説明

列車制御システム

【課題】無線列車制御システムの処理を実施する装置を分散すると装置間の通信処理が必要となり、対象列車を特定するために列車認識情報も装置間の伝送情報に付加する必要があるが、桁数の多い電話番号を列車認識情報として付加し、各列車と列車制御を行う論理制御装置間で伝送すると、装置間の伝送情報量を増やし応答性を悪くする要因となっている。
【解決手段】処理負荷軽減を目的に論理制御機能21、通信制御機能22、プロトコル変換機能23を複数の装置に分散した無線列車制御システムにおいて、列車認識用として桁数の多い電話番号を、伝送を行う固定回線へあらかじめ割り当て11を実施することで、論理制御装置21において、桁数の多い電話番号を列車認識情報として管理する必要をなくすことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上列車制御装置から列車に搭載された車上制御装置に空間伝送手段により、列車速度制御を行う列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
列車の衝突を防ぐための列車速度を制御する方法として、デジタルATC(Automatic Train Control)が知られている。デジタルATCでは、地上列車制御装置から伝送される列車制御情報である停止目標位置と、車上制御装置自身が認識している列車位置の情報から計算し、車上制御装置が列車の速度制御を行っている。
【0003】
従来の列車制御において、地上車上間の伝送手段として無線伝送を使用する場合、デジタルループシステムや特定省電力無線など比較的近距離であった。このため、列車制御情報が漏洩する危険性が少なく、伝送情報に対するセキュリティ対策は基本的に必要性が大きいものではなかった。
【0004】
しかしながら、近年、一般的な無線(携帯電話や空間波など)を使用した列車制御技術が導入され、オープンネットワークの遠距離間伝送が使用されようになった。このため、列車制御情報の漏洩や第三者による改ざんの危険性など列車制御情報に十分なセキュリティ対策を実施する必要性が生じている。
【0005】
列車制御情報のセキュリティ対策方法としては、非特許文献1のERTMS/ETCS規格に記載のMAC(Message Authentication Code)や、AES(Advanced Encryption Standard)などの一般的に公開されているデータの暗号化手法がある。
【0006】
列車制御システムにおいて、伝送を行う列車制御情報へのセキュリティ対策を実施するためには、従来の列車制御論理処理以外に、セキュリティ処理を実施する必要があり、CPUの負荷が増えるため、大規模な列車制御には適していなかった。
【0007】
この対策として、例えば、特許文献1では、地上列車制御装置とアクセスポイント制御装置とのアクセスポイントによって車上制御装置と通信を行い、列車制御機能、セキュリティ機能、列車との通信機能をそれぞれの装置に分散させることで処理負荷を軽減し、大規模の列車制御システムを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−17463号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ERTMS/ETCS規格;Euroradio FIS Subset−037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の従来技術のように処理を実施する装置を分散すると、装置間の通信処理が必要となるが、列車制御情報を送信する対象列車を特定するために、列車識別情報も、前記装置間の伝送情報に付加する必要がある。
【0011】
無線回線として携帯電話網を使用する無線列車制御システムにおいては、桁数の多い電話番号を列車識別情報として付加し、各列車と列車制御を行う論理制御装置間で伝送する必要があり、前記装置間の伝送情報量を増やし、応答性を悪くする要因となっている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の列車制御システムは、処理負荷軽減を目的に各機能を複数の装置に分散した装置の装置間伝送において、列車識別用として桁数の多い電話番号を、伝送を行う固定回線へあらかじめ割り当てを行うことで、論理制御装置において、桁数の多い電話番号を列車識別情報として管理する必要をなくすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、列車との通信毎に列車識別情報を任意の固定回線に割り当てることで、分散した装置間での伝送量を抑制し、列車制御情報の伝送応答性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る回線割り当て装置の構成図である。
