説明

制御装置、及びレーダ装置

【課題】 電界効果型トランジスタにより増幅される増幅信号の温度上昇に伴い低下する増幅信号のレベルを安定させる。
【解決手段】増幅器の制御装置は、第1の温度上昇幅ごとに前記信号のレベルを基準レベルに増幅するための制御電圧指令値を記憶する記憶部と、前記制御電圧指令値に対応した制御電圧を前記増幅器に出力する制御電圧生成部とを有する。そして、第1の温度領域では前記第1の温度上昇幅ごとに前記制御電圧指令値に対応する制御電圧を前記制御電圧生成部に供給し、温度上昇に伴う増幅信号のレベル低下幅が前記第1の温度領域より大きい第2の温度領域では前記制御電圧指令値に基づき前記第1の温度上昇幅より小さい第2の温度上昇幅ごとの制御電圧指令値を導出して前記制御電圧生成部に供給する制御手段を有する。よって、増幅信号のレベル低下を補償するときに増幅信号のレベルを安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御信号に応じた増幅信号を出力するトランジスタを有する増幅器の制御装置に関し、特に、温度上昇に伴い低下する増幅信号のレベルを補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のミリ波レーダ装置は、発振器が発振したミリ波長の高周波の送信信号(電波)を増幅してアンテナに供給したり、アンテナが受信した受信信号を増幅したりする増幅器を備える。かかる高周波信号の増幅器には、化合物半導体材料を用いて電子移動度を高めたHEMT(High-Electron-Mobility Transistor)などのFET(電界効果型トランジスタ)が一般的に用いられる。このような増幅器は、複数のFETのゲートとドレインを直列接続する構成を有し、各FETに印加されるゲート−ソース間電圧に応じた増幅率で信号を多段式に増幅する。特許文献1には、車載用レーダ装置に用いられるかかる増幅器の例が記載されている。
【0003】
FETを多段式に用いた増幅器は、温度上昇に応じてゲートの漏れ電流が増大するといった温度特性に応じて、温度が上昇すると出力信号のレベルが低下する。よって、従来より、温度変化に応じてゲート−ソース間電圧を変化させ、出力信号のレベル低下を補償する技術が提案されている。その1つとして、増幅器を構成するFETの温度特性(以下、単に増幅器の温度特性という)に応じて一定の温度上昇幅ごとに所定レベルの増幅信号を得るためのゲート電圧(この場合ソースは接地される)をEEPROMなどの記憶装置に予め記憶しておき、マイクロコンピュータなどの制御装置が温度上昇幅ごとにゲート電圧を読み出して増幅器に印加することで増幅信号のレベルを増大させ、レベル低下を補償する方法があげられる。
【特許文献1】特開2005−227031号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車載レーダ装置は、エンジンルーム近傍など高温にさらされる環境に搭載されて使用される。また、アンテナを回動させるためにモータなどの駆動機構を有する場合に、駆動機構の動作によりレーダ装置の内部温度が上昇する。そして、特にエンジン出力が急激に大きくなるときやアンテナの駆動開始直後などには、レーダ装置の内部温度が急激に上昇し、増幅器の温度が急激に上昇することがある。
【0005】
ここで、図1に増幅器の温度特性の一例を示す。図1の縦軸は増幅率、横軸は温度を示す。この増幅器の温度特性(■で図示)によれば、同じ温度上昇幅ΔDでも高温領域の方が増幅率低下ΔGが大きく、したがって増幅信号のレベル低下が大きくなる。ここで、入力信号のレベルを一定としたときに所望のレベルの増幅信号が得られるような増幅率をRとする。すると、低温領域から高温領域にかけて温度上昇する場合に、温度上昇幅ΔDごとにゲート電圧を上昇させて増幅率をR付近まで上昇させ、増幅信号のレベル低下を補償しようとすると、高温領域では増幅率の低下(▲で図示)が大きく従って増幅信号のレベル低下幅が大きい分、低温領域において補償される増幅信号の変動幅ΔL1より高温領域において補償される増幅信号の変動幅ΔL2の方が大きくなる。
【0006】
