説明

円錐角膜または角膜拡張症の治療における角膜架橋結合のためのリボフラビンと会合しうるエンハンサー並びに対応する眼用組成物の使用

角膜架橋結合を利用する円錐角膜またはその他の角膜拡張疾患の治療で使用するリボフラビンと会合させることが可能なエンハンサーの使用および関連組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋結合による、円錐角膜またはその他の拡張角膜疾患の治療の実践における角膜上皮(非上皮化)の除去にまで進行する必要なく角膜基質(ストローマ)を吸収するように設計されたリボフラビンを含んでいるであろう眼用組成物(特に洗眼剤)の調整のためのエンハンサーの使用に関する。本発明は角膜架橋結合技術のための眼用組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、一般的に10歳から20歳の若者の10万人中約50人が罹患する非炎症性進行性ジストロフィーであるため、円錐角膜は角膜の重篤な疾患である。円錐角膜は女性においてより高い頻度で発生する遺伝性疾患であり、内分泌腺(脳下垂体および甲状腺)の機能異常に関連するようである。約85%が両眼に発生し患者によって異なる症状変化を有する。
【0003】
この疾患の発症で、角膜の屈折力を変化させる不規則な曲率が現れ、画像の歪みと不明確な接近および遠方視力をもたらす。患者は全ての距離の視力において視力低下を訴える。視力は非可逆的に退行し続け、結果的に眼鏡を頻繁に変えることが必要となり、このため、当初は乱視に関連する近眼と間違えられる。
【0004】
この疾患による角膜基質の先天性構造的虚弱のため、数年後、角膜は進行的に磨耗し頂点に向かって薄くなる。その後に角膜の不規則な曲率が発生し、その球形状を失い、特徴的な円錐形(円錐角膜)に変化する。
【0005】
生体顕微鏡を使用すると、円錐角膜の上部で角膜厚の相当な減少が確認されるであろう。やがて、円錐角膜の上部は角膜のその部分の養分変性のために不透明となり、最も急性な場合には62D以上の角膜曲率を形成して446μmもの角膜厚となることがある。
【0006】
この疾患が見過ごされると上部が潰瘍化してやがて角膜の孔質化を招き、痛みが生じ、流涙と眼瞼の痙縮をもたらす。円錐角膜による角膜のこれらの変化は角膜蛋白質の分布変化をもたらし、さらなる画像の歪みをもたらす微小傷を引き起こし、場合によっては光の通過を阻害し、特に太陽が水平線にあるとき(日の出および日の入り)やっかいな眩惑感覚を引き起こす。
【0007】
既に説明したように、視力を矯正するために眼鏡を頻繁に変えることが必要となる。眼鏡が合わないときのみ、ハードコンタクトレンズが利用される。
【0008】
円錐角膜に侵された角膜が相当程度薄化するか、または角膜表面の裂傷にともなって瘢痕化すると角膜の外科的移植を必要とする。
【0009】
2002年、円錐角膜の治療のためにイタリアにいわゆる層状角膜移植法が導入され、実際には角膜全体ではなく、外側の層のみ、すなわち侵された部分が取り替えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、すでに1997年にドイツで、ドレスダのカール・グスタウ・カルス大学の眼科では、新規な安全性が向上し、侵襲性が弱まった、紫外線レーザによって活性化された特定のリボフラビンを利用する技術が開発され、“円錐角膜架橋結合”と命名された。2005年にこの技術はイタリアでも試験され、現在多くのイタリアの眼科で成功的に広く行なわれている。
