説明

力覚コントローラ装置及びその制御方法

【課題】 操作をパワーアシストするとともに、手触り感など微妙な感覚を操作者に効率的に伝達することができるようにする。
【解決手段】 本発明の力覚コントローラ装置1は、制御対象15に対する操作を入力するための操作端2を含む操作機構3と、該操作端2に加えられたトルクを検出する操作力検出部5と、操作端2の現在位置を検出する現在位置検出部6と、制御対象15に加わる外力を入力する外力入力部8と、操作端2を駆動する駆動部9と、前記操作力に応じて操作端2に対する操作をアシストするとともに、外力Dに応じて操作端2に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて操作端2の目標位置を算出し、該目標位置及び前記現在位置に基づいて操作端2を該目標位置に追従させるように駆動部9を制御する力覚制御部10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現実世界又は仮想世界の重機やロボット等の機械を制御するとき、その機械で生じる力覚情報を操作者に提示することが可能な力覚コントローラ装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被災地や遠隔地での支援活動、又は病院内での介護・介助活動及び手術では、機械を遠隔操作して緻密な作業を行うことが求められつつある。しかしながら、現場の画像情報のみでは、遠隔で機械を操作する場合、操作者が作業対象に合わせて機械の力加減を制御することが困難となり、作業対象に過大な力が加わり、作業対象を傷つけてしまう可能性が生じる。このような場合、機械で生じる力加減を機械操作用のコントローラに帰還して力覚を操作者に提示することで、作業対象に合わせた力加減を制御することが可能となる。また、前記活動等に備え、仮想世界において機械に生じる力加減を前記コントローラに帰還し、力覚を操作者に提示するように構成すれば、前記機械の遠隔操作の訓練が可能になる。
【0003】
そこで、遠隔で機械を操作する場合、作業中の機械で生じる触覚を操作者に提示するために、多種多様な力覚提示デバイスが開発されてきた。力覚提示デバイスはロボットが物体に触れたときの物体からの反力、形状、質感などを提示することを目的とするデバイスである。従来の力覚提示デバイスの多くは、直列又は並列リンク機構や、紐の張力を利用した紐張力型機構が用いられてきた。例えば、特許文献1に記載された力覚インターフェース装置では、3軸の並列リンク機構の回転運動及び1軸の直線運動により力覚を表現している。また、特許文献2に記載された力覚インターフェース装置では、6自由度の並列リンク機構により力覚を表現している。これらの力覚インターフェース装置では、パラレル機構を使用することで、操作状態を検出するセンサや力覚を生じさせるアクチュエータといった付加的な部材を操作部分ではなく、支持部分に設けている。これにより、操作部分の質量を軽減させ、操作性の向上及び長時間操作時における操作者の疲労の軽減を図っている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−181618号公報
【特許文献2】特開2000−148382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の力覚インターフェース装置は、パラレル機構を使用することにより操作部分の質量及び慣性力を軽減させてはいるが、依然として操作部分の質量及び慣性力は存在している。この操作部分の質量及び慣性力が力覚を鈍らせたり歪ませたりするので、遠隔で生じる手触り感等のきめ細かな感覚を力覚デバイスで実現することは難しいという課題がある。
【0006】
また、パラレル機構を採用しているので、力覚インターフェース装置が大型化、重量化するという課題がある。特に、多自由度に渡ってスムーズな操作性を備えさせるためには、各自由度を実現する機構を共通化しなければならず、多軸のパラレル機構を採用する必要があり、装置が非常に大型化する要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1の発明の力覚コントローラ装置は、
