説明

分注装置及び分注方法

【課題】 液体を吸引して、その液体の吐出量を高精度かつ高再現性で実現することができる分注装置を提供する。
【解決手段】 ピストン30を備えたシリンダ32の先端にノズル14,16を備え、ピストン32を操作して、シリンダ32中の伝達媒体45を介してノズル14内に液体46を吸引可能な分注ヘッド本体20と、内部が加圧され伝達媒体を貯留するバッファタンク25と、バッファタンク25とシリンダ内を連通させ、バッファタンク内の圧力によって伝達媒体45をシリンダ内に供給する供給管35a,35bとその間に配置されたバルブ26と、バルブに駆動パルスを供給するバルブ駆動部93とを備え、前記バルブが開放している間に供給管35a,35bを通じてシリンダ内に供給された伝達媒体の量と略等しい液体をノズルから吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学分野等で、分析の対象となる試料・検体等を含んだ液体や試薬などの液体を吸引した後分注する場合に用いられる空中吐出式分注装置、特に、ノズルを試験容器に対して空中に保持した状態でノズル内の液体の吐出をする分注装置及び分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野等における分析装置において、検体や試薬等の被分注液を専用試験容器であるマイクロプレートに小分けして移注する分注操作が用いられる。この分注操作に用いられる分注装置として、空気を吸引・吐出するノズルの下端部に吐出部や分注ティップを装着し、所定量の空気を吸引することにより、吐出部や分注ティップの先端より被分注液を吸引しまた吐出する方式のものが広く用いられている。
【0003】
近年、検体や試薬等の分析効率を向上させるため、1回の操作で多くの分注操作を行うことができるようにマイクロプレートに形成する小孔(ウェル)の数量が増加しており、そのため小孔1個あたりの容量が小さくなっている。従って分注装置から吐出すべき被分注液の量も、微量化していく必要が生じている。
【0004】
従来、被分注液の分注を行う技術としては、例えば、特開平10−96735号公報(特許文献1)や、特開2001−228060号公報(特許文献2)に、開示されているように、シリンダの中にピストンを設け、当該ピストンをひくことによって被分注液を吸入すると共に、当該ピストンを押すことによってシリンダの中に吸入された被分注液を分注させる機構を有する分注装置が開示されている。
【0005】
また、特開2003−35716号公報(特許文献3)には、試薬を貯留したノズルを下降させ、その後急激に減速又は停止させて、内部に貯留された被分注液に働く慣性力により、微量の被分注液を吐出することができるように構成されたものが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−96735号公報
【特許文献2】特開2001−228060号公報
【特許文献3】特開2003−35716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、被分注液の吐出量をピストンによって制御することは、微小なピストンの動きを制御する必要があり、特に微小な吐出量が求められる場合、被分注液の吐出量の制御を高精度で行うことが困難である。また、ピストンの動きにより微小な吐出量を実現しようとすると、ピストン自体の構成を微小にする必要があり、当該ピストンによって画定されるシリンダ内の容積を小さくすることが必要となる。シリンダの容積を小さくすると、シリンダ内に貯留できる被分注液の体積が少なくなるので、例えば、多数のウェルを有するマイクロプレートのすべてに吐出するだけの被分注液を貯留しきれなくなるという問題が生じる。
【0008】
さらに、特許文献3に開示されているような方法は、シリンダを移動させると共に急激に停止、減速させるための機構が必要となるため、装置の構成が複雑になるという問題がある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、液体を吸引して、その液体の吐出量を高精度かつ高再現性で実現することができる分注装置及び分注方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の分注装置を提供する。
【0011】
