説明

制振用ダンパー、およびその設置方法

【課題】設置対象物との接続部分に装着された自動調心軸受が錆びてしまう不都合を防止することができる制振用ダンパー、およびその設置方法を提供する。
【解決手段】ブラケットユニット3は、球面軸受18を装着した第1ブラケット11と、両軸支持部24の間に第1ブラケット11を挿入可能な第2ブラケット12と、接続軸13とを備え、第1ブラケット11と軸支持部24との間にはシールリング28を設け、一方の軸支持部24には接続孔26を開設し、他方の軸支持部24には通路形成孔27を開設してシール押さえ31を収容し、シール押さえ31の外径を通路形成孔27内に嵌合する寸法に設定するとともに、内径を接続軸13が嵌合する寸法に設定し、シール押さえ31の端部をシールリング28へ当接し、接続軸13の端面に取り付けた軸カバー部材35をシール押さえ31の側面に当接して、両シールリング28を圧縮可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてビルや橋梁等の構造物に使用する制振用ダンパー、およびその設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、制振用ダンパー、例えばオイルを使用する制振用オイルダンパーは、ピストンにより区画したシリンダ内の第1シリンダ室と第2シリンダ室とにオイルを封入し、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを連通するオイル流路の途中に減衰弁やオリフィス等の絞りを設け、ピストンロッドを通じて外力が入力した際に一方のシリンダ室から他方のシリンダ室にオイルが逃げるときに発生する絞り抵抗により反力を得て、振動を減衰している。また、制振用オイルダンパーと、設置対象物である構造物との接続部分には、球面軸受等の自動調心軸受を使用し、制振用オイルダンパーを設置対象物へ設置し易いように、さらには、制振用オイルダンパーが発生する制振力を効率よく設置対象物へ伝達できるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3306399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、制振用オイルダンパーは、設置対象物である構造物に長期間に亘って設置されるため、塗装による防錆処理を施し、構造物の外壁が当該制振用オイルダンパーから発生した錆により汚れてしまう不都合を防いでいる。しかしながら、制振用オイルダンパーと構造物との接続部分のうち自動調心軸受、特に内輪と外輪とが互いに摺動する摺動面には、潤滑性を維持するために塗装を施すことができない。そこで、自動調心軸受をグリスアップして潤滑性の維持とともに防錆を図ることも考えられるが、グリスにより構造物の外壁が汚れてしまう虞があり、好ましくない。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、設置対象物との接続部分に装着された自動調心軸受が錆びてしまう不都合、ひいては自動調心軸受から発生した錆により設置対象物が汚れてしまう不都合を防止することができる制振用ダンパー、およびその設置方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、長手方向に沿って伸縮する長尺なダンパー本体と、該ダンパー本体の端部と設置対象物とを回動可能な状態で接続するブラケットユニットとを備えた制振用ダンパーであって、
前記ブラケットユニットは、球面座により軸の傾斜を許容する自動調心軸受を装着した第1ブラケットと、2つの軸支持部を二股状に離間した状態で備え、両軸支持部の間に第1ブラケットを挿入可能な第2ブラケットと、自動調心軸受に軸支された状態で両軸支持部に接続される接続軸と、を備え、
前記第1ブラケットまたは第2ブラケットのいずれか一方をダンパー本体の端部に止着するとともに、他方を設置対象物へ止着し、
前記第1ブラケットと各軸支持部との間のうち自動調心軸受の外輪側に位置する箇所には、環状のシールリングを接続軸が内側に挿通された状態でそれぞれ設け、
一方の軸支持部には、接続軸の端部が接続可能な接続孔を開設し、
他方の軸支持部には、前記接続孔よりも拡径した通路形成孔を開設し、
該通路形成孔内に環状のシール押さえを収容し、該シール押さえの外径を通路形成孔内に嵌合する寸法に設定するとともに、内径を接続軸の端部が嵌合する寸法に設定し、