よって、低温領域から高温領域にかけて急激な温度上昇が生じると、短時間に増幅信号が大きく変動するので、増幅信号のレベルが不安定となる。すると、例えば連続する検出サイクルにおいて受信信号のレベルの近似性に基づいて同一目標物体を判断するような場合に、誤判断のおそれがある。すると、レーダ装置による目標物体の認識が遅れることにより、検出結果に基づく車両制御のタイミングが遅れるといった問題が生じる。
【0007】
そこで、上記問題に鑑みてなされた本発明の目的は、温度上昇の際に増幅信号のレベルを安定させることができるような増幅器の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、制御信号に応じた増幅信号を出力するトランジスタを有する増幅器の制御装置であって、第1の温度上昇幅ごとに前記増幅信号のレベルを基準レベルに増幅するための制御信号指令値を記憶する記憶部と、前記制御信号指令値に対応した制御信号を前記増幅器に出力する制御信号生成部と、第1の温度領域では前記第1の温度上昇幅ごとに前記制御信号指令値を前記制御信号生成部に供給し、前記増幅信号の温度上昇に伴うレベルの低下幅が前記第1の温度領域より大きい第2の温度領域では前記制御信号指令値に基づき前記第1の温度上昇幅より小さい第2の温度上昇幅ごとの制御信号指令値を導出して前記制御信号生成部に供給する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記側面によれば、第1の温度領域では前記第1の温度上昇幅ごとに前記制御信号指令値を前記制御信号生成部に供給し、前記増幅信号の温度上昇に伴うレベルの低下幅が前記第1の温度領域より大きい第2の温度領域では前記制御信号指令値に基づき前記第1の温度上昇幅より小さい第2の温度上昇幅ごとの制御信号指令値を導出して前記制御信号生成部に供給するので、増幅信号のレベル低下を補償するときに増幅信号のレベルの変動幅を小さくできる。そして、第2の温度上昇幅ごとの制御信号を記憶する場合よりも記憶部の記憶領域を節約できるので、小容量の記憶装置を記憶部として用いることでコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0011】
図2は、本実施形態における車載用レーダ装置の使用状況を説明する図である。ミリ波長の電波をレーダ信号として用いるレーダ装置10は、車両1の前部バンパー部分やフロントグリル内といったエンジンルーム近傍に搭載される。そして、バンパー前面の化粧板やフロントグリル前面を透過して車両1の前方にレーダ信号を送信し、目標物体により反射された反射信号を受信する。そして、送受信信号の周波数差に対応する周波数のビート信号を信号処理装置により処理し、先行車両や歩行者といった目標物体の相対速度、相対距離を検出する。検出されたこれらの目標物体情報は、車両1の挙動を制御する車両制御装置100に出力される。
【0012】
車両制御装置100は、目標物体情報に基づいて、種々の車両制御を行う。たとえば、車両1を加減速し、先行車両に一定の車間距離で追従する追従走行制御を行う。あるいは、他車両や歩行者との距離が一定以上接近し衝突の蓋然性が一定以上大きくなると、運転者への警報を表示出力または音声出力したり、車両1を加減速したりして衝突を回避する衝突回避制御を行う。また、衝突の蓋然性がさらに大きくなると、エアバッグなどの安全装置を作動させ乗員を保護する衝突対応制御を行う。
【0013】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。このレーダ装置10は、一例としてFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式のレーダ装置であり、周波数変調したミリ波長のレーダ信号(電波)を送受信し送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成するレーダ送受信機10aと、レーダ送受信機10aを制御するとともにビート信号を処理して目標物体を検出する信号処理装置40とを有する。
【0014】