本発明の第1態様によれば、ピストンを備えたシリンダの先端にノズルを備え、前記ピストンを操作して前記シリンダ中に貯留された液状の伝達媒体を介して前記ノズル内に液体を吸引可能な分注ヘッド本体と、
内部が加圧され、前記シリンダ本体に供給される前記伝達媒体を貯留するバッファタンクと、
前記バッファタンクと前記分注ヘッド本体のシリンダを連通させ、前記バッファタンク内の圧力によって前記伝達媒体を前記シリンダ内に供給する供給管と、
前記供給管の途中に設けられ、前記供給管を閉じて前記伝達媒体の供給を停止すると共に駆動パルスを受けて前記供給管を開放可能に構成されたバルブと、
前記バルブに前記駆動パルスを供給するバルブ駆動部とを備えたことを特徴とする分注装置を提供する。
【0012】
本発明の第2態様によれば、液状の伝達媒体は、水またはオイルであることを特徴とする、第1態様の分注装置を提供する。
【0013】
本発明の第3態様によれば、前記バッファタンクは、空圧源から送られた圧縮空気によって内部が一定圧力に加圧されることを特徴とする、第2態様の分注装置を提供する。
【0014】
本発明の第4態様によれば、前記バルブ駆動部は、矩形波状の駆動パルスを前記バルブに供給するように構成され、前記矩形波状の駆動パルスのデューティー比を変更可能に構成されていることを特徴とする、第1から第3態様のいずれか1つの分注装置を提供する。
【0015】
本発明の第5態様によれば、前記バルブ駆動部は、1つの駆動パルスによって所望の吐出量よりも少ない量の前記液体を吐出する開放時間を有するような前記駆動パルスを前記バルブに供給するように構成され、前記所望の吐出量となるように複数の駆動パルスを前記バルブに印加することを特徴とする、第4態様の分注装置を提供する。
【0016】
本発明の第6態様によれば、前記分注ヘッド本体と、前記バッファタンクと、前記供給管と、前記バルブとで分注ヘッドを構成し、
さらに、前記液体が収容された液体収容容器が載置される液体収容部と、
前記吸引された液体の分注作業が行われる前記容器が載置される分注容器載置部と、
前記液体収容部と上記分注容器載置部とに位置決め可能に前記分注ヘッドの移動を行うヘッド移動装置とを備えることを特徴とする第1から第5態様のいずれか1つの分注装置を提供する。
【0017】
本発明の第7態様によれば、シリンダの先端にノズルを備え、前記シリンダ中に液状の伝達媒体を貯留した状態で前記ノズル内に液体を吸引可能な分注ヘッド本体と、
内部が加圧され、前記分注ヘッド本体に供給される前記伝達媒体を貯留するバッファタンクと、
前記バッファタンクと前記分注ヘッド本体のシリンダを連通させ、開閉可能に構成された供給管とを備えた分注装置を用いて前記ノズル内に吸引された液体を分注する分注方法であって、
前記供給管を閉じた状態として前記バッファタンク内の伝達媒体の前記シリンダ内への供給を停止させ、
前記ピストンを駆動して前記ノズルの先端より液体を吸引して、前記液体をノズル内に貯留し、
前記供給管を開放して前記バッファタンク内の伝達媒体を前記シリンダ内へ供給し、
前記供給された伝達媒体によって前記シリンダ内の伝達媒体の体積が増加することによって、前記ノズル内の液体を吐出することを特徴とする、分注方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1態様及び第7態様において、バルブが閉じている間は、供給管が閉じているので、伝達媒体が供給管を通したシリンダへの供給が停止される。一方、バルブが開放している間は、バッファタンクに貯留された伝達媒体がバッファタンク内の圧力により供給管を介してシリンダに送られる。そして、シリンダの先端のノズルに吸引された液体はシリンダに送られた伝達媒体の体積分だけ吐出される。したがって、バルブの開閉を制御することで、シリンダに送られる伝達媒体の量を制御することができ、ノズルから飛翔する液体の量を制御することができる。また、バルブの開閉は、駆動パルスにより簡単に切り替えることができ、バルブ開閉の制御を容易にすることができる。したがって、バルブの開放時間によって決定する伝達媒体の供給量によって、液体の吐出量を決定することができるため、ピストンの押し出し量により液体の吐出量を制御する場合に比較して、液体の吐出量を高精度かつ高再現性で実現することができる。
【0019】
本発明の第2態様によれば、伝達媒体が液体であるため、圧力による体積変化の割合がきわめて小さく、また、バルブの開放時間による液体吐出力の伝達が早くなるので、微小な吐出量の調整を簡単にすることができる。また、気泡が弾性体となって液滴の飛翔分注ができないという問題を解消することができる。
