冷陰極電子源の製造方法及び冷陰極電子源。
【課題】簡単な工程である程度の面積を一度に加工することが可能な冷陰極電子源の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板1上にカソード電極2と絶縁層4とゲート電極5を重ね、互いに溶け合わないポリマーA,Bを溶媒で溶解してゲート電極の表面に被着する。溶媒を蒸発させてポリマーB中にポリマーAを微粒子状に析出させて固定化し、現像液でポリマーAを除去してエッチングホール9を形成し、エッチングを行なってゲート電極にホール6を形成する。さらにホール6からエッチングして絶縁層にもホールを形成し、ホール内にエミッタを形成して冷陰極電子源10とする。
【解決手段】 基板1上にカソード電極2と絶縁層4とゲート電極5を重ね、互いに溶け合わないポリマーA,Bを溶媒で溶解してゲート電極の表面に被着する。溶媒を蒸発させてポリマーB中にポリマーAを微粒子状に析出させて固定化し、現像液でポリマーAを除去してエッチングホール9を形成し、エッチングを行なってゲート電極にホール6を形成する。さらにホール6からエッチングして絶縁層にもホールを形成し、ホール内にエミッタを形成して冷陰極電子源10とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード電極の上に形成された絶縁層とゲート電極にホールが形成されており、該ホールの底部にはカソード電極に導通するエミッタが設けられた構造の冷陰極電子源に係り、特に広い面積に短時間でホール加工を施すことができ、形成されるホール径に一定範囲内でのばらつきがあるような冷陰極電子源の製造方法と、係る方法によって製造された冷陰極電子源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なスピント型の冷陰極電子源は、基板上に形成されたカソード電極の上に絶縁層とゲート電極が積層されており、この絶縁層とゲート電極にはホールが形成され、該ホールの底部にはカソード電極に導通するように円錐形状のエミッタが設けられた構造とされている。
【0003】
かかる一般的なスピント型の冷陰極電子源においては、ゲート電極及び絶縁層の前記ホールの開口径は通常1μm程度である。この開口径を平均径0.1〜0.2μmとし、併せて絶縁層の厚さを薄くすることで、電子放出素子の密度を向上させ、駆動電圧の低減を図る方法として、下記特許文献1に示すように、荷電粒子トラックを用いるホール形成方法が知られている。
【0004】
特許文献1にて開示された方法によれば、まずレジスト等からなるトラック層に荷電粒子をランダムに通過させ、該トラック層に多数の荷電粒子トラックをランダムに形成する。そして、荷電粒子が通過した後の該トラック層をエッチングすると、該トラック層は荷電粒子トラックに沿ってエッチングされ、トラック層の対応部分に開口空間が形成される。次に、電子放出性素子をトラック層の開口空間の比較的中央に位置する部分に形成する(前記文献の特に図5、図10及びこれらの図に対応する記載を参照されたい。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平9−504900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に示した荷電粒子トラックを用いるホール形成方法によれば、高エネルギーの荷電粒子を形成するために、加速器に準じた大掛かりな装置が必要になるという問題があった。
【0007】
また、このようなホール形成方法によって、平面表示素子の電子源として前記冷陰極電子源を形成する場合には、均一に荷電粒子を照射できる面積はある程度限られるため、表示装置のような大面積の加工には、照射可能な面積を単位として照射を全面にわたって繰り返すことが必要になるため、製造のプロセス時間が長くなり、装置は更に複雑化して高価なものにならざるを得ない。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、大掛かりな装置を用いることなく、簡単な工程である程度の面積を一度に加工することが可能な冷陰極電子源の製造方法と、係る方法により製造される冷陰極電子源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された冷陰極電子源の製造方法は、
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源の製造方法において、
互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーと第2のポリマーを前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い溶媒を用いて互いに溶解させ、前記ホールが形成される以前の前記ゲート電極の表面に被着させる工程と、
前記溶媒を蒸発させることにより、前記第2のポリマー中に前記第1のポリマーを微粒子状に析出させて固定化する工程と、
前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い現像液を用いて、微粒子状に析出した前記第1のポリマーを除去することにより、前記第2のポリマーにエッチングホールを形成する工程と、
前記エッチングホールを介してエッチングを行なうことにより前記ゲート電極にホールを形成する工程と、
を有することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記現像液が水であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記現像液が有機溶媒であることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記溶媒が単一種類の有機溶媒からなることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記溶媒が、前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が高い第1の有機溶媒と、前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が低い第2の有機溶媒とを含むことを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、前記エッチングホールが形成された前記第2のポリマーの表面に、ドライエッチングから前記第2のポリマーを保護するための保護層を設けることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載された冷陰極電子源は、
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源において、
多数形成された前記ホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内においてばらついて分布していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させているので、ゲート電極の表面に被着させた両ポリマーの溶解液から溶媒を蒸発させれば、第2のポリマー中に第1のポリマーを層分離特性により連続することなく微粒子状に析出させることができ、第1のポリマーからなる多数の微粒子を、母材となる第2のポリマー内に点在した状態で固定化することができる。従って、このように微粒子状に析出した第1のポリマーを現像液で除去すれば、微細で径寸法に所定のばらつきがあるエッチングホールを第2のポリマー中に多数形成することができる。従って、このエッチングホールを介してエッチングを行なうことにより、ある程度の面積のゲート電極に対して、微細で径寸法にばらつきがあるホールを一度に形成することができる。
【0017】
請求項2に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、微粒子状に析出した第1のポリマーを水で除去することにより、第2のポリマー中に微細で径寸法にばらつきがあるエッチングホールを多数形成することができる。
【0018】
請求項3に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、微粒子状に析出した第1のポリマーを有機溶媒で除去することにより、第2のポリマー中に微細で径寸法にばらつきがあるエッチングホールを多数形成することができる。
【0019】
請求項4に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、単一種類の有機溶媒により、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させることができ、該有機溶媒に対する両ポリマーの溶解度の差異によって該有機溶媒の蒸発時に第1のポリマーが析出する作用効果を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、第1及び第2の各ポリマーに対する溶解度が異なる沸点が高い第1の有機溶媒と沸点が低い第2の有機溶媒により、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させることができ、両有機溶媒に対する両ポリマーの溶解度の大小が互いに逆であることにより、有機溶媒の蒸発時に第1のポリマーが析出する作用効果を得ることができる。
