説明

処理方法および処理装置

【課題】殺菌作用あるいは酵素失活作用が高い処理方法および処理装置を提供すること。
【解決手段】微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理方法であって、第一温度T1且つ第一圧力P1のもとで二酸化炭素の微細気泡を被処理物と混合する気泡混合工程と、第一温度T1より高い第二温度T2且つ第一圧力P1よりも高い第二圧力P2のもとで被処理物を保持する処理工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理方法、およびこの処理方法に用いる処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素を用いて食品や飲料などの殺菌を行うことが知られている。たとえば、特許文献1には、微生物が混入している液状物に対して、5気圧ないし70気圧の範囲の分圧で気体状態の二酸化炭素を溶解する工程と、液状物と二酸化炭素との混合物の圧力を急速に低下させる工程とを交互に繰り返すことによって、液状物に混入した微生物の少なくとも一部を死滅させることができる殺菌方法が開示されている。
【0003】
また、気体状態の二酸化炭素ではなく、超臨界状態の二酸化炭素を用いて食品や飲料などの殺菌を行うことも知られている。超臨界状態の二酸化炭素は、温度と圧力とが臨界点を超えた状態の二酸化炭素であり、固体、液体、気体の何れの相とも異なるものである。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、温度が304.1K(臨界温度)、圧力が7.38MPa(臨界圧力)である相図上の点として知られている。超臨界状態の二酸化炭素は、気体状態の二酸化炭素よりも高い殺菌作用があることが知られており、たとえば特許文献2ないし4には、超臨界状態の二酸化炭素を液状食品等の被処理物に混合して被処理物を殺菌することが開示されている。
【0004】
また、特許文献5には、気体状態の二酸化炭素をマイクロナノバブルとすることによって、液状食品や固体状の食品の殺菌をすることができることが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、超臨界状態の二酸化炭素の殺菌作用について、菌体内に浸透して菌体内に蓄積された二酸化炭素が急速に膨張することによって菌体を効率よく破壊することができ、これにより優れた殺菌効果が得られたと考えられる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−289220号公報
【特許文献2】特開平9−206044号公報
【特許文献3】特開2000−139433号公報
【特許文献4】特開2001−299303号公報
【特許文献5】国際公開第2009/016998号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】下田満哉、筬島豊 日本食品科学工学会誌 第45巻 第5号 334-339ページ 1998年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、殺菌作用あるいは酵素失活作用を高めるために気体状態の二酸化炭素を超臨界状態にするには、気体状態の二酸化炭素に上記臨界圧力以上の圧力をかける必要がある。この場合、臨界圧力以上の圧力とされた二酸化炭素を内部に収容可能な耐圧容器内で殺菌等の処理を行う必要があり、殺菌等の処理を行う装置が大掛かりになってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、殺菌作用あるいは酵素失活作用が高く、装置構成を簡素とすることができる処理方法および処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の処理方法は、微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理方法であって、第一温度且つ第一圧力のもとで二酸化炭素の微細気泡を前記被処理物と混合する気泡混合工程と、前記第一温度より高い第二温度且つ前記第一圧力よりも高い第二圧力のもとで前記被処理物を保持する処理工程と、を備えることを特徴とする処理方法。
【0011】
また、前記処理工程では、前記気泡混合工程において前記微細気泡が混合された前記被処理物を取り出し、取り出された前記被処理物を前記第二温度且つ前記第二圧力のもとで保持することが好ましい。
【0012】
また、前記処理工程では、前記気泡混合工程において前記微細気泡が混合された前記被処理物を一定流量で連続して取り出し、前記一定流量で連続して取り出された前記被処理物が前記第二温度且つ前記第二圧力のもとで保持されてから一定時間経過後に前記被処理物を連続して排出してもよい。
このとき、前記気泡混合工程では、前記一定流量で新たな前記被処理物を受け入れ、前記一定流量で受け入れた新たな前記被処理物に前記微細気泡を混合させてもよい。
【0013】
また、前記第一温度は、−15℃以上50℃以下であり、前記第二温度は、前記第一温度より高い温度であって且つ20℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記第一圧力は、ゲージ圧で0.0MPa以上2.0MPa以下であり、前記第二圧力は、第一圧力より高い圧力であって且つゲージ圧で0.1MPa以上6.0MPa以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記被処理物は、液状食品、飲料水、温泉あるいは浴場の湯、プールの水、液体肥料のいずれかとすることができる。
【0016】
また、前記被処理物がエタノールを含有している場合には、前記第一温度は−15℃以上20℃以下であり、前記第二温度は30℃以上50℃以下であることが好ましい。
【0017】
また、前記被処理物は、アルコール飲料の製造中間物であってもよい。
【0018】
また、前記アルコール飲料の製造中間物は、火入れ前の清酒、亜硫酸若しくは亜硫酸塩添加前のワイン、またはろ過若しくは加熱処理前のビール系飲料であってもよい。
【0019】
本発明の処理装置は、微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理装置であって、第一温度且つ第一圧力のもとで二酸化炭素の微細気泡を前記被処理物に混合する気泡混合部と、前記第一温度より高い第二温度且つ前記第一圧力よりも高い第二圧力のもとで前記被処理物を保持する殺菌失活処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の処理方法および処理装置によれば、相対的に低い第一温度および第一圧力の下でまず二酸化炭素の微細気泡を被処理物と混合し、その後、二酸化炭素の微細気泡が混合された被処理物を相対的に高い第二温度および第二圧力のもとで保持させるので、被処理物により多くの二酸化炭素を混合させることができる。このため、従来より低圧下であっても殺菌作用あるいは酵素失活作用を効率よく容易に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態の処理方法に用いる処理装置の構成を示す模式図である。
【図2】同処理方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】同処理装置の他の構成例を示す模式図である。
【図4】同処理装置の変形例の構成を示す模式図である。
【図5】(A)および(B)は、同処理方法および同処理装置における酵母に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図6】同処理方法および同処理装置における酵母に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図7】(A)および(B)は、同処理方法および同処理装置における酵母に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図8】同処理方法および同処理装置における酵母に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図9】(A)および(B)は、同処理方法および同処理装置における火落菌に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図10】同処理方法および同処理装置におけるグルコアミラーゼに対する酵素失活作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図11】同処理方法および同処理装置におけるグルコアミラーゼに対する酵素失活作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図12】同処理方法および同処理装置におけるグルコアミラーゼに対する酵素失活作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図13】同処理方法および同処理装置における酸性プロテアーゼに対する酵素失活作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図14】同処理方法および同処理装置における酸性プロテアーゼに対する酵素失活作用を検討した実験結果を示すグラフである。
【図15】従来の処理方法および処理装置におけるグルコアミラーゼに対する酵素失活作用を示すグラフである。
【図16】従来の処理方法および従来の処理装置における酸性プロテアーゼに対する酵素失活作用を示すグラフである。
【図17】加熱処理によるグルコアミラーゼに対する酵素失活作用を示すグラフである。
【図18】加熱処理による酸性プロテアーゼに対する酵素失活作用を示すグラフである。
【図19】第1実施形態の変形例の処理方法および処理装置における生酒の風味を検討した官能評価の結果を示すグラフである。
【図20】本発明の第2実施形態の処理方法および処理装置における酵母および火落菌に対する殺菌作用を検討した実験結果を示すグラフで、(A)は酵母に対する殺菌作用を示し、(B)は火落菌に対する殺菌作用を示している。
【図21】同処理方法および処理装置におけるグルコアミラーゼおよび酸性プロテアーゼに対する失活作用を示すグラフで、(A)はグルコアミラーゼに対する失活作用を示し、(B)は酸性プロテアーゼに対する失活作用を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態:「二段半連続」方式)
本発明の第1実施形態の処理方法および処理装置1について説明する。
本実施形態の処理方法は、被処理物に対して細菌類を殺菌する処理と酵素類を失活させる処理との少なくともいずれかを行うための処理方法である。本実施形態の処理方法によって殺菌あるいは失活の処理をする被処理物は、液状の被処理物である。ここで、「液状」とは液体に不溶の固形物が実質的に含まれない液体、又は液体に微生物や酵素、粉粒体等の液体に溶解しない微細な固形物が液体に分散して流動性のあるものを意味する。以下では、特に断らない限り、液状の被処理物を単に被処理物と称する。
【0023】
まず、本実施形態の処理方法を行うための処理装置1の概略構成について図1を参照して説明する。図1は、本実施形態の処理方法に用いる処理装置1の構成を示す模式図である。
図1に示すように、処理装置1は、被処理物貯蔵容器2と、第一送液部3と、飽和処理部(気泡混合部)4と、第二送液部5と、殺菌失活処理部6と、被処理物回収容器7と、二酸化炭素回収部8とを備える。
【0024】
被処理物貯蔵容器2は、本実施形態の処理方法によって処理される被処理物を内部に収容するための容器である。被処理物貯蔵容器2は、後述する第一容器11および殺菌失活処理部6と同様に被処理物の温度変化を抑えるために断熱性を有することが好ましい。
【0025】
第一送液部3は、被処理物貯蔵容器2の内部と、後述する第一容器11の内部とにそれぞれ内部が連通する送液管路9と、送液管路9に取り付けられた送液ポンプ10とを備える。
【0026】
送液ポンプ10は、被処理物貯蔵容器2の内部に収容された被処理物を第一容器11へと送液するためのものである。送液ポンプ10の構造は、ロータリーポンプやシリンジポンプ等どのような構造であってもよい。また、本実施形態では被処理物が食品の場合には、送液ポンプ10としては食品用ポンプが用いられる。
【0027】
飽和処理部4は、被処理物貯蔵容器2から送液ポンプ10によって送液される被処理物を内部に収容する第一容器11と、第一容器11内に二酸化炭素の微細気泡を供給するマイクロナノバブル発生装置12とを備える。
【0028】
第一容器11は、内部に被処理物を収容可能な耐圧容器である。また、第一容器11には、温度調整部13と、分岐管路14と、大気開放弁15と、第一圧力計16と、ドレイン管路17とが設けられている。
【0029】
温度調整部13は、第一容器11の内部の温度を一定の第一温度T1に保つものである。第一温度T1は、被処理物に対して悪影響が少ない温度範囲のうちで低い温度とされていることが好ましい。温度調整部13によって、第一容器11の内部に二酸化炭素が供給されて第一容器11の内部で二酸化炭素が断熱圧縮された場合でも、第一容器11の内部の温度を第一温度T1に保つことができるようになっている。
第一温度T1は、通常−15℃以上50℃以下とすることができる。第一温度T1は、被処理物が固化したり凍結したりする温度域よりも高い範囲においてより低い温度であることが好ましく、この場合には、第一温度T1は−5度以上20度以下の範囲で定められた一定の温度であることが好ましい。さらに好ましくは、第一温度T1は、−5度以上10度以下の範囲で定められた一定の温度である。
【0030】
分岐管路14は、一端14aが第一容器11内に開口され、後述するマイクロナノバブル発生装置12の二酸化炭素供給管路21に他端14bが連通された管路である。また、分岐管路14は、第一容器11の上部に開口されている。また、分岐管路14には、分岐管路14を開閉することによって第一容器11の内圧を一定の第一圧力P1に保つ圧力調整弁18が設けられている。第一圧力P1は、0.0MPa以上2.0MPa以下の範囲にある一定の圧力である。より好ましくは、第一圧力P1は、0.5MPa以上2.0MPa以下の範囲にある一定の圧力である。なお、本明細書では、圧力の表記としてゲージ圧を用いる。
