説明

分離精製方法

【課題】原料空気から少なくともキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する方法において、不純物であるNOを除去する分離精製方法を提供する。
【解決手段】原料空気を窒素と液体酸素に分離し、前記原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを前記液体酸素中に濃縮する工程と、前記液体酸素を気化して酸素を生成する工程と、前記酸素中に含まれている炭化水素を、パラジウム触媒を用いて酸化する工程と、前記酸素中に含まれているNOを、パラジウム触媒を用いて350℃以上の反応温度で熱分解する工程と、前記水蒸気および前記二酸化炭素を吸着により除去する工程と、前記酸素から、キセノンおよび/またはクリプトンを分離する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離精製方法に関するものであり、より詳しくは原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する分離精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、キセノン(Xe)およびクリプトン(Kr)の需要は高まっており、Xeは、キセノンランプ封入ガス、イオンエンジンの推進剤、二層断熱ガラス等に用いられており、Krは、ランプの封入ガス等に用いられている。
これらXeおよびKrは、それぞれ大気中に約0.086、1.14ppm存在しており、工業的には空気の低温蒸留によって分離されている。
【0003】
具体的には、XeおよびKrは、空気分離を主目的とする複精留塔で濃縮され、所定の分離プロセスを経て分離、精製される。この際、XeおよびKrは、その沸点が酸素よりも高いので、複精留塔の低圧塔底部の液体酸素中に濃縮した後に分離される。
【0004】
ところで、大気には炭化水素(CnHm)や亜酸化窒素(NO)が微量含まれており、それらの沸点は酸素よりも高い。したがって、空気分離装置の低温部分に混入した炭化水素およびNOも、最終的には、複精留塔の低圧塔底部の液体酸素中に濃縮される。
よって、液体酸素内のXeおよびKrを更に濃縮・精製し、製品として分離するためには、同時に濃縮される炭素水素およびNOを、何らかの方法で除去する必要がある。
【0005】
一般に、酸素中の炭化水素の除去方法としては、触媒を用いた酸化反応によって除去する方法が知られている。例えば、特許文献1には、酸素ガス中の炭化水素を、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の貴金属触媒を用い、温度200〜650℃、空間速度500〜6000h−1の条件で酸化除去する技術が公開されている。
【0006】
また、酸素中のNOの除去方法としては、吸着による方法が知られている。例えば、特許文献2には、X型ゼオライトであって、一部をマグネシウムで置換したゼオライトを触媒として用いたNOの除去方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、前処理吸着器に吸着剤を3層充填し、もっとも下流に充填する吸着剤(NO容量≧79mmol/g/atm、窒素拡散パラメータ≧0.12sec−1)によって、空気中のNOを除去する技術が開示されている。
その他に、特許文献4〜7にもNOの吸着除去に関する技術が公開されている。
一方、特許文献8、9には、液体酸素からNOを吸着除去する技術が公開されている。
【0008】
なお、NOは、自動車等の排気ガスや手術室からの排気ガスにも多く含まれ、地球温暖化防止の視点から、その分解除去等に関する方法が多く開示されている(特許文献10〜16)。これらは、排ガスや排気ガスに含まれるNOを予め分解することで、大気中に放出されるNOを低減させることを目的としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3424100号公報
【特許文献2】特許第3545377号公報
【特許文献3】特開2010−29855号公報
【特許文献4】特開2004−148315号公報
【特許文献5】特開2004−975号公報
【特許文献6】特開2000−140550号公報
【特許文献7】国際公開第07−69605号公報
【特許文献8】特開2004−69676号公報
【特許文献9】特開2003−221212号公報
【特許文献10】特開2009−172494号公報
【特許文献11】特開2008−221029号公報
【特許文献12】特開平10−80633号公報
【特許文献13】特開2006−272239号公報
