説明

分光光度計、および分光光度計の冷却方法

【課題】分光光度計の出力値の変動を防止する分光光度計を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の分光光度計は、試料への入射光を発生させる光源2と、光源2を冷却する冷却ファン3と、測定対象の試料を収容するフローセル1と、フローセル1に収容した試料へ光を入射させる集光系10と、試料を透過した光を分光するグレーティング8と、分光した光を検出するためのフォトダイオードアレイ検知器9と、光源2を冷却する冷却ファン3を備える分光光度計であって、冷却ファン3は周りの環境温度及び環境湿度に基づいて光源2を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計および分光光度計の冷却方法に関する。特に液体クロマトグラフ用検出器として使用する分光光度計および分光光度計の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計は、試料への入射光を発生させる光源と、測定対象の試料を収容する試料セルと、試料セルに収容した試料へ光を入射させる集光系と、試料を透過した光を検出するための分光器と光学検出器から構成されている。試料セルを透過した光は、分光器により試料に固有の吸収波長を持つ光に分けられる。分けられた光は、光電検出器により、光の吸収量が測定される。これにより、試料内成分の定量分析を行うことができる。
【0003】
光源としては、重水素ランプやハロゲンランプといったランプが使用される。また、光源の周囲には、ランプを格納する光源室の他、光源室の周りを冷却する冷却手段が配置されることが通例である。光源室の周りに冷却手段が配置されている理由は、光源に使用するランプに、通常、最適な発光を実現するための最適管面温度が設定されており、ランプ管面がこの温度となるように光源室を冷却することが必要なためである。
【0004】
分光光度計の一種である液体クロマトグラフ用3次元検出器は、測定出力が環境温度の変化の影響を受けやすいという特徴がある。3次元検出器は、測定の原理上、シングルビーム測光方式を採らざるを得ず、従来のダブルビーム測光方式の単一波長検出器のように光源光量変動を補正することができず、光源光量変動がそのまま検出器出力値の変動となるためである。特許文献1には、3次元検出器の環境温度変化による冷却系の冷却効率の変化を、温度モニターによる冷却ファンの回転数制御により一定に保つことで、環境温度変化による光源光量変動を抑え、検出器出力値の変動を少なくする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−64632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分光光度計(特に3次元検出器のようなシングルビーム測光方式)は、ランプの輝度が変動すると、光度計出力値の変動となるため、光源部の温度の安定化が図られてきた。
【0007】
従来の安定化方法は、温度をモニターして冷却ファンの回転数制御により冷却風の冷却効率を一定に保つものである。しかしながら、環境温度をモニターするだけでは、光度計出力値の変動の解決策としては不十分であった。
【0008】
温度をモニターして冷却ファンの回転するを制御するだけでは、分光光度計の出力値が変動してしまうことが本発明者らにより確認された。
【0009】
そこで、このような分光光度計の出力値の変動を防止する、分光光度計および分光光度計の冷却方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の分光光度計は、試料への入射光を発生させる光源部と、光源部を冷却する冷却手段と、測定対象の試料を収容する試料セルと、試料セルに収容した試料へ光を入射させる集光系と、試料を透過した光を分光する分光器と、分光した光を検出するための光学検出器と、光源部を冷却する冷却手段を備える分光光度計であって、前記冷却手段は周りの環境温度及び環境湿度に基づいて前記光源部を冷却することを特徴としている。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の分光光度計の冷却方法は、試料への入射光を発生させる光源部と、光源部を冷却する冷却手段と、測定対象の試料を収容する試料セルと、試料セルに収容した試料へ光を入射させる集光系と、試料を透過した光を分光する分光器と、分光した光を検出するための光学検出器と、光源部を冷却する冷却手段を備える分光光度計の冷却方法であって、前記冷却手段は周りの環境温度及び環境湿度に基づいて前記光源部を冷却することを特徴としている。
【0012】
本発明者らは、環境温度だけでなく、環境湿度が変動することにより、冷却風が持つ熱量が変動してしまうため、冷却風の冷却効率が変動し、光源部の温度が不安定になることを新たに見出した。これに対して、上記構成のように、温度だけでなく、湿度もモニターすることにより、つまり、湿度の変化に基づく光源部の温度上昇分冷却することにより、光源部の温度を安定化させることができる。これにより、分光光度計の出力値の変化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、分光光度計の出力値の変動を防止するの分光光度計および分光光度計の冷却方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の分光光度計の構成の一例として液体クロマトグラフ用3次元検出器を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の冷却フローを示すフローチャートである。