【0020】
本発明の第3態様によれば、バッファタンク内を一定圧力に加圧しているため、バルブの開放による伝達媒体の給送量をほぼ一定量にすることができ、液体の吐出量を高精度に制御することができる。また、加圧手段として圧縮空気を用いているため、バッファタンク内を加圧するための構成を簡単にすることができる。
【0021】
本発明の第4態様によれば、矩形波状の駆動パルスのデューティー比を変更することにより、駆動パルス1つ当たりの液体の吐出量を調整することができ、液体の吐出量をより細かく制御することができる。
【0022】
本発明の第5態様によれば、1回の駆動パルスにより微小な液体の吐出量とし、所望の吐出量とするために駆動パルスを複数印加することにより、細かな吐出量の制御を行うことができる。
【0023】
本発明の第6態様によれば、ヘッド移動部により、液体収容部と分注容器載置部との間を分注ヘッドを自由に移動させながら分注操作を行うことができるので、液体の吸引、分注の一連の操作を自動で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る分注装置について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
本発明の一の実施形態にかかる分注装置の全体構成を模式的に示す模式構成図を図1に示す。図1に示すように、分注装置101は、剛体部材により形成された基台であるベースステージ3を備えており、このベースステージ3上には、ティップ装着ステージS1、液体収容ステージS2、及びプレート載置ステージS3とが設けられている。また、分注装置101は、分注処理を行うための単一のノズル部16を備えた分注ヘッド装置10と、この分注ヘッド装置10の図示X軸方向又はY軸方向への移動を行うXYロボット12(ヘッド移動装置の一例である)とを備えている。分注ヘッド装置101は、XYロボット12によりこの上記それぞれのステージS1〜S3を移動し、ノズル部16の下端部に着脱自在に装着されたティップ14によって、試薬等である液体を吸入して容器に吐出する分注処理を行う。なお、上記X軸方向とY軸方向とは、ベースステージ3の大略表面沿いの方向であって、互いに直交する方向である。
【0026】
また、図1に示すように、ベースステージ3上のティップ装着ステージS1には、未使用の複数のティップ14を整列配列させた状態で収容するティップ収容容器6が載置されている。液体収容ステージS2には、上記試薬としての液体が収容された液体収容容器5が例えば3台載置されている。なお、このような液体収容容器5はその内部に収容される液体の温度を調整する(例えば所定の温度に保つ)温度調節機能を備えるような場合であってもよい。プレート載置ステージS3には、分注対象である液体が分注により所定量だけ供給される多数のウェルが形成されたマイクロプレート4(あるいはマイクロタイタープレート4という場合であってもよい)が複数、例えば、2枚載置されている。さらに、ベースステージ3上には、ティップ14内に残留する不要な液体や液状の伝達媒体を廃棄する液体廃棄部7が配置されている。
【0027】
次に、図2の模式説明図を用いて、ティップ14及びマイクロプレート4について説明する。ティップ14は液体を吸入又は吐出可能な貫通孔を有する先細りのテーパ状のノズル状部品であり、使用の都度交換されるいわゆる使い捨て部品である。ティップ14は、分注ヘッド装置10が備えるシリンダのノズル部16の先端に交換自在に装着されて液体の吐出などを行うノズルとして機能する。
【0028】
図2(A)に示すように、分注ヘッド装置10のノズル部16には、ティップ14が装着される。なお、図2においては、図面の理解を容易なものとすることを目的として、マイクロプレート4のウェル4aの個数を省略している。
【0029】
分注ヘッド装置10は、これらのティップ14の先端部を、図2(A)に示すマイクロプレート4に格子状に設けられた凹部であるウェル4a内に下降させて液体を吸入し、あるいは、液体収容容器5内に下降させて収容されている液体を吸入し、上記マイクロプレート4とは異なるマイクロプレート4のウェル4aにそれぞれのティップ14に吸入した液体を吐出する。これにより分注ヘッド装置10は、異なるマイクロプレート4間で液体の移し替えや、マイクロプレート4への液体の供給等の分注処理を行うことができる。
