内燃機関
【課題】 燃焼室に供給される作動ガスの濃度を内燃機関の熱効率が良好な値となるように変更すること。
【解決手段】 内燃機関10は、例えば、アルゴンを作動ガスとする作動ガス循環型内燃機関であり、水素供給部40、酸素供給部50、アルゴン供給量調整部70及び電気制御装置80を備えている。電気制御装置は、内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて燃焼室21に供給される水素の量を決定するとともに、決定された水素の量に基いて燃焼室に供給する酸素の量を決定し、水素供給部及び酸素供給部を使用して、同決定された量の水素及び酸素を燃焼室に供給する。更に、電気制御装置は、要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるようにアルゴン供給量調整部を制御する。
【解決手段】 内燃機関10は、例えば、アルゴンを作動ガスとする作動ガス循環型内燃機関であり、水素供給部40、酸素供給部50、アルゴン供給量調整部70及び電気制御装置80を備えている。電気制御装置は、内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて燃焼室21に供給される水素の量を決定するとともに、決定された水素の量に基いて燃焼室に供給する酸素の量を決定し、水素供給部及び酸素供給部を使用して、同決定された量の水素及び酸素を燃焼室に供給する。更に、電気制御装置は、要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるようにアルゴン供給量調整部を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により作動ガスを膨張させて動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関(クローズドサイクルエンジン)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルゴン等の不活性ガスを作動ガス(熱媒体)として使用し、水素を燃焼室内にて燃焼させるとともに、排ガス中に含まれる水蒸気を凝縮液化して系外に排出し、その水蒸気が除去された排ガス(即ち、不活性ガス)を再び燃焼室に供給する作動ガス循環型の内燃機関が知られている。このような内燃機関の一つは、不純ガスとしてアルゴンを含む酸素ガスを酸素供給装置から吸気ポートを介して燃焼室に供給するとともに、燃焼室に水素を噴射するようになっている(特許文献1を参照。)。更に、この内燃機関は、酸素供給装置から酸素とともに系内に供給されたアルゴンの量に等しい量のアルゴンが系外に排出されるように、凝縮液化により水蒸気が除去された排ガスの一部を系外に排出するようになっている。これにより、吸気ポートを介して燃焼室に供給されるガスにおけるアルゴンの濃度が常に略一定に維持される。
【特許文献1】特開平11−93681号公報(段落0022、0023、0028、0043及び0044)
【発明の開示】
【0003】
ところで、内燃機関の運転状態(例えば、アクセルペダル操作量によって表される負荷)が変化して内燃機関に要求されるトルク(以下、「要求トルク」と称呼する。)が変化すると、燃焼室にて燃焼させるべき水素の量が変化し、これに伴って、燃焼室に供給される酸素の量も変化する。
【0004】
そこで、発明者は、燃焼室に供給される水素、酸素及び作動ガスとしてのアルゴンからなるガス(以下、「混合ガス」と称呼する。)のうち、アルゴンの量(流量)を一定に維持しながら水素及び酸素の量を変化させた場合(即ち、混合ガスにおけるアルゴンの濃度を変化させた場合)の内燃機関の熱効率の変化を調べた。図1はその結果を示したグラフである。
【0005】
図1から理解されるように、内燃機関の熱効率は、アルゴン濃度が値D0である場合に最大となる。これは、アルゴン濃度が値D0より低い範囲においては、アルゴン濃度が低下するほど燃焼室内にて発生した熱がアルゴンに伝達され難くなるためであると推定され、アルゴン濃度が値D0より高い範囲においては、アルゴン濃度が増大するほど混合ガスにおける酸素濃度が相対的に低下するために燃焼が不安定となるためであると推定される。熱効率を最大値とするアルゴン濃度の値D0は、燃焼室内にて発生する熱の量や燃焼状態により変動する。換言すると、値D0は、要求トルクに従って変化する「燃焼室に供給される水素の量及び酸素の量」に応じて変動する。なお、アルゴン濃度が値D1(>D0)を超えると、失火が発生する。
【0006】
しかしながら、上記文献に記載された内燃機関は、燃焼室に供給される酸素に対するアルゴンの比率を要求トルクにかかわらず一定に維持しているのみであるから、アルゴン濃度を要求トルク(燃焼室に供給される水素の量及び酸素の量)に応じた値に維持することができず、その結果、アルゴン濃度が過少となることにより内燃機関の熱効率が低下し、或いは、アルゴン濃度が過大となって燃焼が不安定になることに起因して内燃機関の熱効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明による内燃機関は、上記課題に対処するためになされたものであり、
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、水素酸素供給手段と、作動ガス量調整手段と、を備える。
【0008】
要求トルクに応じたトルクを内燃機関に発生させるためには、そのトルクを発生するのに必要な量の水素を燃焼室にて燃焼しなければならない。燃焼室にて燃焼される水素の量は、燃焼室に供給される水素及び酸素の何れか一方の量を制御するとともに、何れか他方の量を、その制御された一方の総てが他方と燃焼によって結合するのに十分な量となるように調整することにより制御され得る。上記水素酸素供給手段は、この考えに基づいて、要求トルクに応じたトルクを内燃機関が発生するように燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を燃焼室に供給する。これにより、燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量は、要求トルクに基づいて一義的に定められることになる。
【0009】
一方、上記作動ガス量調整手段は、要求トルクに応じて燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。この結果、要求トルクが変化して水素及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0010】
また、本発明による他の内燃機関は、
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、水素供給手段と、酸素供給手段と、作動ガス量調整手段と、を備える。
【0011】
水素供給手段は、前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する。酸素供給手段は、前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する。そして、作動ガス量調整手段は、前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。
【0012】
これによれば、要求トルクに応じて水素、酸素及び作動ガスのそれぞれ量が一義的に定まる。この結果、要求トルクが変化して水素の量及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0013】
この場合、前記作動ガス量調整手段は、前記内燃機関の熱効率が所定の値(熱効率の最高値の近傍値)以上となるように前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定することができる。これによれば、要求トルクにかかわらず、内燃機関の熱効率を高い値に維持することができる。
【0014】
本発明による他の内燃機関は、
燃焼室に水素と酸素と酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスとを供給し、同水素を燃焼させることに伴って発生した熱により同作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、燃焼状態指標値取得手段と、作動ガス量調整手段と、を備えている。
【0015】
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する。前記燃焼状態指標値は、例えば、図示平均有効圧Pmiの平均値avePmiとそれぞれの図示平均有効圧Pmiとの差の絶対値を積算した値σPmiを同図示平均有効圧の平均値avePmiで除した値(σPmi/avePmi)またはその逆数(avePmi/σPmi)であってもよい。或いは、前記燃焼状態指標値は、所定期間におけるエンジン回転速度の平均値aveNEとその期間における所定クランクアングル分(例えば、エンジンの二回転分のクランク角720度)に対するエンジン回転速度の瞬時値NEとの差の絶対値を積算した値σNEを同エンジン回転速度の平均値aveNEで除した値(σNE/aveNE)又はその逆数(aveNE/σNE)であってもよい。値σPmi及び値σNEは、燃焼状態が悪化するにつれて何れも増大する値である。従って、上記燃焼状態指標値は、燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値である。
【0016】
一方、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。
【0017】
これによれば、燃焼状態に影響を及ぼす作動ガス量を、実際の燃焼状態に応じて変更することができる。従って、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲でアルゴン濃度を変更することができるので、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく熱効率を高くしたり、或いは、燃焼状態を所望の状態に維持することができる。
【0018】
この場合、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整することが好適である。
【0019】
燃焼状態の悪化を考慮しなければ、混合ガス中により多くの作動ガスが存在するほど、水素の燃焼による熱をより高い効率をもって作動ガスに付与できるので、内燃機関の熱効率は良好となる。しかしながら、前述したように、作動ガス濃度が値D0を超えて高くなるほど酸素濃度がより低下するから、燃焼状態は許容できないほど悪化する。従って、上記構成のように、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整すれば、作動ガス濃度が値D0の近傍の値となるから、内燃機関の熱効率を極めて高い値とすることができる。
【0020】
また、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が所定の範囲内となるように前記燃焼室に供給される作動ガス量を調整することが好適である。
【0021】
これによれば、作動ガスの濃度を、燃焼状態が過度に悪化せず、且つ、熱効率が大きい値となるように、制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明による内燃機関(多気筒内燃機関)の各実施形態について図面を参照しながら説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関10の概略構成図である。図2は、内燃機関10の特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。この内燃機関10は、燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関(水素燃焼クローズドサイクルエンジン)である。
【0023】
作動ガスは熱膨張体として機能するガスであって、不活性ガスである。作動ガスは、その比熱比が酸素より大きいガスであることが望ましく、内燃機関の熱効率を一層向上するためには、その比熱比ができるだけ大きいガスであることが望ましい。そのようなガスとしては、アルゴン、ヘリウム及びネオン等の単原子分子からなる不活性ガスが知られている。本例における作動ガスは、アルゴンである。
【0024】
内燃機関10は、シリンダヘッド部が形成するシリンダヘッド11と、シリンダブロック部が形成するシリンダ12と、シリンダ12内において往復運動するピストン13と、クランク軸14と、ピストン13とクランク軸14とを連結しピストン13の往復運動をクランク軸14の回転運動に変換するためのコネクティングロッド15と、シリンダブロックに連接されたオイルパン16とを備えている。シリンダヘッド11の下面、シリンダ12の壁面及びピストン13の頂面は、燃焼室21を形成している。
【0025】
シリンダヘッド11には、燃焼室21に連通した吸気ポート31と、燃焼室21に連通した排気ポート32と、が形成されている。吸気ポート31には吸気ポート31を開閉する吸気弁33が配設され、排気ポート32には排気ポート32を開閉する排気弁34が配設されている。更に、シリンダヘッド11の略中央部には、イグニッションコイルを含む点火プラグ35が配設されている。
【0026】
内燃機関10は、水素供給部40、酸素供給部50、作動ガス循環通路部60、アルゴン供給量調整部70及び電気制御装置80を備えている。
【0027】
水素供給部40は、水素タンク41、水素ガス通路42、水素ガス圧レギュレータ43、サージタンク44、サージタンク圧力センサ45及び筒内噴射弁(水素噴射弁)46を備えている。
【0028】
水素タンク41はガス燃料としての水素ガスを10乃至70MPaの高圧ガス状態にて貯蔵する蓄圧タンクである。水素ガス通路42は、水素タンク41と筒内噴射弁46とを連通する通路(水素ガス管、デリバリパイプ)である。水素ガス通路42には、水素タンク41から筒内噴射弁46に向かう順に、水素ガス圧レギュレータ43及びサージタンク44が介装されている。
【0029】
水素ガス圧レギュレータ43は、水素ガス圧レギュレータ43よりも下流における水素ガス通路42(従って、サージタンク44)内の圧力を指示信号に応じた目標水素圧力PH2tgtに調整する周知の調整圧可変型プレッシャレギュレータである。
サージタンク44は、水素ガス噴射時に水素ガス通路42内に発生する脈動を低減するようになっている。
【0030】
サージタンク圧力センサ45は、サージタンク44に配設されている。サージタンク圧力センサ45は、サージタンク44内の水素ガスの圧力を検出し、その圧力(サージタンク圧力、即ち、噴射水素ガス圧力)Psgを表す信号を発生するようになっている。
筒内噴射弁46は、駆動信号に応答して燃焼室21内(気筒内)に水素ガスを直接噴射するようにシリンダヘッド11に配設されている。
【0031】
酸素供給部50は、酸素タンク(酸素ガスタンク)51、酸素ガス通路52、酸素ガス圧レギュレータ53、酸素ガス流量計54及び酸素ガスミキサ55を備えている。
【0032】
酸素タンク51は酸素ガスをガス状態にて貯蔵するタンクである。酸素ガス通路52は、酸素タンク51と酸素ガスミキサ55とを連通する通路(管)である。酸素ガス通路52には、酸素タンク51から酸素ガスミキサ55に向かう順に酸素ガス圧レギュレータ53及び酸素ガス流量計54が介装されている。
【0033】
酸素ガス圧レギュレータ53は、酸素ガス圧レギュレータ53よりも下流(酸素ガスミキサ55側)における酸素ガス通路52内の圧力を指示信号に応じて調整する周知の調整圧可変型プレッシャレギュレータである。換言すると、酸素ガス圧レギュレータ53は、指示信号に応答して酸素ガス通路52を流れる酸素ガス量を調整することができるようになっている。
【0034】
酸素ガス流量計54は、酸素ガス通路52を流れる酸素ガスの量(酸素ガス流量)を計測し、同酸素ガス流量FO2を表す信号を発生するようになっている。酸素ガスミキサ55は、後述する作動ガス循環通路部60の第2経路62と第3経路63との間に介装されている。酸素ガスミキサ55は、酸素ガス通路52を介して供給された酸素と、第2経路62を介して入口部に供給されるガスとを混合し、その混合したガスを出口部から第3経路63に排出するようになっている。
【0035】
作動ガス循環通路部60は、第1〜3経路(第1〜第3流路形成管)61〜63、凝縮器64及びアルゴンガス流量計65を備えている。
【0036】
第1経路61は、排気ポート32と凝縮器64の入口部とを接続している。第2経路62は、凝縮器64の出口部と酸素ガスミキサ55の入口部とを接続している。第2経路62にはアルゴンガス流量計65が介装されている。第3経路63は、酸素ガスミキサ55の出口部と吸気ポート31とを接続している。このように、第1〜第3経路61〜63は、排気ポート32から吸気ポート31へとガスを循環させる閉じられた経路(循環路)を構成している。
【0037】
