定される。前記挿入部材がインジェクタの収容を目的として形成されている場合には、前記挿入部材にインジェクタねじ止め用のねじを収容するねじノズルが一体鋳造されるのが好適である。そのため、前記ねじノズルはインジェクタねじ止め用の締付ねじ螺挿孔を有している。これにより、アルミニウム材料ための必要締付力が極めて高くなるため、シリンダヘッドの問題となるゾーンがなくなる。
【0013】
前記鋳造体は、シリンダヘッドねじ用のねじノズルによって形成されるとともにさらに、斜めの第2の補強材を介して前記中央に位置する挿入部材が組み込まれているトラス状フレームで構成される。前記ねじノズルの間の前記第1の補強材はシリンダヘッド上面における構造歪みを防止するとともにシリンダヘッド座面における周期的な曲げを防止する。前記挿入部材によって形成された中央円筒は安定化支柱のように機能する。前記第1の補強材と第2の補強材はガス交換路を支持する。
【0014】
本発明の好適な実施形態において、それぞれのシリンダの前記ねじノズルは燃焼室隔壁の領域において好ましくはリング状の第3の補強材を介して互いに連結されており、特に好ましくは前記第3の補強材は、平面視でシリンダヘッドガスケットの領域に配置されている。前記第3の補強材の輪郭は、その封止作用を強化するため、シリンダヘッドガスケットに適応させている。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態において、前記鋳造体はガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受けを形成し、好ましくは、前記弁ガイド受けは前記ねじノズルまたは前記挿入部材と連結され、弁ばね受けは前記弁ガイド受けと一体化されてよい。この場合、ガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受けは円錐状の第1または第2の補強材に組み込み可能である。
【0016】
前記鋳造体は多体式に形成されて、好ましくはシリンダごとに1つのシリンダ区画を形成しているのが特に有利であり、この場合、隣接したシリンダのシリンダ区画は好ましくは差込み結合を介して互いに連結可能であってよい。この場合、好ましくは個々のシリンダ区画は第1の補強材を介して互いに連結された2本のねじノズルならびに、ねじノズルごとにそれぞれさらに別の1つの第1の補強材を有し、前記さらに別の双方の第1の補強材は隣接するシリンダ区画の前記ねじノズルと連結可能であり、好ましくは前記ねじノズルに差し込み可能であってよい。さらに、前記鋳造体はシリンダごとにリング状の第3の補強材を有し、前記リング状の第3の補強材はそれぞれのシリンダの前記ねじノズルと連結可能であり、好ましくは前記ねじノズルに差し込み可能とする。さらに、少なくとも1つのシリンダの前記第3の補強材は前記シリンダの前記ねじノズルに差し込み可能としてもよい。これらの対策は鋳型への前記鋳造体の組み入れを容易にする。
【0017】
前記外側構造体は軽金属、例えば、アルミニウム合金または銅合金で形成することができる。これにより、前記シリンダヘッドは燃焼室側においてできるだけ高い熱伝導性を有し、これにより、熱的交番負荷に起因する応力ができるだけ僅小となる構成が実現する。
【0018】
前記シリンダヘッドの高いレベルの疲れ強さを可能にするため、前記鋳造体は鋼または好ましくは球状黒鉛化されたねずみ鋳鉄から製造される。前記外側構造体とは異なり、前記鋳造体によって形成された支持構造体は、低い歪みレベルが保証されるように、高い弾性率を有する金属が使われる。前記高度の疲れ強さは周期的なガス荷重に耐えるために不可欠である。これらの要件は鋼または予備鋳造された高力球状黒鉛ねずみ鋳鉄の使用によって満たされる。前記支持構造体はシリンダごとに予備鋳造され、コアと共に鋳型にセットされて鋳造される。この場合、前記支持構造体はトラス状に形成されており、その形状はガス交換路の仕様に合わせられる。この場合、弁座リングを一体に鋳造することも可能であり、また、ねじパイプまたはカムシャフトベアリングを組み込むことも可能である。さらに、インジェクタ支えの補助も実現可能である。前記鋳造体が多体式に形成されていれば、鋳型中への容易かつ正確な配置が可能であり、この場合、個々の部材、例えば、ねじノズル、挿入部材、部材受けまたは補強材あるいはその両方は、差込み結合によって互いに連結可能である。
【0019】
安定的かつ耐摩耗性のある弁座を製作するため、弁座領域の鋳造組織は再融される。この場合、材料の付加は行われず、本来の鋳造組織のみが再融される。
【0020】
亀裂形成の危険ならびに歪み傾向を低下させるには、部材を再融プロセス前に鋳造材料のマルテンサイト変態開始温度以上の温度(約300℃)に予熱するのが好ましい。前記再融プロセスは好ましくはレーザ再融プロセスによって実施される。
【0021】
前記再融ゾーンには、急冷によって、メルトからレデブライト組織が生ずる。この凝固は実質的にメルトから母材への高い熱伝導性によって規定されている。したがって、凝固面は溶融境界から部材表面方向へ移動し、こうして、整列された構造からレデブライトが生ずる。さらに凝固面は欠陥を部材表面に送り出す。これらの欠陥は仕上げ加工によって取り除かれる。
【0022】
再融時に生ずる歪みならびに表面リプルを補正し得るように、ゆとりが考慮され、これは再融後に、例えば弁ガイドと一緒に加工される。
【0023】
公知の溶融方式とは異なり、本発明による方法では材料の付加は行われず、鋳造組織のみが再融される。したがって、弁座はシリンダヘッドの鋳鉄基材で構成されている。
【0024】
そのため前記再融プロセスにより、弁座リングを圧入する必要なしに、耐摩耗性弁座組織が実現される。これによって径方向プレス嵌めが回避され、弁座領域の熱除去が改善されるとともに構造スペースおよび製造コストの節約が達成される。
【0025】