【0031】
本実施形態では、第一容器11に被処理物が供給されたときに上側にできる気体層(以下、「ヘッドスペース」と称する。)へ気体状の二酸化炭素が分岐管路14を通じて供給される。
【0032】
大気開放弁15は、開閉動作することによって第一容器11の内外の連通状態を切り替える弁である。大気開放弁15は、第一容器11の内圧が第一容器11を破裂させるおそれがある圧力まで上がると第一容器11の内部と外部とを自動的に連通させる安全装置である。本実施形態では、大気開放弁15は、第一容器11の内圧が2.0MPaに達すると第一容器11の内外を連通させるように設定されている。
【0033】
第一圧力計16は、第一容器11の内部の圧力を操作者が確認するためのものである。
【0034】
ドレイン管路17は、第一容器11の内部の被処理物を外部に取り出すための管路である。ドレイン管路17には、開閉動作することによりドレイン管路17の内外の連通状態を切り替えるドレイン弁19が取り付けられている。なお、ドレイン管路17は、第一容器11から後述する第二容器28へ被処理物を移すときにはドレイン弁19によって閉じられている。
【0035】
マイクロナノバブル発生装置12(二酸化炭素供給部)は、二酸化炭素貯蔵タンク20、二酸化炭素供給管路21、被処理物循環管路22、循環ポンプ23及び微細気泡発生器24を備える。循環ポンプ23、微細気泡発生器24及び後述の供給量調整弁25は、それぞれが連通して独立して配置されていてもよく、一体として構成されていてもよい。循環ポンプ23、微細気泡発生器24及び後述の供給量調整弁25が一体として構成されている場合には、第一容器11内で被処理物にマイクロナノバブルを混合することに代えて、循環ポンプ23、微細気泡発生器24及び後述の供給量調整弁25における各流路内を流れる被処理物に対して、微細気泡発生器24における被処理物の出口部分において測定した温度および圧力が第一温度T1且つ第一圧力P1となる条件のもとで、微細気泡を混合することも可能である。
【0036】
二酸化炭素貯蔵タンク20は、気体状あるいは液体状の二酸化炭素が内部に収容された容器である。
【0037】
二酸化炭素供給管路21は、二酸化炭素貯蔵タンク20に一端が接続され、被処理物循環管路22に他端が接続された管路である。二酸化炭素供給管路21には、二酸化炭素を被処理物循環管路22へ供給する量を調整する供給量調整弁25が設けられている。供給量調整弁25は、二酸化炭素供給管路21と分岐管路14との分岐部よりも下流側に設けられている。
【0038】
被処理物循環管路22は、第一容器11に接続された管路であり、管路の中間部には被処理物を送液するための循環ポンプ23が取り付けられている。また、被処理物循環管路22には供給量調整弁25が配置され、上述の二酸化炭素供給管路21が接続されている。これにより、供給量調整弁25が開放されたときに二酸化炭素供給管路21から被処理物循環管路22へ二酸化炭素が供給されるようになっている。
【0039】
循環ポンプ23は、被処理物循環管路22内で被処理物を一方向へ送液するポンプである。循環ポンプ23の構造は、ロータリーポンプやシリンジポンプ等どのような構造であってもよい。循環ポンプ23によって、被処理物循環管路22の一端22aから被処理物が吸引され、二酸化炭素が混合された被処理物が被処理物循環管路22の他端22bから微細気泡発生器24へ送られるようになっている。なお、被処理物が食品である場合には、循環ポンプ23には食品用ポンプが用いられる。被処理物が食品でない場合には循環ポンプ23が食品用ポンプである必要はない。
【0040】
微細気泡発生器24は、第一容器11の内部又は外部に配置され、被処理物循環管路22の他端22bに接続される。
図1は、微細気泡発生器24が第一容器11の内部に配置されている場合の構成を示している。図1に示すように、微細気泡発生器24が第一容器24の内部に配置されている場合には、被処理物循環管路22から排出された被処理物と二酸化炭素との混合物は、微細気泡発生器24の内部に供給されるようになっている。
【0041】
また、図3は、図1に示す第一容器11の内部に配置された微細気泡発生器24に代えて、第一容器11の外部に配置された微細気泡発生器24Aを備える構成を示している。微細気泡発生器24を第一容器11の外部に配置する場合には、たとえば被処理物循環管路22と二酸化炭素供給管路21との接続部よりも下流側で被処理物循環管路22の一部に微細気泡発生器24Aを配置し、微細気泡発生器24Aの出口が接続管路22Aを介して第一容器11に連通されている構成とすることができる。
【0042】
微細気泡発生器24(24A)はいかなる方式によって微細気泡を発生させるものでもよく、たとえば、内部に供給された被処理物と二酸化炭素との混合物の旋回流を発生させて二酸化炭素の気泡をマイクロナノバブル化する方式(たとえば、特許第3682286号公報に記載された旋回流方式の微細気泡発生器)や加圧溶解方式、特開2007−229674号公報に開示されたようにフリップフロップ流によって生じるラム効果を用いてマイクロナノバブルを発生させる方式を採用してもよい。以下の説明では旋回流方式の微細気泡発生器を用いた場合を説明する。
【0043】
このように、飽和処理部4は、第一温度T1且つ第一圧力P1のもとで二酸化炭素のマイクロナノバブル(微細気泡)を被処理物に混合することができるようになっている。
【0044】
第二送液部5は、一端9aが第一容器11内に開口し、他端9bが第二容器28内に開口し、中間部に加圧ポンプ26および流量調整弁27が取り付けられた送液管路9を備える。
【0045】
加圧ポンプ26は、送液管路9の内部の被処理物を第二容器28側へ圧送するものである。加圧ポンプ26の構造は、ロータリーポンプやシリンジポンプ等どのような構造であってもよい。被処理物が食品である場合には加圧ポンプ26として食品用ポンプが用いられる。
【0046】
流量調整弁27は、送液管路9のうち第一容器11と加圧ポンプ26との間に取り付けられており、送液管路9の内部における被処理物の流量を調整するものである。流量調整弁27は、送液管路9を完全に閉鎖することができ、第一容器11の内部に被処理物を収容しているときに第一容器11から第二容器28へ被処理物が移動しないようにせき止めることができる。また、流量調整弁27は、時間当たり一定量の被処理物が第一容器11から第二容器28へ移動するようにその開閉動作が制御されるものであってもよい。流量調整弁27としては、例えば電磁弁を採用することができる。
第二送液部5によって、第一容器11の内部の被処理物を後述する第二容器28へ移すことができるようになっている。
【0047】
殺菌失活処理部6は、第二容器28と、加熱部29とを備える。
第二容器28の形状は槽状でもよく管状であってもよく、所要の温度と圧力が加えられる機能を有していればその形状は特に限定されない。第二容器28の形状が管状の場合は、設置スペース及び熱管理の観点から、第二容器28はらせん状に巻かれた管形状であることが好ましい。以下の記述では、第二容器28としてらせん状に巻かれた管路からなる容器を使用する例を述べる。
【0048】
第二容器28の一端28a側には加圧ポンプ26が設けられ、第二容器28の他端28b側には減圧弁30が設けられている。第二容器28は断面積が一定とされた管状であり、単位時間あたり一定流量で加圧ポンプ26が被処理物を第二容器28側へ送ることによって、被処理物を一端28aから他端28bへ向かって一定速度で移動させるようになっている。これにより、本実施形態では、第二容器28の内部に被処理物が一定時間だけ保持(以下、「滞留」という場合がある。)され、一定時間経過後に第二容器28から連続して排出されるようになっている。
【0049】
また、第二容器28の他端28bには、第二容器28から後述する被処理物回収容器7へ被処理物を送るための排出管路31が取り付けられている。また、排出管路31には、管路の他端から排出されて後述する被処理物回収容器7へ送られる被処理物にかかる圧力を下げるための減圧弁30が設けられている。
【0050】
本実施形態では、加圧ポンプ26と減圧弁30とによって、第二容器28の管路内の圧力は一定の第二圧力P2に維持されるようになっている。第二圧力P2は、上述の第一圧力P1よりも高い圧力である。たとえば、第一圧力P1を0.1MPaとした場合、第二圧力P2は0.1MPaより高い圧力である。また、第二圧力P2は、0.5MPa以上4.0MPa以下であることが好ましい。特に好ましくは、第二圧力P2は、1.0MPa以上4.0MPa以下の範囲における一定の圧力である。
【0051】
なお、第二圧力P2は、第一圧力P1よりも大きな値に設定されていればよく、例えば第一圧力P1を常圧(0.0MPa)に設定して動作させる場合には、第二圧力P2はたとえば0.1MPa以上6MPa以下の範囲で一定の圧力に設定することができる。
【0052】
ここで、細菌類に対する殺菌を行う観点では、本実施形態の処理方法および処理装置1によって細菌類が実質的に滅菌されることが好ましい。例えば酵母や火落菌を殺菌する場合、第二容器28内での処理後に、酵母や火落菌の菌数が初発菌数に対し10分後に10万分の一以下となるように第一温度T1、第一圧力P1、第二容器28内における被処理物の滞留時間、第二温度T2、および第二圧力P2を設定するのが実用的に好ましい。
【0053】
なお、本実施形態では、排出管路31において減圧弁30よりも上流側に第二圧力計32が設けられており、第二容器28の内部の圧力を操作者が確認することができるようになっている。
【0054】
加熱部29は、第二容器28の内部の温度を、第一温度T1よりも高い第二温度T2に維持するものである。本実施形態では、第二温度T2は、例えば、20℃以上100℃以下の範囲にある一定の温度とすることができる。第二温度T2は、好ましくは、30℃以上95℃以下、特に好ましくは、30℃以上50℃以下の範囲にある一定の温度とすることができる。
【0055】
加熱部29の構成としては、ガス等の燃料を燃焼させて加熱するものや、バンドヒーター、電熱器等によって加熱するもの、あるいは誘導加熱や誘電加熱により管路を一定温度に保持させるもの等を適宜採用することができる。
【0056】
このように、殺菌失活処理部6は、第一温度T1より高い第二温度T2且つ第一圧力P1よりも高い第二圧力P2のもとで被処理物を保持することができるようになっている。
【0057】
被処理物回収容器7は、排出管路31の内部を通って排出された被処理物(ここでいう「被処理物」とは、第一容器11と第2容器28内で処理された被処理物をいう。以後、同様にいう場合がある。)を内部に収容する容器である。被処理物回収容器7には、被処理物に混合された二酸化炭素の少なくとも一部を回収するための二酸化炭素回収部8が着脱可能に取り付けられている。
【0058】
二酸化炭素回収部8は、被処理物回収容器7と二酸化炭素貯蔵タンク20とのそれぞれの内部に連通された二酸化炭素回収管路33と、二酸化炭素回収管路33の中間部に取り付けられた流量調整弁34とを備える。
【0059】
二酸化炭素回収管路33は、二酸化炭素のマイクロナノバブルが混合された被処理物から放出された二酸化炭素を二酸化炭素貯蔵タンク20へ移動させるための管路である。
流量調整弁34は、二酸化炭素回収管路33を流れる二酸化炭素の流量を調整するためのものである。なお、流量調整弁34は、被処理物回収容器7の内圧が上がりすぎた場合に被処理物回収容器7内の気体を二酸化炭素貯蔵タンク20内あるいは大気へ送る安全装置としての機能をさらに備えていてもよい。流量調整弁34の下流には、二酸化炭素を圧縮して二酸化炭素貯蔵タンク20に移動させるための加圧ポンプ35が配置されている。
【0060】
次に、本実施形態の処理方法について、上述の処理装置1を用いて被処理物を処理する場合の例で図1と図2を参照して説明する。図2は、本実施形態の処理方法を説明するためのフローチャートである。
まず、被処理物貯蔵容器2に被処理物を投入する。続いて、第一送液部3の送液ポンプ10を作動させ、送液管路9を通じて第一容器11内へ被処理物を送液する。このとき、ドレイン管路17のドレイン弁19および第二送液部5の流量調整弁27は閉じておく。そして、第一容器11内に気体層が残る程度の量の被処理物を第一容器11内に収容し、マイクロナノバブル発生装置12の微細気泡発生器24が被処理物中に位置したら、送液ポンプ10の動作は停止する。
【0061】
続いて、分岐管路14の圧力調整弁18を開き、第一容器11のヘッドスペースへ二酸化炭素を供給する。これにより、第一容器11の内圧は上昇し、圧力調整弁18によって第一圧力P1に保たれる。また、本実施形態では、第一容器11の内圧が2MPaとなったときに大気開放弁15が第一容器11の内外を連通させるように設定されているので、第一容器11の内圧が2MPaに達した場合には安全装置として大気開放弁15が動作し、第一容器11の内圧が2MPa以上となることは防止される。
【0062】
なお、第一容器11の内圧が上がることで第一容器11内の気体が断熱圧縮されて発熱するが、温度調整部13によって第一容器11内の温度は−15℃以上50℃以下の一定の範囲の温度に維持される。これにより、被処理物への二酸化炭素の溶解度が低下することを防ぐことができる。
【0063】
続いて、マイクロナノバブル発生装置12を作動させる。マイクロナノバブル発生装置12を作動させるためには、まず、循環ポンプ23を作動させる。さらに、二酸化炭素供給管路21の供給量調整弁25を開く。すると、二酸化炭素貯蔵タンク20内に収容されている二酸化炭素は二酸化炭素供給管路21を通じて被処理物循環管路22へ供給され、被処理物循環管路22において被処理物と二酸化炭素が混合される。さらに、被処理物と二酸化炭素との混合物は、循環ポンプ23によって被処理物循環管路22の他端側へ送られ、微細気泡発生器24の内部に供給される。
【0064】