凝縮器64は、第1経路61を介して燃焼室21から排出された排ガスを、その入口部から導入し、内部において冷却水Wにより冷却することにより、排ガスに含まれる水蒸気を凝縮液化するようになっている。これにより、凝縮器64は、排ガスに含まれる水蒸気を非凝縮ガス(この場合、非凝縮ガスはアルゴンガスであり、場合により水素ガス及び/又は酸素ガスを含む。)と分離して水となし、その水を外部に排出するようになっている。更に、凝縮器64は、前記分離した非凝縮ガスをその出口部から第2経路62に供給するようになっている。
【0038】
アルゴンガス流量計65は、第2経路62を流れる単位時間あたりのアルゴンガスの量(アルゴンガス流量)を計測し、同アルゴン流量Aractを表す信号を発生するようになっている。
【0039】
アルゴン供給量調整部70は、アルゴン貯蓄用タンク71、アルゴン貯蓄用通路72、アルゴン貯蓄用ポンプ73、逆止弁74、アルゴン供給用通路75及びアルゴン供給用バルブ76を備えている。
【0040】
アルゴン貯蓄用タンク71は、アルゴンを貯蓄するタンクである。アルゴン貯蓄用通路72は、アルゴン貯蓄用タンク71を第2経路62に接続している。アルゴン貯蓄用ポンプ73及び逆止弁74は、第2経路62からアルゴン貯蓄用タンク71に向けて順にアルゴン貯蓄用通路72に介装されている。
【0041】
アルゴン貯蓄用ポンプ73は、電動式ポンプである。アルゴン貯蓄用ポンプ73は、駆動信号に応答して駆動され、第2経路62内を流れるアルゴンをアルゴン貯蓄用タンク71に供給するようになっている。逆止弁74は、アルゴン貯蓄用ポンプ73からアルゴン貯蓄用タンク71へのアルゴンの流れのみを許容し、その逆の流れを阻止するようになっている。
【0042】
アルゴン供給用通路75は、アルゴン貯蓄用タンク71を第2経路62に接続している。アルゴン供給用バルブ76は、アルゴン供給用通路75に介装されている。アルゴン供給用バルブ76は、駆動信号に応答し開閉するようになっている。アルゴン供給用バルブ76が開かれると、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給され、アルゴン供給用バルブ76が閉じられると、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62へのアルゴンの供給が停止する。
【0043】
電気制御装置80は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子装置である。電気制御装置80には、サージタンク圧力センサ45、酸素ガス流量計54、アルゴンガス流量計65、アクセルペダル操作量センサ81及びエンジン回転速度センサ82が接続されている。電気制御装置80は、これらから各測定信号(検出信号)を入力するようになっている。
【0044】
アクセルペダル操作量センサ81は、アクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量を表す信号Accpを出力するようになっている。エンジン回転速度センサ82は、クランク軸14の回転速度に基づいてエンジン回転速度を表す信号NEとクランク角度を表す信号とを発生するようになっている。
【0045】
更に、電気制御装置80は、各気筒の点火プラグ35、各気筒の筒内噴射弁46、水素ガス圧レギュレータ43、酸素ガス圧レギュレータ53、アルゴン貯蓄用ポンプ73及びアルゴン供給用バルブ76と接続されていて、これらに駆動信号又は指示信号を送出するようになっている。
【0046】
次に、上記のように構成された内燃機関の作動について説明する。電気制御装置80のCPUは、図3のフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、CPUは、所定のタイミングになるとステップ300から処理を開始し、ステップ305〜ステップ320に進んで以下の処理を行う。
【0047】
ステップ305:運転者の運転操作により内燃機関に求められているトルクである要求トルクtqtgtを、その時点のアクセルペダル操作量Accp及びその時点のエンジン回転速度NEと、ルックアップテーブルMaptqtgtと、に基づいて求める。
【0048】
ステップ310:要求水素量(単位時間に必要とされる水素量、即ち、要求水素流量)H2tgtを、ステップ305にて求めた要求トルクtqtgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、図4に示したルックアップテーブルMapH2tgtと、に基づいて求める。図4に示したテーブルMapH2tgtは、アルゴン量が適量であって燃焼状態が過度に悪化しない範囲において最大の熱効率にて内燃機関10が運転されたときに、内燃機関10が要求トルクと等しいトルクを発生するために燃焼室21に供給することが必要な単位時間あたりの水素の量(水素流量)を、各要求トルク及び各エンジン回転速度に対して実験により定めたテーブルである。
【0049】
ステップ315:要求酸素量(単位時間に必要とされる酸素量、即ち、要求酸素流量)O2tgtを、ステップ310にて求めた要求水素量H2tgtと、関数funcO2と、に基づいて求める。関数funcO2は、要求水素量H2tgtをモル数に換算し、そのモル数の半分のモル数の酸素の量(或いは、要求水素量H2tgtのモル数の半分のモル数に所定のマージンを加えたモル数の酸素量)を要求酸素量O2tgtとして求める関数である。この場合、要求水素量H2tgtは要求トルクtqtgtに応じた量であるから、要求酸素量O2tgtも要求トルクtqtgtに応じて定められた量となる。
【0050】
ステップ320:要求アルゴン量(単位時間に必要とされるアルゴン量、即ち、要求アルゴン流量)Artgtを、ステップ305にて求めた要求トルクtqtgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、図5に示したルックアップテーブルMapArtgtと、に基づいて求める。図5に示したテーブルMapArtgtは、図4に示したテーブルMapH2tgtを定める場合に前提となるアルゴン量を定めるものであって、内燃機関10の熱効率が前記最大の熱効率となるアルゴン量を、各要求トルク及び各エンジン回転速度に対して実験により定めたテーブルである。換言すると、テーブルMapArtgtに応じて定められる量のアルゴンを燃焼室21に供給すれば、混合ガス中のアルゴン濃度(作動ガス濃度)が要求トルクに応じた最適値となる。
【0051】
次に、CPUはステップ325に進み、アルゴンガス流量計65から得られるアルゴン流量Aractと、ステップ320にて決定された要求アルゴン量Artgtとが一致しているか否かを判定する。このとき、両者が一致していれば、CPUはステップ325にて「Yes」と判定してステップ395に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0052】
一方、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtと一致していない場合、CPUはステップ325にて「No」と判定してステップ330に進み、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtより小さいか否かを判定する。そして、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtより小さければ、CPUはステップ330にて「Yes」と判定し、ステップ335にてアルゴン供給用バルブ76を開弁する。次いで、CPUはステップ340に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73の駆動を停止し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給される。その結果、燃焼室21に供給されるアルゴンの量が増大し、混合ガス中のアルゴン濃度が上昇する。
【0053】
他方、先のステップ330の判定時において、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgt以上であると、CPUはステップ330にて「No」と判定し、ステップ345にてアルゴン供給用バルブ76を閉弁する。次いで、CPUはステップ350に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73を駆動し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、第2経路62を流れるアルゴンの一部がアルゴン貯蓄用タンク71に貯蓄される。その結果、燃焼室21に供給されるアルゴンの量が減少し、混合ガス中のアルゴン濃度が低下する。
【0054】
一方、CPUは、図6に示した水素噴射ルーチンを、各気筒のクランク角が所定クランク角に一致する毎に実行するようになっている。従って、ある気筒のクランク角がその気筒の所定クランク角に一致すると、CPUはステップ600から処理を開始してステップ605に進み、図3のステップ310にて求められている要求水素量H2tgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、関数funcinjと、に基づいて噴射時間(筒内噴射弁46の開弁時間)Tinjを決定する。このとき、関数funcinjは、更に、サージタンク圧力センサ45が検出するサージタンク圧力Psgにも基づいて噴射時間Tinjを決定してもよい。
【0055】
次いで、CPUはステップ610に進み、その気筒のクランク角が噴射開始タイミングθinjに一致した時点から噴射時間Tinjだけその気筒の筒内噴射弁46を開弁させる駆動信号を同気筒の筒内噴射弁46に送出する設定を行い、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0056】
更に、CPUは図示しないルーチンを実行することにより、サージタンク圧力センサ45によって検出されるサージタンク圧力Psgを所定の目標圧力に一致させるように、水素ガス圧レギュレータ43を制御している。以上により、要求水素量H2tgtに応じた量の水素が各気筒の筒内噴射弁46から噴射される。
【0057】
更に、CPUは、図7に示した酸素流量制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ700から処理を開始してステップ705に進み、酸素ガス流量計54から得られる酸素ガス流量FO2と図3のステップ315にて決定されている要求酸素量O2tgtとが一致しているか否かを判定する。このとき、両者が一致していれば、CPUはステップ705にて「Yes」と判定してステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0058】
一方、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtと一致していない場合、CPUはステップ705にて「No」と判定してステップ710に進み、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtより小さいか否かを判定する。そして、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtより小さければ、CPUはステップ710にて「Yes」と判定してステップ715に進み、酸素ガスミキサ55を介して第3経路63に供給される酸素の量が増大するように酸素ガス圧レギュレータ53を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0059】
他方、先のステップ710の判定時において、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgt以上であると、CPUはステップ710にて「No」と判定してステップ720に進み、酸素ガスミキサ55を介して第3経路63に供給される酸素の量が減少するように酸素ガス圧レギュレータ53を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上により、要求酸素量O2tgtと等しい量の酸素が内燃機関10の燃焼室21に供給される。
【0060】
更に、CPUは図示しないルーチンを実行することにより、要求トルクtqtgtとエンジン回転速度NEとに基づいて点火時期θigを決定し、その点火時期θigにて点火が行われるように対応する気筒の点火プラグ35に駆動信号(点火実行指示信号)を送出する。これにより、水素が燃焼室21にて燃焼する。
【0061】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る内燃機関10は、
内燃機関の燃焼室21にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガス(例えば、アルゴン)を膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに応じたトルクを同内燃機関が発生するように前記燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに(図3のステップ305乃至ステップ315)、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する水素酸素供給手段(水素供給部40、酸素供給部50、及び、図6と図7のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに(図3のステップ320)、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段(アルゴン供給量調整部70、及び、図3のステップ325乃至ステップ350のうちの適当なステップを実行する電気制御装置80)と、
を備えた内燃機関である。
【0062】
従って、内燃機関10は、要求トルクが変化して水素及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。この結果、内燃機関10において、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0063】
また、内燃機関10は、水素供給手段と、酸素供給手段と、前述の作動ガス量調整手段と、を備える内燃機関でもある。
水素供給手段は、前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに(図3のステップ310)、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する(水素供給部40、及び、図6のルーチンを実行する電気制御装置80)。
酸素供給手段は、前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに(図3のステップ315)、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する(酸素供給部50、及び、図7のルーチンを実行する電気制御装置80)。
【0064】
これによれば、要求トルクに応じて水素、酸素及び作動ガスのそれぞれ量が一義的に定まる。この結果、要求トルクが変化して水素の量及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0065】
なお、第1実施形態においては、要求酸素量O2tgtは、要求水素量H2tgtに基づいて決定されている。これに対し、要求酸素量O2tgtを、要求トルクtqtgt及びエンジン回転速度NEと、ルックアップテーブルMapO2tgtと、に基づいて要求水素量H2tgtを介することなく直接的に求めてもよい。
【0066】
更に、第1実施形態においては、要求トルクtqtgtに応じて要求水素量H2tgtが求められ、求められた要求水素量H2tgtの水素が燃焼室21に供給されるとともに、その要求水素量H2tgtの水素を燃焼させるために必要な酸素量よりも多い量が要求酸素量O2tgtとして求められ、その求められた要求酸素量O2tgtの酸素が燃焼室21に供給されている。
【0067】
これに対し、要求トルクtqtgtに応じて要求水素量H2tgtを求め、その要求水素量H2tgtのモル数の丁度半分のモル数の酸素量を要求酸素量O2tgtとして求め、その求められた要求酸素量O2tgtの酸素を燃焼室21に供給するとともに、要求水素量H2tgtよりも多い量の水素を燃焼室21に供給してもよい。