【0021】
請求項6に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、エッチングホールが形成された第2のポリマーの表面に保護層を設けてドライエッチング耐性を持たせるので、ドライエッチングに対する耐性が小さい第2のポリマーであって、エッチングで除去したくない表面部分に損傷を与えることがなく、エッチングホールの底に残っている第2のポリマー及びその下にあるゲート電極と、エッチングホールの底に露出しているゲート電極のみをエッチングすることができる。
【0022】
請求項7に記載された冷陰極電子源によれば、多数形成されたホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内でばらついて分布するので、製造した冷陰極電子源においては各電子放出素子の寸法について一定範囲内でのばらつきが生じるため、工程変動によりホールの径が全体的に大きく又は小さくなっても、全ての電子放出素子から全く電子が放出されなくなることはなく、所定の駆動電圧の範囲を保持している限り、常に電子放出を得ることができ、これによって駆動制御が容易になる効果がある。逆に、本発明と異なり、ホールの径が均一に過ぎると、設定された所定の駆動電圧において、すべての電子放出素子から電子が全く放出されなくなる場合が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるポリマー溶液のコート工程を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における現像工程を示す模式的断面図と、平面視による電子顕微鏡写真(写真1)を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における保護層の形成工程を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるドライエッチング工程を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における剥離工程を示す模式的断面図と、平面視による電子顕微鏡写真(写真2)である。
【図6】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるウェットエッチング工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真3)である。
【図7】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における犠牲層の形成工程を示す模式的断面図である。
【図8】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるMoの蒸着工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真4)である。
【図9】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるMoの除去工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真5)である。
【図10】ゲート電極及び絶縁層のホールの開口径が1μm程度である従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真である。
【図11】(a)は図10と同一の縮尺で表した本例により製造された陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真であり、(b)は同(a)の要部を拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明の製造方法で製造された陰極電子源におけるホール径の分布を一例として示すヒストグラムである。
【図13】本発明の陰極電子源の製造方法におけるホール形成原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.本実施形態の基本原理
本例に係る冷陰極電子源の製造方法は、後に説明する製造方法の最終工程である図9に示すように、基板1上に設けられたカソード電極2及び抵抗層3と、抵抗層3の上に形成された絶縁層4と、絶縁層4の上に形成されたゲート電極5と、ゲート電極5と絶縁層4に形成されたホール6の底部においてカソード電極2に導通するように抵抗層3に形成されたエミッタ7とを有する冷陰極電子源10の製造方法に係るものであり、特に前記ゲート電極5にホール6を形成する方法に関するものである。なお、本例に係る冷陰極電子源10の構成上、抵抗層3は必ずしも必須ではなく、カソード電極2の上に直接エミッタ7が設けられた構成でもよい。
【0025】
その原理的な特徴は、ホール6を形成するエッチングのためのマスクを、ポリマーを用いて製造する点にある。
すなわち、図13(a)に示すように相互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーAと第2のポリマーBを溶媒aを用いて互いに溶解させると、図13(b)に示すように溶媒aが蒸発することにより溶解性の高い第2のポリマーB中に溶解性の低い第1のポリマーAが層分離特性により微粒子状に析出し、図13(c)に示すように溶媒aがさらに蒸発すると第1のポリマーAは互いに凝集する前に微粒子状のまま第2のポリマーBによって固定化されるというものである。この現象をホールを形成する前のゲート電極5上で生じさせ、微粒子状に析出して固定化された第1のポリマーAを、これを溶解する現像液によって除去すれば、ゲート電極5上には、微細な孔が多数形成された第2のポリマーBの層が残る。これをマスクとして利用し、第1のポリマーAの除去によって形成された孔をエッチングホールとしてエッチングを行なえば、微細なホール6をゲート電極5に形成することができる。
【0026】
2.第1実施形態の製造方法
次に、上述した原理を実際に用いてゲート電極5にホール6を形成し、その他の工程を経て冷陰極電子源10を製造する方法について説明する。
本例では、水溶性で、後述する有機溶媒について一定の溶解度を有する第1のポリマーAであるPEI(ポリエチレンイミン)と、非水溶性で、後述する有機溶媒について第1のポリマーAよりも高い溶解度を有する第2のポリマーBであるPMMA(ポリメチルメタクリレート)を使用する。両ポリマーA,Bを、前述した有機溶媒であるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)及びメタノールに混合し、両ポリマーA,Bを溶解し、ポリマー溶液とする。
ここで両ポリマーA,Bを分子レベルまで完全に溶解すると、析出時に第1のポリマーAが均一に分散して析出するのでより好ましい。
【0027】
水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBの混合比は、ホール形成において重要である。非水溶性のポリマーB中に、析出した水溶性のポリマーAが分散した状態になることが必要であり、水溶性のポリマーAの比率が多いと粒子密度が上がるわけでなく、粒子が凝集し始めて大きな粒子となってしまう。そこで、本実施形態における両ポリマーA,Bの混合比率は、体積比で非水溶性のポリマーBを1とすると、水溶性のポリマーAを0. 05〜0. 15の範囲とし、これによって良好な結果を得た。
【0028】
図1に示すように、基板1上にカソード電極2及び抵抗層3を設け、抵抗層3の上に絶縁層4を形成し、さらに絶縁層4の上にゲート電極5を形成する。このような基板1を用意し、そのゲート電極5の上に,水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBを含む前記ポリマー溶液を適当な膜厚でコートする。
【0029】
また、このコート工程では、基板1上にポリマー溶液を塗布して基板1を回転することにより、遠心力でポリマー溶液を被膜状に広げるスピンコート法を用いることができるが、成膜手段・方法としてはこれに限らず、ローラによってポリマー溶液を基板1に塗布するロールコート法や、インクジェット装置を用いてポリマー溶液を基板1に吐出して塗布するインクジェット法を用いても良い。
【0030】
コートするポリマー溶液の膜厚については、析出する水溶性のポリマーAの微粒子は球状なので、この微粒子径より膜厚が厚いと当該析出物が膜中に内包されてホール形成に寄与しないものとなり、粒子密度が低下して非効率になる。逆に薄すぎると、ホールの形成後、後述する保護層の形成工程において不都合が生じる。すなわち、ホールが形成された非水溶性のポリマーBの表面にドライエッチングを防ぐための保護層をアルミ層で形成する工程があるが、その工程において行なうアルミの斜め蒸着時に、アルミがポリマーBの表面だけでなく、ホールの底にも付着するのでホール内のエッチングによるゲート電極5のホール形成ができなくなってしまう。そこで、膜厚は、粒子径が0.1μm〜0.2μm(1000Å〜2000Å)とすれば、0.1μm〜0.15μm(1000Å〜1500Å)となるようにすることが好ましい。
【0031】
