説明

制動力制御装置

【課題】マスタシリンダ圧センサを必要としない制動力制御装置を提供する。
【解決手段】制動力制御装置はブレーキペダル31の操作により流体に圧力を発生させるマスタシリンダ33と、流体の圧力により制動力を発生させる制動装置37FL,37FR,37RL,37RRと、マスタシリンダと制動装置とを接続する配管と、配管内における流体の流れを遮断する第1の電磁弁(マスタカット弁41,42)と、制動装置に流れる流体の圧力を保持する第2の電磁弁(保持弁50,51,52,53)と、を備え、第1の電磁弁を制御する第1の差圧指示量と、第2の電磁弁を制御する第2の差圧指示量と、の差を所定値に制御することにより制動力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制動力を制御する制動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、操舵操作に伴い旋回方向に向けたヨーモーメントが発生する。このヨーモーメントが過大であると判断された場合、逆方向のヨーモーメントを車両に作用させてヨーモーメントを軽減させる技術が知られている。例えば、液圧センサを用いて検出したブレーキペダルの操作によって発生したマスタシリンダ圧に基づいて、制動力を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−97195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、制動力を制御するために、マスタシリンダの圧力を検出するセンサが必要である。しかし、マスタシリンダの圧力を検出するセンサは他のセンサと同様に誤検知したり、故障したりする恐れがある。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、マスタシリンダ圧センサを必要としない制動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本発明にかかる制動力制御装置は、ブレーキペダルの操作により流体に圧力を発生させるマスタシリンダと、前記流体の圧力により制動力を発生させる制動装置と、前記マスタシリンダと前記制動装置とを接続する配管と、前記配管内における前記流体の流れを遮断するために操作される第1の電磁弁と、制動装置に流れる前記流体の圧力を保持するために操作される第2の電磁弁と、を備え、前記第1の電磁弁を制御するために与えられる第1の差圧指示量と、前記第2の電磁弁を制御するために与えられる第2の差圧指示量と、の差を所定値に制御することにより制動力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1の電磁弁に流れる流体の圧力と第2の電磁弁から流れる流体の圧力とを調整することにより、制動装置に流れる流体の圧力を制御する。これより、マスタシリンダ圧センサを必要とせずに、制動力の制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかる制動力制御装置が適用される車両の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる制動力制御装置の制御システムの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるマスタシリンダと制動装置とを接続する配管内における流体の流れを遮断するように操作される電磁弁の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるホイールシリンダの液圧を保持するように操作される電磁弁の構成を示す図である。
【図5】制動力制御装置の制御システムを作動させるための制御フローチャートを示す図である。
【図6】制動力制御装置の作動の有無による制御システムの油圧系統内の圧力変化を示す表を示す図である。
【図7】制御システムの油圧系統内の液圧が増圧した場合の油圧系統内の圧力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態にかかる制動力制御装置について図面を参照しながら説明する。
【0010】
制動力制御装置が適用される車両10の一例を図1に示す。車両10は、エンジンやモータ等の動力源20が設けられている。車両10は、動力源20の動力を駆動輪に駆動力として伝達して走行する。車両10は、走行中に車両10を停止又は減速させる制動システムが備えられている。制動システムは、左前輪(WFL)、右前輪(WFR)、左後輪(WRL)、右後輪(WRR)のそれぞれに対して個別の大きさで目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を発生させることができるように構成されている。ここで、ブレーキ液圧の力を利用して各要素間に摩擦力を発生させ、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに目標車輪制動トルク(目標車輪制動力)を働かせるものについて説明する。これより、制動力制御装置は制御対象輪のブレーキ液圧を制御することで、ABS制御、トラクション制御及びビークルスタビリティ制御(例えばVSC制御)等をすることができ、更にブレーキアシスト制御することもできる。