前記シール押さえの端部をシールリングへ当接し、接続軸の端面に取り付けた軸カバー部材をシール押さえの側面に当接して、両シールリングを圧縮可能としたことを特徴とする制振用ダンパーである。
【0006】
請求項2に記載のものは、前記軸カバー部材は、接続軸の端面を被覆するカバー本体と、該カバー本体の外側からシール押さえ側へ向けて突設し、シール押さえを自動調心軸受側へ押圧可能な押圧突部と、を備え、
前記カバー本体と接続軸の端面との間に隙間を形成した状態で、押圧突部がシール押さえを押圧するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の制振用ダンパーである。
【0007】
請求項3に記載のものは、前記接続軸の外周面上にシール押さえを摺動可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の制振用ダンパーである。
【0008】
請求項4に記載のものは、請求項1から請求項3のいずれかに記載の制振用ダンパーの設置方法であって、
前記第2ブラケットの両軸支持部の間に、第1ブラケットと、該第1ブラケットのうち自動調心軸受を挟んで通路形成孔とは反対側に重合した一のシールリングとを挿入し、この状態で接続孔と通路形成孔と一のシールリングと自動調心軸受とに位置合わせピンを挿通して第1ブラケットと第2ブラケットとの位置合わせを行う位置合わせ工程と、
前記通路形成孔に他のシールリングを通して第1ブラケットと軸支持部との間へ配置するとともに、シール押さえを通路形成孔内に収容するシール押さえ準備工程と、
前記接続軸の端面に先細りテーパ形状を有する軸挿入治具を接続し、該軸挿入治具の先端を位置合わせピンの通路形成孔側端部へ当接し、この状態で接続軸を押し込んで接続孔と通路形成孔と両シールリングと自動調心軸受とへ挿通するとともに、位置合わせピンを外す接続軸挿通工程と、
前記接続軸から軸挿入治具を外し、接続軸と各軸支持部とを係合し、シール押さえを自動調心軸受側へ向けて押し込んで両シールリングを接続軸の軸方向に沿って圧縮するシール圧縮工程と、
を経て設置対象物に設置されることを特徴とする制振用ダンパーの設置方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏する。
請求項1に記載の発明によれば、長手方向に沿って伸縮する長尺なダンパー本体と、該ダンパー本体の端部と設置対象物とを回動可能な状態で接続するブラケットユニットとを備えた制振用ダンパーであって、ブラケットユニットは、球面座により軸の傾斜を許容する自動調心軸受を装着した第1ブラケットと、2つの軸支持部を二股状に離間した状態で備え、両軸支持部の間に第1ブラケットを挿入可能な第2ブラケットと、自動調心軸受に軸支された状態で両軸支持部に接続される接続軸とを備え、第1ブラケットまたは第2ブラケットのいずれか一方をダンパー本体の端部に止着するとともに、他方を設置対象物へ止着し、第1ブラケットと各軸支持部との間のうち自動調心軸受の外輪側に位置する箇所には、環状のシールリングを接続軸が内側に挿通された状態でそれぞれ設け、一方の軸支持部には、接続軸の端部が接続可能な接続孔を開設し、他方の軸支持部には、前記接続孔よりも拡径した通路形成孔を開設し、該通路形成孔内に環状のシール押さえを収容し、該シール押さえの外径を通路形成孔内に嵌合する寸法に設定するとともに、内径を接続軸の端部が嵌合する寸法に設定し、シール押さえの端部をシールリングへ当接し、接続軸の端面に取り付けた軸カバー部材をシール押さえの側面に当接して、両シールリングを圧縮可能としたので、自動調心軸受を介して接続された第1ブラケットと第2ブラケットとの隙間を確実にシールすることができ、自動調心軸受が大気中の水分や雨水等に晒されて錆びてしまう不都合、ひいては自動調心軸受から発生した錆により設置対象物が汚れてしまう不都合を防止することができる。また、シールリングが第1ブラケットと2つの軸支持部との間にそれぞれ配置されていたとしても、シール押さえによりシールリングを支障なく圧縮することができる。