説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】エネルギー環境問題への対応から要求されている低燃費性能を損なうことなく、優れた高温デポジット防止性能(TEOSTデポジット防止性能)を有する内燃機関用潤滑油を提供する。
【解決手段】100℃における動粘度が2cSt〜13cStであり、ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を含有し、溶剤精製油を30重量%〜90重量%含有する混合基油からなるとともに、前記潤滑油基油がガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分が1重量%〜20重量%である潤滑油成分を基油とした内燃機関用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、優れた低燃費性能を有すると共に、高温デポジット防止性能、例えば、TEOST(Thermo- Oxidation Engine Oil Simulation Test)により評価される高温酸化安定性に優れた潤滑油基油を含有する内燃機関用潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関用潤滑油は、主としてピストンリングとシリンダライナー、クランク軸、コネクティングロッドの軸受カムとバルブリフタを含む動弁機構等の各種摺動面の潤滑のほか、エンジン内冷却、燃焼生成物の清浄分散、さらに錆、腐食を防止する作用を有する。従って、内燃機関用潤滑油には、内燃機関内の各種摺動面における摩擦の低下、摩耗防止性が重要であり、さらに熱・酸化劣化の防止、清浄性分散性、防食性等多様な性能が要求されるが、近年の内燃機関の高性能化、高出力化に伴ない、さらに苛酷な条件下での使用に耐え得る高性能潤滑油が要求されている。特に、エネルギー環境問題への対応から燃費改善効果を有することが内燃機関用潤滑油の必須の要求品質であり、摩擦調整剤の使用が不可欠とされている。摩擦調整剤としては種々のものが開発されているが、有機モリブデン系化合物が有効であり、最もよく用いられている。
【0003】
しかしながら、有機モリブデン系化合物のような摩擦調整剤を用いた内燃機関用潤滑油は、高温酸化安定性、特に、ILSAC(International Lubricant Standardization and Approval Committee)で制定されたガソリンエンジンオイル規格(GF−2)で規定されている窒素酸化物の存在下における高温デポジット防止性能、すなわち、TEOSTデポジット防止性能が低下するという問題の生じることが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0004】
高温デポジット防止性能は、内燃機関のターボ軸受のコーキング性の評価基準として利用されるものであり、今後の新しい低燃費潤滑油にとって重要な要求品質である。これを充足することが低燃費性能を有する高性能潤滑油の今後の開発にとって回避不可能な課題である。従来、潤滑油の酸化安定性は、基油に含有される硫黄化合物等のナチュラルインヒビターの作用に加え、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤の添加により対応している。例えば、アミン系酸化防止剤としてアルキル化フェニル−α−ナフチルアミン、P,P’−ジアルキルジフェニルアミン、フェノチアジン等が使用され、また、フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルパラクレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が用いられている。しかしながら、これらの酸化防止剤のみでは、上記の苛酷な条件下での高温デポジット防止性能の改善は極めて小さいものであり、低燃費性能を損なうことなく、高温デポジット防止性能を有する低燃費潤滑油は現在未だ開発されるに至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、優れた低燃費性能、すなわち、初期燃費性能および低燃費持続性の両者を維持しながら、上記の高温デポジット防止性能を有する低燃費潤滑油基油を含有する内燃機関用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を加えた結果、内燃機関用潤滑油組成物の基油成分に特定の高沸点範囲の流動性を有する物質を含有させることにより、低燃費性能を犠牲にすることなく、上記高温デポジット防止性能を付与できることを見出し、これらの知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
100℃における動粘度が2cSt〜13cStであり、ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を潤滑油基油全重量基準で1重量%以上含有する潤滑油成分を基油とすることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物
に関するものである。
【0008】
さらに、本発明の好ましい実施の態様として、
(1)100℃における動粘度が2cSt〜13cStであり、上記ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分(以下、必要に応じ「GCD480℃残留重質成分」という。)が潤滑油基油全重量基準で1重量%〜20重量%を含有する潤滑油成分を基油とする内燃機関用潤滑油組成物、
(2)100℃における動粘度が3cSt〜6cStであり、GCD480℃残留重質成分を1重量%〜20重量%含有する潤滑油成分を基油とする内燃機関用潤滑油組成物、