微細気泡発生器24では、被処理物と二酸化炭素の気泡との混合物による旋回流が発生し、これにより二酸化炭素の気泡は剪断されてマイクロナノバブルになる。被処理物と、マイクロナノバブルとなった二酸化炭素とは、ともに微細気泡発生器24の外部へ押し出され、第一容器11の内部へ移動する。マイクロナノバブルとなった二酸化炭素はマイクロナノバブル状のまま被処理物中に存在し、その一部は被処理物に溶解し、溶解しきれない一部の二酸化炭素は被処理物の液面から気体層へ移動する。二酸化炭素が気体層へ移動すると、気体層における二酸化炭素の分圧は増加する。
【0065】
本実施形態では、第一温度T1且つ第一圧力P1のもとで二酸化炭素のマイクロナノバブル(微細気泡)が被処理物と混合される。さらに、第一容器11内の被処理物に対して、二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和するまで二酸化炭素のマイクロナノバブルを第一容器11内に供給する。二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和したことは、ドレイン管路17を通じて少量の被処理物を取り出して被処理物中の二酸化炭素濃度を測定することによって知ることができる。また、第一容器11に透明なのぞき窓を設けてマイクロナノバブルの発生状態を観察することによっても二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和したことを知ることができる。
【0066】
被処理物内の二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和したら、二酸化炭素供給管路21の供給量調整弁25を閉じ、さらに被処理物循環管路22に取り付けられた循環ポンプ23の動作を停止させる。第一容器11の内部に被処理物が貯留されてから被処理物への二酸化炭素のマイクロナノバブルの供給を停止するまでが、本実施形態における気泡混合工程S1である。
気泡混合工程S1が終了するまでに、殺菌失活処理部6の加熱部29を動作させて第二容器28の管路を加熱し、第二容器28の管路の内部温度を第二温度T2にしておく。
【0067】
第二容器28の管路の内部温度が上述の第二温度T2となった後、第二送液部5の流量調整弁27を開き、第一容器11から加圧ポンプ26へ被処理物を移動させる。加圧ポンプ26は、気泡混合工程S1においてマイクロナノバブルが混合された被処理物を第一容器11から一定流量で連続して取り出し、この被処理物を第二容器28の管路内へ圧送する。このとき、第二送液部5に設けられた加圧ポンプ26と第二容器28に設けられた減圧弁30とによって、第二容器28の管路内に送られた被処理物は第二圧力P2まで加圧される。
【0068】
第二容器28の管路内の被処理物は、加圧ポンプ26によって管路の他端28b側へと一定速度で移動する。これにより、第二容器28の管路の一端28aから流入した被処理物は、第二容器28の内部に第二温度T2且つ第二圧力P2の下で一定時間だけ第二容器28内に滞留し、その後、管路の他端28bから排出される。これにより、被処理物は、第一温度T1より高い第二温度T2且つ第一圧力P1よりも高い第二圧力P2のもとで保持される。
【0069】
第二容器28の管路の内部において、二酸化炭素のマイクロナノバブルによって、被処理物内に含まれる酵母や火落菌などの細菌類は殺菌される。また、第二容器28の管路の内部において、二酸化炭素のマイクロナノバブルによって、グルコアミラーゼや酸性プロテアーゼなどの酵素類は失活する。
このように、第二容器28内に被処理物を滞留させる工程が、本実施形態における処理工程S2である。
【0070】
第二容器28の管路の内部を通って一端28aから他端28bへ圧送された被処理物は、第二容器28の他端から排出される。すなわち、第一容器11から一定流量で連続して取り出された被処理物は、第二温度T2且つ第二圧力P2のもとに置かれてから一定時間経過後に連続して排出される。被処理物は、減圧弁30によって大気圧まで減圧されたのち排出管路31を通じて被処理物回収容器7内に収容される。
【0071】
被処理物回収容器7の内部は大気圧であるので、第二容器28内では溶解していた二酸化炭素の一部は溶解できなくなり、被処理物から被処理物回収容器7の気層へと移動する。被処理物回収容器7内の気層に移動した二酸化炭素は、流量調整弁34を開いたときに二酸化炭素回収管路33を通じて二酸化炭素貯蔵タンク20へと送られる。
被処理物回収容器7に回収された被処理物は、細菌類が殺菌され、酵素類が失活している。これで処理工程S2は終了する。
【0072】
次に、アルコール飲料の製造中間物である生酒に対して本実施形態の処理方法および処理装置によって処理を行う場合における好適な処理条件について説明する。
一般的に、生酒は、風味が劣化することを抑制するために、火入れと呼ばれる加熱処理を行うことによって生酒中に含まれる酵母や火落菌等の細菌類を殺菌し、またグルコアミラーゼや酸性プロテアーゼなどの酵素を失活させている。本実施形態の処理方法では、生酒に対する火入れに代えて以下に説明する各処理条件に基づいて本実施形態の処理方法を行い、生酒を殺菌し、生酒に含まれる酵素を失活させる。
【0073】
生酒を処理する場合、生酒にかける熱によって生酒の風味が変わることを抑えるために、以下の温度条件の下で処理を行うことが好ましい。
被処理物貯蔵容器2は、生酒の温度が醸造中の生酒の温度から変化するのを抑えるために断熱性を有することが好ましい。また、被処理物貯蔵容器2は、−15℃以上20℃以下の温度の範囲内で内部温度を維持するようになっていてもよい。これにより、生酒の風味が劣化するのを抑えることができる。
【0074】
第一温度T1は、−15℃以上20℃以下の範囲の一定の温度に設定される。これにより生酒の風味が劣化するのを防ぐことができる。
第二温度T2は、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。第二温度T2は、生酒に対して一般的に行われる火入れの温度(例えば65℃)よりも低い温度となっている。これは、生酒中の香気成分等が熱によって揮発あるいは変質することを抑えるためである。
【0075】
なお、生酒を被処理物とした場合における上記処理条件は、生酒以外にも、エタノールを含有するさまざまな液状食品に適用することができる。また、食品以外であってエタノールを含有する液状物に対しても同様の処理条件を適用することができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態の処理方法および処理装置1によれば、第一温度T1および第一圧力P1の下でまず二酸化炭素の微細気泡を被処理物に混合し、その後、二酸化炭素のマイクロナノバブルが混合された被処理物を第一温度T1より高い第二温度T2且つ第一圧力P1より高い第二圧力P2の下で滞留させるので、より多くの二酸化炭素を被処理物に混合させることができる。このため、殺菌失活処理部6において、従来より低圧の条件の下でも殺菌作用あるいは酵素失活作用を容易に高めることができる。
これにより、超臨界状態の二酸化炭素を用いて被処理物の殺菌や酵素失活等を行う場合と比較して、第二容器28として耐圧性が低い容器を採用することができ、処理装置1の構造を、より安全でより簡易なものとすることができる。
【0077】
また、超臨界状態の二酸化炭素は、食品や飲料などに含まれる香気成分を取り去ってしまうことから、超臨界状態の二酸化炭素を用いて食品や飲料の殺菌を行うと、食品や飲料の風味を損なうおそれがある。
これに対して、本実施形態の処理方法では、二酸化炭素を超臨界状態とすることなくマイクロナノバブル状態で被処理物と混合するので、超臨界状態の二酸化炭素を用いたり熱処理を用いたりして被処理物の殺菌を行う場合と比較して被処理物に含まれる香気成分の残存量を高め、被処理物の風味を維持しつつ殺菌を行うことができる。
【0078】
また、処理工程S2において、一定の流量で連続して第一容器11から第二容器28へ被処理物を移し、さらに第二容器28から被処理物回収容器7へ一定流量で被処理物を移すので、第一容器11内の被処理物を第一容器11に収容された総量よりも少ない量ずつ第二容器28へ移すことができ、第二容器28の容量は少なくてよく、第一容器11に対して相対的に高い圧力がかかる第二容器28を容易に製造することができる。
【0079】
また、処理工程S2において、被処理物を第二温度T2且つ第二圧力P2の下で一定の流量で連続して前記第二容器28から排出するので、第二容器28の内部に被処理物が滞留する時間を一定に保ちながら、第二容器28に一度に収容できる最大量を超える被処理物を処理することができる。
【0080】
また、第一温度T1は−15℃以上50℃以下であり、第二温度T2は20℃以上100℃以下、且つT1<T2であるので、第二温度T2の下で二酸化炭素のマイクロナノバブルを被処理物内に飽和させるのと比較してより多くのマイクロナノバブルを被処理物に混合することができる。これにより、より多くのマイクロナノバブルが混合された状態で被処理物の殺菌あるいは酵素の失活を行うことができる。その結果、被処理物に対する殺菌作用および酵素失活作用を高めることができ、国際公開第2009/016998号パンフレット(上記特許文献5)に記載された食品の処理方法と比べて被処理物を高温高圧下にさらす時間を短くすることができる。被処理物を高温高圧下にさらす時間を短くすることができると、十分な殺菌および酵素失活をしつつ、加熱あるいは加圧することによる被処理物の風味の変化や被処理物の変質などを抑えることができる。
【0081】
例えば、本実施形態のように生酒を被処理物とする場合には、生酒の風味が劣化するのを抑えることができる。また、生酒以外の液状食品を被処理物とする場合にも風味の劣化を抑えることができる。
【0082】
また、第一圧力P1は0.0MPa以上2.0MPa以下であり、第二圧力P2は0.1MPa以上6.0MPa以下、且つP1<P2であり、二酸化炭素を超臨界状態とせずに十分な殺菌および酵素失活を行うことができる。このため、超臨界状態の二酸化炭素を用いる場合と比較してより低圧の条件で細菌類を殺菌し、酵素類を失活させることができる。
【0083】
また、第一温度T1が−5℃以上20℃以下であり、第二温度T2が30℃以上50℃以下である場合には、エタノールが蒸発しやすい温度に被処理物がさらされる時間を短くできるので、被処理物がエタノールを含有している場合に被処理物の組成に対する影響を抑えることができる。
【0084】
また、本実施形態で例示した被処理物はアルコール飲料の製造中間物である生酒であり、本実施形態の処理方法および処理装置1によれば、生酒が高温高圧下にさらされる時間を短くすることができ、その風味を劣化させることを抑えつつ短時間で細菌類の殺菌と酵素類の失活とを十分におこなうことができる。
なお、本実施形態の処理装置1および処理方法に適用できる被処理物は、二酸化炭素のマイクロナノバブルと混合した混合液とすることができるものであればどのようなものであっても構わない。たとえば、上記例示したものに限られず、液状食品、飲料水、温泉あるいは浴場の湯、プールの水、液体肥料を被処理物として適用してもよい。また、本実施形態ではアルコール飲料の製造中間物として生酒を例に説明したが、火入れ前の清酒、亜硫酸若しくは亜硫酸塩添加前のワイン、またはろ過若しくは加熱処理前のビール系飲料を本実施形態の被処理物として適用することもできる。本明細書において、ビール系飲料とは、ビール、発泡酒、およびいわゆる第三のビール(日本国の酒税法において「その他の醸造酒(発泡性)1」、および「リキュール(発泡性)1」として分類された酒類をいう)を含む総称である。
【0085】
また、本実施形態の処理装置1では二酸化炭素回収部8によって第二容器28から排出された被処理物から二酸化炭素をマイクロナノバブル発生装置12(二酸化炭素供給部)へ戻すことができるので、二酸化炭素が処理装置1の外部へ排出される量を減らすことができる。
【0086】
また、第一容器11から第二容器28へ連続して液体を移す加圧ポンプ26を備え、排出管路31を通じて連続して被処理物を排出させることができるので、殺菌あるいは酵素が失活された被処理物を連続して回収することができる。
【0087】
また、第二容器28が、一端が加圧部を介して第一容器11の内部と連通され内部に被処理物が流れるらせん状の管路を有しているので、被処理物を均一に加熱することができ、被処理物に対して均一に殺菌あるいは失活の処理をすることができる。
【0088】
また、被処理物回収容器7において被処理物から二酸化炭素が除去されるので被処理物中に二酸化炭素が残存していることによる被処理物への影響を抑えることができる。
【0089】
(変形例)
次に、本実施形態の処理方法および処理装置1の変形例について図4を参照して説明する。図4は、本変形例の処理方法に用いられる処理装置1Aの構成を示す模式図である。
本変形例の処理方法と上述の実施形態で説明した処理方法との異なる点は、第二容器28から被処理物を排出したあとに被処理物を冷却する点である。
図4に示すように、本変形例では、上述の実施形態において説明した処理装置1と異なり、排出管路31に冷却器36を備えた処理装置1Aを用いる。
【0090】
冷却器36は、第二容器28内で第二温度T2まで加熱された被処理物を、たとえば第一温度T1まで下げるものである。冷却器36の構造は特に限定されるものでなく、公知の冷却器を適宜採用することができる。
たとえば、冷却器36としては、ヒートポンプによって熱交換を行うものや、ペルチェ素子を用いて熱交換を行うものなどを適宜採用することができる。この場合、冷却器36における放熱側のラジエータ等を第二容器28に接続してもよい。
【0091】
このような構成であっても、上述の実施形態で説明した処理方法および処理装置1と同様の効果を奏する。
また、冷却器36として熱交換を行うものを用いた場合、被処理物から奪った熱を第二容器28内の被処理物を加熱するための熱として用いることができる。これにより、加熱部29が消費するエネルギーを低減することができる。
【0092】
