説明

円筒部材の製造装置、及び円筒部材の製造方法

【課題】本構成を有さない場合に比べて、長期間に渡って芯体からの樹脂膜の容易な離脱が維持される円筒部材の製造装置、及び円筒部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施の形態の円筒部材製造装置10によれば、芯体50の外周面における軸方向の両端部の内の、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化が判別されたときには、芯体50の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して塗膜52Aが成膜されるように、成膜部24を制御する。従って、常に芯体50の軸方向の両端部に未劣化領域が露出した状態となるように、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜されることとなり、焼成された塗膜52Aの芯体50からの離脱の容易な離脱が長期間に渡って維持されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒部材の製造装置及び円筒部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置等の電子写真機器では、円筒状の円筒部材が多く用いられており、例えば、帯電部材としての帯電ロールや、現像装置としての現像ロール、転写ベルト、転写装置としての転写ロール、及び定着装置としての定着ロール等が用いられている。
【0003】
これらの円筒部材としては、継ぎ目があると、形成される画質劣化の原因となることから、継ぎ目の無い部材が好ましく用いられている。このような継ぎ目の無い円筒部材を形成する方法としては、一般に、円筒状の芯体を用意し、この円筒状芯体の表面に、円筒部材の材料となる樹脂溶液を塗布した後に、加熱硬化させた後に、該円筒状芯体から分離する方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、芯体上に形成した樹脂層を加熱硬化させた後に該芯体から分離するときに、加熱硬化した樹脂層が芯体の外周面に密着または接着することを抑制し、なめらかに芯体から分離させるために、芯体の外周面にシリコーン系樹脂組成物を含むコーティング層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−88272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、本構成を有さない場合に比べて、長期間に渡って芯体からの樹脂膜の容易な離脱が維持される円筒部材の製造装置、及び円筒部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。
即ち、
請求項1に係る発明は、外周面が離型性を有する円柱状の芯体と、前記芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に、樹脂による樹脂膜を成膜する成膜装置と、前記成膜装置によって前記樹脂膜が成膜される前に、前記芯体の外周面における軸方向の両端部の内の、該樹脂膜の成膜対象の領域に連続する領域の離型性の劣化を判別する判別装置と、前記判別装置によって離型性の劣化が判別されたときに、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように、前記成膜装置を制御する制御装置と、を備えた円筒部材の製造装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、外周面が離型性を有する円柱状の芯体と、前記芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に、樹脂による樹脂膜を成膜する成膜装置と、前記成膜装置によって前記樹脂膜が成膜される前に、前記芯体の外周面における軸方向の両端部の内の、該樹脂膜の成膜対象の領域に連続する領域の離型性の劣化を判別する判別装置と、前記判別装置の判別に応じて、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように、前記成膜装置を制御する制御装置と、を備えた円筒部材の製造装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記成膜装置は、前記芯体を周方向に回転させる回転装置と、前記回転装置によって回転された前記芯体の外周に前記熱硬化性樹脂を供給する供給装置と、前記供給装置及び前記芯体の少なくとも一方を該芯体の軸方向に相対移動させる移動装置と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円筒部材の製造装置である。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記制御装置は、前記判別装置によって離型性の劣化が判別されたときに、前記供給装置によって前記芯体の外周面に供給される前記樹脂の供給開始位置及び供給終了位置が、前回の供給開始位置及び前回の供給終了位置より軸方向の中央部側となるように前記移動装置を制御することによって、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように前記成膜装置を制御することを特徴とする請求項3に記載の円筒部材の製造装置である。
【0011】
請求項5に係る発明は、外周面が離型性を有する円柱状の芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に樹脂による樹脂膜を形成する工程の前に、前記芯体の外周面の軸方向の両端部の内の、前記樹脂膜の成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化を判別し、離型性の劣化が判別されたときに、前記芯体の未劣化領域が軸方向の両端部に露出するように前記樹脂膜を成膜する、円筒部材の製造方法である。
【0012】
請求項6に係る発明は、外周面が離型性を有する円柱状の芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に樹脂による樹脂膜を形成する工程の前に、前記芯体の外周面の軸方向の両端部の内の、前記樹脂膜の成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化を判別し、離型性の劣化の判別に応じて、前記芯体の未劣化領域が軸方向の両端部に露出するように前記樹脂膜を成膜する、円筒部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2に係る発明によれば、本発明の構成を有さない場合に比べて、長期間に渡って芯体からの樹脂膜の容易な離脱が維持される、という効果を奏する。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、本発明の構成を有さない場合に比べて、簡易な構成で容易に樹脂膜の成膜位置が調整される、という効果を奏する。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、本発明の構成を有さない場合に比べて、簡易な構成で容易に樹脂膜の成膜位置が調整される、という効果を奏する。