【0030】
また、図2(B)に示すように、未使用のそれぞれのティップ14は、格子状の配列を有するティップ収容容器6内に収容されており、ティップ収容容器6の上方に分注ヘッド装置10を移動させたあと下降させることにより、それぞれのティップ14を分注ヘッド装置10のノズル部16に自動的に装着することが可能となっている。
【0031】
次に、分注装置101が備える分注ヘッド装置10の模式図を図3に示して、分注ヘッド装置10の構成について詳細に説明する。
【0032】
図3に示すように、分注ヘッド装置10は、ノズル部16等を備えて分注処理を行うヘッド本体ユニット20と、このヘッド本体ユニット20を昇降させる昇降装置22と、伝達媒体が貯留されたバッファタンク25と、バッファタンクとシリンダとを連通させる供給管35a,35bと、供給管35aと供給管35bの間(供給管路の途中)に設けられたプランジャバルブ26と、を備えている。供給管35aと供給管35bはプランジャバルブにより接続され、1つの供給管路を構成する。なお、ヘッド本体ユニット20は、昇降装置22を介して、XYロボット12に支持されている。昇降装置22は、昇降方向に配置されるとともにヘッド本体ユニット20を昇降可能に支持するボールねじ軸23と、ボールねじ軸23に連結されボールネジ軸23を回転駆動させる昇降駆動モータ27とを備えている。また、ボールねじ軸23は、ヘッド本体ユニット20のフレーム28に装着されたナット部24に螺合されている。昇降装置22がこのような構成を有していることにより、昇降駆動モータ27を正逆いずれかの方向に駆動させることにより、ボールねじ軸23に螺合されているナット部24を当該ボールねじ軸23に沿って上方又は下方に移動させることで、フレーム28を介してヘッド本体ユニット20を上昇又は下降させることができる。
【0033】
また、図3に示すように、ヘッド本体ユニット20は、昇降装置22により昇降可能に支持されているフレーム28と、このフレーム28に支持されたシリンダブロック29と、このシリンダブロック29に設けられたシリンダ32内に一方の端部(図示下端部)が挿入されたピストン30と、ピストン30の他方の端部(図示上端部)に結合されたナット部31と、このナット部31を上下動させることで、シリンダ32内に挿入配置されたピストン30をシリンダ32の内壁に沿いながら一体的に上下動させるピストン駆動装置40とを備えている。
【0034】
また、シリンダブロック29の下方には、ノズル部16が設けられており、上述のようにノズル部16には、シリンダ32の先端にティップ14が脱着可能に装着される。なお、フレーム28にはピストン駆動装置40が支持されており、ナット部31、それぞれのピストン30、及びシリンダブロック29は、ピストン駆動装置40を介してフレーム28に支持されている。
【0035】
また、フレーム28に装備されたピストン駆動装置40は、昇降方向に配置されるとともに、ナット部31を昇降可能に支持するボールねじ軸33と、ボールねじ軸33を回転駆動させるピストン駆動用モータ37とを備えている。
【0036】
また、ボールねじ軸33はピストン30に結合されたナット部31と螺合している。ピストン駆動装置40がこのような構成を有していることにより、ピストン駆動用モータ37を正逆いずれかの方向に回転駆動させることで、ボールねじ軸33を正逆いずれかの方向に回転駆動させて、このボールねじ軸33に螺合されているナット部33aをボールねじ軸33の軸方向に沿って上昇又は下降させることができる。その結果、ナット部31を上昇又は下降させることができ、シリンダ32内に挿入配置されたピストン30をシリンダ内壁に沿って上昇又は下降させることが可能となっている。
【0037】
バッファタンク25は、シリンダ32内に吸入される伝達媒体45を貯留する密閉容器である。伝達媒体としては、水または、シリコンオイルなどのオイルを使用する。バッファタンク25の容量としては、シリンダ32内に充填できる程度の量の伝達媒体45を貯留できる程度であればよく、例えば、2ml〜15ml程度とすることができる。バッファタンク内は、管路36によって空圧源52と連通しており、空圧源から送られる圧縮空気により例えば100KPa程度に加圧されている。後述するように、バッファタンク25内の圧力は、貯留されている伝達媒体を給送するための推進力となるため、バッファタンク内の圧力を調整することにより、伝達媒体の給送量、すなわち、駆動パルス1つ当たりの液体の吐出量を調整することができる。レギュレータ51は、空圧源52から送られてくる圧縮空気の圧力を調整してバッファタンク25内部の圧力を調整する。元栓50は、空気送り管路36を開閉する。
