説明

分光装置

【課題】連続的な広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる分光装置を提供する。
【解決手段】インコヒーレント光の光源であるブロードエリア半導体レーザ1と、インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズ2a、2bと、一対のレンズ2a、2bを通過したインコヒーレント光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材6と、ピンホールを通過したインコヒーレント光を2つに分割するビームスプリッタ7と、分割された後の2つのインコヒーレント光のうちの一方のインコヒーレント光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射用光伝導素子8と、第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と上記2つのインコヒーレント光のうちの他方のインコヒーレント光とが入射され、第2電磁波と他方のインコヒーレント光との相互相関信号を得る電磁波検出用光伝導素子9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体、誘電体等の材料評価に利用され、特にテラヘルツ帯で使用される素子を構成する材料を測定する分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、THz波帯(1THz=1012Hz)の分光法としては、フェムト秒レーザと光伝導素子とを用いたTHz−TDS(THz Time Domain Spectroscopy)が最も有力な方法である(例えば、非特許文献1および2参照)。この光伝導素子を用いた分光法では、光伝導素子にサブピコ秒の超短光パルスを照射すれば、光キャリアの生成により瞬間的に光伝導素子が導電性となって電流が過渡的に流れることを利用して電磁波放射を行っている。さらに光伝導素子への光パルスの照射により瞬間的に導電性となることを利用することにより放射電磁波の検出も行われている。
【0003】
図7は従来のTHz−TDSを用いた分光装置の概略構成図である。
【0004】
分光装置は、ビームスプリッタ47と、レンズ46aと、電磁波放射用光伝導素子48と、電源50と、放物面鏡51aと、放物面鏡51bと、平面鏡55と、リトロリフレクタ56と、移動ステージ57と、レンズ46bと、電磁波検出用光伝導素子49と、電流計58と、ロックイン増幅器59と、コンピュータ60とを含む。
【0005】
この図に示すように、THz−TDSでは、モードロックTi:Sapphireレーザなどから出力される超短光パルス43をビームスプリッタ47で2つに分割し、一方のパルス光44を、電源50により電圧印加された電磁波放射用光伝導素子48に照射する。電磁波放射用光伝導素子48には瞬間的に電流が流れるため、電磁波放射用光伝導素子48は、パルス電磁波52を放射する。パルス電磁波52を放物面鏡51aで平行化して試料53を透過させ、試料53を透過したパルス電磁波54を放物面鏡51bにより電磁波検出用光伝導素子49に集める。またパルス電磁波52(パルス電磁波54)を試料53を透過させずに電磁波検出用光伝導素子49に集める。電磁波検出用光伝導素子49はビームスプリッタ47で分割されたもう一方の超短光パルス45により照射され、その瞬間だけ導電性となる。そのため、電磁波検出用光伝導素子49は、到達してきたパルス電磁波52または54の電場を電流として検出することができる。ここで光パルス45もパルス電磁波52または54も光速で電磁波検出用光伝導素子49に繰り返し入射するが、そのタイミングは、移動ステージ57に設けられたリトロリフレクタ56で光パルス45が反射されることによる時間遅延により固定されている。光パルスの繰り返し周波数が100MHzの場合、光パルス45とパルス電磁波52または54とが毎秒108回、電磁波検出用光伝導素子49に入射し、電流パルスが同じく毎秒108回流れることになる。電流計58は直流電流だけを検出するようになっているので、パルス電磁波52または54のうち上記時間遅延によって決められた部分が電流として観測されることになる。光パルス45がビームスプリッタ47から電磁波検出用光伝導素子49に到達するまでの時間を、移動ステージ57を移動させ上記時間遅延を変化させことにより、試料53を透過してきたパルス電磁波54または試料透過前のパルス電磁波52の時間波形を得ることができる。このTHz−TDSの方法では用いられる電磁波が短パルスであるため、試料53を透過してきた電磁波波形と試料を挿入しない場合の電磁波波形とを比較することにより、広い周波数域にわたる電磁波の透過率及び位相シフトを計算することができる。または試料で反射されてきた電磁波波形と金属鏡で反射されてきた電磁波波形とを比較することにより、広い周波数域にわたる電磁波の反射率及び位相シフトを計算することができる。しかしながら、THz−TDSでは励起光が短パルスでなくてはならないことから、光源にはモードロックなどの短パルス化が施されている必要があり、装置コストを押し上げていた。
【0006】
そこで、パルス光の代わりにマルチモード半導体レーザのインコヒーレント光を使用して電磁波分光を行う手法(MLD(Multimode Laser Diode)−TDS)が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。図8にMLD−TDSを用いた分光装置の概略構成図を示す。
【0007】
分光装置は、ブロードエリア半導体レーザ61と、レンズ62aと、ビームスプリッタ66と、レンズ62bと、電磁波放射用光伝導素子67と、電源69と、放物面鏡70aと、放物面鏡70bと、平面鏡74と、リトロリフレクタ75と、移動ステージ76と、レンズ62cと、電磁波検出用光伝導素子68と、電流計77と、ロックイン増幅器78と、コンピュータ79とを含む。
【0008】
ビームスプリッタ66と、レンズ62bと、電磁波放射用光伝導素子67と、電源69と、放物面鏡70aと、放物面鏡70bと、平面鏡74と、リトロリフレクタ75と、移動ステージ76と、レンズ62cと、電磁波検出用光伝導素子68と、電流計77と、ロックイン増幅器78と、コンピュータ79とは、それぞれ、図7に示した電磁波放射用光伝導素子48と、電源50と、放物面鏡51aと、放物面鏡51bと、平面鏡55と、リトロリフレクタ56と、移動ステージ57と、レンズ46bと、電磁波検出用光伝導素子49と、電流計58と、ロックイン増幅器59と、コンピュータ60と同様の構成を有する。