(3)100℃における動粘度が2cSt〜13cStであり、潤滑油基油全重量基準で、上記ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において430℃以上の重質成分20重量%〜70重量%、450℃以上の重質成分(以下、必要に応じ「GCD450℃残留重質成分」という。)4重量%〜50重量%およびGCD480℃残量重質成分1重量%以上を含有する潤滑油成分を基油とする内燃機関用潤滑油組成物
を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を1重量%以上含有する潤滑油成分を基油とするものであり、これにより、低燃費性能を損なうことなく、優れた高温デポジット防止性能を発揮することができ、今後の品質要求に耐え得る高性能潤滑油を提供することができる。
【0010】
本明細書において、「ガスクロマトグラフ蒸留」とは、ASTM D2887「Standard Test Method for Boiling Range Distribution of PetroleumFraction by Gas Chromatography」 に準拠し、ガスクロマトグラフィーを用いて蒸留による潤滑油沸点範囲の測定をシミュレートする手段を意味するものである。
【0011】
本発明の特異点の一つは、前記高温デポジットを考慮した場合、内燃機関用潤滑油基油に、ASTM D2887に準拠したガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分の存在が高温デポジット抑制効果に寄与することに着目したことにあり、該重質成分を潤滑油基油全重量基準で1重量%以上含有させたことにより、低燃費性能を損なうことなく、高温デポジット防止性能を有する潤滑油成分を基油として用いた高性能内燃機関用潤滑油組成物を実現したことにある。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物の基油としては、鉱油系基油、合成系基油またはこれらの混合油を用いることができる。鉱油系基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、中間基系鉱油、ナフテン基系鉱油等を挙げることができ、混合基材としては軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油およびブライトストック等の溶剤精製油または水素化処理油およびワックス異性化油等を用いることができる。合成系基油としては、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、オルガノポリシロキサン等を用いることができる。これらの基油は、各々、単独で用いるかまたは混合することにより、100℃における動粘度が内燃機関用潤滑油として好適な2cSt〜13cSt、好ましくは3cSt〜6cStになるように調製される。内燃機関に潤滑油を使用する場合に、潤滑油の100℃動粘度が2cSt未満では、油膜形成が十分でなく摺動面の摩耗が生じるおそれがあり、一方、13cStを超えると摩擦損失が増加し低燃費性能を損なうという問題が生ずる。
【0014】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる基油は、前述のように、ASTM D2887に準拠し定められたガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を含有することが必須であり、その含有量は、潤滑油基油全重量基準で、1重量%以上であり、好ましくは、1重量%〜20重量%の範囲である。重質成分として上記の必須成分480℃以上の基油成分に加えて450℃以上の潤滑油成分を潤滑油基油全重量基準で5重量%以上、好ましくは、5重量%〜50重量%の範囲で含有させることができ、さらに、430℃以上の潤滑油成分を潤滑油基油全重量基準で20重量%〜70重量%であり、好ましくは、30重量%〜60重量%の範囲で含有させることができる。これらの430℃以上特に480℃以上の潤滑油成分は高温条件下において生成デポジットの分散稀釈作用を果たすものと推定される。潤滑油基油中に480℃以上の重質成分が存在しないか、または480℃以上の成分が存在してもその含有量が1重量%未満では上記高温デポジット(TEOSTデポジット)の生成を抑制することが困難であり、一方、その含有量が20重量%を超えてもその増量の割合には高温デポジット量を低減できないばかりか潤滑油の粘度上昇により低燃費性能を欠如するという難点の生ずるおそれがある。
【0015】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる基油は、如何なる製造方法をも採用することができ、限定されるものではないが、前記の各種混合基材を調合することにより製造することができる。
【0016】
潤滑油混合基材の製造方法は任意であり、特に限定されるものではないが、鉱油系混合基材は、例えば、原油の常圧蒸留および減圧蒸留により得られる潤滑油留分を原料とし、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、水素化処理、水素化精製、溶剤脱蝋、接触脱蝋、白土処理等の精製工程を組み合せることにより製造することができる。
【0017】
上記の溶剤精製油は、溶剤抽出等の溶剤処理を主要な精製工程として得られる混合基材である。例えば、減圧蒸留潤滑油留出油または残渣油をフェノール、フルフラール等の芳香族抽出溶剤で処理することにより得られるラフィネートを溶剤脱蝋または接触脱蝋に供することにより得ることができる。残渣油についてはプロパン溶剤を用いる溶剤脱瀝に供し脱瀝処理が行なわれる。