したがって、自動調心軸受の動作により第1ブラケットが軸支持部に対して傾いて第1ブラケットと軸支持部との間隔が広がったとしても、圧縮状態のシールリングが復元して第1ブラケットや軸支持部から離れることがなく、自動調心軸受のシール状態を維持することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、軸カバー部材は、接続軸の端面を被覆するカバー本体と、該カバー本体の外側からシール押さえ側へ向けて突設し、シール押さえを自動調心軸受側へ押圧可能な押圧突部とを備え、カバー本体と接続軸の端面との間に隙間を形成した状態で、押圧突部がシール押さえを押圧するように構成したので、圧縮状態のシールリングが経年変形したとしても、軸カバー部材を移動してシールリングをさらに圧縮することができる。したがって、シールリングの交換作業を行わずに自動調心軸受のシール状態を容易に復旧することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、接続軸の外周面上にシール押さえを摺動可能としたので、接続軸をシール押さえの移動ガイドとしても機能させることができ、シールリングをスムーズに圧縮することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、第2ブラケットの両軸支持部の間に、第1ブラケットと、該第1ブラケットのうち自動調心軸受を挟んで通路形成孔とは反対側に重合した一のシールリングとを挿入し、この状態で接続孔と通路形成孔と一のシールリングと自動調心軸受とに位置合わせピンを挿通して第1ブラケットと第2ブラケットとの位置合わせを行う位置合わせ工程と、通路形成孔に他のシールリングを通して第1ブラケットと通路形成軸支持部との間へ配置するとともに、シール押さえを通路形成孔内に収容するシール押さえ準備工程と、接続軸の端面に先細りテーパ形状を有する軸挿入治具を接続し、該軸挿入治具の先端を位置合わせピンの通路形成孔側端部へ当接し、この状態で接続軸を押し込んで接続孔と通路形成孔と両シールリングと自動調心軸受とへ挿通するとともに、位置合わせピンを外す接続軸挿通工程と、接続軸から軸挿入治具を外し、接続軸と各軸支持部とを係合し、シール押さえを自動調心軸受側へ向けて押し込んで両シールリングを接続軸の軸方向に沿って圧縮するシール圧縮工程とを経て設置対象物に制振用ダンパーを設置するので、自動調心軸受を備えたブラケットユニットを介して、設置対象物に制振用ダンパーを容易に設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、代表的な制振用ダンパーである制振用オイルダンパーを例に挙げて本発明の最良の実施形態を図面に基づき説明する。図1は本発明に係る制振用ダンパーの概略図、図2は制振用ダンパーを設置対象物へ取り付けるためのブラケットユニットの要部断面図である。
【0014】
制振用オイルダンパー1は、図1に示すように、長手方向に沿って伸縮する長尺なダンパー本体2と、該ダンパー本体2の両端部に設けられた2つのブラケットユニット3とを備えて構成されている。ダンパー本体2は、シリンダーチューブ5と、ピストンを途中に固定してシリンダーチューブ5内を進退するロッド(図示せず)とから概略構成されている。そして、ロッドとは反対側のシリンダーチューブ5の端部に一方のブラケットユニット3を接続し、シリンダーチューブ5から突出したロッドの端部(詳しくはロッドを被覆するロッドカバー6の端部)に他方のブラケットユニット3を接続している。また、ピストンによりシリンダーチューブ5内を第1シリンダ室と第2シリンダ室とに区画するとともに(いずれも図示せず)、各シリンダ室内にオイルを封入し、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを連通するオイル流路の途中にリリーフバルブやオリフィス等の絞りを設けている(いずれも図示せず)。そして、ビル等の建造物に発生した振動に起因して、ダンパー本体2の長手方向に沿って外力(ダンパー本体2を伸縮する外力)が加わると、一方のシリンダ室から他方のシリンダ室にオイルが逃げるときに発生する絞り抵抗により、外力に抗する反力を得て、振動を減衰するように構成されている。
【0015】
ブラケットユニット3は、ダンパー本体2を設置対象物9(例えば、ビルや橋梁等の建造物)へ回動可能な状態で接続するためのユニットであり、図2および図3に示すように、設置対象物9に止着される第1ブラケット11と、ダンパー本体2の端部に止着される第2ブラケット12と、第1ブラケット11と第2ブラケット12とを軸着する接続軸13とを備えて構成されている。第1ブラケット11は、所謂1山クレビス形を呈するブラケットであり、設置対象物9の表面に立設される平板状の第1ブラケット基部15に短円筒状の軸受保持部16を備え、該軸受保持部16内には、球面座により軸の傾斜を許容する球面軸受18(本発明における自動調心軸受に相当)を装着し、該球面軸受18の軸受孔18aが第1ブラケット基部15を貫通する姿勢、さらには、軸受孔18aに嵌合された接続軸13がダンパー本体2の長手方向と直交する方向に沿って延在可能となる状態で設定されている。また、球面軸受18の外輪の両側面には、軸受保持部16の内周面に嵌合されたC形止め輪21を係合し、球面軸受18が軸受保持部16から脱落する不都合を阻止している。
