説明

制振材

【課題】 本発明は、優れた制振性及び軽量性を備えた制振材、特に、軽量性の要求される用途に好適に用いることができる制振材を提供する。
【解決手段】 本発明の制振材Aは、金属シートBの一面に発泡粘着剤層Cが積層一体化されていることを特徴とするので、制振性、特に低周波領域における制振性に優れていると共に、軽量性に優れており、自動車、鉄道などの車両用途に好適に用いることができ且つ施工性にも優れて、更に、金属シートをその構成に含んでいるので、高温域においても加熱寸法変化率が小さく、耐熱性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制振性及び軽量性を有する制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電化製品ではモーターなどの駆動装置の振動を低減させるために制振材が用いられており、その他に、建築用途では、折板屋根などにおける雨音の低減のために制振材が、自動車用途では、走行中に発生する振動によって屋根や扉などが微振動することに起因する振動音やエンジンなどの駆動系の振動を低減するために制振材が用いられている。
【0003】
このような制振材としては、特許文献1に、ゴム又は熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂及び無機粉体からなる制振性シート基材の一面にポリエチレンテレフタレート樹脂層が積層されてなる折板屋根用制振シートが提案されている。
【0004】
この制振シートは、その内部に無機粉体を含有させることによって振動エネルギーを熱的損失に変換するものであることから、比重が1g/cm以上であり軽量性に欠けるといった問題点があった。
【0005】
又、上述の制振シートの他に、比重の大きな制振シートを、振動する物体(以下「振動体」という)に貼着させることによって振動体の振動を緩和させることも行なわれているが、制振シートの軽量性に欠けるという点では同様であった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−183883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた制振性及び軽量性を備えた制振材、特に、軽量性の要求される自動車や鉄道などの車両用途に好適に用いることができる制振材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制振材は、金属シートの一面に発泡粘着剤層が積層一体化されていることを特徴とする。
【0009】
そして、上記制振材において、金属シートがアルミニウムシートであることを特徴とする。
【0010】
更に、上記制振材において、発泡粘着剤層がアクリル系粘着剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の制振材は、金属シートの一面に発泡粘着剤層が積層一体化されていることを特徴とするので、制振性、特に低周波領域における制振性に優れている。更に、本発明の制振材は軽量であることから、自動車、鉄道などの車両用途に好適に用いることができると共に施工性にも優れている。そして、本発明の制振材は、金属シートをその構成に含んでいるので、高温域においても加熱寸法変化率が小さく、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の制振材Aを図面を参照しつつ説明する。本発明の制振材Aは、図1に示したように、金属シートBの一面に発泡粘着剤層Cが積層一体化されてなる。
【0013】
上記金属シートBを構成する金属としては、化学元素の周期律表における3族から15族(但し、珪素、リン、ヒ素は除く)に属する元素を主成分とし且つ各原子間の結合が金属結合である物質或いは物体をいい、具体的には、例えば、軟質アルミニウム、硬質アルミニウム、金、銀、銅、鉄、ニッケルなどが挙げられ、軟質アルミニウム、硬質アルミニウムが好ましい。
【0014】
更に、金属シートBを構成する金属としては、ある金属に他の金属元素を添加溶解してなる合金も含まれ、このような合金としては、例えば、ジュラルミン、アルミニウム−マンガン、アルミニウム−銅、アルミニウム−銅−ニッケル、アルミニウム−亜鉛−マグネシウムなどが挙げられる。
【0015】
又、金属シートBの厚みは、薄いと、制振材の制振性及び引張強度が低下することがある一方、厚いと、 制振材の曲げ剛性が高くなり過ぎてロール状に巻き取りにくくなり、製造上及び保管上の取扱性が低下することがあるので、0.005〜0.3mmが好ましい。
【0016】
そして、上記金属シートBの一面には発泡粘着剤層Cが積層一体化されている。この発泡粘着剤層Cを構成する粘着剤としては、特に限定されず、例えば、ウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤などが挙げられ、アクリル系粘着剤を含有していることが好ましい。
【0017】
上記粘着剤を用いて発泡粘着剤層を製造する方法としては、汎用されている方法を用いることができ、例えば、粘着剤のエマルジョンに空気を混合させ発泡させて発泡粘着剤エマルジョンを作製し、この発泡粘着剤エマルジョンを任意の面に所定厚みで塗布して乾燥させる方法が挙げられる。
【0018】