【0068】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る内燃機関について説明する。この内燃機関は、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を、内燃機関の燃焼状態を表す値(以下、「燃焼状態指標値」と称呼する。)として取得し、取得した図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に基づいてアルゴン量を制御する。図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は、後に詳述するように、図示平均有効圧Pmiの平均値avePmiとそれぞれの図示平均有効圧Pmiとの差の絶対値を積算した値σPmiを同図示平均有効圧の平均値avePmiで除した値である。燃焼状態が悪化すれば図示平均有効圧Pmiの変動幅が大きくなるから、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は燃焼状態の悪化に伴って単調増加する。
【0069】
図8は、燃焼室21に供給される水素及び酸素の各量を所定の値に維持した場合における、混合ガスのアルゴン濃度に対する図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)及び内燃機関10の熱効率の変化の様子を示したグラフである。図8のグラフから理解されるように、アルゴン濃度が低い値から次第に増大してゆくと、混合ガスの酸素濃度が相対的に減少するから、燃焼状態が悪化してくる。従って、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は次第に増大する。一方、熱効率は、アルゴン濃度が値D0より小さい範囲においては、アルゴン濃度の増大とともに増大する。
【0070】
アルゴン濃度が、熱効率が最大となる値D0よりも僅かに小さい値DHを超えると、混合ガス中の酸素濃度が低下しすぎることに起因して燃焼状態が許容できないほど悪化する。換言すると、アルゴン濃度が値D0のとき、熱効率は最大となるが、その状態では燃焼状態が悪化しすぎて振動が過度に激しくなる。
【0071】
そこで、この内燃機関は、アルゴン濃度が値DHより僅かに小さい値DLと値DHとの間の値となるようにアルゴン濃度を制御する。具体的には、アルゴン濃度が値DHであるときの図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は値PH(=(σPmi/avePmi)driving、高側閾値)であり、アルゴン濃度が値DLであるときの図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は値PL(=(σPmi/avePmi)efficient、低側閾値)であるから、この内燃機関は、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が値PL〜値PHの範囲内となり、且つ、値PHに近づくように(アルゴン濃度が最大となるように)アルゴン供給量を制御する。これにより、この内燃機関は、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく、極めて高い熱効率で運転され得る。
【0072】
実際には、第2実施形態に係る内燃機関は、図1に破線にて示した筒内圧センサ83
を更に備える点、及び、電気制御装置80のCPUが図3に代わる図9乃至図11のフローチャートにより示したルーチンを実行する点において第1実施形態に係る内燃機関10と相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。なお、筒内圧センサ83は、燃焼室21内の圧力(筒内圧)を検出し、検出した筒内圧Pcyを表す信号を電気制御装置80に出力するようになっている。
【0073】
このCPUは、要求トルクtqtgtの急変に伴って要求アルゴン量Artgtが急変したとき、所定時間だけアルゴン量をオープンループ制御し、その後、アルゴン量を図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に基づいてフィードバック制御する。
【0074】
具体的に述べると、CPUは図9に示したアルゴン量オープンループ制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。なお、図9において、図3と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0075】
所定のタイミングになると、CPUはステップ900から処理を開始し、上述したステップ305乃至ステップ320の処理を行う。これにより、要求トルクtqtgt、要求水素量H2tgt、要求酸素量O2tgt及び要求アルゴン量Artgtが決定される。次いで、CPUはステップ905に進み、本ルーチンを前回に実行した時点の要求アルゴン量Artgtoldと現時点の要求アルゴン量Artgtとの差を要求アルゴン変化量dArtgtとして求める。次いで、CPUはステップ910に進み、要求アルゴン変化量dArtgtの絶対値が基準値dArthより大きいか否かを判定する。
【0076】
いま、要求トルクtqtgtの急変に伴って要求アルゴン量Artgtが急変したと仮定して説明を続けると、CPUはステップ910にて「Yes」と判定してステップ915に進み、フィードバック許可フラグXFBの値を「0」に設定する。次いで、CPUはステップ325に進み、現時点の実際のアルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとが一致しているか否かを判定する。
【0077】
現時点は、要求アルゴン量Artgtが急変した直後である。従って、アルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとは一致しない。このため、CPUはステップ325にて「No」と判定し、ステップ330乃至ステップ350のうちの適当なステップの処理を実行する。これにより、実際のアルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtへと向かって変化する。次いで、CPUはステップ920に進み、前回の要求アルゴン量Artgtoldとして現時点の要求アルゴン量Artgtを設定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0078】
その後、要求アルゴン量Artgtが安定した状態が継続すると、CPUはステップ910に進んだとき、同ステップ910にて「No」と判定してステップ925に進み、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であるか否かを判定する。この場合、フィードバック許可フラグXFBの値は「0」であるから、CPUはステップ925にて「Yes」と判定し、再びステップ325以降に進む。
【0079】
このような処理は、要求アルゴン量Artgtが急変しない限り繰り返し実行される。従って、所定の時間が経過すると、実際のアルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtと一致する。このとき、CPUが図9に示したルーチンを実行すると、ステップ325にて「Yes」と判定し、ステップ930に進んでフィードバック許可フラグXFBの値を「1」に設定する。以上の制御により、実際のアルゴン流量Aractが急変後の要求アルゴン量Artgtに速やかに近づく。
【0080】
一方、CPUは図10のフローチャートにより示したアルゴン量フィードバック制御ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1000から処理を開始し、ステップ1005にてフィードバック許可フラグXFBの値が「1」であるか否かを判定する。
【0081】
このとき、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であれば、CPUはステップ1005にて「No」と判定してステップ1095に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。即ち、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であるとき、CPUはアルゴン量のフィードバック制御を行わない。
【0082】
一方、フィードバック許可フラグXFBの値が上述した図9のステップ930にて「1」に設定されていると、CPUはステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後であるか否かを判定する。後述するように、内燃機関の運転状態が所定期間に亘り安定している場合(要求トルクtqtgtが所定期間に亘り急変していない場合)、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新される。
【0083】
いま、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後であると仮定して説明を続けると、CPUはステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1015に進み、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値である上述の値PLより大きく、且つ、高側域値である上述の値PHより小さいか否かを判定する。即ち、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にあるか否かが判定される。このとき、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にあれば、CPUはステップ1015にて「Yes」と判定し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0084】
一方、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にないと、CPUはステップ1015にて「No」と判定し、ステップ1020に進んで図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいか否かを判定する。仮に、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きければ、アルゴン量(アルゴン濃度)が過大であって、燃焼が許容でいない程度にまで不安定となっていることを意味する。そこで、CPUは、そのような場合、ステップ1020にて「Yes」と判定して1025に進み、アルゴン供給用バルブ76を閉弁する。次いで、CPUはステップ1030に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73を駆動し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、第2経路62を流れるアルゴンの一部がアルゴン貯蓄用タンク71に貯蓄され、燃焼室21に供給されるアルゴン量が低減する(混合気のアルゴン濃度が低下する)。
【0085】
他方、ステップ1020の判定時において、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PH以下であれば、アルゴン量(アルゴン濃度)を増大しても燃焼が許容でいない程度にまで不安定とはならず、且つ、熱効率を向上することができることを意味する。そこで、CPUは、そのような場合、ステップ1020にて「No」と判定して1035に進み、アルゴン供給用バルブ76を開弁する。次いで、CPUはステップ1040に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73の駆動を停止し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給され、混合気のアルゴン濃度が増大する。以上により、アルゴン濃度は、燃焼が不安定とならない範囲内(図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内)で、最大の値となるようにフィードバック制御される。
【0086】
なお、要求トルクtqtgtの急変があってから、実際のアルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとが一致してフィードバック許可フラグXFBが図9のステップ930にて「1」に設定された状態において、要求トルクtqtgtの急変がないとき、CPUは図9のステップ910及びステップ925の両ステップにて「No」と判定し、直接ステップ995に進む。従って、この場合、アルゴン量のオープンループ制御(フィードフォワード制御)は実行されない。
【0087】
また、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後以外のタイミングにて、CPUが図10のステップ1010の処理を実行すると、CPUは同ステップ1010にて「No」と判定して直接ステップ1095に進む。これにより、アルゴン量のフィードバック制御は、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新される毎に実行されることになる。
【0088】
更に、CPUは図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を計算するために、図11のフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1100から処理を開始し、ステップ1105にて「フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過しているか否か(内燃機関が2・N回転以上回転したか否か)」を判定する。このとき、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過していなければ、CPUはステップ1105にて「No」と判定してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。
【0089】
一方、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過していると、CPUはステップ1105にて「Yes」と判定してステップ1110に進み、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上が経過したか否かを判定する。このとき、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上経過していなければ、CPUはステップ1110にて「No」と判定してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。
【0090】
いま、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上経過していると仮定すると、CPUはステップ1110にて「Yes」と判定してステップ1115に進み、過去Nサイクル分の図示平均有効圧Pmiの平均値を図示平均有効圧平均値avePmiとして算出する。なお、各サイクルの図示平均有効圧Pmiは、図示しないルーチンにより、筒内圧センサ83により検出される筒内圧Pcyとエンジン回転速度センサ82により検出されるクランク角とに基づいて別途計算され、RAMに記憶されている。
【0091】
次に、CPUはステップ1120に進み、過去Nサイクルの各サイクルの図示平均有効圧Pmiと同過去Nサイクルについての図示平均有効圧平均値avePmiとの差の絶対値を求め、その絶対値を過去Nサイクルに亘って積算し、その積算値を図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとする。そして、CPUはステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。これにより、図示平均有効圧平均値avePmiと図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとが算出される。
【0092】
なお、ステップ1105の存在により、フィードバック許可フラグが「0」から「1」に変更されてからNサイクルが経過するまでは、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。従って、この期間においては、図10のステップ1015乃至ステップ1040によるアルゴン量のフィードバック制御は実行されない。これは、要求トルクtqtgtが急変した後はオープンループ制御によって実際のアルゴン量Aractが急変後の要求トルクに基づく要求アルゴン量Artgtにほぼ一致してから、改めて図示平均有効圧平均値avePmiと図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとを求め直す、即ち、「燃焼状態指標値」である図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を求め直す必要があるからである。
【0093】