【0016】
第2ブラケット12は、所謂2山クレビス形を呈するブラケットであり、図3に示すように、ダンパー本体2の端部に止着される円板状の第2ブラケット基部23を備え、該第2ブラケット基部23のうちダンパー本体2に対向する面とは反対面の両側部から、ブロック状の軸支持部24(通路非形成軸支持部24a,通路形成軸支持部24b)をダンパー本体2とは反対側へ向けて二股状に突設している。そして、2つの軸支持部24の間隔を第1ブラケット11の厚さ(軸受孔18aの中心線に沿う方向の厚さ)よりも広い間隔、詳しくは、第1ブラケット11が球面軸受18を中心にして揺動可能となる間隔に設定している(図4(a)参照)。また、通路非形成軸支持部24aには、接続軸13の端部が接続可能な接続孔26を貫通して開設し、通路形成軸支持部24bには、接続孔26よりも拡径した通路形成孔27を貫通して開設している。なお、通路形成孔27は、後述するシールリング28の外径より少し大きな直径で開設され、シールリング28を通過可能な通路を形成している。
【0017】
接続軸13は、球面軸受18に支えられた状態で両軸支持部24に接続される部材であり、接続孔26に接続されると、ダンパー本体2の長手方向と交差する方向(具体的にはダンパー本体2の長手方向と直交する方向)に沿って延在可能な状態となる。また、接続軸13と軸受孔18aとのはめあいは、ガタつかない状態で球面軸受18が接続軸13の延在方向に沿ってスライド可能となる程度のすきまばめに設定されている。
【0018】
そして、ブラケットユニット3は、第1ブラケット11と第2ブラケット12との間に生じる隙間をシールして球面軸受18の摺動面(内輪と外輪とが互いに摺動する球面状摺動面)を防錆するための構成を備えている。具体的に説明すると、第1ブラケット11と各軸支持部24との間のうち球面軸受18の外輪側に位置する箇所(言い換えると軸受保持部16の内周面寄り)には、ニトリルゴムやフッ素ゴム等の弾性体で構成された環状のシールリング28(通路非形成側リング28a,通路形成側リング28b)を設け、該シールリング28の内側に接続軸13を挿通している。具体的には、第1ブラケット11と通路非形成軸支持部24aとの間に通路非形成側リング28aを配置し、第1ブラケット11と通路形成軸支持部24bとの間に通路形成側リング28bを配置している。なお、シールリング28は、その外径を軸受保持部16の内径に合わせて設定しており、軸受保持部16内に嵌合すると、当該シールリング28の外周面と軸受保持部16の内周面とが液密状態で密着するように構成されている。また、シールリング28の常態における厚さ(ブラケットユニット3に取り付けていない状態における厚さ)は、第1ブラケット11と軸支持部24との間の隙間よりも十分に厚い寸法t、詳しくは、第1ブラケット11が接続軸13の延在方向に沿って最大揺動角度θで揺動(首振り)したときの軸支持部24とC形止め輪21との最大離間距離Lよりも十分に厚い寸法tに設定されている(図4(a)および(b)参照)。
【0019】
さらに、ブラケットユニット3には、シールリング28を接続軸13の延在方向に沿って圧縮するための構成を備えている。具体的に説明すると、通路形成孔27内には環状のシール押さえ31を収容し、該シール押さえ31の外径を通路形成孔27内に摺動可能な状態で嵌合する寸法に設定するとともに、シール押さえ31の内径を接続軸13の端部が摺動可能な状態で嵌合する寸法に設定し、シール押さえ31の球面軸受18側の端部を通路形成側リング28bに当接している。また、接続軸13のうち通路非形成軸支持部24a側の端面(図2中、左端面)には、接続孔26よりも十分に大きな円板状の蓋部材33を止着部材(止着ボルト)34により着脱可能な状態で止着している。そして、該蓋部材33の外周部を通路非形成軸支持部24aの外側(すなわち通路非形成軸支持部24aを挟んで第1ブラケット11とは反対側)に係合し、接続軸13が通路形成軸支持部24b側へ移動することを阻止している。また、接続軸13のうち通路形成軸支持部24b側の端面(図2中、右端面)を通路側端面13aとし、該通路側端面13aには、通路形成孔27よりも十分に大きな円板状の軸カバー部材35を接続軸13の延在方向へ沿って移動可能な状態で係合している。