【0011】
本発明の制動システムは、図1及び図2に示すように、運転者が操作するブレーキペダル31と、このブレーキペダル31に入力されたブレーキ操作に伴う操作圧力(ペダル踏力)を所定の倍力比で倍化させる制動倍力装置(ブレーキブースタ)32と、この制動倍力装置32により倍化されたペダル踏力をブレーキペダル31の操作量に応じたブレーキ液圧(以下、マスタシリンダ圧という。)へと変換するマスタシリンダ33と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク34と、を備えている。これらブレーキペダル31や制動倍力装置32等は、運転者によるブレーキペダル31の操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる液圧発生装置として機能する。マスタシリンダ33は図示しない2つの油圧室から構成されており、それぞれの油圧室から液圧配管が延びているようになっている。
【0012】
また、この制動システムには、マスタシリンダ圧を各車輪WFL,WFR,WRL,WRRごとに調整可能な液圧調整装置(以下、ブレーキアクチュエータという。)35と、このブレーキアクチュエータ35を通過したブレーキ液圧(マスタシリンダ圧又はマスタシリンダ圧を調圧したブレーキ液圧)が伝えられる各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの液圧配管36FL,36FR,36RL,36RRと、これら各液圧配管36FL,36FR,36RL,36RRのブレーキ液圧がそれぞれ供給されて、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRに車輪制動トルク(車輪制動力)を発生させる制動装置(ディスクロータやキャリパ等で構成されたものやドラムやホイールシリンダ等で構成されたもの)37FL,37FR,37RL,37RRと、が設けられている。
【0013】
本実施形態のブレーキアクチュエータ35は、右前輪WFR及び左後輪WRLに対してブレーキ液圧を伝える第1液圧系統と、左前輪WFL及び右後輪WRRに対してブレーキ液圧を伝える第2液圧系統と、を備えたものとして例示する。つまり、このブレーキアクチュエータ35は、いわゆるX配管のブレーキ液圧回路を有する構造になっている。その第1液圧系統は、マスタシリンダ33の内部の一方の油圧室から第1液圧配管38を介してブレーキ液圧が供給される。一方、第2液圧系統は、マスタシリンダ33の内部の他方の油圧室から第2液圧配管39を介してブレーキ液圧が供給される。
【0014】
ブレーキアクチュエータ35は、第1液圧系統及び第2液圧系統における、それぞれのブレーキ液の流量調節装置としてのマスタカット弁41,42を備えている。マスタカット弁41は第1液圧配管38が接続され、マスタカット弁42は第2液圧配管39が接続される。各マスタカット弁41,42は、通常は開弁状態にあっていわゆる常開式の流量調整用電磁弁であって、電子制御装置1の指令による通電に伴って弁開度の制御を実行する。従って、マスタカット弁41,42は、コイル102への通電量に応じて弁開度を制御することで、マスタシリンダ33から制動装置37FL,37FR,37RL,37RRに導入されるブレーキ液の流れを遮断するようになっている。また、マスタカット弁41,42は加圧ポンプ69,70から吐出されたブレーキ液圧を調節してマスタシリンダ33側へ開放することができるようにもなっている。
【0015】
ブレーキアクチュエータ35において、第1液圧配管38はマスタカット弁41を介して連結通路43に接続されるとともに、第2液圧配管39がマスタカット弁42を介して連結通路44に接続される。第1液圧系統の連結通路43は分岐することにより2本の分岐通路45,46に接続し、第2液圧系統の連結通路44は分岐することにより2本の分岐通路47,48に接続する。第1液圧系統において、各分岐通路45,46はそれぞれ右前輪WFRの液圧配管36FRと左後輪WRLの液圧配管36RLに接続する。一方、第2液圧系統において、各分岐通路47,48はそれぞれ右後輪WRRの液圧配管36RRと左後輪WFLの液圧配管36FLに接続する。
【0016】