【図2】図2は本発明の列車制御装置の全体構成図である。
【図3】図3は複数の通信回線網に接続した場合の全体構成図である。
【図4】図4は複数の通信回線網に接続した場合の回線割り当て装置の構成図1である。
【図5】図5は複数の通信回線網に接続した場合の回線割り当て装置の構成図2である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に従って説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係る通信識別情報と列車識別情報との関係を示している。回線割り当て装置11は、通信回線網14から交換機12を通して接続されており、交換機12から複数の通信回線11−1〜11−Nを接続している。複数の車上制御装置27からの接続要求に対し、複数回線を一括して接続できる代表電話番号を使用して通信を開始し、地上列車制御システム10は車上側からの受信のみを実施する。
【0017】
代表電話番号にて着信した通信回線は、自動的に回線1(11−1)から回線N(11−N)までの回線に振り分けられ、回線割り当て装置11に接続される。ここで接続した通信回線は切断しない限り、継続して通信でき、且つ、受信のみ実施することで送信者の電話番号に類する通信用の通信識別情報を取得する必要が無いように構成されている。
【0018】
具体的には、Ethernet(登録商標)通信ならば、通信回線網14側の回線1をポート番号1の通信回線13に対応させるなどの回線接続を行い、通信回線13の固有情報の対応だけで通信を行う。上位装置である地上列車制御システム10では、通信回線13で伝送される列車情報から列車IDなどの制御に使用する列車固有の列車識別情報を抽出し、抽出した列車識別情報にて列車制御論理を機能させる。
【0019】
以上のように、列車26の車上制御装置27からの回線接続を回線割り当て装置11で固定化して取り扱うことで、電話番号に類する通信用の通信識別情報を意識することなく上位装置10との通信を行うことができ、伝送量を抑制し応答性を向上させることが出来る。
【0020】
また、地上列車制御システム10では、通信に必要となる電話番号等の通信識別情報と個々の列車の対応付けやチェックをする必要および列車固有情報を保有する必要がなく、処理の簡素化が可能である。
【実施例2】
【0021】
図2は、本発明の実施例2の列車制御装置の全体構成図で、回線割り当て装置11の機能をプロトコル変換装置23に持たせた実施例である。
【0022】
列車26に搭載されている車上制御装置27は、自列車位置を含んだ列車情報を、地上システムと共通した伝送鍵で暗号化し、列車情報(空間伝送波)25aによって通信回線網14へ送信する。伝送鍵はハードディスクやコンパクトフラッシュ(登録商標)、SDカードなどの外部記憶媒体である伝送鍵保有装置28に保有しても良いし、車上制御装置27内のプログラムの定数として保有しても構わない。通信回線網14に接続されたプロトコル変換装置23は、通信回線網14から通信回線を接続され、列車制御情報等の列車情報29aを伝送する。
【0023】
このとき、プロトコル変換装置23は、回線割り当て装置11を備えており、個々の列車から伝送される電話番号などの通信識別情報を意識せずに、自装置で構成している通信回線のみを意識し、通信が継続されている間は、個々の列車毎に通信回線を固定化して割り付けを行う。このことにより、プロトコル変換装置23から通信制御装置22へ通信識別情報を伝送する必要がなくなり、伝送量の抑制が可能となる。
【0024】
プロトコル変換装置23は、車上からの列車情報29aを通信回線網固有のプロトコルから列車制御システムに合わせたプロトコルの変換を行う。プロトコル変換を行った列車情報29aは、プロトコル変換装置23に接続された通信制御装置22へ送信され、セキュリティ処理(復号化)を行う。セキュリティ処理(暗号化・復号化)で使用する伝送鍵情報は、予め地上システムおよび車上制御装置27に保有されており、本伝送鍵情報にて暗号化・復号化を実施する。
【0025】
地上システムでは、伝送鍵をセキュリティ処理を実施する通信制御装置22内に保有している。伝送鍵はハードディスクやコンパクトフラッシュ、SDカードなどの外部記憶媒体である伝送鍵保有装置28に保有しても良いし、通信制御装置22内のセキュリティ処理プログラムの定数として保有しても構わない。
【0026】