【特許文献14】特開2007−185574号公報
【特許文献15】特許第2637049号公報
【特許文献16】特開2009−22929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1には、酸素に含まれる炭化水素を除去する技術が開示されているが、NOの除去に関する記載はなく、NOを十分に除去できないという不都合があった。
【0011】
また、特許文献2〜9に開示されるように吸着剤を用いてNOを除去する場合、そもそもNOは吸着剤によって吸着され難く、また反応性も乏しいので、前処理吸着器で完全に除去することができないという不都合があった。
【0012】
そこで、吸着剤を用いる場合には、前処理吸着器で除去されなかったNOを、低温吸着器で吸着除去あるいは液体酸素の一部パージによって除去することも考えられるが、いずれもXeないしKrの損失が発生するという不都合があった。
すなわち、低温吸着器を用いる場合は定期的に再生工程が必要となり、その都度、寒冷損失と液体酸素中に含まれるXeないしKrの損失が発生し、また、液体酸素の一部をパージしてもXeないしKrの損失は避けられない。
【0013】
したがって、吸着剤を用いてNOを除去する場合は、完全にNOを除去することができないか、または、XeないしKrの損失が生じるという不都合があった。
【0014】
また、特許文献10〜16に開示されているNOの除去方法は、本発明が対象としているXeないしKrを分離精製するためのプロセスおけるNOの除去方法とは、技術分野が必ずしも一致しない。加えて、本発明は、NOをpptレベルまで除去することを目的としているが、特許文献10〜16に開示されているNOの除去方法は、このレベルまでの除去を目的としておらず、参考とならない。
【0015】
例えば、特許文献10には、排ガス中の比較的低濃度のNO除去に関する方法が記載されており、具体的には、数%の酸素、水蒸気を含む窒素ガス中のNO(50〜1000ppm)を、熱分解する技術が公開されている。これには、ロジウム触媒を用い、分解反応温度を350〜500℃とし、空間速度(SV)を、10000〜20000h−1の範囲にすると効果があると説明されている。
しかし、NOの分解率が39%程度の場合でも効果があるとする事例が記載されており、対象ガス中に含まれるNOをpptレベルまで除去することを想定した技術ではない。
【0016】
また、特許文献11には、NO、酸素、水蒸気、およびNO(1000ppm)を含む窒素ガス中のNO分解除去に関する実験結果(5bar、500℃、SV=10000h−1)が多く記載されている。
しかし、NOの分解性能は最高でも98.9%となっており、約11ppmのNOが分解されていない結果となっている。つまり、これは対象ガス中に含まれるNOをppmレベルまで除去することを想定した技術ではない。
【0017】
また、特許文献12には、酸素、水蒸気およびNO(950ppm)を含むヘリウムガス中のNOを、複合金属酸化物の触媒を用いて分解除去する方法が記載されている。
しかし、特許文献12においては、効果がNOの分解速度によって評価されており、最終的に分解されなかった残留NOについての記載はない。
【0018】
また、特許文献13には、酸素、二酸化炭素、水蒸気およびNO(400ppm)を含む窒素ガス中のNOを、多孔質Alを主体とした担体にZnOおよびRh等を担持させた触媒を用いて、300〜500℃で、分解除去する方法が記載されている。
しかし、必要な担体は平均細孔径、細孔径分布の相対半価幅を特定する必要があり、触媒製造コストが高くなるという不都合がある。
【0019】
また、特許文献14には、周期表第8族の第5周期や第6周期の金属を、NOの分解触媒とすることが記載されている。
しかし、その実施例として、脱硝後の排気ガスであって、酸素(3%)、水蒸気(4%)およびNO(1000ppm以下)を含む窒素から白金触媒を用いてNO分解した結果について、NOの「ほぼ」全量が分解したと記載されている。すなわち、排ガスを大気に放出するに際しては特に問題とならないが、微量のNOは分解されなかった旨が示唆されている。
【0020】
また、特許文献15には、NOを分解する触媒であって、1〜3価の陽イオンを含む触媒が記載されている。
しかし、これには、酸素あるいは水蒸気が存在するとNOの分解が阻害される旨記載されており、酸素ガス中のNOを除去する本発明の参考とならない。
【0021】
また、特許文献16には、水素が存在する排ガス中のNO分解反応であって、水素の酸化触媒とNOの分解触媒に関する技術が記載されており、排ガス中に共存する酸素濃度がNO分解に与える影響について検討されている。