各分岐通路45,46,47,48上に、それぞれ制動装置37FR,37RL,37RR,37FLごとのブレーキ液圧を調整可能な液圧調圧部が各車輪WFR,WRL,WRR,WWLごとに配置された保持弁50,51,52,53と、液圧排出通路54,55,56,57と減圧弁58,59,60,61と、から構成される。ここで、各分岐通路45,46,47,48上に保持弁50,51,52,53がそれぞれ配置されており、更に、各保持弁50,51,52,53よりも下流側に液圧排出通路54,55,56,57はそれぞれ分岐通路45,46,47,48から分岐するように接続されている。各液圧排出通路54,55,56,57上に、それぞれ減圧弁58,59,60,61が配置されている。なお、前述した下流とは、ブレーキペダル操作時のブレーキ液の流動方向(つまり、制動装置37FR,37RL,37RR,37FLへと向かう方向)における下流側のことである。
【0017】
保持弁50,51,52,53は後述するように常開式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には開弁状態にあり、電子制御装置1の指令による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。保持弁50,51,52,53は制動装置37FR,37RL,37RR,37FLに流れるブレーキ液圧を保持するようになっている。一方、減圧弁58,59,60,61は常閉式の電磁弁であって、非励磁状態の通常時には閉弁状態にあり、電子制御装置1の指令による通電に伴って励磁状態となり開弁させられるものである。減圧弁58,59,60,61は制動装置37FR,37RL,37RR,37FLに流れるブレーキ液の液圧を減少するようになっている。
【0018】
ブレーキアクチュエータ35は、第1液圧系統におけるそれぞれの液圧排出通路54,55が合流して1つの液圧排出結合通路62と、第2液圧系統におけるそれぞれの液圧排出通路56,57が合流して1つの液圧排出結合通路63と、が配置されており、それぞれの液圧排出集合通路62,63はそれぞれ補助リザーバ64,65に接続されている。
【0019】
第1液圧系統において、ポンプ通路66は連結通路43と各分岐通路45,46との分岐点から分岐して液圧排出集合通路62に接続されるように配置される。同様に、ポンプ通路67は連結通路44と各分岐通路47,48との分岐点から分岐して液圧排出集合通路63に接続されるように配置される。
【0020】
それぞれのポンプ通路66,67は、電動機(例として1つの電動機68)によって駆動される加圧ポンプ(加圧部)69,70をそれぞれ配置する。各加圧ポンプ69,70は、それぞれマスタカット弁41,42側の各分岐点に向けてブレーキ液を吐出させるものであり、それぞれに分岐通路45,46と分岐通路47,48に対して加圧されたブレーキ液圧を供給する。つまり、第1液圧系統の加圧ポンプ69は、右前輪WFRと左後輪WRLに発生させる制動力を増大させるべく、それぞれの制動装置37FL,37RRに供給するブレーキ液圧を増加させる。なお、電動機68は、図示しないバッテリからの電力供給により駆動する。また、その各ポンプ通路66,67は、加圧ポンプ69,70から吐出されたそれぞれのブレーキ液の脈動を回避するダンパ室71,72が配置されている。
【0021】
ブレーキアクチュエータ35は、第1及び第2の液圧配管38,39からそれぞれ分岐して補助リザーバ64,65にそれぞれ接続される吸入通路73,74が配置されている。更に、それぞれの吸入通路73,74の補助リザーバ64,65側にリザーバカット逆止弁75,76が配置されている。
【0022】
制動力制御装置は、例えば、旋回中の車両挙動の安定化制御を行う。安定化制御とは、ビークルスタビリティ制御のことである。車両10は、運転者のステアリングホイール81の操舵操作に伴う旋回動作の最中に、車両の挙動がニュートラルステア傾向を示すこともあれば、オーバーステア傾向やアンダーステア傾向を示すことがある。電子制御装置1は、車速、車両前後方向の加速度や左右方向の横加速度、ヨーレート等の車両走行情報に基づいて、車両10の挙動を判断する。なお、車速は、例えば車輪WFL,WFR,WRL,WRRの車輪速度(車輪速センサ91,92,93,94に計測させる。)や図示しない変速機の出力軸の回転速度等から推定してもよい。車両前後方向の加速度は車両前後加速度センサ95に計測させ、車両横加速度は車両横加速度センサ96に計測させる。ヨーレートはヨーレートセンサ97に計測させる。
【0023】
電子制御装置1は、車体の実際の旋回状態が過大なオーバーステア傾向を示すときに、前後いずれか又は双方の旋回外輪に車輪制動力を発生させることにより、オーバーステア傾向を示すヨーモーメント(実旋回挙動量)とは逆向きのヨーモーメント(旋回制御量)を車体に作用させることができる。これより、車体がオーバーステア傾向を示す際、旋回外輪に発生させた車輪制動力によってオーバーステア傾向を抑えることができる。車体10は、適切な大きさの旋回制御量を旋回外輪に発生させることで、過大なオーバーステア傾向となる実旋回状態を目標旋回状態に抑え、目標旋回状態を保ったまま旋回動作を行うことができる。
