説明

制振装置

【課題】20t〜30t程度の重量を有する戸建住宅を対象とし、簡単な装置構成で、主に、交通振動、環境振動等に伴って発生し、居住者が不快に感じる定常的な微振動を効果的に低減可能な制振装置を提供する。
【解決手段】建造物に入力された振動エネルギを電気エネルギに変換する圧電素子を有する圧電材料24と、圧電素子によって変換された電気エネルギを用い、建造物に入力された振動とは逆位相の振動を圧電材料24に発生させる負性容量回路27とを備える制振装置。建造物に入力された振動の変位振幅が100μm以下のものについては周波数を0に、変位振幅が100μmを超え、1000μm以下のものについては、周波数を3Hz以下に低下させることができる。建造物に入力された振動の加速度が所定の値以上の場合には、圧電材料24及び負性容量回路27以外の制振手段(減衰ダンパ等)を用いて建造物の制振を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関し、主に、交通振動、環境振動等に伴って連続的に発生し、居住者が不快に感じる定常的な建造物の微振動を低減するために用いられる制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
戸建住宅等の建造物に、鉄道や車両通行等によって生ずる交通振動、工場等における継続的な機械振動、自然の風等による環境振動が加わると、該建造物の居住環境が悪化する。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、同調が完全でなくても優れた制振効果を得ることができ、構造物の高次振動の発生を防止し、微小振幅時においても広い範囲の外力に対して優れた制振効果を発揮することができる構造物の振動抑制装置として、複数個の貯留タンクを備え、これら複数個の貯留タンクのうち一部の貯留タンクには、構造物の固有振動数と同一の振動数で振動するように液体を貯留し、他の複数の貯留タンクの各々には、構造物の固有振動数に対して少しずつ異なる振動数で振動するように液体を各々貯留した装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、建造物の固有振動数に一致するように固有振動数を調整するばね調整手段や、減衰率を適宜設定手段を設けることにより、振子式の制振装置の制約を取り除き、かつ感度の高い制振を行うことが可能で、風や交通による揺れにも高い感度で制振作用を及ぼすことのできる制振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−149026号公報
【特許文献2】特開平11−153183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の制振装置等は、大きな地震に対応することを前提とした上で、交通振動等に伴う定常的な微振動の低減を可能とするように構成されているため、機械的構造が大掛かりとなったり、装置構成が複雑になるなど、戸建住宅のレベルでの費用対効果を考慮すると、標準的装備として普及させるのは容易でないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、20t〜30t程度の重量を有する戸建住宅を対象とし、簡単な装置構成で、主に、交通振動、環境振動等に伴って発生し、居住者が不快に感じる定常的な微振動を効果的に低減することのできる制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、制振装置であって、建造物に入力された振動エネルギを電気エネルギに変換する圧電素子を有する圧電材料と、前記圧電素子によって変換された電気エネルギを用い、前記建造物に入力された振動とは逆位相の振動を前記圧電材料に発生させる負性容量回路とを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、圧電素子によって振動エネルギを電気エネルギに変換し、負性容量回路によって変換された電気エネルギを用いて建造物に入力された振動とは逆位相の振動を前記圧電材料に発生させることで制振を行うことができるため、高価な又は高度な制御システムを用いることなく、振動特性に制約されることなく、また、スペースを取ることなく、簡易かつ安価な装置で戸建住宅等の微振動を低下させることができる。
【0010】
上記制振装置において、前記建造物に入力された振動の変位振幅が100μm以下のものについては変位振幅を0に、変位振幅が100μmを超え、1000μm以下のものについては、周波数70Hzまでの振動を、変位振幅に応じて1〜3Hz以下に低下させることができる。これによって、建造物の居住者が不快と感じる微振動を、不快と感じない程度に抑えることができる。
【0011】
さらに、上記制振装置において、前記建造物に入力された振動の加速度が所定の値以上の場合には、前記圧電材料及び負性容量回路以外の制振手段を併せて用いることによって該建造物の制振を行うことができる。これによって、圧電材料によって賄うことのできない大きな振動に対応することができる。
【0012】