更に、発泡粘着剤層C中に架橋剤を含有させて発泡粘着剤層Cを架橋させることによって、発泡粘着剤層Cの粘弾性による制振作用を維持しつつ発泡粘着剤層Cの厚み精度を向上させることができる。このような架橋剤としては、発泡粘着剤層Cを架橋させることができれば、特に限定されず、例えば、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、シラン系架橋剤などが挙げられる。
【0019】
又、発泡粘着剤層C中における架橋剤の含有量としては、多いと、発泡粘着剤層の架橋密度が高くなり過ぎて、発泡粘着剤層の粘弾性による制振作用が却って低下することがあるので、発泡粘着剤層Cを構成する樹脂成分100重量部に対して6重量部以下が好ましく、1〜4重量部がより好ましい。
【0020】
そして、発泡粘着剤層Cの密度は、低いと、発泡粘着剤層の粘弾性による制振作用が低下することがある一方、高いと、制振材の軽量性が低下することがあるので、0.05〜1g/cmが好ましく、0.1〜1g/cmがより好ましく、0.15〜1g/cmが特に好ましい。
【0021】
更に、発泡粘着剤層Cの厚みは、薄いと、制振材の制振性が低下することがある一方、厚いと、制振材の軽量性が低下することがあるので、0.5〜5mmが好ましく、1〜3mmがより好ましい。
【0022】
又、制振材Aの軽量性を向上させるために発泡粘着剤層Cには無機充填剤が含有されていないことが好ましい。このような無機充填剤としては、例えば、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸塩(カオリン、タルクなど)、ケイ酸(珪藻土、軽質無水ケイ酸、ホワイトカーボンなど)、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0023】
次に、上記金属シートBの一面に発泡粘着剤層Cを積層一体化して制振材Aを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、金属シートBの一面に両面粘着テープを介して発泡粘着剤層Cを積層一体化して制振材を製造する方法、金属シートBの一面に粘着剤を介して発泡粘着剤層Cを積層一体化して制振材Aを製造する方法、金属シートBの一面に上記発泡粘着剤エマルジョンを直接塗布した後、発泡粘着剤エマルジョンを乾燥させて、金属シートBの一面に発泡粘着剤層Cを積層一体化して制振材Aを製造する方法などが挙げられる。
【0024】
又、上記制振材Aの厚みは、薄いと、制振材の制振性が低下したり或いは機械的強度が低下することがある一方、厚いと、制振材の軽量性が低下することがあるので、2〜6mmが好ましい。
【0025】
そして、上記制振材Aは、その発泡粘着剤層Cが振動体側となるようにして振動体の表面に固着されて用いられる。上記制振材は、振動体の振動エネルギーを熱エネルギーに変換することによって、振動体の振動を減衰させて振動体の振動を低減させ或いは停止させる。
【0026】
なお、制振材Aを振動体の表面に固着させる方法としては、例えば、両面粘着テープや粘着剤を用いて、制振材Aを振動体の表面に固着させる方法、制振材Aの発泡粘着剤層Cの粘着力で、制振材Aを振動体の表面に固着させる方法などが挙げられる。
【0027】
制振材Aとして、金属シートBの一面に発泡粘着剤層Cが積層一体化されてなる制振材Aを説明したが、複数個の制振材A,A・・・を厚み方向に積層一体化させてもよい。この場合、金属シートBと発泡粘着剤層Cとが互いに交互になるように、複数個の制振材A、A・・・を積層する必要がある。
【実施例1】
【0028】
(実施例1)
水−アクリル系粘着剤エマルジョン(大日本インキ化学社製 商品名「ボンコート350」、アクリル系粘着剤成分(樹脂成分):50重量%)90重量部、水−ウレタン系粘着剤エマルジョン(大日本インキ化学社製 商品名「ハイドランHW−930」、ウレタン系粘着剤成分(樹脂成分):50重量%)10重量部、塩化アンモニウム系気泡剤(大日本インキ化学社製 商品名「F−1」)5重量部、シリコーン系整泡剤(大日本インキ化学社製 商品名「ボンコートNBA−1」)0.5重量部及びカルボキシメチルセルロース水溶液(ダイセル化学工業社製、4重量%)6重量部を均一に混合後に濾過して粘着剤エマルジョンを作製し、この粘着剤エマルジョンに泡立て器を用いて空気を混合して発泡させ、発泡粘着剤エマルジョンを作製した。
【0029】
次に、一面が離型処理面とされたポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、このポリエチレンテレフタレートフィルムの離型処理面に上記発泡粘着剤エマルジョンを均一な厚みとなるように塗布した後、発泡粘着剤エマルジョンの水分を蒸発、除去して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み3mmの発泡粘着剤層(密度:0.21g/cm)を積層してなる発泡粘着シートを作製した。
【0030】
そして、厚みが0.05mmのアルミニウムシート(住軽アルミ箔社製、JIS H4160合金番号1N30 8021)の一面に両面粘着テープ(積水化学工業社製 商品名「セキスイテープNo.5761」)を介して発泡粘着シートをその発泡粘着剤層がアルミニウムシート側となるように重ね合わせ、アルミニウムシートの一面に発泡粘着剤層を積層一体化させて制振材を得た。この制振材の密度は、0.347g/cmであった。なお、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、発泡粘着剤層から剥離、除去した。