【図3】波長250nmにおける光の吸収量の測定結果であり、環境湿度変動による光の吸収量変化(250nm)を示すグラフである。
【図4】波長600nmにおける光の吸収量の測定結果であり、環境湿度変動による光の吸収量変化(600nm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、液体クロマトグラフ用3次元検出器を用いて、温度25℃で一定のまま湿度を60%〜80%に変化させたときの光の吸収量を測定した。図3に波長250nmにおける光の吸収量の測定結果、図4に波長600nmにおける光の吸収量の測定結果を示す。環境湿度の変動によるベースラインの変動が確認された。ゆえに環境温度・湿度の変動に対応した冷却方法が必要となるという新たな知見を初めて見出した。
【0016】
分光器を恒温化することにより、環境温度・湿度の変動による光度計出力値変動の問題は解決できるが、装置のコストアップ、大型化という新たな問題が生じる。本発明者らは、分光光度計において、環境温度・湿度の変動の影響による光度計出力値の変動の問題を安価に解決する分光光度計、およびその冷却方法を見出した。
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、分光光度計の構成の一例として液体クロマトグラフ用3次元検出器を示す。この3次元検出器は、測定対象の試料を収容する試料セルであるフローセル1と、試料に入射する入射光を供給する光源部である光源2と、光源2を冷却する冷却ファン3と、冷却ファン3から供給される冷却風4の温度を測定する温度センサー5と、冷却風の湿度を測定する湿度センサー6と、温度センサー5と湿度センサー6の測定値より冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御部7と、冷却ファンの試料を透過した光を分光する分光器であるグレーティング8と、分光された光を検出する光学検知器であるフォトダイオードアレイ検知器9を備えている。ここで、湿度センサー6を設けた点が特徴的な構成である。
【0019】
同図に示すとおり、温度センサー5及び湿度センサー6,光源2,冷却ファン3をこの順に備えており、冷却ファン3により、温度センサー5及び湿度センサー6側から取り込んだ風を、排出側に取り付けた冷却ファン3から排出する構造となっている。
【0020】
光源2より放出された光を集光系10にてフローセル1に導入し、フローセル透過光を集光系11にてスリット12に集光し、スリット透過光をグレーティング8にて分光し、分光した光を512〜1024個の受光素子を持つフォトダイオードアレイ検知器9にて各波長の光を同時に測定する。これにより、液体クロマトグラフの分離部により分離された試料の成分ごとの吸収スペクトルが取得可能である。
【0021】
光源2は、光源室13に格納され、これを冷却ファン3により発生させた冷却風によって冷却し、光源2が最適発光する光源温度を実現する。本発明は、この冷却ファン3から供給される冷却風4の風量を最適な値に設定するものである。
【0022】
図2は、本発明の技術思想により光源部を冷却させる具体的な動作フローである。
【0023】
温度センサーは、外部から取り込んだ冷却風の温度Tに対応した温度センサー出力電圧Vtを冷却ファン制御部へ出力する。湿度センサーは、外部から取り込んだ冷却風の湿度Hに対応した湿度センサー出力電圧Vhを冷却ファン制御部へ出力する。冷却ファン制御部は、内部の制御回路により、温度センサー出力電圧Vtと湿度センサー出力電圧Vhに対応した冷却ファン制御電圧Vdを生成し、冷却ファンへ出力する。冷却ファンは、冷却ファン制御電圧に対応した回転数にて回転し、適切な風量の冷却風を発生する。
【0024】
冷却ファン制御部における温度センサー出力電圧Vt,湿度センサー出力電圧Vh、および冷却ファン制御電圧Vdの関係は、冷却風の温度T,湿度H,冷却風の風量を決定する冷却ファンの回転数ωによって決まる、冷却効率F(T,H,ω)が一定になるように規定する。
【0025】
以下、より具体的に説明する。本実施の形態では、外部の環境温度、および環境湿度に変化があっても光度計の出力の変化を防止することにあるため、ここでは一例として、外部の環境温度がT′からT′+ΔT′へ上昇し、外部の環境湿度がH′からH′+ΔH′へ上昇した場合について説明する。ここでは、温度および湿度が上昇した場合について説明するが、一方または両方が下降した場合にも考え方は同様である。
【0026】
外部の環境温度がT′からT′+ΔT′へ上昇した場合、冷却風の温度TもT+ΔTへと上昇する。この場合、冷却風の冷却効率がΔF(=(∂F/∂T)ΔT)低下する。また、外部の環境湿度がH′からH′+ΔH′へ上昇した場合、冷却風の湿度もH+ΔHへ上昇する。この場合、冷却風の冷却効率がΔF(=(∂F/∂H)∂H)低下する。