【0011】
角膜架橋結合は、紫外線レーザ(366nm)によって活性化されたリボフラビンを使用する低侵襲性の方法である。この方法は無痛でデイ・ホスピタル(昼間通院)で行なわれる。架橋結合は円錐角膜に侵された角膜構造を織り込み法によって強化し、角膜コラーゲンの線維間の連結(架橋結合)を増加させる。実施された臨床研究から、この方法は円錐角膜に関連する乱視を減少させ、円錐角膜の進行を遅らせるか停止させることで角膜移植の必要性を回避させる。角膜拡張症状によって特徴付けられるその他の疾患もこの架橋結合方法の恩恵を受ける。
【0012】
角膜架橋結合は、8ミリから9ミリの径を有する角膜上皮(非上皮化)の摩滅部を形成するための角膜の局所麻酔を実行することで実施される。0.1%のリボフラビンを基剤とする眼用溶液の頻繁な滴下注入が続き、15分後、紫外線(UV‐A)放射器で5分間照射し、その後に新規な滴下注入と新規な照射が続き、トータルで6サイクル(30分間)実施する。
【0013】
リボフラビン、特に角膜架橋結合に一般的に用いられるリン酸リボフラビンは、上皮通過拡散性を殆ど有しない親水性の光感作性(及び感光性)兼光重合性の分子であり角膜基質に到達する。したがって、UV−A照射開始前に、角膜上皮(非上皮化)の除去によってその吸着をさせ、角膜基質の完全な吸収が必要である。この手法は眼科医にとって困難な処置であることに加えて、稀ではあるが、角膜合併症および痛みを伴う。
【0014】
したがって、角膜の上皮除去に頼らずにリボフラビンの吸収を向上させ、麻酔の必要性を排除させるか、または減少させ、非侵襲性な角膜架橋結合、並びに痛みが無く複雑でもないスピーディーな治療法が望まれている。
【0015】
加えて上皮の吸収を容易にし、リボフラビンと等しいかこれより高い、コラーゲン線維の光感作性(及び感光性)兼光重合性を提供する化合物の利用が求められている。これらの化合物は、リボフラビンの活性に必要なUV照射の反復による有害な影響を排除するため、好適には可視光近辺の光線で活性化される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、これは以下から選択されるエンハンサーを含む眼用組成物を角膜に投与することが非常に有効であることが発見された。
【0017】
例えば、EDTA、ナトリウムEDTA,カリウムEDTA、ポリソルベート80、トロメタミン、アゾン、塩化ベンズアルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、ラウリン酸、メントール、メトキシサルチレート、ポリオキシエチレン、グリコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、サルチル酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、等々のバイオエンハンサー(すなわち、リボフラビン又はほかの光感作性(及び感光性)兼光重合物質の角膜上皮の通過を補助し、角膜基質自体による吸収を可能にする物質)および/または
例えば、アクリジンイエロー、キニジンイエロー、メチレンブルー、およびエリトロシンなどの染料のごときフォト(光)エンハンサー(すなわち、上皮によって容易に吸収され、リボフラビンのように角膜架橋結合の形成を光によって活性化される光感作性(及び感光性)兼光重合物質)であり、これらの構造は次の通りである。
アクリジンイエロー:
有用な吸収部:460nm
【化1】