【0009】
インコヒーレント光63の光源としてはマルチモード半導体レーザの一種であるブロードエリア半導体レーザ61が使用でき、これは小型、安定かつ安価である。マルチモード半導体レーザ61のインコヒーレント光63は様々な波長のスペクトル成分を含んでいるため、光ビートにより乱雑な強度変調が生じており、インコヒーレント光となっている。マルチモード半導体レーザ61の場合、この強度変調の周波数範囲は典型的には1GHz程度から1THz程度である。このインコヒーレント光63をビームスプリッタ66で分割し、一方のインコヒーレント光64を電圧印加した電磁波放射用光伝導素子67に照射するとテラヘルツ帯の電磁波71を放射させることができる。分割した他方のインコヒーレント光65を、移動ステージ76に設けられたリトロリフレクタ75で反射させることにより時間遅延させる。インコヒーレント光65は、時間遅延したのちに電磁波検出用光伝導素子68に照射され、同時に電磁波(71または73)が電磁波検出用光伝導素子68に導かれる。電磁波検出用光伝導素子68に生じる電流はインコヒーレント光強度(インコヒーレント光65の強度)と電磁波電場の積に比例する。電流の直流成分を記録しつつ、移動ステージ76を移動させることにより遅延時間を変化させると、電磁波電場とインコヒーレント光強度の相互相関信号が得られる。
【0010】
分光測定のためには、試料72を透過または反射した電磁波73により得られた相互相関信号と、電磁波経路に試料72を挿入せずに得られる電磁波71、もしくは試料72でなく金属鏡で反射された電磁波により得られる相互相関信号とを比較する。ここで得られた相互相関信号は光強度の様々な周波数成分から生じた信号の重ね合わせとみなせる。電磁波検出用光伝導素子68および試料72は照射光強度や電磁波に対して線形に応答するため、相互相関信号の個々の周波数成分は対応する周波数の光強度変調および電磁波のみによって担われているとみなせる。したがって、検出した相互相関信号をフーリエ変換すれば、それぞれの周波数成分の信号を求めることができる。つまり、電磁波電場をE(t)、光強度をI(t)、電磁波放射用光伝導素子67の放射する電磁波71の照射光強度に対する応答関数をF(t)とすると、式(1)に示す関係が成り立つ。
【0011】
【数1】

【0012】
また試料72を通過した電磁波73の電場ET(t)は試料72の透過に関する応答関数T(t)を用いて式(2)で表すことができる。
【0013】
【数2】

【0014】
E(t)、I(t)、F(t)、ET(t)およびT(t)のフーリエ変換をE(ω)、I(ω)、F(ω)、ET(ω)およびT(ω)と書くと、式(1)および式(2)から、式(3)および式(4)が得られる。
【0015】
【数3】

【0016】
式(3)と式(4)で光強度のフーリエ変換をI(ω)、I´(ω)と異なる記号で表した。これは光強度の変化は乱雑であるため、E(ω)およびET(ω)の測定をする際の光強度の変化が異なるためである。さらにインコヒーレント光65の遅延時間がτのとき、試料72を放射電磁波経路に挿入しない場合の電流信号JR(τ)と、試料72を挿入した場合の電流信号JT(τ)とは、電磁波検出用光伝導素子68の応答が光強度の時間スケールよりも十分短い場合には伝導度の光強度に対する係数Cσを用いて表すと、式(5)および式(6)と表せる。
【0017】
【数4】

【0018】
式(5)と式(6)で光強度の関数をI(t)、I´(t)と異なる記号で表した。これは光強度の変化は乱雑であるため、JR(τ)およびJT(τ)の測定をする際の光強度の変化が異なるためである。JR(τ)およびJT(τ)のフーリエ変換JR(ω)およびJT(ω)は、式(5)および式(6)から、式(7)および式(8)のように表すことができる。
【0019】
【数5】

【0020】
ここでI´(ω)はI´(t)のフーリエ変換である。マルチモードレーザの光強度変化は乱雑であるものの、スペクトルは変化がないので|I´(ω)|2=|I(ω)|2である。試料72の電磁波透過率と位相シフトはT(t)のフーリエ成分T(ω)の振幅の2乗と位相で表すことができる。式(7)、(8)を用いるとT(ω)は、式(9)で表すことができる。
【0021】
【数6】

【0022】
電磁波検出用光伝導素子68の応答が十分速くない場合には式(7)、式(8)中のCσが周波数依存性を持つことになるが、それでも式(9)のような計算でT(ω)を求めることができる。したがって試料72を電磁波経路に挿入しない場合の相互相関信号と試料72を挿入した場合の電流信号とから、試料72の電磁波透過率と位相シフトが求められる。電磁波透過率と位相シフトから試料72の複素誘電率の実数部と虚数部が求められる。式(9)から、MLD−TDSの測定可能周波数域はJR(ω)によって決まっていることが分かる。JR(ω)が0の周波数領域では式(9)の除算が値を持たないため、測定ができない。JR(ω)が0でなくても小さい値であれば、信号帯雑音比のよい測定はできない。また、金属鏡で反射された電磁波を用いて得られた相互相関信号と試料72で反射された電磁波を用いて得られた相互相関信号から試料72の電磁波反射率と位相シフトが求められる。電磁波反射率と位相シフトから試料72の複素誘電率の実数部と虚数部を求めることもできる。反射測定の場合も透過測定の場合と同様、金属鏡を反射させたときに得られた信号波形のフーリエスペクトルが小さい周波数領域では信号対雑音比のよい測定はできない。
【0023】