しかし、排ガスに共存する酸素濃度が少ないほど、NOの除去率は高く、酸素濃度が1%を超えた条件では、NOは除去できない旨記載されており、本発明の参考とならない。
【0022】
このように、排ガス、排気ガス中のNOの分解除去に関する技術が多く開示されているが、本発明が対象としているNO濃度よりも高い濃度範囲を対象としている。特に、触媒塔出口の濃度については、その目的から、大気に放出しても問題ない程度であり、対象ガス中のNO濃度がppbレベルあるいは分析計の検出限界までを対象とする技術の開示、示唆はなかった。
【0023】
特に、本発明が対象としている技術は、対象流体からNOを除去した後、その流体に含まれるXeやKrをさらに濃縮して分離するプロセスに用いられる技術である。そのため、NOの分解反応後にNOが存在すると、XeやKrの濃縮工程において、NOも同時に濃縮されることとなり、XeやKrの製品に混入される可能性が大きい。
したがって、本発明においては、NO分解反応後に残留するNOの存在が大きな問題となる。
【0024】
また、排ガス、排気ガス中のNO分解除去に関する従来技術は、その大部分が窒素、ヘリウム等を対象ガスとしており、酸素ガス中のNO分解については何ら開示されておらず、本発明の参考とはならい。
【0025】
このように、原料空気から少なくともXeおよびKrのうち少なくとも1つを分離精製する方法において、不純物であるNOを除去する有効適切な方法が提供されていなかったのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
すなわち、請求項1に係る発明は、原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する分離精製方法であって、原料空気を窒素と液体酸素に分離し、前記原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを前記液体酸素中に濃縮する工程と、キセノンおよび/またはクリプトンが濃縮された前記液体酸素を気化して酸素を生成する工程と、気化した前記酸素中に含まれている炭化水素を、パラジウム触媒を用いて酸化し、水蒸気と二酸化炭素を生成する工程と、気化した前記酸素中に含まれているNOを、パラジウム触媒を用いて350℃以上の反応温度で分解する工程と、前記水蒸気および前記二酸化炭素を吸着により除去する工程と、炭化水素およびNOが除去され、キセノンおよび/またはクリプトンが濃縮された前記酸素から、キセノンおよび/またはクリプトンを分離する工程と、を有することを特徴とするキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する分離精製方法である。
【0027】
請求項2に係る発明は、前記酸素中に含まれている炭化水素を酸化する工程と、前記酸素中に含まれているNOを分解する工程と、を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の分離精製方法である。
【0028】
請求項3に係る発明は、前記液体酸素を気化する工程が、前記液体酸素を臨界圧力以上に昇圧する工程と、その状態で酸素流体を昇温する工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分離精製方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、原料空気からキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する方法において、吸着剤を用いることなく、パラジウム触媒を用いた分解によってNOを除去している。これにより、キセノンないしクリプトンの損失が発生することを防止しつつ、不純物であるNOを適切に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の実施形態である分離精製方法における炭化水素およびNOを除去プロセスの一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態である分離精製方法におけるXeおよびKrの分離精製プロセスの一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例における触媒塔で反応温度と、触媒塔出口のNO濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を適用した分離精製方法について、図面を用いて詳細に説明する。
まず、本実施形態の分離精製方法に用いられる空気分離精製装置について説明する。なお、図1は、本実施形態の分離精製方法における炭化水素およびNOの除去プロセスの一例を示す図であり、図2は、本実施形態の分離精製方法におけるXeおよびKrの分離精製プロセスの一例を示す図である。