以上、説明したように、第2実施形態に係る内燃機関は、第1実施形態と同様の作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する燃焼状態指標値取得手段(筒内圧センサ83及び図11のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段(アルゴン供給量調整部70、及び、図10のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
を備えている。
【0094】
従って、第2実施形態に係る内燃機関は、燃焼状態に影響を及ぼす作動ガス量(アルゴンガス量)を、実際の燃焼状態に応じて変更することができる。この結果、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲でアルゴン濃度を変更することができるので、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく略最高の熱効率にて内燃機関を運転することができる。
なお、アルゴン濃度のフィードバック制御範囲を、より安定した燃焼状態が得られる範囲に設定すれば(即ち、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が、例えば、値DLより小さい値から値DLまでの範囲となるようにアルゴン量をフィードバック制御すれば)、ある程度高い熱効率を維持しながら燃焼状態をより良好な状態に維持することができる。
【0095】
<第2実施形態の第1変形例>
第2実施形態の第1変形例は、CPUが図10に代わる図12のフローチャートにより示したアルゴン量フィードバック制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行する点のみにおいて、第2実施形態の内燃機関と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。なお、図12において、図10と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0096】
図12に示したルーチンによっても、ステップ1005及びステップ1010にて「Yes」と判定されて、CPUがステップ1205以降に進んだ場合にのみ、アルゴン量がフィードバック制御される。具体的に述べると、CPUはステップ1205にて図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PLより小さいか否かを判定する。そして、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PLより小さいとき、CPUはステップ1035及びステップ1040に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を増大する(混合気におけるアルゴン濃度を増加させる)。
【0097】
一方、ステップ1205の判定時において、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL以上であると、CPUはステップ1205にて「No」と判定してステップ1020に進み、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいか否かを判定する。そして、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいとき、CPUはステップ1020にて「Yes」と判定してステップ1025及びステップ1030に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を減少させる(混合気におけるアルゴン濃度を低下させる)。
【0098】
この結果、アルゴン濃度は、図8に示した値DLより大きく且つ値DHより小さい範囲内に制御される。従って、燃焼状態が不安定にならず、且つ、熱効率を極めて高い値に維持することができる。
【0099】
<第2実施形態の第2変形例>
第2実施形態の第2変形例は、そのCPUが、図9のステップ305乃至ステップ315のみからなるルーチンを図9のルーチンに代えて実行するとともに、図10のステップ1005を省略したルーチンを図10のルーチンに代えて実行するものである。これによれば、オープンループ制御が省略される。なお、同様に、CPUは、図9のステップ305乃至ステップ315のみからなるルーチンを図9のルーチンに代えて実行するとともに、図12のステップ1005を省略したルーチンを図12のルーチンに代えて実行してもよい。これによっても、オープンループ制御が省略される。
【0100】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る内燃機関について説明する。この内燃機関は、燃焼状態指標値として、第2実施形態の内燃機関が使用した図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に代え、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)を使用する点において、第2実施形態の内燃機関と相違する。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0101】
エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は、所定期間(過去Nサイクル)におけるエンジン回転速度の平均値aveNEとその期間における所定クランクアングル分(例えば、エンジンの1サイクルに相当するクランク角720度)に対するエンジン回転速度の瞬時値NEとの差の絶対値を積算した値σNE(以下、「エンジン回転変動幅積算値σNE」と称呼する。)を同エンジン回転速度の平均値aveNEで除した値(σNE/aveNE)である。燃焼状態が悪化すればエンジン回転速度NEの変動幅が大きくなるから、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は燃焼状態の悪化に伴って単調増加する。即ち、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は、燃焼状態に応じて図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)と同様に変化する。
【0102】
図13は、燃焼室21に供給される水素及び酸素の各量を所定の値に維持した場合における、混合ガスのアルゴン濃度に対するエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)及び内燃機関10の熱効率の変化の様子を示したグラフである。図13のグラフと図8のグラフとの比較から理解されるように、燃焼状態指標値として、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に代えてエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)を使用しても、アルゴン濃度を値DLと値DHとの間の値となるように制御することができる。
【0103】
具体的には、アルゴン濃度が値DHであるときのエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は値NH(=(σNE/aveNE)driving、高側閾値)であり、アルゴン濃度が値DLであるときのエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は値NL(=(σNE/aveNE)efficient、低側閾値)である。従って、この内燃機関は、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が値NL〜値NHの範囲内となり、且つ、アルゴン濃度が最大となるように(即ち、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が値NHにできるだけ近づくように)アルゴン供給量を制御する。これにより、この内燃機関は、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく、極めて高い熱効率で運転され得る。
【0104】
この内燃機関は、そのCPUが、図10及び図11に示したルーチンにそれぞれ代わる図14及び図15に示したルーチンを実行する点のみにおいて、第2実施形態の内燃機関と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。なお、図14において図10と同一のステップには同一の符号が付され、図15において図11と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0105】
図10と図14との比較から理解されるように、この内燃機関のCPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内にあれば、ステップ1420にて「Yes」と判定してステップ1495に直接進む。従って、この場合、アルゴン量(アルゴン濃度)は変化しない。
【0106】
一方、このCPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内にないとき、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が高側閾値NHより大きければステップ1025及びステップ1030に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を減少させる(混合気におけるアルゴン濃度を低下させる)。他方、CPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内になく、且つ、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が高側閾値NH以下であれば、ステップ1035及びステップ1040に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を増大させる(混合気におけるアルゴン濃度を増大させる)。
【0107】
更に、図11と図15との比較から理解されるように、この内燃機関のCPUは、以下の条件1乃至条件3が統べて成立した場合にのみ、ステップ1515及びステップ1520にて、エンジン回転速度平均値aveNE及びエンジン回転変動幅積算値σNEをそれぞれ計算する。
【0108】
(条件1)フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過している(ステップ1105)。
(条件2)エンジン回転変動幅積算値σNEが前回更新されてからNサイクル以上が経過している(ステップ1505)。
【0109】
(条件3)現時点から過去Nサイクル以上に亘り定常運転が継続している(ステップ1510)。即ち、例えば、現時点から過去Nサイクルまでの期間におけるアクセルペダル操作量Accpの変化速度(dAccp/dt)の絶対値の最大値が所定値以下であり、エンジン回転速度NEの変化量(dNE/dt)の絶対値の最大値が所定値以下である。
条件3(ステップ1510)は、アルゴン濃度が燃焼状態に及ぼす影響のみがエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)に反映されるように、運転者による運転操作に基づくエンジン回転速度NEの変化をエンジン回転変動幅積算値σNEから除外するために設けられた条件であり、必ずしも必須ではない。
【0110】
以上により、アルゴン濃度は、燃焼が不安定とならない範囲内(エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内)で、最大の値となるようにフィードバック制御される。この結果、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲において、略最高の熱効率にて内燃機関を運転することができる、
【0111】
なお、第2実施形態と第2実施形態の第1変形例との関係と同様、第3実施形態においても図14に代えて図16のフローチャートにより示したルーチンを実行することにより、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内に維持されるように、アルゴン濃度を制御してもよい。
【0112】
以上、説明したように、本発明による内燃機関の各実施形態は、要求トルクや燃焼状態に応じて混合気のアルゴン濃度(燃焼室21に供給されるアルゴン量)を制御することができるので、高い熱効率をもって運転され得る。なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、水素ガスを拡散燃焼させるディーゼルエンジンにも当然に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】作動ガスとしてのアルゴンの濃度(アルゴン流量)に対する内燃機関の熱効率の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図3】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図4】図2に示した電気制御装置のCPUが要求水素量を決定する際に参照するルックアップテーブルである。
【図5】2に示した電気制御装置のCPUが要求アルゴン量を決定する際に参照するルックアップテーブルである。
【図6】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図7】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の作動を説明するためのグラフである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図13】本発明の第3実施形態に係る内燃機関の作動を説明するためのグラフである。
【図14】本発明の第3実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図15】本発明の第3実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図16】本発明の第3実施形態の変形例に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
10…作動ガス循環型多気筒水素ガスエンジン(内燃機関)、11…シリンダヘッド、12…シリンダ、13…ピストン、21…燃焼室、40…水素供給部、41…水素タンク、43…水素ガス圧レギュレータ、44…サージタンク、45…サージタンク圧力センサ、46…筒内噴射弁、50…酸素供給部、51…酸素タンク、53…酸素ガス圧レギュレータ、54…酸素ガス流量計、60…作動ガス循環通路部、64…凝縮器、65…アルゴンガス流量計、70…アルゴン供給量調整部、71…アルゴン貯蓄用タンク、72…アルゴン貯蓄用通路、73…アルゴン貯蓄用ポンプ、74…逆止弁、75…アルゴン供給用通路、76…アルゴン供給用バルブ、80…電気制御装置、81…アクセルペダル操作量センサ、82…エンジン回転速度センサ、83…筒内圧センサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により作動ガスを膨張させて動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関(クローズドサイクルエンジン)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルゴン等の不活性ガスを作動ガス(熱媒体)として使用し、水素を燃焼室内にて燃焼させるとともに、排ガス中に含まれる水蒸気を凝縮液化して系外に排出し、その水蒸気が除去された排ガス(即ち、不活性ガス)を再び燃焼室に供給する作動ガス循環型の内燃機関が知られている。このような内燃機関の一つは、不純ガスとしてアルゴンを含む酸素ガスを酸素供給装置から吸気ポートを介して燃焼室に供給するとともに、燃焼室に水素を噴射するようになっている(特許文献1を参照。)。更に、この内燃機関は、酸素供給装置から酸素とともに系内に供給されたアルゴンの量に等しい量のアルゴンが系外に排出されるように、凝縮液化により水蒸気が除去された排ガスの一部を系外に排出するようになっている。これにより、吸気ポートを介して燃焼室に供給されるガスにおけるアルゴンの濃度が常に略一定に維持される。
【特許文献1】特開平11−93681号公報(段落0022、0023、0028、0043及び0044)
【発明の開示】
【0003】
ところで、内燃機関の運転状態(例えば、アクセルペダル操作量によって表される負荷)が変化して内燃機関に要求されるトルク(以下、「要求トルク」と称呼する。)が変化すると、燃焼室にて燃焼させるべき水素の量が変化し、これに伴って、燃焼室に供給される酸素の量も変化する。
【0004】