図1に示すように、ゲート電極5の上にコートした前記ポリマー溶液を乾燥させる。ポリマー溶液は、水溶性のポリマーAが、非水溶性のポリマーB中に分子レベルで分散するように、両ポリマーが互いに溶解した状態にあるので、ゲート電極5の表面に被着させたポリマー溶液から溶媒が蒸発すれば、図1に示すように、非水溶性のポリマーB中に水溶性のポリマーAが層分離特性により連続することなく微粒子状に析出し、水溶性のポリマーAからなる多数の微粒子が、母材となる非水溶性のポリマーB中に点在した状態が固定化される。
【0032】
前述したように、ホール形成の原理は、分子レベルで混合した2種のポリマーが溶媒の蒸発ともに溶解度の差により析出が起こり、析出物が凝集する前に母材(マトリックス)側である非水溶性のポリマーBに固定化される現象を応用している。これは、水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBがお互いに混ざり合わずに層分離することが前提である。したがって乾燥が速すぎると析出する粒子が小さくなり、乾燥が遅すぎると析出する粒子が大きくなるので、その他の条件も勘案して求める微粒子の粒径から実験的に定めることが好ましい。
【0033】
なお、ポリマー溶液からの溶剤の乾燥は、溶剤として蒸発しにくい(乾燥しにくい)テルピネオール等以外の蒸発しやすい有機溶媒を使用したのであれば、コート工程にスピンコート法を採用した場合には、コート中にポリマー溶液が自然乾燥してポリマーAの析出も完了する。しかしながら、使用する有機溶媒の種類によっては、例えばテルピネオールのように蒸発しにくい場合もあるので、そのような場合には自然乾燥に任せずに加熱手段を用いて加熱乾燥し、工程の進行を早めても良い。
【0034】
図2に示すように、基板1の全体を水槽中の水に漬け込み、水を現像液として、微粒子状に析出している水溶性のポリマーAを溶解して除去する。これにより、非水溶性のポリマーBにエッチングホール9を形成する。写真1は、非水溶性のポリマーBに、ホール径が所定の範囲でばらついている多数のエッチングホール9が、アトランダムな位置に形成されている状態を示している。
【0035】
図3に示すように、エッチングホール9が形成された非水溶性のポリマーBの表面に、ドライエッチングから当該ポリマーBを保護するための保護層12を設ける。本例では、保護層12の材質としてアルミニウムを採用し、これを蒸着によってポリマーB上に成膜して保護層12とし、ドライエッチングとして行なう反応性イオンエッチング(RIEと称する。)に対する耐性が弱いポリマーBの表面を保護し、エッチングホール9が形成されたポリマーBの層をマスクとして利用できるようにする。保護層12の厚さは100オングストロームから200オングストロームとする。
【0036】
ここで、アルミニウムの蒸着には、斜め蒸着法を採用する。すなわち、図示しない回転テーブル等に基板1全体を載せて回転させながら、基板1の表面に対して斜めから(例えば10°程度の角度で)アルミニウムを蒸着させる。この斜め蒸着法によれば、RIEに対する耐性が小さいポリマーBのうち、エッチングで除去したくない表面のみに保護膜が形成され、エッチングホール9の底に残っているポリマーBや、その下に露出しているゲート層には保護層12は形成されない。
【0037】
図4に示すように、保護層12の真上から下向きにRIEを行なう。保護層12に保護されていないエッチングホール9内のポリマーB及び当該ポリマーBの下にあるゲート電極5と、ポリマーBのエッチングホール9内に露出しているゲート電極5はRIEによってエッチングされ、彫り込まれた状態のホール6となる。
【0038】
図5に示すように、アルカリと有機溶媒を用いてポリマーBの膜を保護層12ごと除去する。写真2は、ゲート電極5に、ホール径が所定の範囲にばらついている多数のホール6が、アトランダムな位置に形成されている状態を示している。
【0039】
図6に示すように、ホール6が形成されたゲート電極5をマスクとしてフッ酸を適用することにより絶縁層4をウェットエッチングする。絶縁層4には、ゲート電極5の各ホール6に続けて、ゲート電極5の各ホール6よりもやや拡径されたホール6がそれぞれ形成され、その底にはカソード電極2に設けられた抵抗層3の表面が露出する。写真3は、ゲート電極5のホール6の下方の絶縁層4に、拡大されたホール6が形成された状態を示している。
【0040】
図7に示すように、ホール6が形成されたゲート電極5の表面に、後工程でエミッタ7形成のためにMoを蒸着する際に、ゲート電極5上に堆積してしまうMoを剥離・除去するための犠牲層13を設ける。本例では、犠牲層13の材質としてアルミニウムを採用し、これを斜め蒸着法によってゲート電極5上のみに成膜して犠牲層13とする。犠牲層13の厚さは100オングストローム程度とする。
【0041】
図8に示すように、犠牲層13で覆われたゲート電極5の上方から、正蒸着法によってMoを蒸着させる。すなわち、図示しない回転テーブル等に基板1全体を載せて回転させながら、基板1の表面に対して略垂直方向からMoを蒸着させる。この正蒸着法によれば、絶縁層4のホール6内で露出している抵抗層3の表面にMoが堆積して円錐状のエミッタ7が形成される。また、ゲート電極5の表面を覆う犠牲層13の上にもMoが堆積する。写真4は、ホール6内の抵抗層3の上に円錐状のエミッタ7が形成され、ゲート電極5の上にもMoが層をなして堆積している状態を示している。
【0042】
図9に示すように、アルカリにより犠牲層13を溶解してエミッタ7以外のMoを除去する。写真5は、ゲート電極5の上に堆積していたMoが除去され、抵抗層3のホールから内部のエミッタ7が覗いている状態を示している。
【0043】
図10は、ゲート電極及び絶縁層のホールの開口径が1μm程度である従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真であり、図11(a)は図10と同一の縮尺で表した本例により製造された冷陰極電子源10の断面を表す電子顕微鏡写真である。両写真から分かるように、本例の冷陰極電子源10は、従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源に比べて非常に小さい。また、図11(b)の拡大写真に示すように、本例の冷陰極電子源10は、ゲート電極5のホール6の径が所定の寸法範囲内でばらついており、図10の写真のような従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源や、「背景技術」の項で説明した「特許文献1」に記載の荷電粒子トラックを用いる方法で形成したゲート電極のホールのように、ホール径が均一になってはいない。
【0044】
図12は、本例により製造された冷陰極電子源10におけるホール径の分布を例示するヒストグラムである。このヒストグラムに示すホール径の分布は、40〜300nm(0.04〜0.3μm)である。
【0045】
このように本例の冷陰極電子源10によれば、多数形成されたゲート電極5のホール6の径が具体的には0.04μm〜0.3μmの範囲内でばらついて分布するので、絶縁層4のホール6の径やエミッタ7の寸法についても一定範囲内でのばらつきが生じるため、工程変動によりホールの径が全体的に大きく又は小さくなっても、全ての電子放出素子から全く電子が放出されなくなることはなく、所定の駆動電圧に対して、常に何れかのエミッタ7から電子放出が得られるため、駆動制御が容易になる。
【0046】
また、本例の製造工程乃至本例の製法により製造された冷陰極電子源10によれば、荷電粒子の照射装置のような大掛かりで高価な設備が必要なく、0.04μm〜0.3μmの範囲内で内径がばらつくようにゲート電極5にホール6を形成する作業を、簡単且つ短時間で高い生産性をもって低コストで行なうことができる他、以下に示すような効果が得られる。
【0047】
ゲート電極5のホール6の生成のために単位面積毎の露光又は荷電粒子照射を要しないので、単位面積毎の露光条件等の変動によるホール径のばらつき、それに起因する表示素子としての表示むらが出ない。
【0048】
電界強度が強く働くので低電圧でエミッションが得られ、そのため駆動電圧が低くなる。
【0049】
エミッタ7が小さいので膜の材料コストが少ない。
【0050】
1画素あたりのエミッタ7の数を増やすことができるので表示品位が向上する。
【0051】
3.第1実施形態の製造方法の変形例
以上説明した第1実施形態の製造方法では、性質が異なる2種類のポリマーとしては、水溶性のPEI(ポリエチレンイミン)と、非水溶性のPMMA(ポリメチルメタクリレート)を挙げ、両ポリマーを溶解させる有機溶媒としては、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)及びメタノールを例示した。
【0052】
しかしながら、本発明に適用可能なポリマーと溶剤は上記のものだけでなく、これらを含めて例えば下記に列記したものが使用可能であり、これらを用いた第1実施形態と異なるポリマーや溶剤の組み合わせによる変形例によっても、第1実施形態と同等の効果が得られる。
【0053】
3.1 水溶性ポリマーと非水溶性ポリマーの具体例
(1)水溶性ポリマー(有機溶媒に溶解する水溶性ポリマー)
PVP(ポリビニルピロリドン)
HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)
PVA(ポリビニルアルコール)
PEG(ポリエチレングリコール)
PEI(ポリエチレンイミン) etc.