【0032】
本実施形態の空気分離精製装置は、図1および図2に示すように、低圧塔(上部塔)1aおよび高圧塔(下部塔)1bとからなる複精留塔1と、貯液槽2と、ポンプ3と、加温器4と、減圧弁5と、熱交換器6と、加熱器7と、触媒塔8と、吸着塔9と、脱酸素塔10と、分離塔11とから概略構成されている。
【0033】
次に、本実施形態の空気分離精製装置を用いた分離精製方法について説明する。
まず、図1に示すように、Xe、Krおよび前処理吸着器(図示略)で除去されなかった微量の炭化水素ならびにNOを含む原料空気を、低圧塔1aと高圧塔1bとからなる複精留塔1に導入し、窒素と液体酸素に分離する。なお、原料空気を低温蒸留によって窒素と液体酸素とに分離できるのであれば、複精留塔1の構成、窒素と液体酸素の分離プロセス等はどのようなものであっても構わない。
【0034】
複精留塔1においては、低圧塔1aの塔頂部からは、窒素ガスが導出され、低圧塔1aの下部に設けられた主凝縮蒸発器12の部分からは、XeおよびKrが濃縮された液体酸素が導出される。なお、複精留塔1においては、XeおよびKr以外に炭化水素およびNOも液体酸素中に濃縮される。
【0035】
次に、複精留塔1の低圧塔1aから導出された液体酸素(酸素流体)を貯液槽2に導入する。
この際、複精留塔1から導出した液体酸素を濃縮塔(図示略)に導入し、液体酸素中にXeおよびKrを更に濃縮した後に、貯液槽2に導出してもよい。
【0036】
複精留塔1から導出する液体酸素の液量が少ない場合は、貯液槽2の貯液が後工程で使用しうる適当な量になるまで後工程を休止し、貯液が所望量以上になったときに、管21から貯液を導出する。
したがって、複精留塔1から導出する液体酸素の液量が十分な量であれば、貯液槽2は設けなくても構わない。
【0037】
貯液が所望量以上になった後は、貯液槽2から液体酸素の一部を配管21を通して抜き出し、この抜き出された液体酸素を、ポンプ3(3a,3b)によって臨界圧力以上に昇圧する。
そして、この臨界圧以上の昇圧された酸素流体を加温器4に導入し、その昇圧された状態のまま相変化なく常温まで昇温する。その後、減圧弁5で所定圧力まで減圧し、最終的に酸素ガス(酸素)を得る。
なお、ポンプ3を2つ設けていることから、定期的なメンテナンスをする際、2台の切替運転をすることで、装置全体を停止することなくメンテナンスを行うことができる。
【0038】
このようなプロセスを採ることで、本実施形態では、液体酸素の気化プロセスで気液混相状態が存在しないこととなり、酸素中の炭化水素の析出、爆発の事故を回避することが可能となる。
なお、液体酸素に混入した炭化水素の濃度が極端に小さい場合は、配管21で抜き出された液体酸素をポンプ3によって加圧することなく、加温器4による加熱により気化することができる。
【0039】
その後、この気化された酸素ガスを、熱交換器6、加熱器7で加熱する。なお、熱交換器6においては、後述する触媒塔8を導出した高温の酸素ガスと熱交換される。
加熱器7で所望の温度に加熱した後、酸素ガスを触媒塔8に導入する。触媒塔8には、パラジウム触媒が所定量充填されており、例えば0.5%Pd触媒が充填されている。
【0040】
この触媒塔8では、NOの熱分解反応および炭化水素の酸化反応が推進され、それぞれ酸素、窒素および二酸化炭素、水蒸気が生成される。
なお、下記化学式(1)はNOの分解反応を、下記化学式(2)は炭化水素の酸化反応をそれぞれ示している。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
このNOの分解反応および炭化水素の酸化反応の条件設定は、主に反応温度と空間速度(SV)によって設定する。
反応温度は、例えば触媒塔8の上流に設けた加熱器7による温度調節によって行えばよく、反応温度(触媒塔8出口での温度)が350℃以上になるように制御する。反応温度を350℃以上に設定することにより、分解後のNO濃度をppb、pptレベル(検出限界以下)にすることができる。反応温度の上限値は、機器の設計温度(例えば500℃)以下であれば、どのように設定してもよい。
なお、ここでいう反応温度とは、触媒塔8の出口での温度のことをいう。
【0044】
空間速度の設定は、例えば貯液槽2から導出する液体酸素の流量を適宜の流量調整弁(図示略)等を設けて制御することで行えばよい。この空間速度は、500〜6000h−1の範囲内であることが好ましい。
【0045】
なお、触媒塔8出口に、酸素ガス中の炭化水素ないしNOの含有量を検出する分析計(図示略)を設け、この分析計に基づいて、炭化水素ないしNOの含有量を検出限界以下にするように反応温度および空間速度を適宜設定してもよい。もっとも、この際もNO濃度を検出限界以下にするためには、反応温度を350℃以上にする必要がある。