制御対象に対する操作を入力するための可動部を含む操作機構と、
該可動部に加えられた操作力を検出する操作力検出手段と、
前記可動部の現在位置を検出する現在位置検出手段と、
前記制御対象に加わる外力を入力する外力入力手段と、
前記可動部を駆動する駆動手段と、
前記操作力に応じて前記可動部に対する操作をアシストするとともに、前記外力に応じて該可動部に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて前記可動部の目標位置を算出し、該目標位置及び前記現在位置に基づいて前記可動部を該目標位置に追従させるように前記駆動手段を制御する力覚制御手段と
を備えている。
【0008】
この構成によれば、前記操作力に応じて前記可動部に対する操作をアシストするとともに、前記外力に応じて該可動部に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて算出した前記目標位置へ前記可動部を追従させるようになっている。このため、次の効果が得られる。
(1)前記目標位置を前記操作力に基づいて算出しているので、前記可動部を操作する操作者のパワーアシストを行うことができ、前記操作機構の機械的・物理的構成に関わらず、前記可動部を小さい力で移動させることができ、操作性の向上及び長時間操作時における操作者の疲労の軽減が可能になる。
(2)前記目標位置を前記外力に比例した力に基づいて算出しているので、前記操作者に対し前記可動部を介して前記外力に応じた力覚を提示することができる。
(3)前記目標位置を、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて算出しているので、前述の通り、前記可動部が小さい力で移動できるとともに、該可動部を介して前記力覚を提示することができる。従って、前記可動部の操作に力を要しないようになっているので、前記可動部を介して手触り感など微妙な感覚を操作者に効率的に伝達することができる。
(4)前記力覚制御手段により、前記制御対象と前記可動部の構造が異構造であっても、該制御対象に与えられる外力を正確かつ安定に該可動部を介して力覚として提示することができる。
【0009】
また、従来技術とは異なり、パラレル機構等の特別な機構を必要としないので小型軽量化を容易に行うことができる。
【0010】
第2の発明の力覚コントローラ装置としては、前記第1の発明において、
前記操作機構は、少なくとも一つの支軸を中心に回動自在に支持された前記可動部を備え、
前記操作力検出手段は、前記操作力として、前記支軸まわりに生ずるトルクを検出し、
前記現在位置検出手段は、前記現在位置として、前記支軸を中心とする前記可動部の回転角度を検出し、
前記駆動手段は、前記支軸を中心に前記可動部を回転駆動するように構成された態様を例示する。
【0011】
この構成によれば、前記第1の発明の力覚コントローラ装置を容易に実現することができる。
【0012】
第3の発明の力覚コントローラ装置としては、前記第2の発明において、
前記操作機構は、ベース部に支持された第一支軸を中心に回動自在に支持された第一可動部と、該第一支軸に直交するようにして該第一可動部に配設された第二支軸を中心に回動自在に支持された第二可動部とを備え、
前記操作力検出手段は、前記操作力として、前記第一支軸及び第二支軸まわりに生ずるそれぞれのトルクを検出し、
前記現在位置検出手段は、前記現在位置として、前記第一支軸及び前記第二支軸を中心とする前記第一可動部及び前記第二可動部の回転角度を検出し、
前記駆動手段は、前記第一支軸及び前記第二支軸を中心に前記第一可動部及び第二可動部をそれぞれ回転駆動するように構成された態様を例示する。
【0013】
この構成によれば、前記第2の発明の力覚コントローラ装置を少なくとも2自由度を備えたものとして実現できる。
【0014】
第4の発明の力覚コントローラ装置としては、前記第3の発明において、
前記駆動手段は、前記ベース部に支持されており、
前記第二支軸は、一対の自在継手と該両自在継手の間を連結する伸縮軸とを含むリンク部を介して前記駆動手段に連結され、
