説明

内視鏡システム、内視鏡、並びに距離・照射角度測定方法

【課題】内視鏡の挿入部の太径化を極力避けつつ、照明光の出射端から被観察部位までの距離および照明光の照射角度を測定する。
【解決手段】内視鏡10は、光源40bからの赤外光を伝搬するライトガイド22b、光源40cからの測定光を伝搬するライトガイド22c、および測定光の投影パターンを撮像するCCD24aを有する。画像処理回路34aは、CCD24aからの画像内の投影パターンを抽出し、その大きさを算出して、赤外光の出射端から被観察部位までの距離、および被観察部位への照射角度を算出する。CPU30は、算出された距離および照射角度に応じて、光源40bの動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システム、内視鏡、並びに距離・照射角度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、内視鏡を利用した検査が広く普及している。内視鏡検査では、電気メス等の各種処置具を用いた手技を行う。従来、こうした手技を円滑に進めるため、被観察部位までの距離の情報を得たいという要望がある。
【0003】
他方、粘膜下層部の血管の視認性を高めるため、インドシアニングリーン(ICG;Indocyanine green)などの造影剤を被観察部位に注入し、被観察部位に赤外光を照射して観察する内視鏡検査も行われている。赤外光を照明に用いた場合、被観察部位にあたる赤外光の照射強度が体内画像の画質に効いてくる。光の減衰の法則より、光の照射強度は光源からの距離の二乗に反比例する。このため、赤外光観察においては、照射強度を制御するために距離情報を知ることは特に重要である。
【0004】
さらに、赤外光の照射距離が近くなって照射強度が強くなりすぎると安全上好ましくないので、この点でも距離情報の取得は不可欠である。なぜなら、赤外光を照射して得られる画像は体表面よりも深い下層であり、体表面の様子は画像からは見てとれないので、距離情報を正確に把握しておかないと体表面が損傷するおそれがあるからである。
【0005】
従来、被観察部位までの距離を測定する方法として、特許文献1に記載の方法が提案されている。特許文献1では、照明用光ファイバの中心(光軸)を外れた位置に測距用レーザの出射端を配置し、照明光の光軸と平行にレーザ光を被観察部位に照射している。
【0006】
照明光は光軸を中心に広がりをもって被観察部位に照射される。対して、測距用のレーザ光は、照明光の光軸と常に等間隔な位置に照射される。被観察部位までの距離が離れるほど撮像範囲が広まって、相対的にレーザ光の照射位置は画像の中心に近付くから、画像の中心からレーザ光の照射位置がどの程度ずれているかによって被観察部位までの距離を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−285541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
内視鏡検査では、照明光の光軸が被観察部位に垂直にあたることは稀で、大体は斜めに入射する。垂直入射と斜入射の場合では、距離は同じでも被観察部位における照明光の単位面積あたりの照射強度が変ってくる。このため、特に照射強度を厳密に制御する必要がある赤外光観察の場合は、距離情報に加えて照射角度の情報も得なければならない。
【0009】
特許文献1に記載の方法では、照射角度の情報は得られない。また、斜入射の観点がなく、斜入射の場合は距離を正確に測ることができない。
【0010】
距離や照射角度の情報を得るための機構を追加すると、内視鏡の挿入部が太径化して患者への負担が増すという問題もある。例えば、市販されている超音波距離測定センサは、径が約10mmであるため、挿入部の大幅な太径化は避けられず、距離情報を得る目的では使用することができない。
【0011】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、その目的は、内視鏡の挿入部の太径化を極力避けつつ、照明光の出射端から被観察部位までの距離および照明光の照射角度を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の内視鏡システムは、被観察部位に照明光を照射する照明光照射手段と、照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するための測定光を発するレーザ光源、レーザ光源からの測定光を伝搬するライトガイドを有する測定光照射手段と、測定光の投影パターンを撮像する撮像手段と、前記撮像手段で得られた画像を解析して、投影パターンの大きさを検出し、検出した大きさを元に、距離および照射角度を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