【0054】
(2)非水溶性ポリマー(有機溶媒に能く溶解する非水溶性ポリマー)
EC(エチルセルロール)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)
PC(ポリカーボネート)
PET(ポリエチレンテレフタレート)
ポリエチレン
ポリスチレン
【0055】
上記の2つのポリマー群から一つずつ選択した組み合わせの中で特に好ましい組み合わせとしては、第1実施形態で説明したPEIとPMMAの他、PVPとEC、HPCとPMMAが例示できる。
【0056】
3.2 良好な有機溶媒
溶媒は、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させるために必要であり、好適な溶媒としては以下に例示するような有機溶媒を挙げることができる。
【0057】
(1)比較的沸点の高い有機溶媒
PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)
テルピネオール
乳酸エチル
酢酸ブチル
【0058】
これらの有機溶媒を単独又は組み合わせて使用できる。これらは、基本的には沸点が100℃以上であり比較的蒸気圧が高い有機溶媒である。なお、テルピネオールは、水溶性ポリマーの溶解度の方が、非水溶性ポリマーの溶解度よりも小さいので、ポリマー溶液の塗布後の乾燥において、水溶性ポリマーの方が先に析出するため、単独の溶媒として使用するのに適している。また、これらの有機溶媒に、水溶性ポリマーの溶解性を制御するために下記のような比較的沸点の低い有機溶媒を適宜添加して使用することができる。
【0059】
(2)比較的沸点の低い有機溶媒
IPA
メタノール、その他のアルコール類
クロロホルム
【0060】
上述したような比較的沸点の高い有機溶媒と、比較的沸点の低い有機溶媒との組み合わせにより、水溶性ポリマーと非水溶性ポリマーを溶解させる場合には、比較的沸点が高い方の有機溶媒に対する溶解度については、水溶性ポリマーよりも非水溶性ポリマーの方が高く、比較的沸点が低い方の有機溶媒に対する溶解度については、非水溶性ポリマーよりも水溶性ポリマーの方が高いことが必要である。この条件を満たせば、ポリマー溶液の成膜後、有機溶媒の蒸発に伴って、非水溶性ポリマーよりも先に水溶性ポリマーが層分離して微粒子状に析出することができるので、この析出した水溶性ポリマーを現像によって除去すれば、第1実施形態で説明したようにエッチング工程に利用できるマスクを製造する出発点とすることができる。
【0061】
要するに、2種類のポリマーを溶解させるための溶媒としては、ポリマー溶液の塗布・乾燥工程において、2種類のポリマーの溶媒に対する溶解性の差異によって、一方のポリマーが他方のポリマー内で層分離特性のために先に微粒子状に析出するようにできるものであれば、単独の溶媒又は組み合わせた複数の溶媒のいずれであっても、採用することができる。
【0062】
4.第2実施形態の製造方法
本実施形態は、2種類のポリマーを有機溶媒で溶解し、第1実施形態と同様の工程を経て製造を進めるが、現像工程では第1実施形態と異なり、析出した微粒子状のポリマーを現像液としての溶剤で現像・除去することを特徴とするものである。
【0063】
本例においては、第1のポリマーとしての水溶性のポリマーは、3.1(1)に挙げた水溶性ポリマーのいずれでも良い。また、第2のポリマーとしての非水溶性のポリマーは、PC(ポリカーボネート)とする。また、両ポリマーを溶解させる溶媒としては、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)とIPAを使用する。また、現像液としてはIPAを使用する。
本例によっても、第1実施形態と同様の工程を経ることにより、同様の効果を得ることができる。
【0064】
5.第3実施形態の製造方法
本実施形態は、第1実施形態において、エミッタ7を形成する図8以降の工程が異なっている。第1実施形態ではスピント型のエミッタ7を形成するために犠牲層13を設けたゲート電極5の上方からMoを蒸着したが、本例では、ゲート電極5及び絶縁層4のホール6内で露出している抵抗層3の上に、カーボンナノチューブを堆積させてスピント型とは異なる別種のエミッタ7を形成する。
本例の製造方法及び本例によって製造した冷陰極電子源によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
6.第4実施形態の製造方法
本実施形態は、第1実施形態において、図3に示す工程においてポリマーBにアルミニウムの保護層12を形成せず、図4に示すRIEを行なう方法であり、その他の工程は第1実施形態と同様である。本例の場合は、ポリマーBにRIEにおける耐エッチング性が必要となるので、使用できるポリマーを選択する必要がある。ポリマーAとしては、アルミニウムの保護層12を設ける第1実施形態の場合と同じ種類のものを使用できる。ポリマーBとしては、RIEにおける耐エッチング性を有するポリマーとして、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ノボラック樹脂等、アリール基を含むポリマーが選択可能である。有機溶媒としては、アルミニウムの保護層12を設ける第1実施形態の場合と同じ種類のものを使用できる。
本例の製造方法及び本例によって製造した冷陰極電子源によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる他、工数削減、保護膜の材料費削減等の更なる効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
1…基板
2…カソード電極
3…抵抗層
4…絶縁層
5…ゲート電極
6…絶縁層とゲート電極に形成されたホール
7…エミッタ
9…ポリマー層に形成されたエッチングホール
10…冷陰極電子源
12…保護層
13…犠牲層
A…第1のポリマーである水溶性のポリマー
B…第2のポリマーである非水溶性のポリマー
a…溶媒
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード電極の上に形成された絶縁層とゲート電極にホールが形成されており、該ホールの底部にはカソード電極に導通するエミッタが設けられた構造の冷陰極電子源に係り、特に広い面積に短時間でホール加工を施すことができ、形成されるホール径に一定範囲内でのばらつきがあるような冷陰極電子源の製造方法と、係る方法によって製造された冷陰極電子源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なスピント型の冷陰極電子源は、基板上に形成されたカソード電極の上に絶縁層とゲート電極が積層されており、この絶縁層とゲート電極にはホールが形成され、該ホールの底部にはカソード電極に導通するように円錐形状のエミッタが設けられた構造とされている。
【0003】
かかる一般的なスピント型の冷陰極電子源においては、ゲート電極及び絶縁層の前記ホールの開口径は通常1μm程度である。この開口径を平均径0.1〜0.2μmとし、併せて絶縁層の厚さを薄くすることで、電子放出素子の密度を向上させ、駆動電圧の低減を図る方法として、下記特許文献1に示すように、荷電粒子トラックを用いるホール形成方法が知られている。
【0004】
特許文献1にて開示された方法によれば、まずレジスト等からなるトラック層に荷電粒子をランダムに通過させ、該トラック層に多数の荷電粒子トラックをランダムに形成する。そして、荷電粒子が通過した後の該トラック層をエッチングすると、該トラック層は荷電粒子トラックに沿ってエッチングされ、トラック層の対応部分に開口空間が形成される。次に、電子放出性素子をトラック層の開口空間の比較的中央に位置する部分に形成する(前記文献の特に図5、図10及びこれらの図に対応する記載を参照されたい。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平9−504900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に示した荷電粒子トラックを用いるホール形成方法によれば、高エネルギーの荷電粒子を形成するために、加速器に準じた大掛かりな装置が必要になるという問題があった。