伝送鍵情報を外部記録媒体の手段で保有することにより、鍵情報の変更時に定数テーブル変更に伴うプログラム変更やローディングなどの手間が省略できるため、尚良い。セキュリティ処理で暗号化・復号化することで、列車情報(空間伝送波)25aおよび列車制御情報(空間伝送波)25bのようなオープンな空間伝送通信網における、改ざんや成りすまし等を防止し、且つ、伝送中のビット化けなど通信障害を検知し、地上システムと車上システム間の情報の安全性を確保できるようになる。
【0027】
セキュリティ処理を実施した列車情報29aは、論理制御装置21へ伝送され、列車位置情報および連動装置などの情報から、車上制御装置27にて列車制御を行うための列車制御情報29bを作成する。
【0028】
一方、地上システムである論理制御装置21で作成された列車制御情報29bは、通信制御装置22へ送信され、伝送鍵保有装置28もしくはプログラム定数として事前に保有している伝送鍵情報を使用したセキュリティ処理(暗号化)を行い、プロトコル変換装置23へ送信される。
【0029】
プロトコル変換装置23では、受信した列車制御情報29bを通信回線網固有のプロトコルに合わせたプロトコル変換を行い、通信回線網14へ送信する。この論理制御装置21からプロトコル変換装置23への伝送では、通信識別情報が無く、先に割り当てられた固定回線のみを意識し伝送されるため、伝送量を抑制することができる。
【0030】
また、プロトコル変換装置23で制御する通信回線は、各列車との通信開始時点から固定化されているため、列車制御情報29bに含まれた列車IDなどの列車識別情報と電話番号等の通信識別情報を対応させる必要がなく、列車固有情報および通信識別情報を保有する必要がなく、列車制御情報29bに含まれる列車IDなどの列車識別情報とプロトコル変換装置23で構成している通信回線名やポート番号などの対応付けだけでよい。
【0031】
列車制御情報29bは、通信回線網14を介して、列車制御情報(空間伝送波)25bとして、列車26の車上制御装置27へ伝送され、車上制御装置27にて事前に保有している伝送鍵情報を使用し、セキュリティ処理(復号化)を実施し、通信路における伝送情報の安全性を確認した後に、受信した列車制御情報29bに従った列車制御を行う。
【0032】
以上の結果から、図2のように、地上列車制御システム10を各装置(論理制御装置21,通信制御装置22,プロトコル変換装置23)に分散させることによって、処理負荷を低減し、処理時間を短縮させるとともに、各装置間の伝送に通信識別情報を伝送する必要がなく、伝送量を抑制することで、応答性を向上することが可能となる。
【0033】
図2の実施例では、論理制御装置21,通信制御装置22,プロトコル変換装置23と機能単位で3装置に分散させた構成であるが、論理制御機能と通信制御機能が両立できる場合には、両機能を一つの装置に纏めても良いし、通信制御機能とプロトコル変換機能とを両立できる場合には、両機能を一つの装置に纏めても良い。
【実施例3】
【0034】
図3は、通信回線網14を複数備える場合の実施例である。論理制御装置21と通信制御装置32aおよび通信制御装置32b間に、地上LAN31を備え、地上LAN31に複数の通信制御装置32a,32bを接続することで、論理制御装置21は複数の通信回線網34a,34bと接続できるようになっている。
【0035】
論理制御装置21では、電話番号に類する通信識別情報で列車を識別せず、列車IDなどの列車識別情報のみで処理するため、通信回線網14が通信回線網34aであるか、通信回線網34bであるかを意識することなく通信が可能である。このことにより、通信回線網34aおよび34bの携帯電話などの通信エリアに対応する通信対応範囲が小さい場合でも、複数の通信回線網を設備し接続するだけで良く、複数の論理制御装置21を設備する必要が無いため、費用の増大を防ぐことが出来る。
【実施例4】
【0036】
図4は、通信回線網14の交換機12が複数ある場合の実施例である。交換機12aおよび交換機12bがそれぞれ回線割り当て装置11の回線へ固定的に接続することで、複数の交換機と接続でき、1台の交換機が故障した際にも、正常な他の交換機にて通信ができるため、稼働率の向上を見込むことが出来る。また、複数の回線割り当て装置11を設備する必要が無いため、費用の増大を防ぐことが出来る。
【0037】
実際の通信制御方法は、回線割り当て装置11が、回線1(11−1)から回線N(11−N)の回線割り当てと通信回線13を対応させて、地上列車制御システム10と通信を行う。以上のように通信することで、電話番号に類する通信識別情報を意識することなく、列車制御および通信を行うことが可能である。
【実施例5】
【0038】
ここで、回線割り当て装置11が複数の交換機12a,12bとの接続が出来ない場合には、図5の実施例のように複数台の回線割り当て装置51a,51bを設置し、交換機12a,12bと回線割り当て装置51a,51bは1対1の接続とし、地上列車制御システム10を複数の回線割り当て装置51a,51bと接続することで冗長性を増加することが可能となる。