照明光は赤外光であることが好ましい。なお、照明光は可視光であってもよいし、赤外光と可視光を切り替えて使用してもよい。
【0014】
前記算出手段で算出した距離および照射角度に応じて、前記照明光照射手段の動作を制御する制御手段を備えることが好ましい。
【0015】
前記制御手段は、距離および照射角度に関わらず、被観察部位における照明光の照射強度が同じになるように制御する。また、前記制御手段は、前記算出手段で算出した距離が閾値以下になったとき、照明光を消灯させる。
【0016】
前記測定光照射手段は、前記ライトガイドから出射した測定光を、照明光よりも広がり角が小さい略平行光とする屈折率分布部を有することが好ましい。
【0017】
測定光は、その光軸に垂直な面に映る投影パターンの外形が略円形状であることが好ましい。この場合、前記算出手段は、投影パターンの大きさと距離、投影パターンの形状と照射角度がそれぞれ相関をもつことから、投影パターンが略円形状であればその半径、略楕円形状であればその短軸および長軸を検出する。
【0018】
前記測定光照射手段は、照明光の照射範囲外に測定光の照射範囲があるように配されていることが好ましい。
【0019】
前記算出手段で算出した距離および照射角度を、体内画像とともにモニタに表示させる表示制御手段を備えることが好ましい。
【0020】
前記照明光照射手段は、照明光を発するレーザ光源、レーザ光源からの照明光を伝搬するライトガイドを有する。前記ライトガイドは、その出射端に先細のテーパ部が形成されている。
【0021】
本発明の内視鏡は、被観察部位に照射される照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するためのレーザ光源からの測定光を伝搬するライトガイドと、測定光の投影パターンを撮像する撮像手段とを備えることを特徴とする。前記撮像手段で得られた画像から投影パターンの大きさが検出され、検出された大きさを元に、距離および照射角度が算出される。
【0022】
本発明の距離・角度測定方法は、被観察部位に照射される照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するための測定光をレーザ光源から発し、レーザ光源からの測定光をライトガイドで伝搬して、被観察部位に測定光を照射する測定光照射ステップと、測定光の投影パターンを撮像する撮像ステップと、前記撮像ステップで得られた画像を解析して、投影パターンの大きさを検出し、検出した大きさを元に、距離および照射角度を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、レーザ光源およびライトガイドを用いて測定光を被観察部位に照射し、その投影パターンを撮像して得た画像を元に照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を算出するので、内視鏡の挿入部の太径化を極力避けつつ、照明光の出射端から被観察部位までの距離および照明光の照射角度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】内視鏡システムの構成図である。
【図2】内視鏡システムの内部構成を示すブロック図である。
【図3】内視鏡の挿入部の先端部を示す拡大部分断面図である。
【図4】先端部の先端面に平行な被観察部位の面に照射された測定光の像を示す説明図である。
【図5】先端部の先端面に対して傾いた被観察部位の面に照射された測定光の像を示す説明図である。
【図6】画像処理回路の内部構成を示す図である。
【図7】赤外光出力の制御の例を示すグラフである。
【図8】内視鏡システムの処理手順を示すフローチャートである。
【図9】別の実施形態における内視鏡の挿入部の先端部を示す拡大部分断面図である。
【図10】距離および照射角度を表示する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1において、内視鏡システム2は、内視鏡10、プロセッサ装置11、および光源装置12からなる。内視鏡10は、患者の体内に挿入される可撓性の挿入部13と、挿入部13の基端部分に連設された操作部14と、プロセッサ装置11および光源装置12にそれぞれ接続されるプロセッサ用コネクタ15および光源用コネクタ16と、操作部14、各コネクタ15、16間を繋ぐユニバーサルコード17とを有する。
【0026】
プロセッサ装置11は、光源装置12と電気的に接続され、内視鏡システム2の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置11は、ユニバーサルコード17や挿入部13内に挿通された配線ケーブルを介して内視鏡10に給電を行う。また、プロセッサ装置11は、内視鏡10で得られた被観察部位の像を表す撮像信号に各種処理を施して画像を生成する。プロセッサ装置11で生成された画像は、プロセッサ装置11にケーブル接続されたモニタ18に体内画像として表示される。