【0031】
(実施例2)
アルミニウムシートとして、実施例1で用いたアルミニウムシートよりも強度が大きいアルミニウムシート(住軽アルミ箔社製、JIS H4160合金番号3003)を用いたこと以外は実施例1と同様にして制振材を得た。この制振材の密度は、0.350g/cmであった。
【0032】
(実施例3)
発泡粘着剤層の厚みを3mmの代わりに1.1mmとしたこと以外は実施例1と同様にして制振材を得た。この制振材の密度は、0.207g/cmであった。
【0033】
(実施例4)
エポキシ系架橋剤(大日本インキ化学社製 商品名「CR−5L」)3重量部を更に添加して粘着剤エマルジョンを作製したこと、発泡粘着シートの発泡粘着剤層(密度:0.20g/cm)の厚みが1.9mmとなるように調整したこと以外は実施例1と同様にして制振材を得た。この制振材の密度は、0.278g/cmであった。なお、発泡粘着剤層中にはこの発泡粘着剤層を構成する樹脂成分100重量部に対してエポキシ系架橋剤6重量部が含有されていた。
【0034】
(実施例5)
エポキシ系架橋剤(大日本インキ化学社製 商品名「CR−5L」)1.2重量部を更に添加して粘着剤エマルジョンを作製したこと、発泡粘着シートの発泡粘着剤層(密度:0.19g/cm)の厚みが1.9mmとなるように調整したこと以外は実施例1と同様にして制振材を得た。この制振材の密度は、0.284g/cmであった。なお、発泡粘着剤層中にはこの発泡粘着剤層を構成する樹脂成分100重量部に対してエポキシ系架橋剤2.4重量部が含有されていた。
【0035】
(実施例6)
エポキシ系架橋剤(大日本インキ化学社製 商品名「CR−5L」)0.5重量部を更に添加して粘着剤エマルジョンを作製したこと、発泡粘着シートの発泡粘着剤層(密度:0.19g/cm)の厚みが1.9mmとなるように調整したこと以外は実施例1と同様にして制振材を得た。この制振材の密度は、0.277g/cmであった。なお、発泡粘着剤層中にはこの発泡粘着剤層を構成する樹脂成分100重量部に対してエポキシ系架橋剤1.0重量部が含有されていた。
【0036】
(比較例1)
実施例1で製造した発泡粘着剤層のみを制振材とした。
【0037】
(比較例2)
実施例1で用いたアルミニウムシートのみを制振材とした。
【0038】
(比較例3)
実施例2で用いたアルミニウムシートのみを制振材とした。
【0039】
得られた制振材の損失係数を下記に示した要領で測定し、その結果を表1,2及び図2に示した。
【0040】
(制振性)
JIS G0602に規定する中央支持定常加振法に準拠して270〜5000Hzにおける損失係数を測定した。具体的には、制振材から縦15mm×横250mmの平面長方形状の試験片を切り出し、この試験片をJIS G3141に規定されているSPCC鋼板(平面長方形状(縦15mm、横250mm)、厚さ0.8mm)上に両面粘着テープ(積水化学工業社製 商品名「セキスイテープNo.5761」)を介して貼着して270〜5000Hzにおける損失係数を測定した。なお、試験片を鋼板上に貼着させるにあたっては、試験片の発泡粘着剤層が鋼板側となるようにした。
【0041】
又、実施例1,3〜6において、約3400Hz以上の周波数領域の損失係数が測定されていない。この理由は、約3400Hz以上の周波数領域において、制振材の共振点を見つけることができない程充分に、制振材が制振性を発揮しているからである。制振材は、約3400Hz以上の周波数領域においても、3300Hz付近と同程度の制振性を示す。
【0042】
更に、実施例2においても、約2400Hz以上の周波数領域の損失係数が測定されていない。この理由も、約2400Hz以上の周波数領域において、制振材の共振点を見つけることができない程充分に、制振材が制振性を発揮しているからである。制振材は、約2400Hz以上の周波数領域においても、2300Hz付近と同程度の制振性を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の制振材を示した縦断面図である。
【図2】実施例において測定した損失係数を示したグラフである。
【符号の説明】
【0046】
A 制振材
B 金属シート
C 発泡粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シートの一面に発泡粘着剤層が積層一体化されていることを特徴とする制振材。
【請求項2】
金属シートがアルミニウムシートであることを特徴とする請求項1に記載の制振材。
【請求項3】
発泡粘着剤層がアクリル系粘着剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の制振材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−21813(P2007−21813A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204568(P2005−204568)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】