レーダ送受信機10aには、三角波状のベースバンド信号を生成するベースバンド信号生成部2と、ベースバンド信号に従って周波数変調されたミリ波長(例えば10GHz前後)の送信信号を生成する発振器(VCO)4と、送信信号の周波数を電波法により車載用レーダが使用することが可能な76〜77GHz帯まで逓倍する逓倍器6とを有する。そして、レーダ送受信機10aは、逓倍された送信信号を増幅して送信用アンテナ8Tに出力する増幅器7と、受信用アンテナ8Rによる受信信号を増幅する増幅器9とを有する。増幅器7、9は、後述するように多段式に直列接続されたFETを能動素子として構成される。そして、各FETに印加されるゲート電圧(以下、制御電圧)により増幅率が制御され、これにより増幅信号のレベルが制御されるような回路構成を有する。レーダ送受信機10aはさらに、増幅された受信信号と送信信号を混合してビート信号を生成するミキサ30と、ビート信号から高周波ノイズを除去する帯域通過フィルタ32と、ビート信号をサンプリングしてデジタルデータを生成するA/D変換器34とを有する。このようなレーダ送受信機10aは一例として、各構成が一体形成されたMMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit)として構成される。
【0015】
信号処理装置40は、レーダ送受信機10aの動作を制御するとともに、温度センサ42が検知するレーダ装置10の内部温度に基づいて増幅器7、9の各FETに印加するゲート電圧を変化させる。そして、温度上昇に伴う増幅信号のレベル低下を補償するための制御電圧指令値を導出する制御手段40aと、制御電圧指令値に基づいて制御電圧を生成して増幅器7、9に出力する制御電圧生成部40bと、デジタルデータ化されたビート信号を処理して目標物体の相対速度、相対距離などを検出する目標物体検出手段40cとを有する。ここにおいて、増幅器7、9に印加される制御電圧が「制御信号」、制御手段40aが導出する制御電圧指令値が「制御信号指令値」、制御電圧生成部40bが「制御信号生成部」に対応する。
【0016】
制御手段40a、目標物体検出手段40cは予め設定されたプログラムにより動作するCPUを中心として構成される。また、制御電圧生成部40bは、後に詳述するように電圧レギュレータ、D/A変換器などを中心として構成される。本実施形態では、このように構成される信号処理装置40が「制御装置」に対応する。
【0017】
なお、レーダ装置10は、送信用アンテナ8Tと受信用アンテナ8Rとを機械的に回動可能なモータ機構を設けることで探索領域をレーダ信号で操作する機械走査方式のレーダ装置としてもよい。あるいは、複数の受信アンテナにおける受信信号の位相を制御して電子的にレーダ信号を走査する電子走査方式のレーダ装置としてもよい。
【0018】
図4は、本実施形態における増幅器の構成を説明する図である。ここでは、受信信号用の増幅器9を例とするが、送信信号用の増幅器7も同様の構成を有し、以下の説明は送信信号用の増幅器7にも適用される。
【0019】
増幅器9は、多段式(本図では2段の例を示すが、3段以上であってもよい)に直列接続されたPNP接合型のFET91、92を有する。FET91、92のソースは接地され、またゲートも抵抗93、95とキャパシタ94、96を介して接地されることでインピーダンス整合がとられる。そして、FET91、92は、ゲート電圧入力端子G1、G2に信号処理装置40から印加されるゲート電圧によりゲートに入力される入力信号を増幅してドレインから増幅信号を出力する。そして、増幅信号は、次のFETのゲートに入力されてさらに増幅される。このような構成により、増幅器9は、入力端子Vinから入力される受信信号を増幅し、増幅信号として出力端子Voutから出力する。
【0020】
このように構成される増幅器9は、例えば図1に示したような温度特性を有する。すなわち、温度上昇に伴い増幅信号のレベルが低下し、温度上昇幅に対するレベルの低下幅は、高温領域ほど大きくなる。かかる温度上昇に伴う増幅信号のレベル低下を補償するために、本実施形態では、信号処理装置40(制御装置)がFET91、92に供給するゲート電圧、つまり制御電圧を上昇させることで増幅器9全体の増幅率を増大させる。これにより増幅信号のレベルが増大され、温度上昇に伴う増幅信号のレベル低下が補償される。