【0027】
図2において、挿入部13の先端部20には、二つの観察窓21a、21b、および三本のライトガイド22a、22b、22cの出射端が配されている。観察窓21a、21bの奥には、レンズ群やプリズムからなる対物光学系23a、23bを介して、体内撮影用のCCD24a、24bが設置されている。以下の説明および図面では、添字「a」がついた部材は通常光(白色光)用、「b」がついたものは赤外光用、「c」がついたものは測定光用として区別する。
【0028】
CCD24a、24bは、例えばインターライントランスファ型で、プログレッシブスキャンに対応した読み出し方式のCCDイメージセンサからなる。CCD24a、24bは、観察窓21a、21b、対物光学系23a、23bを経由した体内の被観察部位の像が、撮像面に入射するように配置されている。CCD24a、24bはそれぞれ、通常光および赤外光の照射による被観察部位の像を撮像する。CCD24aは可視光域、CCD24bは赤外域にそれぞれ撮影感度を有する。
【0029】
ライトガイド22a〜22cはそれぞれ、光源装置12からの通常光、赤外光、および測定光を伝達して被観察部位に照射する。
【0030】
対物光学系23a、23b、およびライトガイド22a〜22cは、対物光学系23a、23bの光軸La、Lb、およびライトガイド22a〜22c(から発せられる各光)の光軸la、lb、lcが、互いに平行で先端部20の先端面25に対して垂直となるように設けられている。各光軸La、Lb、la、lb、lcは、先端部20の先端面25に平行な被観察部位の面Sには垂直(照射角度φ=0°)に、先端面25に対して傾いた被観察部位の面S’には斜めにあたる。
【0031】
ライトガイド22b、22cの出射端付近を拡大した図3において、ライトガイド22bの出射端には、先端面25に向かって径が徐々に細くなるテーパ部50が形成されている。テーパ部50は、ライトガイド22bを構成する光ファイバの先端を加熱延伸することで作製される。テーパ部50は、光軸lbまわりでテーパ角が同一であり、テーパ部50を輪切りにした円断面の中心と光軸lbが一致する。
【0032】
ライトガイド22bを構成する光ファイバのテーパ部50以外のコア径およびクラッド径は、例えば230μmおよび250μmである。ライトガイド22bの出射端(テーパ部50の先端)におけるコア径およびクラッド径は、例えば46μmおよび50μmである。上記例では、テーパ部50のテーパ率(テーパ部50の先端のコア径/テーパ部50以外のコア径)は0.2である。
【0033】
ライトガイド22bは、光透過性を有し、紫外線により硬化する樹脂系の接着剤51によって先端部20内に固着されている。接着剤51は、テーパ部50の先端面25側を除いて充填されている。接着剤51が充填されない部分は、ライトガイド22bの出射端の周面が露呈した、略円環状の凹部52となっている。
【0034】
接着剤51は、ライトガイド22bを構成する光ファイバのクラッドよりも屈折率が低い。例えば、クラッドの屈折率は1.43以上1.44以下であり、接着剤51の屈折率は1.40以上1.41以下である。
【0035】
赤外光は、ライトガイド22bを構成する光ファイバのクラッドに反射しながら、コア内を伝搬する。テーパ部50では、クラッドに対する赤外光の入射角がテーパ部50以外の部分よりも小さくなる。このため、赤外光の一部は、テーパ部50のクラッドに反射せず、クラッド外へと漏れ出す。クラッド外へ漏れ出した赤外光は、接着剤51に反射しながら、テーパ部50のコア内を伝搬する。
【0036】
テーパ部50のコア内を伝搬した赤外光は、先端面25から出射する他、凹部52のライトガイド22bの出射端の露呈部分からも出射する。従って、赤外光の広がり角(遠視野像(先端面25から10cm程度離れた垂直面に映される赤外光の像)における照射強度が最大値の1/2になる出射角度幅、半値全角)θbおよび開口数(NA;Numerical Aperture)は、テーパ部50や凹部52を設けない場合よりも大きくなる。こうすることで、赤外光の照射範囲をCCD24bの撮影範囲よりも大きくすることができる。なお、広がり角には水平方向と垂直方向の二つがあるが、赤外光はいずれの方向も同じ広がり角を有し、先端部20の先端面25に平行な被観察部位の面Sに映される赤外光の投影パターンは略円形状となる。通常光、測定光も同様である。
【0037】
ライトガイド22cは、ライトガイド22bの直下に配されている。ライトガイド22cは、例えば直径125μmの光ファイバからなる。ライトガイド22cの出射端は、屈折率分布部53に接続されている。屈折率分布部53は、光軸中心から外側に向かって屈折率が漸減する、径方向に屈折率分布をもつGIファイバまたはGRINレンズである。ライトガイド22cで伝搬された測定光は、屈折率分布部53で略コリメート(平行光化)され、赤外光の広がり角θbに比して十分に小さい広がり角θc(例えば約3°〜6°)で先端面25から出射される。