【0020】
軸カバー部材35は、接続軸13の通路側端面13aを被覆するカバー本体37と、該カバー本体37の外側からシール押さえ31側へ向けて突設された環状の押圧突部38とを備え、押圧突部38をシール押さえ31の側面に当接している。そして、カバー本体37の中央部に貫通された挿通孔37aに止着部材(止着ボルト)39を挿通し、該止着部材39の先端を通路側端面13aへ螺合し、止着部材39を締め込むことで軸カバー部材35を接続軸13の延在方向へ沿って移動し、押圧突部38によりシール押さえ31を球面軸受18側へ押圧している。この結果、シール押さえ31の第1ブラケット11側の端面(図2中、左端面)が通路形成軸支持部24bの内側面(第1ブラケット11に対向する側面)と略同一平面上に位置し、通路形成側リング28bが球面軸受18の外輪(詳しくはC形止め輪21)とシール押さえ31とに挟まれて接続軸13の延在方向に沿って圧縮される。さらには、球面軸受18(第1ブラケット11)が接続軸13上を通路非形成軸支持部24a側へ移動し、通路非形成側リング28aが球面軸受18の外輪(詳しくはC形止め輪21)と通路非形成軸支持部24aとに挟まれて接続軸13の延在方向に沿って圧縮される。これにより、通路非形成側リング28aと通路非形成軸支持部24aとが液密状態で密着するとともに、通路形成側リング28bと通路形成軸支持部24bとが液密状態で密着する。
【0021】
また、蓋部材33と止着部材34との間には、シール材で被覆されたシール付座金40を備え、通路非形成軸支持部24aの接続孔26と、接続軸13の蓋部材33側の端部との間にはOリング41を装着している。さらに、軸カバー部材35と止着部材39との間には、シール材で被覆されたシール付座金42を備え、通路形成孔27の内周面とシール押さえ31の軸カバー部材35側の端部との間にはOリング43を装着している。
【0022】
このようにして、ブラケットユニット3は、球面軸受18を介して接続された第1ブラケット11と第2ブラケット12との隙間を十分にシールすること、言い換えると、ブラケットユニット3の内部に球面軸受18を密封することができ、球面軸受18の摺動面が大気中の水分や雨水等に晒されて錆びてしまう不都合、ひいては球面軸受18から発生した錆により設置対象物9が汚れてしまう不都合を防止することができる。また、シールリング28が第1ブラケット11と2つの軸支持部24との間にそれぞれ配置されていたとしても、シール押さえ31によりシールリング28を支障なく圧縮することができる。したがって、球面軸受18の動作により第1ブラケット11が軸支持部24に対して傾いて第1ブラケット11と軸支持部24との間隔が広がったとしても、圧縮状態のシールリング28が復元して第1ブラケット11や軸支持部24から離れることがなく、球面軸受18のシール状態(密封状態)を維持することができる。
【0023】
また、シールリング28を圧縮してブラケットユニット3内に球面軸受18を密封した状態においては、図2に示すように、カバー本体37と通路側端面13aとの間に隙間を形成し、この状態で押圧突部38がシール押さえ31を押圧する。したがって、圧縮状態のシールリング28が経年変形したとしても、止着部材39を締め込んで軸カバー部材35を移動すれば、押圧突部38によりシール押さえ31を押圧してシールリング28をさらに圧縮することができる。この結果、シールリング28の交換作業を行わずに球面軸受18のシール状態を容易に復旧することができる。
【0024】
そして、シール押さえ31の内側に接続軸13を挿通し、接続軸13の外周面上にシール押さえ31を摺動可能としたので、接続軸13をシール押さえ31の移動ガイドとしても機能させることができ、シールリング28をスムーズに圧縮することができる。
【0025】