前記建造物に10Gal以上の振動加速度が入力されたときに、前記圧電材料及び負性容量回路以外の制振手段による前記建造物の制振を開始するように構成することができ、戸建住宅等が中小規模の地震以上の振動を受けた場合には、圧電材料以外の制振手段によって対応することができる。ここで、前記圧電材料以外の制振手段を減衰ダンパとすることができる。
【0013】
前記圧電材料を、前記圧電素子と銅版とを複数積層して形成し、該圧電素子の各々を前記負性容量回路に接続することができる。圧電素子等を複数積層することで、エネルギ変換効率及び応答性のより向上した制振装置を構成することができる。
【0014】
さらに、前記圧電素子によって変換された電気エネルギを蓄える蓄電手段を備え、該蓄電手段に備えられた電気エネルギを前記建造物の制振に用いることができる。これによって、省エネルギ効果にも優れた制振装置を提供することができる。
【0015】
上記制振装置において、前記建造物に入力された振動によって生じた前記圧電素子の電圧の変化を記録する履歴記録手段を備え、該履歴記録手段は前記圧電素子で変換された電気エネルギを用いて前記電圧の変化を記録することができる。これによって、該建造物に加えられる振動の記録、解析等を容易に行うことができる。また、上記制振装置には、地震速報を含む情報を読み取るデバイスを装着することもできる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明にかかる制振装置によれば、戸建住宅を対象とし、簡単な装置構成で、主に、交通振動等に伴って発生し、居住者が不快に感じる定常的な微振動を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる制振装置の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の圧電アクチュエータの構成を示す概略図である。
【図3】マイスター曲線を示す図である。
【図4】各種振動の加速度と振動数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかる制振装置を建造物に設置した状態を示し、この制振装置11は、複数の圧電アクチュエータ12と、減衰ダンパ装置13とで構成され、戸建住宅等の建造物1の基礎2と構造物3との間に介装される。尚、制振装置11を、基礎2と構造物3との間以外にも、階層と階層の間に設置してもよく、主要架構と挙動の大きい架構との間に設置してもよい。
【0020】
圧電アクチュエータ12は、建造物1に、鉄道や車両通行等によって生ずる交通振動、工場等における継続的な機械振動、自然の風等による微振動が加えられた場合に、この微振動を低減するために備えられる。圧電アクチュエータ12は、図2に示すように、基礎2と構造物3との間に、絶縁体21、25を介して介装される。圧電アクチュエータ12の圧電材料(積層圧電素子)24として、例えば素材がPZT(PbZrO3)22の積層に銅版23が装入された圧電素子を積層したもの、具体的には、PZT22の厚さとして30〜100mmのもので、積層数は、圧電セラミックスや電極の厚さにもよるが、変位振幅が100μm程度の振動に対応するものとして150〜500層程度のものを用いることができる。
【0021】
圧電材料24には負性容量回路27が接続され、この負性容量回路27は、前記圧電素子によって変換されて蓄電回路26に蓄えられた電気エネルギを用い、構造物3に入力された振動とは逆位相の振動を圧電材料24に発生させるために設けられる。より具体的には、振動を受けて歪んだ圧電材料24の圧電素子で発生した電圧を検知し、負の電圧を圧電材料24に与えて圧電材料24を逆方向に歪ませることで逆位相の振動を発生させる。
【0022】
蓄電回路26は、前記圧電素子によって変換された電気エネルギを蓄えるために備えられ、蓄電回路26に蓄えられた電気エネルギを、負性容量回路27によって圧電材料24に前記逆位相の振動を発生させるためなどに用いることができる。
【0023】
図1に示す減衰ダンパ装置13は、地震等による振動エネルギを減衰させるために選択的に備えられ、複数設置した圧電アクチュエータ12によって賄うことのできない大きさの振動が構造物3に加えられた場合に機能する。この減衰ダンパ装置13には、摩擦ダンパ、粘弾性ダンパ、オイルダンパ、ガスダンパ等を単独又は組み合わせて用いることができ、例えば、10Gal以上の振動加速度が加えられた場合に機能するように構成することができる。この場合、減衰ダンパ装置13を摩擦ダンパとして、10Gal以上の振動加速度が加えられたときに摩擦力が発生するようにしたり、設置した加速度計が10Gal以上の振動加速度を検知したことをトリガとして粘弾性ダンパを機能させるように構成することができる。
【0024】
次に、上記構成を有する制振装置11の動作について説明する。
【0025】
建造物1に、鉄道や車両通行等によって生ずる交通振動、工場等における継続的な機械振動、自然の風等による振動が加わると、圧電材料24の複数の圧電素子によって、建造物1に入力された振動エネルギを電気エネルギに変換する。変換された電気エネルギは、蓄電回路26に蓄電される。
【0026】