【0038】
図2に戻って、内視鏡10にはさらに、アナログ信号処理回路(以下、AFEと略す)26a、26b、CCD駆動回路27a、27b、およびCPU28が設けられている。AFE26a、26bは、相関二重サンプリング回路(以下、CDSと略す)、自動ゲイン制御回路(以下、AGCと略す)、およびアナログ/デジタル変換器(以下、A/Dと略す)から構成されている。CDSは、CCD24a、24bから出力される撮像信号に対して相関二重サンプリング処理を施し、CCD24a、24bで生じるリセット雑音およびアンプ雑音の除去を行う。AGCは、CDSによりノイズ除去が行われた撮像信号を、プロセッサ装置11から指定されるゲイン(増幅率)で増幅する。A/Dは、AGCにより増幅された撮像信号を、所定のビット数のデジタル信号に変換する。A/Dでデジタル化された撮像信号は、ユニバーサルコード17、プロセッサ用コネクタ15を介してプロセッサ装置11に入力される。
【0039】
CCD駆動回路27a、27bは、CCD24a、24bの駆動パルス(垂直/水平走査パルス、電子シャッタパルス、読み出しパルス、リセットパルス等)とAFE26a、26b用の同期パルスとを発生する。CCD24a、24bは、CCD駆動回路27a、27bからの駆動パルスに応じて撮像動作を行い、撮像信号を出力する。AFE26a、26bの各部は、CCD駆動回路27a、27bからの同期パルスに基づいて動作する。
【0040】
CPU28は、電子内視鏡10とプロセッサ装置11とが接続された後、プロセッサ装置11のCPU30からの動作開始指示に基づいて、CCD駆動回路27a、27bを駆動させるとともに、AFE26a、26bのAGCのゲインを調整する。
【0041】
CPU30は、プロセッサ装置11全体の動作を統括的に制御する。CPU30は、図示しないデータバスやアドレスバス、制御線を介して各部と接続している。ROM31には、プロセッサ装置11の動作を制御するための各種プログラム(OS、アプリケーションプログラム等)やデータ(グラフィックデータ等)が記憶されている。CPU30は、ROM31から必要なプログラムやデータを読み出して、作業用メモリであるRAM32に展開し、読み出したプログラムを逐次処理する。また、CPU30は、検査日時、患者や術者の情報等の文字情報といった検査毎に変わる情報を、プロセッサ装置11のフロントパネル33やLAN(Local Area Network)等のネットワークより得て、RAM32に記憶する。
【0042】
画像処理回路34a、34bは、入力された画像に対して、色補間、ホワイトバランス調整、ガンマ補正、画像強調、画像用ノイズリダクション、色変換等の画像処理を施す。画像処理回路34aは、上記画像処理の他に、測定光の解析結果を元に先端面25から被観察部位までの距離D(図4参照)および赤外光の照射角度φを算出する。
【0043】
表示制御回路35は、CPU30からROM31およびRAM32のグラフィックデータを受け取る。グラフィックデータには、体内画像の無効画素領域を隠して有効画素領域のみを表示させる表示用マスク、検査日時、あるいは患者や術者の情報等の文字情報、グラフィカルユーザインターフェース(GUI;Graphical User Interface)等がある。表示制御回路35は、画像処理回路34a、34bからの画像に対して、表示用マスク、文字情報、GUIの重畳処理、モニタ18の表示画面への描画処理等の各種表示制御処理を施す。
【0044】
表示制御回路35は、画像処理回路34a、34bからの画像を一時的に格納するフレームメモリを有する。表示制御回路35は、フレームメモリから画像を読み出し、読み出した画像をモニタ18の表示形式に応じたビデオ信号(コンポーネント信号、コンポジット信号等)に変換する。これにより、モニタ18に体内画像が表示される。
【0045】
プロセッサ装置11には、上記の他にも、画像に所定の圧縮形式(例えばJPEG形式)で画像圧縮を施す圧縮処理回路や、圧縮された画像をCFカード、光磁気ディスク(MO)、CD−R等のリムーバブルメディアに記録するメディアI/F、LAN等のネットワークとの間で各種データの伝送制御を行うネットワークI/F等が設けられている。これらはデータバス等を介してCPU30と接続されている。
【0046】
光源装置12は、光源40a、40b、40cを有する。光源40aは、通常光として赤から青までのブロードな波長の光(例えば、480nm以上750nm以下の波長帯の光)を発生するキセノンランプや白色LED(発光ダイオード)等である。光源40bは、赤外光として、例えば、750nm〜2500nmのうちの狭帯域な波長帯の光、いわゆる近赤外光を発生する、出力100mW以上の半導体レーザ等である。光源40cは、測定光として、例えば、500nm付近にのみ光強度を有する青色の光を発生する半導体レーザ等である。
