説明

冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置

【課題】製造されるクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量と、ジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を必要な量だけ確保すること。
【解決手段】軸素材5から冷間鍛造によりクランクシャフトを製造する製造装置1は、軸素材5を軸方向へ圧縮するための下型3、上型4及び第1シリンダ11等と、上型4及び第1シリンダ11等から独立して軸素材5の中間部位5aを半径方向における特定方向SDへ押圧するための中間型6及び第2シリンダ14等と、中間型6及び第2シリンダ14等による押圧を制御するためのコントローラ22とを備える。コントローラ22は、上型4及び第1シリンダ11等による軸方向への圧縮の進行に応じて中間型6及び第2シリンダ14等による特定方向SDへの押圧の開始タイミングを、「圧縮進行率」として0.15以下の所定値に制御するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジン等に使用されるクランクシャフトに係り、詳しくは、冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載される一体型クランクシャフトの鍛造制御方法と鍛造装置が知られている。この技術では、一体型クランクシャフトを製造するために、先ず、ピン部と、ピン部の両側にそれぞれ位置するアーム部と、両側のアーム部を挟むように位置する一対のジャーナル部とを含む丸棒状の素材を予備加工し、この素材を部分的に加熱しておく。その後、両側のジャーナル部を、一対の把持ダイスにより把持し、クロスヘッドの圧下に連動させて、素材の軸方向において互いに接近するように両把持ダイスを駆動し、両アーム部を圧縮して据え込む。また、この圧縮と共に、ピン部を、クロスヘッドに連結されたポンチにより、素材の軸方向と直角な方向(偏芯方向)へ押し下げ、かつ、両把持ダイスの両側に設けた横押しシリンダを制御して両アーム部を圧縮することにより、単位クランクスロー部を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−229720号公報
【特許文献2】特開平3−060837号公報
【特許文献3】特開2003−326332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の技術では、丸棒状の素材を軸方向へ据え込むことで、クランクシャフトの「張出し」を確保し、その後に、ピン部を偏芯方向へ押し下げるようにしていた。このため、ピン部を偏芯方向へ押し下げるための長さを素材から十分に得られないおそれがあった。この結果、クランクシャフトを冷間鍛造した場合に、ピン部の偏芯量を十分に確保できなくなるおそれがあった。
【0005】
ここで、クランクシャフトの成形に当たり、次の2つの事項を確保する必要がある。図10に、クランクシャフト7の一部を正面図により示す。クランクシャフト7は、ピン部7aと、ピン部7aの両側にそれぞれ位置するアーム部7bと、両側のアーム部7bを挟むように位置する一対のジャーナル部7cとを含む。ここで、一つ目の事項として、アーム部7bには、ピン部7aと反対側に、張出し量HRを十分に確保する必要がある。これは、ジャーナル部7cにスラストベアリングを適正に装着するためである。二つ目の事項として、ピン部7aの偏芯量HSを適正に決定する必要がある。これは、ピン部7aに組み付けられるコンロッドにつき、所要のストローク量を確保するためである。
【0006】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造されるクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を調整可能とした冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を提供することにある。この発明の別の目的は、製造されるクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を必要な量だけ確保することを可能とした冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、軸素材からクランクシャフトを製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法において、軸素材をその軸方向に圧縮することにより、軸素材を据え込み、圧縮に同期させて軸素材の所定部位をその半径方向における特定方向へ押圧することにより、所定部位を偏芯させ、軸方向への圧縮の進行に応じて特定方向への押圧の開始タイミングを制御することを趣旨とする。