なお、第1実施形態およびその変形例において説明した処理方法は、第一容器11と第二容器28とによって二段の処理を行い、被処理物貯蔵容器2から第一容器11へはバッチ式で一定量の被処理物を移し、第一容器11から第二容器28へは一定流量で連続して被処理物を移動させているものである。以下、本実施形態で説明した処理方法およびその変形例において説明した処理方法を、「二段半連続」方式と称する。
【0093】
(第2実施形態:「二段全連続」方式)
次に、本発明の第2実施形態の処理方法および処理装置1Bについて図1を参照しながら説明する。
本実施形態の処理方法は、上述の第1実施形態で説明した処理方法と異なり、被処理物貯蔵容器2から第一容器11へ被処理物を移す際に、単位時間当たりの被処理物の流量を一定にして移す方法である。
【0094】
本実施形態の処理装置1Bは、上述の第1実施形態で説明した処理装置1に対して、送液ポンプ10に代えて送液ポンプ10Aを備え、送液ポンプ10Aによって移動させる被処理物の流速を一定に定めることができるものである点が異なっている。
【0095】
本実施形態の送液ポンプ10Aは、第一容器11から第二容器28へ被処理物を移すときの単位時間当たりの流量と等しい流量で被処理物貯蔵容器2から二酸化炭素のマイクロナノバブルがすでに混合された被処理物が入っている第一容器11へ被処理物を移動させるように設定されている。第一容器11は、一定流量で新たな被処理物を受け入れ、微細気泡発生器24によって、一定流量で受け入れた新たな被処理物およびすでに第一容器11内に収容された被処理物にマイクロナノバブルをさらに混合させるようになっている。これにより、第一容器11には、二酸化炭素のマイクロナノバブルがすでに混合された一定量の被処理物が常に収容されるようになっている。
【0096】
本実施形態の処理方法について、処理装置1Bを用いて行う場合に基づいて、第1実施形態の処理方法と異なる点を中心に説明する。
まず、被処理物貯蔵容器2内に収容された被処理物は、送液ポンプ10Aによって時間あたり一定の流量で第一容器11へ移される。第一容器11内に上記一定量の被処理物が収容されたら、送液ポンプ10Aの動作は停止し、第1実施形態と同様に第一容器11内の被処理物に二酸化炭素のマイクロナノバブルを混合する。
【0097】
被処理物内の二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和したあと、マイクロナノバブル発生装置12を停止させることなく、第一容器11に二酸化炭素のマイクロナノバブルを供給し続けながら、第1実施形態と同様に第一容器11から第二容器28へ被処理物を移す。このとき、第一送液部3の送液ポンプ10Aを作動させ、第一容器11から第二容器28へ流れる被処理物と同量の被処理物を被処理物貯蔵容器2から第一容器11へと連続的に移す。
第二容器28における処理工程S2は第1実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0098】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に被処理物を殺菌し、酵素を失活させることができる。
また、第1実施形態の処理方法と異なり、本実施形態では、被処理物貯蔵容器2から第一容器11へ連続的に被処理物を移すので、第一容器11から第二容器28への被処理物の移動を開始するタイミングで送液ポンプ10Aを作動させた後は、被処理物貯蔵容器2の内部の被処理物がなくなるまで送液ポンプ10Aを操作する必要がない。
【0099】
なお、第2実施形態において説明した処理方法は、第一容器11と第二容器28とによって二段の処理を行い、被処理物貯蔵容器2から第一容器11へ連続的に単位時間当たり一定の流量で被処理物を移し、第一容器11から第二容器28へも単位時間あたり一定の流量で連続して被処理物を移動させている。以下の説明において、第2実施形態において説明した処理方法を、第1実施形態で述べた「二段半連続」方式と対比させて「二段全連続」方式と称する。
【0100】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0101】
たとえば、上記各実施形態において、処理工程S2は、第一容器11内の被処理物の全量に対する気泡混合工程S1が終了してからその全量を第一容器11から取り出し、被処理物の全量を第二容器28へ移して第二容器28内で行われるようになっていてもよい。この場合、第一容器11および第二容器28に対して被処理物の流量を制御する必要がないので、機器構成を簡素にすることができる。
また、処理装置の処理能力の大小と被処理物の量の大小との関係を勘案し、二段半連続式、二段全連続式、二段バッチ式のいずれかの方式を適宜選択すればよい。
【0102】
なお、上述の各実施形態および変形例の処理装置1、1A、1Bにおいて、第一容器11において気泡混合工程S1が終了した後に第一容器11の温度および圧力を第二温度T2および第二圧力P2に変更すれば、気泡混合工程S1を行った第一容器11を処理工程S2を行うための第二容器28として兼用することもできる。この場合、第二容器28を第一容器11と別体に備える必要はなく、処理装置1、1A、1Bを小型化することができる。
【0103】
また、第一容器11、循環ポンプ23、微細気泡発生器24、および供給量調整弁25が一体として構成されていてもよい。
【0104】
次に、以下に示す各検討実験に基づいて、本発明の処理方法および処理装置についてより詳細に説明する。
<実験例1:酵母の二段半連続二酸化炭素マイクロナノバブル処理>
本実験例は、エタノールを含有する液体に酵母を混合した試料を被処理物として用いて、本発明の第1実施形態の処理方法(二段半連続方式)における酵母に対する殺菌作用について検討したものである。また、本実験例では、二段半連続方式において、上記第1実施形態で説明した処理装置1の第一容器11の温度および内圧、並びに第二容器28の温度および内圧の条件をそれぞれ変更して、酵母への殺菌作用に対するこれらの条件の影響を検討した。なお、以下では、二酸化炭素のマイクロナノバブルを「MNB-CO2」と略記する場合がある。
【0105】
(試料の調製)
本実験例では、殺菌作用を検討する酵母株は、Saccharomyces cerevisiae NBRC1423とした。まず、1白金耳量の上記酵母株の菌体を10mLのYM培地(Difco社製)を含む試験管内に懸濁したものを、30℃で10時間培養した。10時間経過後、その培養液を、190mLのYM培地を含む内容量300mLの三角フラスコに移し、30℃で12時間培養した。12時間経過後、その培養液を遠心分離機(4℃、10000×g(gは重力加速度)、30分)に2回かけて酵母菌体を回収し、初発菌数1.0×10CFU/mLになるように5%エタノール含有生理食塩水中に懸濁し12Lの試料を調製した。なお、CFUは、colony forming unitの略である。
【0106】
(二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、第1実施形態で説明した構成の処理装置1(図1参照)を使用した。具体的な構成を以下に示す。
第一容器11:内容量15Lの円筒状のタンク
送液ポンプ10および加圧ポンプ26:日本精密科学製NP-KX-500
循環ポンプ23:帝国電機製作所製F42-119F2AM-0204R1-BV
微細気泡発生器24:バブルタンク社製BT-50
第二容器28:内径1.5cm、長さ100cmのらせん状の管路、内容量170mL
【0107】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃、20℃、および40℃、
第一圧力P1:0.0MPa、0.5MPa、および1.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0108】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:40℃および45℃、
第二圧力P2:2.0MPaおよび4.0MPa
第二容器28内における被処理物の滞留時間:0min、5min、10min、15min、20min、25min、および30min
【0109】
本実験例における各実験条件を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
実験は以下の手順で行った。まず、内容量15Lの第一容器11に12Lの試料を供給し、供給した12Lの試料を第一温度T1に維持し、第一容器11のヘッドスペース部分に上記実験条件の各圧力に達するまで二酸化炭素を供給した。
【0112】
次に、MNB-CO2を次の手順で発生させた。循環ポンプ23により、被処理物循環管路22内で試料を15mL/minで循環させつつ、供給量調整弁25を開き、二酸化炭素を循環ポンプ23の出口付近から被処理物循環管路22内へ供給し、試料と二酸化炭素が混合された混合流体を微細気泡発生器24へ供給した。
【0113】
MNB-CO2は、試料中のMNB-CO2量が飽和に至るまで発生させた。本実験例では、MNB-CO2の供給を開始してから一定間隔で溶存二酸化炭素濃度を測定し、約6minでMNB-CO2が飽和したことを確認した。MNB-CO2が飽和した後、流量調整弁27を開き、第一容器11内の試料を加圧ポンプ26によって第二容器28の管路内へ連続的に供給した。なお、第一容器11の内圧は、第一容器11のヘッドスペース部分に圧力調整弁18を介して二酸化炭素を供給することで一定に維持した。第二容器28内の試料滞留時間は、加圧ポンプ26により試料の流速を5.7〜34.0mL/minの範囲で変えることによって調節した。排出管路31から排出される試料をそれぞれ採取し、これらの試料中の生菌数を測定した。
【0114】
(生菌数の測定)
MNB-CO2処理前後の酵母生菌数の測定は、MNB-CO2処理を行う前の試料と、MNB-CO2処理を行った後の試料とを、シャーレ内で培養した場合に肉眼でコロニー数が確認できる程度(300コロニー/シャーレ以下)までそれぞれ滅菌生理食塩水を用いて希釈し、その各希釈試料1mLを15mLのYM寒天培地溶液と混合し、30℃で48時間培養後に形成したコロニー数を測定することにより行った。
48時間培養されたシャーレにおけるコロニー数に希釈倍率を掛けた値を生菌数Nとし、初発生菌数をNとして、生存率N/Nの常用対数log(N/N)をそれぞれ結果として算出した。実験は全て3反復行い、3反復の結果の平均値とその標準誤差をグラフ化した。
【0115】
また、得られたデータの解釈としては、第二容器28の滞留時間10minにおける生菌数が初発菌数に対して10万分の1を越える場合を、実用上十分な程度には滅菌されていないものと判定した。すなわち、第二容器28の滞留時間10minにおいて酵母の生存率が10万分の1を越える温度条件および圧力条件の組み合わせは本発明に対する比較例とした。
【0116】
(結果と考察)
図5(A)、図5(B)、図6、図7(A)、図7(B)、および図8に、本実験例を行った結果のグラフを示す。これらの図において、横軸は第二容器28内における試料の滞留時間を示し、縦軸は酵母の生存率を示している。
【0117】
(比較例1の結果)
図5(A)は、第一容器11の温度を40℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を40℃、第二容器28の圧力を2.0MPaとした条件(表1に示す比較例1)下で行った実験の結果を示している。なお、この実験では、第一容器11と第二容器28とは温度および圧力が同じ値に設定されており、一段の処理を行ったのと実質的に同等の処理内容となっている。図5(A)に示すように、この実験では、第二容器28内において試料の滞留時間が20min以上において初発菌数に対して10万分の1以下の生存率となった。なお、酵母の殺菌において、初発菌数(1.0×10CFU/mL)に対して10万分の1以下の生存率は、実質的に試料が滅菌された状態に相当する生存率である。
【0118】
(第一容器の温度の影響)
図5(B)は、第一容器11の圧力を1.0MPa、第二容器28の温度を40℃、第二容器28の圧力を2.0MPaとし、第一容器11の温度条件を40℃(比較例2)、20℃(比較例3)、10℃(実施例1)とした条件下で行った実験の結果を示している。図5(B)において、◇は上記比較例2、□は上記比較例3、△は上記実施例1における結果をそれぞれ示している。
図5(B)に示すように、第一容器11の温度が40℃の場合には30minで酵母の生存率を処理前の10万分の1以下にすることができることが分かった。また、第一容器11の温度を20℃とした場合には、酵母の生存率を処理前の10万分の1以下にするのに20min要した。
これに対して、第一容器11の温度を10℃とした場合には、10minで酵母の生存率を処理前の10万分の1以下にすることができた。
【0119】
(第一容器の圧力の影響)
図6は、第一容器11の温度を10℃、第二容器28の温度を40℃、第二容器28の圧力を2.0MPaとし、第一容器11の圧力条件を0.0MPa(比較例4)、0.5MPa(比較例5)、1.0MPa(上記実施例1)とした条件下で行った実験の結果を示している。図6において、◇は上記比較例4、□は上記比較例5、△は上記実施例1における結果をそれぞれ示している。
図6に示すように、第一容器11の圧力が0.0MPa(常圧)の条件では酵母の生存率は30min経過しても0minとほとんど差がなく、殺菌作用は得られなかった。また、第一容器11の圧力が0.5MPaの条件では、実験条件内で最も長い30minだけ第二容器28に試料を滞留させても酵母の生存率は処理前の100分の1であり、酵母を殺菌することはできるが酵母を完全に滅菌することはできなかった。
これに対して、第一容器11の圧力が1.0MPaの条件では、第二容器28に試料を滞留させる滞留時間が10minの条件で、酵母の生存率は処理前の10万分の1以下となり、酵母を含む試料は滅菌された。
【0120】
(第二容器の温度の影響)