以上のようにして、触媒塔8において、酸素ガスから炭化水素およびNOを分解・除去する。
【0046】
次に、触媒塔8での反応を終え、NOおよび炭化水素を含まない酸素ガスは、XeおよびKrを含んだ状態で熱交換器6に導入され、常温まで冷却される。
その後、更に所定温度まで冷却された酸素ガスは、吸着器9(9a,9b)に導入され、炭化水素の酸化反応によって生じた二酸化炭素および水蒸気が吸着除去される。
【0047】
吸着塔9は、連続的に吸着プロセスが行えるように、2つの吸着塔9a,9bから構成されている。そして、一方が吸着工程にあるときは他方が再生工程になるようにし、吸着工程と再生工程を適宜切替えて使用する。
再生工程は、例えば吸着塔9内に加熱窒素ガスを導入して行う加熱再生工程と、常温の窒素ガスを導入して行う冷却工程と、酸素ガスを導入して行う充圧工程とからなる。
【0048】
二酸化炭素および水蒸気が除去された酸素ガスは、Xe,Kr分離精製プロセスに導入される。
XeおよびKrの分離精製プロセスについては、多くのプロセスが提案されており、例えば特開平07−139876号公報に開示されているような方法で構わない。
【0049】
すなわち、図2に示すように、上記プロセスによって精製された炭化水素およびNOが除去された酸素ガスを順次、熱交換器22、脱酸素塔10、および分離塔11に導入する。そして、分離塔11の塔頂から製品液体クリプトンを、塔底から製品液体キセノンを採取する。
【0050】
具体的には、まず、酸素ガスを熱交換器22に導入した後、脱酸素塔10の中段に導入する。熱交換器22では、後述する窒素ガスと熱交換することで、冷却される。
脱酸素塔10は、底部に、塔底液を加熱して上昇ガスを生成するリボイラー10aを有し、頂部に、ガスを冷却して下降液を生成する凝縮器10bを有している。そして、この上昇ガスと下降液とが気液接触することにより精留が行われる。
【0051】
リボイラー10aの加熱源としては、例えば窒素ガス等を適宜の圧力に加圧して用いればよい。また、凝縮器10bの寒冷源としては、リボイラー10aで液化した液体窒素等を用いればよく、寒冷源が不足する場合は、適宜液体窒素を追加して導入すればよい。なお、この寒冷源として用いた液体窒素は、凝縮器10bにおいて熱交換した後に、熱交換器22に導入される。
【0052】
この脱酸素塔10における精留により、脱酸素塔10の底部には、Xeが5〜10%、Krが90〜95%、および酸素が0.5ppm以下である液体ガスが得られる。
また、塔頂部からは、Krを10〜500ppm含む酸素ガスが導出される。
【0053】
次に、脱酸素塔10の塔底液は、分離塔11の中段に導出される。
分離塔11は、底部に、塔底液を加熱して上昇ガスを生成するリボイラー11aを有し、頂部に、ガスを冷却して下降液を生成する凝縮器11bを有している。そして、この上昇ガスと下降液とが気液接触することにより精留が行われる。
【0054】
リボイラー11aの加熱源としては、例えば脱酸素塔10のリボイラー10aと同様に窒素ガス等を適宜の圧力に加圧して用いればよい。また、凝縮器11bの寒冷源としては、リボイラー11aで液化した液体窒素用いればよく、寒冷源が不足する場合は、適宜液体窒素を追加して導入すればよい。なお、この寒冷源として用いた液体窒素は、凝縮器11bにおいて熱交換した後に、熱交換器22に導入される。
【0055】
この分離塔11における精留により、塔頂部には純度99.9%以上のKrが分離し、塔底部には、純度99.9%以上のXeが液状で分離する。
分離後のKrは、分離塔11の塔上部に設けた抜き出し管23から製品液体クリプトンとして導出され、分離後のXeは、分離塔11の塔底部に設けた抜き出し管24から製品液体キセノンとして導出される。
【0056】
以上のようにして、触媒塔8で不純物を除去された酸素ガスは、精製プロセスに導入され、この精製プロセスによってXeおよびKrは更に濃縮された上で分離される。
【0057】
本実施形態では、XeおよびKrを精製分離する酸素ガス中のNOを、パラジウム系触媒を用いて、反応温度を350℃以上にして、分解除去している。
この結果、詳細なメカニズムは不明であるが、処理対象が酸素ガスであるにもかかわらず、分解後の酸素ガス中のNO濃度を検出限界以下にまで抑えることができ、ppb、pptレベルとすることができる。すなわち、本実施形態の分離精製方法によれば、比較的低温で、かつ確実にNOを除去することができる。
【0058】
また、本実施形態では、NOの分解と炭化水素の酸化反応を、ともにパラジウム系触媒を用いて触媒塔8内において同時に行っているので、NOを分解除去するための新たな工程を必要とせず、製造効率がよい。