【0024】
同様に、電子制御装置1は、車体の実際の旋回状態が過大なアンダーステア傾向を示すときに、前後いずれか又は双方の旋回内輪に車輪制動力を発生させることにより、アンダーステア傾向を示すヨーモーメント(実旋回挙動量)とは逆向きのヨーモーメント(旋回制御量)を車体に作用させることができる。これより、車体がアンダーステア傾向を示す際、旋回外輪に発生させた車輪制動力によってアンダーステア傾向を抑えることができる。車体10は、適切な大きさの旋回制御量を旋回外輪に発生させることで、過大なアンダーステア傾向となる実旋回状態を目標旋回状態に抑え、目標旋回状態を保ったまま旋回動作を行うことができる。
【0025】
目標旋回状態は、目標旋回挙動量(目標とする大きさのヨーモーメント)で旋回している状態のことであり、例えばニュートラルステア傾向や弱アンダーステア傾向を示す状態である。電子制御装置1は車体の実旋回状態がいずれの傾向であるのかに関わらず、目標旋回状態の実現のために発生させる逆向きの目標ヨーモーメント(目標旋回制御量)を演算する。逆向きの目標ヨーモーメントは、実旋回状態と目標旋回状態との偏差、換言するならば実旋回挙動量と目標旋回挙動量との差に応じて決定される。
【0026】
ところで、本発明の制動力制御装置はマスタシリンダ圧の計測を行うマスタシリンダ圧センサを備えていない。これより、本発明の制動力制御装置は運転者のブレーキ操作によるマスタシリンダ圧の変化を把握することができない。そこで、本発明の制動力制御装置はマスタカット弁41及び保持弁50を用いることにより、運転者のブレーキ操作によるマスタシリンダ圧の変化を検出する。以下、マスタカット弁42はマスタカット弁41と同様の構成であり、同様の制御がなされるため説明を省略する。同様に、保持弁51,52,53は保持弁50と同様の構成であり、同様の制御がなされるため説明を省略する。
【0027】
本発明の実施形態にかかるマスタカット弁41は図3に示すような構成になっている。マスタカット弁41は、図3に示すように、磁性体(プランジャ)101と、コイル102と、スプリング103と、を備える。マスタカット弁41は、リニア電磁弁でありコイル102に供給する電流によりブレーキ液圧を線形的に制御するようになっている。
【0028】
磁性体101は、第1液圧配管38と連結通路43との液圧差に応じた差圧作用力が開弁する方向に作用されるようになっている。コイル102は、電流が供給されることにより電磁駆動力が発生し、磁性体101を閉弁する方向に作用する。電磁駆動力はコイル102に供給する電流を制御することにより制御することができる。スプリング103は、磁性体101を所定の領域において移動可能な状態に保持しておくようになっている。
【0029】
マスタカット弁41は、加圧ポンプ69により汲み上げられたブレーキ液が連結通路43から第1液圧配管38を通過する際、コイル102に電圧をかけることによって磁性体101の位置を動かし流路を調節する。これより、マスタカット弁41はブレーキ液の通過する流路の大きさに伴って前後の差圧(例えば、第1液圧配管38と連結通路43との差圧)を発生させる。すなわち、マスタカット弁41において、磁性体101をブレーキ液が通過する際にオリフィス効果によって差圧を発生させる。
【0030】
本発明の実施形態にかかる保持弁50は図4に示すような構成になっている。
【0031】
保持弁50は、図4に示すように、磁性体(プランジャ)111と、コイル112と、スプリング113と、を備える。保持弁50は、開弁及び閉弁することにより制御する電磁弁であり、マスタカット弁41とは異なる制御を行う電磁弁である。保持弁50を構成する磁性体111、コイル112及びスプリング113はマスタカット弁41を構成する磁性体101、コイル102及びスプリング103と同様の構成となっている。
【0032】
保持弁50は、第1液圧系統の連結通路43から分岐した分岐通路45内を流れるブレーキ液の液圧と車輪WFRの液圧配管36FR内を流れるブレーキ液の液圧との圧力差による差圧力が磁性体111を開弁する方向に作用する。また、保持弁50は、コイル112に電圧をかけることによって電磁駆動力が発生し、磁性体111を閉弁する方向に作用する。すなわち、保持弁50は、保持弁50前後のブレーキ液の圧力差と電磁駆動力との釣り合いにより差圧を発生させる。
【0033】
制動システムは、制御対象輪の制動力を増加させる増圧モード、制御対象輪の制動力を保持する保持モード、制御対象輪の制動力を減少させる減圧モードがある。制御対象輪を増圧モード、保持モード又は減圧モードに制御する際、電子制御装置1は、制御対象輪を含む液圧系統のマスタカット弁41,42を閉弁させる。
【0034】