【0021】
図5は、信号処理装置40の制御装置としての詳細な構成を説明する図である。まず、制御電圧生成部40bでは、D/A変換器404は、電圧レギュレータ402から基準電圧(例えば5V)の供給を受けるとともに基準電圧を調整するための調整値を示すデジタルデータが制御手段40aから入力され、調整値に基づいて基準電圧を調整した電圧をゲート電圧生成部406に供給する。このとき、D/A変換器404は、入力されるデジタルデータのビット数をNビットとしたときに、2のN乗で基準電圧を等分した精度で基準電圧を低下させ、調整値が示す電圧を生成する。一方、ゲート電圧生成部406は、負電圧レギュレータ403が生成する負電圧(例えば−2V)が供給される。そして、ゲート電圧生成部406は、D/A変換器404から入力された電圧値と負電圧レギュレータ406から供給された電圧値とを抵抗分圧し、例えば−0.05〜−1Vの範囲で生成されるゲート電圧を制御電圧として増幅器9に供給する。
【0022】
ここで、制御手段40aは、温度センサ42から取得したレーダ装置10の内部温度データから増幅器9の温度を検出し、書き換え可能な不揮発性記憶媒体(例えばEEPROM)で構成される記憶部401から温度上昇幅ごとの制御電圧指令値を読み取る。ここで、制御電圧指令値は一例としてD/A変換器404に供給する調整値である。かかる温度上昇幅ごとの制御電圧指令値は、予め増幅器9の温度特性に応じて計測されて記憶部401に格納される。そして、制御手段40aは、読み取った制御電圧指令値をD/A変換器404に供給する。
【0023】
なお、記憶部401は信号処理装置40の内部に設けられる構成であっても外部に設けられる構成であってもよい。後者の場合、信号処理装置40とその外部の記憶部401とが「制御装置」に対応する。
【0024】
図6は、温度上昇幅ごとの制御電圧を説明する図である。図6(A)には、記憶部401に格納された制御電圧指令値に対応する、温度上昇幅ΔDごとの制御電圧(縦軸)が示される。ここで、図1においても示したように、温度特性における増幅信号の低下幅は低温領域より高温領域の方が大きい。よって、図1で示したように一定の温度上昇幅ΔDごとに制御電圧を増幅器9に与えたときに増幅信号の変動幅が大きくなることを防ぐために、本実施形態では、図6(B)、(C)に示すように、温度上昇幅ΔDより狭い温度上昇幅Δdで制御電圧を算出して増幅器9に印加する。ここでは、図6(B)は、比較的低温領域における温度上昇幅ΔDを2等分した温度上昇幅Δdごとの制御電圧の例を示す。また、図6(C)は、比較的高温領域における温度上昇幅ΔDを3等分した温度上昇幅Δdごとの制御電圧の例を示す。このように、温度上昇に伴う増幅信号のレベル低下幅が大きい温度領域ほど小さい温度上昇幅ごとに制御電圧を上昇させて増幅信号のレベル低下を補償することにより、増幅信号のレベルを安定させることができる。
【0025】
次に、温度上昇幅ΔDより小さい温度上昇幅Δdを決定し、温度上昇幅Δdごとに制御温度を決定する方法を説明する。
【0026】
図7は、温度上昇幅Δdごとの制御電圧を決定する方法を説明する図である。横軸に温度、縦軸に制御電圧指令値(つまりD/A変換器404に供給する調整値)が示される。例えば、温度T1〜T2(℃)の約10℃の温度上昇幅ΔDにおいて、温度T1のときの制御電圧をVa(V)として、温度がT2まで上昇したときに増幅信号のレベル低下を補うために必要な制御電圧をVb(V)とする。ここで、制御電圧Vaを得るための調整値をBa、Vbの制御電圧を得るための調整値をBbとし、これらの差分が仮に3ビットとする。この場合、温度上昇幅ΔDを3等分した温度上昇幅Δdごとに1ビットずつ増加させた調整値(●で図示)を用いて、制御電圧を決定する。
【0027】