【0008】
上記発明の構成によれば、軸素材の軸方向への圧縮の進行に応じて軸素材の特定方向への押圧の開始タイミングを制御するので、軸素材の所定部位の偏芯量と、軸素材の据え込み量との両方が調整可能となる。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、軸方向への圧縮の進行における特定方向への押圧の開始タイミングを、軸素材が圧縮により縮小する軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある軸方向の長さの割合(圧縮進行率)として0.15以下の所定値に制御することを趣旨とする。
【0010】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、軸方向への圧縮の進行における特定方向への押圧の開始タイミングを、圧縮進行率として0.15以下の所定値に制御するので、軸素材の所定部位が必要な量だけ偏芯すると共に、その偏芯に合わせて軸素材が必要な量だけ据え込まれる。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、軸素材からクランクシャフトを製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置において、軸素材をその軸方向へ圧縮するための軸方向圧縮手段と、軸方向圧縮手段から独立して軸素材の所定部位をその半径方向における特定方向へ押圧するための特定方向押圧手段と、特定方向押圧手段による押圧を制御するための押圧制御手段とを備え、押圧制御手段は、軸方向圧縮手段による軸方向への圧縮の進行に応じて特定方向押圧手段による特定方向への押圧の開始タイミングを制御することを趣旨とする。
【0012】
上記発明の構成によれば、押圧制御手段が、軸方向圧縮手段による軸方向への圧縮の進行に応じて特定方向押圧手段による特定方向への押圧の開始タイミングを制御するので、軸素材の所定部位の偏芯量と、軸素材の据え込み量との両方が調整可能となる。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、押圧制御手段は、軸方向圧縮手段による軸方向への圧縮の進行における特定方向押圧手段による特定方向への押圧の開始タイミングを、軸素材が圧縮により縮小する軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある軸方向の長さの割合(圧縮進行率)として0.15以下の所定値に制御することを趣旨とする。
【0014】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、軸方向圧縮手段による軸方向への圧縮の進行における特定方向押圧手段による特定方向への押圧の開始タイミングを、圧縮進行率として0.15以下の所定値に制御するので、軸素材の所定部位が必要な量だけ偏芯すると共に、その偏芯に合わせて軸素材が必要な量だけ据え込まれる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、製造されるクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を調整することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を必要な量だけ確保することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、製造されたクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を調整することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、ピン部の偏芯量とジャーナル部からのアーム部の張出し量との両方を必要な量だけ確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係り、クランクシャフトの製造装置の概略構成を示す断面図。
【図2】第1実施形態に係り、コントローラによる制御内容を示すフローチャート。
【図3】第1実施形態に係り、上型と中間型への荷重供給の挙動を示すタイムチャート。
【図4】第1実施形態に係り、偏芯量と張出し量との関係を示すグラフ。
【図5】第1実施形態に係り、圧縮進行率と張出し量との関係を示すグラフ。
【図6】第1実施形態に係り、圧縮進行率と偏芯量との関係を示すグラフ。
【図7】第1実施形態に係り、クランクシャフトの成形過程を概略的に示す断面図。
【図8】第2実施形態に係り、クランクシャフトの製造装置の概略構成を示す断面図。