図7(A)は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を0.5MPa、第二容器28の圧力を2.0MPaとし、第二容器28の温度条件を、40℃(上記比較例5)、45℃(実施例2)とした条件下で行った実験の結果を示している。図7(A)において、◇は上記比較例5、□は上記実施例2における結果をそれぞれ示している。
図7(A)に示すように、第二容器28の温度を45℃とした条件では、試料を第二容器28内に滞留させる滞留時間が10minの条件で、酵母の生存率は処理前の10万分の1以下となり、酵母を含む試料は滅菌された。
【0121】
図7(B)は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を1.0MPa、第二容器28の圧力を2.0MPaとし、第二容器28の温度条件を40℃(上記実施例1)、45℃(実施例3)とした条件下で行った実験の結果を示している。図7(B)において、◇は上記実施例1、□は上記実施例3における結果をそれぞれ示している。
図7(B)に示すように、第二容器28の温度を40℃とした条件では第二容器28に試料を滞留させる滞留時間が10minで、第二容器28の温度を45℃とした条件では第二容器28に試料を滞留させる滞留時間が5minでそれぞれ酵母の生存率は処理前の10万分の1以下となり酵母を含む試料は滅菌された。
【0122】
図8は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を0.5MPa、第二容器28の温度を40℃とし、第二容器28の圧力を2.0MPa(上記比較例5)、4.0MPa(比較例6)とした条件下における実験の結果を示している。図8において、◇は上記比較例5、□は上記比較例6における結果をそれぞれ示している。
図8に示すように、第二容器28の圧力条件を2.0MPaから4.0MPaに変更しても、酵母の生存率に著しい変化があるとはいえないが、第二容器28の圧力条件が4.0MPaの方が酵母の生存率は低いという結果となった。
【0123】
本実験例の結果から、二段半連続MNB-CO2処理による酵母の殺菌効果は、第一容器11の温度を相対的に低くし、第二容器28の温度を相対的に高くすることによって著しく高まること、並びに、第一容器11の圧力を相対的に低くし、第二容器28の圧力を相対的に高くすることで高まることがわかった。
【0124】
<実験例2:火落菌の二段半連続MNB-CO2処理>
次に、被処理物として酵母に代えて火落菌を使用し、上述の実験例1と同様の条件で検討を行った例を示す。
本実験例は、エタノールを含有する液体に火落菌を混合した試料を被処理物として用いて、本発明の第1実施形態の処理方法(二段半連続方式)における火落菌に対する殺菌作用について検討したものである。また、本実験例では、二段半連続方式において、第一容器11の温度および内圧、並びに第二容器28の温度および内圧の条件を変更して火落菌への殺菌作用に対する影響を検討した。
【0125】
(試料の調製)
本実験例では、殺菌作用を検討する火落菌株は、Lactobacillus fructivorans s36とした。まず、1白金耳量の上記火落菌株の菌体を、最終濃度10%のエタノールを含有する10mLのSI培地((財)日本醸造協会製)に懸濁し、30℃で7日間培養した。7日後、0.5mLの培養液を最終濃度15%のエタノールを含有する10mLのSI培地に移し、30℃で7日間培養した。7日後、培養液から菌体を遠心分離機(4℃、10000×g、10分)に2回かけて火落菌を回収し、初発菌数1.0×10CFU/mLになるように5%エタノール含有生理食塩水中に懸濁して12Lの試料を調製した。
【0126】
(二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、図1に示した装置を使用し、具体的な構成は上記実験例1で採用した構成と同一とした。
【0127】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃および40℃
第一圧力P1:0.0MPa、0.5MPa、1.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0128】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:40℃
第二圧力P2:2.0MPa
第二容器28内における被処理物の滞留時間:0min、10min、20min、および30min
【0129】
本実験例における各実験条件を表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
(生菌数の測定)
本実験例におけるMNB-CO2処理前後の火落菌生菌数の測定は、MNB-CO2処理前後の試料を、シャーレ内で培養したときに肉眼でコロニー数が確認できる程度(300コロニー/シャーレ以下)まで滅菌生理食塩水を用いて希釈し、その各希釈試料1mLを15mLのSI寒天培地溶液と混合し、30℃で10日間培養し、コロニー数を数えた。また、上記実験例1と同様の方法で火落菌の生存率を算出した。
【0132】
また、得られたデータの解釈としては、第二容器28の滞留時間10minにおける生菌数が初発菌数に対して10万分の1を越える場合を、実用上十分な程度には滅菌されていないものと判定した。すなわち、第二容器28の滞留時間10minにおいて酵母の生存率が10万分の1を越える温度条件および圧力条件の組み合わせは本発明に対する比較例とした。
【0133】
(結果と考察)
図9(A)、図9(B)に、本実験例を行った結果のグラフを示す。これらの図において、横軸は第二容器28内における試料の滞留時間を示し、縦軸は火落菌の生存率を示している。
【0134】
図9(A)は、第一容器11の温度を40℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を40℃、第二容器28の圧力を2.0MPaとした条件(比較例7)の下で行った実験の結果を示している。なお、この実験では、第一容器11と第二容器28とは温度および圧力が同じ値に設定されており、一段の処理を行ったのと実質的に同等の処理内容となっている。
図9(A)に示すように、この実験では、第二容器28内において試料の滞留時間が20min以上において初発菌数に対して100万分の1以下の生存率となった。なお、火落菌の殺菌において、初発菌数(1.0×10CFU/mL)に対して100万分の1以下の生存率は、実質的に試料が滅菌された状態に相当する生存率である。
【0135】
図9(B)は、第一容器11の温度を10℃、第二容器28の温度を40℃、第二容器28の圧力を2.0MPaとし、第一容器11の圧力条件を0.0MPa(比較例8)、0.5MPa(比較例9)、1.0MPa(実施例4)とした条件下で行った実験の結果を示している。図9(B)において、◇は上記比較例8、□は上記比較例9、△は上記実施例4の条件における結果をそれぞれ示している。
図9(B)に示すように、第一容器11の圧力を0.0MPa(常圧)とした場合には、実験条件内で最長の30minだけ試料を第二容器28内に滞留させても火落菌は処理前の10分の1程度しか減少せず、完全に滅菌することはできなかった。また、第一容器11の圧力を0.5MPaとした条件では上記比較例7と同様の傾向を示し、第二容器28に試料を20minだけ滞留させることで、火落菌の生存率は処理前の100万分の1以下となり火落菌を含む試料は滅菌された。また、第一容器11の温度を10℃とし、第一容器11の圧力を1.0MPaとした上記実施例4では、上記比較例7に比べて短時間の10minで火落菌を滅菌することができた。
本実験例の結果から、上記実験例1における酵母に対する殺菌作用と同様に、第一容器11の圧力が高い方が火落菌に対する殺菌作用が強いことがわかった。
【0136】
また、上記実験例1と上記実験例2の結果を合わせて考えると、二段半連続方式による細菌類に対する殺菌作用は、第一容器11の温度を低くするとともに第一容器11の圧力を高くし、第二容器28の温度を第一容器11の温度よりも高くすることによって著しく高まると考えられる。
【0137】
<実験例3:グルコアミラーゼの二段半連続MNB-CO2処理>
本実験例は、エタノールを含有する液体にグルコアミラーゼを混合した試料を被処理物として用いて、本発明の第1実施形態の処理方法(二段半連続方式)におけるグルコアミラーゼに対する失活作用について検討したものである。また、本実験例では、二段半連続方式において、第一容器11の温度、並びに第二容器28の温度および圧力の条件をそれぞれ変更してグルコアミラーゼに対する失活作用に対する影響を検討した。
【0138】
(試料の調製)
本実験例では、グルコアミラーゼ(エイチビィアイ株式会社製)を、最終濃度が0.004%となるように、15%エタノール含有酢酸緩衝液(pH4.0)で希釈したものを試料とした。
(二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実験例1において採用した構成と同一である。
【0139】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃および45℃、
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0140】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:40℃、45℃、および50℃
第二圧力P2:2.0MPa、4.0MPa、および6.0MPa
第二容器28内における被処理物の滞留時間:0min、10min、20min、および30min
MNB-CO2を発生させる手順については上記実験例1と同様の手順で行った。
【0141】
本実験例における各実験条件を表3に示す。
【0142】
【表3】

【0143】
(試料中の残存酵素活性の測定)
本実験例では、MNB-CO2処理前後のグルコアミラーゼの残存活性を、糖化力測定キット(キッコーマン株式会社製)を使用して測定した。グルコアミラーゼの残存活性は、MNB-CO2処理をしていない試料におけるグルコアミラーゼの活性に対する相対活性として、百分率(%)で表示した。実験は全て3反復行い、3反復において得られたデータの平均値と標準誤差をそれぞれ算出し、グラフ化した。
【0144】
また、得られたデータの解釈としては、第二容器28の滞留時間30minにおける残存酵素活性が、60%を越える場合には、実用上十分な酵素失活作用が得られなかったものと判定した。すなわち、第二容器28の滞留時間30minにおいてグルコアミラーゼの残存酵素活性が60%を越える温度条件および圧力条件の組み合わせは本発明に対する比較例とした。
【0145】
(結果と考察)
図10、図11、および図12に、本実験例を行った結果のグラフを示す。これらの図において、横軸は第二容器28内における試料の滞留時間を示し、縦軸はグルコアミラーゼの残存活性を示している。
【0146】
図10は、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を45℃、第二容器28の圧力を4.0MPaとし、第一容器11の温度条件を10℃(実施例5)、45℃(比較例10)とした条件下における実験の結果を示している。図10において、◇は上記実施例5、□は上記比較例10における結果を示している。
図10に示すように、第二容器28に試料を滞留させる時間が30minである場合について比較すると、第一容器11の温度を45℃とした場合のグルコアミラーゼの残存活性は、MNB-CO2処理をしていない試料に対して80%であり、第一容器11の温度を10℃とした場合のグルコアミラーゼの残存活性は、MNB-CO2処理をしていない試料に対して40%であった。また、第二容器28に試料を滞留させる時間が30min未満の場合においては、
も、第一容器11の温度が低いほうがグルコアミラーゼの残存活性が低かった。
この結果は、第一容器11の温度が低い方が、第一容器11の温度が高い場合よりもグルコアミラーゼに対する失活作用が強いことを示している。
【0147】
図11は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の圧力を4.0MPaとし、第二容器28の温度条件を40℃(実施例6)、45℃(上記実施例5)、50℃(実施例7)の条件下で行った実験の結果を示している。図11において、◇は上記実施例6、□は上記実施例5、△は上記実施例7における結果を示している。
図11に示すように、第二容器28に試料を滞留させる時間が30minである場合について比較すると、第二容器28の温度が40℃、45℃および50℃におけるグルコアミラーゼの残存活性はそれぞれ60%、50%、および5%となった。また、第二容器28に試料を滞留させる時間が30min未満の場合においても、第二容器28の温度が高い方がグルコアミラーゼの残存活性が低かった。また、上記実施例5、実施例6、および実施例7の条件は、いずれも上記比較例10の条件よりもグルコアミラーゼの失活作用が強い条件であることが分かった。この結果は、第二容器28の温度が高い方が、第二容器28の温度が低い場合よりもグルコアミラーゼに対する失活作用が強いことを示している。
【0148】
図12は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を45℃とし、第二容器28の圧力条件を、2.0MPa(比較例11)、4.0MPa(上記実施例5)、6.0MPa(実施例8)とした条件下における実験の結果を示している。図12において、◇は上記比較例11、□は上記実施例5、△は上記実施例8における結果を示している。
図12に示すように、第二容器28に試料を滞留させる時間を30minとした場合について比較すると、第二容器28の圧力が2.0MPa、4.0MPa、および6.0MPaにおけるグルコアミラーゼの残存活性はそれぞれ65%、43%および38%であった。また、第二容器28に試料を滞留させる時間が30min未満の場合においても、第二容器28の圧力が高いほうがグルコアミラーゼの残存活性が低かった。また、上記実施例5、および実施例8の条件は、上記比較例11の結果と比較してグルコアミラーゼの残存活性が低く、グルコアミラーゼの失活作用が高い条件であることが分かった。また、この結果は、第二容器28の圧力が高い方が、第二容器28の圧力が低い場合よりもグルコアミラーゼに対する失活作用が強いことを示している。