マルチモード半導体レーザには発光領域幅の狭いもの(数μm以下)と広いもの(数十μm以上)がある。発光領域幅の狭いもの(s−MLD)の光スペクトルにはある周波数(数十GHz程度)の整数倍に離散的なスペクトル線が存在するのに対し、発光領域幅の広いもの(BLD(Broad−area Laser Diode))の光スペクトルは非常に多数の密なスペクトル線からなり、スペクトル線同士の間隔は数GHz以下である。これらのスペクトル構造は縦モードおよび横モードの次数を考慮することにより理解できる(例えば、非特許文献4参照)。すなわち、レーザの発振モードは共振器内の定在波に対応しており、共振器の縦方向と横方向の節の数(縦モード次数、横モード次数)で特徴づけられる。共振器の縦方向の長さはレーザ光の光路長よりも十分長いのでさまざまな縦モード次数に対応するスペクトル線が存在する。これらスペクトル線の間隔は、典型的には数十GHzである。s−MLDの場合は共振器の幅が狭いので横モード次数は0しか取りえない。よってs−MLDの光スペクトル中には鋭い線が数十GHzごとに等間隔に並んでいる。これに対し、BLDの場合は共振器の幅が広いので多数の横モード次数に対応した発振モードが存在する。ある1つの横モード次数と複数の縦モード次数に対応するスペクトル線は等間隔に存在するため、櫛形のスペクトルに対応する。横モード次数が異なればこの櫛形のスペクトル位置は少しずつずれるものの、共振器幅よりは共振器長の方がかなり大きいので櫛内のスペクトル線の間隔はあまり変わらない。しかしスペクトル線の位置は、横モード次数が変わると少しずつずれる。よってBLDの光スペクトルは同じスペクトル線間隔の多数の櫛形スペクトルが少しずつずれたものが重なった構造になっている。光ビートの周波数は重なる光スペクトル線同士の光周波数の差になるので、光強度揺らぎのスペクトルはs−MLDの場合には縦モード間隔の整数倍にのみ鋭い線が存在する。BLDの場合には横モードが共通で縦モードが異なる光スペクトル成分同士の混合により縦モード間隔の整数倍にスペクトルピークが存在する他、横モードの異なる光スペクトル線同士の混合により連続的なスペクトル成分が存在する(例えば、非特許文献5参照)。
【0024】
つまり、s−MLDの場合はI(ω)が離散的になるのに対してBLDの場合は連続的な成分が存在するので、MLD−TDSの光源としてはBLDの方が好ましいはずである。しかしBLDを用いたMLD−TDSの信号スペクトルJR(ω)には離散的なピークしか含まれない(例えば、非特許文献6参照)。このことはレーザ光の横モードによる位相分布を考慮に入れることにより理解できる。光伝導素子(電磁波放射用光伝導素子67、電磁波検出用光伝導素子68)への照射光はレンズ(レンズ62b、レンズ62c)により集光されているが、このビームのパターンをHermite多項式で分解した場合、n次の成分の光伝導素子の場所における光の位相と焦点における位相の差は次のような式(10)で表すことができる(例えば、非特許文献7参照)。
【0025】
【数7】

【0026】
ここでkは波数ベクトル、iは放射素子(電磁波放射用光伝導素子67)あるいは検出素子(電磁波検出用光伝導素子68)の区別を表し、ziはレンズの焦点から測った光伝導素子の位置、θはビームの集光角、λは光の波長である。非特許文献6における実験値を代入すると式(10)の第2項は、式(11)となる。
【0027】
【数8】

【0028】
ここでziの単位はmである。つまり光伝導素子の位置がごくわずか(1μm以下)でもずれるとビームパターンの異なる光成分の間の位相差は大きく変化する。そのため、横モードが異なる光成分同士の混合の場合は光ビートの位相が乱雑に分布するため、相互相関信号はお互いに打ち消しあってしまい、縦モード間隔の整数倍のスペクトル成分だけが残るものと考えられる。
【0029】
横モード次数が異なる光スペクトル成分関同士の混合による、相互相関信号での連続的なスペクトル成分を得るには上記のビームパターンの分布をなくせばよい。これはシングルモード光ファイバを用いて実現することができる(例えば、非特許文献6参照)。つまりシングルモード光ファイバは単一のビームパターンの光しか透過しないため、ビームパターンの単一化が生じるためである。図9にシングルモード光ファイバを用いたMLD−TDSの分光装置の概略構成図を示す。
【0030】
MLD−TDSの分光装置は、ブロードエリア半導体レーザ80と、レンズ81aと、レンズ81bと、偏光保存シングルモードファイバカプラ85と、レンズ81cと、レンズ81eと、電磁波放射用光伝導素子86と、電源88と、放物面鏡89aと、放物面鏡89bと、レンズ81dと、平面鏡93と、リトロリフレクタ94と、移動ステージ95と、レンズ81fと、電磁波検出用光伝導素子87と、電流計96と、ロックイン増幅器97と、コンピュータ98とを含む。
【0031】
ブロードエリア半導体レーザ80は、図8に示したブロードエリア半導体レーザ61と同様の作用をする。電磁波放射用光伝導素子86と、電源88と、放物面鏡89aと、放物面鏡89bと、平面鏡93と、リトロリフレクタ94と、移動ステージ95と、レンズ81fと、電磁波検出用光伝導素子87と、電流計96と、ロックイン増幅器97と、コンピュータ98とは、それぞれ、図7に示した電磁波放射用光伝導素子48と、電源50と、放物面鏡51aと、放物面鏡51bと、平面鏡55と、リトロリフレクタ56と、移動ステージ57と、レンズ46bと、電磁波検出用光伝導素子49と、電流計58と、ロックイン増幅器59と、コンピュータ60と同様の構成を有する。
【0032】
シングルモード光ファイバを用いない場合にはJR(ω)が離散的だったのに対し、シングルモード光ファイバの使用によりJR(ω)を連続的にすることができる。なお、非特許文献6においては偏光保存シングルモードファイバカプラ85(2本の偏光保存シングルモードファイバの中央部を融着させたもの)を用いているが、JR(ω)の連続化の原因はシングルモード光ファイバによるビームパターンの単一化である。
【0033】
また、810nm帯まだは830nm帯のマルチモード半導体レーザ(ブロードエリア半導体レーザ80)を用いたMLD−TDSには周波数域が0.5THz以下に限られてしまうという問題もある。この原因はマルチモード半導体レーザ光のスペクトル幅が狭く、光強度揺らぎのスペクトルI(ω)の中に0.5THz以上の成分がないことが原因である。これに対してはBLDとは少しだけ波長をずらした(光周波数にして数百GHz程度)別の半導体レーザの光を混合することにより高周波化することができる(例えば、非特許文献8参照)。例えば、図10に示すような分光装置の構成によりレーザ光の高周波化を行うことができる。この分光装置は、図9に示した分光装置の構成に加えて、シングルモード半導体レーザ99bと、レンズ100bと、光アイソレータ42と、レンズ100dとを含む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0034】
【非特許文献1】Physical Review Letters vol.55 (1985), pp.2152−2155