そこで、発明者は、燃焼室に供給される水素、酸素及び作動ガスとしてのアルゴンからなるガス(以下、「混合ガス」と称呼する。)のうち、アルゴンの量(流量)を一定に維持しながら水素及び酸素の量を変化させた場合(即ち、混合ガスにおけるアルゴンの濃度を変化させた場合)の内燃機関の熱効率の変化を調べた。図1はその結果を示したグラフである。
【0005】
図1から理解されるように、内燃機関の熱効率は、アルゴン濃度が値D0である場合に最大となる。これは、アルゴン濃度が値D0より低い範囲においては、アルゴン濃度が低下するほど燃焼室内にて発生した熱がアルゴンに伝達され難くなるためであると推定され、アルゴン濃度が値D0より高い範囲においては、アルゴン濃度が増大するほど混合ガスにおける酸素濃度が相対的に低下するために燃焼が不安定となるためであると推定される。熱効率を最大値とするアルゴン濃度の値D0は、燃焼室内にて発生する熱の量や燃焼状態により変動する。換言すると、値D0は、要求トルクに従って変化する「燃焼室に供給される水素の量及び酸素の量」に応じて変動する。なお、アルゴン濃度が値D1(>D0)を超えると、失火が発生する。
【0006】
しかしながら、上記文献に記載された内燃機関は、燃焼室に供給される酸素に対するアルゴンの比率を要求トルクにかかわらず一定に維持しているのみであるから、アルゴン濃度を要求トルク(燃焼室に供給される水素の量及び酸素の量)に応じた値に維持することができず、その結果、アルゴン濃度が過少となることにより内燃機関の熱効率が低下し、或いは、アルゴン濃度が過大となって燃焼が不安定になることに起因して内燃機関の熱効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明による内燃機関は、上記課題に対処するためになされたものであり、
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、水素酸素供給手段と、作動ガス量調整手段と、を備える。
【0008】
要求トルクに応じたトルクを内燃機関に発生させるためには、そのトルクを発生するのに必要な量の水素を燃焼室にて燃焼しなければならない。燃焼室にて燃焼される水素の量は、燃焼室に供給される水素及び酸素の何れか一方の量を制御するとともに、何れか他方の量を、その制御された一方の総てが他方と燃焼によって結合するのに十分な量となるように調整することにより制御され得る。上記水素酸素供給手段は、この考えに基づいて、要求トルクに応じたトルクを内燃機関が発生するように燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を燃焼室に供給する。これにより、燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量は、要求トルクに基づいて一義的に定められることになる。
【0009】
一方、上記作動ガス量調整手段は、要求トルクに応じて燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。この結果、要求トルクが変化して水素及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0010】
また、本発明による他の内燃機関は、
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、水素供給手段と、酸素供給手段と、作動ガス量調整手段と、を備える。
【0011】
水素供給手段は、前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する。酸素供給手段は、前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する。そして、作動ガス量調整手段は、前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。
【0012】
これによれば、要求トルクに応じて水素、酸素及び作動ガスのそれぞれ量が一義的に定まる。この結果、要求トルクが変化して水素の量及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0013】
この場合、前記作動ガス量調整手段は、前記内燃機関の熱効率が所定の値(熱効率の最高値の近傍値)以上となるように前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定することができる。これによれば、要求トルクにかかわらず、内燃機関の熱効率を高い値に維持することができる。
【0014】
本発明による他の内燃機関は、
燃焼室に水素と酸素と酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスとを供給し、同水素を燃焼させることに伴って発生した熱により同作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、燃焼状態指標値取得手段と、作動ガス量調整手段と、を備えている。
【0015】
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する。前記燃焼状態指標値は、例えば、図示平均有効圧Pmiの平均値avePmiとそれぞれの図示平均有効圧Pmiとの差の絶対値を積算した値σPmiを同図示平均有効圧の平均値avePmiで除した値(σPmi/avePmi)またはその逆数(avePmi/σPmi)であってもよい。或いは、前記燃焼状態指標値は、所定期間におけるエンジン回転速度の平均値aveNEとその期間における所定クランクアングル分(例えば、エンジンの二回転分のクランク角720度)に対するエンジン回転速度の瞬時値NEとの差の絶対値を積算した値σNEを同エンジン回転速度の平均値aveNEで除した値(σNE/aveNE)又はその逆数(aveNE/σNE)であってもよい。値σPmi及び値σNEは、燃焼状態が悪化するにつれて何れも増大する値である。従って、上記燃焼状態指標値は、燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値である。
【0016】
一方、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する。
【0017】
これによれば、燃焼状態に影響を及ぼす作動ガス量を、実際の燃焼状態に応じて変更することができる。従って、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲でアルゴン濃度を変更することができるので、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく熱効率を高くしたり、或いは、燃焼状態を所望の状態に維持することができる。
【0018】
この場合、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整することが好適である。
【0019】
燃焼状態の悪化を考慮しなければ、混合ガス中により多くの作動ガスが存在するほど、水素の燃焼による熱をより高い効率をもって作動ガスに付与できるので、内燃機関の熱効率は良好となる。しかしながら、前述したように、作動ガス濃度が値D0を超えて高くなるほど酸素濃度がより低下するから、燃焼状態は許容できないほど悪化する。従って、上記構成のように、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整すれば、作動ガス濃度が値D0の近傍の値となるから、内燃機関の熱効率を極めて高い値とすることができる。
【0020】
また、前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が所定の範囲内となるように前記燃焼室に供給される作動ガス量を調整することが好適である。
【0021】
これによれば、作動ガスの濃度を、燃焼状態が過度に悪化せず、且つ、熱効率が大きい値となるように、制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明による内燃機関(多気筒内燃機関)の各実施形態について図面を参照しながら説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関10の概略構成図である。図2は、内燃機関10の特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。この内燃機関10は、燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関(水素燃焼クローズドサイクルエンジン)である。
【0023】
作動ガスは熱膨張体として機能するガスであって、不活性ガスである。作動ガスは、その比熱比が酸素より大きいガスであることが望ましく、内燃機関の熱効率を一層向上するためには、その比熱比ができるだけ大きいガスであることが望ましい。そのようなガスとしては、アルゴン、ヘリウム及びネオン等の単原子分子からなる不活性ガスが知られている。本例における作動ガスは、アルゴンである。
【0024】
内燃機関10は、シリンダヘッド部が形成するシリンダヘッド11と、シリンダブロック部が形成するシリンダ12と、シリンダ12内において往復運動するピストン13と、クランク軸14と、ピストン13とクランク軸14とを連結しピストン13の往復運動をクランク軸14の回転運動に変換するためのコネクティングロッド15と、シリンダブロックに連接されたオイルパン16とを備えている。シリンダヘッド11の下面、シリンダ12の壁面及びピストン13の頂面は、燃焼室21を形成している。
【0025】
シリンダヘッド11には、燃焼室21に連通した吸気ポート31と、燃焼室21に連通した排気ポート32と、が形成されている。吸気ポート31には吸気ポート31を開閉する吸気弁33が配設され、排気ポート32には排気ポート32を開閉する排気弁34が配設されている。更に、シリンダヘッド11の略中央部には、イグニッションコイルを含む点火プラグ35が配設されている。
【0026】
内燃機関10は、水素供給部40、酸素供給部50、作動ガス循環通路部60、アルゴン供給量調整部70及び電気制御装置80を備えている。
【0027】
水素供給部40は、水素タンク41、水素ガス通路42、水素ガス圧レギュレータ43、サージタンク44、サージタンク圧力センサ45及び筒内噴射弁(水素噴射弁)46を備えている。
【0028】
水素タンク41はガス燃料としての水素ガスを10乃至70MPaの高圧ガス状態にて貯蔵する蓄圧タンクである。水素ガス通路42は、水素タンク41と筒内噴射弁46とを連通する通路(水素ガス管、デリバリパイプ)である。水素ガス通路42には、水素タンク41から筒内噴射弁46に向かう順に、水素ガス圧レギュレータ43及びサージタンク44が介装されている。
【0029】
水素ガス圧レギュレータ43は、水素ガス圧レギュレータ43よりも下流における水素ガス通路42(従って、サージタンク44)内の圧力を指示信号に応じた目標水素圧力PH2tgtに調整する周知の調整圧可変型プレッシャレギュレータである。
サージタンク44は、水素ガス噴射時に水素ガス通路42内に発生する脈動を低減するようになっている。
【0030】
サージタンク圧力センサ45は、サージタンク44に配設されている。サージタンク圧力センサ45は、サージタンク44内の水素ガスの圧力を検出し、その圧力(サージタンク圧力、即ち、噴射水素ガス圧力)Psgを表す信号を発生するようになっている。
筒内噴射弁46は、駆動信号に応答して燃焼室21内(気筒内)に水素ガスを直接噴射するようにシリンダヘッド11に配設されている。
【0031】
酸素供給部50は、酸素タンク(酸素ガスタンク)51、酸素ガス通路52、酸素ガス圧レギュレータ53、酸素ガス流量計54及び酸素ガスミキサ55を備えている。
【0032】
酸素タンク51は酸素ガスをガス状態にて貯蔵するタンクである。酸素ガス通路52は、酸素タンク51と酸素ガスミキサ55とを連通する通路(管)である。酸素ガス通路52には、酸素タンク51から酸素ガスミキサ55に向かう順に酸素ガス圧レギュレータ53及び酸素ガス流量計54が介装されている。
【0033】
酸素ガス圧レギュレータ53は、酸素ガス圧レギュレータ53よりも下流(酸素ガスミキサ55側)における酸素ガス通路52内の圧力を指示信号に応じて調整する周知の調整圧可変型プレッシャレギュレータである。換言すると、酸素ガス圧レギュレータ53は、指示信号に応答して酸素ガス通路52を流れる酸素ガス量を調整することができるようになっている。
【0034】
酸素ガス流量計54は、酸素ガス通路52を流れる酸素ガスの量(酸素ガス流量)を計測し、同酸素ガス流量FO2を表す信号を発生するようになっている。酸素ガスミキサ55は、後述する作動ガス循環通路部60の第2経路62と第3経路63との間に介装されている。酸素ガスミキサ55は、酸素ガス通路52を介して供給された酸素と、第2経路62を介して入口部に供給されるガスとを混合し、その混合したガスを出口部から第3経路63に排出するようになっている。
【0035】
作動ガス循環通路部60は、第1〜3経路(第1〜第3流路形成管)61〜63、凝縮器64及びアルゴンガス流量計65を備えている。
【0036】
第1経路61は、排気ポート32と凝縮器64の入口部とを接続している。第2経路62は、凝縮器64の出口部と酸素ガスミキサ55の入口部とを接続している。第2経路62にはアルゴンガス流量計65が介装されている。第3経路63は、酸素ガスミキサ55の出口部と吸気ポート31とを接続している。このように、第1〜第3経路61〜63は、排気ポート32から吸気ポート31へとガスを循環させる閉じられた経路(循環路)を構成している。
【0037】
凝縮器64は、第1経路61を介して燃焼室21から排出された排ガスを、その入口部から導入し、内部において冷却水Wにより冷却することにより、排ガスに含まれる水蒸気を凝縮液化するようになっている。これにより、凝縮器64は、排ガスに含まれる水蒸気を非凝縮ガス(この場合、非凝縮ガスはアルゴンガスであり、場合により水素ガス及び/又は酸素ガスを含む。)と分離して水となし、その水を外部に排出するようになっている。更に、凝縮器64は、前記分離した非凝縮ガスをその出口部から第2経路62に供給するようになっている。
【0038】
アルゴンガス流量計65は、第2経路62を流れる単位時間あたりのアルゴンガスの量(アルゴンガス流量)を計測し、同アルゴン流量Aractを表す信号を発生するようになっている。
【0039】
アルゴン供給量調整部70は、アルゴン貯蓄用タンク71、アルゴン貯蓄用通路72、アルゴン貯蓄用ポンプ73、逆止弁74、アルゴン供給用通路75及びアルゴン供給用バルブ76を備えている。
【0040】
アルゴン貯蓄用タンク71は、アルゴンを貯蓄するタンクである。アルゴン貯蓄用通路72は、アルゴン貯蓄用タンク71を第2経路62に接続している。アルゴン貯蓄用ポンプ73及び逆止弁74は、第2経路62からアルゴン貯蓄用タンク71に向けて順にアルゴン貯蓄用通路72に介装されている。
【0041】
アルゴン貯蓄用ポンプ73は、電動式ポンプである。アルゴン貯蓄用ポンプ73は、駆動信号に応答して駆動され、第2経路62内を流れるアルゴンをアルゴン貯蓄用タンク71に供給するようになっている。逆止弁74は、アルゴン貯蓄用ポンプ73からアルゴン貯蓄用タンク71へのアルゴンの流れのみを許容し、その逆の流れを阻止するようになっている。
【0042】
アルゴン供給用通路75は、アルゴン貯蓄用タンク71を第2経路62に接続している。アルゴン供給用バルブ76は、アルゴン供給用通路75に介装されている。アルゴン供給用バルブ76は、駆動信号に応答し開閉するようになっている。アルゴン供給用バルブ76が開かれると、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給され、アルゴン供給用バルブ76が閉じられると、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62へのアルゴンの供給が停止する。
【0043】
電気制御装置80は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子装置である。電気制御装置80には、サージタンク圧力センサ45、酸素ガス流量計54、アルゴンガス流量計65、アクセルペダル操作量センサ81及びエンジン回転速度センサ82が接続されている。電気制御装置80は、これらから各測定信号(検出信号)を入力するようになっている。
【0044】
アクセルペダル操作量センサ81は、アクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量を表す信号Accpを出力するようになっている。エンジン回転速度センサ82は、クランク軸14の回転速度に基づいてエンジン回転速度を表す信号NEとクランク角度を表す信号とを発生するようになっている。
【0045】
更に、電気制御装置80は、各気筒の点火プラグ35、各気筒の筒内噴射弁46、水素ガス圧レギュレータ43、酸素ガス圧レギュレータ53、アルゴン貯蓄用ポンプ73及びアルゴン供給用バルブ76と接続されていて、これらに駆動信号又は指示信号を送出するようになっている。