【0038】
供給管35a,35bは、バッファタンク25とシリンダ32の伝達媒体取込口32aとを接続し、シリンダ32とバッファタンク25を連通する。したがって、バッファタンク25内に貯留されている伝達媒体45は、供給管35a,35bを通してシリンダ32に給送される。本実施の形態では供給管35a,35bとが、バッファタンク25と前記分注ヘッド本体のシリンダ32を連通する供給管路を構成する。シリンダ32の伝達媒体取込口32aは、ピストン30の動きに影響されないように、ノズル部16の近傍に設けられていることが好ましい。
【0039】
供給管35aと供給管35bの間には、プランジャバルブ26が設けられている。本実施の形態ではプランジャバルブ26が、供給管路を閉じて伝達媒体の供給を停止すると共に駆動パルスを受けて前記供給管路を開放可能に構成されたバルブとなっている。通常時において、プランジャバルブは供給管路を閉じている。プランジャバルブ26は、バルブ駆動部93から供給される駆動パルスを受けて開放状態と閉鎖状態とを切り替え可能に構成されている。上述のように、バッファタンク25内は、大気圧に比較して高圧に構成されているため、プランジャバルブ26が開放状態にあるときは、バッファタンク25内の伝達媒体45は、供給管35a,35bを介してシリンダ32へ送られ、プランジャバルブ26が閉鎖状態にあるときは、プランジャバルブ26よりも下流側に位置する供給管35bには、バッファタンク内の圧力は伝達されないため、伝達媒体の供給が停止される。
【0040】
図4は、プランジャバルブの構成を示す模式図である。すなわち、プランジャバルブ26の本体65は、供給管35a,35bにそれぞれ接続する接続口70,71を連通する腔部66が設けられており、当該腔部66内にプランジャシール67がスプリング69によって下側に付勢された状態で移動可能に配置されている。プランジャシール67は、その軸67aに永久磁石73を有しており、下端にパッキン68が設けられている。通常時においては、プランジャシール67はスプリング69によって下向きに付勢され、パッキン68が接続口71を閉鎖するため、接続口70,71は連通しない。
【0041】
また、プランジャシール67の永久磁石73の周りには、コイル72が設けられている。コイル72には、バルブ駆動部93により図5に示す矩形波状の駆動パルスが印可され、駆動パルスがHの状態においては、コイル72が帯磁する。コイル72の帯磁により永久磁石73が作動して、プランジャシール67が上向きに移動し、プランジャシール67のパッキン68が接続口71から離れ、接続口70と接続口71とを連通する。
【0042】
プランジャバルブ26への駆動パルスを供給するバルブ駆動部93は、例えば、図5に示すような制御部60の制御を受けて矩形波状の駆動パルスを発生可能に構成されている。また、バルブ駆動部93は、矩形波状の駆動パルスの一周期A、及び矩形波状の駆動パルスの一周期A中において、Hが占める時間Bの比であるデューティー比を変更可能に構成されており、プランジャバルブ26の開放時間を調整することができる。例えば、駆動パルスの周期A及びデューティー比を調整することにより、駆動パルス1つ当たりの液体の吐出量を調整することができる。なお、周波数は、例えば、10Hz〜1KHz程度とすることができ、また、1パルス当たりの吐出量は矩形波の形状などによって調整可能であるが、最小で0.05μl程度となるようにすることができる。なお、駆動パルス1つ当たりの液体の吐出量は、駆動パルスの周波数とデューティー比すなわち、プランジャバルブが開放している時間のみによって変化するものではなく、上述のように、バッファタンク25内の圧力、ノズル(ティップ)径などを調整することによって、所望の吐出量に調整することができる。
【0043】
次に、分注装置101における制御系の構成について説明する。分注装置101は、その分注処理の動作の制御を行う分注装置制御システム90を備えている。この分注装置制御システム90の構成を示す制御ブロック図を図6に示す。なお、図6に示す制御ブロック図においては、その主要な制御構成についてのみ示している。
【0044】