【0018】
また、上記の水素化処理油は、例えば、潤滑油原料を、水素化処理用触媒の存在下において、水素化処理条件下で水素と接触させることにより製造することができる。水素化処理用触媒としては、コバルト、モリブデン、ニッケル、クロム、タングステン、白金、パラジウム等の酸化物および/または硫化物さらに還元ニッケル等の水素化活性成分をアルミナ、シリカ−アルミナ等の耐火性無機酸化物の担体上に担持したものが用いられ、上記水素化活性成分は二種以上を組合せて用いることが好ましい。特に、コバルト−モリブデン、コバルト−モリブデン−ニッケルの組合せが触媒活性および活性維持能の観点から好適である。このような水素化処理により、芳香族炭化水素含有量2重量%以下であり、パラフィン系およびナフテン系炭化水素等の飽和炭化水素を主体とする高度水素化処理油を得ることができる。
【0019】
また、ワックス異性化触媒の存在下において、ワックスを水素と接触させることにより得られる異性化油はGCD480℃残留重質成分を含有し、粘度指数も高いので本発明の潤滑油組成物に用いられる基油の混合基材として有用である。高温デポジットの生成抑制に寄与するGCD480℃残留重質成分を含有する潤滑油基油は、同等の粘度レベルのものでも蒸留条件により蒸留成分の分布が相違することから、蒸留条件を制御し精製度合をワイドにすることにより製造することができる。
【0020】
本発明の内燃機関用潤滑油基油の混合基材としては、同等の粘度レベルで比較した場合、溶剤精製油、ワックス異性化油、高度水素化処理油等が好ましく、例えば、100℃における動粘度が約4cStの場合、ワックス異性化油を潤滑油基油全重量基準で3重量%以上の割合で調合することによりGCD480℃残留重質成分を含有する基油を製造することができる。
【0021】
また、合成系基油の混合基材の製造方法も任意であり、従来方法で製造されたものを用いることができる。例えば、100℃における動粘度が約6cStのポリ−α−オレフィンを調合することにより、GCD480℃残留重質成分を有する潤滑油基油を得ることができる。
【0022】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる摩擦調整剤としての有機モリブデン系化合物としては、
例えば、次の一般式[I]
【0023】
【化1】

および一般式[II]
【0024】
【化2】


で表される化合物を採用することができる。
【0025】
上記一般式[I]および[II]において、R1 〜R8 は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜30の炭化水素基である。炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基;炭素数4〜30のシクロアルキル基;炭素数6〜30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3〜8のアルキル基が好ましい。また、X1 およびX2 は酸素原子または硫黄原子であり、Y1 およびY2 は酸素原子または硫黄原子である。
【0026】
従って、上記一般式[I]で表される化合物の代表例として、硫化オキシモリブデンプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンヘプチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデン2−エチルヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンオクタデシルジチオカーバメート等およびこれらの分岐状アルキル基を有する化合物を挙げることができ、また、一般式[II]の化合物として、硫化オキシモリブデンプロピルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンブチルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンペンチルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンヘキシルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンヘプチルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンオクチルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンドデシルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンオクタデシルホスホロジチオエート、硫化オキシモリブデンオレイルホスホロジチオエート等またはこれらの分岐状アルキル基またはアルケニル基を挙げることができる。
【0027】
上記有機モリブデン系化合物は、潤滑油組成物全重量基準でモリブデン量として100ppm〜3000ppm、好ましくは、200ppm〜1500ppmの割合で基油に添加される。
【0028】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる過酸化物分解剤としては、硫黄系化合物および硫黄・リン系化合物を挙げることができる。硫黄系化合物としては、硫化パームオイル、硫化ジペンテン等の硫化油脂が用いられるほか、一般式[III]
9 −SX − R10 [III]
(上記、一般式[III]において、R9 およびR10は、各々、同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜20の炭化水素基であり、xは1〜4の整数である。)