該駆動手段は、該第二支軸を介して前記第二可動部を駆動するように構成された態様を例示する。
【0015】
この構成によれば、前記ベース部に支持された前記駆動手段の駆動力が前記動力伝動部を介して前記第二可動部に伝達されるように構成されているので、第二可動部を駆動するための駆動手段を前記第一可動部に支持させる場合と比較し、前記第一可動部の質量を軽減させ、前記駆動手段の負荷の軽減が可能になる。
【0016】
第5の発明の力覚コントローラ装置としては、前記第1〜4のいずれかの発明において、
前記可動部は、無負荷状態において所定の原点位置になるように重量バランスされた態様を例示する。
【0017】
この構成によれば、前記可動部の構造が非対称である場合でも、該可動部の動作の動特性を略対称となるようにすることができる。
【0018】
また、第6の発明の力覚コントローラ装置の制御方法は、
制御対象に対する操作を入力するための可動部を含む操作機構と、
該可動部に加えられた操作力を検出する操作力検出手段と、
前記可動部の現在位置を検出する現在位置検出手段と、
前記制御対象に加わる外力を入力する外力入力手段と、
前記可動部を駆動する駆動手段と
を備えた力覚コントローラ装置の制御方法であって、
前記操作力に応じて前記可動部に対する操作をアシストするとともに、前記外力に応じて該可動部に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて前記可動部の目標位置を算出し、該目標位置及び前記現在位置に基づいて前記可動部を該目標位置に追従させるように前記駆動手段を制御するようにしている。
【0019】
本方法によっても、前記第1の発明と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る力覚コントローラ装置及びその制御方法によれば、操作をパワーアシストするとともに、手触り感など微妙な感覚を操作者に効率的に伝達することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を力覚コントローラ装置に具体化した一実施形態について、同装置を使用して実施する制御方法とともに、図1〜図8を参照して説明する。
【0022】
図1〜図4に示すように、本力覚コントローラ装置1は、制御対象15に対する操作を入力するための可動部としての操作端2を含む操作機構3と、操作端2の動作範囲を制限するためのリミットスイッチ4と、該操作端2に加えられた操作力を検出する操作力検出部5と、操作端2の現在位置を検出する現在位置検出部6と、操作力T及び前記現在位置に応じて制御対象15に制御指令を出力する制御指令出力部7と、制御対象15に設けられた外力センサ16を介して制御対象15に加わる外力Dを入力する外力入力部8と、操作端2を駆動する駆動部9と、操作力T及び外力Dに基づいて駆動部9を制御する力覚制御部10とを備えている。本例では、力覚コントローラ装置1の制御対象15は先端に物体を把持するための一対の把持手段(図示略)を備えたロボットハンドであり、力覚コントローラ装置1により、該ロボットハンド先端の位置を任意平面内において二次元方向に移動させるとともに、前記把持手段(図示略)により物体を把持させるようになっているものとする。
【0023】
操作機構3は、ベース部としての台座部20と、該台座部20の上に間隔をおいて立設された一対の支持フレーム21,22と、該両支持フレーム21,22に回転自在に支持された第一支軸としてのX支軸23と、該X支軸23に固定された枠状の第一可動部24と、X支軸23に直交するようにして該第一可動部24に回転自在に支持された第二支軸としてのY支軸25と、該Y支軸25に固定された枠状の第二可動部26と、X支軸23及びY支軸25に直交するようにして該第二可動部26に回転自在に支持された操作端2とを備えている。操作端2は、レバー27と、該レバー27の先端に取り付けられたグリップ部28とを備えている。このように操作機構3は、操作端2のレバー27に対し、X支軸23の長さ方向及びY支軸25の長さ方向が非対称の構造となっているが、無負荷状態において、操作端2のレバー27が略垂直に起立した状態(原点位置にある状態)となるように重量バランスを設計することにより、レバー27の動作の動特性が略対称となるようにしている。