誘導加熱焼入れされた弁座に比較して、再融された組織は、例えば過給式エンジンの排気弁で達成されるような温度に際しても安定的である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるシリンダヘッドの第1の斜視図である。
【図2】シリンダヘッドの燃焼室側を上方から見た斜視図である。
【図3】燃焼室側から見たシリンダヘッドを示す図である。
【図4】上方から見たシリンダヘッドを示す図である。
【図5】鋳造体の側面図である。
【図6】鋳造体の斜視図である。
【図7】鋳造体の平面図である。
【図8】鋳造体のシリンダ区画の斜視図である。
【図9】シリンダ区画の側面図である。
【図10】シリンダ区画のさらに別な側面図である。
【図11】鋳造体の端部の斜視図である。
【図12】第3の補強材の斜視図である。
【図13】加工後のシリンダヘッド弁座領域の断面図である。
【図14】仕上げ加工前の再融プロセス後の弁座領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
多気筒用シリンダヘッド1は軽金属、例えばアルミニウム合金または銅合金からなる外側構造体2を有し、支持構造体3を形成する鋳造体4が前記外側構造体内に埋設されている。支持構造体3はトラス状に形成されており、鋼製またはねずみ鋳鉄製である。鋳造体4は、シリンダヘッドねじ用のねじノズル5、インジェクタまたは点火プラグを収容するための挿入部材6ならびに、弁ガイド受け7を形成する。ねじノズル5はノズル軸心5aに対して垂直に形成された第1の補強材8を介して互いに連結されている。第2の補強材9は、ねじノズル5を挿入部材6と連結する。これらの第2の補強材9はノズル軸心5aおよび挿入部材軸6aに対して角度α<90°好ましくは<60°の傾斜をなして、ねじノズル5から出発して燃焼室隔壁17の方向へ挿入部材6に向かって延びている。この実施形態において、燃焼室隔壁の方向へ斜めに傾斜した第2の補強材9は弁ガイド受け10も形成する。それぞれの挿入部材6には、インジェクタねじ止め用の締付けねじ螺挿孔16aを有したねじノズル16が一体鋳造されている。
【0028】
さらに、燃焼室隔壁17の領域には、それぞれのシリンダヘッドガスケットの輪郭に合わされたリング状の第3の補強材11が設けられており、この補強材によってねじノズル5は互いに連結される。
【0029】
本実施形態において、鋳造体4はシリンダ20ごとに、シリンダ区画19と、燃焼室隔壁17の領域に設けられたリング状の第3の補強材11とで構成されている。シリンダ20ごとのこれら双方の鋳造品は相互嵌合され、周期的に連続して鋳造体4を形成する。さらに、シリンダヘッドの端部として、2本のねじノズル5と1つの第1の補強材8からなる、図11に図示した終端部材21が設けられている。
【0030】
それぞれのシリンダ区画19は少なくとも2本のねじノズル5と少なくとも3本の第1の補強材8から構成されている。さらに、シリンダ区画19は、図9から図14に図示したように、挿入部材6と第2の補強材9とを有していてよい。第1と第3の補強材8,11は、ねじノズル5が差し込まれるリング状の孔12,13を有している。ねじノズル5に孔12を嵌め込むことにより、複数のシリンダ20のシリンダ区画19も互いに連結できる。
【0031】
図8と図10から理解できるように、シリンダごとに、第1の補強材8はリブ8aを介して挿入部材6のねじノズル16と連結してもよい。シリンダヘッド1はできるだけ高い熱伝導性を有する材料からなる、燃焼室隔壁17面上の外側構造体2によって形成され、熱的交番負荷に起因する応力ができるだけ僅小となるように構成されている。外側構造体2の材料は、例えばアルミニウム合金または銅合金である。他方、外側構造体2内に埋設された鋳造体4は、歪みレベルをわずかなものとするために、高いヤング率を有する材料からなっている。鋳造体4はさらに、周期的なガス荷重に耐えるため、高度な疲れ強さも有していなければならない。したがって、鋳造体4の材料としては高力球状黒鉛ねずみ鋳鉄(GJS)または鋼が適している。この場合、支持構造体3はシリンダごとに予備鋳造され、ガス交換路コアと共に鋳型にセットされて鋳造される。図9から図14に図示した支持構造体4の差し込み方式は鋳型への組み込みを容易にする。
【0032】
シリンダヘッド1のガス側は弁可傾構造を可能とするために球状窪みとして形成してもよい。外側構造体2のアルミニウム合金は高い熱伝導性を有しており、鋳造液のために回避さるべき熱処理なしで所要の組織特性を有している。したがってこれは、理想的には、内部に傷のない、できるだけ高い極限伸び率を有する、できるだけ均質な構造の低合金アルミニウムである。
【0033】
鋼または球状黒鉛化された鋳造体4はトラス状に形成されており、その形状はガス交換路の必要性に合わされている。弁座リングを一体に鋳造することが可能である。ねじパイプも組み込むことが可能である。さらに、インジェクタ支え補助を鋳造体4に組み込むことも可能である。
【0034】
外側構造体2と支持構造体3からなるコンビネーションはさまざまな箇所で生ずる極端な要件に、材料の適切な選択と、支持構造体3ないし燃焼室隔壁の適切な成形とによって実質的に対処できる。したがって、このコンビネーションは極端な負荷に耐えるのに、熱的負荷に耐えられない鋳鉄製の均一な部材または剛性と疲れ強さが十分なレベルにないアルミニウム合金製の均一な部材よりも遥かによく適している。
【0035】
図13と図14に示した、ピストン往復機関、例えば内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッド101は、燃焼室108内に開口し、ストローク弁104によって密閉可能な、ガス交換路103用の少なくとも1つのガス交換孔102を有している。ストローク弁104は密閉状態において、シリンダヘッド101自体によって形成された弁座105に接当している。弁座105は局所レーザ再融プロセスによって硬化されているが、その際、弁座105の領域の鋳造組織106は溶融温度にもたらされる。本来の再融プロセスの前に、シリンダヘッド101は、歪み傾向ならびに亀裂形成の危険を低下させるため、それぞれの材料の予熱温度(約300℃)に加熱される。急冷により、溶融ゾーンにおいてメルトからレデブライト組織が生ずる。これによって、弁座領域105に、摩耗と疲労に対して高度な耐性を有する、高硬度(500から600Hv5)と優れた延性とを有する、欠陥のない微細構造の再融層が生ずる。