で表されるジアルキルサルファイド、例えば、ジ−n−ブチルサルファイド、ジセチルサルファイドのほか、ジフェニルサルファイド等およびジアルキルポリサルファイド、例えば、ジ−n−ブチルジサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジフェニルジサルファイド等を用いることができる。
【0029】
他方、硫黄・リン系化合物としてはジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛等を用いることができる。
【0030】
硫黄系化合物の含有量は、潤滑油組成物全重量基準で硫黄量として100ppm〜4000ppm、好ましくは、200ppm〜2000ppmの範囲である。硫黄系化合物はMoSxの金属表面への付着を促進することにより、低燃費性能の向上に寄与するものと推定されている。
【0031】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる金属系清浄剤としては、バリウム(Ba),カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属のフェネート、スルホネート、サリシレート、ホスホネート等を選択して用いることができるが、特に、Ca−スルホネート、Mg−スルホネート、Ca−フェネート、Mg−フェネート、Ca−サリシレートおよびMg−サリシレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を使用することができる。金属系清浄剤は、タイプにより高温スラッジ生成防止に及ぼす影響は異なるが、特に、Ca−スルホネートおよびCa−サリシレートが高温スラッジ防止効果に対する効果が大きいため好ましい。
【0032】
これらの金属系清浄剤は、潤滑油組成物全重量基準で、0.5重量%〜20重量%、好ましくは、1重量%〜10重量%の割合で使用することができる。
【0033】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる無灰清浄分散剤として、アルケニルこはく酸イミドおよびアルケニルこはく酸イミドのホウ素誘導体、ベンジルアミン、ベンジルアミンのホウ素誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することができる。無灰清浄分散剤は、タイプにより高温デポジット防止効果が相違するが、ベンジルアミンおよびアルケニルこはく酸イミドがより好ましい。
【0034】
無灰清浄分散剤は、潤滑油組成物全重量基準で1重量%〜15重量%、好ましくは、2重量%〜10重量%の割合で使用することができる。
【0035】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に用いられる耐摩耗剤としては、下記一般式[IV]および[V]で表されるジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)およびジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を挙げることができる。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

上記一般式[IV]および[V]において、
11〜R14は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜26の炭化水素基であり、炭化水素基としては、炭素数1〜26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2〜26のアルケニル基;炭素数6〜26のシクロアルキル基;炭素数6〜26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R11〜R14は、好ましくは炭素数2〜12のアルキル基、炭素数8〜18のシクロアルキル基、炭素数8〜18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
ZnDTPおよびZnDTCは、各々、単独で、またはこれらを組み合わせて使用することができ、その使用割合は、潤滑油組成物全重量基準で0.1重量%〜7重量%、好ましくは、1重量%〜5重量%である。
【0039】
酸化防止剤としては、従来公知のフェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤を選択して用いることができる。フェノール系酸化防止剤として具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジタ−シャリーα−ジメチルアミノ−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等を挙げることができ、また、アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等を挙げることができる。これらは、通常、0.05重量%〜5重量%の割合で使用される。
【0040】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物には、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてその他の添加剤、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤、腐食防止剤などを適宜添加することができる。