【0024】
操作力検出部5は、操作端2を介して加えられる操作力TとしてX支軸23まわりに生ずるトルクを検出する第一トルクセンサ30と、同Y支軸25まわりに生ずるトルクを検出する第二トルクセンサ31とを備えている。本例では、各トルクセンサ30,31として、トルクを非接触で検出する磁歪検出式のものを採用している。
【0025】
現在位置検出部6は、X支軸23を中心とした、台座部20に対する第一可動部24の回転角度を検出する第一角度センサ35aと、Y支軸25を中心とした、第一可動部24に対する第二可動部26の回転角度を検出する第二角度センサ36aと、レバー27を中心とした、第二可動部26に対する操作端2の回転角度を検出する第三角度センサ39とを備えている。本例では、第一角度センサ35a及び第二角度センサ36aとして、後述するX駆動モータ35及びY駆動モータ36にそれぞれ内蔵された角度センサを利用している。なお、X駆動モータ35及びY駆動モータ36に角度センサが内蔵されていない場合は、第一角度センサ35a及び第二角度センサ36aとして、それぞれ別途設置した角度センサ40,41を利用する。
【0026】
制御指令出力部7は、制御対象15としてのロボットハンドに対し、次の指令を出力するように構成されている。
(1)操作端2に加えられる操作力Tに応じたロボットハンド先端の移動指令(移動速度指令、移動目標位置指令等)。
(2)第一角度センサ35a及び第二角度センサ36aにより検出された現在位置に応じたロボットハンド先端の移動目標位置指令。
(3)第三角度センサ39により検出された現在位置に応じたロボットハンド先端における把持手段の開閉角度指令。
【0027】
外力入力部8は、制御対象15の把持手段先端に取り付けられた外力センサ16から外力情報(例えば圧力情報等)を入力するためのインターフェースとなっており、入力した外力情報を力覚制御部10に渡すように構成されている。
【0028】
駆動部9は、台座部20にそれぞれ支持部材20a,20bを介して支持されたX駆動モータ35及びY駆動モータ36と、第二可動部26に支持されたZ駆動モータ37とを備えている。X駆動モータ35及びY駆動モータ36としては、操作端2に力覚を提示する緻密な駆動を可能にするためにダイレクトドライブサーボモータを採用している。また、Z駆動モータ37としては直流モータを採用している。X駆動モータ35の回転軸はX支軸23に連結されている。Y駆動モータ36の回転軸は、リンク部38を介してY支軸25に連結されている。リンク部38は、一対の自在継手38a,38bと、該両自在継手の間を連結する伸縮軸38cとを含んでいる。Z駆動モータ37の回転軸は、レバー27に連結されている。
【0029】
力覚制御部10は、操作力Tに応じて操作端2に対する操作をアシストするとともに、外力Dに応じて該操作端2に力覚を提示するように、操作力T及び外力Dを任意の比率で合成した力に基づいて操作端の目標位置を算出し、該目標位置及び現在位置(現在位置検出部6で検出。)に基づいて操作端2を該目標位置に追従させるようにX駆動モータ35及びY駆動モータ36を制御するように構成されている。本例では、この力覚制御部10に、DSP(Digital Signal Processor)(図示略)を採用し、該DSPにより高精度なトルク制御を高速信号処理により、例えば10kHzのサンプリング間隔でハイレートに実現するようにしている。
【0030】
以下では、力覚制御部10による制御方法の具体化例について説明する。
【0031】
X駆動モータ35及びY駆動モータ36に採用している1軸のダイレクトドライブモータの数学モデルを(1)式で示す。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、Jはモータの回転子慣性モーメント(25.0×10-4[kg・m2]),cは軸の粘性摩擦係数(0.710[kg・m2/s]である。
【0034】
各軸周りの回転スティックの重心は回転軸上にあり、操作端の運動エネルギーE,Eはモータの回転子慣性モーメントJ,Jによる慣性力のみと考えると次式で表される。
【0035】
【数2】

