説明

力率改善コンバータ、及び、冷凍サイクル装置

【課題】従来、ダイオードの電流−電圧特性が直線的ではなく、電流が流れ初めるときの電圧が電圧降下が発生した後に電流が通流開始する性質については考慮されておらず、その結果、電流が比較的小さい運転領域では入力電力に対する損失の比率が大きくなり、相対的に回路損失が低下し、回路効率に改善の余地があった。
【解決手段】昇圧チョッパ回路を構成するダイオードに並列にMOS−FETを並列に接続し、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子がオフしている期間に、MOS−FETをオンする手段を設けた。これにより、従来の昇圧コンバータを構成するダイオードに流れていた電流は、MOS−FETを通して流れる。N型MOS−FETは、その電圧−電流特性は直線的であるので電流が小さい領域で電圧降下、延いては損失が小さいので回路効率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流電源を整流し、所望の直流電圧を出力する電源装置,交流電源の力率を改善する電源装置、及び前記電源装置を用いて電動機を制御する電動機制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電源を整流して直流電源に変換する交流−直流変換回路で、入力電流を正弦波に制御する力率改善コンバータの回路の例として特許文献1のように、リアクトルとIGBTとダイオードからなる昇圧チョッパ回路によって力率改善を行う技術が知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−233165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来方式は、交流電源からインダクタンスを利用して所望の大きさの直流電圧に変換する交流−直流変換回路であり、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子であるIGBTがオン時に電源のエネルギーをリアクトルに蓄積し、IGBTがオフしたときにダイオードを通してリアクトルに蓄積されたエネルギーを平滑コンデンサに放出する構成である。
【0005】
ダイオードの電流−電圧特性が直線的ではなく電流が流れ初めるときの電圧(つまり電圧降下)がSiダイオードで約0.7V〜1.5Vの場合、電流が比較的小さい運転領域では入力電力に対する損失の比率が大きくなる。従って、このようなダイオードを特許文献1の方式に用いた場合には、電流が比較的小さい運転領域で回路損失(電源と負荷との間に回路を挟んだことによる損失)が大きくなり、回路効率について改善の余地があるという課題があった。
【0006】
また、昇圧チョッパ回路のIGBTの電流−電圧特性も直線的ではなく、電流が通流開始するときに発生する電圧降下があり、当該電圧降下が発生した後に電流が流れ始めるため、やはり電流が小さい動作領域で、回路効率が悪かった。
【0007】
本発明は、回路効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、
交流電源から整流して直流を作る全波整流回路と、
前記全波整流回路の下流に配設され、
前記全波整流回路からの電流によりエネルギーを蓄積するリアクトルと、
前記リアクトルの下流に配設されたダイオードと、
前記ダイオードの下流に配設され、前記リアクトルに蓄積されたエネルギーを前記ダイオードを介して充電する平滑コンデンサと、
前記リアクトルへのエネルギーの蓄積と前記平滑コンデンサへの充電とを切り替えるスイッチング素子と、
を有する昇圧チョッパ回路と、を備えた力率改善コンバータにおいて、
前記ダイオードに並列に配設され、ソースが前記ダイオードのアノードに、ドレインが前記ダイオードのカソードに接続されたMOS−FETと、
前記MOS−FETをオンさせて電流を流すための昇圧PWM信号発生回路と、
を備えた力率改善コンバータ
によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回路効率を向上することができる。また、冷凍サイクル装置の効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による実施例の力率改善コンバータの構成図。
【図2】本発明による実施例の力率改善コンバータの電流波形、及び、ゲートドライブ波形を示す図。
【図3】本発明のMOS−FETの特性図とコンバータの特性図。