次に、上記した制振用オイルダンパー1を設置対象物9へ設置する方法について説明する。なお、予め第1ブラケット11を設置対象物9へ止着するとともに、第2ブラケット12をダンパー本体2へ止着しておき、第1ブラケット11の軸受保持部16には球面軸受18を保持しておく。また、制振用オイルダンパー1の設置に使用する位置合わせピン46と軸挿入治具47とを準備しておく。位置合わせピン46は、図5(b)に示すように、接続軸13よりも極く僅かだけ細いピン本体49を備え、該ピン本体49の長さを接続軸13よりも長く設定している。また、ピン本体49の先端には、先細りのピン側テーパ部50を形成して位置合わせピン46を接続孔26や軸受孔18aへ挿入し易くし、ピン側テーパ部50の形成長さ(ピン本体49の延在方向に沿う長さ)PTを軸受孔18aの長さよりも短い寸法、具体的には軸受孔18aの長さの半分程度の寸法に設定している。さらに、ピン本体49の基端には、接続孔26よりも大きな直径を有するフランジ部51を備えている。
【0026】
軸挿入治具47は、図5(d)に示すように、接続軸13と同じ直径で形成された短尺な円柱部材であり、当該軸挿入治具47の一端から植え込みボルト等の接続部53を突設し、該接続部53を接続軸13の蓋部材33側の端部に接続して当該軸挿入治具47と接続軸13とを接続できるように構成されている。また、軸挿入治具47の他端には、先細りの治具側テーパ部54を形成して軸挿入治具47(詳しくは軸挿入治具47を接続した接続軸13)を接続孔26や軸受孔18aへ挿入し易くしている。なお、治具側テーパ部54の形成長さ(接続軸13の延在方向に沿う長さ)JTは、軸受孔18aの長さよりも短い寸法であって、ピン側テーパ部50の形成長さPTとの和(図5(e)参照)が軸受孔18aの長さよりも短くなるように設定されている。
【0027】
制振用オイルダンパー1を設置対象物9へ設置するには、まず、図5(a)および(b)に示すように、第1ブラケット11の軸受保持部16の一方の端部に一のシールリング28(通路非形成側リング28a)の端部を嵌着して第1ブラケット11と通路非形成側リング28aとを重合し、通路非形成側リング28aが通路非形成軸支持部24aに対向する姿勢で第1ブラケット11を第2ブラケット12の両軸支持部24の間へ挿入する。第1ブラケット11を挿入したならば、通路非形成軸支持部24a側から位置合わせピン46を近づけて、接続孔26、通路非形成側リング28aの内側、球面軸受18の軸受孔18a、通路形成孔27へと順次挿通して第1ブラケット11と第2ブラケット12との位置合わせを行うとともに、球面軸受18の内輪が傾くことを規制する(位置合わせ工程)。このとき、位置合わせピン46を十分に挿通してフランジ部51が通路非形成軸支持部24aに当接し、ピン側テーパ部50を通路形成軸支持部24bの通路形成孔27から突出させる。
【0028】
位置合わせピン46を用いて第1ブラケット11と第2ブラケット12との位置合わせを行ったならば、図5(c)に示すように、突出したピン側テーパ部50に通路形成側リング28bを嵌め、この状態で通路形成孔27内を移動させて第1ブラケット11と通路形成軸支持部24bとの間へ配置する。さらに、突出したピン側テーパ部50にシール押さえ31を嵌め、この状態で通路形成孔27内へ押し込んで収容する(シール押さえ準備工程)。そして、シール押さえ31を通路形成側リング28bに当接して第1ブラケット11側へ押し込み、通路形成側リング28bの端部を軸受保持部16の端部に嵌着する。また、通路形成孔27の内周面とシール押さえ31の端部との間にOリング43を装着する。
【0029】
シール押さえ31により通路形成側リング28bを第1ブラケット11側へ押し込んだならば、図5(d)に示すように、接続軸13の通路側端面13aに軸カバー部材35をシール付座金42が嵌められた止着部材39で止着し、通路側端面13aとは反対側の端部には軸挿入治具47を接続する。このとき、止着部材(止着ボルト)39の締め込み具合を、カバー本体37が通路側端面13aへ面接触せずにガタつく程度に調整しておく。そして、図5(e)に示すように、軸挿入治具47の先端を位置合わせピン46の通路形成孔27側の端部、具体的にはピン側テーパ部50の端面へ当接し、位置合わせピン46の中心線と接続軸13の中心線とが同一直線上に位置する状態に設定する。この状態で接続軸13(詳しくは接続軸13に軸カバー部材35と軸挿入治具47とを組み付けたユニット)を押し込んで、接続軸13を第1ブラケット11および第2ブラケット12、詳しくは接続孔26と通路形成孔27と両シールリング28と球面軸受18の軸受孔18aとへ挿通するとともに、位置合わせピン46を後退させて第1ブラケット11および第2ブラケット12から抜く(接続軸挿通工程)。すると、軸カバー部材35の押圧突部38がシール押さえ31に当接して、接続軸13が通路非形成軸支持部24a側へ抜け落ちることを規制する。また、軸挿入治具47が通路非形成軸支持部24aから外方へ突出する。