【0036】
また、モータ軸受の粘性摩擦D,Dは、次式で表される。
【0037】
【数3】

【0038】
これらを(2)式で表されるラグランジュの運動方程式に代入すると、1自由度における操作端2の運動方程式は(3)式で得られる。
【0039】
【数4】

【0040】
この操作端2をPID制御した場合では制御性能が悪く、精度の良い力覚を実現することが難しい。そこで、最適レギュレータ理論を用いて状態フィードバック係数を求め、制御系を設計する。
【0041】
(3)式の中で状態変数を
【0042】
【数5】

【0043】
としたとき、状態方程式及び出力方程式
【0044】
【数6】

【0045】
は(4)式、(5)式で表される。
【0046】
【数7】

【0047】
次に、設定値に対する定常偏差をなくすために、積分要素を入れた積分追従型最適レギュレータ理論を用いる。積分追従型最適サーボ系のブロック線図は図5に示す。図5中の破線で囲まれた部分が(4)(5)式で表される操作端2のモデルである。操作者が操作端2を操作すると、操作端2へ加える操作力Tからロボットへの外力Dを引いた値が目標角度算出部に入力され、設定値rが計算される。積分追従型最適サーボ系は操作力Tに基づいて操作者の操作端2の操作をパワーアシストするとともに、外力Dに基づいて、操作端2に力覚を提示するように、モータを目標位置に追従させる。操作者は、このときに提示される力覚により制御対象に加わっている外力Dを感じることができる。
【0048】
図5に相当する力覚コントローラ装置1に対しては、(6)式、(7)式、(8)式が成り立つ。
【0049】
【数8】

【0050】
ここで、状態変数を
【0051】
【数9】

【0052】
とした拡大系を次式の通り構成する。
【0053】
【数10】

【0054】
このとき、y(t)が目標値rとなるようなx(t),u(t),w(t)の定常値x,u,wは次式を満足する。
【0055】
【数11】

【0056】
そこで、次式の通り定義する。
【0057】
【数12】

【0058】
すると、(9)式、(10)式より次式が得られる。
【0059】
【数13】

【0060】
また、力覚コントローラ装置1は次式で表される。
【0061】
【数14】

【0062】
評価のための指標Jを与え、その指標に従って最も適した制御則を見出す設計法である最適レギュレータを用いることで、フィードバック係数Kを唯一に決定することができる。評価するための指標は評価関数と呼ばれ、可制御な多入力システム
【0063】
【数15】

【0064】
に対して、次の二次形式評価関数をとる。
【0065】
【数16】

【0066】
ここでQ(n × n),R(n × m)は重み行列で、このときのJを最小にする最適フィードバック制御入力U0
【0067】
【数17】

【0068】
である。ここにU0は一意に決まり、そのときの最小値は次式で与えられる。
【0069】
【数18】

【0070】
なお、Pは任意の(n × n)対称行列で、次のリカッチ型行列方程式の唯一な正定値の解である。
【0071】
【数19】

【0072】
次に、力覚コントローラ装置1の3次元モデルにおける操作端2の幾何学関係を図6から導出する。操作端2の長さをrとし、x,y,z空間内における操作端2の先端の座標を(x,y,z)とする。x軸、y軸の2軸に設置されたX駆動モータ35、Y駆動モータ36の回転角度をθ,θとし、z軸と操作端2のなす角度をθとする。操作端2のxy平面における射影とx軸のなす角度をφとし、操作端2に生じる操作力Tのx軸、およびy軸方向の大きさをT,Tとすると、T,Tは(19)式、(20)式によって計算される。また、Y駆動モータ36及びX駆動モータ35でそれぞれ発生するトルクτ,τは(21)式、(22)式で計算される。
【0073】
【数20】

【0074】
次に、操作端2に力覚を発生するための力覚制御部10における制御方法について説明する。操作者が操作端2へ加える操作力Tの分力をT,T、制御対象15への外力Dの分力をD,D、また制御対象15と操作端2で発生させる力覚の抵抗比係数をkとし、操作端2のx,y,z空間内での目標位置を(23)式、(24)式で設定する。kは比例係数である。
【0075】
【数21】

【0076】
(23)式、(24)式で設定された操作端2の目標位置から(25)式、(26)式を用いて、操作端2の各モータ35,36の目標角度θ,θを計算する。rは操作端の長さである。
【0077】
【数22】