【非特許文献2】Infrared Physics vol.26 (1986), pp.23−27
【非特許文献3】Applied Physics Letters vol.76 (2000) pp.1519−1521
【非特許文献4】Japanese Journal of Applied Physics Part I vol.38 (1999) pp.1388−1389
【非特許文献5】Applied Physics Letters vol.75 (1999) pp.3772−3774
【非特許文献6】Applied Physics Letters vol.85 (2004) pp.881−883
【非特許文献7】A. Yariv著 “Quantum Electronics third edition” John Wiley & sons, Singapore
【非特許文献8】第69回応用物理学会学術講演会 4p−ZE−9 講演予稿集 No.3 pp.984−984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
しかしながら、MLD−TDSにシングルモード光ファイバを導入する方法では、ファイバ端面の損傷の恐れを避けるためシングルモード光ファイバに入力する光の強度を400mW程度までしか上げられないという問題がある。そもそも発光領域幅の広いBLDの光をシングルモード光ファイバに入れるのは難しく、入光効率は2%程度しかない(発光領域幅50μm、波長810nmのBLDの場合)。このため電磁波放射用光伝導素子86、電磁波検出用光伝導素子87に照射する光量はそれぞれ約4mWまでしか上げることができず、信号強度が弱いという問題がある。またBLDから偏光保存シングルモードファイバカプラ85に入る照射光強度が弱いことから光混合による高周波成分の出現は最高で1THz程度に限られてしまうという問題がある。
【0036】
そこで、この発明は上記の課題に鑑み、連続的な広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明のある局面に係る分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記ピンホール部材を通過した前記インコヒーレント光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つのインコヒーレント光のうちの一方のインコヒーレント光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つのインコヒーレント光のうちの他方のインコヒーレント光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方のインコヒーレント光との相互相関信号を得る電磁波検出部とを備える。
【0038】
この構成では、インコヒーレント光をレンズ対とピンホールに通してから電磁波放射部と電磁波検出部とに導く構成とした。つまり、インコヒーレント光のビームパターンをレンズ対とピンホールで単一化してからインコヒーレント光ビームを分割することができる。一方のインコヒーレント光に基づいて発生した電磁波を試料に照射し、試料を透過または反射してきた電磁波を検出する。このとき分割した他方のインコヒーレント光と第2電磁波の相互相関信号を検出する。したがって本発明では電磁波の発生及び検出に使用されるインコヒーレント光は単一モード化されているため、横モードの異なるスペクトル線同士の混合による光ビート成分の位相が乱雑に分布するということはない。このため、信号スペクトルは連続的となり、広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる。なお、前記インコヒーレント光は、ランダムな強度変調を受けている光であってもよい。
【0039】
本発明の他の局面に係る分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化する第1レンズと、前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、前記第1レンズで平行化された前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、前記混合光を集光する第2レンズと、前記第2レンズを通過した前記混合光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記ピンホール部材を通過した前記混合光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部とを備える。
【0040】
この構成は、インコヒーレント光とレーザ光との混合光を、ピンホールを通すことによりビームパターンを単一化してから分割し、測定周波数域を高める構成である。つまり、混合光のビームパターンをレンズ対とピンホールで単一化してから分割することができる。一方の混合光に基づいて発生した電磁波を試料に照射し、試料を透過または反射してきた電磁波を検出する。このとき分割した他方の混合光と第2電磁波の相互相関信号を検出する。したがって本発明では電磁波の発生及び検出に使用される混合光は単一モード化されているため、横モードの異なるスペクトル線同士の混合による光ビート成分の位相が乱雑に分布するということはない。このため、信号スペクトルは連続的となり、広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる。
【0041】
本発明のさらに他の局面にかかる分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、前記ピンホールを通過した前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、前記混合光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部とを備える。
【0042】