【図9】第2実施形態に係り、偏芯量と張出し量との関係を示すグラフ。
【図10】従来例に係り、クランクシャフトの一部を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、本発明における冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1に、この実施形態における冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置1の概略構成を断面図により示す。この製造装置1は、筒形をなすケース2と、ケース2の底部に嵌め込まれた固定型である下型3と、下型3に対向してケース2の中を上下動可能に設けられた可動型である上型4とを備える。これら下型3及び上型4との間に金属製の丸棒状の軸素材5が保持されるようになっている。下型3には、軸素材5の下端部を支持する嵌合穴3aが形成され、上型4には、軸素材5の上端部を支持する嵌合穴4aが形成される。これら嵌合穴3a,4aにより拘束される軸素材5の両端部が、成形後にはクランクシャフトの2つのジャーナル部となる。また、下型3と上型4との間に保持された軸素材5の所定部位としての中間部位5aには、二分割可能に構成された中間型6が保持されるようになっている。上型4の下面、下型3の上面は、それぞれ所定形状の型面(図示略)を有する。中間型6の上下両面は、上型4の型面及び下型3の型面との協働によりクランクシャフトの各部を成形するための型面(図示略)を有する。中間型6により拘束される軸素材5の中間部位5aが、成形後にはクランクシャフトの1つのピン部となる。
【0022】
上型4には、上型4を上下方向へ駆動させるための第1シリンダ11が設けられる。第1シリンダ11のピストンロッド11aが上型4の上面に連結される。第1シリンダ11には、第1油圧配管12を含む油圧装置(図示略)により所定の油圧が供給可能となっている。この第1油圧配管12には、第1シリンダ11に供給される油圧を制御するための第1制御弁13が設けられる。そして、下型3、上型4、第1シリンダ11、第1油圧配管12及び第1制御弁13により、軸素材5を軸方向へ圧縮するための軸方向圧縮手段が構成される。
【0023】
中間型6には、中間型6を水平方向へ駆動させるための第2シリンダ14が設けられる。第2シリンダ14のピストンロッド14aが中間型6の外周面に連結される。第2シリンダ14には、第2油圧配管15を含む油圧装置(図示略)により所定の油圧が供給可能となっている。この第2油圧配管15には、第2シリンダ14に供給される油圧を制御するための第2制御弁16が設けられる。そして、中間型6、第2油圧シリンダ14、第2油圧配管15及び第2制御弁16により、軸方向圧縮手段から独立して軸素材5の中間部位5aを、軸素材5の半径方向における特定方向SDへ押圧するための特定方向押圧手段が構成される。第2シリンダ14に対応して、ケース2には、上下方向へ延びる長孔2aが形成される。また、この長孔2aに対応して、ケース2の外側には、第2シリンダ14を上下方向へ案内するためのガイド17が設けられる。軸素材5が軸方向圧縮手段により圧縮されることで、中間型6の上下方向における位置が変わる。この中間型6の変位に合わせて第2シリンダ14を上下方向へ案内するために、長孔2aとガイド17が設けられる。
【0024】
ケース2と上型4との間には、上型4の上下方向における位置を検出するための位置センサ21が設けられる。この位置センサ21は、図1に示す上型4の位置を初期位置として、その初期位置からの変位量を検出するようになっている。
【0025】
第1及び第2のシリンダ11,14の動作を制御するために、第1及び第2の制御弁13,16の開度を制御するコントローラ22が設けられる。このコントローラ22は、第2シリンダ14及び中間型6等による軸素材5の特定方向SDへの押圧を制御するための押圧制御手段に相当する。そして、この実施形態では、このコントローラ22は、第1シリンダ11及び上型4等による軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて第2シリンダ14及び中間型6等による軸素材5の特定方向SDへの押圧の開始タイミングを制御するようになっている。
【0026】
図2に、コントローラ22による制御内容をフローチャートにより示す。このフローチャートに示す制御プログラムは、コントローラ22のメモリ(図示略)に格納される。
【0027】
冷間鍛造によりクランクシャフトを製造するに際して、図1に示す初期状態において、ステップ100で、この製造装置1が起動されると、ステップ110で、コントローラ22は、第1シリンダ11を始動させる。すなわち、コントローラ22は、第1制御弁13を制御して第1シリンダ11に油圧を供給し始める。これにより、上型4に下方向の荷重を供給し始め、軸素材5を軸方向に圧縮し始める。