【0078】
上述の式によって計算した操作端2の変位からその変位を行うために必要な各モータ36,35に負荷されるトルクτ,τを(21)式、(22)式を用いて計算し、各モータ36,35に外乱として入力する。操作端2はこの外乱入力により、積分追従型最適サーボ系による制御により、操作者の操作による目標位置に制御される。
【0079】
次に、操作端2を操作したときの力覚制御部10における制御方法について説明する。トルクセンサ30,31からそれぞれT,Tが検出されると、(19)式、(20)式の関係から各モータ35,36の目標値となるθ,θが計算される。そして、上述の積分追従型最適サーボ系によってθ,θを目標として操作端2が動作する。操作端2から手を離さずに保持している場合には、操作端2に生じるトルク値T,Tは一定となるため、目標値θ,θも一定となり、操作端2は目標値付近で保持される。操作端2から手を離すと、トルク値T,Tは0となり、これらから計算される目標値θ,θは0となり、操作端2は原点(レバー27が垂直に起立した状態)に復帰する。入力されたトルク値T,Tは制御対象15に対する速度指令や位置指令等に使われる。
【0080】
以上のように構成された力覚コントローラ装置1の一連の動作例について説明する。操作機構3に操作入力が与えられると、操作力検出部5によって操作力(トルク)Tが検出されるとともに、現在位置検出部6によって角度が検出される。これらのトルク情報及び角度情報は、制御指令出力部7及び力覚制御部10に出力される。制御指令出力部7では、トルク情報及び角度情報に基づいて制御対象15に対し制御指令を出力する。また、力覚制御部10では、外力センサ16から出力される外力情報と、トルク情報及び角度情報とに基づいて操作機構3の制御量を計算し、それを実現するように駆動部9へ力覚指令を出力する。
【0081】
次に、本例の力覚コントローラ装置1の実施例について説明する。この実験例では、制御指令出力部7及び力覚制御部10として、クロック周波数2.2GHzのマイクロプロセッサ(Intel社製、製品名:Celeron(登録商標))と、256MBのメモリとを搭載したホストコンピュータに対し、8チャンネルのAD変換機、8チャンネルのDA変換機を有するコントローラ(dSPACE社製、製品名:DS1104PPC)を設置したものを使用した。このコントローラに対し、外力センサ16として最大4.4Nの力を計測できる圧力センサ(ニッタ社製、製品名:Flexi Force A101-1)と、駆動部9の駆動モータ35,36としてサーボドライバ(安川電機社製、製品名:SGDS-02F01A)で駆動されるダイレクトドライブモータ(安川電機社製、製品名:SGMCS-02B3B11)と、操作力検出部5のトルクセンサ30,31としてトルクデューサ(クボタ社製、製品名:TD-002)とを接続した。この実施例の制御実験結果を図7及び図8に示す。これらの図は、制御対象15における外力センサ16により検出した外力(External Force)Dと、操作端2により操作者に提示した力覚(Sense of Force)を図示したものであり、図7は本例による積分追従型最適サーボ系の場合、図8は比較例として力覚制御部10にPID制御を用いた場合の結果を示している。図8のように、PID制御を用いた場合は、外力Dと力覚にずれが見られる。一方、図7のように、本例の積分追従型最適サーボ系を用いた場合は、精度の良い力覚を実現できることが確認された。
【0082】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)力覚コントローラ装置1の力覚制御部10又は制御指令出力部7は、マイクロプロセッサ及びメモリ(いずれも図示略)を内蔵するとともに、該メモリ(図示略)に書き込まれた制御プログラムよって諸機能を実現することができる。この制御プログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することができる。また、前記マイクロプロセッサにより実現された諸機能の全部又は一部をマイクロプロセッサを含まないハードウェア回路に置き換えることもできる。
(2)力覚コントローラ装置1の操作機構3における自由度数を適宜変更すること。
(3)力覚制御部10における制御方法を具体化する制御方式として、積分追従型最適サーボ系制御方式に代えて、PID制御等の他の制御方式を採用すること。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る力覚コントローラ装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】同力覚コントローラ装置の機械的構成を示す正断面図である。
【図3】同力覚コントローラ装置の機械的構成を示す平断面図である。
【図4】同力覚コントローラ装置の機械的構成を示す側断面図である。