この構成は、インコヒーレント光をレンズ対とピンホールに通した光とレーザ光との混合光を使用することにより測定周波数域を高める構成である。つまり、インコヒーレント光のビームパターンをレンズ対とピンホールで単一化した光とレーザ光との混合光を分割することができる。一方の混合光に基づいて発生した電磁波を試料に照射し、試料を透過または反射してきた電磁波を検出する。このとき分割した他方の混合光と第2電磁波の相互相関信号を検出する。したがって本発明では電磁波の発生及び検出に使用される混合光は単一モード化されているため、横モードの異なるスペクトル線同士の混合による光ビート成分の位相が乱雑に分布するということはない。このため、信号スペクトルは連続的となり、広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる。
【0043】
好ましくは、前記所定の値は、100GHz〜100THzの間の値である。
【0044】
この構成によると、インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数がわずかにずれたレーザ光を発生させることができる。このため、混合光は、インコヒーレント光のみを用いる場合と比較して、周波数帯域幅が広いスペクトルを持ち、レーザ光強度にはより高周波の強度揺らぎを含んでいる。
【0045】
また、前記電磁波放射部は、前記一方のインコヒーレント光または混合光の照射に基づき1GHz〜100THzの周波数成分を含む前記第1電磁波を放射する。
【0046】
この構成によると、第1電磁波はテラヘルツ帯の電磁波を試料に照射することができる。
【0047】
また、前記電磁波検出部は、前記相互相関信号をフーリエ変換し、フーリエ変換後の値から、前記第2電磁波における位相シフトを求めてもよい。
【0048】
また、前記電磁波検出部は、前記第2電磁波と前記他方のインコヒーレント光との強度の乗算により前記相互相関信号を算出してもよい。
【0049】
また、前記光源は、半導体レーザであってもよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明によると、連続的な広い周波数範囲にわたって信号対雑音比のよい測定ができる、分光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態1に係る分光装置の概略構成図である。
【図2】シングルモード光ファイバもピンホールも用いない従来のMLD−TDSによる透過測定の例である。
【図3】シングルモード光ファイバを用いた従来のMLD−TDSによる透過測定の例である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る分光装置による透過測定の結果の一例である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る分光装置の概略構成図である。
【図6】本発明の実施の形態2の変形例に係る分光装置の概略構成図である。
【図7】従来のTHz−TDSを用いた分光装置の概略構成図である。
【図8】従来のMLD−TDSを用いた分光装置の概略構成図である。
【図9】従来のMLD−TDS、特にシングルモード光ファイバを用いた分光装置の概略構成図である。
【図10】従来のMLD−TDS、特に光混合の手法を適用した分光装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
この発明の分光装置は、1ピコ秒程度の短い時間スケールでのランダムな強度変調を含みかつ光スペクトルには非常に多数のスペクトル線を含むインコヒーレント光を提供するブロードエリアレーザと、そのインコヒーレントビームのモードパターンを単一化するためのレンズ対およびピンホールと、パターンが単一化されたビームを分割する分割部と、分割した一方のインコヒーレント光ビームの照射に基づき電磁波を放射する電磁波放射部と、電磁波を試料に透過または反射させた後に検出する電磁波検出部とを備えている。さらに他方のインコヒーレントビームは調節可能な時間遅延処理部を通して電磁波検出部に導かれ、他方のインコヒーレント光ビームと電磁波の相互相関信号が検出されるようになっている。
【0053】
インコヒーレント光の光源としてはブロードエリア半導体レーザが使用できる。これは小型、安定かつ廉価で高強度のインコヒーレント光を発生できる。電磁波放射部として光伝導素子が使用できる。この電磁波放射用光伝導素子は、光照射されると伝導度が光強度に比例し、光強度に変調がある場合には変調を含む電流が流れ、電磁波を発生させる。なお、インコヒーレント光に基づき発生させる電磁波は1GHz〜1THz程度の様々な周波数成分を含み、発生する電磁波のスペクトルは連続的である。また、電磁波検出部にも光伝導素子が使用できる。この電磁波検出用光伝導素子は光が照射されると伝導度が光強度に比例するので、光強度と電磁波の電場との積を電流として検出可能であり、電磁波検出用光伝導素子は乗算器として働く。なお、ブロードバンドエリア半導体レーザは上記のような優れた特長を有しているが、これ以外にもインコヒーレント光源はあり、その光強度には1〜100THz程度の様々な周波数成分が含まれているものもある。このインコヒーレント光と電磁波発生手段により1GHzから100THz程度の様々な周波数成分を含む電磁波の発生の可能性がある。
【0054】
次にこの発明に係る分光装置の作用を説明する。本発明の分光装置では、ブロードエリアレーザの光を用いている。ブロードエリアレーザは発振状態の横モードに応じて様々なビームパターンを含んでいる。そのため上述のように電磁波放射用光伝導素子上及び電磁波検出用光伝導素子上における光位相差はビームパターンによってさまざまな値をとる。このため異なるビームパターン同士の混合、つまり横モードの異なるスペクトル線同士の混合による光ビートの電磁波放射用光伝導素子上及び電磁波検出用光伝導素子上における位相差は様々な値をとる。このためそのような光ビートによる相互相関信号は乱雑な位相を持つため、お互いに打ち消しあってしまう(例えば、非特許文献6参照)。そこでこのようなビームをレンズ対とピンホールを通してビームパターンを単一化してから光伝導素子に導くことにより、そのような信号の打ち消しあいをなくす。相互相関信号には共通の横モードを持つ光成分同士の混合による信号だけでなく、異なる横モードを持つ光成分同士の混合による信号も含まれるようになるため、そのフーリエ変換は連続的なスペクトルを示す。このため、広い周波数領域について信号対雑音比の高い測定が可能になる。
【0055】
次に、具体的な実施の形態を説明する。