制御対象輪が第1液圧系統に含まれているときに、マスタカット弁41は閉弁され、第1液圧配管38と保持弁50,51の上流の連結通路43とを遮断する。例えば、右前輪WFRが制御対象輪の場合、電子制御装置1は増圧モードへと制御する際、保持弁50が開弁状態で、かつ、減圧弁58が閉弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制動装置37FRへのブレーキ液圧を増加させる。電子制御装置1は保持モードへと制御する際、保持弁50と減圧弁58が閉弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制御装置37FRへのブレーキ液圧を保持させる。電子制御装置1は、減圧モードへと制御する際、保持弁50が閉弁状態で、かつ、減圧弁58が開弁状態となるように制御することで、右前輪WFRの制御装置37FRへのブレーキ液圧を減少させる。
【0035】
同様に、制御対象輪が第2液圧系統に含まれているときに、マスタカット弁42は閉弁され、第2液圧配管39と保持弁52,53の上流の連結通路44とを遮断する。例えば、左前輪WFLが制御対象輪の場合、電子制御装置1は増圧モードへと制御する際、保持弁53が開弁状態で、かつ、減圧弁61が閉弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制動装置37FLへのブレーキ液圧を増加させる。電子制御装置1は保持モードへと制御する際、保持弁53と減圧弁61が閉弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制御装置37FLへのブレーキ液圧を保持させる。電子制御装置1は、減圧モードへと制御する際、保持弁53が閉弁状態で、かつ、減圧弁58が開弁状態となるように制御することで、左前輪WFLの制御装置37FLへのブレーキ液圧を減少させる。
【0036】
制動力制御装置の制御システムを作動について、図5に示すように、制御フローチャートを用いて説明する。
【0037】
制動力制御装置は、運転中において車両挙動の安定化制御を行うか否かを常に判断している。これより、本発明における制動力を制御する(すなわち、ブレーキペダル31の操作を検知することにより非制御対象輪の制動力を制御する)制御プログラムは所定時間ごとに開始されている。電子制御装置1は、ステップ510において、車両挙動安定化制御中か否かを検出する。車両挙動安定化制御中でない場合、電子制御装置1は制御プログラムを終了する。一方、車両挙動安定化制御中である場合、電子制御装置1はステップ520に進む。
【0038】
電子制御装置1は、ステップ520において、非制御対象輪を選択する。非制御対象輪は、車両挙動の安定化制御を行う際に、車両10の車速を精度良く検知する及び制御対象輪に対して制動力の制御をするために、制動力の制御を行わない車輪である。非制御対象輪は、走行道路の形状及び運転者の操舵角等による車両の挙動に応じて変更される。以下、車両10は左旋回している最中にオーバーステア傾向となっており、制動力制御装置がオーバーステア傾向を抑えるために右回りのモーメントを発生させることを想定する。なお、説明の簡略化のため、制御対象輪はWRL、WRR、WFLとし、非制御対象輪はWFRとしているが、一般的には制御対象輪はWFR、WRR、WFLとし、非制御対象輪はWRLとなっている。
【0039】
電子制御装置1は、ステップ520からステップ530に進み、電子制御装置1は非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値0に設定する。
【0040】
ステップ530において、電子制御装置1が非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値0に設定することについて、図6に示すように、制動力制御装置の作動の有無による制御システムの油圧系統内の圧力変化を示すTbl1を用いて説明する。Tbl1は縦方向がVSC制御(車両挙動制御)の有無及びブレーキペダル31の操作の有無を示しており、横方向は第1液圧系統の各構成における圧力(マスタシリンダ33にかかるブレーキ液圧、第1液圧配管内のブレーキ液圧、マスタカット弁41の差圧指示値から換算した圧力、連結通路43及び分岐通路45内のブレーキ液圧、保持弁50の差圧指示値から換算した圧力及び液圧配管36FR内のブレーキ液圧。)を示している。
【0041】
例として、VSC制御をしていない場合、電子制御装置1はマスタカット弁41、連結通路43及び保持弁50にかける圧力をそれぞれ10MPaになるように制御する。マスタシリンダ33の圧力、第1液圧配管38及び液圧配管36FRの圧力は0MPaとする。ブレーキペダル31の操作がなされると、マスタシリンダ33に1MPaの圧力がかかるとする。マスタシリンダ33にかかる圧力である1MPaは、連結通路43(分岐通路45)に伝達され、液圧配管36FRに1MPaの圧力が伝達される。すなわち、制動装置37FRに1MPaの圧力がかかることにより、車輪WFRに制動力がかけられる。VSC制御がなされていない場合、他の車輪WFL,WRL,WRRにおいても同様に1MPaの圧力がかけられる。これより、ブレーキペダル31の操作により発生するブレーキ液の液圧を制動装置37FL,37FR,37RL,37RRに伝達し、制動力を制御することができる。