【0028】
次に、コントローラ22は、ステップ120で、位置センサ21の信号を読み込み、ステップ130で、上型4が所定位置まで移動したか否かを判断する。この所定位置は、上型4による軸素材5の「圧縮進行率」に置き換えて表すことができる。「圧縮進行率」は、軸素材5が圧縮により縮小する軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある軸方向の長さの割合を意味する。この「圧縮進行率」として、「0.15」以下の正の値を当てはめることができる。つまり、所定位置は、上型4による軸素材5の圧縮が1割5分進行するまでの範囲内で設定することができる。例えば、この「圧縮進行率」を、「0」にしたり、「0.1」にしたり、「0.15」に設定したりすることができる。そして、コントローラ22は、この判断結果が否定となる場合は、処理をステップ120へ戻し、ステップ120,130の処理を繰り返す。一方、ステップ130の判断結果が肯定となる場合は、コントローラ22は、処理をステップ140へ移行する。
【0029】
ステップ140で、コントローラ22は、第2シリンダ14を始動させる。すなわち、コントローラ22は、第2制御弁16を制御して第2シリンダ14に油圧を供給し始める。これにより、中間型6に特定方向SDの荷重を供給し始め、軸素材5を特定方向SDへ押圧し始める。
【0030】
その後、コントローラ22は、ステップ150で、位置センサ21の信号を読み込み、ステップ160で、上型4が全ストロークの最終移動位置に到達したか否かを判断する。そして、コントローラ22は、この判断結果が否定となる場合は、処理をステップ150へ戻し、ステップ150,160の処理を繰り返す。一方、ステップ160の判断結果が肯定となる場合、コントローラ22は、ステップ170で、第1及び第2のシリンダ11,14を停止させる。すなわち、コントローラ22は、第1及び第2の制御弁13,16を制御して第1及び第2のシリンダ11,14への油圧の供給を停止させる。これにより、上型4及び中間型6への荷重の供給を停止させる。
【0031】
ここで、コントローラ22が上記した制御プログラムを実行することで得られる、上型4及び中間型6への荷重供給の挙動を図3にタイムチャートにより示す。図3に示すように、時刻t0で、上型4への圧縮荷重の供給が開始されると、少し後の時刻t1で、中間型6への押圧荷重の供給が開始される。その後、上型4及び中間型6への荷重の供給が並行して続けられ、時刻t2で、上型4への圧縮荷重の供給が停止されると同時に中間型6への押圧荷重の供給が停止される。
【0032】
上記のように中間型6への押圧荷重供給の開始タイミングを、上型4への圧縮荷重供給の進行に応じて制御するのは、軸素材5の特定方向SDへの押圧の開始タイミングを、軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて制御するためである。これにより、図10に示す張出し量HRと偏芯量HSを所要値に設定することができる。張出し量HRを所要値にするのは、図10に示すジャーナル部7cにスラストベアリングを装着できるようにするためである。偏芯量HSを所要値にするのは、図10に示すピン部7aに組み付けられるコンロッド(図示略)のストローク量を所要値だけ確保するためである。
【0033】
ここで、上記した偏芯量HSと張出し量HRとの関係を図4にグラフにより示す。図4において、偏芯量及び張出し量の両方を満たす領域を「目標領域」とする。図4に点P1で示すように、偏芯量と張出し量の両方を「目標領域」の値とするには、軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて、軸素材5の特定方向SDへの押圧の開始タイミングを、上記のように制御する必要がある。これに対し、軸素材5を軸方向に圧縮するだけで、特定方向SDへ押圧しない場合は、図4に点P2で示すように、偏芯量と張出し量を「目標領域」の値とすることができない。
【0034】
上記した「圧縮進行率」を「0.15」以下の値に設定したのは、以下のような理由による。図5に、圧縮進行率と張出し量との関係をグラフに示す。図6に、圧縮進行率と偏芯量との関係をグラフに示す。これらグラフは、所定の寸法(直径「48φ」、全長「300mm」)の軸素材を、所定の荷重により特定方向SDへ押圧したときの実験結果を示す。図5に示すように、張出し量は、圧縮進行率が「0〜1」の全範囲で「目標領域」に入ることが分かる。また、図6に示すように、偏芯量は、圧縮進行率が「0.15以下」の範囲で「目標領域」に入ることが分かる。これにより、張出し量と偏芯量の両方が「目標領域」に入るのは、圧縮進行率が「0.15」以下の値であることが分かる。これら実験結果に基づいて圧縮進行率が「0.15」以下の値に設定される。