【0007】
また、このようなホール形成方法によって、平面表示素子の電子源として前記冷陰極電子源を形成する場合には、均一に荷電粒子を照射できる面積はある程度限られるため、表示装置のような大面積の加工には、照射可能な面積を単位として照射を全面にわたって繰り返すことが必要になるため、製造のプロセス時間が長くなり、装置は更に複雑化して高価なものにならざるを得ない。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、大掛かりな装置を用いることなく、簡単な工程である程度の面積を一度に加工することが可能な冷陰極電子源の製造方法と、係る方法により製造される冷陰極電子源を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された冷陰極電子源の製造方法は、
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源の製造方法において、
互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーと第2のポリマーを前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い溶媒を用いて互いに溶解させ、前記ホールが形成される以前の前記ゲート電極の表面に被着させる工程と、
前記溶媒を蒸発させることにより、前記第2のポリマー中に前記第1のポリマーを微粒子状に析出させて固定化する工程と、
前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い現像液を用いて、微粒子状に析出した前記第1のポリマーを除去することにより、前記第2のポリマーにエッチングホールを形成する工程と、
前記エッチングホールを介してエッチングを行なうことにより前記ゲート電極にホールを形成する工程と、
を有することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記現像液が水であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記現像液が有機溶媒であることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記溶媒が単一種類の有機溶媒からなることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記溶媒が、前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が高い第1の有機溶媒と、前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が低い第2の有機溶媒とを含むことを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法において、前記エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、前記エッチングホールが形成された前記第2のポリマーの表面に、ドライエッチングから前記第2のポリマーを保護するための保護層を設けることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載された冷陰極電子源は、
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源において、
多数形成された前記ホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内においてばらついて分布していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させているので、ゲート電極の表面に被着させた両ポリマーの溶解液から溶媒を蒸発させれば、第2のポリマー中に第1のポリマーを層分離特性により連続することなく微粒子状に析出させることができ、第1のポリマーからなる多数の微粒子を、母材となる第2のポリマー内に点在した状態で固定化することができる。従って、このように微粒子状に析出した第1のポリマーを現像液で除去すれば、微細で径寸法に所定のばらつきがあるエッチングホールを第2のポリマー中に多数形成することができる。従って、このエッチングホールを介してエッチングを行なうことにより、ある程度の面積のゲート電極に対して、微細で径寸法にばらつきがあるホールを一度に形成することができる。
【0017】
請求項2に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、微粒子状に析出した第1のポリマーを水で除去することにより、第2のポリマー中に微細で径寸法にばらつきがあるエッチングホールを多数形成することができる。
【0018】
請求項3に記載された冷陰極電子源の製造方法は、請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、微粒子状に析出した第1のポリマーを有機溶媒で除去することにより、第2のポリマー中に微細で径寸法にばらつきがあるエッチングホールを多数形成することができる。
【0019】
請求項4に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、単一種類の有機溶媒により、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させることができ、該有機溶媒に対する両ポリマーの溶解度の差異によって該有機溶媒の蒸発時に第1のポリマーが析出する作用効果を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、第1及び第2の各ポリマーに対する溶解度が異なる沸点が高い第1の有機溶媒と沸点が低い第2の有機溶媒により、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させることができ、両有機溶媒に対する両ポリマーの溶解度の大小が互いに逆であることにより、有機溶媒の蒸発時に第1のポリマーが析出する作用効果を得ることができる。
【0021】
請求項6に記載された冷陰極電子源の製造方法によれば、請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法による効果において、エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、エッチングホールが形成された第2のポリマーの表面に保護層を設けてドライエッチング耐性を持たせるので、ドライエッチングに対する耐性が小さい第2のポリマーであって、エッチングで除去したくない表面部分に損傷を与えることがなく、エッチングホールの底に残っている第2のポリマー及びその下にあるゲート電極と、エッチングホールの底に露出しているゲート電極のみをエッチングすることができる。
【0022】
請求項7に記載された冷陰極電子源によれば、多数形成されたホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内でばらついて分布するので、製造した冷陰極電子源においては各電子放出素子の寸法について一定範囲内でのばらつきが生じるため、工程変動によりホールの径が全体的に大きく又は小さくなっても、全ての電子放出素子から全く電子が放出されなくなることはなく、所定の駆動電圧の範囲を保持している限り、常に電子放出を得ることができ、これによって駆動制御が容易になる効果がある。逆に、本発明と異なり、ホールの径が均一に過ぎると、設定された所定の駆動電圧において、すべての電子放出素子から電子が全く放出されなくなる場合が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるポリマー溶液のコート工程を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における現像工程を示す模式的断面図と、平面視による電子顕微鏡写真(写真1)を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における保護層の形成工程を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるドライエッチング工程を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における剥離工程を示す模式的断面図と、平面視による電子顕微鏡写真(写真2)である。