【0149】
本実験例の結果から、グルコアミラーゼを含有する試料を被処理物とした二段半連続MNB-CO2処理において、第一容器11の温度を低くすること、および第二容器28の温度を高くすることによって失活作用を著しく高めることができることが分かった。
【0150】
<実験例4:酸性プロテアーゼの二段半連続MNB-CO2処理>
本実験例は、エタノールを含有する液体に酸性プロテアーゼを混合した試料を被処理物として用いて、本発明の第1実施形態の処理方法(二段半連続方式)における酸性プロテアーゼに対する失活作用について検討したものである。また、本実験例では、二段半連続方式において、第一容器11の温度および内圧、並びに第二容器28の温度および内圧の条件をそれぞれ変更して、酸性プロテアーゼに対する失活作用におけるこれらの条件の影響を検討した。
【0151】
(試料の調製)
本実験例では、酸性プロテアーゼ(エイチビィアイ株式会社製)を、最終濃度が0.015%となるように、15%エタノール含有酢酸緩衝液(pH4.0)で調整したものを試料とした。
(二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実験例1において採用した構成と同一である。
【0152】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃および45℃、
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0153】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:45℃、および50℃
第二圧力P2:4.0MPa
第二容器28内における被処理物の滞留時間:0min、10min、20min、および30min
【0154】
本実験例における各実験条件を表4に示す。
【0155】
【表4】

MNB-CO2を発生させる手順については上記実験例1と同様の手順で行った。
【0156】
(試料中の残存酵素活性の測定)
本実験例では、MNB-CO2処理前後の酸性プロテアーゼの残存活性を、次に示す手順で測定した。
まず、酢酸緩衝液(pH4.0)中に最終濃度2%のカゼインを含有する溶液1mLと試料0.5mLとを混合し、37℃、pH4.0の条件下で静置し、10分間酵素反応させた。次に、10分間酵素反応させた反応後溶液に、0.4mol/Lのトリクロロ酢酸溶液3mLを加え反応を停止させた後、沈殿物をろ過してろ液を回収し、5倍希釈したフェノール試薬(関東化学株式会社Cat. No. 32914-23)1mLと、0.55mol/Lの炭酸ナトリウム溶液5mLとの混合物を、ろ液1mLに加えて発色させた。ろ液の色は、波長660nmの光の吸光度を計測する吸光度計を用いて測定した。
なお、測定方法の詳細は以下の文献に記載されている(文献:Ishikawa et al., 1995 Inactivation of enzymes in an aqueous solution by micro-bubbles of supercritical carbon dioxide. Biosci. Biotechnol. Biochem., 59(4), 628-631)。
【0157】
酸性プロテアーゼの残存活性は、MNB-CO2処理を行っていない試料の酵素活性に対する相対活性として百分率(%)で表示した。実験は全て3反復行い、3反復において得られたデータの平均値と標準誤差をそれぞれ算出し、グラフ化した。
【0158】
また、得られたデータの解釈としては、第二容器28の滞留時間30minにおける残存酵素活性が15%を越える場合には、実用上十分な酵素失活作用が得られなかったものと判定した。すなわち、第二容器28の滞留時間30minにおいて酸性プロテアーゼの残存酵素活性が15%を越える温度条件および圧力条件の組み合わせは本発明に対する比較例とした。
【0159】
(結果と考察)
図13および図14に、本実験例を行った結果のグラフを示す。図13および図14において、横軸は第二容器28内における試料の滞留時間を示し、縦軸は酸性プロテアーゼの残存活性を示している。
【0160】
図13は、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を45℃、第二容器28の圧力を4.0MPaとし、第一容器11の温度条件を、10℃(実施例9)、45℃(比較例12)とした条件下における実験の結果を示している。図13において、◇は上記実施例9、□は上記比較例12における結果をそれぞれ示している。
図13に示すように、滞留時間30min後の試料における酸性プロテアーゼの残存活性は、第一容器11の温度が45℃の条件では20%であり、第一容器11の温度が10℃の条件では2.0%であった。また、第二容器28に試料を滞留させる時間が30min未満の場合においても、第一容器11の温度が低い方が酸性プロテアーゼの残存活性が低かった。この結果は、第一容器11の温度が低い方が、第一容器11の温度が高い場合よりも酸性プロテアーゼに対する失活作用が強いことを示している。
【0161】
図14は、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の圧力を4.0MPaとし、第二容器28の温度条件を45℃(上記実施例9)、50℃(実施例10)とした条件下における実験の結果を示している。図14において、◇は上記実施例9、□は上記実施例10における結果を示している。
図14に示すように、第二容器28に試料を滞留させる時間が30minの場合について比較すると、酸性プロテアーゼの残存活性は、第二容器28の温度が45℃の条件では2.3%であり、第二容器28の温度が50℃の条件では1.1%であった。
【0162】
また、第二容器28に試料を滞留させる時間を30minよりも短い時間とした場合においては、第二容器28の温度が45℃の条件では20minで酸性プロテアーゼの残存活性が5.1%となり、第二容器28の温度が50℃の条件では10minで酸性プロテアーゼの残存活性が3.1%以下となった。
これらの結果は、第二容器28の温度が高い方が、第二容器28の温度が低い場合よりも酸性プロテアーゼに対する失活作用が強いことを示している。
【0163】
本実験例の結果から、酸性プロテアーゼの二段半連続MNB-CO2処理においても第一容器11の温度を低くすること、および第二容器28の温度を高くすることによって失活効果は著しく高くなることがわかった。
【0164】
次に、本発明の処理方法および処理装置1と従来の処理方法および処理装置とを対比するために、従来の処理方法と同様の条件で酵素を失活させる処理を行う例を示す。以下に示す比較例13、14は、本発明の処理方法および処理装置1による処理を示すものではなく、国際公開第2009/016998号パンフレットにおいて開示された食品の処理方法を用いて上記実験例3および実験例4と同一の試料をそれぞれ処理した例を示したものである。なお、国際公開第2009/016998号パンフレットに開示された処理方法を用いた処理を、以下では「一段バッチMNB-CO2処理」と称する。
【0165】
<比較例13:グルコアミラーゼの一段バッチMNB-CO2処理>
比較例13は、第1実施形態で説明した処理装置1を用いて行うが、第二容器28へ試料を流すことなく、ドレイン管路17から試料を排出させることにより第一容器11のみを用い、第一容器11内の温度、圧力および滞留時間の処理条件を、国際公開第2009/016998号に示す処理装置と同様の処理条件にして実験を行ったものである。装置の具体的な構成は上記実験例1において採用した構成と同一である。
また、比較例13は、実験例3で示したのと同一の組成の試料を、グルコアミラーゼを含有する被処理物として用いたものであり、上記実験例3に対する対照実験である。
【0166】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:45℃、
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
第一容器11内における試料の処理時間:10min、20nim、および30min
【0167】
なお、比較例13において、第一容器11内における試料の処理時間は、第一容器11内において二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和したことが確認された時点を0minとして計測している。すなわち、二酸化炭素のマイクロナノバブルが試料中で飽和した後に試料が加熱および加圧されている時間という点で、比較例13および後述する比較例14における処理時間は上記実験例3および4で説明した第二容器28内の滞留時間に相当するものである。
【0168】
(一段バッチMNB-CO2処理)
比較例13では、一段バッチMNB-CO2処理を以下の手順で行った。まず、内容量15Lの第一容器11に12Lの試料を供給した。続いて、12Lの試料を上記第一温度T1まで加熱し、第一容器11のヘッドスペース部分に二酸化炭素を2.0MPaに達するまで供給した。その後、MNB-CO2を、上記実験例1と同様の方法で発生させた。
【0169】
(試料中の残存酵素活性の測定)
残存酵素活性測定用サンプルは、第一容器11のドレイン弁19を開放することによってドレイン管路17から10分おきに採取した。採取した試料におけるグルコアミラーゼの残存活性は上記実験例3と同様の方法で測定し、上記実験例3と同様にグルコアミラーゼの残存活性を百分率でグラフに示した。
【0170】
(結果と考察)
図15に比較例13の実験の結果を示す。図15において、横軸は第一容器内に試料を滞留させて処理を行った処理時間を示し、縦軸はグルコアミラーゼの残存活性を示している。図15に示すように、比較例13の実験の結果、試料の処理時間が30minであってもグルコアミラーゼの残存活性は80%であった。
比較例13の結果と上記実験例3の結果とを対比すると、二段半連続MNB-CO2処理(上記実施例5ないし8)は一段バッチMNB-CO2処理(比較例13)よりもグルコアミラーゼの失活作用が強い処理方法であることが分かる。
【0171】
<比較例14:酸性プロテアーゼの一段バッチMNB-CO2処理>
比較例14は、比較例13と同様の条件で、グルコアミラーゼに代えて酸性プロテアーゼを含む試料を被処理物として処理を行った例を示すものである。なお、比較例14は、上記実験例4において使用した試料と同一の組成の試料を用いた実験であり、上記実験例4に対する対照実験である。
【0172】
比較例14における第一容器11の温度、圧力、第一容器11内に試料を滞留させる処理時間、並びに第一容器11からの試料の採取方法は上記比較例13で説明したのと同一である。
また、試料中の残存酵素活性の測定方法および結果のグラフ化の方法は、上記実験例4において説明した方法と同一である。
【0173】
(結果と考察)
図16に比較例14の実験の結果を示す。図16において、横軸は第一容器内で試料を滞留させる処理時間を示し、縦軸は酸性プロテアーゼの残存活性を示す。図16に示すように、比較例14の実験の結果、試料の処理時間が30minであっても酸性プロテアーゼの残存活性は20%であった。
比較例14の結果と上記実験例4の結果とを対比すると、二段半連続MNB-CO2処理(上記実施例9、10)は一段バッチMNB-CO2処理(比較例14)よりも酸性プロテアーゼに対する失活作用が強い処理方法であることが分かる。
【0174】
<比較例15:グルコアミラーゼの加熱処理>
次に、グルコアミラーゼを含有する試料を加熱処理することによって試料中のグルコアミラーゼを失活させる処理を行った場合のグルコアミラーゼに対する失活作用を示す。
比較例15では、第1実施形態で説明した処理装置1を用いて行うが、第二容器28へ試料を流すことなく、ドレイン管路17から試料を排出させることにより第一容器11のみを用い、MNB-CO2を試料に混合させることなく加熱のみを行った。なお、装置の具体的な構成は上記実験例1において採用した構成と同一であり、第一容器11内で加熱処理を行った試料は上記比較例13で説明したのと同様にドレイン管路17から採取した。
【0175】
第一容器11の温度条件は40℃(比較例15−1)、45℃(比較例15−2)、50℃(比較例15−3)、60℃(比較例15−4)、65℃(比較例15−5)、及び70℃(比較例15−6)とし、前記温度条件下で第一容器11内に被処理物を滞留させる時間は10min、20min、および30minとした。また、試料中の残存酵素活性の測定は上記実験例3と同様の方法で行った。
【0176】
(結果と考察)
図17に比較例15の実験の結果を示す。図17において、横軸は第一容器内で試料を加熱処理した処理時間を示し、縦軸はグルコアミラーゼの残存活性を示している。また、図17において、◇は第一容器11の温度が40℃、□は第一容器11の温度が45℃、△は第一容器11の温度が50℃、*は第一容器11の温度が60℃、×は第一容器11の温度が65℃、○は第一容器11の温度が70℃である条件における結果を示している。図17に示すように、比較例15の実験の結果、第一容器11の温度が65℃および70℃である場合には他の温度条件の場合と比較して顕著にグルコアミラーゼの残存活性が低下した。
【0177】
これらの結果から、二段半連続MNB-CO2処理(上記実施例5ないし8)は、被処理物に対して50℃以下の温度で処理を行う場合に、グルコアミラーゼに対する失活作用が単純な加熱処理よりも顕著に高い処理方法であることが分かる。また、比較例15と上記実験例3の結果とを対比すると、二段半連続MNB-CO2処理は、グルコアミラーゼの失活作用において、一般的に行われる火入れ温度(65℃)よりも低い温度(50℃)で、65℃で火入れを行ったのと同程度の殺菌作用を有することがわかり、これらの結果は、二段半連続MNB-CO2処理によって、従来の火入れ温度よりも低温で十分な酵素失活作用を試料にあたえることができることを示唆している。