このような方補間処理を温度上昇幅ΔDごとに実行し、温度上昇幅ΔDにおける調整値のビット数の差分で温度上昇幅デルタDを等分して温度上昇幅Δdを求める。そして、温度上昇幅Δdごとに導出した調整値により制御電圧を決定する。なお、ここに示す例は一例であって、制御電圧を生成するD/A変換器の調整精度に応じて、温度上昇幅ΔDを等分するビット数は任意に定めることができる。さらに、ビット数の差分が基準値以上のときに、その差分により温度上昇幅ΔDを等分して温度上昇幅Δdを求めるという処理も可能である。なお、このときの基準値としては、温度上昇幅ΔDごとに制御電圧を変化させたときに増幅信号のレベルの変動幅が目標物体の認識処理に影響を与えるような場合のビット数の差分を任意に設定できる。
【0028】
このようにすることで、温度上昇幅に対する増幅信号のレベル低下が小さい温度領域では例えば温度上昇幅ΔDごとに、増幅信号のレベル低下が大きい温度領域では小さい温度上昇幅Δdごとに制御電圧を増加させることができる。そしてさらに増幅信号のレベル低下が大きい温度領域では、さらに小さい温度上昇幅Δdを決定して、Δdごとに制御電圧を増加させることができる。
【0029】
図8は、上記の処理を行った場合の効果を説明する図である。図8は、図1の従来例と同じ温度特性を有する増幅器に対し、低温領域で温度上昇幅ΔDごとに制御電圧を変更した場合の増幅信号のレベル変動幅ΔL1と、高温領域でこれより小さい温度上昇幅Δdごとに制御電圧を変更した場合のレベル変動幅ΔL2を示す。図示するように、レベル変動幅ΔL1とΔL2との差は、図1で示した従来例より小さい。すなわち、増幅器の温度が上昇するときに補償する増幅信号のレベルの変動幅を小さく抑えることができる。よって、増幅される受信信号のレベルを安定させることができ、受信信号のレベルが不安定になることに起因する目標物体の誤認識を防止できる。
【0030】
そして、温度上昇幅ΔDごとの制御電圧値を記憶部に格納し、より小さい温度上昇幅Δdごとの制御電圧値を上記のような補間処理により導出することで、記憶部401の記憶領域を節約できる。よって、安価な小容量の記憶装置により記憶部401を構成でき、低コスト化が可能となる。
【0031】
ところで、レーダ装置10の内部温度は、単調な上昇あるいは下降をする場合だけでなく、小刻みに変動する場合がある。本実施形態では、レーダ装置10の内部温度を増幅器9の温度とみなして制御電圧を変化させる処理を行うが、レーダ装置10の内部温度が小刻みに変動する場合には、レーダ装置10の内部温度に基づいて制御電圧を変更したときに増幅器9の温度が追従するまでの時間差に起因して、増幅器9の温度特性と制御電圧の変化とが整合しないおそれがある。そこで、次に、温度が小刻みに変動する場合に好適な実施例について説明する。
【0032】
図9は、温度が小刻みに変動する場合における制御電圧を補間する実施例について説明する図である。この実施例では、一定時間における温度のばらつきを平滑化し、平滑化された温度の上昇幅ごとに制御電圧の補間処理を実行する。そうすることで、温度変化に過敏に反応して制御電圧を変化させ、増幅器9の実際の温度特性と整合しない制御電圧を印加することを防止できる。
【0033】
図9には、時間経過(横軸)に対する検出温度(縦軸)のばらつきが示される。例えば温度T1〜T2(℃)までの温度上昇幅において制御電圧を決定する際に、T1とT2の中心温度Tcを中心として温度T1〜T2の範囲で検出温度がばらついている場合が示される。このとき、一定時間(例えば数ミリ秒)ごとの温度検出履歴rD(n)(n=1、2、3、・・・)(◆で図示する)に対し、次の式により加重平均処理を施した温度履歴kD(n)(▼で図示する)を導出する。
【0034】
kD(n)=(rD(n)+ 9×kD(n−1))/10
すると、図9に示すように、温度履歴kD(n)は、検出温度の中心付近、つまり温度Tc付近に収束する。よって、逐一、検出温度rD(n)に過敏に反応して制御電圧を変化させる場合より、増幅信号の変動幅を抑えることができる。
【0035】
図10は、本実施形態における制御装置としての信号処理装置40の動作を説明するフローチャート図である。図10に示す手順は、レーダ装置10が所定のスキャンサイクルを実行するごとに起動される。例えば、送信信号の周波数変調を数10ミリ秒ごとに実行する場合に、周波数変調しない休止期間に実行される。
【0036】