【0047】
光源40a〜40cは、光源ドライバ41a、41b、41cによってそれぞれ駆動される。集光レンズ42a、42b、42cは、光源40a〜40cから発せられた各光を集光して、ライトガイド22a〜22cの入射端にそれぞれ導光する。CPU43は、プロセッサ装置11のCPU30と通信し、光源ドライバ41a〜41cの動作制御を行う。
【0048】
内視鏡システム2には、通常光を使用した通常撮影モードと、赤外光を使用した赤外撮影モードとが用意されている。赤外撮影モードでは、インドシアニングリーン(ICG;Indocyanine green)などの造影剤を被観察部位に注入し、粘膜下層部の血管を観察する。各モードの切り替えは、例えばプロセッサ装置11のフロントパネル33を操作することにより行われる。
【0049】
通常撮影モードが選択された場合、CPU30は、CCD24aやその後段のAFE26a、画像処理回路34a等を駆動させる。また、CPU43を介して光源ドライバ41a〜41cの駆動を制御して、光源40aを点灯、他の光源40b、40cを消灯させる。被観察部位に照射される照明光は通常光のみとなる。また、当然ながらモニタ18には、体内画像として通常光による画像のみが表示される。
【0050】
一方、赤外撮影モードが選択された場合、CPU30は、CCD24b、AFE26b、画像処理回路34b等も駆動させ、且つ全光源40a〜40cを点灯させる。被観察部位に照射される照明光は通常光、赤外光、および測定光となる。この場合、モニタ18には、表示制御回路35によって通常光と赤外光による画像が二画面表示される。
【0051】
図4において、先端部20の先端面25に平行な被観察部位の面Sには、測定光の投影パターンQは略円形状で映る。P0は測定光の発光点、Pは発光点P0から面Sに引いた垂線、つまり光軸lcと面Sとの交点であり、投影パターンQの円中心である。Rは投影パターンQの半径であり、例えば2.5mm〜5mm(距離D=100mmのとき)である。測定光の照射範囲は、投影パターンQを底面、P0を頂点、距離Dを高さとする円錐状である。
【0052】
投影パターンQは、先端面25(発光点P0)から被観察部位(点P)までの距離Dが離れると大きさが増し、距離Dが近付くと小さくなる。距離Dは、測定光の広がり角θcと投影パターンQの半径Rを用いて、次式(1)で求められる。
D=R/tan(θc/2)・・・(1)
【0053】
測定光の広がり角θcは、距離Dと投影パターンQの半径Rを実測して、式(1)に代入すれば容易に求められる。あるいは、光源40c、ライトガイド22c、屈折率分布部53の仕様を元に広がり角θcを求めてもよい。このように、広がり角θcは既知の値とすることができるため、投影パターンQの半径Rさえ分れば、距離Dを算出することが可能である。
【0054】
図5において、先端面25に対して傾いた被観察部位の面S’には、測定光の投影パターンQ’は略楕円形状で映る。投影パターンQ’は、測定光の照射範囲を示す円錐を斜めに切り取った切り口に相当する。投影パターンQ’の中心は投影パターンQと同じく点P、短軸は投影パターンQの半径と同じくR、長軸はR’である。投影パターンQ’の中心は、厳密には点Pではなく多少ずれるが、θcが極めて小さいため、ずれを無視できるとして点Pに近似する。このとき、測定光の照射角度φは、次式(2)で求められる。
φ=cos−1(R/R’)・・・(2)
【0055】
測定光の照射角度φは、式(2)より、投影パターンQ’の長軸と短軸が分れば求められる。距離Dは、面Sの場合と同じく式(1)で求められる。なお、面S、S’に凹凸があった場合は投影パターンQ、Q’に歪みが生じるが、投影パターンの大きさが例えば半径または短径2.5mm〜5mmと非常に小さいため、凹凸による歪みは無視する。
【0056】
図6において、赤外撮影モードが選択された場合、画像処理回路34aには、測定光抽出部60、大きさ算出部61、および距離・角度算出部62が構築される。
【0057】
測定光抽出部60は、周知の画像認識技術を用いて、AFE26aから入力された画像内の測定光の投影パターンを抽出する。測定光抽出部60は、測定光の色である青色の画素成分を抜き出し、抜き出した青色画素成分のうち、他の部分よりも値が大きく、且つ略円形状または略楕円形状で凝集している部分を測定光の投影パターンとして抽出する。体内は大部分が赤色であるため、青色の測定光があたった部分は比較的簡単に抽出することが可能である。
【0058】