【0036】
再融時に生ずる歪みならびにリプルを補正し得るように、修正しろ107が考慮され、これは再融後に、例えば弁ガイドと一緒に加工される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側構造体内に鋳設された少なくとも1つの鋳造体を備え、外側構造体と鋳造体とは異なった材料からなる軽量構造内燃機関用シリンダヘッドに関する。さらに本発明は、ストローク弁によって密閉可能な、燃焼室内に開口する少なくとも1つのガス交換路孔を有し、前記ストローク弁は密閉状態において、シリンダヘッドによって形成された弁座上に接当するように構成したピストン往復機関とくに内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッドに関する。さらに本発明は上記シリンダヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に乗用車ディーゼルエンジン・シリンダヘッドの出力密度の増大はシリンダヘッドの疲れ強さならびに耐熱衝撃性によって制限される。疲れ強さの不足により、ピーク圧力の増大に伴って特にウォータジャケットならびにガス交換路領域において疲れ破壊が生じるおそれがある。シリンダヘッドへの熱伝達は出力に対しておおよそ一定な割合となっている。これにより、表面温度振幅は少なくとも出力密度に比例して増大し、そのため、耐熱衝撃性が不十分であれば各熱サイクル中にシリンダヘッドの損傷が生ずることになる。
【0003】
高度な疲れ強さはねずみ鋳鉄製、特にGJV(バーミキュラ黒鉛鋳鉄)製のシリンダヘッドによって実現可能である。アルミニウム合金からねずみ鋳鉄への切換えは危険ゾーンの疲れ強さに関しおおよそ50%の上昇をもたらす。ただし、ねずみ鋳鉄製シリンダヘッドの短所は、Al−Si−Mg合金の約5分の1に低下してしまう熱伝導性の悪化である。これによって、ねずみ鋳鉄製シリンダヘッドの最大温度はさらに高くなる(約400℃)。この温度レベルは中度の出力密度で達成されてしまう。出力密度の高まりによる温度負荷の増大は大幅な強度低下をもたらすとともに熱機械亀裂発生による大幅な寿命低下をもたらすことになる。加えてさらに、乗用車の場合の比較的密集配置されたエンジンの幾何的条件によっても、熱的交番負荷のもとで大幅な寿命低下となる。したがって、疲れ強さおよび剛性に対する要求を考慮すると鋼製ないしねずみ鋳鉄製のシリンダヘッドが有利であり、耐熱衝撃性に対する要求を考慮するとむしろアルミニウム製シリンダヘッドが有利となる。
【0004】
複合材料からシリンダヘッドを製造することはすでに公知である。欧州特許公開公報第0262240号(特許文献1)は、底板と、別個に製造された上側部材とを有し、これらが互いに着脱式に連結されているシリンダヘッドを記載している。この技術では、底板は上側部材よりも高度な耐熱性を有すると同時に上側部材よりも低い熱伝導性を有する材料で構成されている。短所は高負荷領域に複合ゾーンが形成されるとともに底板による熱伝達の低下が生ずることであり、これによって出力サイクルにおいて高い熱的交番負荷にさらされ当該材料損傷が生ずるとともにガス側における高い部材温度が発生する。
【0005】
欧州特許公開公報第0462850号(特許文献2)から、シリンダヘッドにおいて壁面強度を高めるために繊維強化されたインサートを弁孔の間に鋳設することが知られている。この技術では、移行ゾーンにおける連結に関して問題が生じる。さらに、熱伝導性の低下が温度振幅の高まりをもたらす点が短所である。加えてさらに、複合材料は強い脆化傾向を有しており、これにより熱的交番負荷下で大幅な寿命低下が生ずる。
【0006】
ドイツ特許公開公報第3100755号(特許文献3)は、バルブブリッジ間を分散強化焼結アルミニウムからなる1つまたは複数の挿入方式で補強した内燃機関用シリンダヘッドを記載している。ただし、鋳設プロセスにおけるアルミニウム焼結部材の連結は、移行領域が熱的・機械的高負荷領域にあるために、非常に困難である。長期耐久特性はこれらの対策によっても改善することはできない。
【0007】
内燃機関シリンダヘッド用の弁座を製作するため、弁座が形成さるべき箇所にエネルギーを供給することにより、付加材料をシリンダヘッドに融着することが知られている。この種の弁座および弁座製作方法は以下の文献つまり、国際公開第2004/048756号(特許文献4)、ドイツ特許公開公報第19912889号(特許文献5)、ドイツ特許公報第10329912号(特許文献6)または国際公開第99/02839号(特許文献7)から公知である。さらに、ドイツ特許公開公報第10218563号(特許文献8)から、レーザプレーティング法を使用した弁座製作方法が公知である。
【0008】
さらに、耐摩耗性を高めるために局所的溶融プロセスによって金属鋳造材料の組織を変化させることが知られている。溶融コーティングは、鋳造組織とは異なる耐摩耗性材料を層形成しなければならないために、比較的手間がかかると共に高コストである。さらに、弁座を誘導加熱焼入れすることが知られている。ただし、誘導加熱焼入れされた弁座の構造は、例えば、過給式内燃機関の排気弁で達成されるような高温時に、十分な安定性を維持できないという短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許公開公報第0262240号
【特許文献2】欧州特許公開公報第0462850号
【特許文献3】ドイツ特許公開公報第3100755号
【特許文献4】国際公開第2004/048756号
【特許文献5】ドイツ特許公開公報第19912889号
【特許文献6】ドイツ特許公報第10329912号