【図6】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるウェットエッチング工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真3)である。
【図7】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法における犠牲層の形成工程を示す模式的断面図である。
【図8】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるMoの蒸着工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真4)である。
【図9】本発明の実施形態である陰極電子源の製造方法におけるMoの除去工程を示す模式的断面図と、同断面の電子顕微鏡写真(写真5)である。
【図10】ゲート電極及び絶縁層のホールの開口径が1μm程度である従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真である。
【図11】(a)は図10と同一の縮尺で表した本例により製造された陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真であり、(b)は同(a)の要部を拡大して示す電子顕微鏡写真である。
【図12】本発明の製造方法で製造された陰極電子源におけるホール径の分布を一例として示すヒストグラムである。
【図13】本発明の陰極電子源の製造方法におけるホール形成原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.本実施形態の基本原理
本例に係る冷陰極電子源の製造方法は、後に説明する製造方法の最終工程である図9に示すように、基板1上に設けられたカソード電極2及び抵抗層3と、抵抗層3の上に形成された絶縁層4と、絶縁層4の上に形成されたゲート電極5と、ゲート電極5と絶縁層4に形成されたホール6の底部においてカソード電極2に導通するように抵抗層3に形成されたエミッタ7とを有する冷陰極電子源10の製造方法に係るものであり、特に前記ゲート電極5にホール6を形成する方法に関するものである。なお、本例に係る冷陰極電子源10の構成上、抵抗層3は必ずしも必須ではなく、カソード電極2の上に直接エミッタ7が設けられた構成でもよい。
【0025】
その原理的な特徴は、ホール6を形成するエッチングのためのマスクを、ポリマーを用いて製造する点にある。
すなわち、図13(a)に示すように相互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーAと第2のポリマーBを溶媒aを用いて互いに溶解させると、図13(b)に示すように溶媒aが蒸発することにより溶解性の高い第2のポリマーB中に溶解性の低い第1のポリマーAが層分離特性により微粒子状に析出し、図13(c)に示すように溶媒aがさらに蒸発すると第1のポリマーAは互いに凝集する前に微粒子状のまま第2のポリマーBによって固定化されるというものである。この現象をホールを形成する前のゲート電極5上で生じさせ、微粒子状に析出して固定化された第1のポリマーAを、これを溶解する現像液によって除去すれば、ゲート電極5上には、微細な孔が多数形成された第2のポリマーBの層が残る。これをマスクとして利用し、第1のポリマーAの除去によって形成された孔をエッチングホールとしてエッチングを行なえば、微細なホール6をゲート電極5に形成することができる。
【0026】
2.第1実施形態の製造方法
次に、上述した原理を実際に用いてゲート電極5にホール6を形成し、その他の工程を経て冷陰極電子源10を製造する方法について説明する。
本例では、水溶性で、後述する有機溶媒について一定の溶解度を有する第1のポリマーAであるPEI(ポリエチレンイミン)と、非水溶性で、後述する有機溶媒について第1のポリマーAよりも高い溶解度を有する第2のポリマーBであるPMMA(ポリメチルメタクリレート)を使用する。両ポリマーA,Bを、前述した有機溶媒であるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)及びメタノールに混合し、両ポリマーA,Bを溶解し、ポリマー溶液とする。
ここで両ポリマーA,Bを分子レベルまで完全に溶解すると、析出時に第1のポリマーAが均一に分散して析出するのでより好ましい。
【0027】
水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBの混合比は、ホール形成において重要である。非水溶性のポリマーB中に、析出した水溶性のポリマーAが分散した状態になることが必要であり、水溶性のポリマーAの比率が多いと粒子密度が上がるわけでなく、粒子が凝集し始めて大きな粒子となってしまう。そこで、本実施形態における両ポリマーA,Bの混合比率は、体積比で非水溶性のポリマーBを1とすると、水溶性のポリマーAを0. 05〜0. 15の範囲とし、これによって良好な結果を得た。
【0028】
図1に示すように、基板1上にカソード電極2及び抵抗層3を設け、抵抗層3の上に絶縁層4を形成し、さらに絶縁層4の上にゲート電極5を形成する。このような基板1を用意し、そのゲート電極5の上に,水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBを含む前記ポリマー溶液を適当な膜厚でコートする。
【0029】
また、このコート工程では、基板1上にポリマー溶液を塗布して基板1を回転することにより、遠心力でポリマー溶液を被膜状に広げるスピンコート法を用いることができるが、成膜手段・方法としてはこれに限らず、ローラによってポリマー溶液を基板1に塗布するロールコート法や、インクジェット装置を用いてポリマー溶液を基板1に吐出して塗布するインクジェット法を用いても良い。
【0030】
コートするポリマー溶液の膜厚については、析出する水溶性のポリマーAの微粒子は球状なので、この微粒子径より膜厚が厚いと当該析出物が膜中に内包されてホール形成に寄与しないものとなり、粒子密度が低下して非効率になる。逆に薄すぎると、ホールの形成後、後述する保護層の形成工程において不都合が生じる。すなわち、ホールが形成された非水溶性のポリマーBの表面にドライエッチングを防ぐための保護層をアルミ層で形成する工程があるが、その工程において行なうアルミの斜め蒸着時に、アルミがポリマーBの表面だけでなく、ホールの底にも付着するのでホール内のエッチングによるゲート電極5のホール形成ができなくなってしまう。そこで、膜厚は、粒子径が0.1μm〜0.2μm(1000Å〜2000Å)とすれば、0.1μm〜0.15μm(1000Å〜1500Å)となるようにすることが好ましい。
【0031】
図1に示すように、ゲート電極5の上にコートした前記ポリマー溶液を乾燥させる。ポリマー溶液は、水溶性のポリマーAが、非水溶性のポリマーB中に分子レベルで分散するように、両ポリマーが互いに溶解した状態にあるので、ゲート電極5の表面に被着させたポリマー溶液から溶媒が蒸発すれば、図1に示すように、非水溶性のポリマーB中に水溶性のポリマーAが層分離特性により連続することなく微粒子状に析出し、水溶性のポリマーAからなる多数の微粒子が、母材となる非水溶性のポリマーB中に点在した状態が固定化される。
【0032】
前述したように、ホール形成の原理は、分子レベルで混合した2種のポリマーが溶媒の蒸発ともに溶解度の差により析出が起こり、析出物が凝集する前に母材(マトリックス)側である非水溶性のポリマーBに固定化される現象を応用している。これは、水溶性のポリマーAと非水溶性のポリマーBがお互いに混ざり合わずに層分離することが前提である。したがって乾燥が速すぎると析出する粒子が小さくなり、乾燥が遅すぎると析出する粒子が大きくなるので、その他の条件も勘案して求める微粒子の粒径から実験的に定めることが好ましい。