【0041】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメチルメタクリレート系、ポリイソ ブチレン系、エチレン−プロピレン共重合体系、スチレン−ブタジエン水添共重合体系等が挙げられ、通常、0.5重量%〜35重量%の割合で使用される。
【0042】
防錆剤としては、例えば、アルケニルこはく酸またはその部分エステル等が挙げられ、適宜添加することができる。
【0043】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレート等が挙げられ、適宜添加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に本発明を実施例および比較例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等により限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例および比較例で示す内燃機関用潤滑油組成物の性能評価は、次の方法により評価した。
1)高温デポジット防止性能(TEOST(Thermo-Oxidation Engine Oil Simulation Test))(SAE Paper 932837 参照)
酸化工程を1.反応室での酸化プリカーサーの生成と2.デポジットの折出の二つのセクションに区分し、次の試験条件を採用し、生成したデポジット生成量を測定する。デポジット生成量を高温デポジット防止性能の評価基準とする。
【0046】
・ポンプ速度 : 0.45ml/分
・空気流量 : 3.6ml/分(水分含有)
・N2 O流量 : 3.6ml/分(水分含有)
・反応温度 : 100℃・反応室油量 : 100ml
・鉄ナフテネート: 100ppm
・折出室温度 : 200℃〜480℃
・全試験時間 : 114分
2)摩擦低減効果
往復動すべり摩擦試験機[SRV摩擦試験機]を用い、振動数50Hz、振幅3mm、荷重400N、温度110℃、試験時間25分の条件で摩擦係数を測定し摩擦低減効果の評価基準とする。
【0047】
実施例1
表2に示す溶剤精製油A 70.0重量%およびワックス異性化油30.0重量%を含有し、100℃における動粘度が4.1cStであり、GCD480℃残留重質成分が7.5重量%である鉱油系基油を調製した。なお、基油中GCD430℃残留重質成分の含有量は35.5重量%であり、このうち、GCD450℃残留重質成分は、17.7重量%であった。上記基油に潤滑油組成物全重量基準で硫化オキシモリブデンジチオカルバメートをモリブデン量として500ppm、カルシウムサリシレート 3重量%、アルケニルこはく酸イミド3重量%、ジベンジルジサルファイドを硫黄量として 500ppm、ジチオリン酸亜鉛をリン量として 0.1重量%を添加し、さらに表1に記載の他の添加剤を同表に示す割合で添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油1とした。試作油1を高温デポジット防止性能試験(TEOST)および摩擦試験(SRV)に供した。その結果を表1に示す。高温デポジット量が59.1mgと好結果を得た。
【0048】
実施例2
溶剤精製油A 30.0重量%およびワックス異性化油 70.0重量%とを混合し、100℃における動粘度が4.3cStであり、GCD480℃残留重質成分を17.5重量%含有する鉱油系基油を調製した。なお、基油中、GCD430℃残留重質成分が49.5重量%であり、このうちGCD450℃残留重質成分が33.3重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油2とした。試作油2を高温デポジット防止性能試験(TEOST)および摩擦試験に供し、その測定結果を表1に示す。高温デポジット量が48.6mgとさらに低減した。
【0049】
実施例3
溶剤精製油A 85.0重量%、ポリ−α−オレフィンA 7.5重量%およびポリ−α−オレフィンB 7.5重量%を含有し、GCD480℃残留重質成分 4.0重量%の鉱油系/合成系混合基油を調製した。基油中GCD430℃残留重質成分 27.3重量%であり、このうち、GCD450℃残留重質成分 10.1重量%であった。基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油3とした。試作油3の高温デポジット量および摩擦係数を表1に示す。
【0050】
実施例4
溶剤精製油A 70.0重量%、ポリ−α−オレフィンA 15.0重量%およびポリ−α−オレフィンB 15重量%を含有し、100℃における動粘度が3.9cStであり、GCD480℃残留重質成分 8.0重量%の鉱油系/合成油系混合基油を調製した。なお、基油中GCD430℃残留重質成分が29.7重量%であり、このうちGCD450℃残留重質成分が14.3重量%であった。上記基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油4とした。試作油4の高温デポジット量および摩擦係数を表1に示す。
【0051】
実施例5
溶剤精製油A 90.0重量%と溶剤精製油E 10.0重量%とを混合し、100℃における動粘度が4.8cStであり、GCD480℃残留重質成分9.0重量%の鉱油系基油を調製した。なお、GCD430℃残留重質成分が32.5重量%であり、GCD450℃残留重質成分が15.0重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油5とした。試作油5の高温デポジット量および摩擦係数を表1に示す。
【0052】
比較例1