【0178】
<比較例16:酸性プロテアーゼの加熱処理>
次に、酸性プロテアーゼを含有する試料を加熱処理することによって試料中の酸性プロテアーゼを失活させる処理を行った場合の酸性プロテアーゼに対する失活作用を示す。
比較例16では、試料は上記実験例4において説明したのと同一の組成の試料を用いた。また、比較例16において、処理装置1の構成、および試料の採取方法は上記比較例15と同一である。また、試料中の酸性プロテアーゼの残存活性の測定の方法は上記実験例4で説明した測定方法と同一である。
【0179】
(結果と考察)
図18に、比較例16の実験の結果を示す。図18において、横軸は加熱処理を行う処理時間を示し、縦軸は酸性プロテアーゼの残存活性を示している。また、図18において、◇は第一容器11の温度が40℃(比較例16−1)、□は第一容器11の温度が45℃(比較例16−2)、△は第一容器11の温度が50℃(比較例16−3)、×は第一容器11の温度が60℃(比較例16−4)、*は第一容器11の温度が65℃(比較例16−5)である条件における結果をそれぞれ示している。
図18に示すように、比較例16の実験の結果、酸性プロテアーゼの残存活性は温度が高いほど高いことが分かった。例えば60℃で30minだけ試料を第一容器11内に滞留させた場合には、酸性プロテアーゼの残存活性は35%であった。
【0180】
比較例16の結果と上記実験例4の結果とを対比すると、二段半連続MNB-CO2処理(上記実施例9、10)は、酸性プロテアーゼに対する失活作用が単純な加熱処理(比較例16)よりも顕著に高い処理方法であることが分かる。また、加熱処理のみでは、通常の火入れ温度(65℃)では30minの処理時間で酸性プロテアーゼの残存活性は20%であったが、二段半連続MNB-CO2処理では、第一容器11の温度を10℃、第二容器28の温度を45℃とすることで30minの処理時間で酸性プロテアーゼの残存活性を2.0%と顕著に低下させることができることから、通常の火入れ温度(65℃)よりも低い温度で十分に酸性プロテアーゼを失活させることができる。これにより、生酒の風味の劣化を防ぐことができるとともに、火入れを行って製造した酒とは異なる風味の酒を製造することもできると考えられる。
【0181】
上記実験例1ないし4では、細菌あるいは酵素を緩衝液中に混合させた試料を実験的な被処理物として第一温度T1、第一圧力P1、第二温度T2、および第二圧力P2について好適な範囲の例を示した。以下では、醸造により製造された日本酒の生酒に細菌を混合させた試料を被処理物として、二段半連続方式と従来の方法とを対比して説明する。
【0182】
<実験例5:生酒の二段半連続MNB-CO2処理>
本実験例は、生酒中の細菌類に対する殺菌作用と、生酒中の酵素類に対する失活作用とをそれぞれ検討したものである。また、本実験例では、二段半連続方式において、第一容器11の温度および内圧、並びに第二容器28の温度および内圧の条件をそれぞれ変更してこれらの条件の影響を検討した。
【0183】
(試料の調製)
本実験例では、熊澤酒造株式会社より購入した生酒(品名:湘南しぼりたて生原酒)に、上記実験例2に記載の方法と同様の方法により培養した火落菌(Lactobacillus fructivorans s36)を1×10CFU/mLとなるように添加した。なお、予備検討において上記生酒中の火落菌の菌数を測定した結果、生酒に予め含まれる火落菌の生菌数は添加した火落菌の生菌数に対して十分に少なく、生酒に予め含まれる火落菌の生菌数は本実験例の結果に影響しないと考えられる。
【0184】
(二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、上記実験例1で説明した処理装置1を元に一部変更してMNB-CO2処理を行った。すなわち、本実験例では、第1実施形態の変形例で説明した構成の処理装置1Aを用い、第二容器28から被処理物回収容器7へ移動する被処理物を冷却器36によって冷却するようにした。これは、第二容器28内で加熱された生酒から香気成分が揮散するのを防ぐためである。
本実験例において、冷却器36の具体的な構成は、内径1.5cm、長さ100cmのらせん状の管路であって管路の内容量は170mLとした。また、冷却器36は、管路の内部温度を0℃±1℃の範囲に維持するものとした。
【0185】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0186】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:45℃および50℃、
第二圧力P2:4.0MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:0min、10min、20min、および30min
【0187】
実験は以下の手順で行った。試料を被処理物貯蔵容器2に入れてから、試料を第二容器28から排出するまでの手順は上記実験例1と同様である。試料を第二容器28から排出した後、冷却器36を用いて試料を冷却してから試料を被処理物回収容器7内に収容した。その後、被処理物回収容器7に回収された試料中の火落菌の生存率と酵素類の残存活性を、それぞれ上記実験例2ないし4で説明したのと同様の方法で測定した。以下、この手順を用いた実験を「1回処理実験」と称する。
【0188】
また、本実験例では、二段半連続方式による生酒の処理を2回繰り返す実験(以下、「2回処理実験」と称する)も行った。2回処理実験は、上記1回処理実験を、第二容器28の温度を45℃とし、第二容器28内における試料の滞留時間を10minとした条件で行い、上記1回処理実験の終了後、1回処理実験において被処理物回収容器7に回収された試料を5℃で1週間貯蔵したものに対して二段半連続方式による2回目の処理を行った。本実験例では、2回目の処理において、第一容器11の温度および圧力、並びに第二容器28の温度および圧力の条件をそれぞれ変更してそれらの条件が殺菌作用および失活作用に及ぼす影響を検討した。
【0189】
(生菌数の測定)
二段半連続MNB-CO2処理前後の火落菌の生菌数の測定は、上記実験例2と同様の方法で行い、上記実験例2で説明したのと同様にグラフ化した。
【0190】
(残存酵素活性の測定)
本実験例では、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼの残存活性を、上記実験例3で説明したのと同様の測定方法を用いて測定した。また、酸性カルボキシペプチダーゼの残存活性を、酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定キット(キッコーマン株式会社製)を用いて測定し、α-アミラーゼの残存活性をα-アミラーゼ活性測定キット(キッコーマン株式会社製)を用いて測定した。
これらの酵素の残存活性は、上記1回処理実験および上記2回処理実験をする前の試料中の酵素の活性に対する相対活性として百分率(%)で表示した。実験は全て3反復行い、3反復実験で得られたデータの平均値と標準誤差とをそれぞれ算出し、グラフ化した。
【0191】
また、火落菌に対する殺菌作用と上記各酵素に対する失活作用とのそれぞれの強弱を判定する基準は上記実験例1ないし4における判定基準と同様とした。この判定基準に基づいて殺菌作用あるいは酵素失活作用が不十分となる条件を本発明に対する比較例として示す。
【0192】
(結果と考察)
本実験例の結果を表5、表6、および表7に示す。
【0193】
【表5】

【0194】
表5は、生酒の二段半連続MNB-CO2処理において、第二容器28の温度が45℃および50℃である条件における結果を示している。表5に示すように、生酒中の生存火落菌数はいずれも滞留時間10minで検出限界以下の生菌数となり、生酒中の火落菌は滅菌された。この結果から、二段半連続MNB-CO2処理は生酒中の火落菌殺菌に対して極めて効果的であると考えられる。
【0195】
【表6】

【0196】
表6は、第二容器28の温度が45℃の条件におけるα-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、および酸性カルボキシペプチダーゼの残存活性を示している。表6に示すように、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼはいずれも滞留時間10minでその残存活性は検出限界以下となり、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼは完全に失活した。さらに、α-グルコシダーゼの残存活性は、滞留時間30minにおいて、29.1%であった。
【0197】
また、α-グルコシダーゼの残存活性について、1回処理実験では30minだけ試料を第二容器28に滞留させても29.1%の残存活性があったが、10minの1回処理を行い1週間貯蔵を行った後、2回目の処理を行った場合には、2回目の処理において10min以上第二容器28内に試料を滞留させれば生酒におけるα-グルコシダーゼの失活として実用的な程度にα-グルコシダーゼを失活させることができることが分かった。
【0198】
2回処理実験では、第二容器28内に試料を滞留させる時間は1回目に10分、2回目に10分の計20分であるが、このときの残存活性は、1回処理実験で20分だけ試料を第二容器28内に滞留させた場合の残存活性よりも低い。これは、2回処理実験では、1回目の処理の終了後、2回目の処理において再び試料中に二酸化炭素のマイクロナノバブルが飽和されたことによって高い酵素失活作用が得られたものと考えられる。
2回処理実験の結果から、本実験例の処理方法では、第二容器28内に試料を滞留させて試料に対する酵素の失活処理を行うときに、滞留時間の初期段階で急激に酵素は失活し、滞留時間が経過するにしたがってその失活作用は徐々に低下する可能性が示唆される。
【0199】
【表7】

【0200】
表7は、第二容器28の温度が50℃である条件における結果を示している。表7に示すように、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼはいずれも滞留時間10minでその残存活性は検出限界以下となり、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼは完全に失活した。さらに、第二容器28の温度が50である場合には、10minの処理時間でα-グルコシダーゼの失活として実用的な程度にα-グルコシダーゼを失活させることができ、30minだけ滞留させることでさらに失活させることができることが分かった。
【0201】
本実験例から、生酒に対する二段半連続MNB-CO2処理においても、上記実験例2ないし4と同様の傾向が見られ、生酒中の細菌類に対する殺菌作用および生酒中の酵素類に対する失活作用があることが分かった。
【0202】
<実験例6:二段半連続MNB-CO2処理前の試料(生酒)と処理後の試料との香気成分残存量>
本実験例は、生酒を試料として二段半連続MNB-CO2処理を行った場合に処理後の試料の風味にどのような変化が生じるかを検討したものである。本実験例では、細菌類や酵素類を生酒に添加していない。
【0203】
本実験例では、二段半連続MNB-CO2処理をする前の試料(生酒)の風味と処理後の試料の風味との差を定量的に示すために、試料に含まれる香気成分の分析を行った。
二段半連続MNB-CO2処理は、上記実験例5で説明した条件を元に、第一容器11の温度を10℃、第一容器11の圧力を2.0MPa、第二容器28の温度を45℃、第二容器28の圧力を4.0MPa、第二容器28内の試料の滞留時間を30minにそれぞれ設定して実験を行った。
【0204】
本実験例では、香気成分の分析方法として、Porapak Qカラム濃縮法を用いた。すなわち、二段半連続MNB-CO2処理前後の試料を各30mL採取し、20mLのPorapak Q (polydivinylbenzene, 50-80 mesh, Waters Co. Ltd., Milford, MA)が充填されたガラスカラム(直径2cm、長さ10cm)に試料を流してPorapak Qに香気成分を吸着させた後、100mLの蒸留水でカラム内を洗浄し、次いで100mLのジエチルエーテル(和光純薬工業株式会社製)をカラムに流して香気成分を溶出させた。これらの操作は全て約5℃の条件下で行った。
【0205】
さらに、香気成分が溶出された溶出液に内部標準物質としてシクロヘキサノール(片山化学工業株式会社製;100ppm水溶液)を100μL添加し、無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)100gを加えて一晩脱水後、窒素気流を用いて約4mLまで濃縮し、ガスクロマトグラフィー質量分析計(Shimadzu GC2010)により各香気成分を定量した。結果は、二段半連続MNB-CO2処理前の生酒中に含まれる各香気成分含量を100%として百分率で示した。
【0206】
(比較例17:生酒の一段バッチMNB-CO2処理)
香気成分の残存量を定量した上記実験例6に対する別の対照実験として、上記一段バッチMNB-CO2による処理を生酒に対して行った例を示す。比較例17では、ドレイン管路17に冷却器36(第1実施形態の変形例参照)が取り付けられた上述の処理装置1Aを用いた。
【0207】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:45℃、
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
第一容器11内における試料の滞留時間:30min
【0208】
香気成分の分析方法は、上述した方法と同一である。
【0209】
(結果と考察)
表8に本実験例の実験の結果を示す。
【0210】
【表8】

【0211】
生酒中に含まれる香気成分として、酢酸エチル、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、酢酸イソアミル、およびカプロン酸エチルに着目してその残存量を測定した。