【0035】
上記したコントローラ22の制御により進められるクランクシャフトの成形過程を、図7(A),(B),(C)に概略的に断面図により示す。
【0036】
先ず、図7(A)に示すように、初期状態から、上型4への圧縮荷重の供給を開始することにより、軸素材5に対する軸方向への圧縮を開始する。その後、図7(B)の(1)に示すように、中間型6への押圧荷重の供給を開始することにより、軸素材5に対する特定方向SDへの押圧を開始すると共に、図7(B)の(2)に示すように、上型4へ圧縮荷重を供給することにより、軸素材5に対する軸方向への圧縮を続ける。その後、図7(C)に示すように、上型4が最終移動位置に到達したときに、軸素材5に対する軸方向への圧縮及び特定方向SDへの押圧を停止する。これにより、図7(C)に示すように、1気筒用エンジンに使用されるクランクシャフト7の成形を完了する。
【0037】
ここで、図7(C)に示すクランクシャフト7は、そのままエンジンに使用できる最終製品ではなく、最終製品のための粗形材である。従って、その後、粗形材であるクランクシャフト7の細部に必要な加工を施すことで、クランクシャフトとしての最終製品を得ることができる。
【0038】
上記したように、この実施形態では、軸素材5からクランクシャフト7を製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法として、以下のような方法を実施している。すなわち、軸素材5をその軸方向に圧縮することにより、軸素材5を据え込み、その圧縮に同期させて軸素材5の中間部位5aをその半径方向における特定方向SDへ押圧することにより、その中間部位5aを偏芯させ、軸方向への圧縮の進行に応じて特定方向SDへの押圧の開始タイミングを制御するようにしている。具体的には、特定方向SDへの押圧の開始タイミングを、軸素材5が圧縮により縮小する軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある軸方向の長さの割合(圧縮進行率)として「0.15」以下の所定値に制御するようにしている。
【0039】
以上説明したこの実施形態における冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法によれば、軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて軸素材5の特定方向SDへの押圧の開始タイミングを制御するので、軸素材5の中間部位5aの偏芯量と、軸素材5の据え込み量との両方が調整可能となる。このため、この製造方法により製造されるクランクシャフト7につき、図10におけるピン部7aの偏芯量HSと、ジャーナル部7cからのアーム部7bの張出し量HRとの両方を任意に調整することができる。
【0040】
特に、この実施形態では、軸素材5の軸方向への圧縮の進行における特定方向SDへの押圧の開始タイミングを、圧縮進行率として0.15以下の所定値に制御するので、軸素材5の中間部位5aが必要な量だけ偏芯すると共に、その偏芯に合わせて軸素材5が必要な量だけ据え込まれる。このため、図10における偏芯量HSと張出し量HRとの両方を必要な量だけ確保することができる。
【0041】
また、この実施形態における製造装置1によれば、上記した製造方法を実施できるので、上記したと同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、本発明における冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法及び製造装置を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0043】
なお、以下の説明において、第1実施形態と同等の構成については同一の符号を付して説明を省略し、以下には異なった点を中心に説明する。
【0044】
図8に、この実施形態における冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置31の概略構成を断面図により示す。この実施形態の製造装置31は、第1実施形態とは異なり、2気筒用エンジンに使用されるクランクシャフトを製造するように構成される。すなわち、この製造装置31は、ケース2、下型3及び上型4の他に、第1中間型32、第2中間型33及びジャーナル部用型34を備える。
【0045】
二分割可能に構成されたジャーナル部用型34は、軸素材5に対しその軸線方向の中間部に保持される。ただし、このジャーナル部用型34は、軸素材5上を上下に移動可能となっている。下型3及び上型4の嵌合穴3a,4a、並びに、ジャーナル部用方34により拘束される軸素材5の両端部と中間部は、成形後にはクランクシャフトの3つのジャーナル部となる。