【0016】
請求項5、6に係る発明によれば、本発明の構成を有さない場合に比べて、長期間に渡って芯体からの樹脂膜の容易な離脱が維持される、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態の円筒部材作製装置の一態様を模式的に示す構成図である。
【図2】(A)は、本実施の形態の円筒部材作製装置で用いられる芯体を示す模式図であり、(B)は、芯体上に塗膜が成膜された状態を示す模式図であり、(C)は、焼成された塗膜を離脱させる工程を示す模式図であり、(D)は、製造された円筒部材を示す模式図である。
【図3】円筒部材作製装置において、芯体が台座に設置された状態を示す模式図である。
【図4】台座に設置された芯体が成膜工程に以降するときに水平方向に向かって傾けられる状態を示す模式図である。
【図5】成膜部の構成を示す模式図であり、図6に示す模式図の断面図である。
【図6】成膜部の構成を示す模式図である。
【図7】芯体上に塗膜が成膜された状態を示す模式図である。
【図8】焼成部の構成を示す模式図である。
【図9】焼成された塗膜を離脱させる工程を示す模式図である。
【図10】円筒部材作製装置のCPUで実行される処理を示すフローチャートである。
【図11】(A)〜(C)図10に示す処理ルーチンが実行されることによって、芯体に成膜される塗膜が、芯体の軸方向中央部側へと変更されていく様子を示す模式図である。
【0018】
10 円筒部材作製装置
22 識別部
24A 回転駆動部
24B モータ
24C 供給部
26 焼成部
30 制御部
30A CPU
50 芯体
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態の円筒部材の製造装置10(以下、「円筒部材製造装置」と表現する。)は、円筒部材52(図2(D)参照)を製造するための装置である。
【0021】
円筒部材製造装置10で作製される円筒部材52は、無端の管状体であって、電子写真式複写機、レーザープリンター等における感光体、中間転写ベルト、中間転写体、搬送ベルト、帯電ロール、転写ロール、及び現像ロール等に好適に使用され、その用途機能等に応じて、材質、形状、大きさ等が適宜設定される。
【0022】
この円筒部材製造装置10では、図2(A)に示すように、まず芯体50を用意し、その外周面全面にわたって均一に離型剤を塗布して離型層51を形成する。これによって、芯体50の外周面が離型性を有する状態とする。
【0023】
次に、この芯体50の外周面に、樹脂溶液による塗膜52Aを成膜する(図2(B)参照)。そして、この塗膜52Aの成膜の後に、この塗膜52Aを所定の焼成温度で焼成する。そして、図2(C)に示すように、焼成された塗膜52Aの軸方向両端部から空気注入部材60によって空気を注入することによって、塗膜52Aと芯体50の外周面との間に隙間を形成した後に、焼成された塗膜52Aを芯体50から離脱させて引き抜くことによって、図2(D)に示すように円筒部材52が製造される。
【0024】
以下に、円筒部材製造装置10の構成を詳細に説明する。
【0025】
円筒部材製造装置10は、図1に示すように、円筒部材52を製造する円筒部材製造部20と、円筒部材製造部20を制御する制御部30と、を含んで構成されている。円筒部材製造部20は、識別部22、成膜部24、焼成部26、及び離脱部28を含んで構成されている。これらの識別部22、成膜部24、焼成部26、及び離脱部28は、制御部30に信号授受可能に接続されている。
【0026】
また、円筒部材製造装置10は、出力部23及び入力部21を備えている。これらの出力部23及び入力部21もまた、上記制御部30に信号授受可能に接続されている。
出力部23は、制御部30から入力された情報を外部へ提示するための出力装置であり、出力部23の一例には、CRTやLCD等の表示装置や、プリンタ等が含まれる。入力部21は、各種情報を入力するときに操作指示するときに用いられ、一例には、キーボード等がある。
【0027】
識別部22は、芯体50を識別するための識別情報を読み取る装置である。この識別部22としては、識別情報を読取り可能な装置であればよく、例えば、識別対象の識別情報の呈示形態がバーコードである場合にはバーコードリーダを用いれば良く、該呈示形態が文字や数字である場合には、文字認識機能と撮像部を備えた装置を用いれば良く、呈示形態に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
本実施の形態の円筒部材製造装置10では、図3に示すように、表面に離型層51の形成された芯体50を、台座40上に立てた状態で図示を省略する固定部材によって固定する。本実施の形態では、台座40は、3本の芯体50を固定する場合を説明するが、3本に限られない。また、図示は省略するが、円筒部材製造装置10には、このように複数の芯体50を固定した台座40が複数設置されている。
【0029】
この芯体50としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼等の金属が用いられる。なお、この芯体50の外周面は、この芯体50の外周面に形成される塗膜52Aの乾燥時に、該塗膜52A中に残留している溶剤や水などの複製物の影響によって塗膜52Aに腫れが生じることを抑制する観点から、粗面化されていることが望ましい。
【0030】
具体的には、外周面の算術平均粗さRaが0.2μm以上2.0μm以下の範囲に粗面化されていることが望ましい。芯体50の外周面が上記範囲内に粗面化されていると、芯体50上に形成された塗膜52Aの乾燥や焼成時に、塗膜52Aから生じる残留溶剤や水の蒸気が芯体50と塗膜52Aとの間のわずかな隙間を通って外部に放出される。このため、塗膜52Aに腫れが生じることが抑制される。
【0031】
この芯体50の外周面の粗面化の方法としては、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法がある。特に、塗膜52Aの内面を球状の凸形状にするために、芯体50の外周面には、球状の粒子を用いたブラスト処理を施すことが好ましい。球状の粒子を用いたブラスト処理は、直径0.1mm以上1mm以下程度のガラス、アルミナ、ジルコニア等からなる粒子を、圧縮した空気によって芯体に吹き付ける方法である。粒子として不定形のアルミナ粒子(例えば一般的な研磨粒子)を用いた場合には、芯体50の外周面の形状も不定形となり、特に鋭角の突起や窪みが形成されやすく、作製される円筒部材52の内周面にも鋭角の突起や窪みが形成されてしまうため好ましくない。
【0032】