【0042】
一方、VSC制御中において、加圧ポンプ69が作動することにより、1MPaの圧力が連結通路43(分岐通路45)にかけられる。これより、連結通路43(分岐通路45)にかけられる圧力は11MPaになる。VSC制御中では、非制御対象輪WFRに加圧ポンプ69の作動による圧力をかけないようにする。すなわち、連結通路43(分岐通路45)の圧力を液圧配管36FR(制御装置37FR)に伝達させないように、保持弁50の圧力を11MPaとする。これより、液圧配管36FR(制御装置37FR)にかかる圧力は0MPaである。ブレーキペダル31の操作により発生するブレーキ液圧を伝達するために、マスタカット弁41にかける圧力は保持弁50にかける圧力と同等の11MPaとする。
【0043】
VSC制御中にブレーキペダル31の操作がなされると、マスタシリンダ33に1MPaがかかるとする。VSC制御中でない場合と同様に、ブレーキペダル31の操作により発生した圧力は、第1液圧配管38と連結通路43(分岐通路45)とを伝達して液圧配管36FR(制御装置37FR)にかかることにより制動力を制御することができる。
【0044】
上述するように、電子制御装置1が非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値0に設定することにより、ブレーキペダル31の操作により発生したブレーキ液圧を制御装置37FRにかけることができる。
【0045】
電子制御装置1はステップ530からステップ540に進み、マスタカット弁41を通過する流量を検出する。マスタカット弁41を通過する流量は加圧ポンプ69の通過流量等から算出される。加圧ポンプ69の通過流量は、加圧ポンプ69の消費電力、回転数及び負荷状態等から算出される。
【0046】
電子制御装置1はマスタカット弁41を通過する流量を検出すると、ステップ550に進み、流量が規定値Aより大きいか否かを検知する。マスタカット弁41を通過する流量が規定値A以上の場合、ステップ560に進み、電子制御装置1は非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値より小さくするように設定し、制御プログラムを終了する。電子制御装置1は所定時間ごとに制御プログラムを繰り返し実行する。
【0047】
一方、マスタカット弁41を通過する流量が規定値A以上でない場合、電子制御装置1はステップ550からステップ570に進む。マスタカット弁41を通過する流量が規定値B以下の場合、ステップ570からステップ580に進み、電子制御装置1は非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪の保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値より大きくするように設定し、制御プログラムを終了する。電子制御装置1は所定時間ごとに制御プログラムを繰り返し実行する。
【0048】
電子制御装置1が非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を制御する方法(ステップ550からステップ580の処理)について、図7に示すように、制動力制御装置の作動中に制御システムの油圧系統内の液圧が増圧した場合の油圧系統内の圧力変化を示すTbl2を用いて説明する。
【0049】
Tbl2は縦方向がVSC制御(車両挙動制御)の有無及び油圧系党内の液圧変動に対する制御前から制御後を示しており、横方向はTbl1と同様に第1液圧系統の各構成における圧力を示している。
【0050】
例として、VSC制御中の場合、電子制御装置1はマスタカット弁41、連結通路43及び保持弁50にかける圧力をそれぞれ11MPaになるように制御する。マスタシリンダ33の圧力、第1液圧配管38及び液圧配管36FRの圧力は0MPaとする。VSC制御中、加圧ポンプ69によって汲み上げられる流量が変化した場合及び非制御対象輪WFRと同一の油圧系統内に装着されたもう一方の制御対象輪WRLの制御状態が変化した場合等、マスタカット弁41を通過する流量は変動する。マスタカット弁41に対して一定の差圧指示値にしていた場合においても、流量変化に伴うオリフィス効果の変化によって、マスタカット弁41に発生する差圧は変動する。
【0051】