【0027】
また、冷却風の温度上昇(T→T+ΔT)に対応して、温度センサー出力電圧Vtが、Vt→Vt+ΔVtへ上昇する。また、冷却風の湿度上昇(H→H+ΔT)に対応して、温度センサー出力電圧Vhが、Vh→Vh+ΔVhへ上昇する。冷却ファン制御部は、温度センサー出力電圧の変化(Vt→Vt+ΔVt)、および湿度センサー出力電圧の変化(Vh→Vh+ΔVh)に対応して、冷却ファン制御電圧Vdを、Vd→Vd+ΔVdに増加させる。冷却ファン制御電圧の変化(Vd→Vd+ΔVd)に対応して、冷却ファンの回転数ωが、ω+Δωに増加し、冷却効率が上昇する。
【0028】
このとき、冷却風温度T,冷却風湿度H,冷却ファンの回転数ωは、関数Vt(T),Nh(H),Vd(Vt,Vh)により、冷却効率F(T,H,ω)=一定となるように関連づけられているため、ΔF=(∂F/∂T)ΔT+(∂F/∂H)∂H+(∂F/∂ω)∂ω=0となるように制御される。
【0029】
このように制御することにより、冷却風の温度上昇による冷却効率の低下分((∂F/∂T)ΔT)、および冷却風の湿度上昇による冷却効率の低下分((∂F/∂H)ΔH)の合算分を、冷却ファンの回転数増加により冷却効率を(∂F/∂ω)∂ω上昇させることにより、冷却効率Fを一定に保つことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の分光光度計は、例えば液体クロマトグラフ用3次元検出器に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 フローセル(試料セル)
2 光源(光源部)
3 冷却ファン(冷却手段)
4 冷却風
5 温度センサー
6 湿度センサー
7 冷却ファン制御部
8 グレーティング(分光器)
9 フォトダイオードアレイ検知器(光学検出器)
10,11 集光系
12 スリット
13 光源室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料への入射光を発生させる光源部と、光源部を冷却する冷却手段と、測定対象の試料を収容する試料セルと、試料セルに収容した試料へ光を入射させる集光系と、試料を透過した光を分光する分光器と、分光した光を検出するための光学検出器と、光源部を冷却する冷却手段を備える分光光度計であって、
前記冷却手段は周りの環境温度及び環境湿度に基づいて前記光源部を冷却することを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
前記冷却手段は冷却風を送風することにより光源部を冷却することを特徴とする請求項1に記載の分光光度計。
【請求項3】
外部から冷却手段により風を取り込む箇所に温度センサー及び湿度センサーを設けていることを特徴とする請求項2に記載の分光光度計。
【請求項4】
冷却手段が外部から取り込んだ風を排出する箇所に設けられており、
前記温度センサー及び湿度センサー,光源部,冷却手段がこの順に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の分光光度計。
【請求項5】
冷却手段は冷却ファンであり、前記冷却ファンの回転数を変化させることにより光源部への送風量を制御することを特徴とする請求項2に記載の分光光度計。
【請求項6】
前記冷却手段は、冷却風温度T,冷却風湿度H、及び冷却ファン回転数ωの関数にて決定される冷却効率F(T,H,ω)が一定になるように光源部を冷却することを特徴とする請求項5に記載の分光光度計。
【請求項7】
前記光学検出器が3次元検出器であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項
に記載の分光光度計。
【請求項8】
シングルビーム測光方式の分光光度計であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の分光光度計。
【請求項9】
試料への入射光を発生させる光源部と、光源部を冷却する冷却手段と、測定対象の試料を収容する試料セルと、試料セルに収容した試料へ光を入射させる集光系と、試料を透過した光を分光する分光器と、分光した光を検出するための光学検出器と、光源部を冷却する冷却手段を備える分光光度計の冷却方法であって、
前記冷却手段は周りの環境温度及び環境湿度に基づいて前記光源部を冷却することを特徴とする分光光度計の冷却方法。
【請求項10】
前記冷却手段は冷却風を送風することにより光源部を冷却することを特徴とする請求項1に記載の分光光度計の冷却方法。
【請求項11】
冷却手段は冷却ファンであり、
前記冷却手段は、冷却風温度,冷却風湿度、及び冷却ファン回転数の関数にて決定される冷却効率が一定になるように光源部を冷却することを特徴とする請求項10に記載の分光光度計の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−2310(P2011−2310A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144858(P2009−144858)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】