【特許文献7】国際公開第99/02839号
【特許文献8】ドイツ特許公開公報第10218563号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を回避して、高度な疲れ強さと高度な耐熱衝撃性とを有するシリンダヘッドを提供することである。本発明のさらなる目的は、冒頭に述べたタイプのシリンダヘッドにおいて安定した耐摩耗性弁座をできるだけ容易な方法で製作することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は本発明により、前記鋳造体が支持構造体を形成するとともにシリンダヘッドねじを収容する少なくとも1つのねじノズルを形成することによって達成される。好ましくは、前記鋳造体はシリンダごとに、燃焼室内に開口する構成部材の収容に使用される少なくとも1つの好ましくは中央に位置する挿入部材を形成する。
【0012】
疲れ強さを向上させるには、少なくとも2本のねじノズルがノズル軸心に対して好ましくは垂直に配置された少なくとも1つの第1の補強材を介して互いに連結されているのが好適であり、その際、前記ねじノズルまたは前記挿入部材あるいはその両方を円筒スリーブとして形成してもよい。この場合、前記中央に位置する挿入部材は燃焼室隔壁のガス側から、同所における熱伝導に悪い影響を及ぼさないように、切り離されて形成されている。前記挿入部材とガス側との間には前記外側構造体領域が配置されており、前記挿入部材は前記外側構造体内に埋設されている。前記円筒形挿入部材は、エンジン型式に応じ、点火プラグまたはインジェクタを収容する。前記挿入部材の形状は目的とされた用途に応じて決定される。前記挿入部材がインジェクタの収容を目的として形成されている場合には、前記挿入部材にインジェクタねじ止め用のねじを収容するねじノズルが一体鋳造されるのが好適である。そのため、前記ねじノズルはインジェクタねじ止め用の締付ねじ螺挿孔を有している。これにより、アルミニウム材料ための必要締付力が極めて高くなるため、シリンダヘッドの問題となるゾーンがなくなる。
【0013】
前記鋳造体は、シリンダヘッドねじ用のねじノズルによって形成されるとともにさらに、斜めの第2の補強材を介して前記中央に位置する挿入部材が組み込まれているトラス状フレームで構成される。前記ねじノズルの間の前記第1の補強材はシリンダヘッド上面における構造歪みを防止するとともにシリンダヘッド座面における周期的な曲げを防止する。前記挿入部材によって形成された中央円筒は安定化支柱のように機能する。前記第1の補強材と第2の補強材はガス交換路を支持する。
【0014】
本発明の好適な実施形態において、それぞれのシリンダの前記ねじノズルは燃焼室隔壁の領域において好ましくはリング状の第3の補強材を介して互いに連結されており、特に好ましくは前記第3の補強材は、平面視でシリンダヘッドガスケットの領域に配置されている。前記第3の補強材の輪郭は、その封止作用を強化するため、シリンダヘッドガスケットに適応させている。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態において、前記鋳造体はガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受けを形成し、好ましくは、前記弁ガイド受けは前記ねじノズルまたは前記挿入部材と連結され、弁ばね受けは前記弁ガイド受けと一体化されてよい。この場合、ガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受けは円錐状の第1または第2の補強材に組み込み可能である。
【0016】
前記鋳造体は多体式に形成されて、好ましくはシリンダごとに1つのシリンダ区画を形成しているのが特に有利であり、この場合、隣接したシリンダのシリンダ区画は好ましくは差込み結合を介して互いに連結可能であってよい。この場合、好ましくは個々のシリンダ区画は第1の補強材を介して互いに連結された2本のねじノズルならびに、ねじノズルごとにそれぞれさらに別の1つの第1の補強材を有し、前記さらに別の双方の第1の補強材は隣接するシリンダ区画の前記ねじノズルと連結可能であり、好ましくは前記ねじノズルに差し込み可能であってよい。さらに、前記鋳造体はシリンダごとにリング状の第3の補強材を有し、前記リング状の第3の補強材はそれぞれのシリンダの前記ねじノズルと連結可能であり、好ましくは前記ねじノズルに差し込み可能とする。さらに、少なくとも1つのシリンダの前記第3の補強材は前記シリンダの前記ねじノズルに差し込み可能としてもよい。これらの対策は鋳型への前記鋳造体の組み入れを容易にする。
【0017】
前記外側構造体は軽金属、例えば、アルミニウム合金または銅合金で形成することができる。これにより、前記シリンダヘッドは燃焼室側においてできるだけ高い熱伝導性を有し、これにより、熱的交番負荷に起因する応力ができるだけ僅小となる構成が実現する。
【0018】
前記シリンダヘッドの高いレベルの疲れ強さを可能にするため、前記鋳造体は鋼または好ましくは球状黒鉛化されたねずみ鋳鉄から製造される。前記外側構造体とは異なり、前記鋳造体によって形成された支持構造体は、低い歪みレベルが保証されるように、高い弾性率を有する金属が使われる。前記高度の疲れ強さは周期的なガス荷重に耐えるために不可欠である。これらの要件は鋼または予備鋳造された高力球状黒鉛ねずみ鋳鉄の使用によって満たされる。前記支持構造体はシリンダごとに予備鋳造され、コアと共に鋳型にセットされて鋳造される。この場合、前記支持構造体はトラス状に形成されており、その形状はガス交換路の仕様に合わせられる。この場合、弁座リングを一体に鋳造することも可能であり、また、ねじパイプまたはカムシャフトベアリングを組み込むことも可能である。さらに、インジェクタ支えの補助も実現可能である。前記鋳造体が多体式に形成されていれば、鋳型中への容易かつ正確な配置が可能であり、この場合、個々の部材、例えば、ねじノズル、挿入部材、部材受けまたは補強材あるいはその両方は、差込み結合によって互いに連結可能である。