このように、図7に示すように、VSC制御中であって液圧変動がある場合、例えば連結通路43(分岐通路45)に1MPaの増圧がなされた場合、制御前の連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力は12MPaとなる。電子制御装置1は連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力の変動により、マスタカット弁41を通過する流量が規定値A(ここで規定値Aは連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力の変動分1Mpaによる流量変化より小さいとする。)以上であると検出し、1MPaの増圧分が液圧配管36FR(制動装置37FR)に伝達されないように、電子制御装置1はマスタカット弁41の圧力を10MPaに下げる。
【0052】
これより、連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力を減圧することができ、連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力は10MPaとなる。その後、電子制御装置1は、マスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪WFRの保持弁50の差圧指示値と、の差を所定値0にするように、マスタカット弁41の圧力を11MPaとし、連結通路43(分岐通路45)にかかる圧力も11MPaとなる。
【0053】
図7を用いることにより、制御システムの油圧系統内の液圧が増圧する場合の制御について説明したが、減圧する場合についても同様な制御を行うことにより、マスタカット弁41の差圧指示値と、保持弁50の差圧指示値と、の差を大きくするように制御する。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0055】
例えば、上記実施例において、制御システムの油圧系統内の液圧が変動する場合、マスタカット弁41の圧力を変更するようにしたが、保持弁50の圧力を変更することにより、非制御対象輪WFRのマスタカット弁41の差圧指示値と、非制御対象輪の保持弁の差圧指示値と、の差を所定値より大きく又は小さくするように制御してもよい。
【0056】
更に、上記実施形態によれば、マスタカット弁41を通過する流量は加圧ポンプ69の通過流量から算出するようにしたが、同一の液圧系統(第1液圧系統)の制御対象輪WRLへのブレーキ液の流入量から算出するようにしてもよい。同一の液圧系統(第1液圧系統)の制御対象輪WRLへのブレーキ液の流入量は保持弁51の差圧指示量等から算出される。
【符号の説明】
【0057】
1…電子制御装置、10…車両、WFL(WFR,WRL,WRR)…車輪、31…ブレーキペダル、33…マスタシリンダ、36FL(36FR,36RL,36RR)…液圧配管、37FL(37FR,37RL,37RR)…制動装置、41(42)…マスタカット弁、43(44)…連結通路、45(46)…分岐通路、50(51,52,53)…保持弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により流体に圧力を発生させるマスタシリンダと、
前記流体の圧力により制動力を発生させる制動装置と、
前記マスタシリンダと前記制動装置とを接続する配管と、
前記配管内における前記流体の流れを遮断するために操作される第1の電磁弁と、
前記制動装置に流れる前記流体の圧力を保持するために操作される第2の電磁弁と、を備え、
前記第1の電磁弁を制御するために与えられる第1の差圧指示量と、前記第2の電磁弁を制御するために与えられる第2の差圧指示量と、の差を所定値に制御することにより制動力を制御する制動力制御装置。
【請求項2】
前記第1の差圧指示量及び前記第2の差圧指示量は前記ブレーキペダルの操作により変化させる請求項1に記載の制動力制御装置。
【請求項3】
前記第1の電磁弁を通過するブレーキ液の流量が大きくなった場合、前記第1の差圧指示量の所定値と第2の差圧指示量の所定値との差を小さくする請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項4】
前記第1の電磁弁を通過するブレーキ液の流量が小さくなった場合、前記第1の差圧指示量の所定値と第2の差圧指示量の所定値との差を大きくする請求項2に記載の制動力制御装置。
【請求項5】
前記制動力制御装置は、車両挙動の安定化制御をする車両挙動安定化制御装置である請求項1乃至請求項4に記載の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192880(P2012−192880A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59631(P2011−59631)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】