大きさ算出部61は、測定光抽出部60で抽出された測定光の投影パターンの大きさ(半径または短軸R、長軸R’)を算出する。ここで算出される測定光の投影パターンの大きさの単位は画素数である。距離・角度算出部62は、大きさ算出部61で算出された各値を式(1)、(2)に代入して、画素数ベースの距離Dと、照射角度φを算出する。測定光の広がり角θcは前述の通り既知であるため、式(1)に代入されるのは半径または短軸Rのみである。なお、画素数ベースの測定光の投影パターンの大きさと実寸との関係を予め測定しておき、実寸の距離Dを算出しても構わない。
【0059】
光の減衰の法則より、赤外光の被観察部位への照射強度は、距離Dが離れるに従って急激に低下する。また、照射角度φが大になる程、赤外光の被観察部位への単位面積あたりの照射強度が下がる。さらには、距離Dがある閾値以下となると、赤外光による悪影響を被観察部位に与えてしまう。これらの事情および距離・角度算出部62の算出結果を踏まえて、CPU30は、CPU43を介して光源40bの駆動を制御する。
【0060】
図7に例示するように、CPU30は、赤外光の照射強度の減衰を補って、照射強度が距離Dに関わらず一定となるよう、距離Dが大きくなるに連れて光源40bの出力(赤外光出力)を急増させる。また、CPU30は、照射角度φが大になるに連れて、距離Dに対する赤外光出力の変化量を増やす。さらに、CPU30は、距離Dが閾値Dlim以下となったときに、光源40bを消灯させる。
【0061】
図7に例示する赤外光出力の制御情報は、データテーブルや関数の形で予めROM31に記憶されている。CPU30は、制御情報をROM31から読み出し、この制御情報と距離・角度算出部62の算出結果に応じた制御信号をCPU43に送信する。CPU43は、CPU30からの制御信号に従って光源ドライバ41bを通して光源40bの駆動を制御する。
【0062】
次に、上記のように構成された内視鏡システム2の作用について説明する。内視鏡10で患者の体内を観察する際、術者は、内視鏡10と各装置11、12とを繋げ、各装置11、12の電源をオンする。そして、フロントパネル33等を操作して、患者に関する情報等を入力し、検査開始を指示する。
【0063】
検査開始を指示した後、術者は、挿入部13を体内に挿入し、光源装置12からの通常光または赤外光で体内を照明しながら、CCD24aまたはCCD24bによる体内画像をモニタ18で観察する。
【0064】
CCD24a、24bから出力された撮像信号は、AFE26a、26bの各部で各種処理を施された後、プロセッサ装置11の画像処理回路34a、34bに入力される。画像処理回路34a、34bでは、入力された撮像信号に対して各種画像処理が施され、画像が生成される。画像処理回路34a、34bで処理された画像は、表示制御回路35に入力される。表示制御回路35では、CPU30からのグラフィックデータに応じて、各種表示制御処理が実行される。これにより、体内画像がモニタ18に表示される。
【0065】
図8において、赤外撮影モードが選択された場合(S10でYES)、CCD24b、AFE26b、画像処理回路34b等が駆動され、且つ全光源40a〜40cが点灯される(S11)。また、画像処理回路34aに測定光抽出部60、大きさ算出部61、および距離・角度算出部62が構築される。
【0066】
通常光による像および赤外光の投影パターンがCCD24a、24bによって撮像され(S12)、AFE26a、26b、画像処理回路34a、34bの各部を経て、表示制御回路35によりモニタ18に通常光と赤外光による画像が二画面表示される。
【0067】
このとき、画像処理回路34aでは、測定光抽出部60によってAFE26aから入力された画像より、測定光の投影パターンが抽出される(S13)。次いで、大きさ算出部61によって測定光抽出部60で抽出された投影パターンの大きさが算出される(S14)。そして、距離・角度算出部62によって距離Dおよび照射角度φが算出される(S15)。
【0068】
CPU30は、距離・角度算出部62の算出結果を受けて、赤外光の照射強度が距離Dおよび照射角度φに関わらず一定となるよう、CPU43を介して赤外光出力を制御する(S17)。また、距離Dが閾値Dlim以下となったとき(S16でYES)、CPU30は、光源40bを消灯させる(S18)。これら一連の処理は、検査終了が指示されるか(S19でYES)、通常撮影モードが選択されるまで(S10でNO)続けられる。
【0069】
通常撮影モードが選択された場合(S10でNO)は、CCD24b、AFE26b、画像処理回路34b等は駆動されない。光源40aのみが点灯され、被観察部位には通常光のみが照射される。また、通常光による画像のみがモニタ18に表示される。
【0070】
以上説明したように、光源40cおよびライトガイド21cで測定光を被観察部位に照射して、その投影パターンをCCD24aで撮像し、得られた画像を解析して測定光の投影パターンの大きさを算出した結果に基づき距離Dおよび照射角度φを求めるので、挿入部13を太径化することなく、距離Dおよび照射角度φの情報を取得することができる。