図6に示すように、分注装置制御システム90は、システム全体の各ブロックについて統括的な制御を行う制御部91と当該制御部91に格納されている分注動作に関するプログラムである分注動作プログラム92を備える。制御部は、XYロボット12による分注ヘッド装置10のXY移動の動作制御を行うXYロボット駆動部96と、分注ヘッド装置10の昇降駆動モータの昇降動作制御を行う昇降モータ駆動部95と、分注ヘッド装置10のピストン駆動用モータ37の駆動制御を行うポンプ駆動部94と、分注ヘッド装置10のプランジャバルブ26に駆動パルスを印加するバルブ駆動部93とを備える。
【0045】
XYロボット駆動部96は、XYロボット12による分注ヘッド装置10のX軸方向又はY軸方向の移動動作の制御を行うことにより、分注ヘッド装置10を各ステージS1〜S3へ位置決めするための動作制御を行う。昇降モータ駆動部95は、昇降装置22によるヘッド本体ユニット20の昇降動作の制御を行う。また、ポンプ駆動部94は、ピストン駆動装置40によるピストン30の昇降動作の制御を行う。バルブ駆動部93は、プランジャバルブ26に駆動パルスを印可してその開閉を切り替え、バッファタンク25からシリンダ32に伝達媒体を供給する量及びタイミングを制御する。
【0046】
また、分注装置制御システム90には、ユーザにより設定される制御条件や操作指令を制御部へ入力する入力部97が設けられている。入力部97を通して入力される制御条件としては、例えば、分注ヘッド装置10が装備するノズル部16における液体の吸入量あるいは吐出量のデータが例示できる。特に、このような分注処理においては、微少量の液体の吸入及び吐出を正確に行う必要があるとともに、取り扱われる液体の種類に応じて適切な条件を設定する必要がある。このように入力部97を通じて設定される液体の吸入・吐出量のデータは、制御部91において、シリンダ32内におけるピストン30の移動距離、すなわちピストンストロークのデータに変換して、伝達媒体及び液体の吸入量を設定量とすると共に、プランジャバルブの開放の時間、回数を設定量として、上記設定された液体の吸入・吐出量に応じた制御を行うことができる。
【0047】
次に、本実施形態にかかる分注装置の分注方法について図7に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。
【0048】
まず、XYロボットを操作して、分注ヘッド装置10を液体廃棄部7の上方まで移動させる。その後、ピストン30を固定した状態でバルブ駆動部93を駆動させてプランジャバルブ26を所定時間開放し、伝達媒体をバッファタンク26から送ってノズルであるティップ14の先端から液体廃棄部7へ少量吐出する(#1)。これによりティップ14の内部は、気泡が除去されて伝達媒体45で完全に満たされた状態となる。
【0049】
まず、図示しない入力部としての操作スイッチなどを操作し、分注作業を開始する要求を制御部90が受けると、液体をティップ14内に吸引して分注操作を開始する。(#2)。この処理においては、まず、図8Aに示すように、XYロボット12を動作させて、液体46が貯留された液体収容容器5の上方へ分注ヘッド装置を移動させる。その後、図8Bに示すように、昇降モータ27を駆動させて液体46にティップ14の先端が接触するように、ヘッド本体ユニット20を下降させる。その後、図8Cに示すように、ポンプ駆動部94がピストン駆動用モータ37を動作させてピストン30をさらに引き上げ、ティップ14内に液体46を充填させる。このとき、ピストンの上昇速度が大きいと、ティップ14内に気泡が混入するため、ピストンの上昇速度は小さくしておくことが望ましい。
【0050】
ティップ14内に液体46の充填が完了すると、昇降モータ27を駆動させてヘッド本体ユニット20を上昇させる。
【0051】
次に、制御部90は、図9Aに示すように、分注のためにXYロボット12を動作させて、分注したいマイクロプレート4のウェル4aの上方へ分注ヘッド装置10を移動させる(#3)。次いで、マイクロプレート4のウェル4aの底壁とティップ14の先端とが接触しないように、昇降モータ27を駆動させ、ヘッド本体ユニット20を下降させる。
【0052】