【図4】本発明の実施例の冷凍サイクル装置に用いる回路等の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照しながら実施例を説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明による実施例の力率改善コンバータの構成図である。なお、便宜上図の左側を上流、右側を下流と称することとする。
【0013】
交流電源1は、リアクトル22とコンデンサ23よりなる低周波フィルタ回路を通して、整流ダイオード2,3,4,5よりなる全波整流回路に接続される。リアクトル7,スイッチング素子8,リアクトル7の下流に配設されたダイオード9,ダイオード9の下流に配設された平滑コンデンサ10より構成された昇圧チョッパ回路は、前記の全波整流回路の下流に配設され、スイッチング素子8のスイッチング動作を行いリアクトル7のエネルギー蓄積効果により昇圧する。上記のように昇圧された直流電圧は、その下流に配設された平滑コンデンサ10に供給され安定化し、負荷11に供給される。
【0014】
電流検出回路12は、平滑コンデンサ10よりも入力側(上流)に接続される。この電流検出回路12は、入力電流値を検出し電流制御回路15に入力電流値を与える。
【0015】
直流電圧検出回路17は、平滑コンデンサ10の両端に接続され、平滑された直流電圧値を検出し、直流電圧制御回路18に直流電圧値を与える。直流電圧制御回路18は、直流電圧検出回路17の検出値が直流電圧指令値に一致するように入力電流の大きさを示す信号を乗算器14に出力する。
【0016】
乗算器14は全波整流回路の両端の交流電源電圧波形を検出する電源電圧波形検出回路13からの電源電圧に同期した脈動直流電圧波形と直流電圧制御回路18の出力値とを乗算し、電源電圧に同期した正弦波状の入力電流指令値を作成する。この入力電流指令値は電流制御回路15に送られる。
【0017】
電流制御回路15は、乗算器14から出力される入力電流指令値に電流検出回路12の出力が一致するようにスイッチング素子8のオン時間の比率を示すデューティ信号を算出する。
【0018】
昇圧PWM信号発生回路16は、電流制御回路15からのデューティ信号に基づいて、ドライバ20を通じてスイッチング素子8のチョッパ動作(オン・オフ動作)を行う。
【0019】
リアクトル7,スイッチング素子8,ダイオード9,平滑コンデンサ10、で構成される昇圧チョッパ回路により交流電源電圧より高い直流電圧を得る昇圧コンバータ回路を形成する。上記構成及び動作で入力電流は電源電圧波形に相似の正弦波状の連続した電流波形が得られ力率を約1にすることができる。
【0020】
本実施例では、昇圧チョッパ回路を構成するダイオード9にMOS−FET6を並列に接続した。MOS−FET6はN型のMOS−FETであり、ソースをダイオード9のアノードに、ドレインをカソードに接続している。詳しくは後述するが、このMOS−FET6は、図3(a)に示すように電流−電圧特性が直線的である。昇圧PWM信号発生回路16は、ドライバ20を通じてスイッチング素子8をオン駆動する信号と、スイッチング素子8がオフしているときにドライバ19を通じてMOS−FET6をオンする信号とを出力する。つまり、スイッチング素子8のオンとMOS−FET6のオン(MOS−FET6に電流を流すこと)とを切り替えている。このように、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子8の動作を制御して力率改善及び直流電圧の制御を行う。
【0021】
なお、スイッチング素子8がオフのときは、電流はダイオード9かMOS−FET6かの何れかを通ることになる。つまり、スイッチング素子8がオフのときはリアクトル7に蓄積されたエネルギーは平滑コンデンサ10へ充電されることになり、スイッチング素子8がオンのときはリアクトル7へエネルギーが蓄積されることになり、スイッチング素子8はリアクトル7のエネルギーの蓄積と放出(平滑コンデンサ10への充電)とを切り替えていると言える。
【0022】
以上、昇圧チョッパ回路が平滑コンデンサ10に電流を充電するときにはダイオード9を介さずにMOS−FET6を通じて充電電流が流れる回路形成とすることができる。ここで、入力電流が小さいときには、ダイオード9に電流を流す場合の損失に比べて相対的に本実施例の回路構成、つまりMOS−FET6に電流を流す場合の損失の方が小さくなる。ダイオード9の電圧降下よりもMOS−FET6の電圧降下の方が小さいからである。従って、従来の昇圧コンバータを構成するダイオードに流れていた電流は、これと並列に接続した整流用のMOS−FET6を通して流れることができるため、特に電流が小さいときの損失を低減することができて回路効率を向上することが可能である。尚、ダイオード9とMOS−FET6を別個の構成部品として記載しているが、ダイオード内蔵のMOS−FETを1つのパッケージに封入したMOS−FETを使用しても、同様な構成と看做されることはいうまでもない。