【0030】
なお、このとき、ピン側テーパ部50の形成長さPTと治具側テーパ部54の形成長さJTとの和が軸受孔18aの長さよりも短くなるように設定されているので、接続軸挿通工程中に、軸受孔18aの内部全体に亘って接続軸13およびピン本体49よりも細い部材が挿通される状態になることがない。したがって、接続軸挿通工程において第1ブラケット11がガタついてしまう不都合、すなわち第1ブラケット11と第2ブラケット12との位置合わせ状態が解除されてしまう虞がない。
【0031】
接続軸13を第1ブラケット11および第2ブラケット12へ挿通したならば、図5(f)に示すように、軸挿入治具47を接続軸13から外し、接続孔26と接続軸13の端部との間にOリング41を装着する。そして、Oリング41が装着された接続軸13の端部に蓋部材33をシール付座金40が嵌められた止着部材34で止着し、接続軸13と蓋部材33とを十分に当接する。蓋部材33を接続軸13へ止着したならば、軸カバー部材35を止着する止着部材(止着ボルト)39を締め込む。すると、接続軸13が蓋部材33を介して通路非形成軸支持部24aへ係合するとともに、軸カバー部材35およびシール押さえ31を介して通路形成軸支持部24bへ係合する。また、押圧突部38がシール押さえ31の側面に当接して球面軸受18側(第1ブラケット11側)へ押し込み、両シールリング28を接続軸13の軸方向に沿って圧縮する(シール圧縮工程)。この結果、ブラケットユニット3の内部に球面軸受18を密封し、このブラケットユニット3を介して制振用オイルダンパー1を設置対象物9へ容易に設置することができる。なお、トルクレンチなどを用いて止着部材39の締め込み具合を調整すれば、シールリング28の圧縮量を管理できるようになり好適である。
【0032】
ところで、上記実施形態では、第1ブラケット11を設置対象物9へ止着し、第2ブラケット12をダンパー本体2へ止着したが、本発明はこれに限定されず、第2ブラケット12を設置対象物9へ止着し、第1ブラケット11をダンパー本体2へ止着してもよい。また、制振用ダンパーの代表例として、オイルを使用する制振用オイルダンパーを挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。要は、長手方向に沿って伸縮する長尺なダンパー本体と、該ダンパー本体の端部と設置対象物とを回動自在な状態で接続するブラケットユニットとを備えた制振用ダンパーであれば、どのようなものであってもよい。さらに、第1ブラケット11に装着される自動調心軸受として球面軸受18を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。要は、第1ブラケット11を接続軸13の軸方向に沿って揺動可能とする自動調心軸受であればどのようなものでもよく、例えば、自動調心ころ軸受であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】制振用オイルダンパーの概略図である。
【図2】ブラケットユニットの断面図である。
【図3】ブラケットユニットの分解斜視図である。
【図4】(a)は第1ブラケットが揺動した状態のブラケットユニットの断面図、(b)は(a)におけるシールリングの周辺の部分拡大図である。
【図5】制振用オイルダンパーを設置対象物へ設置する手順の説明図であり、(a)は第1ブラケットに通路非形成側リングを装着する説明図、(b)は第1ブラケットと第2ブラケットとを位置合わせピンで位置決めする説明図、(c)はブラケットユニットに通路形成側リングとシール押さえとを取り付ける説明図、(d)は接続軸に軸挿入治具と軸カバー部材を取り付ける説明図、(e)はブラケットユニットに接続軸を挿入する説明図、(f)はブラケットユニットに蓋部材を取り付ける説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 制振用オイルダンパー
2 ダンパー本体
3 ブラケットユニット
5 シリンダーチューブ
6 ロッドカバー
9 設置対象物
11 第1ブラケット
12 第2ブラケット
13 接続軸
13a 通路側端面
15 第1ブラケット基部
16 軸受保持部
18 球面軸受
18a 軸受孔
21 C形止め輪
23 第2ブラケット基部