そして、この芯体50の外周面には、円筒部材製造装置10の台座40に設置される前に、離型層51が形成された状態とされている。この離型層51は、芯体50の外周面全面にわたって均一に離型剤を塗布することで形成される。これによって、芯体50の外周面の全領域が離型性を有する状態となる。この離型剤としては、シリコーン系やフッ素系のオイルを変性して耐熱性を持たせたものが有効である。また、シリコーン樹脂の超微粒子を水に分散させた水系離型剤も用いられる。この離型層51の形成は、芯体50の外周面に離型剤を塗布し、溶剤を乾燥させてそのまま、或いは焼き付けて行われる。
【0033】
外周面に離型層51の形成された芯体50が設置された台座40には、台座40に設置された各芯体50を識別するための識別情報の記録された識別プレート22Aが、各芯体50に対応する位置に設けられている。識別プレート22Aには、本実施の形態では、各芯体50を識別するための識別情報として、バーコードが記録されている。
【0034】
この識別プレート22Aに記録された各バーコードは、各々対応する位置に設けられた識別部22によって読み取られる。なお、本実施の形態では、表面に離型層51の形成された芯体50を台座40に設置すると、図示を省略する搬送装置によって識別プレート22Aが識別部22によって読み取られる位置まで台座40が搬送されて、各芯体50の識別情報が識別部22によって読み取られる。
【0035】
成膜部24は、離型層51の形成された芯体50の外周面に、樹脂溶液52Bを塗布することによって、この芯体50の外周面に塗膜52Aを形成する装置である。台座40に設置された芯体50の識別情報が識別部22によって読み取られると、この識別情報を読み取られた芯体50は、図示を省略する駆動機構によって成膜部24に搬送される。例えば、台座40に設置された各芯体50は、図4に示すように軸方向が水平方向となるように倒されて(図4中、矢印A方向に倒されて)、図示を省略する駆動機構によって成膜部24に搬送される。
【0036】
成膜部24は、図1、図5、及び図6に示すように、供給部24C、芯体50を周方向に回転駆動する回転駆動部24A、及び供給部24Cを芯体50の軸方向に移動させるモータ24Bと、を含んで構成されている。これらの回転駆動部24A、モータ24B、及び供給部24Cは、制御部30に信号の授受が可能に接続されている。
【0037】
図5及び図6に示すように、供給部24Cは、芯体50の外周面に樹脂溶液52Bを供給する装置であって、貯留部25Bに貯留された樹脂溶液52Bを供給管25C及びノズル25Eを介して芯体50の外周面に供給する。この供給部24Cとしては、ディスペンサーが挙げられる。
【0038】
樹脂溶液52Bは、形成対象の円筒部材52を構成する材料を含む溶液である。この樹脂溶液52Bとしては、ポリイミドワニス、ポリイミド前駆体ワニス、または前記ポリイミドワニス若しくは前記ポリイミド前駆体ワニスに無機フィラーを含有させてなる無機フィラー含有ワニスが挙げられる。これらのワニスを樹脂溶液52Bとして用いると、ポリイミド樹脂から構成される円筒部材52が製造される。
【0039】
なお、本実施の形態では、樹脂溶液52Bには、上記ポリイミド系樹脂を用いる形態を説明するが、円筒部材52の構成材料の溶液であればよい。円筒部材52の構成材料としては、例えば、熱硬化性樹脂が望ましく、具体的には、上記ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、電子写真方式を用いた画像形成装置などにおける中間転写ベルト及び転写搬送ベルトに用いられる円筒部材52を製造する場合には、導電剤(無機フィラー)を含有する上記ポリイミド系樹脂が好適に用いられる。
【0040】
図5及び図6に示すように、成膜部24では、芯体50を、図示を省略する軸受によって軸中心に回転可能に支持する。この成膜部24において支持された状態の芯体50の近傍には、芯体50の軸方向に延伸され、該芯体50に間隔を空けて設けられた長尺状のレール34が設けられている。
【0041】
供給部24Cは、レール34の長手方向に移動可能に支持されたリニアガイド35に、ホルダ36を介して支持されている。このリニアガイド35には、上記モータ24Bが設けられている。モータ24Bは、制御部30に信号授受可能に接続されており、制御部30による制御信号によって駆動し、このモータ24Bの駆動によって供給部24Cが芯体50の軸方向の一端部から他端部に向かって移動する。
【0042】
本実施の形態では、レール34の長尺方向一端部には、開始位置決めのための開始位置決め34Aが設けられており、他端部には、終了位置決めのための終了位置決め34Bが設けられている。本実施の形態では、この開始位置決め34Aは、該開始位置決め34Aにリニアガイド35が到達したときに、供給部24Cのノズル25Eの位置が芯体50の軸方向一端部の縁に対応する位置に配置されるように設けられている。また、終了位置決め34Bは、リニアガイド35が終了位置決め34Bの設置位置に到達したときに、供給部24Cのノズル25Eが芯体50の軸方向他端部の縁に対応する位置に配置されるように設けられている。
【0043】
このため、開始位置決め34Aから終了位置決め34Bの設置位置までリニアガイド35を移動させることで、供給部24Cは、芯体50の軸方向一端部の縁部に相当する位置から、芯体50の軸方向他端部の縁部に相当する位置まで移動される。
【0044】
成膜部24に設けられている回転駆動部24Aは、ギア32A、ギア32B、及びギア32Cを介して芯体50の回転軸に駆動力を伝達する。このため、制御部30の制御によって回転駆動部24Aが駆動されることで、芯体50は周方向(図5、図6中、矢印X方向)に回転される。
【0045】
このように構成された成膜部24では、回転駆動部24Aの駆動によって芯体50を周方向に回転させながら、供給部24Cから樹脂溶液52Bを芯体50の外周面に向かって樹脂溶液52Bを供給し、且つこの供給部24Cをモータ24Bによって芯体50の軸方向(図6中、矢印Y方向)に移動し、この供給部24Cと共に移動するブレード25Fによって表面を平滑化する。これによって、樹脂溶液52Bが、芯体50の外周面に供給されて、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜されることとなる。
【0046】
なお、成膜部24では、芯体50の外周面における軸方向一端部から他端部に渡る全領域にわたって樹脂溶液52Bを塗布するのではなく、芯体50の軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に、樹脂溶液52Bを塗布して塗膜52Aを成膜する。
【0047】
詳細には、図7に示すように、芯体50の外周面の全領域の内の、軸方向の両端部にあたる領域50Aより軸方向の中央部側の領域50Bを、樹脂溶液52Bの塗布対象の領域(以下、成膜対象領域とする)50Bとして樹脂溶液52Bを塗布することで、この成膜対象領域50B上に塗膜52Aを成膜する。このため、芯体50への塗膜52Aの成膜では、芯体50の軸方向の両端部には塗膜52Aの成膜されない領域が存在することとなる。ここで、両端部とは芯体の端部を含む部分を意味し、中央部は芯体の軸方向の中心(端部から芯体の長さの半分の位置)を意味する。