【0023】
また、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子8にMOS−FET6を用いることにより、従来のIGBTを使用した場合に比べてスイッチング素子の電流−電圧特性が直線的であるので電流が小さいときの損失は更に低減することができるので回路効率を更に向上することが可能である。
【0024】
更に、本実施例では、スイッチング素子8にIGBTではなく、MOS−FET6を使用した。これにより、IGBTを使用した場合に比べて入力電流が小さい運転領域でスイッチング素子の損失も低減できるので、コンバータの回路効率が更に向上する。
【0025】
図2に示す力率改善コンバータの電流波形、及び、ゲートドライブ波形によって、本実施例によって生じる電流について説明する。
【0026】
(a)は、交流電源1の電源電圧波形とリアクトル7に流れるリアクトル電流波形を示している。リアクトル電流波形は電源電圧波形に相似の正弦波状の連続した電流波形として得ることができる。
【0027】
(c)(3)は、(a)の破線で囲った部分を拡大したものを示しており、(a)で示すのと同様に右上がりとなっている。なお、これは後述の(c)(1)と(c)(2)とを合成したものである。
【0028】
(c)(1)は、スイッチング素子8に流れる電流波形とを示している。
【0029】
(c)(2)は、ダイオード9とMOS−FET6に流れる電流波形を示している。
【0030】
(b)は、以上に対応するスイッチング素子8とMOS−FET6を駆動する駆動信号を示している。これらの駆動信号により、スイッチング素子8のオンとMOS−FET6のオンとが切り替えられている。スイッチング素子8の駆動信号に着目すれば断続的にスイッチング素子8がオンされていることが分かる。また、MOS−FET6の駆動信号に着目すれば断続的にMOS−FET6がオンされていることが分かる。なお、スイッチング素子8がオフであっても、後述のデッドタイムによりMOS−FET6が駆動されない期間を設けることができ、このときにはダイオード9に電流が流れることになる。
【0031】
スイッチング素子8がオンしているときには、リアクトル7にエネルギーを蓄積する。また、スイッチング素子8がオフしている期間はリアクトル7に蓄積されたエネルギーを平滑コンデンサ10に放出することになる。従って、前述の通り、スイッチング素子8はリアクトル7のエネルギーの蓄積と放出とを切り替えていると言える。
【0032】
このとき、ダイオード9を介すか又はMOS−FET6を介してリアクトル7に蓄積されたエネルギーを平滑コンデンサ10に放出することになるが、MOS−FET6を駆動している期間はMOS−FET6を介して、駆動していない後述のデッドタイムの期間はダイオード9を介して、リアクトル7に蓄積されたエネルギーを平滑コンデンサ10に放出することになる。なお、デッドタイムの期間は(c)(2)の斜線部分に対応している。
【0033】
この動作を実現するため、図1に戻って説明を加える。昇圧PWM信号発生回路16は、リアクトル7に流れるリアクトル電流波形が電源電圧波形に相似の正弦波状の連続した電流波形になるようにスイッチング素子8のオンする駆動信号を生成する。また、昇圧PWM信号発生回路16は、スイッチング素子8がオフしているときにはMOS−FET6をオンする駆動信号を生成する。
【0034】
スイッチング素子8とMOS−FET6とのオン/オフの切り替え時には、動作遅れによる平滑コンデンサ10の電圧短絡を防ぐために両方の駆動信号が双方ともにオフするデッドタイムを設けた。但し、他の手段や他の方法により平滑コンデンサ10の電圧短絡を防ぐことができれば必ずしもデッドタイムは必要ではない。
【0035】
デッドタイムの具体的な時間幅としては、スイッチング素子8のスイッチング周波数が50μsの時で、約2〜3μs程度である。この結果、リアクトル7に流れる電流は、スイッチング素子8とMOS−FET6とを交互に流れる昇圧コンバータ回路を形成することになる。
【0036】
ダイオード9に並列にMOS−FET6を接続することで、入力電流が小さい運転領域において回路効率が向上する理由を、図3の図を用いて説明する。
【0037】
(a)はダイオード9とMOS−FET6の電圧−電流特性の一例である。
【0038】
一般にダイオードの電流−電圧特性は直線的ではなく、電流が流れ初めるときの電圧Vf1はSiダイオードで約0.7V〜1.6Vの電圧降下が生じる。即ち電流の小さな領域において電流に対して電圧降下が大きくなり、電流と電圧の積で算出される損失が相対的に大きくなる。
【0039】