【0071】
距離Dおよび照射角度φに応じて、赤外光の照射強度が一定となるよう赤外光出力を制御するので、距離Dや照射角度φに関係なく、常に一定の照射条件で赤外撮影モードを実施することができる。また、距離Dが閾値Dlim以下となったときに、光源40bを消灯させるので、赤外光による悪影響を被観察部位に与えることがなく、安全性を確保することができる。
【0072】
上記実施形態では、光軸lb、lcが平行になるようにライトガイド21b、21cを配置しているが、光軸lb、lcは必ずしも平行でなくてもよい。CCD24aの撮影範囲内で、且つ赤外光の照射範囲外に測定光があたるよう、光軸lcを外側に傾けてもよい。
【0073】
光軸lcを外側に傾ける方法としては、図9(A)に示すように、屈折率分布部53を構成するGIファイバまたはGRINレンズの先端を、先端面25に対して斜めにカットしたり、ライトガイド22cおよび屈折率分布部53自体を、先端面25に対して傾けて配置する方法がある。いずれにしても、光軸lbに対する光軸lcの傾斜角度で、式(2)で求めた照射角度φを補正する必要がある。
【0074】
赤外光の照射範囲外に測定光があたるようにすれば、赤外光の影響を受けることなく測定光の投影パターンを抽出することができ、より正確な距離Dおよび照射角度φの測定が可能となる。
【0075】
また、照明光と測定光を例えば赤外光とする等、同じ波長帯の光とすることもできる。照明光と測定光を赤外光とした場合、ライトガイド22bの一部を分岐してライトガイド22cとすれば、光源40c等の部品点数を削減することができる。なお、この場合、CCD24bで測定光の投影パターンを撮像し、図6に示す各部60〜62は、画像処理回路34bに構築される。
【0076】
上記実施形態では、通常光と赤外光を照明光とする内視鏡10を例示したが、通常光のみの一般的な内視鏡10についても本発明は適用可能である。この場合は上記実施形態のように照明光の出力を厳密に制御する必要はさほどないが、図10に示すように、体内画像とともに距離D(実寸)および照射角度φをモニタ18に表示すれば、処置具を用いた手技のときに役立つ。また、硬性鏡に適用した場合は、適正な観察位置を知るための指標となる。勿論、通常光と赤外光を照明光とする上記実施形態で距離Dおよび照射角度φをモニタ18に表示させてもよい。
【0077】
上記実施形態では、赤外光出力を制御するために距離Dおよび照射角度φを算出しているが、式(1)、(2)からこれらと半径または短軸R、長軸R’の関係は分かっているため、半径または短軸R、長軸R’が分れば実質的に距離Dおよび照射角度φを算出したことと同じであり、これらを元に赤外光出力を制御することはできるので、距離Dおよび照射角度φを実際に算出するには及ばない。
【0078】
測定光は上記実施形態の円形状に限らず、十字状や正三角形の頂点にあたる三点スポット光、あるいは照明光の外周を内環とする円環状でも構わない。要するに半径または短軸Rと長軸R’に準ずる二次元的な大きさが測定可能であれば如何なる形状でもよい。なお、測定光を円環状とする場合は、内壁がミラーとなった円筒にレーザ光を斜め入射させ、内壁でレーザ光を螺旋状に伝搬させればよい。
【0079】
上記実施形態では、距離Dが閾値Dlim以下となったときに、光源40bを消灯させているが、光源40bを消灯させずに、被観察部位に悪影響を与えないレベルまで赤外光出力を下げてもよいし、モニタ18に警告を表示してもよい。距離Dが閾値Dlim以下となっても、赤外光による画像の視野を最低限確保することができる。
【0080】
なお、距離Dおよび照射角度φを算出して赤外光出力を制御するサンプリングレートについては特に言及していないが、一フレーム毎に行ってもよいし、所定間隔で行ってもよい。術者からの操作があったときに行ってもよい。あるいは、加速度センサ等で先端部20の動きの速さを検出し、動きが速いときは一フレーム毎、遅いときや止まっているときは所定間隔としてもよい。所定間隔で行う場合は、測定光をその間隔に合せて点滅させてもよい。
【0081】
上記実施形態では、ライトガイド22c等の測定光に関わる部材を内視鏡10や光源装置12に一体に設けているが、測定光に関わる部材を別体としてもよい。この場合、ライトガイド22cをシースでくるみ、このシースを鉗子チャンネルに挿通して先端部20に配してもよいし、専用のアタッチメントを介して着脱可能に先端部に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0082】
2 内視鏡システム
10 内視鏡
11 プロセッサ装置
12 光源装置
18 モニタ
22a〜22c ライトガイド
24a、24b CCD
30 CPU