信号処理装置40は、レーダ装置10の内部温度を取得する(S2)。そして、検出温度を平滑化する加重平均処理を実行する(S4)。そして温度上昇幅ΔDを確定して(S6)、温度上昇幅ΔDごとの制御電圧指令値を記憶部401から読み出す(S8)。そして、より小さい温度上昇幅Δdごとの補間処理を実行し、制御電圧指令値の補間値を算出する(S10)。そして、補間値に基づく制御電圧を生成して(S12)、制御電圧を増幅器9に供給する(S14)。
【0037】
上述の説明では、FETを用いた増幅器を例として説明したが、温度上昇に応じて増幅信号のレベルが低下するような温度特性を有するバイポーラトランジスタを用いた増幅器にも本実施形態は適用できる。その場合、増幅器7、9に入力されるベース電流、つまり制御電流が「制御信号」に対応し、制御手段40aが導出する制御信号指令値に対応する制御電流を生成可能な電流回路が、制御電圧生成部40bの代わりに「制御信号生成部」として用いられる。
【0038】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、増幅信号の温度補償を実行するときに、増幅信号の変動幅を小さくすることができる。よって、レーダ装置の送受信信号のレベルを安定させることができ、誤検出を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】増幅器の温度特性を説明する図である。
【図2】本実施形態における車載用レーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。
【図4】本実施形態における増幅器の構成を説明する図である。
【図5】信号処理装置40の制御装置としての詳細な構成を説明する図である。
【図6】温度上昇幅ごとの制御電圧を説明する図である。
【図7】温度上昇幅Δdごとの制御電圧を決定する方法を説明する図である。
【図8】本実施形態の効果を説明する図である。
【図9】温度が小刻みに変動する場合における制御電圧を補間する実施例について説明する図である。
【図10】本実施形態における制御装置の動作を説明するフローチャート図である。
【符号の説明】
【0040】
7、9:増幅器、10:レーダ装置、10a:レーダ送受信機、40:信号処理装置、40a:制御手段、40b:制御電圧生成部、401:記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御信号に応じた増幅信号を出力するトランジスタを有する増幅器の制御装置であって、
第1の温度上昇幅ごとに前記増幅信号のレベルを基準レベルに増幅するための制御信号指令値を記憶する記憶部と、
前記制御信号指令値に対応した制御信号を前記増幅器に出力する制御信号生成部と、
第1の温度領域では前記第1の温度上昇幅ごとに前記制御信号指令値を前記制御信号生成部に供給し、前記増幅信号の温度上昇に伴うレベルの低下幅が前記第1の温度領域より大きい第2の温度領域では前記制御信号指令値に基づき前記第1の温度上昇幅より小さい第2の温度上昇幅ごとの制御信号指令値を導出して前記制御信号生成部に供給する制御手段とを有することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、前記温度の時間変化を平滑化したときの前記第1または第2の温度上昇幅ごとの制御信号指令値を前記制御信号生成部に供給することを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記制御信号は電圧信号であることを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の増幅器と制御装置とを有し、
前記増幅器によりミリ波長の送受信信号を増幅するレーダ装置。
【請求項5】
請求項4において、
車両の内燃機関近傍に搭載されることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−114515(P2010−114515A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283493(P2008−283493)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】