本実施例では、N型のMOS−FETの電圧−電流特性は、一般にはゲート電圧を印加することによりドレイン端子からソース端子の向きに電流が流れ、その電圧−電流特性は直線的である。このとき、電圧−電流の関係はドレイン−ソース間抵抗で表現することができ、その抵抗値は0.01〜0.1Ω程度である。
【0040】
MOS−FETの電流は、電流の小さな領域における電圧降下は小さいので、MOS−FET6の損失はダイオード9に比べて小さい。
【0041】
MOS−FETの一般的な使用法としては、N型MOS−FETの場合には例えばスイッチング素子8のように、ゲートに電圧を印加して高圧側端子であるドレイン端子から低圧側端子であるソース端子の方向に電流が流れるように回路を構成する。しかし、本実施例では、ゲート電圧を印加することにより一般とは逆に低圧側端子であるソース端子から高圧側端子であるドレイン端子に電流が流れるように、つまり図1の右向き電流が流れるように回路を構成した点に特徴がある。
【0042】
N型MOS−FETの構造はゲート電圧の印加によって形成されるチャネルによって電流が流れるものであるから、一般とは逆向きの電流、即ちN型MOS−FETの低圧側のソース端子から高圧側のドレイン端子の向きに電流が流れる方向に回路を構成した場合でも電圧−電流特性は図3(a)に示す直線的な特性と同一の特性が得られる。
【0043】
上記はN型MOS−FETについて述べたものであるが、P型MOS−FETの場合には、高圧側端子がソース端子、低圧側がドレイン端子に変わるだけでN型と同様の特性が得られることは言うまでもない。
【0044】
ダイオード9とMOS−FET6とに同じ電流を流したときの各素子の損失は電流と素子に発生する電圧の積であるから、素子の損失は例えば(b)のように、電流が小さい領域ではMOS−FET6の方の損失が少ないことが判る。
【0045】
例えば、ダイオード9の特性が電流=0Vで電圧Vf1=1.0V、電流=30Aで電圧1.6Vである場合には、ダイオードのカソード−アノード間の電圧をV、電流をIとすると、V=(1.6−1.0)/30×I+1.0で近似的に表現できる。電流5Aの時の損失WはW=V×I=5.5Wである。これに対し、MOS−FET6のドレイン−ソース間抵抗Rを0.1Ωの特性のものを使用した場合の電流5Aにおける損失WはW=R×I2=2.5W程度である。従って、ダイオード9に比べてMOS−FET6の方が、損失を55%程度低減できる。更に、ドレイン−ソース間抵抗Rを0.01ΩのMOS−FETを使用した場合には、ダイオード9に比べてMOS−FET6の方が、損失を95%程度低減できる。
【0046】
徐々に電流が増加した場合には、MOS−FET6の電圧降下がダイオードより大きくなって損失が逆転する電流値である臨界点が出現する。例えば、ドレイン−ソース間抵抗Rが0.1ΩのMOS−FETのときで約11Aである。この臨界点の電流値以下で昇圧コンバータを運転する場合には、MOS−FETを使用することで損失の少ないシステムを構成できる。
【0047】
しかし、臨界点を越えて使用するシステムに本実施例のMOS−FETを用いると、MOS−FETの損失がダイオードの損失を越えて回路効率が低下する。本実施例では電流が臨界点を越える場合には、MOS−FET6の駆動を停止、すなわちMOS−FET6をオフするように予め設計した。これにより、電流が比較的大きい場合には、MOS−FET6には電流が流れず、ダイオード9のみを通して電流が流れるので損失が押さえられる。本実施例の昇圧コンバータの回路効率は(c)に示すように、入力電流が大きい運転領域では従来並の回路効率を維持しつつ、電流が小さい運転領域では、従来よりも回路効率を向上することができる。
【0048】
このような回路を冷凍サイクル装置に適用した場合について、図4を用いて説明する。図4は冷凍サイクル装置に用いる回路部分の構成図である。図1に示した昇圧チョッパ回路を使用した力率改善コンバータの負荷としてブラシレス直流モータを接続している。このモータは、冷凍サイクルを構成する圧縮機に用いられ、後述のモータ駆動装置により、冷凍負荷に応じて回転数制御される。この図4の構成により、電源の力率改善とモータの制御とを行い、延いては冷凍サイクル装置の冷凍能力を制御する。力率改善コンバータは速度制御回路34からの直流電圧指令値に基づいて図1と同一の動作を行う。
【0049】
モータ駆動装置は、インバータ30,磁極位置検出回路32,速度検出回路33,速度制御回路34,ドライブ信号出力回路35及び、ドライバ36から構成される。
【0050】