溶剤精製油A 71.2重量%および溶剤精製油B 28.8重量%を混合し、100℃における動粘度 4.0cStの基油を調製した。この基油にはGCD480℃残留重質成分は含有しなかった。なお、GCD430℃残留重質成分 27.0重量%であり、GCD450℃残留重質成分 6.6重量%であった。この基油に、表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油aとした。試作油aの高温デポジット量および摩擦係数を表1に示す。
【0053】
比較例2
溶剤精製油A 30.0重量%および水素化分解油 70.0重量%とを混合し、100℃における動粘度 3.9cStの基油を調製した。この基油はGCD480℃残留重質成分を含有しなかった。なお、GCD430℃残留重質成分は10.8重量%であり、GCD450℃残留重質成分は1.8重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油bとした。試作油bの高温デポジット量および摩擦係数を表1に示す。
【0054】
比較例3
溶剤精製油A 71.8重量%と溶剤精製油B 29.2重量%とを混合し、100℃における動粘度4.0cStの基油を調製した。この基油にはGCD480℃残留重質成分は存在しなかった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加することにより、内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油cとした。上記性能評価の結果を表1に示す。
【0055】
比較例4
溶剤精製油C 9.3重量%と溶剤精製油D 90.7重量%とを混合し、100℃における動粘度が4.0cStであり、GCD480℃残留重質成分 0.9重量%の鉱油系基油を調製した。なお、GCD430℃残留重質成分33.2重量%であり、GCD450℃残留重質成分 15.6重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で、各々、添加して内燃機関用潤滑油組成物を調製し、試作油dとした。高温デポジット量および摩擦係数の評価結果を表1に示す。
【0056】
比較例5
溶剤精製油D 70.0重量%とポリ−α−オレフィンA 30.0重量%を混合し、100℃における動粘度が3.5cStであり、GCD480℃残留重質成分 0.7重量%の鉱油系/合成系混合基油を調製した。なお、GCD430℃残留重質成分が25.2重量%であり、GCD450℃残留重質成分が11.9重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で添加して、内燃機関用潤滑油組成物を調製した。高温デポジット量および摩擦係数の評価結果を表1に示す。この基油はGCD480℃残留重質成分を含有したが0.7重量%と少量のため高温デポジット生成抑制に対する効果は現れなかった。
【0057】
比較例6
溶剤精製油D 30.0重量%およびポリ−α−オレフィンA 70.0重量%を混合し、100℃における動粘度が2.7cStであり、GCD480℃残留重質成分 0.3重量%の鉱油系/合成系混合基油を調製した。なお、GCD430℃残留重質成分が10.8重量%、GCD450℃残留重質成分が5.1重量%であった。この基油に表1に示す各添加剤を同表に示す割合で各々添加して、内燃機関用潤滑油組成物を調製した。
【0058】
上記の実施例および比較例で用いた混合基材を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

以上の実施例および比較例から、本発明のGCD480℃残留重質成分を1重量%以上有する基油が実施例1から実施例5で示すように、ILSAC GF−2の高温デポジット量(TEOSTデポジット量)が60mg以下の顕著な効果を示す。これに対し、GCD480℃残留重質成分を含有しないかまたは1重量%未満の基油は、比較例1から比較例6でわかるように高温デポジット量が非常に多くILSAC GF−2の要求値を満足できないことが明らかになった。また、摩擦係数はいずれも低燃費性能を達成するには十分低いものであった。これらの結果から本発明の寄与するところが極めて大きいことが明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、潤滑油組成物全重量基準で、有機モリブデン系化合物摩擦調整剤をモリブデン量として200ppm〜1500ppm、ならびにカルシウムスルホネートおよび/またはカルシウムサリシレートを1重量%〜10重量%配合してなる内燃機関用潤滑油組成物であって、前記潤滑油基油が、100℃における動粘度2cSt〜13cStであり、ガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分を有し、潤滑油基油全重量基準で溶剤精製油を30重量%〜90重量%含有する混合基油からなるとともに、前記潤滑油基油がガスクロマトグラフ蒸留により測定した沸点範囲において480℃以上の重質成分が1重量%〜20重量%であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに、過酸化物分解剤が硫黄量として100ppm〜4000ppm配合されてなる請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。


【公開番号】特開2010−215912(P2010−215912A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101544(P2010−101544)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【分割の表示】特願平8−173067の分割
【原出願日】平成8年6月12日(1996.6.12)
【出願人】(000108317)東燃ゼネラル石油株式会社 (22)
【Fターム(参考)】