【0046】
次に、上記のように構成された内燃機関の作動について説明する。電気制御装置80のCPUは、図3のフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、CPUは、所定のタイミングになるとステップ300から処理を開始し、ステップ305〜ステップ320に進んで以下の処理を行う。
【0047】
ステップ305:運転者の運転操作により内燃機関に求められているトルクである要求トルクtqtgtを、その時点のアクセルペダル操作量Accp及びその時点のエンジン回転速度NEと、ルックアップテーブルMaptqtgtと、に基づいて求める。
【0048】
ステップ310:要求水素量(単位時間に必要とされる水素量、即ち、要求水素流量)H2tgtを、ステップ305にて求めた要求トルクtqtgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、図4に示したルックアップテーブルMapH2tgtと、に基づいて求める。図4に示したテーブルMapH2tgtは、アルゴン量が適量であって燃焼状態が過度に悪化しない範囲において最大の熱効率にて内燃機関10が運転されたときに、内燃機関10が要求トルクと等しいトルクを発生するために燃焼室21に供給することが必要な単位時間あたりの水素の量(水素流量)を、各要求トルク及び各エンジン回転速度に対して実験により定めたテーブルである。
【0049】
ステップ315:要求酸素量(単位時間に必要とされる酸素量、即ち、要求酸素流量)O2tgtを、ステップ310にて求めた要求水素量H2tgtと、関数funcO2と、に基づいて求める。関数funcO2は、要求水素量H2tgtをモル数に換算し、そのモル数の半分のモル数の酸素の量(或いは、要求水素量H2tgtのモル数の半分のモル数に所定のマージンを加えたモル数の酸素量)を要求酸素量O2tgtとして求める関数である。この場合、要求水素量H2tgtは要求トルクtqtgtに応じた量であるから、要求酸素量O2tgtも要求トルクtqtgtに応じて定められた量となる。
【0050】
ステップ320:要求アルゴン量(単位時間に必要とされるアルゴン量、即ち、要求アルゴン流量)Artgtを、ステップ305にて求めた要求トルクtqtgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、図5に示したルックアップテーブルMapArtgtと、に基づいて求める。図5に示したテーブルMapArtgtは、図4に示したテーブルMapH2tgtを定める場合に前提となるアルゴン量を定めるものであって、内燃機関10の熱効率が前記最大の熱効率となるアルゴン量を、各要求トルク及び各エンジン回転速度に対して実験により定めたテーブルである。換言すると、テーブルMapArtgtに応じて定められる量のアルゴンを燃焼室21に供給すれば、混合ガス中のアルゴン濃度(作動ガス濃度)が要求トルクに応じた最適値となる。
【0051】
次に、CPUはステップ325に進み、アルゴンガス流量計65から得られるアルゴン流量Aractと、ステップ320にて決定された要求アルゴン量Artgtとが一致しているか否かを判定する。このとき、両者が一致していれば、CPUはステップ325にて「Yes」と判定してステップ395に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0052】
一方、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtと一致していない場合、CPUはステップ325にて「No」と判定してステップ330に進み、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtより小さいか否かを判定する。そして、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtより小さければ、CPUはステップ330にて「Yes」と判定し、ステップ335にてアルゴン供給用バルブ76を開弁する。次いで、CPUはステップ340に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73の駆動を停止し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給される。その結果、燃焼室21に供給されるアルゴンの量が増大し、混合ガス中のアルゴン濃度が上昇する。
【0053】
他方、先のステップ330の判定時において、アルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgt以上であると、CPUはステップ330にて「No」と判定し、ステップ345にてアルゴン供給用バルブ76を閉弁する。次いで、CPUはステップ350に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73を駆動し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、第2経路62を流れるアルゴンの一部がアルゴン貯蓄用タンク71に貯蓄される。その結果、燃焼室21に供給されるアルゴンの量が減少し、混合ガス中のアルゴン濃度が低下する。
【0054】
一方、CPUは、図6に示した水素噴射ルーチンを、各気筒のクランク角が所定クランク角に一致する毎に実行するようになっている。従って、ある気筒のクランク角がその気筒の所定クランク角に一致すると、CPUはステップ600から処理を開始してステップ605に進み、図3のステップ310にて求められている要求水素量H2tgt及びその時点のエンジン回転速度NEと、関数funcinjと、に基づいて噴射時間(筒内噴射弁46の開弁時間)Tinjを決定する。このとき、関数funcinjは、更に、サージタンク圧力センサ45が検出するサージタンク圧力Psgにも基づいて噴射時間Tinjを決定してもよい。
【0055】
次いで、CPUはステップ610に進み、その気筒のクランク角が噴射開始タイミングθinjに一致した時点から噴射時間Tinjだけその気筒の筒内噴射弁46を開弁させる駆動信号を同気筒の筒内噴射弁46に送出する設定を行い、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0056】
更に、CPUは図示しないルーチンを実行することにより、サージタンク圧力センサ45によって検出されるサージタンク圧力Psgを所定の目標圧力に一致させるように、水素ガス圧レギュレータ43を制御している。以上により、要求水素量H2tgtに応じた量の水素が各気筒の筒内噴射弁46から噴射される。
【0057】
更に、CPUは、図7に示した酸素流量制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ700から処理を開始してステップ705に進み、酸素ガス流量計54から得られる酸素ガス流量FO2と図3のステップ315にて決定されている要求酸素量O2tgtとが一致しているか否かを判定する。このとき、両者が一致していれば、CPUはステップ705にて「Yes」と判定してステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0058】
一方、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtと一致していない場合、CPUはステップ705にて「No」と判定してステップ710に進み、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtより小さいか否かを判定する。そして、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgtより小さければ、CPUはステップ710にて「Yes」と判定してステップ715に進み、酸素ガスミキサ55を介して第3経路63に供給される酸素の量が増大するように酸素ガス圧レギュレータ53を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0059】
他方、先のステップ710の判定時において、酸素ガス流量FO2が要求酸素量O2tgt以上であると、CPUはステップ710にて「No」と判定してステップ720に進み、酸素ガスミキサ55を介して第3経路63に供給される酸素の量が減少するように酸素ガス圧レギュレータ53を制御する。その後、CPUはステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上により、要求酸素量O2tgtと等しい量の酸素が内燃機関10の燃焼室21に供給される。
【0060】
更に、CPUは図示しないルーチンを実行することにより、要求トルクtqtgtとエンジン回転速度NEとに基づいて点火時期θigを決定し、その点火時期θigにて点火が行われるように対応する気筒の点火プラグ35に駆動信号(点火実行指示信号)を送出する。これにより、水素が燃焼室21にて燃焼する。
【0061】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る内燃機関10は、
内燃機関の燃焼室21にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガス(例えば、アルゴン)を膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに応じたトルクを同内燃機関が発生するように前記燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに(図3のステップ305乃至ステップ315)、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する水素酸素供給手段(水素供給部40、酸素供給部50、及び、図6と図7のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに(図3のステップ320)、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段(アルゴン供給量調整部70、及び、図3のステップ325乃至ステップ350のうちの適当なステップを実行する電気制御装置80)と、
を備えた内燃機関である。
【0062】
従って、内燃機関10は、要求トルクが変化して水素及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。この結果、内燃機関10において、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0063】
また、内燃機関10は、水素供給手段と、酸素供給手段と、前述の作動ガス量調整手段と、を備える内燃機関でもある。
水素供給手段は、前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに(図3のステップ310)、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する(水素供給部40、及び、図6のルーチンを実行する電気制御装置80)。
酸素供給手段は、前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに(図3のステップ315)、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する(酸素供給部50、及び、図7のルーチンを実行する電気制御装置80)。
【0064】
これによれば、要求トルクに応じて水素、酸素及び作動ガスのそれぞれ量が一義的に定まる。この結果、要求トルクが変化して水素の量及び酸素の量が変化した場合であっても、水素、酸素及び作動ガスからなる混合ガスにおける作動ガスの濃度を要求トルクに応じた所望の値に変更することができる。従って、燃焼状態を良好な状態に維持しながら内燃機関の熱効率を向上することができる。
【0065】
なお、第1実施形態においては、要求酸素量O2tgtは、要求水素量H2tgtに基づいて決定されている。これに対し、要求酸素量O2tgtを、要求トルクtqtgt及びエンジン回転速度NEと、ルックアップテーブルMapO2tgtと、に基づいて要求水素量H2tgtを介することなく直接的に求めてもよい。
【0066】
更に、第1実施形態においては、要求トルクtqtgtに応じて要求水素量H2tgtが求められ、求められた要求水素量H2tgtの水素が燃焼室21に供給されるとともに、その要求水素量H2tgtの水素を燃焼させるために必要な酸素量よりも多い量が要求酸素量O2tgtとして求められ、その求められた要求酸素量O2tgtの酸素が燃焼室21に供給されている。
【0067】
これに対し、要求トルクtqtgtに応じて要求水素量H2tgtを求め、その要求水素量H2tgtのモル数の丁度半分のモル数の酸素量を要求酸素量O2tgtとして求め、その求められた要求酸素量O2tgtの酸素を燃焼室21に供給するとともに、要求水素量H2tgtよりも多い量の水素を燃焼室21に供給してもよい。
【0068】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る内燃機関について説明する。この内燃機関は、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を、内燃機関の燃焼状態を表す値(以下、「燃焼状態指標値」と称呼する。)として取得し、取得した図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に基づいてアルゴン量を制御する。図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は、後に詳述するように、図示平均有効圧Pmiの平均値avePmiとそれぞれの図示平均有効圧Pmiとの差の絶対値を積算した値σPmiを同図示平均有効圧の平均値avePmiで除した値である。燃焼状態が悪化すれば図示平均有効圧Pmiの変動幅が大きくなるから、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は燃焼状態の悪化に伴って単調増加する。
【0069】
図8は、燃焼室21に供給される水素及び酸素の各量を所定の値に維持した場合における、混合ガスのアルゴン濃度に対する図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)及び内燃機関10の熱効率の変化の様子を示したグラフである。図8のグラフから理解されるように、アルゴン濃度が低い値から次第に増大してゆくと、混合ガスの酸素濃度が相対的に減少するから、燃焼状態が悪化してくる。従って、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は次第に増大する。一方、熱効率は、アルゴン濃度が値D0より小さい範囲においては、アルゴン濃度の増大とともに増大する。
【0070】
アルゴン濃度が、熱効率が最大となる値D0よりも僅かに小さい値DHを超えると、混合ガス中の酸素濃度が低下しすぎることに起因して燃焼状態が許容できないほど悪化する。換言すると、アルゴン濃度が値D0のとき、熱効率は最大となるが、その状態では燃焼状態が悪化しすぎて振動が過度に激しくなる。
【0071】
そこで、この内燃機関は、アルゴン濃度が値DHより僅かに小さい値DLと値DHとの間の値となるようにアルゴン濃度を制御する。具体的には、アルゴン濃度が値DHであるときの図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は値PH(=(σPmi/avePmi)driving、高側閾値)であり、アルゴン濃度が値DLであるときの図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)は値PL(=(σPmi/avePmi)efficient、低側閾値)であるから、この内燃機関は、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が値PL〜値PHの範囲内となり、且つ、値PHに近づくように(アルゴン濃度が最大となるように)アルゴン供給量を制御する。これにより、この内燃機関は、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく、極めて高い熱効率で運転され得る。
【0072】
実際には、第2実施形態に係る内燃機関は、図1に破線にて示した筒内圧センサ83
を更に備える点、及び、電気制御装置80のCPUが図3に代わる図9乃至図11のフローチャートにより示したルーチンを実行する点において第1実施形態に係る内燃機関10と相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。なお、筒内圧センサ83は、燃焼室21内の圧力(筒内圧)を検出し、検出した筒内圧Pcyを表す信号を電気制御装置80に出力するようになっている。
【0073】