【0048】
これは、塗膜52Aの成膜時において、芯体50の外周面の全領域に渡って樹脂溶液52Bを供給すると、供給した樹脂溶液52Bが芯体50の端面に垂れてしまう事が懸念されるためと、成膜された塗膜52Aを後の工程で乾燥及び焼成させた後に芯体50から離脱させるときには塗膜52Aの両端部から空気を流入することで離脱させることから、芯体50の軸方向両端部に塗膜52Aの形成されていない領域が必要なためである。
【0049】
成膜部24では、塗膜52Aの成膜された芯体50について、この塗膜52Aの液だれを防止する目的で回転駆動部24Aの駆動によって周方向に回転させながら、塗膜52Aを液だれの発生しない状態まで溶剤を蒸発させることで塗膜52Aを乾燥する。なお、この乾燥処理は、焼成部26で行なうようにしてもよい。この場合には、焼成部26に芯体50を水平に維持したまま周方向に回転させる機構を設ければよい。
【0050】
成膜部24において、外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に塗膜52Aが形成されて、乾燥によって液だれの発生しない状態とされた芯体50は、図示を省略する搬送機構によって、再び台座40に立てた状態で固定される(図8参照)。このとき、各芯体50は、各芯体50の識別情報の記載された識別プレート22Aに対応する位置に設置されるように、図示を省略する搬送機構によって搬送される。
【0051】
焼成部26は、成膜部24によって塗膜52Aが形成されて液だれの発生しない状態とされて台座40に固定された芯体50を、所定の焼成温度の環境下に保持することによって、塗膜52Aを焼成する。この焼成部26による塗膜52Aの焼成条件は、焼成部26に設けられた焼成条件の調整部(以下、焼成条件調整部と表現する。)26Aによって調整される。この焼成条件調整部26Aは、制御部30に信号の授受が可能に接続されており、制御部30による焼成条件調整部26Aの制御によって、塗膜52Aの材質等に応じて焼成環境が調整される。
【0052】
焼成部26によって加熱焼成の環境下に放置されることで塗膜52Aを焼成された芯体50は、離脱部28において、焼成された塗膜52Aを離脱される。これによって円筒部材52が製造される。図9に示すように、離脱部28には、空気を高圧で吹き出す空気注入部材60が設けられており、空気注入部材60から焼成された塗膜52Aの両端部と芯体50の外周面との隙間に空気が流入されることによって、焼成された塗膜52Aと芯体50の外周面との間に空気が流入されて、焼成された塗膜52Aが芯体50から離脱される。
【0053】
円筒部材製造装置10では、上記の、成膜部24における樹脂溶液52Bの塗布による塗膜52Aの成膜、焼成部26における加熱焼成、及び離脱部28における焼成された塗膜52Aの芯体50からの離脱、の一連の処理が実行されることによって円筒部材52が製造される。そして、この一連の処理が繰り返し実行されることによって、円筒部材52が次々に製造されることとなる。
【0054】
ここで、上述のように、芯体50の外周面には離型層51が設けられており、芯体50の外周面には離型性が付与されている。芯体50の外周面が離型性を有する状態とされていることで、この芯体50の外周面に成膜された後に焼成され塗膜52Aは、この塗膜52Aの軸方向両端部と芯体50の外周面との間に空気が流入されることで、芯体50から好適に離脱される。
【0055】
しかしながら、上述のように、円筒部材52の製造工程においては、円筒部材52の離脱性や樹脂溶液52Bが芯体50の端部に垂れることを抑制する観点から、芯体50の軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に塗膜52Aが形成される。そして、焼成部26においては、この塗膜52Aを焼成するために、芯体50もまた焼成の環境下に置かれることとなる。このため、芯体50の塗膜52Aの形成されていない領域(図7中、領域50A)もまた、塗膜52Aとともに高温の雰囲気中にさらされることとなり、この露出した領域50Aの離型性の劣化が、塗膜52Aによって覆われた領域(成膜対象領域50B)より早くなる。従って、離脱部28において、焼成された塗膜52Aの軸方向両端部と芯体50の外周との間に空気を流入しても、この芯体50の外周面における軸方向両端部の、塗膜52Aに連続する領域の離型性が劣化していると、塗膜52Aが芯体50の外周面に貼り付いて離脱することが困難となる場合があった。
【0056】
なお、芯体50の外周面の離型性を回復させるために、所定の期間毎に芯体50に離型剤を再び塗布して焼き付けることで、離型性を回復させる方法も考えられるが、この方法では離型性の回復のために多大な工数が必要となる。また、このような離型性の回復処理により、円筒部材の製造装置10において芯体50が不足することを補完するために、芯体50を余分に用意する必要があった。
【0057】
そこで、本実施の形態の円筒部材製造装置10では、制御部30において、芯体50の外周面における軸方向の両端部の内の、塗膜52Aの成膜対象の領域に連続する領域の離型性の劣化を判別したときには、芯体50の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して塗膜52Aが成膜されるように、成膜部24を制御する。この制御によって、常に芯体50の軸方向の両端部に未劣化領域が露出した状態となるように、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜されることとなり、焼成された塗膜52Aの芯体50からの離脱の容易な離脱が長期間に渡って維持されることとなる。
【0058】
以下、この制御部30で実行される制御について詳細に説明する。
【0059】
制御部30は、円筒部材製造装置10の装置各部を制御する。この制御部30は、上述のように、識別部22、回転駆動部24A、モータ24B、焼成条件調整部26A、及び離脱部28に信号の授受が可能に接続されている。制御部30は、CPU(中央処理装置)30A及びメモリ30Bがバスを介して接続された構成とされている。
【0060】
メモリ30Bには、後述する処理ルーチン(図10参照)、劣化判断テーブル、円筒部材製造回数情報テーブル、樹脂溶液52Bの塗布開始位置を示す開始位置情報、樹脂溶液52Bの塗布終了位置を示す終了位置情報、及び各種データが予め記憶されていると共に、各種データを記憶する。
【0061】
この劣化判断テーブルは、芯体50の外周面の劣化の判断基準を定めたテーブルであって、芯体50への円筒部材の製造回数を示す円筒部材製造回数情報と、劣化を示す劣化情報または未劣化を示す未劣化情報と、を予め対応づけたテーブルである。
この芯体50への円筒部材製造回数とは、円筒部材製造装置10において芯体50に行なわれる、成膜部24における樹脂溶液52Bの塗布による塗膜52Aの成膜、乾燥、焼成部26における加熱焼成、及び離脱部28における円筒部材52の芯体50からの離脱、の一連の処理(以下、円筒部材製造処理と称する)を1回としてカウントしたときの、回数を示している。