【0056】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記ピンホール部材を通過した前記インコヒーレント光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つのインコヒーレント光のうちの一方のインコヒーレント光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つのインコヒーレント光のうちの他方のインコヒーレント光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方のインコヒーレント光との相互相関信号を得る電磁波検出部とを備える。
【0057】
図1はこの発明の分光装置に係る実施の形態の概略構成図である。分光装置は、ブロードエリア半導体レーザ1と、レンズ2aと、レンズ2bと、ピンホール部材6と、レンズ2cと、ビームスプリッタ7と、レンズ2dと、電磁波放射用光伝導素子8と、電源10と、放物面鏡11aと、放物面鏡11bと、平面鏡15と、リトロリフレクタ16と、移動ステージ17と、レンズ2eと、電磁波検出用光伝導素子9と、電流計18と、ロックイン増幅器19と、コンピュータ20とを含む。
【0058】
ブロードエリア半導体レーザ1と、レンズ2aと、ビームスプリッタ7と、レンズ2dと、電磁波放射用光伝導素子8と、電源10と、放物面鏡11aと、放物面鏡11bと、平面鏡15と、リトロリフレクタ16と、移動ステージ17と、レンズ2eと、電磁波検出用光伝導素子9と、電流計18と、ロックイン増幅器19と、コンピュータ20とは、それぞれ、図8に示したブロードエリア半導体レーザ61と、レンズ62aと、ビームスプリッタ66と、レンズ62bと、電磁波放射用光伝導素子67と、電源69と、放物面鏡70aと、放物面鏡70bと、平面鏡74と、リトロリフレクタ75と、移動ステージ76と、レンズ62cと、電磁波検出用光伝導素子68と、電流計77と、ロックイン増幅器78と、コンピュータ79と同様の構成を有する。
【0059】
この分光装置では、ブロードエリア半導体レーザ1からのレーザ光をレンズ2a、2bで平行化及び集光し、ピンホール部材6に形成されたピンホールを通してからMLD−TDSに用いている。ピンホールを通過した光をレンズ2cで平行化しビームスプリッタ7で分割して、電圧印加した電磁波放射用光伝導素子8に照射する。電磁波放射用光伝導素子8には光速変調を受けた電流が流れるため、電磁波放射用光伝導素子8は、1GHz〜1THzの周波数成分を含む電磁波12を放射する。電磁波12を放物面鏡11aで平行化して試料13を透過させ、透過後の電磁波14を放物面鏡11bにより電磁波検出用光伝導素子9に集める。電磁波検出用光伝導素子9は、ビームスプリッタ7で分割されたもう一方の電磁波検出用のレーザ光5により照射され、時間的にレーザ光5の強度変調を反映した導電性を示す。さらに、電磁波検出用のレーザ光5を、移動ステージ17に設けられたリトロリフレクタ16で反射させることにより時間遅延させる。レーザ光5は時間遅延しているため、電磁波検出用光伝導素子9に生じる直流電流を測定しながら、移動ステージ17を移動させ、遅延時間を変化させることにより、試料を透過した電磁波14とレーザ光5の強度の相互相関信号を得ることができる。また電磁波経路に試料13を挿入しないで測定すれば、試料透過前の電磁波12とレーザ光5の強度の相互相関信号を得ることができる。これら2つの相互相関信号を比較することにより、試料の透過率と位相シフトを計算することができる。このような計算は、コンピュータ20において行われる。
【0060】
図2〜図4に金属開口配列(厚さ0.50mm、開口径0.57mm、三角格子、格子定数1.00mm)の透過測定の結果を示す。この測定で用いたブロードエリア半導体レーザの波長は810nm、発光領域幅は50μmである。図2〜図4中の実線はTHz−TDSによる測定データを示す。図2中の「×」はシングルモード光ファイバもピンホールも用いないMLD−TDSによる測定データ、図3の「×」はシングルモード光ファイバを用いたMLD−TDSによる測定データ、図4の「×」はピンホールを用いたMLD−TDSによる測定データを示す。レンズ2bの焦点距離は16.56mm、ピンホールの直径は25μmである。図2(a)、図3(a)及び図4(a)は試料を入れないときの相互相関信号のフーリエスペクトルである。シングルモード光ファイバもピンホールも用いていない場合にはフーリエスペクトルが離散的なピークのみからなる(図2(a))のに対し、シングルモード光ファイバ(図3(a))やピンホール(図4(a))を用いるとフーリエスペクトルに連続成分が生じているのがわかる。シングルモード光ファイバを用いた場合(図3(a))とピンホールを用いた場合(図4(a))を比較すると、ピンホールを用いた場合(図4(a))の方が信号強度は強い。これはピンホールを用いた方が電磁波放射用光伝導素子及び電磁波検出用光伝導素子の光伝導アンテナへの照射光強度が強いためである。図3のファイバを用いた場合は電磁波放射用光伝導素子、電磁波検出用光伝導素子への照射光強度がそれぞれ5.97mW、4.09mWだったのに対し、図4のピンホールを用いた場合はそれぞれ33.2mW、8.35mWである。
【0061】
図2(b)、図3(b)及び図4(b)は金属開口配列を挿入したとき位相シフト、図2(c)、図3(c)及び図4(c)は透過率を示す。THz−TDSによる測定データとの一致は図4(b)及び図4(c)が最も良い。これはピンホールを用いることにより相互相関信号のフーリエスペクトルが連続化したこと、さらにシングルモード光ファイバを用いるよりピンホールを用いた方が信号強度は強いことが原因であると考えられる。
【0062】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化する第1レンズと、前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、前記第1レンズで平行化された前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、前記混合光を集光する第2レンズと、前記第2レンズを通過した前記混合光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記ピンホール部材を通過した前記混合光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部とを備える。
【0063】