このCPUは、要求トルクtqtgtの急変に伴って要求アルゴン量Artgtが急変したとき、所定時間だけアルゴン量をオープンループ制御し、その後、アルゴン量を図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に基づいてフィードバック制御する。
【0074】
具体的に述べると、CPUは図9に示したアルゴン量オープンループ制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。なお、図9において、図3と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0075】
所定のタイミングになると、CPUはステップ900から処理を開始し、上述したステップ305乃至ステップ320の処理を行う。これにより、要求トルクtqtgt、要求水素量H2tgt、要求酸素量O2tgt及び要求アルゴン量Artgtが決定される。次いで、CPUはステップ905に進み、本ルーチンを前回に実行した時点の要求アルゴン量Artgtoldと現時点の要求アルゴン量Artgtとの差を要求アルゴン変化量dArtgtとして求める。次いで、CPUはステップ910に進み、要求アルゴン変化量dArtgtの絶対値が基準値dArthより大きいか否かを判定する。
【0076】
いま、要求トルクtqtgtの急変に伴って要求アルゴン量Artgtが急変したと仮定して説明を続けると、CPUはステップ910にて「Yes」と判定してステップ915に進み、フィードバック許可フラグXFBの値を「0」に設定する。次いで、CPUはステップ325に進み、現時点の実際のアルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとが一致しているか否かを判定する。
【0077】
現時点は、要求アルゴン量Artgtが急変した直後である。従って、アルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとは一致しない。このため、CPUはステップ325にて「No」と判定し、ステップ330乃至ステップ350のうちの適当なステップの処理を実行する。これにより、実際のアルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtへと向かって変化する。次いで、CPUはステップ920に進み、前回の要求アルゴン量Artgtoldとして現時点の要求アルゴン量Artgtを設定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0078】
その後、要求アルゴン量Artgtが安定した状態が継続すると、CPUはステップ910に進んだとき、同ステップ910にて「No」と判定してステップ925に進み、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であるか否かを判定する。この場合、フィードバック許可フラグXFBの値は「0」であるから、CPUはステップ925にて「Yes」と判定し、再びステップ325以降に進む。
【0079】
このような処理は、要求アルゴン量Artgtが急変しない限り繰り返し実行される。従って、所定の時間が経過すると、実際のアルゴン流量Aractが要求アルゴン量Artgtと一致する。このとき、CPUが図9に示したルーチンを実行すると、ステップ325にて「Yes」と判定し、ステップ930に進んでフィードバック許可フラグXFBの値を「1」に設定する。以上の制御により、実際のアルゴン流量Aractが急変後の要求アルゴン量Artgtに速やかに近づく。
【0080】
一方、CPUは図10のフローチャートにより示したアルゴン量フィードバック制御ルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1000から処理を開始し、ステップ1005にてフィードバック許可フラグXFBの値が「1」であるか否かを判定する。
【0081】
このとき、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であれば、CPUはステップ1005にて「No」と判定してステップ1095に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。即ち、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」であるとき、CPUはアルゴン量のフィードバック制御を行わない。
【0082】
一方、フィードバック許可フラグXFBの値が上述した図9のステップ930にて「1」に設定されていると、CPUはステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後であるか否かを判定する。後述するように、内燃機関の運転状態が所定期間に亘り安定している場合(要求トルクtqtgtが所定期間に亘り急変していない場合)、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新される。
【0083】
いま、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後であると仮定して説明を続けると、CPUはステップ1010にて「Yes」と判定してステップ1015に進み、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値である上述の値PLより大きく、且つ、高側域値である上述の値PHより小さいか否かを判定する。即ち、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にあるか否かが判定される。このとき、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にあれば、CPUはステップ1015にて「Yes」と判定し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0084】
一方、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内にないと、CPUはステップ1015にて「No」と判定し、ステップ1020に進んで図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいか否かを判定する。仮に、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きければ、アルゴン量(アルゴン濃度)が過大であって、燃焼が許容でいない程度にまで不安定となっていることを意味する。そこで、CPUは、そのような場合、ステップ1020にて「Yes」と判定して1025に進み、アルゴン供給用バルブ76を閉弁する。次いで、CPUはステップ1030に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73を駆動し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、第2経路62を流れるアルゴンの一部がアルゴン貯蓄用タンク71に貯蓄され、燃焼室21に供給されるアルゴン量が低減する(混合気のアルゴン濃度が低下する)。
【0085】
他方、ステップ1020の判定時において、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PH以下であれば、アルゴン量(アルゴン濃度)を増大しても燃焼が許容でいない程度にまで不安定とはならず、且つ、熱効率を向上することができることを意味する。そこで、CPUは、そのような場合、ステップ1020にて「No」と判定して1035に進み、アルゴン供給用バルブ76を開弁する。次いで、CPUはステップ1040に進み、アルゴン貯蓄用ポンプ73の駆動を停止し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、アルゴン貯蓄用タンク71から第2経路62にアルゴンが供給され、混合気のアルゴン濃度が増大する。以上により、アルゴン濃度は、燃焼が不安定とならない範囲内(図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL〜高側閾値PHの範囲内)で、最大の値となるようにフィードバック制御される。
【0086】
なお、要求トルクtqtgtの急変があってから、実際のアルゴン流量Aractと要求アルゴン量Artgtとが一致してフィードバック許可フラグXFBが図9のステップ930にて「1」に設定された状態において、要求トルクtqtgtの急変がないとき、CPUは図9のステップ910及びステップ925の両ステップにて「No」と判定し、直接ステップ995に進む。従って、この場合、アルゴン量のオープンループ制御(フィードフォワード制御)は実行されない。
【0087】
また、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新された直後以外のタイミングにて、CPUが図10のステップ1010の処理を実行すると、CPUは同ステップ1010にて「No」と判定して直接ステップ1095に進む。これにより、アルゴン量のフィードバック制御は、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが更新される毎に実行されることになる。
【0088】
更に、CPUは図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を計算するために、図11のフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPUはステップ1100から処理を開始し、ステップ1105にて「フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過しているか否か(内燃機関が2・N回転以上回転したか否か)」を判定する。このとき、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過していなければ、CPUはステップ1105にて「No」と判定してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。
【0089】
一方、フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過していると、CPUはステップ1105にて「Yes」と判定してステップ1110に進み、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上が経過したか否かを判定する。このとき、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上経過していなければ、CPUはステップ1110にて「No」と判定してステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。
【0090】
いま、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiが前回更新されてからNサイクル以上経過していると仮定すると、CPUはステップ1110にて「Yes」と判定してステップ1115に進み、過去Nサイクル分の図示平均有効圧Pmiの平均値を図示平均有効圧平均値avePmiとして算出する。なお、各サイクルの図示平均有効圧Pmiは、図示しないルーチンにより、筒内圧センサ83により検出される筒内圧Pcyとエンジン回転速度センサ82により検出されるクランク角とに基づいて別途計算され、RAMに記憶されている。
【0091】
次に、CPUはステップ1120に進み、過去Nサイクルの各サイクルの図示平均有効圧Pmiと同過去Nサイクルについての図示平均有効圧平均値avePmiとの差の絶対値を求め、その絶対値を過去Nサイクルに亘って積算し、その積算値を図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとする。そして、CPUはステップ1195に進み、本ルーチンを一旦終了する。これにより、図示平均有効圧平均値avePmiと図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとが算出される。
【0092】
なお、ステップ1105の存在により、フィードバック許可フラグが「0」から「1」に変更されてからNサイクルが経過するまでは、図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiは更新されない。従って、この期間においては、図10のステップ1015乃至ステップ1040によるアルゴン量のフィードバック制御は実行されない。これは、要求トルクtqtgtが急変した後はオープンループ制御によって実際のアルゴン量Aractが急変後の要求トルクに基づく要求アルゴン量Artgtにほぼ一致してから、改めて図示平均有効圧平均値avePmiと図示平均有効圧変動幅の積算値σPmiとを求め直す、即ち、「燃焼状態指標値」である図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)を求め直す必要があるからである。
【0093】
以上、説明したように、第2実施形態に係る内燃機関は、第1実施形態と同様の作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する燃焼状態指標値取得手段(筒内圧センサ83及び図11のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段(アルゴン供給量調整部70、及び、図10のルーチンを実行する電気制御装置80)と、
を備えている。
【0094】
従って、第2実施形態に係る内燃機関は、燃焼状態に影響を及ぼす作動ガス量(アルゴンガス量)を、実際の燃焼状態に応じて変更することができる。この結果、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲でアルゴン濃度を変更することができるので、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく略最高の熱効率にて内燃機関を運転することができる。
なお、アルゴン濃度のフィードバック制御範囲を、より安定した燃焼状態が得られる範囲に設定すれば(即ち、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が、例えば、値DLより小さい値から値DLまでの範囲となるようにアルゴン量をフィードバック制御すれば)、ある程度高い熱効率を維持しながら燃焼状態をより良好な状態に維持することができる。
【0095】
<第2実施形態の第1変形例>
第2実施形態の第1変形例は、CPUが図10に代わる図12のフローチャートにより示したアルゴン量フィードバック制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行する点のみにおいて、第2実施形態の内燃機関と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。なお、図12において、図10と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0096】
図12に示したルーチンによっても、ステップ1005及びステップ1010にて「Yes」と判定されて、CPUがステップ1205以降に進んだ場合にのみ、アルゴン量がフィードバック制御される。具体的に述べると、CPUはステップ1205にて図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PLより小さいか否かを判定する。そして、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PLより小さいとき、CPUはステップ1035及びステップ1040に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を増大する(混合気におけるアルゴン濃度を増加させる)。
【0097】
一方、ステップ1205の判定時において、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が低側閾値PL以上であると、CPUはステップ1205にて「No」と判定してステップ1020に進み、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいか否かを判定する。そして、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)が高側閾値PHより大きいとき、CPUはステップ1020にて「Yes」と判定してステップ1025及びステップ1030に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を減少させる(混合気におけるアルゴン濃度を低下させる)。
【0098】