キニジンイエロー
【化2】


メチレンブルー
有用な吸収部:668nm
【化3】


エリトロシンB
2’、4’、5’、7’‐テトラヨードフルオレセイン2ナトリウム塩
有用な吸収部:525nm
【化4】


分子式:
20NaО
分子量:
879.86
【0018】
可能性としてリボフラビンと会合することがあり、上皮の除去を必要とせずに改良された角膜架橋結合が、より無害である可視光に近い光線の照射によって得られる。
【0019】
本発明はこのように前述のエンハンサーの使用を単独またはリボフラビン等との様々な組合せで、円錐角膜またはその他の角膜拡張症における架橋結合に使用する眼用組成物の調整を想定している。
【0020】
本発明によるエンハンサーは、細胞毒性を発生させることなく、円錐角膜またはその他の角膜拡張症の架橋結合のために角膜へ直接的に利用できる。
【0021】
本発明のさらなる主題は、前述の通りリボフラビンと会合しうるエンハンサーを含む眼用組成物である。当該エンハンサーを含む眼用組成物は知られた技術によって調整でき、特に以下の(イ)、(ロ)、または、(ハ)を含むことができる。
(イ) 1以上の光エンハンサー(及び、可能性としてリボフラビン)を伴う、1以上のバイオエンハンサー
(ロ) 可能性としてリボフラビンを伴うことがある、1以上のバイオエンハンサー
(ハ) 可能性としてリボフラビンを伴うことがある、1以上の光エンハンサー
【0022】
1以上のバイオエンハンサーあるいは1以上の光エンハンサーを含む前述の組成物の眼への投与後、特にリボフラビンである1以上の光感作性(及び感光性)兼光重合物質の溶液を角膜に直接適用することもできる。
【0023】
本発明のバイオエンハンサーは組成物の量に対して0.001重量%から5重量%の間で選択される量で前述の全ての組成物に適量が存在する。
【0024】
特にエンハンサーの性能は中でもEDTAおよびトロメタミンの会合に依存する。なぜならこれら2つの化合物がEDTA非塩化カルボキシルと大きな膜通過性能を有するトロメタミンとの間で対イオンを形成するからである。
【0025】
研究結果から、トロメタミンが好適に0.05重量%と0.5重量%との間で存在し、EDTAが好適に0.05重量%と0.5重量%との間で存在する場合、リボフラビン吸収は急速であることが判明している。
【0026】
リボフラビンとともに存在するところの本発明の光感作性(及び感光性)兼光重合性の物質(光エンハンサー)は、組成物に対して0.001重量%から1重量%の間で選択される適量で使用される。
【0027】
さらに、本発明で好適に使用されるリボフラビンは前述の全ての組成物において適量であるリン酸リボフラビンであり、特に本発明の組成物に0.05重量%から0.3重量%の間で存在する。
【0028】
本発明の眼用組成物は洗眼剤、目薬、洗眼液、軟膏の形態で調剤され、どのような場合においても知られた技術による角膜への利用を可能にする全ての薬剤形態で利用できる。以下で紹介する例は、例示のために提供されたものであり、本発明を限定するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
各例において成分の量は重量百分率(%)で表わされている。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
【表9】


トロメタミンの濃度が増加するときは、pH7からpH7.2を確保できるようにNaHPOを十分に増加させる必要がある。
【0039】
【表10】

【0040】
【表11】

【0041】
【表12】

【0042】
【表13】

【0043】
その目的を達成するため、1から13の調剤は十分な塩化ナトリウム(またはその他の浸透圧調節剤)を追加することで等張または高浸透圧とすることもできることは重要な特徴である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐角膜またはその他の角膜拡張疾患の治療における角膜架橋結合処置で使用される眼用組成物の調整のためにエンハンサーを使用することであって、リボフラビンと会合することがありうる、バイオエンハンサーおよび/または光エンハンサーから選択される1以上のエンハンサーの使用。
【請求項2】
バイオエンハンサーは、EDTA、ナトリウムEDTA,カリウムEDTA、ポリソルベート80、トロメタミン、アゾン、塩化ベンズアルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、ラウリン酸、メントール、メトキシサリチル酸、ポリオキシエチレン、グリコール酸ナトリウム、グリコデオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウムから選択される1以上のものであることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
バイオエンハンサーは前記組成物に対して0.0001重量%から5重量%の間で存在し、特にEDTAは0.001重量%から1重量%の間、トロメタミンは0.001重量%から2重量%の間、およびポリソルベート80は0.001重量%から5重量%の間で存在することを特徴とする請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
EDTAは0.05重量%から0.5重量%の間で存在し、および/またはトロメタミンは0.05重量%から0.5重量%の間で存在することを特徴とする請求項3記載の使用。
【請求項5】
光エンハンサーは、アクリジンイエロー、キニジンイエロー、メチレンブルー、エリトロシンから成る群の染料から選択されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
光エンハンサーは0.001重量%から1重量%の間の量が存在し、リン酸リボフラビンは0.05重量%から0.3重量%の間の量で存在することがありうることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
リン酸リボフラビンは0.05重量%から0.3重量%の間で存在することがありうることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
1以上のバイオエンハンサーは1以上の光エンハンサー(可能性として、リボフラビン)と共に存在することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項9】
1以上のバイオエンハンサーは可能性としてリボフラビンと共に存在することがあることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項10】
1以上の光エンハンサーは可能性としてリボフラビンと共に存在することがあることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の使用のための組成物。
【請求項11】
角膜架橋結合を利用する円錐角膜またはその他の角膜拡張疾患のための治療で使用する請求項1から7のいずれかに記載の使用のための洗眼液。

【公表番号】特表2012−500844(P2012−500844A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524534(P2011−524534)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/IT2009/000392
【国際公開番号】WO2010/023705
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(510326429)
【Fターム(参考)】