表8に示すように、本実験例の結果、二段半連続MNB-CO2処理を行った試料は、第二容器28内における試料の滞留時間が30minのときに、酢酸エチル、イソブチルアルコールおよびイソアミルアルコールがそれぞれ90.1%、101.5%、93.9%残存していた。なお、イソブチルアルコールは未処理よりも二段半連続MNB-CO2処理の方が増加しているかのような数値を示したが、これは測定誤差であると考えられる。また、酢酸イソアミルおよびカプロン酸エチルは、このときそれぞれ83.4%および80.0%残存していた。
【0212】
一方、上記比較例17の条件で第一容器11内に30minだけ試料を滞留させて処理を行った場合では、酢酸エチル、イソブチルアルコール、酢酸イソアミル、イソアミルアルコールおよびカプロン酸エチルの残存率はこの順に62.5%、66.2%、60.1%、75.4%、および63.4%であった。
以上の結果から、本実験例では、二段半連続MNB-CO2処理の方が、比較例17で示した一段バッチMNB-CO2処理よりも香気成分の残存率が高いことが分かった。
【0213】
<実験例7:二段半連続MNB-CO2処理をした生酒、加熱処理をした生酒、および未処理の生酒の風味の官能評価>
本実験例では、二段半連続MNB-CO2処理をした生酒の風味と、従来の加熱処理をした生酒および未処理の生酒の風味とを比較するために、二段半連続MNB-CO2処理をした生酒と、従来の加熱処理をした生酒と、未処理の生酒をそれぞれ被験者に試飲させ、これらの香りおよび味について5段階の評価基準(4:非常に良い、3:良い、2:どちらともいえない、1:悪い、0:非常に悪い)に基づいて官能評価を行った。本実験例における被験者は、明治大学農学部の大学院生および大学生の合計22人であった。
【0214】
なお、官能評価の手法としては、試料提供者が提供した試料と被験者が試飲した試料とをいずれも試料提供者および被験者に明示しないいわゆるダブルブラインドテストの手法を採用した。
次に、本実験例における生酒の各処理の詳細について説明する。
【0215】
(実施例11:二段半連続MNB-CO2処理)
本実験例では、生酒に対する二段半連続MNB-CO2処理の実施例11として、以下の条件に設定して生酒に対して殺菌および酵素失活処理を実施した。また、実施例11では、第1実施形態の変形例で説明した処理装置1Aを用い、具体的な構成は上記実験例5で説明したのと同一の構成を採用した。
【0216】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/min
【0217】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:50℃、
第二圧力P2:4.0MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:30min
【0218】
二段半連続方式による生酒の処理手順は上記実験例5と同様である。
【0219】
(比較例18:生酒の加熱処理)
比較のため、二段半連続MNB-CO2処理をしないで生酒の加熱処理のみを以下のとおり行った。生酒は、二段半連続MNB-CO2処理に供するものと同じもの(実験例5で用いた生酒と同一工程で醸造され、実験例5で用いた生酒と同一の容器に収容された状態で入手した生酒)を用いた。生酒が内部に収容された300mLバイアル瓶を、70℃に設定されたウォーターバス内に入れ、生酒の中心部の温度が65℃に達した時点でバイアル瓶をウォーターバスから取り出した。なお、比較例18においては生酒は攪拌していない。加熱処理された生酒は、バイアル瓶ごと冷蔵庫内に静置することによって冷却し、上記官能評価に供した。
【0220】
(比較例19:未処理の生酒)
また、比較のため、二段半連続MNB-CO2処理に供するものと同一の生酒を、冷蔵庫内に静置することによって冷却し、上記官能評価に供した。
【0221】
(結果と考察)
本実験例における官能評価の結果を図19に示す。なお、図19においてMNBと表記したグラフは二段半連続MNB-CO2処理を行った試料に対する結果を示している。図19に示すように、官能評価の結果、加熱処理を行った生酒(比較例18)は未処理の生酒(比較例19)よりも香り、味ともに劣る評価となった。これに対して、二段半連続MNB-CO2処理(実施例11)を行った試料は、加熱処理(比較例18)を行った酒よりも香り、味ともに高い評価が得られた。
【0222】
なお、官能評価において、生酒の香りに対するスコアが2.40であるのに対して二段半連続MNB-CO2処理をした試料の香りに対するスコアは2.95であり、生酒の味に対するスコアが2.20であるのに対して二段半連続MNB-CO2処理をした試料の味に対するスコアは2.85であった。これは、官能評価においては、二段半連続MNB-CO2処理をした試料(実施例11)が未処理の生酒(比較例19)よりも味および香りについて優れていることを示している。また、二段半連続MNB-CO2処理を行った試料については、多くの被験者から非常に飲みやすいという意見が得られた。
【0223】
<実験例8:酵母、火落菌、グルコアミラーゼおよび酸性プロテアーゼの二段全連続MNB-CO2処理>
本実験例は、第2実施形態で説明した処理方法(二段全連続方式)を用いて被処理物の処理を行う具体的な例を示し、細菌類に対する殺菌作用と、酵素類に対する失活作用とのそれぞれについて検討した結果を示すものである。
【0224】
(試料の調製)
本実験例では、上記実験例1、実験例2、実験例3、実験例4において説明したのと同様の試料をそれぞれ調製して実験に用いた。
(二段全連続MNB-CO2処理)
本実験例では、第2実施形態で説明した処理装置1Bを用い、具体的な構成は上記実験例1で採用した構成と同一とした。
【0225】
第一容器11の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度T1:10℃
第一圧力P1:2.0MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:0.1L/min
第一容器11内における滞留試料量:6L
【0226】
第二容器28の温度条件および圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度T2:40℃(酵母および火落菌の場合、実施例12)、および45℃(グルコアミラーゼおよび酸性プロテアーゼの場合、実施例13)
第二圧力P2:4.0MPa
第二容器28内における被処理物の滞留時間:0min、10min、20min、および30min
【0227】
本実験例における各実験条件を表9に示す。
【0228】
【表9】

【0229】
また、本実験例では、第一容器11内における滞留試料量を6Lに維持するために、第一容器11から連続して排出される試料と同量の試料が被処理物貯蔵容器2から第一容器11へ連続して供給されるように送液ポンプ10における流量が設定されている。なお、本実験例で採用した構成の処理装置1Bでは、被処理物貯蔵容器2から被処理物回収容器7までの管路内における単位時間あたりの試料の流量は、第二容器28の管路を流れる試料の滞留時間によって定まる。
【0230】
(生菌数の測定)
酵母の生菌数の測定は上記実験例1に記載の方法で行い、火落菌の生菌数の測定は上記実験例2に記載の方法で行った。
(残存酵素活性の測定)
グルコアミラーゼの残存酵素活性の測定は上記実験例3に記載の方法で行い、酸性プロテアーゼの残存酵素活性の測定は上記実験例4に記載の方法で行った。
【0231】
(結果と考察)
図20(A)、図20(B)、図21(A)、および図21(B)に、本実験例を行った結果を示す。
【0232】
図20(A)において、横軸は第二容器28内に試料を滞留させた時間を示し、縦軸は酵母の生存率を示している。また、図20(B)において、横軸は第二容器28内に試料を滞留させた時間を示し、縦軸は火落菌の生存率を示している。
図20(A)および図20(B)に示すように、実施例12において、酵母および火落菌は、いずれも第二容器28内に10分以上滞留する場合に滅菌された。すなわち、実施例12において、酵母および火落菌に対する殺菌作用は、上記実験例1および上記実験例2と略同様の傾向を示しており、酵母および火落菌は実質的に滅菌されたと考えられる。
【0233】
また、図21(A)において、横軸は第二容器28内に試料を滞留させた時間を示し、縦軸はグルコアミラーゼの残存活性を示している。また、図21(B)において、横軸は第二容器28内に試料を滞留させた時間を示し、縦軸は酸性プロテアーゼの残存活性を示している。
図21(A)および図21(B)に示すように、実施例13において、グルコアミラーゼおよび酸性プロテアーゼに対する酵素失活作用は、上記実験例3および上記実験例4と略同様の傾向を示しており、上記一段バッチ処理(比較例13、14)あるいは加熱処理(比較例15、16)よりも酵素失活作用が高いことが分かった。
これらの結果から、第一容器11において連続して試料を供給しつつ連続して試料を排出しても、試料には十分にMNB-CO2を混合することができることが分かった。
【符号の説明】
【0234】
1、1A、1B 処理装置
2 被処理物貯蔵容器
3 第一送液部
4 飽和処理部(気泡混合部)
5 第二送液部
6 殺菌失活処理部
7 被処理物回収容器
8 二酸化炭素回収部
9 送液管路
10、10A 送液ポンプ
11 第一容器
12 マイクロナノバブル発生装置
13 温度調整部
14 分岐管路
15 大気開放弁
16 第一圧力計
17 ドレイン管路
18 圧力調整弁
19 ドレイン弁
20 二酸化炭素貯蔵タンク
21 二酸化炭素供給管路
22 被処理物循環管路
22A 接続管路
23 循環ポンプ
24、24A 微細気泡発生器
25 供給量調整弁
26 加圧ポンプ
27 流量調整弁
28 第二容器
29 加熱部
30 減圧弁
31 排出管路
32 第二圧力計
33 二酸化炭素回収管路
34 流量調整弁
35 加圧ポンプ
36 冷却器
P1 第一圧力
P2 第二圧力
S1 気泡混合工程
S2 処理工程
T1 第一温度
T2 第二温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理方法であって、
第一温度且つ第一圧力のもとで二酸化炭素の微細気泡を前記被処理物と混合する気泡混合工程と、
前記第一温度より高い第二温度且つ前記第一圧力よりも高い第二圧力のもとで前記被処理物を保持する処理工程と、
を備えることを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記処理工程では、前記気泡混合工程において前記微細気泡が混合された前記被処理物を取り出し、取り出された前記被処理物を前記第二温度且つ前記第二圧力のもとで保持することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記処理工程では、前記気泡混合工程において前記微細気泡が混合された前記被処理物を一定流量で連続して取り出し、前記一定流量で連続して取り出された前記被処理物が前記第二温度且つ前記第二圧力のもとで保持されてから一定時間経過後に前記被処理物を連続して排出することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記気泡混合工程では、前記一定流量で新たな前記被処理物を受け入れ、前記一定流量で受け入れた新たな前記被処理物に前記微細気泡を混合させることを特徴とする請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記第一温度は、−15℃以上50℃以下であり、前記第二温度は、前記第一温度より高い温度であって且つ20℃以上100℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記第一圧力は、ゲージ圧で0.0MPa以上2.0MPa以下であり、前記第二圧力は、第一圧力より高い圧力であって且つゲージ圧で0.1MPa以上6.0MPa以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記被処理物は、液状食品、飲料水、温泉あるいは浴場の湯、プールの水、液体肥料のいずれかであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記被処理物は、エタノールを含有し、
前記第一温度は−15℃以上20℃以下であり、
前記第二温度は30℃以上50℃以下である
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
前記被処理物は、アルコール飲料の製造中間物であることを特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記アルコール飲料の製造中間物は、火入れ前の清酒、亜硫酸若しくは亜硫酸塩添加前のワイン、またはろ過若しくは加熱処理前のビール系飲料であることを特徴とする請求項9に記載の処理方法。
【請求項11】
微生物の殺菌と酵素の失活との少なくともいずれかの処理を液状の被処理物に対して行う処理装置であって、
第一温度且つ第一圧力のもとで二酸化炭素の微細気泡を前記被処理物に混合する気泡混合部と、
前記第一温度より高い第二温度且つ前記第一圧力よりも高い第二圧力のもとで前記被処理物を保持する殺菌失活処理部と、
を備えることを特徴とする処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−19729(P2012−19729A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159812(P2010−159812)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 明治大学農学部農学科 刊行物名 2009年度 明治大学農学部農学科 特別研究(卒論)発表会 講演要旨集 発行年月日 平成22年1月29日
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】