【0046】
第1中間型32は、上型4とジャーナル部用型34との間の中間部にて軸素材5の所定部位5bに保持される。第2中間型33は、下型3とジャーナル部用型34との間の中間部にて軸素材5の所定部位5cに保持される。上型4の下面、下型3の上面は、それぞれ所定形状の型面(図示略)を有する。ジャーナル部用型34の上下両面、第1中間型32の上下両面及び第2中間型33の上下両面は、所定形状の型面(図示略)を有する。第1及び第2の中間型32,34により拘束される軸素材5の所定部位5b,5cは、成形後にはクランクシャフトの2つのピン部となる。
【0047】
上型4に対応して、第1シリンダ11、第1油圧配管12を含む油圧装置(図示略)、第1制御弁13が設けられる。そして、下型3、上型4、第1シリンダ11、第1油圧配管12及び第1制御弁13により、軸素材5を軸方向へ圧縮するための軸方向圧縮手段が構成される。
【0048】
第1中間型32に対応して、同中間型32を水平方向へ駆動させるための第2シリンダ14が設けられる。第2シリンダ14に関連して、第2油圧配管15を含む油圧装置(図示略)、第2制御弁16が設けられる。そして、第1中間型32、第2油圧シリンダ14、第2油圧配管15及び第2制御弁16により、軸方向圧縮手段から独立して軸素材5の所定部位5bを、軸素材5の半径方向における特定方向SD1へ押圧するための特定方向押圧手段が構成される。また、第2シリンダ14に対応して、ケース2には、長孔2a及びガイド17が設けられる。
【0049】
第2中間型33に対応して、同中間型33を水平方向へ駆動させるための第3シリンダ18が設けられる。第3シリンダ18に関連して、第3油圧配管19を含む油圧装置(図示略)、第3制御弁20が設けられる。第3シリンダ18のピストンロッド18aは、第2中間型33の側面に連結される。そして、第2中間型33、第3油圧シリンダ18、第3油圧配管19及び第3制御弁20により、軸方向圧縮手段から独立して軸素材5の所定部位5cを、軸素材5の半径方向における特定方向SD2(上記特定方向SD1とは反対の方向)へ押圧するための特定方向押圧手段が構成される。また、第3シリンダ18に対応して、ケース2には、長孔2a及びガイド17が設けられる。
【0050】
この実施形態で、コントローラ22は、第1〜第3のシリンダ11,14,18の動作を制御するために、第1〜第3の制御弁13,16,20の開度を制御する。このコントローラ22は、第2及び第3のシリンダ14,18及び第1及び第2の中間型32,33等による軸素材5特定方向SD1,SD2への押圧を制御するための押圧制御手段に相当する。そして、この実施形態では、このコントローラ22は、第1シリンダ11及び上型4等による軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて第2及び第3のシリンダ14,18及び第1及び第2の中間型32,33等による軸素材5の特定方向SD1,SD2への押圧の開始タイミングを制御するようになっている。
【0051】
この実施形態では、上記した製造装置31を使用することにより、軸素材5からクランクシャフトを製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法が実施される。すなわち、軸素材5を軸方向に圧縮することにより、軸素材5を据え込み、その圧縮に同期させて軸素材5の2つの所定部位5b,5cを半径方向における2つの特定方向SD1,SD2へ押圧することにより、それら所定部位5b,5cを偏芯させ、軸方向への圧縮の進行に応じて異なる特定方向SD1,SD2への押圧の開始タイミングを制御するようにしている。具体的には、特定方向SD1,SD2への押圧の開始タイミングを、圧縮進行率として「0.15」以下の所定値に制御するようにしている。
【0052】
従って、この実施形態の製造方法及び製造装置31によれば、第1実施形態と同等の作用効果を得ることができる。この実施形態では、第1実施形態と異なり、2気筒用エンジンに使用されるクランクシャフトを製造することができる。
【0053】
図9に、上記した製造方法及び製造装置31により製造されるクランクシャフトにつき、ピン部の偏芯量とジャーナル部におけるアーム部の張出し量との関係をグラフにより示す。図9において、偏芯量及び張出し量の両方を満たす領域を「目標領域」とする。図9に点P1〜P3で示すように、軸素材5の軸方向への圧縮の進行に応じて、軸素材5の特定方向SD1,SD2への押圧の開始タイミングを制御することにより、偏芯量と張出し量の両方を「目標領域」の値にしたり、その「目標領域」の値に近付けることができる。これに対し、軸素材5を軸方向に圧縮するだけで、特定方向SD1,SD2へ押圧しない場合は、図9に点P4で示すように、偏芯量及び張出し量を「目標領域」の値とすることができない。