この結果、アルゴン濃度は、図8に示した値DLより大きく且つ値DHより小さい範囲内に制御される。従って、燃焼状態が不安定にならず、且つ、熱効率を極めて高い値に維持することができる。
【0099】
<第2実施形態の第2変形例>
第2実施形態の第2変形例は、そのCPUが、図9のステップ305乃至ステップ315のみからなるルーチンを図9のルーチンに代えて実行するとともに、図10のステップ1005を省略したルーチンを図10のルーチンに代えて実行するものである。これによれば、オープンループ制御が省略される。なお、同様に、CPUは、図9のステップ305乃至ステップ315のみからなるルーチンを図9のルーチンに代えて実行するとともに、図12のステップ1005を省略したルーチンを図12のルーチンに代えて実行してもよい。これによっても、オープンループ制御が省略される。
【0100】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る内燃機関について説明する。この内燃機関は、燃焼状態指標値として、第2実施形態の内燃機関が使用した図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に代え、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)を使用する点において、第2実施形態の内燃機関と相違する。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0101】
エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は、所定期間(過去Nサイクル)におけるエンジン回転速度の平均値aveNEとその期間における所定クランクアングル分(例えば、エンジンの1サイクルに相当するクランク角720度)に対するエンジン回転速度の瞬時値NEとの差の絶対値を積算した値σNE(以下、「エンジン回転変動幅積算値σNE」と称呼する。)を同エンジン回転速度の平均値aveNEで除した値(σNE/aveNE)である。燃焼状態が悪化すればエンジン回転速度NEの変動幅が大きくなるから、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は燃焼状態の悪化に伴って単調増加する。即ち、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は、燃焼状態に応じて図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)と同様に変化する。
【0102】
図13は、燃焼室21に供給される水素及び酸素の各量を所定の値に維持した場合における、混合ガスのアルゴン濃度に対するエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)及び内燃機関10の熱効率の変化の様子を示したグラフである。図13のグラフと図8のグラフとの比較から理解されるように、燃焼状態指標値として、図示平均有効圧変動率(σPmi/avePmi)に代えてエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)を使用しても、アルゴン濃度を値DLと値DHとの間の値となるように制御することができる。
【0103】
具体的には、アルゴン濃度が値DHであるときのエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は値NH(=(σNE/aveNE)driving、高側閾値)であり、アルゴン濃度が値DLであるときのエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)は値NL(=(σNE/aveNE)efficient、低側閾値)である。従って、この内燃機関は、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が値NL〜値NHの範囲内となり、且つ、アルゴン濃度が最大となるように(即ち、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が値NHにできるだけ近づくように)アルゴン供給量を制御する。これにより、この内燃機関は、燃焼状態の過度の悪化を招くことなく、極めて高い熱効率で運転され得る。
【0104】
この内燃機関は、そのCPUが、図10及び図11に示したルーチンにそれぞれ代わる図14及び図15に示したルーチンを実行する点のみにおいて、第2実施形態の内燃機関と相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。なお、図14において図10と同一のステップには同一の符号が付され、図15において図11と同一のステップには同一の符号が付されている。
【0105】
図10と図14との比較から理解されるように、この内燃機関のCPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内にあれば、ステップ1420にて「Yes」と判定してステップ1495に直接進む。従って、この場合、アルゴン量(アルゴン濃度)は変化しない。
【0106】
一方、このCPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内にないとき、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が高側閾値NHより大きければステップ1025及びステップ1030に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を減少させる(混合気におけるアルゴン濃度を低下させる)。他方、CPUは、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内になく、且つ、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が高側閾値NH以下であれば、ステップ1035及びステップ1040に進み、燃焼室21に供給されるアルゴン量を増大させる(混合気におけるアルゴン濃度を増大させる)。
【0107】
更に、図11と図15との比較から理解されるように、この内燃機関のCPUは、以下の条件1乃至条件3が統べて成立した場合にのみ、ステップ1515及びステップ1520にて、エンジン回転速度平均値aveNE及びエンジン回転変動幅積算値σNEをそれぞれ計算する。
【0108】
(条件1)フィードバック許可フラグXFBの値が「0」から「1」に変化してからNサイクル以上経過している(ステップ1105)。
(条件2)エンジン回転変動幅積算値σNEが前回更新されてからNサイクル以上が経過している(ステップ1505)。
【0109】
(条件3)現時点から過去Nサイクル以上に亘り定常運転が継続している(ステップ1510)。即ち、例えば、現時点から過去Nサイクルまでの期間におけるアクセルペダル操作量Accpの変化速度(dAccp/dt)の絶対値の最大値が所定値以下であり、エンジン回転速度NEの変化量(dNE/dt)の絶対値の最大値が所定値以下である。
条件3(ステップ1510)は、アルゴン濃度が燃焼状態に及ぼす影響のみがエンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)に反映されるように、運転者による運転操作に基づくエンジン回転速度NEの変化をエンジン回転変動幅積算値σNEから除外するために設けられた条件であり、必ずしも必須ではない。
【0110】
以上により、アルゴン濃度は、燃焼が不安定とならない範囲内(エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内)で、最大の値となるようにフィードバック制御される。この結果、実際の燃焼状態が許容できないほど悪化しない範囲において、略最高の熱効率にて内燃機関を運転することができる、
【0111】
なお、第2実施形態と第2実施形態の第1変形例との関係と同様、第3実施形態においても図14に代えて図16のフローチャートにより示したルーチンを実行することにより、エンジン回転速度変動率(σNE/aveNE)が低側閾値NL〜高側閾値NHの範囲内に維持されるように、アルゴン濃度を制御してもよい。
【0112】
以上、説明したように、本発明による内燃機関の各実施形態は、要求トルクや燃焼状態に応じて混合気のアルゴン濃度(燃焼室21に供給されるアルゴン量)を制御することができるので、高い熱効率をもって運転され得る。なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、水素ガスを拡散燃焼させるディーゼルエンジンにも当然に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】作動ガスとしてのアルゴンの濃度(アルゴン流量)に対する内燃機関の熱効率の変化を示すグラフである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図3】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図4】図2に示した電気制御装置のCPUが要求水素量を決定する際に参照するルックアップテーブルである。
【図5】2に示した電気制御装置のCPUが要求アルゴン量を決定する際に参照するルックアップテーブルである。
【図6】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図7】図2に示した電気制御装置のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る内燃機関の作動を説明するためのグラフである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図12】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図13】本発明の第3実施形態に係る内燃機関の作動を説明するためのグラフである。
【図14】本発明の第3実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図15】本発明の第3実施形態に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【図16】本発明の第3実施形態の変形例に係る内燃機関のCPUが実行するルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0114】
10…作動ガス循環型多気筒水素ガスエンジン(内燃機関)、11…シリンダヘッド、12…シリンダ、13…ピストン、21…燃焼室、40…水素供給部、41…水素タンク、43…水素ガス圧レギュレータ、44…サージタンク、45…サージタンク圧力センサ、46…筒内噴射弁、50…酸素供給部、51…酸素タンク、53…酸素ガス圧レギュレータ、54…酸素ガス流量計、60…作動ガス循環通路部、64…凝縮器、65…アルゴンガス流量計、70…アルゴン供給量調整部、71…アルゴン貯蓄用タンク、72…アルゴン貯蓄用通路、73…アルゴン貯蓄用ポンプ、74…逆止弁、75…アルゴン供給用通路、76…アルゴン供給用バルブ、80…電気制御装置、81…アクセルペダル操作量センサ、82…エンジン回転速度センサ、83…筒内圧センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに応じたトルクを同内燃機関が発生するように前記燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する水素酸素供給手段と、
前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項2】
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する水素供給手段と、
前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する酸素供給手段と、
前記要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項3】
燃焼室に水素と酸素と酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスとを供給し、同水素を燃焼させることに伴って発生した熱により同作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する燃焼状態指標値取得手段と、
前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値を前記燃焼室指標値として取得するように構成され、
前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の限界燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整する内燃機関。
【請求項5】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値を前記燃焼室指標値として取得するように構成され、
前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が所定の範囲内となるように前記燃焼室に供給される作動ガス量を調整する内燃機関。
【請求項1】
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに応じたトルクを同内燃機関が発生するように前記燃焼室に供給される水素及び酸素のそれぞれの量を決定するとともに、同決定された量の水素及び同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する水素酸素供給手段と、
前記要求トルクに応じて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項2】
内燃機関の燃焼室にて水素を燃焼させ、その燃焼に伴って発生した熱により酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関に要求されるトルクである要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される水素の量を決定するとともに、同決定された量の水素を同燃焼室に供給する水素供給手段と、
前記決定された水素の量に基いて前記燃焼室に供給する酸素の量を決定するとともに、同決定された量の酸素を同燃焼室に供給する酸素供給手段と、
前記要求トルクに基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を決定するとともに、同決定された量の作動ガスが同燃焼室に供給されるように同燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項3】
燃焼室に水素と酸素と酸素よりも比熱比の大きい不活性ガスである作動ガスとを供給し、同水素を燃焼させることに伴って発生した熱により同作動ガスを膨張させて同内燃機関から動力を取り出すとともに、同燃焼室から排出された燃焼後のガス中に含まれる作動ガスを同燃焼室に再び供給する作動ガス循環型内燃機関であって、
前記内燃機関の燃焼状態を表す値である燃焼状態指標値を取得する燃焼状態指標値取得手段と、
前記取得された燃焼状態指標値に基づいて前記燃焼室に供給される作動ガスの量を調整する作動ガス量調整手段と、
を備えた内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値を前記燃焼室指標値として取得するように構成され、
前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が許容できる所定の限界燃焼状態よりも良好な燃焼状態を表す値となる範囲内において前記燃焼室に供給される作動ガス量が最大となるように同作動ガス量を調整する内燃機関。
【請求項5】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記燃焼状態指標値取得手段は、前記内燃機関の燃焼状態が悪化するに従って単調増加又は単調減少する値を前記燃焼室指標値として取得するように構成され、
前記作動ガス量調整手段は、前記取得された燃焼状態指標値が所定の範囲内となるように前記燃焼室に供給される作動ガス量を調整する内燃機関。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−77834(P2007−77834A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264226(P2005−264226)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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