【0062】
劣化情報とは、芯体50の外周面の軸方向の両端部における、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化した劣化状態にあることを示す情報である。未劣化情報とは、芯体50の外周面の軸方向の両端部における、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化していない未劣化状態にあることを示す情報である。
【0063】
この劣化情報及び未劣化情報は、離型層51の形成された芯体50について、予め上記円筒部材製造処理の実行回数(円筒部材製造回数)毎に、該芯体50の外周面における塗膜52Aの成膜されていない領域が未劣化状態にあるか劣化状態にあるかを判別しておく。そして、この判別結果を予め円筒部材製造回数情報に対応づけて上記劣化判断テーブルに記憶しておけばよい。
【0064】
この劣化及び未劣化の判別は、例えば、離型層51の形成された芯体50について、予め上記円筒部材製造処理の実行回数毎に、該芯体50の外周面における塗膜52Aの成膜されない領域について水の接触角を測定し、25℃50%RHの環境下における水の接触角が10°以下であると、離型性が「劣化」した状態にあると判別し、10°を超えていると、離型性は「未劣化」の状態にあると判別する。そして、この判別結果を、上記処理回数情報に対応づけて記憶すればよい。
【0065】
なお、この水の接触角は、共和界面科学(株)製の自動接触角計DM500を用い、25℃50%RHの環境下で、純水を芯体50の外周面における測定対象領域の表面に焼く3.1μl滴下し、15秒後の水滴の一端、他端、頂角の座標を画像処理によって求め、計算された水滴の直径(2r)、高さ(h)から、以下の式により水の接触角Wを求めた。なお、式中、rは、該水滴の半径(r)を示している。
式:W=2tan−1(h/r)
【0066】
例えば、劣化判断テーブルとしては、表1に示すテーブルが予めメモリ30Bに記憶される。
【0067】
【表1】

【0068】
なお、本実施の形態では、水の接触角が10°以下であると離型性が劣化した状態にあり、10°を超えていると離型性が未劣化であると判別するが、この接触角は、塗膜52Aとしてポリイミド樹脂被膜を用い、且つ芯体50上に離型層51としてシリコーン系離型剤またはフッ素系離型剤を材料とする離型層51を0.05μmの厚み(一度も円筒部材製造処理が行なわれていない状態のときの厚み)に形成したときの判断条件である。このため、塗膜52Aの構成材料や離型層51の構成材料に応じて、離型性劣化の判断基準角度を変更してもよく、10°に限られない。
【0069】
塗膜52Aの構成材料や離型層51の構成材料に応じて判断基準を変更する場合には、各塗膜52Aの構成材料、及び離型層51の構成材料毎に、上記劣化判断テーブルを予め求めてメモリ30Bに記憶しておけばよい。そして、後述する図10に示す処理ルーチンの実行前に、円筒部材52形成に用いる芯体50の外周面に形成されている離型層51の材料、及び塗膜52Aの構成材料を示す情報の入力を促す情報を出力部23に表示してこれらの情報の入力を促し、これらの情報が入力部21から入力されたときに、対応する劣化判断テーブルを読取り、下記図10に示す処理ルーチンで用いればよい。
【0070】
円筒部材製造回数の情報テーブルは、芯体50を識別するための識別情報と、円筒部材製造回数を示す円筒部材製造回数情報と、を対応づけて記憶したテーブルである。この円筒部材製造回数情報は、対応する芯体50において上記一連の円筒部材製の造処理が実行される度に、CPU30Aによってカウントアップされる。
【0071】
なお、この円筒部材製造回数の情報テーブルに記憶されている円筒部材製造回数情報は、対応する識別情報によって識別される芯体50について、外周面の全領域に渡って離型性の回復された状態とする離型性回復処理が施された場合には、円筒部材製造回数を「0」にしてリセットすればよい。この円筒部材製造回数のリセットは、例えば、対応する芯体50について離型性回復処理を行なう時に、ユーザによる入力部21からの情報入力によって「0」にリセットされるようにしてもよいし、円筒部材製造装置10に、別途離型性回復処理機構を設けて、該離型性回復処理機構による離型性回復処理が実行されると、離型性回復処理を行なった芯体50の識別番号に対応する円筒部材製造回数を「0」に書き換える処理を、CPU30Aにおいて実行するようにしてもよい。
【0072】
この離型性回復処理としては、例えば、芯体50の外周面に再度離型剤を塗布して離型層51を形成して焼成する処理が挙げられる。
【0073】
樹脂溶液52Bの塗布開始位置を示す開始位置情報とは、芯体50への樹脂溶液52Bの塗布開始位置を示す情報である。樹脂溶液52Bの塗布終了位置を示す終了位置情報とは、芯体50への樹脂溶液52Bの塗布終了位置を示す情報である。これらの開始位置情報及び終了位置情報は、芯体50を識別する識別情報に対応づけて予めメモリ30Bに記憶されている。
【0074】
この塗布開始位置としては、例えば、図11(A)に示すように、芯体50の軸方向一端部から距離aの位置を示す情報が予め記憶され、塗布終了位置としては、該軸方向一端部から距離bの位置を示す情報が予め記憶されているものとする。
【0075】
この距離a及び距離bは、上記に説明したように、芯体50の軸方向の両端部より軸方向の中央部側の位置とされることによって、少なくとも芯体50の軸方向の両端部に塗膜52Aの塗布されない領域が形成されるように定められていれば良く、形成対象の円筒部材52の幅(軸方向長さ)や芯体50の軸方向長さに応じて定めればよい。
【0076】
なお、この距離a及び距離bの値は、後述する処理ルーチンによって上書きされることとなる。
【0077】
制御部30のCPU30Aでは、芯体50が台座40に固定されて、図示を省略する指示ボタンがユーザによって操作されることで円筒部材製造処理開始を示す指示信号が入力されると、図10に示す処理ルーチンが実行されてステップ100へ進む。
【0078】
ステップ100では、成膜処理対象の芯体50の識別情報を読み取る。ステップ100では、識別部22から入力された芯体50の識別情報を示す信号を読み取ることによって、成膜処理対象の芯体50の識別情報を読み取る。
【0079】
次のステップ102では、上記ステップ100で読み取った識別情報に対応する円筒部材製造回数情報を、メモリ30Bに記憶されている円筒部材製造回数情報テーブルから読み取る。
【0080】
次のステップ104では、上記ステップ100で読み取った識別情報に対応する芯体50について、外周面における軸方向の両端部の内の塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化しているか否かを判別する。ステップ104の判断は、メモリ20Bに記憶されている劣化判断テーブルにおける、上記ステップ102で読み取った円筒部材製造回数情報に対応する劣化または未劣化を示す情報が、劣化情報であるか否かを判別することによって行なわれる。