インバータ30は、6個のスイッチング素子から構成され、ドライバ36からの駆動信号に基づいてブラシレス直流モータ31の巻線に流す電流を切り換える。磁極位置検出回路32は、ブラシレス直流モータ31の誘起電圧を入力しブラシレス直流モータ31のロータの磁極を検出し、磁極位置信号を速度検出回路33及びドライブ信号出力回路35に出力する。速度検出回路33は、磁極位置信号から速度を演算し速度信号を速度制御回路34に出力している。ドライブ信号出力回路35は磁極位置信号を基に矩形波状のドライブ信号を出力する。ドライバ36は、そのドライブ信号に従ってインバータ30のスイッチング素子を駆動する。
【0051】
ブラシレス直流モータ31の速度制御は、磁極位置検出回路32でブラシレス直流モータ31の誘起電圧を磁極位置検出回路32によって出力されるタイミングの磁極位置信号によってインバータ30を駆動することによって実現できる。つまり、ブラシレス直流モータ31を所望の回転数に制御することができる。速度制御回路34は速度信号が速度指令値に一致するように直流電圧制御回路18への直流電圧指令を算出する。その直流電圧指令は直流電圧制御回路18に入力し、図1で示した電圧制御を行う。
【0052】
前述の通り本実施例では、電流が小さい運転領域において回路損失を低減して回路効率を向上する効果がある。電流が小さい運転領域とは、つまり、低い回転数または負荷でモータを速度制御することに相当する。従って、本実施例のコンバータが適用され、そのような運転領域を有する冷凍サイクル装置においても回路効率、延いては冷凍サイクル装置の効率を改善することができる。冷凍サイクル装置の効率とは、例えば通年エネルギー消費効率APF(Annual Performance Factor)のことをいう。冷凍サイクル装置としては、空気調和機,冷蔵庫,冷凍機内蔵型ショーケースなどがある。
【0053】
例えば圧縮機回転数制御を備えた空気調和機であれば、冷凍サイクルの能力制御は、設定室温と実際の室温との温度差が大きい場合には圧縮機モータを高速で回転させて冷凍能力を高く、また、その温度差が小さい場合には圧縮機モータを低速で回転させて冷凍能力を小さくする。室温を一定に保つ制御を行う空気調和機では、運転開始の時に設定室温と実際の室温との温度差が大きいので総運転時間に比べて比較的短い時間に大きな冷凍能力を必要とし、室温が安定した後の比較的長い運転時間は小さな冷凍能力で運転することになる。
【0054】
従って、冷凍能力の小さな、長い運転時の効率を上げることにより、電力と時間の積である消費電力量を低く抑えることが可能である。冷凍能力が小さいほどモータへの入力電力が小さいのでコンバータの電流は小さくなる。ここで本実施例による力率改善回路を使用すれば小さな電流運転領域で効率が向上し、空気調和機の総電力量を低く抑えることができる。つまり、APFを改善できる。
【0055】
例えば、以下のような運転領域・運転条件にあることでAPFを改善することができる。
|設定室温−実際室温|<2℃
圧縮機回転数<2000rpm
【0056】
本実施例では、臨界点である電流値よりも小さい電流のときに損失の少ないMOS−FET6を使用し、臨界点である電流値よりも大きい電流のときにダイオード9に電流を通流するようにしたので、高効率な冷凍サイクル装置を実現できる。
【0057】
また、昇圧チョッパ回路を使用した力率改善コンバータの負荷にブラシレス直流モータ駆動装置を接続することにより、入力電流が小さい運転領域でも高効率で高力率な冷凍サイクル装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
昇圧チョッパ回路により、低い入力電流から高い入力電流まで、広範囲で回路効率の高い力率改善コンバータを実現することができる。また、これにより、高効率な冷凍サイクル装置を実現できる。
【符号の説明】
【0059】
1 交流電源
2,3,4,5 整流ダイオード
6 MOS−FET
7 リアクトル
8 スイッチング素子
9 ダイオード
10 平滑コンデンサ
11 負荷
12 電流検出回路
13 電源電圧波形検出回路
14 乗算器
15 電流制御回路
16 昇圧PWM信号発生回路
17 直流電圧検出回路
18 直流電圧制御回路
19,20,36 ドライバ
30 インバータ
31 ブラシレス直流モータ
32 磁極位置検出回路
33 速度検出回路
34 速度制御回路
35 ドライブ信号出力回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から整流して直流を作る全波整流回路と、
前記全波整流回路の下流に配設され、
前記全波整流回路からの電流によりエネルギーを蓄積するリアクトルと、
前記リアクトルの下流に配設されたダイオードと、
前記ダイオードの下流に配設され、前記リアクトルに蓄積されたエネルギーを前記ダイオードを介して充電する平滑コンデンサと、
前記リアクトルへのエネルギーの蓄積と前記平滑コンデンサへの充電とを切り替えるスイッチング素子と、