24 軸支持部
24a 通路非形成軸支持部
24b 通路形成軸支持部
26 接続孔
27 通路形成孔
28 シールリング
28a 通路非形成側リング
28b 通路形成側リング
31 シール押さえ
33 蓋部材
34 止着部材
35 軸カバー部材
37 カバー本体
37a 挿通孔
38 押圧突部
39 止着部材
40 シール付座金
41 Oリング
42 シール付座金
43 Oリング
46 位置合わせピン
47 軸挿入治具
49 ピン本体
50 ピン側テーパ部
51 フランジ部
53 接続部
54 治具側テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って伸縮する長尺なダンパー本体と、該ダンパー本体の端部と設置対象物とを回動可能な状態で接続するブラケットユニットとを備えた制振用ダンパーであって、
前記ブラケットユニットは、球面座により軸の傾斜を許容する自動調心軸受を装着した第1ブラケットと、2つの軸支持部を二股状に離間した状態で備え、両軸支持部の間に第1ブラケットを挿入可能な第2ブラケットと、自動調心軸受に軸支された状態で両軸支持部に接続される接続軸と、を備え、
前記第1ブラケットまたは第2ブラケットのいずれか一方をダンパー本体の端部に止着するとともに、他方を設置対象物へ止着し、
前記第1ブラケットと各軸支持部との間のうち自動調心軸受の外輪側に位置する箇所には、環状のシールリングを接続軸が内側に挿通された状態でそれぞれ設け、
一方の軸支持部には、接続軸の端部が接続可能な接続孔を開設し、
他方の軸支持部には、前記接続孔よりも拡径した通路形成孔を開設し、
該通路形成孔内に環状のシール押さえを収容し、該シール押さえの外径を通路形成孔内に嵌合する寸法に設定するとともに、内径を接続軸の端部が嵌合する寸法に設定し、
前記シール押さえの端部をシールリングへ当接し、接続軸の端面に取り付けた軸カバー部材をシール押さえの側面に当接して、両シールリングを圧縮可能としたことを特徴とする制振用ダンパー。
【請求項2】
前記軸カバー部材は、接続軸の端面を被覆するカバー本体と、該カバー本体の外側からシール押さえ側へ向けて突設し、シール押さえを自動調心軸受側へ押圧可能な押圧突部と、を備え、
前記カバー本体と接続軸の端面との間に隙間を形成した状態で、押圧突部がシール押さえを押圧するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の制振用ダンパー。
【請求項3】
前記接続軸の外周面上にシール押さえを摺動可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の制振用ダンパー。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の制振用ダンパーの設置方法であって、
前記第2ブラケットの両軸支持部の間に、第1ブラケットと、該第1ブラケットのうち自動調心軸受を挟んで通路形成孔とは反対側に重合した一のシールリングとを挿入し、この状態で接続孔と通路形成孔と一のシールリングと自動調心軸受とに位置合わせピンを挿通して第1ブラケットと第2ブラケットとの位置合わせを行う位置合わせ工程と、
前記通路形成孔に他のシールリングを通して第1ブラケットと軸支持部との間へ配置するとともに、シール押さえを通路形成孔内に収容するシール押さえ準備工程と、
前記接続軸の端面に先細りテーパ形状を有する軸挿入治具を接続し、該軸挿入治具の先端を位置合わせピンの通路形成孔側端部へ当接し、この状態で接続軸を押し込んで接続孔と通路形成孔と両シールリングと自動調心軸受とへ挿通するとともに、位置合わせピンを外す接続軸挿通工程と、
前記接続軸から軸挿入治具を外し、接続軸と各軸支持部とを係合し、シール押さえを自動調心軸受側へ向けて押し込んで両シールリングを接続軸の軸方向に沿って圧縮するシール圧縮工程と、
を経て設置対象物に設置されることを特徴とする制振用ダンパーの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−63035(P2009−63035A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229988(P2007−229988)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(390025564)光陽精機株式会社 (1)
【Fターム(参考)】