【0081】
例えば、劣化判断テーブルとして表1に示す劣化判断テーブルが定められているとし、上記ステップ102で読み取った円筒部材製造回数情報が50回を示す情報である場合には、離型性が劣化していると判断し、該円筒部材製造回数が49回以下を示す情報である場合には、離型性が未劣化であると判断する。
【0082】
ステップ104で否定され、すなわち、処理対象の芯体50について、外周面における軸方向の両端部の内の塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が未劣化である場合には、後述するステップ110へ進む。
【0083】
一方、ステップ104で肯定され、すなわち、処理対象の芯体50について、外周面における軸方向両端部の内の塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化していると判別すると、ステップ106へ進む。
【0084】
ステップ106では、芯体50の樹脂溶液52Bの塗布開始位置及び塗布終了位置が、前回の塗布開始位置及び塗布終了位置より、軸方向の中央部側となるように、塗布開始位置及び塗布終了位置を変更する。
詳細には、ステップ106では、上記ステップ100で読み取った識別情報に対応する開始位置情報及び終了位置情報を読み取り、読み取った開始位置情報及び終了位置情報によって示される塗布開始位置及び塗布終了位置が、各々の位置より芯体50の軸方向の中央部側となるように変更する。
【0085】
例えば、メモリ30Bに記憶されている、ステップ100で読み取った識別情報に対応する開始位置情報が、図11(A)に示すように芯体50の軸方向端部から距離aの位置であったとすると、距離aより芯体50の軸方向の中央部側に距離a’ずれた距離であるa1が、塗布開始位置となるように開始位置情報を変更する。同様に、ステップ100で読み取った識別情報に対応する終了位置情報が、図11(A)に示すように芯体50の軸方向の端部から距離bの位置であったとすると、距離bより芯体50の軸方向の中央部側に距離b’ずれた距離であるb1が、塗布終了位置となるように終了位置情報を変更する。
なお、この調整距離a’及びb’は、焼成された塗膜52Aを芯体50から良好に離脱させるために必要な、離型性を有する領域の距離であればよく、離型層51の材質や塗膜52Aの材料に応じて予め定めておけばよい。
【0086】
次のステップ108では、上記ステップ106で変更した塗布開始位置を示す開始位置情報、及び塗布終了位置を示す終了位置情報を、上記ステップ100で読み取った識別情報に対応づけてメモリ30Bに上書き記憶する。これによって、メモリ30Bに記憶されていた、該識別情報に対応する開始位置情報及び終了位置情報が書き換えられる。
【0087】
上記ステップステップ104〜ステップ108の処理によって、芯体50の外周面の軸方向の両端部の内の、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が未劣化であると判別されたときには、樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置は、前回の樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置のまま変更されない。
一方、芯体50の外周面の軸方向両端部の内の、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化が判別されたときには、樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置が、前回の樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置より軸方向の中央部側となるように、開始位置及び終了位置が変更される。
【0088】
次のステップ110では、上記ステップ100で読み取った識別情報に対応する、塗布開始位置及び塗布終了位置を示す、開始位置情報及び終了位置情報をメモリ30Bから読み取る。
【0089】
次のステップ112では、上記ステップ110で読み取った識別情報、開始位置情報、終了位置情報、及び成膜開始の指示を示す指示情報を含む成膜開始指示信号を、成膜部24へ出力する。
【0090】
成膜開始指示信号を受け付けた成膜部24では、回転駆動部24Aの駆動によって芯体50を周方向に回転させながら、供給部24Cから樹脂溶液52Bを芯体50の外周面に向かって樹脂溶液52Bを供給し、且つこの供給部24Cをモータ24Bによって芯体50の軸方向(図6中、矢印Y方向)に移動し、この供給部24Cと共に移動するブレード25Fによって平滑にする。
【0091】
詳細には、成膜開始指示信号に含まれる開始位置情報及び終了位置情報を受け付けたモータ24Bは、受け付けた成膜指示信号に含まれる開始位置情報の成膜開始位置から、終了位置情報の成膜終了位置まで供給部24Cを芯体50の軸方向に移動させる。また、この成膜開始指示信号を受け付けた回転駆動部24Aは、芯体50の周方向への回転駆動を開始する。
CPU30Aでは、モータ24Bの駆動によって供給部24Cが成膜開始位置に到達したことを示す信号を受け付けるようにし、該信号を受け付けたときに、供給部24Cに供給開始を示す信号を出力する。そして、供給部24Cでは、該供給開始を示す信号を受け付けたときに、図示を省略する弁を解放して樹脂溶液52Bの供給を開始する。また、CPU30Aでは、モータ24Bの駆動によって供給部24Cが成膜開始位置から移動して成膜終了位置に到達したときに、該成膜終了位置に到達したことを示す信号を受け付けるようにし、該信号を受け付けたときに、供給部24Cに供給終了を示す信号を出力する。この供給終了を受け付けた供給部24Cは、図示を省略する弁を閉鎖して樹脂溶液52Bの供給を停止する。
【0092】
すなわち、このステップ112の処理によって、芯体50の外周面には、上記ステップ110で読み取った塗布開始位置から塗布終了位置まで樹脂溶液52Bが塗布されて、塗膜52Aが成膜される。
この塗布開始位置及び塗布終了位置は、上記ステップ104〜ステップ108の処理によって、芯体50の外周面の軸方向の両端部の内の塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が未劣化である場合には、樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置は、前回の樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置のまま変更されていない値であり、劣化している場合には、前回の樹脂溶液52Bの供給開始位置及び供給終了位置より軸方向の中央部側となるように変更された値である。