【0019】
安定的かつ耐摩耗性のある弁座を製作するため、弁座領域の鋳造組織は再融される。この場合、材料の付加は行われず、本来の鋳造組織のみが再融される。
【0020】
亀裂形成の危険ならびに歪み傾向を低下させるには、部材を再融プロセス前に鋳造材料のマルテンサイト変態開始温度以上の温度(約300℃)に予熱するのが好ましい。前記再融プロセスは好ましくはレーザ再融プロセスによって実施される。
【0021】
前記再融ゾーンには、急冷によって、メルトからレデブライト組織が生ずる。この凝固は実質的にメルトから母材への高い熱伝導性によって規定されている。したがって、凝固面は溶融境界から部材表面方向へ移動し、こうして、整列された構造からレデブライトが生ずる。さらに凝固面は欠陥を部材表面に送り出す。これらの欠陥は仕上げ加工によって取り除かれる。
【0022】
再融時に生ずる歪みならびに表面リプルを補正し得るように、ゆとりが考慮され、これは再融後に、例えば弁ガイドと一緒に加工される。
【0023】
公知の溶融方式とは異なり、本発明による方法では材料の付加は行われず、鋳造組織のみが再融される。したがって、弁座はシリンダヘッドの鋳鉄基材で構成されている。
【0024】
そのため前記再融プロセスにより、弁座リングを圧入する必要なしに、耐摩耗性弁座組織が実現される。これによって径方向プレス嵌めが回避され、弁座領域の熱除去が改善されるとともに構造スペースおよび製造コストの節約が達成される。
【0025】
誘導加熱焼入れされた弁座に比較して、再融された組織は、例えば過給式エンジンの排気弁で達成されるような温度に際しても安定的である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるシリンダヘッドの第1の斜視図である。
【図2】シリンダヘッドの燃焼室側を上方から見た斜視図である。
【図3】燃焼室側から見たシリンダヘッドを示す図である。
【図4】上方から見たシリンダヘッドを示す図である。
【図5】鋳造体の側面図である。
【図6】鋳造体の斜視図である。
【図7】鋳造体の平面図である。
【図8】鋳造体のシリンダ区画の斜視図である。
【図9】シリンダ区画の側面図である。
【図10】シリンダ区画のさらに別な側面図である。
【図11】鋳造体の端部の斜視図である。
【図12】第3の補強材の斜視図である。
【図13】加工後のシリンダヘッド弁座領域の断面図である。
【図14】仕上げ加工前の再融プロセス後の弁座領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
多気筒用シリンダヘッド1は軽金属、例えばアルミニウム合金または銅合金からなる外側構造体2を有し、支持構造体3を形成する鋳造体4が前記外側構造体内に埋設されている。支持構造体3はトラス状に形成されており、鋼製またはねずみ鋳鉄製である。鋳造体4は、シリンダヘッドねじ用のねじノズル5、インジェクタまたは点火プラグを収容するための挿入部材6ならびに、弁ガイド受け7を形成する。ねじノズル5はノズル軸心5aに対して垂直に形成された第1の補強材8を介して互いに連結されている。第2の補強材9は、ねじノズル5を挿入部材6と連結する。これらの第2の補強材9はノズル軸心5aおよび挿入部材軸6aに対して角度α<90°好ましくは<60°の傾斜をなして、ねじノズル5から出発して燃焼室隔壁17の方向へ挿入部材6に向かって延びている。この実施形態において、燃焼室隔壁の方向へ斜めに傾斜した第2の補強材9は弁ガイド受け10も形成する。それぞれの挿入部材6には、インジェクタねじ止め用の締付けねじ螺挿孔16aを有したねじノズル16が一体鋳造されている。
【0028】
さらに、燃焼室隔壁17の領域には、それぞれのシリンダヘッドガスケットの輪郭に合わされたリング状の第3の補強材11が設けられており、この補強材によってねじノズル5は互いに連結される。
【0029】
本実施形態において、鋳造体4はシリンダ20ごとに、シリンダ区画19と、燃焼室隔壁17の領域に設けられたリング状の第3の補強材11とで構成されている。シリンダ20ごとのこれら双方の鋳造品は相互嵌合され、周期的に連続して鋳造体4を形成する。さらに、シリンダヘッドの端部として、2本のねじノズル5と1つの第1の補強材8からなる、図11に図示した終端部材21が設けられている。
【0030】
それぞれのシリンダ区画19は少なくとも2本のねじノズル5と少なくとも3本の第1の補強材8から構成されている。さらに、シリンダ区画19は、図9から図14に図示したように、挿入部材6と第2の補強材9とを有していてよい。第1と第3の補強材8,11は、ねじノズル5が差し込まれるリング状の孔12,13を有している。ねじノズル5に孔12を嵌め込むことにより、複数のシリンダ20のシリンダ区画19も互いに連結できる。
【0031】
図8と図10から理解できるように、シリンダごとに、第1の補強材8はリブ8aを介して挿入部材6のねじノズル16と連結してもよい。シリンダヘッド1はできるだけ高い熱伝導性を有する材料からなる、燃焼室隔壁17面上の外側構造体2によって形成され、熱的交番負荷に起因する応力ができるだけ僅小となるように構成されている。外側構造体2の材料は、例えばアルミニウム合金または銅合金である。他方、外側構造体2内に埋設された鋳造体4は、歪みレベルをわずかなものとするために、高いヤング率を有する材料からなっている。鋳造体4はさらに、周期的なガス荷重に耐えるため、高度な疲れ強さも有していなければならない。したがって、鋳造体4の材料としては高力球状黒鉛ねずみ鋳鉄(GJS)または鋼が適している。この場合、支持構造体3はシリンダごとに予備鋳造され、ガス交換路コアと共に鋳型にセットされて鋳造される。図9から図14に図示した支持構造体4の差し込み方式は鋳型への組み込みを容易にする。
【0032】