次に、図9Bに示すように、制御部90は、バルブ駆動部93を動作させて、プランジャバルブ26に駆動パルスを印加する(#4)。駆動パルスの印加により、プランジャバルブ26は開放状態となり、バッファタンク内の圧力によって伝達媒体45が供給管35a,35bを通ってシリンダ32内に移動する。移動した伝達媒体45の体積分の液体46aがシリンダ32から吐出され、ティップ14の先端から飛翔してマイクロプレート4のウェル4aに注入される。なお、プランジャバルブ26に駆動パルスを複数回印加して所望の吐出量だけ液体を吐出すようにしてもよい。
【0053】
以下、他のウェル4aに対して上記の分注動作を繰り返し行い、マイクロプレート4の全てのウェル4aに分注を完了したならば(#5)、ティップ14内に残っている液体46と伝達媒体45を廃棄し、分注作用を終了する。なお、全てのウェル4aに対して分注が完了する前にティップ14内の液体が少なくなる場合は、#2の試料吸引へ戻り、残りのウェルに対する分注操作を続行する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態にかかる分注装置によれば、バッファタンク内に貯留されている伝達媒体がシリンダに送られることで液体が吐出されるため、伝達媒体の供給量を制御することにより液体の吐出量を簡単な構成で制御することができる。また、伝達媒体の供給量は、供給管35a,35bの間に設けられているプランジャバルブ26に所望の数の駆動パルスを印加することによって簡単に制御することができるため、伝達媒体の供給量の制御機構の構成を簡単にすることができる。これにより、ピストンの駆動量により液体の吐出量を制御するよりも簡単かつ高精度に液体の分注動作を行うことができる。
【0055】
また、プランジャバルブ26に印加される駆動パルスは、デューティー比を変更可能に構成されているため、液体の吐出量の制御を細かく行うことができ、微小な量の液体の分注を行うことができる。
【0056】
さらに、液体の吐出量を決定する伝達媒体は非圧縮性の液体であり、シリンダ内に気泡を混入しないように伝達媒体及び液体の吸引を行うことができるので、伝達媒体の微小な体積変化を気泡が吸収してしまうことなく、液体の吐出量の高精度の制御を行うことができる。
【0057】
また、シリンダ32のノズル部16に、脱着自在なティップ14を装着して、液体の吸引及び吐出を行う構成としているため、液体の種類ごとにティップ14を交換すれば、液体同士のコンタミなどを防止することができる。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。例えば、本実施形態では、分注ヘッド10にピストンが1つのみ設けられている構成としたが、複数のピストンを備えた構成にしてもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、ティップを液体の吐出などを行うノズルとして利用する例を示しているが、図10A,図10Bに示すように、シリンダのノズル部16aを直接液体の吸引/吐出を行うノズルとして機能させてもよい。このように構成すると、液体の吸引/吐出を行うノズルに金属製の極細径のものを使用できるので、1パルス当たりの吐出量の最小値を小さくすることができ、分注精度の向上につながる。
【0060】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一の実施形態にかかる分注装置の外観構成を示す模式斜視図である。
【図2】(A)は分注ヘッド装置とマイクロプレートとの関係を示す模式図であり、(B)はティップ収容容器の構成を示す模式図である。
【図3】図1の分注装置が備える分注ヘッドの構成を示す模式図である。
【図4】図1の分注装置が備えるプランジャバルブの構成を示す断面図である。
【図5】図1の分注装置が備えるバルブ駆動部から発生する駆動パルスの例を示す図である。
【図6】分注装置制御システムの制御的な構成を示す制御ブロック図である。
【図7】図1の分注装置の分注方法の一例を示すフローチャートである。
【図8A】図1の分注装置が備えるシリンダに液体を吸引する工程を示す模式図である。
【図8B】図1の分注装置が備えるシリンダに液体を吸引するためにヘッド本体ユニット20が下降した状態を示す模式図である。
【図8C】図1の分注装置が備えるシリンダに液体を吸引する動作を示す模式図である。
【図8D】図1の分注装置が備えるシリンダに液体が吸引された後ヘッド本体ユニット20が上昇した状態を示す模式図である。
【図9A】図1の分注装置が液体を吐出させるためにマイクロプレートの上方併置している状態を示す模式図である。
【図9B】図1の分注装置が液体を吐出している状態を示す模式図である。