このため、ステップ112処理によって、芯体50の外周面における軸方向の両端部の内の塗膜52Aに連続する領域に、離型性が未劣化の領域が常に露出するように、塗膜52Aが成膜されることとなる。
【0093】
次のステップ114では、上記ステップ112の塗膜52Aの成膜処理が終了するまで否定判断を繰り返し、肯定されるとステップ116へ進む。ステップ114の判断は、例えば、モータ24Bの駆動によって供給部24Cが成膜開始位置から移動して成膜終了位置に到達したことを示す信号を受け付け、さらに該信号を受け付けたときに供給部24Cに供給終了を示す信号を出力したときに、肯定判断すればよい。
【0094】
成膜部24において、外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に塗膜52Aが形成されて、上記で説明した乾燥処理が施されることによって液だれの発生しない状態とされた芯体50は、図示を省略する搬送機構によって、再び台座40に固定される(図8参照)。このとき、各芯体50は、各芯体50の識別情報の記載された識別プレート22Aに対応する位置に設置されるように、図示を省略する搬送機構によって搬送される。
【0095】
次のステップ116では、塗膜52Aの焼成条件を示す条件信号と、乾燥焼成開始を示す開始信号と、を含む焼成開始信号を、焼成部26へ出力する。
【0096】
該焼成開始信号を受け付けた焼成部26の焼成条件調整部26Aでは、該焼成開始信号に含まれる条件信号によって示される焼成条件となるように焼成環境を調整し、塗膜52Aの焼成を実行する。
【0097】
次のステップ118では、焼成部26による塗膜52Aの焼成が終了するまで否定判断を繰り返し、肯定されるとステップ120へ進む。ステップ118の判断は、焼成部26において焼成が終了したときに終了信号を受け付けるようにし、該終了信号を受け付けたときに肯定判断すればよい。
【0098】
この焼成部26によって焼成の環境下に放置されることで焼成された塗膜52Aは、離脱部28において、塗膜52Aの軸方向の両端部から空気を流入されることによって芯体50から離脱される。これによって円筒部材52が製造される。
【0099】
次のステップ120では、上記一連の円筒部材製造処理の行なわれた芯体50の識別情報を識別部22から読み取る。ステップ120では、台座40上の各芯体50に対応する位置に設けられた識別プレート22Aに対応する位置に設けられた各識別部22に、読取り指示を示す信号を出力し、各識別部22から受け付けた識別情報を受け付けることで、芯体50の識別情報を読み取る。
【0100】
次のステップ122では、メモリ30Bに記憶されている円筒部材製造回数情報テーブルの、上記ステップ122で読み取った識別情報に対応する円筒部材製造回数を1つカウントアップする。
【0101】
次のステップ124では、円筒部材の製造処理を終了するか否かを判別し、否定されると上記ステップ100へ戻り、肯定されると本ルーチンを終了する。ステップ124の判断は、例えば、入力部21から処理終了を示す信号が入力されたときに肯定判断するようにしてもよいし、予めメモリ30Bに連続して円筒部材の製造処理を行なう処理回数を記憶しておいて、上記ステップ100〜ステップ122の処理が実行される度に該処理回数を0から1つづつカウントアップするようにし、カウントアップ後の処理回数が、予め記憶した処理回数と一致したときに、肯定判断するようにしてもよい。
【0102】
上記ステップ100〜ステップ124の処理が実行されることによって、図11(A)に示すように、芯体50の外周面における軸方向の両端部の塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が未劣化のときには、該軸方向の両端部より軸方向の中央部側の所定位置に塗膜52Aが成膜される。そして、一連の円筒部材の製造処理が繰り返し実行されることによって、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化すると(図11(A)(B)中、領域51A参照)、離型性が未劣化の領域(図11(A)(B)中、領域51B)が塗膜52Aの軸方向両端部の連続する領域に露出するように塗膜52Aの塗布開始位置及び塗布終了位置が軸方向の中央部側に変更される。このため、図11(B)に示すように、芯体50の軸方向両端部に未劣化領域(図11中、未劣化領域51B)が露出した状態となるように、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜される。
【0103】
また、更に一連の円筒部材の製造処理が繰り返し実行されることによって、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性が劣化すると、離型性が未劣化の領域が塗膜52Aの軸方向の両端部の連続する領域に露出するように塗膜52Aの塗布開始位置及び塗布終了位置が更に軸方向の中央部側に変更される。このため、図11(C)に示すように、芯体50の軸方向両端部に未劣化領域(図11(C)中、未劣化領域51B)が露出した状態となるように、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜される。
【0104】
以上説明したように、本実施の形態の円筒部材製造装置10によれば、芯体50の外周面における軸方向の両端部の内の、塗膜52Aの成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化が判別されたときには、芯体50の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して塗膜52Aが成膜されるように、成膜部24を制御する。
従って、常に芯体50の軸方向の両端部に未劣化領域が露出した状態となるように、該芯体50の外周面に塗膜52Aが成膜されることとなり、焼成された塗膜52Aの芯体50からの離脱の容易な離脱が長期間に渡って維持されることとなる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例および比較例を示して、具体的に説明する。但し、特にこれらに限定されるものではない。
【0106】
(実施例1)
芯体50として、内径Φ278mm、長さ980mm、厚み5.8mmのステンレス管を準備し、外周面をRa0.45μmとなるようにブラスト加工した。この芯体50の表面を脱脂した後、信越化学工業(株)製シリコン系離型剤セパコートとヘプタンの混合液を塗布し、420℃で2時間焼き付けた。さらに、芯体50が十分冷めた後にもう一度、前記した離型剤とヘプタンの混合液を塗布し、今度は330℃で1時間焼き付けた。これによって、芯体50の外周面に離型層51を形成して離型性をもたせて、外周面が離型性を有する芯体50を調整した。
【0107】
上記調整した芯体50を用いて、図1、図3、図5、図6、図8、図9に示す円筒部材製造装置10において、図10に示す処理ルーチンを実行させて、円筒部材の製造処理を実行した。
【0108】