シリンダヘッド1のガス側は弁可傾構造を可能とするために球状窪みとして形成してもよい。外側構造体2のアルミニウム合金は高い熱伝導性を有しており、鋳造液のために回避さるべき熱処理なしで所要の組織特性を有している。したがってこれは、理想的には、内部に傷のない、できるだけ高い極限伸び率を有する、できるだけ均質な構造の低合金アルミニウムである。
【0033】
鋼または球状黒鉛化された鋳造体4はトラス状に形成されており、その形状はガス交換路の必要性に合わされている。弁座リングを一体に鋳造することが可能である。ねじパイプも組み込むことが可能である。さらに、インジェクタ支え補助を鋳造体4に組み込むことも可能である。
【0034】
外側構造体2と支持構造体3からなるコンビネーションはさまざまな箇所で生ずる極端な要件に、材料の適切な選択と、支持構造体3ないし燃焼室隔壁の適切な成形とによって実質的に対処できる。したがって、このコンビネーションは極端な負荷に耐えるのに、熱的負荷に耐えられない鋳鉄製の均一な部材または剛性と疲れ強さが十分なレベルにないアルミニウム合金製の均一な部材よりも遥かによく適している。
【0035】
図13と図14に示した、ピストン往復機関、例えば内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッド101は、燃焼室108内に開口し、ストローク弁104によって密閉可能な、ガス交換路103用の少なくとも1つのガス交換孔102を有している。ストローク弁104は密閉状態において、シリンダヘッド101自体によって形成された弁座105に接当している。弁座105は局所レーザ再融プロセスによって硬化されているが、その際、弁座105の領域の鋳造組織106は溶融温度にもたらされる。本来の再融プロセスの前に、シリンダヘッド101は、歪み傾向ならびに亀裂形成の危険を低下させるため、それぞれの材料の予熱温度(約300℃)に加熱される。急冷により、溶融ゾーンにおいてメルトからレデブライト組織が生ずる。これによって、弁座領域105に、摩耗と疲労に対して高度な耐性を有する、高硬度(500から600Hv5)と優れた延性とを有する、欠陥のない微細構造の再融層が生ずる。
【0036】
再融時に生ずる歪みならびにリプルを補正し得るように、修正しろ107が考慮され、これは再融後に、例えば弁ガイドと一緒に加工される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側構造体(2)内に鋳設された少なくとも1つの鋳造体(4)を備え、外側構造体(2)と鋳造体(4)とは異なった材料からなる軽量構造内燃機関用シリンダヘッド(1)であって、
少なくとも1つの鋳造体(4)が支持構造体(3)を形成するとともにシリンダヘッドねじを収容する少なくとも1つのねじノズル(5)を形成することを特徴とするシリンダヘッド(1)。
【請求項2】
前記鋳造体(4)がシリンダ(20)ごとに、燃焼室内に開口する構成部材を収容する少なくとも1つの好ましくは中央に位置する挿入部材(6)を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項3】
少なくとも2本のねじノズル(5)がノズル軸心(5a)に対して好ましくは垂直に配置された少なくとも1つの第1の補強材(8)を介して互いに連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項4】
少なくとも1つのねじノズル(5)が少なくとも1つの第2の補強材(9)を介して前記挿入部材(6)に連結されており、この場合、前記補強材は前記ノズル軸心(5a)と前記挿入部材軸(6a)との間に挟角(α)<90°、好ましくは<60°を形成することを特徴とする請求項2または3に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項5】
前記ねじノズル(5)または前記挿入部材(6)あるいはその両方が円筒スリーブとして形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項6】
前記挿入部材(6)が燃焼室隔壁(17)のガス側から前記外側構造体(2)によって切り離されていることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項7】
前記挿入部材(6)にはインジェクタねじ止め用のねじを収容するねじノズル(16)が一体鋳造されていることを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項8】
それぞれのシリンダ(20)の前記ねじノズル(5)が燃焼室隔壁(17)の領域において好ましくはリング状の第3の補強材(11)を介して互いに連結されており、ここで、特に好ましくは前記第3の補強材(11)は、平面視でシリンダヘッドガスケットの領域に配置されて基本的に前記シリンダヘッドガスケットの輪郭に合わされていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項9】
前記鋳造体(4)がガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受け(10)を形成し、好ましくは、前記弁ガイド受け(10)は前記ねじノズル(5)または前記挿入部材(6)と連結されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項10】
前記ガス交換弁の弁ばね受けが前記弁ガイド受け(10)に一体化されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの弁ガイド受け(10)が前記第1補強材または第2補強材(8,9)と一体化されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項12】
前記鋳造体(4)が多体式に形成されて、好ましくはシリンダ(20)ごとに1つのシリンダ区画(19)を備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項13】