【0033】
なお、ポリマー溶液からの溶剤の乾燥は、溶剤として蒸発しにくい(乾燥しにくい)テルピネオール等以外の蒸発しやすい有機溶媒を使用したのであれば、コート工程にスピンコート法を採用した場合には、コート中にポリマー溶液が自然乾燥してポリマーAの析出も完了する。しかしながら、使用する有機溶媒の種類によっては、例えばテルピネオールのように蒸発しにくい場合もあるので、そのような場合には自然乾燥に任せずに加熱手段を用いて加熱乾燥し、工程の進行を早めても良い。
【0034】
図2に示すように、基板1の全体を水槽中の水に漬け込み、水を現像液として、微粒子状に析出している水溶性のポリマーAを溶解して除去する。これにより、非水溶性のポリマーBにエッチングホール9を形成する。写真1は、非水溶性のポリマーBに、ホール径が所定の範囲でばらついている多数のエッチングホール9が、アトランダムな位置に形成されている状態を示している。
【0035】
図3に示すように、エッチングホール9が形成された非水溶性のポリマーBの表面に、ドライエッチングから当該ポリマーBを保護するための保護層12を設ける。本例では、保護層12の材質としてアルミニウムを採用し、これを蒸着によってポリマーB上に成膜して保護層12とし、ドライエッチングとして行なう反応性イオンエッチング(RIEと称する。)に対する耐性が弱いポリマーBの表面を保護し、エッチングホール9が形成されたポリマーBの層をマスクとして利用できるようにする。保護層12の厚さは100オングストロームから200オングストロームとする。
【0036】
ここで、アルミニウムの蒸着には、斜め蒸着法を採用する。すなわち、図示しない回転テーブル等に基板1全体を載せて回転させながら、基板1の表面に対して斜めから(例えば10°程度の角度で)アルミニウムを蒸着させる。この斜め蒸着法によれば、RIEに対する耐性が小さいポリマーBのうち、エッチングで除去したくない表面のみに保護膜が形成され、エッチングホール9の底に残っているポリマーBや、その下に露出しているゲート層には保護層12は形成されない。
【0037】
図4に示すように、保護層12の真上から下向きにRIEを行なう。保護層12に保護されていないエッチングホール9内のポリマーB及び当該ポリマーBの下にあるゲート電極5と、ポリマーBのエッチングホール9内に露出しているゲート電極5はRIEによってエッチングされ、彫り込まれた状態のホール6となる。
【0038】
図5に示すように、アルカリと有機溶媒を用いてポリマーBの膜を保護層12ごと除去する。写真2は、ゲート電極5に、ホール径が所定の範囲にばらついている多数のホール6が、アトランダムな位置に形成されている状態を示している。
【0039】
図6に示すように、ホール6が形成されたゲート電極5をマスクとしてフッ酸を適用することにより絶縁層4をウェットエッチングする。絶縁層4には、ゲート電極5の各ホール6に続けて、ゲート電極5の各ホール6よりもやや拡径されたホール6がそれぞれ形成され、その底にはカソード電極2に設けられた抵抗層3の表面が露出する。写真3は、ゲート電極5のホール6の下方の絶縁層4に、拡大されたホール6が形成された状態を示している。
【0040】
図7に示すように、ホール6が形成されたゲート電極5の表面に、後工程でエミッタ7形成のためにMoを蒸着する際に、ゲート電極5上に堆積してしまうMoを剥離・除去するための犠牲層13を設ける。本例では、犠牲層13の材質としてアルミニウムを採用し、これを斜め蒸着法によってゲート電極5上のみに成膜して犠牲層13とする。犠牲層13の厚さは100オングストローム程度とする。
【0041】
図8に示すように、犠牲層13で覆われたゲート電極5の上方から、正蒸着法によってMoを蒸着させる。すなわち、図示しない回転テーブル等に基板1全体を載せて回転させながら、基板1の表面に対して略垂直方向からMoを蒸着させる。この正蒸着法によれば、絶縁層4のホール6内で露出している抵抗層3の表面にMoが堆積して円錐状のエミッタ7が形成される。また、ゲート電極5の表面を覆う犠牲層13の上にもMoが堆積する。写真4は、ホール6内の抵抗層3の上に円錐状のエミッタ7が形成され、ゲート電極5の上にもMoが層をなして堆積している状態を示している。
【0042】
図9に示すように、アルカリにより犠牲層13を溶解してエミッタ7以外のMoを除去する。写真5は、ゲート電極5の上に堆積していたMoが除去され、抵抗層3のホールから内部のエミッタ7が覗いている状態を示している。
【0043】
図10は、ゲート電極及び絶縁層のホールの開口径が1μm程度である従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源の断面を表す電子顕微鏡写真であり、図11(a)は図10と同一の縮尺で表した本例により製造された冷陰極電子源10の断面を表す電子顕微鏡写真である。両写真から分かるように、本例の冷陰極電子源10は、従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源に比べて非常に小さい。また、図11(b)の拡大写真に示すように、本例の冷陰極電子源10は、ゲート電極5のホール6の径が所定の寸法範囲内でばらついており、図10の写真のような従来の一般的なスピント型の冷陰極電子源や、「背景技術」の項で説明した「特許文献1」に記載の荷電粒子トラックを用いる方法で形成したゲート電極のホールのように、ホール径が均一になってはいない。
【0044】
図12は、本例により製造された冷陰極電子源10におけるホール径の分布を例示するヒストグラムである。このヒストグラムに示すホール径の分布は、40〜300nm(0.04〜0.3μm)である。
【0045】
このように本例の冷陰極電子源10によれば、多数形成されたゲート電極5のホール6の径が具体的には0.04μm〜0.3μmの範囲内でばらついて分布するので、絶縁層4のホール6の径やエミッタ7の寸法についても一定範囲内でのばらつきが生じるため、工程変動によりホールの径が全体的に大きく又は小さくなっても、全ての電子放出素子から全く電子が放出されなくなることはなく、所定の駆動電圧に対して、常に何れかのエミッタ7から電子放出が得られるため、駆動制御が容易になる。
【0046】
また、本例の製造工程乃至本例の製法により製造された冷陰極電子源10によれば、荷電粒子の照射装置のような大掛かりで高価な設備が必要なく、0.04μm〜0.3μmの範囲内で内径がばらつくようにゲート電極5にホール6を形成する作業を、簡単且つ短時間で高い生産性をもって低コストで行なうことができる他、以下に示すような効果が得られる。
【0047】
ゲート電極5のホール6の生成のために単位面積毎の露光又は荷電粒子照射を要しないので、単位面積毎の露光条件等の変動によるホール径のばらつき、それに起因する表示素子としての表示むらが出ない。
【0048】
電界強度が強く働くので低電圧でエミッションが得られ、そのため駆動電圧が低くなる。
【0049】
エミッタ7が小さいので膜の材料コストが少ない。
【0050】
1画素あたりのエミッタ7の数を増やすことができるので表示品位が向上する。
【0051】
3.第1実施形態の製造方法の変形例
以上説明した第1実施形態の製造方法では、性質が異なる2種類のポリマーとしては、水溶性のPEI(ポリエチレンイミン)と、非水溶性のPMMA(ポリメチルメタクリレート)を挙げ、両ポリマーを溶解させる有機溶媒としては、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)及びメタノールを例示した。
【0052】
しかしながら、本発明に適用可能なポリマーと溶剤は上記のものだけでなく、これらを含めて例えば下記に列記したものが使用可能であり、これらを用いた第1実施形態と異なるポリマーや溶剤の組み合わせによる変形例によっても、第1実施形態と同等の効果が得られる。
【0053】
3.1 水溶性ポリマーと非水溶性ポリマーの具体例
(1)水溶性ポリマー(有機溶媒に溶解する水溶性ポリマー)
PVP(ポリビニルピロリドン)
HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)
PVA(ポリビニルアルコール)
PEG(ポリエチレングリコール)
PEI(ポリエチレンイミン) etc.