なお、成膜部24では、樹脂溶液52Bとして、25℃での粘度が50Pa・sのPI前駆体溶液(商品名:Uイミド、ユニチカ製)にカーボンを80重量部分散させた混合液を用いた。また、成膜部24における成膜条件は、供給部24Cとしてはモーノポンプを用いて、直径(内径)2mm長さ10mmのノズルから樹脂溶液52Bを芯体50の外周面に供給した。また、芯体50の回転駆動部24Aによる回転速度は50rpmとし、モータ24Bによる供給部24Cとブレード25Fの移動速度(芯体50の軸方向への移動速度)は135mm/分とした。
【0109】
また、成膜部24における塗布開始位置及び塗布終了位置は、各々、芯体50の一端部から55mmの距離、925mmの距離とした。すなわち、図11(A)における距離aを55mmの距離とし、距離bを925mmとした。これらの開始位置情報及び終了位置情報を、芯体50の識別情報に対応づけてメモリ30Bに予め記憶した。
【0110】
なお、成膜部24において塗膜52Aが成膜された後には、水平状態の芯体50を回転駆動部24Aの駆動によって10rpmで回転させながら145℃の加熱装置に入れて15分間放置した後に、温度を155℃に変更して更に12分間乾燥させた。また、焼成部26においては、台座40に芯体50を垂直に設置した状態で、200℃、250℃、280℃、315℃でそれぞれ30分間ずつ昇温加熱することで、ポリイミド樹脂からなる塗膜52Aを焼成した。
【0111】
さらに、劣化判断テーブルとしては、表1に示すテーブルを用いた。
【0112】
さらに、塗布開始位置及び塗布終了位置を、芯体50の軸方向中央部側にずらす距離としては、各々3mmとした。すなわち、図11(B)における距離a’及び距離b’を3mmとした。これらの情報を予めメモリ30Bに記憶した。
【0113】
上記構成とした本実施例1の円筒部材製造装置10について、図10に示す処理ルーチンを実行したところ、成膜部24における樹脂溶液52Bの塗布による塗膜52Aの成膜、焼成部26における加熱焼成、及び離脱部28における円筒部材52の芯体50からの離脱、の一連の処理である円筒部材の製造処理を135回連続して行なった。その結果、各処理回数毎に製造された円筒部材52の全てについて、良好に芯体50からの焼成された塗膜52Aの離脱が確認された。
【0114】
(比較例1)
上記実施例1の円筒部材製造装置10で実行される図10に示す処理ルーチンにおいて、ステップ104〜ステップ108の処理を行なわず、塗布開始位置及び塗布終了位置の変更を行なわないようにプログラムを変更して、円筒部材の製造処理を実行させた以外は、実施例1と同じ条件で円筒部材の製造処理を行なった。
そして、成膜部24における樹脂溶液52Bの塗布による塗膜52Aの成膜、焼成部26における加熱焼成、及び離脱部28における円筒部材52の芯体50からの離脱、の一連の処理である円筒部材の製造処理を135回連続して行なった。
その結果、1回〜49回の処理において製造された円筒部材52については、焼成された塗膜52Aの芯体50からの良好な離脱が確認された。しかしながら、50回以降の処理において製造された円筒部材52については、塗膜52Aの芯体50外周面への貼り付きが発生し、芯体50から抜き取ることが出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面が離型性を有する円柱状の芯体と、
前記芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に、樹脂による樹脂膜を成膜する成膜装置と、
前記成膜装置によって前記樹脂膜が成膜される前に、前記芯体の外周面における軸方向の両端部の内の、該樹脂膜の成膜対象の領域に連続する領域の離型性の劣化を判別する判別装置と、
前記判別装置によって離型性の劣化が判別されたときに、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように、前記成膜装置を制御する制御装置と、
を備えた円筒部材の製造装置。
【請求項2】
外周面が離型性を有する円柱状の芯体と、
前記芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に、樹脂による樹脂膜を成膜する成膜装置と、
前記成膜装置によって前記樹脂膜が成膜される前に、前記芯体の外周面における軸方向の両端部の内の、該樹脂膜の成膜対象の領域に連続する領域の離型性の劣化を判別する判別装置と、
前記判別装置の判別に応じて、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように、前記成膜装置を制御する制御装置と、
を備えた円筒部材の製造装置。
【請求項3】
前記成膜装置は、
前記芯体を周方向に回転させる回転装置と、
前記回転装置によって回転された前記芯体の外周に前記熱硬化性樹脂を供給する供給装置と、
前記供給装置及び前記芯体の少なくとも一方を該芯体の軸方向に相対移動させる移動装置と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円筒部材の製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記判別装置によって離型性の劣化が判別されたときに、
前記供給装置によって前記芯体の外周面に供給される前記樹脂の供給開始位置及び供給終了位置が、前回の供給開始位置及び前回の供給終了位置より軸方向の中央部側となるように前記移動装置を制御することによって、前記芯体の外周面における離型性の未劣化領域が軸方向の両端部に露出して前記樹脂膜が成膜されるように前記成膜装置を制御することを特徴とする請求項3に記載の円筒部材の製造装置。
【請求項5】
外周面が離型性を有する円柱状の芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に樹脂による樹脂膜を形成する工程の前に、前記芯体の外周面の軸方向の両端部の内の、前記樹脂膜の成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化を判別し、離型性の劣化が判別されたときに、前記芯体の未劣化領域が軸方向の両端部に露出するように前記樹脂膜を成膜する、円筒部材の製造方法。
【請求項6】
外周面が離型性を有する円柱状の芯体の外周面における軸方向の両端部より軸方向の中央部側の領域に樹脂による樹脂膜を形成する工程の前に、前記芯体の外周面の軸方向の両端部の内の、前記樹脂膜の成膜対象領域に連続する領域の離型性の劣化を判別し、離型性の劣化の判別に応じて、前記芯体の未劣化領域が軸方向の両端部に露出するように前記樹脂膜を成膜する、円筒部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−221630(P2010−221630A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73781(P2009−73781)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】