【0039】
また、図4の実施例および図5の実施例では、図3の実施例のように、複数の地上列車制御システム10を設備しないため、接続する通信回線網を増やした場合の費用の増大を防ぐ効果もある。
【0040】
本発明の各実施例では、回線割り当て装置11と上位装置である地上列車制御システム10との間で電話番号に類する通信用の通信識別情報とインターフェイス(回線)の固定化を行うことで、通信制御の容易化を行っているが、車上制御装置27においても、機能を分散させた各装置間で、地上システムの実施例と同様な構成を適用することにより、同様の効果を得ることが出来る。但し、車上制御装置27では、地上側の列車制御装置と違い、自列車分の通信回線しか保有していないため、自列車分の通信回線での処理の低減効果や通信の簡素化の効果が期待されると思われる。
【符号の説明】
【0041】
10 地上列車制御システム
11 回線割り当て装置
11−1 通信回線1
11−2 通信回線2
11−N 通信回線N
12 交換機
12a 交換機
12b 交換機
13 通信回線
14 通信回線網
14a 通信回線網a
14b 通信回線網b
21 論理制御装置
22 通信制御装置
22a 交換機a
22b 交換機b
23 プロトコル変換装置
25a 列車情報(空間伝送波)
25b 列車制御情報(空間伝送波)
26 列車
27 車上制御装置
28 伝送鍵保有装置
29a 列車情報
29b 列車制御情報
31 地上LAN
32a 通信制御装置a
32b 通信制御装置b
33a プロトコル変換装置a
33b プロトコル変換装置b
34a 通信回線網a
34b 通信回線網b
36a 列車a
36b 列車b
37a 列車制御装置a
37b 列車制御装置b
51a プロトコル変換装置a
51b プロトコル変換装置b

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上列車制御装置から列車に搭載された車上制御装置に対して空間伝送手段により列車速度制御を行う列車制御システムであって、
列車位置情報及び連動情報から停止目標位置を計算する手段を持つ論理制御機能と、前記論理制御機能で算出された列車制御情報を暗号化し、セキュリティを付加する手段を持つ通信制御機能と、前記列車制御情報を前記空間伝送手段に適したプロトコルに変換する手段を持つプロトコル変換機能と、を備え、前記各機能の処理負荷を複数の装置に分散した列車制御システムにおいて、
通信先識別情報を個別の固定通信回線に割り当てることで、前記装置間の伝送において、通信先識別情報を付加することなく、固定情報である通信回線の情報のみで通信先を識別できることを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御システムにおいて、
前記プロトコル変換機能を持つプロトコル変換装置が、空間伝送に必要なプロトコル変換機能を保有し、且つ、通信で使用する電話番号に類する相手先固有の識別情報を保有することができ、前記論理制御機能を有する装置までの伝送において、前記識別情報と前記固定通信回線の割り当て機能を有することを特徴とする列車制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の列車制御システムにおいて、
前記プロトコル変換装置が、複数の通信回線を保有することで、前記通信制御機能を有する装置が同時に複数の列車と、固定情報である通信回線情報のみを保有することで通信できることを特徴とする列車制御システム。
【請求項4】
請求項2に記載の列車制御システムにおいて、
前記プロトコル変換装置を複数有することで、1台のプロトコル変換装置が故障した場合も、他のプロトコル変換装置によって継続して通信できることを特徴とする列車制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載の列車制御システムにおいて、
前記プロトコル変換装置が、プロトコル変換機能と通信制御機能を保有し、且つ、通信で使用する電話番号に類する相手先固有の識別情報を保有することができ、前記論理制御機能を有する装置までの伝送において、前記識別情報と前記固定通信回線の割り当て機能を有することを特徴とする列車制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−268021(P2010−268021A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115191(P2009−115191)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】