図5はこの発明の分光装置のうち、光混合の手法を適用した実施の形態の概略構成図である。分光装置は、ブロードエリア半導体レーザ21と、レンズ22aと、シングルモード半導体レーザ21aと、レンズ22fと、光アイソレータ42と、偏光ビームスプリッタ27aと、レンズ22bと、ピンホール部材26と、レンズ22cと、半波長板41と、偏光ビームスプリッタ27bと、レンズ22dと、電磁波放射用光伝導素子28と、電源30と、放物面鏡31aと、放物面鏡31bと、平面鏡35と、リトロリフレクタ36と、移動ステージ37と、レンズ22eと、電磁波検出用光伝導素子29と、電流計38と、ロックイン増幅器39と、コンピュータ40とを含む。
【0064】
ブロードエリア半導体レーザ21と、レンズ22aと、レンズ22bと、ピンホール部材26と、レンズ22cと、レンズ22dと、電磁波放射用光伝導素子28と、電源30と、放物面鏡31aと、放物面鏡31bと、平面鏡35と、リトロリフレクタ36と、移動ステージ37と、レンズ22eと、電磁波検出用光伝導素子29と、電流計38と、ロックイン増幅器39と、コンピュータ40とは、それぞれ、図1に示したブロードエリア半導体レーザ1と、レンズ2aと、レンズ2bと、ピンホール部材6と、レンズ2cと、レンズ2dと、電磁波放射用光伝導素子8と、電源10と、放物面鏡11aと、放物面鏡11bと、平面鏡15と、リトロリフレクタ16と、移動ステージ17と、レンズ2eと、電磁波検出用光伝導素子9と、電流計18と、ロックイン増幅器19と、コンピュータ20と同様の構成を有する。
【0065】
ブロードエリア半導体レーザ21と、これとは波長をわずかに(光周波数にして100GHz〜100THz程度)ずらしたシングルモード半導体レーザ21aとからの、2つのレーザ光をレンズ22a、22fで平行化してから偏光ビームスプリッタ27aを用いて重ね合わせ、レンズ22bで集光してピンホール部材26に形成されたピンホールに通してからMLD−TDSに用いている。ピンホールを通過した光をレンズ22cで平行化し半波長板41で偏光を45度だけ回転させ、偏光ビームスプリッタ27bに導く。こうすることにより偏光ビームスプリッタ27bで分割されたレーザ光24及び25は両方とも2台のレーザ21、21aの混合光となる。レーザ光24及び25は波長をわずかにずらしているので混合光は、ブロードエリア半導体レーザ21が単独の場合(実施の形態1)と比較して、周波数帯域幅が広いスペクトルを持ち、レーザ光強度にはより高周波の強度揺らぎを含んでいる。レーザ光24は電圧印加した電磁波放射用光伝導素子28に照射される。電磁波放射用光伝導素子28には光速変調を受けた電流が流れるため、電磁波放射用光伝導素子28は電磁波32を放射する。ここでレーザ光24には実施の形態1の場合よりも高周波の変調成分が含まれるため、実施の形態1よりも高周波の電磁波成分が含まれる。これを放物面鏡31aで平行化して試料33を透過させ、透過後の電磁波34を放物面鏡31bにより電磁波検出用光伝導素子29に集める。電磁波検出用光伝導素子29は偏光ビームスプリッタ27bで分割されたもう一方の電磁波検出用のレーザ光25により照射され、時間的にレーザ光25の強度変調を反映した導電性を示す。さらに、電磁波検出用のレーザ光25は移動ステージ37に設けられたリトロリフレクタ36で反射することにより時間遅延している。このため、電磁波検出用光伝導素子29に生じる直流電流を測定しながら、移動ステージ37を移動させ、遅延時間を変化させることにより、試料を透過した電磁波34とレーザ光25の強度の相互相関信号を得ることができる。また電磁波経路に試料33を挿入しないで測定すれば、試料透過前の電磁波32とレーザ光25の強度との相互相関信号を得ることができる。これら2つの相互相関信号を比較することにより、試料の透過率と位相シフトを計算することができる。このような計算は、コンピュータ40において行われる。
【0066】
なお、図5に示した分光装置では、ブロードエリア半導体レーザ21からのレーザ光23とシングルモード半導体レーザ21aからのレーザ光とを混合した後にピンホールを通過させる構成としたが、ブロードエリア半導体レーザ21からのレーザ光をピンホールに通過させた後に、シングルモード半導体レーザ21aからのレーザ光と混合するようにしてもよい。
【0067】
つまり、実施の形態2の変形例に係る分光装置は、インコヒーレント光の光源と、前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、前記ピンホールを通過した前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、前記混合光を2つに分割する分割部と、前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部とを備える。
【0068】
図6は、実施の形態2の変形例に係る分光装置の概略構成図である。分光装置は、ブロードエリア半導体レーザ21と、レンズ22aと、レンズ22bと、ピンホール部材26と、レンズ22cと、シングルモード半導体レーザ21aと、レンズ22fと、光アイソレータ42と、偏光ビームスプリッタ27aと、半波長板41と、偏光ビームスプリッタ27bと、レンズ22dと、電磁波放射用光伝導素子28と、電源30と、放物面鏡31aと、放物面鏡31bと、平面鏡35と、リトロリフレクタ36と、移動ステージ37と、レンズ22eと、電磁波検出用光伝導素子29と、電流計38と、ロックイン増幅器39と、コンピュータ40とを含む。各構成要素は、図5に示したものと同様であり、図6に示す分光装置は、図5に示す分光装置と配置が異なるのみである。このため、図6に示す分光装置は、図5に示す分光装置と同様の効果を奏することとなる。
【0069】
以上の説明で述べたように、この発明の分光装置は、ビームパターンをピンホールにより単一モード化した連続波ブロードエリアレーザの光を用いる。連続波ブロードエリアレーザの光は短い時間スケールでのランダムな強度変調を含む。ビームパターンを単一モード化する以前の相互相関信号のフーリエスペクトルは離散的で縦モード間隔の整数倍にしかスペクトル成分が存在せず、分光には不向きである。これに対し、ビームパターンを単一モード化した後の相互相関信号のフーリエスペクトルは連続的で分光に好適である。また、シングルモード光ファイバによりビームパターンを単一化する場合には光強度に強い制限があり、電磁波の発生と検出にそれぞれ4mW程度しか使用できなかったのに対し、ピンホールを用いた方法では光強度の制限が大幅に緩和され、信号強度が強くなるために信号対雑音費が向上するという効果を有する。また光強度が強くなることから光混合法を適用した場合の最高到達周波数が向上するという効果を有する。