隣接したシリンダ(20)のシリンダ区画(19)が好ましくは差込み結合を介して互いに連結可能であることを特徴とする請求項12に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項14】
個々のシリンダ区画(19)が第1の補強材(8)を介して互いに連結された2本のねじノズル(5)ならびに、前記ねじノズル(5)ごとにそれぞれさらに別の1つの第1の補強材(8)を有しており、前記さらに別の第1の補強材(8)は隣接するシリンダ区画(19)のねじノズル(5)と連結可能であり、好ましくは前記ねじノズル(5)に差し込み可能であることを特徴とする請求項12または13に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項15】
少なくとも1つのシリンダ(20)の前記第3の補強材が前記シリンダ(20)の前記ねじノズル(5)に差し込み可能であることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項16】
前記外側構造体(2)が軽金属合金、好ましくはアルミニウム合金または銅合金からなることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項17】
前記鋳造体(4)が鋼または好ましくは球状黒鉛化されたねずみ鋳鉄からなることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項18】
前記鋳造体(4)がトラス形状を有することを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項19】
燃焼室(108)内に開口し、ストローク弁(104)によって密閉可能な、ガス交換路(103)用の少なくとも1つの孔(102)を有し、前記ストローク弁(104)は密閉状態において、シリンダヘッド(101)によって形成された弁座(105)上に接当するように構成したピストン往復機関とくに内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッド(101)であって、
前記弁座(105)の領域の鋳造組織(106)は再融プロセス、好ましくはレーザ再融プロセスによって硬化されていることを特徴とするシリンダヘッド(101)。
【請求項20】
請求項19記載によるシリンダヘッドを製造する製造方法であって、
前記弁座(105)の領域の前記鋳造組織(106)が再融されていることを特徴とするシリンダヘッド(101)の製造方法。
【請求項21】
前記鋳造組織(106)が前記再融プロセス前に予熱温度に予熱され、前記予熱温度は前記シリンダヘッド(101)の鋳造材料のマルテンサイト変態開始温度以上であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記鋳造組織(106)の再融がレーザ再融プロセスによって行われることを特徴とする請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記再融された鋳造組織(106)は急冷されることによって生成されたレデブライト組織を有することを特徴とする請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
外側構造体(2)内に鋳設された少なくとも1つの鋳造体(4)を備え、外側構造体(2)と鋳造体(4)とは異なった材料からなる軽量構造内燃機関用シリンダヘッド(1)であって、
少なくとも1つの鋳造体(4)が支持構造体(3)を形成するとともにシリンダヘッドねじを収容する少なくとも1つのねじノズル(5)を形成することを特徴とするシリンダヘッド(1)。
【請求項2】
前記鋳造体(4)がシリンダ(20)ごとに、燃焼室内に開口する構成部材を収容する少なくとも1つの好ましくは中央に位置する挿入部材(6)を形成することを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項3】
少なくとも2本のねじノズル(5)がノズル軸心(5a)に対して好ましくは垂直に配置された少なくとも1つの第1の補強材(8)を介して互いに連結されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項4】
少なくとも1つのねじノズル(5)が少なくとも1つの第2の補強材(9)を介して前記挿入部材(6)に連結されており、この場合、前記補強材は前記ノズル軸心(5a)と前記挿入部材軸(6a)との間に挟角(α)<90°、好ましくは<60°を形成することを特徴とする請求項2または3に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項5】
前記ねじノズル(5)または前記挿入部材(6)あるいはその両方が円筒スリーブとして形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項6】
前記挿入部材(6)が燃焼室隔壁(17)のガス側から前記外側構造体(2)によって切り離されていることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項7】
前記挿入部材(6)にはインジェクタねじ止め用のねじを収容するねじノズル(16)が一体鋳造されていることを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項8】
それぞれのシリンダ(20)の前記ねじノズル(5)が燃焼室隔壁(17)の領域において好ましくはリング状の第3の補強材(11)を介して互いに連結されており、ここで、特に好ましくは前記第3の補強材(11)は、平面視でシリンダヘッドガスケットの領域に配置されて基本的に前記シリンダヘッドガスケットの輪郭に合わされていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項9】