を有する昇圧チョッパ回路と、を備えた力率改善コンバータにおいて、
前記ダイオードに並列に配設され、ソースが前記ダイオードのアノードに、ドレインが前記ダイオードのカソードに接続されたMOS−FETと、
前記MOS−FETをオンさせて電流を流すための昇圧PWM信号発生回路と、
を備えた力率改善コンバータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記昇圧PWM信号発生回路は、前記スイッチング素子と前記MOS−FETとを切り替えてオンさせることを特徴とする力率改善コンバータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記切り替えに際し、前記スイッチング素子と前記MOS−FETとの双方をオフとする期間であるデッドタイムを設けたことを特徴とする力率改善コンバータ。
【請求項4】
請求項1において、
前記MOS−FETの電圧降下が前記ダイオードの電圧降下よりも大きくなる場合には、前記ダイオードにのみ電流を流すため前記昇圧PWM信号発生回路によって前記MOS−FETをオフすることを特徴とする請求項1の力率改善コンバータ。
【請求項5】
圧縮機と、
前記圧縮機の回転数制御に用いられるインバータと、
前記インバータと電源からの交流電流を整流する全波整流回路との間に設けられ、ダイオードと並列に設けられたMOS−FETとを有する力率改善コンバータと、を備え、
設定室温と実際室温との温度差に基づいて前記圧縮機の回転数/入力電流を制御する冷凍サイクル装置であって、
|設定室温−実際室温|<2℃の場合に、前記MOS−FETに断続的に電流を流す昇圧PWM信号発生回路を備えた冷凍サイクル装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記冷凍サイクル装置は、空気調和機,冷蔵庫,ショーケース,ヒートポンプ給湯機のうちのいずれか一つであることを特徴とする。
【請求項7】
交流電源からインダクタンスを利用して所望の大きさの直流電圧に変換する交流−直流変換回路において、オン時に電源のエネルギーをリアクトルに蓄積する昇圧チョッパ回路のスイッチング素子と当該スイッチング素子がオフした時にリアクトルの電流を平滑コンデンサにエネルギーを放出するためのダイオードにより構成される昇圧チョッパ回路のダイオードにMOS−FETを並列接続するようにダイオードのカソードにMOS−FETの高圧側端子を、ダイオードのアノードにMOS−FETの低圧側端子を接続し、かつ、MOS−FETの低圧側端子から高圧側端子の方向に電流を流すようにMOS−FETを駆動することを特徴とする力率改善コンバータ。
【請求項8】
昇圧チョッパ回路のスイッチング素子の動作を制御して力率改善及び直流電圧の制御を行う力率改善手段を備え、昇圧チョッパ回路のスイッチング素子がオフしている期間に、昇圧チョッパ回路のダイオードに並列にMOS−FETをオンする制御手段を備えたことを特徴とする請求項7の力率改善コンバータ。
【請求項9】
昇圧チョッパ回路のスイッチング素子がオフする時間タイミングと、昇圧チョッパ回路のダイオードに並列にMOS−FETをオンする時間タイミングの間に、また、スイッチング素子がオンする時間タイミングと、昇圧チョッパ回路のダイオードに並列にMOS−FETをオフする時間タイミングの間に、スイッチング素子とMOS−FETが共にオフする時間を設けたことを特徴とする請求項8の力率改善コンバータ。
【請求項10】
通流する電流の大きさに依存して発生するダイオードの電圧降下と、これに並列に接続されるMOS−FETの電圧降下を比べて、MOS−FETの電圧降下がダイオードの電圧降下よりも少ない電流の区間はMOS−FETをオン/オフを制御し、逆に、MOS−FETの電圧降下がダイオードの電圧降下よりも大きい電流の区間はMOS−FETを常にオフすることを特徴とする請求項7の力率改善コンバータ。
【請求項11】
昇圧チョッパ回路のスイッチング素子と当該スイッチング素子がオフした時にリアクトルの電流を平滑コンデンサに通流するためのダイオードと、これに並列にMOS−FETを接続した構成よりなる力率改善の制御を行う力率改善手段を備え、前記力率改善手段と、インバータでモータの通流相を切り換えて前記モータの速度制御を行う速度制御手段を備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−135162(P2012−135162A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286920(P2010−286920)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】