【0059】
また、本実施形態では、液体酸素を臨界圧力以上に昇圧し、その状態で常温まで昇温しているので、液体酸素の気化プロセスにおいて、気液混相状態が存在しないこととなり、酸素中の炭化水素の析出、爆発の事故を回避することが可能となる
【0060】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0061】
以下、気化した酸素ガス中に含まれているNOを、パラジウム触媒を用いて熱分解する際の、温度と分解後のNO濃度の関係について、実験例を示して説明する。
本実験例では、図1に示した分離精製方法を用いて、XeおよびKrを分離精製しており、触媒塔8における反応温度を常温から400℃まで昇温させた。なお、空間速度(Sv)は、1200h−1とした。
【0062】
その際の触媒塔8出口のNO濃度と反応温度の関係を測定した結果を図3に示す。また、反応温度を350℃以上とした際の、触媒塔8前後における酸素ガス中の各成分の濃度を測定した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
図3から明らかなように、触媒塔8入口の酸素ガス中のNO濃度は32ppm(表1参照)であるところ、反応温度の上昇とともに触媒塔8出口のNO濃度は低下することが分かる。そして、反応温度が350℃以上になると、触媒塔8出口でのNO濃度は急激に低下し、分析計の検出限界(20ppb)以下となることが分かる。
また、表1から明らかなように、触媒塔8出口での炭化水素濃度も検出限界以下となることが分かる。
【0065】
なお、表1の値を用いると、製品キセノンないし製品クリプトンを得るためには、触媒塔8出口の酸素ガスを更に、1111(=1.0/0.0009)倍〜10000(=1.0/0.0001)倍に濃縮する可能性もある。
しかし、触媒塔8での反応温度が350℃以上の場合、本実験例によって得られた最終的な製品キセノンないし製品クリプトンに含有されるNOおよび炭化水素は、許容範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、空気を原料としてキセノンまたはクリプトンを製造する製造業において幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1・・・複精留塔、2・・・貯液槽、3・・・ポンプ、4・・・加温器、5・・・減圧弁、6・・・熱交換器、7・・・加熱器、8・・・触媒塔、9・・・吸着塔、10・・・脱酸素塔、11・・・分離塔、12・・・主凝縮蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する分離精製方法であって、
原料空気を窒素と液体酸素に分離し、前記原料空気に含まれるキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを前記液体酸素中に濃縮する工程と、
キセノンおよび/またはクリプトンが濃縮された前記液体酸素を気化して酸素を生成する工程と、
気化した前記酸素中に含まれている炭化水素を、パラジウム触媒を用いて酸化し、水蒸気と二酸化炭素を生成する工程と、
気化した前記酸素中に含まれているNOを、パラジウム触媒を用いて350℃以上の反応温度で分解する工程と、
前記水蒸気および前記二酸化炭素を吸着により除去する工程と、
炭化水素およびNOが除去され、キセノンおよび/またはクリプトンが濃縮された前記酸素から、キセノンおよび/またはクリプトンを分離する工程と、
を有することを特徴とするキセノンおよびクリプトンのうち少なくとも1つを分離精製する分離精製方法。
【請求項2】
前記酸素中に含まれている炭化水素を酸化する工程と、前記酸素中に含まれているNOを分解する工程と、を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の分離精製方法。
【請求項3】
前記液体酸素を気化する工程が、
前記液体酸素を臨界圧力以上に昇圧する工程と、
その状態で酸素流体を昇温する工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分離精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−189254(P2012−189254A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52889(P2011−52889)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】