【図5】同力覚コントローラ装置の制御ブロック図である。
【図6】同力覚コントローラ装置の制御モデル図である。
【図7】同力覚コントローラ装置の制御実験結果を示す図である。
【図8】力覚制御部にPID制御を用いた場合の力覚コントローラ装置の制御実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 力覚コントローラ装置
2 操作端
3 操作機構
4 リミットスイッチ
5 操作力検出部
6 現在位置検出部
7 制御指令出力部
8 外力入力部
9 駆動部
10 力覚制御部
15 制御対象
16 外力センサ
20 台座部
21 支持フレーム
22 支持フレーム
23 X支軸
24 第一可動部
25 Y支軸
26 第二可動部
27 レバー
28 グリップ部
30 第一トルクセンサ
31 第二トルクセンサ
35 X駆動モータ
35a 第一角度センサ
36 Y駆動モータ
36a 第二角度センサ
37 Z駆動モータ
38 リンク部
38a 自在継手
38b 自在継手
38c 伸縮軸
39 第三角度センサ
D 外力
T 操作力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象に対する操作を入力するための可動部を含む操作機構と、
該可動部に加えられた操作力を検出する操作力検出手段と、
前記可動部の現在位置を検出する現在位置検出手段と、
前記制御対象に加わる外力を入力する外力入力手段と、
前記可動部を駆動する駆動手段と、
前記操作力に応じて前記可動部に対する操作をアシストするとともに、前記外力に応じて該可動部に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて前記可動部の目標位置を算出し、該目標位置及び前記現在位置に基づいて前記可動部を該目標位置に追従させるように前記駆動手段を制御する力覚制御手段と
を備えた力覚コントローラ装置。
【請求項2】
前記操作機構は、少なくとも一つの支軸を中心に回動自在に支持された前記可動部を備え、
前記操作力検出手段は、前記操作力として、前記支軸まわりに生ずるトルクを検出し、
前記現在位置検出手段は、前記現在位置として、前記支軸を中心とする前記可動部の回転角度を検出し、
前記駆動手段は、前記支軸を中心に前記可動部を回転駆動するように構成された請求項1記載の力覚コントローラ装置。
【請求項3】
前記操作機構は、ベース部に支持された第一支軸を中心に回動自在に支持された第一可動部と、該第一支軸に直交するようにして該第一可動部に配設された第二支軸を中心に回動自在に支持された第二可動部とを備え、
前記操作力検出手段は、前記操作力として、前記第一支軸及び第二支軸まわりに生ずるそれぞれのトルクを検出し、
前記現在位置検出手段は、前記現在位置として、前記第一支軸及び前記第二支軸を中心とする前記第一可動部及び前記第二可動部の回転角度を検出し、
前記駆動手段は、前記第一支軸及び前記第二支軸を中心に前記第一可動部及び第二可動部をそれぞれ回転駆動するように構成された請求項2記載の力覚コントローラ装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記ベース部に支持されており、
前記第二支軸は、一対の自在継手と該両自在継手の間を連結する伸縮軸とを含むリンク部を介して前記駆動手段に連結され、
該駆動手段は、該第二支軸を介して前記第二可動部を駆動するように構成された請求項3記載の力覚コントローラ装置。
【請求項5】
前記可動部は、無負荷状態において所定の原点位置になるように重量バランスされた請求項1〜4記載のいずれか一項に記載の力覚コントローラ装置。
【請求項6】
制御対象に対する操作を入力するための可動部を含む操作機構と、
該可動部に加えられた操作力を検出する操作力検出手段と、
前記可動部の現在位置を検出する現在位置検出手段と、
前記制御対象に加わる外力を入力する外力入力手段と、
前記可動部を駆動する駆動手段と
を備えた力覚コントローラ装置の制御方法であって、
前記操作力に応じて前記可動部に対する操作をアシストするとともに、前記外力に応じて該可動部に力覚を提示するように、前記操作力及び前記外力を任意の比率で合成した力に基づいて前記可動部の目標位置を算出し、該目標位置及び前記現在位置に基づいて前記可動部を該目標位置に追従させるように前記駆動手段を制御するようにした力覚コントローラ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−312207(P2006−312207A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135216(P2005−135216)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(505167196)有限会社アイディアル技研 (1)
【Fターム(参考)】