34a、34b 画像処理回路
40a〜40c 光源
50 テーパ部
53 屈折率分布部
60 測定光抽出部
61 大きさ算出部
62 距離・角度算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被観察部位に照明光を照射する照明光照射手段と、
照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するための測定光を発するレーザ光源、レーザ光源からの測定光を伝搬するライトガイドを有する測定光照射手段と、
測定光の投影パターンを撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で得られた画像を解析して、投影パターンの大きさを検出し、検出した大きさを元に、距離および照射角度を算出する算出手段とを備えることを特徴とする内視鏡システム。
【請求項2】
照明光は赤外光であることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記算出手段で算出した距離および照射角度に応じて、前記照明光照射手段の動作を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記制御手段は、距離および照射角度に関わらず、被観察部位における照明光の照射強度が同じになるように制御することを特徴とする請求項3に記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記算出手段で算出した距離が閾値以下になったとき、照明光を消灯させることを特徴とする請求項3または4に記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記測定光照射手段は、前記ライトガイドから出射した測定光を、照明光よりも広がり角が小さい略平行光とする屈折率分布部を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項7】
測定光は、その光軸に垂直な面に映る投影パターンの外形が略円形状であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記算出手段は、その光軸に垂直な面に映る略円形状の投影パターンの半径、または光軸に対して傾いた面に映る略楕円形状の投影パターンの短軸および長軸を検出することを特徴とする請求項7に記載の内視鏡システム。
【請求項9】
前記測定光照射手段は、照明光の照射範囲外に測定光の照射範囲があるように配されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項10】
前記算出手段で算出した距離および照射角度を、体内画像とともにモニタに表示させる表示制御手段を備えることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項11】
前記照明光照射手段は、照明光を発するレーザ光源、レーザ光源からの照明光を伝搬するライトガイドを有し、
前記ライトガイドは、その出射端に先細のテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の内視鏡システム。
【請求項12】
被観察部位に照射される照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するためのレーザ光源からの測定光を伝搬するライトガイドと、
測定光の投影パターンを撮像する撮像手段とを備え、
前記撮像手段で得られた画像から投影パターンの大きさが検出され、検出された大きさを元に、距離および照射角度が算出されることを特徴とする内視鏡。
【請求項13】
被観察部位に照射される照明光の出射端から被観察部位までの距離、および照明光の被観察部位への照射角度を測定するための測定光をレーザ光源から発し、レーザ光源からの測定光をライトガイドで伝搬して、被観察部位に測定光を照射する測定光照射ステップと、
測定光の投影パターンを撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで得られた画像を解析して、投影パターンの大きさを検出し、検出した大きさを元に、距離および照射角度を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする距離・角度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−258(P2011−258A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144976(P2009−144976)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】