建造物1の振動によって圧電材料24で発生した電圧が所定の値を超えると、負性容量回路27は、建造物1に入力された振動とは逆位相の振動を圧電材料24に発生させる。この所定の電圧値は、例えば、建造物1の変位振幅100μm(又は振動加速度10Gal)に対応する値とすることができる。これによって、例えば、建造物1に入力された振動の周波数が20〜60Hzの場合に、該周波数を2Hz程度に低下させることができる。
【0027】
図3は、建造物の居住性能を評価するためのマイスター曲線であって、振動の変位振幅(μm)と振動数(Hz)について、人間の体感の有無、不快と感じる程度を示したものである。同図に示すように、振動の周波数が20〜60Hzの場合には、100μm程度の変位振幅でも不快と感じ、100μmの変位振幅で非常に不快と感じるが、この変位振幅を5Hz以下に低下させることで10μmまでの変位振幅であれば、感じない程度にすることができる。
【0028】
圧電材料24等を用いて上記制振動作を行うことができるが、圧電材料24では、1mmを超える振幅の振動には対応することが困難である。そのため、必要に応じて備えられた減衰ダンパ装置13による制振も行う。建造物1に10Gal以上の振動加速度が加えられると減衰ダンパ装置13を機能させ、建造物1に加えられた振動エネルギを減衰させる。
【0029】
上記10Galの加速度とは、図4に示すように、一般の建造物の場合には、中小の地震によって発生する加速度より若干小さい加速度に相当するため、制振装置11の圧電アクチュエータ12によって、鉄道や車両通行等によって生ずる交通振動等の低減に対応し、地震等に対しては減衰ダンパ装置13で対応することができる。
【0030】
尚、図示を省略するが、建造物1に入力された振動によって生じた圧電材料24の圧電素子の電圧の変化を記録する履歴記録手段を設け、RFID(Radio Frequency IDentification)によって上記圧電素子で変換された電気エネルギを用いて電圧の変化を記録することで、建造物1に加えられる振動の記録、解析等を容易に行うこともできる。
【符号の説明】
【0031】
1 建造物
2 基礎
3 構造物
11 制振装置
12 圧電アクチュエータ
13 減衰ダンパ装置
21 絶縁体
22 PZT
23 銅版
24 圧電材料
25 絶縁体
26 蓄電回路
27 負性容量回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物に入力された振動エネルギを電気エネルギに変換する圧電素子を有する圧電材料と、
前記圧電素子によって変換された電気エネルギを用い、前記建造物に入力された振動とは逆位相の振動を前記圧電材料に発生させる負性容量回路とを備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記建造物に入力された振動の変位振幅が100μm以下のものについては変位振幅を0に、変位振幅が100μmを超え、1000μm以下のものについては、周波数を3Hz以下に低下させることを特徴とする制振装置。
【請求項3】
さらに、前記建造物に入力された振動の加速度が所定の値以上の場合には、前記圧電材料及び負性容量回路以外の制振手段を用いて該建造物の制振を行うことを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
前記建造物に10Gal以上の振動加速度が入力されたときに、前記圧電材料及び負性容量回路以外の制振手段による前記建造物の制振を開始することを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記圧電材料以外の制振手段は、減衰擦ダンパであることを特徴とする請求項3又は4に記載の制振装置。
【請求項6】
前記圧電材料は、前記圧電素子と銅版とを複数積層して形成され、該圧電素子の各々が前記負性容量回路に接続されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の制振装置。
【請求項7】
さらに、前記圧電素子によって変換された電気エネルギを蓄える蓄電手段を備え、該蓄電手段に備えられた電気エネルギを前記建造物の制振に用いることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の制振装置。
【請求項8】
前記建造物に入力された振動によって生じた前記圧電素子の電圧の変化を記録する履歴記録手段を備え、該履歴記録手段は前記圧電素子で変換された電気エネルギを用いて前記電圧の変化を記録することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の制振装置。
【請求項9】
さらに、地震速報を含む情報を読み取るデバイスを備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−216140(P2010−216140A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63752(P2009−63752)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】