【図10A】本発明の変形例にかかる分注装置が備えるシリンダに液体を吸引する工程を示す模式図である。
【図10B】本発明の変形例にかかる分注装置が液体を吐出している状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
3 ベースステージ
4 マイクロプレート
5 液体収容容器
10 分注ヘッド装置
12 XYロボット
14 ティップ
16,16a ノズル部
20 ヘッド本体ユニット
22 昇降装置
25 バッファタンク
26 プランジャバルブ
30 ピストン
32 シリンダ
35a,35b 給送管路
40 ピストン駆動装置
45 伝達媒体
91 制御部
93 バルブ駆動部
101 分注装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを備えたシリンダの先端にノズルを備え、前記ピストンを操作して前記シリンダ中に貯留された液状の伝達媒体を介して前記ノズル内に液体を吸引可能な分注ヘッド本体と、
内部が加圧され、前記シリンダ本体に供給される前記伝達媒体を貯留するバッファタンクと、
前記バッファタンクと前記分注ヘッド本体のシリンダを連通させ、前記バッファタンク内の圧力によって前記伝達媒体を前記シリンダ内に供給する供給管と、
前記供給管の途中に設けられ、前記供給管を閉じて前記伝達媒体の供給を停止すると共に駆動パルスを受けて前記供給管を開放可能に構成されたバルブと、
前記バルブに前記駆動パルスを供給するバルブ駆動部とを備えたことを特徴とする、分注装置。
【請求項2】
液状の伝達媒体は、水またはオイルであることを特徴とする、請求項1に記載の分注装置。
【請求項3】
前記バッファタンクは、空圧源から送られた圧縮空気によって内部が一定圧力に加圧されることを特徴とする、請求項2に記載の分注装置。
【請求項4】
前記バルブ駆動部は、矩形波状の駆動パルスを前記バルブに供給するように構成され、前記矩形波状の駆動パルスのデューティー比を変更可能に構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の分注装置。
【請求項5】
前記バルブ駆動部は、1つの駆動パルスによって所望の吐出量よりも少ない量の前記液体を吐出する開放時間を有するような前記駆動パルスを前記バルブに供給するように構成され、前記所望の吐出量となるように複数の駆動パルスを前記バルブに印加することを特徴とする、請求項4に記載の分注装置。
【請求項6】
前記分注ヘッド本体と、前記バッファタンクと、前記供給管と、前記バルブとで分注ヘッドを構成し、
さらに、前記液体が収容された液体収容容器が載置される液体収容部と、
前記吸引された液体の分注作業が行われる前記容器が載置される分注容器載置部と、
前記液体収容部と上記分注容器載置部とに位置決め可能に前記分注ヘッドの移動を行うヘッド移動装置とを備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1つに記載の分注装置。
【請求項7】
シリンダの先端にノズルを備え、前記シリンダ中に液状の伝達媒体を貯留した状態で前記ノズル内に液体を吸引可能な分注ヘッド本体と、
内部が加圧され、前記分注ヘッド本体に供給される前記伝達媒体を貯留するバッファタンクと、
前記バッファタンクと前記分注ヘッド本体のシリンダを連通させ、開閉可能に構成された供給管とを備えた分注装置を用いて前記ノズル内に吸引された液体を分注する分注方法であって、
前記供給管を閉じた状態として前記バッファタンク内の伝達媒体の前記シリンダ内への供給を停止させ、
前記ピストンを駆動して前記ノズルの先端より液体を吸引して、前記液体をノズル内に貯留し、
前記供給管を開放して前記バッファタンク内の伝達媒体を前記シリンダ内へ供給し、
前記供給された伝達媒体によって前記シリンダ内の伝達媒体の体積が増加することによって、前記ノズル内の液体を吐出することを特徴とする、分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2006−284426(P2006−284426A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106115(P2005−106115)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】