【0054】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0055】
例えば、前記第2実施形態では、2気筒用エンジンのクランクシャフトを製造するために、製造装置31には、下型3及び上型4の他に、2つの中間型32,33、1つのジャーナル部用型34等を設けた。これに対し、3気筒用エンジンのクランクシャフトを製造するために、下型及び上型の他に、3つの中間型、2つのジャーナル部用型等を設けることとなる。つまり、軸素材の複数の所定部位を半径方向における特定方向へ押圧するために、複数の特定方向押圧手段を設けることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、エンジン等に使用されるクランクシャフトの製造のために利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 製造装置
3 下型(軸方向圧縮手段)
4 上型(軸方向圧縮手段)
5 軸素材
5a 中間部位(所定部位)
5b 所定部位
5c 所定部位
6 中間型(特定方向押圧手段)
7 クランクシャフト
11 第1シリンダ(軸方向圧縮手段)
12 第1油圧配管(軸方向圧縮手段)
13 第1制御弁(軸方向圧縮手段)
14 第2シリンダ(特定方向押圧手段)
15 第2油圧配管(特定方向押圧手段)
16 第2制御弁(特定方向押圧手段)
18 第3シリンダ(特定方向押圧手段)
19 第3油圧配管(特定方向押圧手段)
20 第3制御弁(特定方向押圧手段)
22 コントローラ(押圧制御手段)
31 製造装置
32 第1中間型(特定方向押圧手段)
33 第2中間型(特定方向押圧手段)
SD 特定方向
SD1 特定方向
SD2 特定方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸素材からクランクシャフトを製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法において、
前記軸素材をその軸方向に圧縮することにより、前記軸素材を据え込み、前記圧縮に同期させて前記軸素材の所定部位をその半径方向における特定方向へ押圧することにより、前記所定部位を偏芯させ、前記軸方向への圧縮の進行に応じて前記特定方向への押圧の開始タイミングを制御することを特徴とする冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記軸方向への圧縮の進行における前記特定方向への押圧の開始タイミングを、前記軸素材が圧縮により縮小する前記軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある前記軸方向の長さの割合(圧縮進行率)として0.15以下の所定値に制御することを特徴とする請求項1に記載の冷間鍛造によるクランクシャフトの製造方法。
【請求項3】
軸素材からクランクシャフトを製造する冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置において、
前記軸素材をその軸方向へ圧縮するための軸方向圧縮手段と、
前記軸方向圧縮手段から独立して前記軸素材の所定部位をその半径方向における特定方向へ押圧するための特定方向押圧手段と、
前記特定方向押圧手段による押圧を制御するための押圧制御手段と
を備え、前記押圧制御手段は、前記軸方向圧縮手段による前記軸方向への圧縮の進行に応じて前記特定方向押圧手段による前記特定方向への押圧の開始タイミングを制御することを特徴とする冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置。
【請求項4】
前記押圧制御手段は、前記軸方向圧縮手段による前記軸方向への圧縮の進行における前記特定方向押圧手段による前記特定方向への押圧の開始タイミングを、前記軸素材が圧縮により縮小する前記軸方向の全長さに対する圧縮により縮小しつつある前記軸方向の長さの割合(圧縮進行率)として0.15以下の所定値に制御することを特徴とする請求項3に記載の冷間鍛造によるクランクシャフトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−56512(P2011−56512A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205458(P2009−205458)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】