【0070】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、半導体、誘電体等の材料評価に利用され、特にテラヘルツ帯で使用される素子を構成する材料を測定する分光装置等に適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1、21、61、80 ブロードエリア半導体レーザ
2a、2b、2c、2d、2e、22a、22b、22c、22d、22e、46a、46b、62a、62b、62c、81a、81b、81c、81d、81e、81f、100b、100d レンズ
3、4、5、23、24、25、64、65、82、83、84 レーザ光
6、26 ピンホール部材
7、47、66 ビームスプリッタ
8、9、28、29、48、49、67、68、86、87 電磁波検出用光伝導素子
10、30、50、69、88 電源
11a、11b、31a、31b、51a、51b、70a、70b、89a、89b 放物面鏡
12、14、32、34、71、73、90、92 電磁波
13、33、53、72、91 試料
15、35、55、74、93 平面鏡
16、36、56、75、94 リトロリフレクタ
17、37、57、76、95 移動ステージ
18、38、58、77、96 電流計
19、39、59、78、97 ロックイン増幅器
20、40、60、79、98 コンピュータ
21a、99b シングルモード半導体レーザ
27a、27b 偏光ビームスプリッタ
41 半波長板
42 光アイソレータ
43、44、45 光パルス
52、54 パルス電磁波
63 インコヒーレント光
85 偏光保存シングルモードファイバカプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレント光の光源と、
前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、
前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させためのピンホールが形成されたピンホール部材と、
前記ピンホール部材を通過した前記インコヒーレント光を2つに分割する分割部と、
前記分割部での分割後の2つのインコヒーレント光のうちの一方のインコヒーレント光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、
前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つのインコヒーレント光のうちの他方のインコヒーレント光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方のインコヒーレント光との相互相関信号を得る電磁波検出部と
を備える分光装置。
【請求項2】
インコヒーレント光の光源と、
前記インコヒーレント光を平行化する第1レンズと、
前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、
前記第1レンズで平行化された前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、
前記混合光を集光する第2レンズと、
前記第2レンズを通過した前記混合光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、
前記ピンホール部材を通過した前記混合光を2つに分割する分割部と、
前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、
前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部と
を備える分光装置。
【請求項3】
インコヒーレント光の光源と、
前記インコヒーレント光を平行化して集光する一対のレンズと、
前記一対のレンズを通過した前記インコヒーレント光を通過させるためのピンホールが形成されたピンホール部材と、
前記インコヒーレント光の光周波数に対して光周波数が所定の値だけ異なるレーザ光を発生させるレーザ光発生部と、
前記ピンホールを通過した前記インコヒーレント光と前記レーザ光発生部が発生させる前記レーザ光とを混合し、混合光を出射する混合部と、
前記混合光を2つに分割する分割部と、
前記分割部での分割後の2つの混合光のうちの一方の混合光の照射に基づき第1電磁波を放射する電磁波放射部と、
前記電磁波放射部から放射される前記第1電磁波を試料に透過または反射させた第2電磁波と前記分割部での分割後の前記2つの混合光のうちの他方の混合光とが入射され、前記第2電磁波と前記他方の混合光との時間相関を得る電磁波検出部と
を備える分光装置。
【請求項4】
前記所定の値は、100GHz〜100THzの間の値である
請求項2または3記載の分光装置。
【請求項5】
前記電磁波放射部は、前記一方のインコヒーレント光または混合光の照射に基づき1GHz〜100THzの周波数成分を含む前記第1電磁波を放射する
請求項1記載の分光装置。
【請求項6】
前記電磁波検出部は、前記相互相関信号をフーリエ変換し、フーリエ変換後の値から、前記第2電磁波における位相シフトを求める
請求項1〜3のいずれか1項に記載の分光装置。
【請求項7】
前記電磁波検出部は、前記第2電磁波と前記他方のインコヒーレント光との強度の乗算により前記相互相関信号を算出する
請求項1記載の分光装置。
【請求項8】
前記インコヒーレント光は、ランダムな強度変調を受けている光である
請求項1または5記載の分光装置。
【請求項9】
前記光源は、半導体レーザである
請求項1〜8のいずれか1項に記載の分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−47696(P2012−47696A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192529(P2010−192529)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】