【0054】
(2)非水溶性ポリマー(有機溶媒に能く溶解する非水溶性ポリマー)
EC(エチルセルロール)
PMMA(ポリメチルメタクリレート)
PC(ポリカーボネート)
PET(ポリエチレンテレフタレート)
ポリエチレン
ポリスチレン
【0055】
上記の2つのポリマー群から一つずつ選択した組み合わせの中で特に好ましい組み合わせとしては、第1実施形態で説明したPEIとPMMAの他、PVPとEC、HPCとPMMAが例示できる。
【0056】
3.2 良好な有機溶媒
溶媒は、第1のポリマーが第2のポリマー中に分子レベルで分散した状態となるように両ポリマーを互いに溶解させるために必要であり、好適な溶媒としては以下に例示するような有機溶媒を挙げることができる。
【0057】
(1)比較的沸点の高い有機溶媒
PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)
テルピネオール
乳酸エチル
酢酸ブチル
【0058】
これらの有機溶媒を単独又は組み合わせて使用できる。これらは、基本的には沸点が100℃以上であり比較的蒸気圧が高い有機溶媒である。なお、テルピネオールは、水溶性ポリマーの溶解度の方が、非水溶性ポリマーの溶解度よりも小さいので、ポリマー溶液の塗布後の乾燥において、水溶性ポリマーの方が先に析出するため、単独の溶媒として使用するのに適している。また、これらの有機溶媒に、水溶性ポリマーの溶解性を制御するために下記のような比較的沸点の低い有機溶媒を適宜添加して使用することができる。
【0059】
(2)比較的沸点の低い有機溶媒
IPA
メタノール、その他のアルコール類
クロロホルム
【0060】
上述したような比較的沸点の高い有機溶媒と、比較的沸点の低い有機溶媒との組み合わせにより、水溶性ポリマーと非水溶性ポリマーを溶解させる場合には、比較的沸点が高い方の有機溶媒に対する溶解度については、水溶性ポリマーよりも非水溶性ポリマーの方が高く、比較的沸点が低い方の有機溶媒に対する溶解度については、非水溶性ポリマーよりも水溶性ポリマーの方が高いことが必要である。この条件を満たせば、ポリマー溶液の成膜後、有機溶媒の蒸発に伴って、非水溶性ポリマーよりも先に水溶性ポリマーが層分離して微粒子状に析出することができるので、この析出した水溶性ポリマーを現像によって除去すれば、第1実施形態で説明したようにエッチング工程に利用できるマスクを製造する出発点とすることができる。
【0061】
要するに、2種類のポリマーを溶解させるための溶媒としては、ポリマー溶液の塗布・乾燥工程において、2種類のポリマーの溶媒に対する溶解性の差異によって、一方のポリマーが他方のポリマー内で層分離特性のために先に微粒子状に析出するようにできるものであれば、単独の溶媒又は組み合わせた複数の溶媒のいずれであっても、採用することができる。
【0062】
4.第2実施形態の製造方法
本実施形態は、2種類のポリマーを有機溶媒で溶解し、第1実施形態と同様の工程を経て製造を進めるが、現像工程では第1実施形態と異なり、析出した微粒子状のポリマーを現像液としての溶剤で現像・除去することを特徴とするものである。
【0063】
本例においては、第1のポリマーとしての水溶性のポリマーは、3.1(1)に挙げた水溶性ポリマーのいずれでも良い。また、第2のポリマーとしての非水溶性のポリマーは、PC(ポリカーボネート)とする。また、両ポリマーを溶解させる溶媒としては、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)とIPAを使用する。また、現像液としてはIPAを使用する。
本例によっても、第1実施形態と同様の工程を経ることにより、同様の効果を得ることができる。
【0064】
5.第3実施形態の製造方法
本実施形態は、第1実施形態において、エミッタ7を形成する図8以降の工程が異なっている。第1実施形態ではスピント型のエミッタ7を形成するために犠牲層13を設けたゲート電極5の上方からMoを蒸着したが、本例では、ゲート電極5及び絶縁層4のホール6内で露出している抵抗層3の上に、カーボンナノチューブを堆積させてスピント型とは異なる別種のエミッタ7を形成する。
本例の製造方法及び本例によって製造した冷陰極電子源によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
6.第4実施形態の製造方法
本実施形態は、第1実施形態において、図3に示す工程においてポリマーBにアルミニウムの保護層12を形成せず、図4に示すRIEを行なう方法であり、その他の工程は第1実施形態と同様である。本例の場合は、ポリマーBにRIEにおける耐エッチング性が必要となるので、使用できるポリマーを選択する必要がある。ポリマーAとしては、アルミニウムの保護層12を設ける第1実施形態の場合と同じ種類のものを使用できる。ポリマーBとしては、RIEにおける耐エッチング性を有するポリマーとして、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ノボラック樹脂等、アリール基を含むポリマーが選択可能である。有機溶媒としては、アルミニウムの保護層12を設ける第1実施形態の場合と同じ種類のものを使用できる。
本例の製造方法及び本例によって製造した冷陰極電子源によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる他、工数削減、保護膜の材料費削減等の更なる効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
1…基板
2…カソード電極
3…抵抗層
4…絶縁層
5…ゲート電極
6…絶縁層とゲート電極に形成されたホール
7…エミッタ
9…ポリマー層に形成されたエッチングホール
10…冷陰極電子源
12…保護層
13…犠牲層
A…第1のポリマーである水溶性のポリマー
B…第2のポリマーである非水溶性のポリマー
a…溶媒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源の製造方法において、
互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーと第2のポリマーを前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い溶媒を用いて互いに溶解させ、前記ホールが形成される以前の前記ゲート電極の表面に被着させる工程と、
前記溶媒を蒸発させることにより、前記第2のポリマー中に前記第1のポリマーを微粒子状に析出させて固定化する工程と、
前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い現像液を用いて、微粒子状に析出した前記第1のポリマーを除去することにより、前記第2のポリマーにエッチングホールを形成する工程と、
前記エッチングホールを介してエッチングを行なうことにより前記ゲート電極にホールを形成する工程と、
を有することを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項2】
前記現像液が水である請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項3】
前記現像液が有機溶媒である請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、単一種類の有機溶媒からなる請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が高い第1の有機溶媒と、前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が低い第2の有機溶媒とを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項6】
前記エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、前記エッチングホールが形成された前記第2のポリマーの表面に、ドライエッチングから前記第2のポリマーを保護するための保護層を設けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項7】
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源において、
多数形成された前記ホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内においてばらついて分布していることを特徴とする冷陰極電子源。
【請求項1】
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源の製造方法において、
互いに溶け合わない性質を有する第1のポリマーと第2のポリマーを前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い溶媒を用いて互いに溶解させ、前記ホールが形成される以前の前記ゲート電極の表面に被着させる工程と、
前記溶媒を蒸発させることにより、前記第2のポリマー中に前記第1のポリマーを微粒子状に析出させて固定化する工程と、
前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い現像液を用いて、微粒子状に析出した前記第1のポリマーを除去することにより、前記第2のポリマーにエッチングホールを形成する工程と、
前記エッチングホールを介してエッチングを行なうことにより前記ゲート電極にホールを形成する工程と、
を有することを特徴とする冷陰極電子源の製造方法。
【請求項2】
前記現像液が水である請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項3】
前記現像液が有機溶媒である請求項1記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、単一種類の有機溶媒からなる請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、前記第1のポリマーの溶解度よりも前記第2のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が高い第1の有機溶媒と、前記第2のポリマーの溶解度よりも前記第1のポリマーの溶解度の方が高い相対的に沸点が低い第2の有機溶媒とを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項6】
前記エッチングホールを介してドライエッチングを行なう前に、前記エッチングホールが形成された前記第2のポリマーの表面に、ドライエッチングから前記第2のポリマーを保護するための保護層を設けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷陰極電子源の製造方法。
【請求項7】
カソード電極と、前記カソード電極の上に形成された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極と前記絶縁層に形成されたホールの底部において前記カソード電極に導通するように形成されたエミッタとを有する冷陰極電子源において、
多数形成された前記ホールの径が0.04μm〜0.3μmの範囲内においてばらついて分布していることを特徴とする冷陰極電子源。
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図7】
【図12】
【図13】
【図2】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−225297(P2010−225297A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68035(P2009−68035)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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