前記鋳造体(4)がガス交換弁の少なくとも1つの弁ガイド受け(10)を形成し、好ましくは、前記弁ガイド受け(10)は前記ねじノズル(5)または前記挿入部材(6)と連結されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項10】
前記ガス交換弁の弁ばね受けが前記弁ガイド受け(10)に一体化されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項11】
少なくとも1つの弁ガイド受け(10)が前記第1補強材または第2補強材(8,9)と一体化されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項12】
前記鋳造体(4)が多体式に形成されて、好ましくはシリンダ(20)ごとに1つのシリンダ区画(19)を備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項13】
隣接したシリンダ(20)のシリンダ区画(19)が好ましくは差込み結合を介して互いに連結可能であることを特徴とする請求項12に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項14】
個々のシリンダ区画(19)が第1の補強材(8)を介して互いに連結された2本のねじノズル(5)ならびに、前記ねじノズル(5)ごとにそれぞれさらに別の1つの第1の補強材(8)を有しており、前記さらに別の第1の補強材(8)は隣接するシリンダ区画(19)のねじノズル(5)と連結可能であり、好ましくは前記ねじノズル(5)に差し込み可能であることを特徴とする請求項12または13に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項15】
少なくとも1つのシリンダ(20)の前記第3の補強材が前記シリンダ(20)の前記ねじノズル(5)に差し込み可能であることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項16】
前記外側構造体(2)が軽金属合金、好ましくはアルミニウム合金または銅合金からなることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項17】
前記鋳造体(4)が鋼または好ましくは球状黒鉛化されたねずみ鋳鉄からなることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項18】
前記鋳造体(4)がトラス形状を有することを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のシリンダヘッド(1)。
【請求項19】
燃焼室(108)内に開口し、ストローク弁(104)によって密閉可能な、ガス交換路(103)用の少なくとも1つの孔(102)を有し、前記ストローク弁(104)は密閉状態において、シリンダヘッド(101)によって形成された弁座(105)上に接当するように構成したピストン往復機関とくに内燃機関用のねずみ鋳鉄製シリンダヘッド(101)であって、
前記弁座(105)の領域の鋳造組織(106)は再融プロセス、好ましくはレーザ再融プロセスによって硬化されていることを特徴とするシリンダヘッド(101)。
【請求項20】
請求項19記載によるシリンダヘッドを製造する製造方法であって、
前記弁座(105)の領域の前記鋳造組織(106)が再融されていることを特徴とするシリンダヘッド(101)の製造方法。
【請求項21】
前記鋳造組織(106)が前記再融プロセス前に予熱温度に予熱され、前記予熱温度は前記シリンダヘッド(101)の鋳造材料のマルテンサイト変態開始温度以上であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記鋳造組織(106)の再融がレーザ再融プロセスによって行われることを特徴とする請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記再融された鋳造組織(106)は急冷されることによって生成されたレデブライト組織を有することを特徴とする請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−538396(P2009−538396A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511299(P2009−511299)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000248
【国際公開番号】WO2007/137314
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(597083976)アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー (26)
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS−LIST−PLATZ 1,A−8020 GRAZ,AUSTRIA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000248
【国際公開番号】WO2007/137314
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(597083976)アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー (26)
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS−LIST−PLATZ 1,A−8020 GRAZ,AUSTRIA
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]