加工を高精度化するサーボ制御システム
【課題】角度同期方式の長所を生かしつつ、基準角度が与えられない場合でも角度同期方式の学習制御の適用を可能にするサーボ制御システムの提供。
【解決手段】サーボ制御システム10は、各軸を駆動するX軸サーボモータ12、Y軸サーボモータ14及びZ軸サーボモータ16をそれぞれ制御するX軸サーボ制御装置18、Y軸サーボ制御装置20及びZ軸サーボ制御装置22を有する。またX軸サーボ制御装置18及びY軸サーボ制御装置20は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部28及び32をそれぞれ有し、学習制御器26及び30は該基準信号に基づいて学習制御を行う。
【解決手段】サーボ制御システム10は、各軸を駆動するX軸サーボモータ12、Y軸サーボモータ14及びZ軸サーボモータ16をそれぞれ制御するX軸サーボ制御装置18、Y軸サーボ制御装置20及びZ軸サーボ制御装置22を有する。またX軸サーボ制御装置18及びY軸サーボ制御装置20は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部28及び32をそれぞれ有し、学習制御器26及び30は該基準信号に基づいて学習制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数軸の協調動作を行う工作機械において、加工精度を高める機能を備えたサーボ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械において複数軸の協調動作を行う場合、特に、X軸及びY軸を用いて円弧形状を加工する場合には、高精度な加工が求められる。従来の制御システムでは、サーボ制御の追従遅れ、特に反転時の遅れのため、円弧の象限部分の精度を高めることが困難であった。
【0003】
一方、繰り返し指令に対して高速かつ高精度な追従性を実現する方法として、学習制御(繰り返し制御)がある。学習制御には時間を基準として学習する時間同期方式(例えば特許文献1参照)と、角度を基準として学習する角度同期方式とがある。例えば特許文献2では、繰り返し指令されるパターンにおける形状の位置に対応して補正データを記憶しておき、位置に対応して位置偏差を補正する学習制御により、速度変動があっても位置偏差を小さくできる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−175502号公報
【特許文献2】特開2004−280772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
時間同期方式は、加工の開始から終了までの時間にわたり遅延メモリが必要となるので、加工時間が比較的長い場合は大容量の遅延メモリが必要となる。また、同じ形状の加工であって加工速度が異なる場合は、別の遅延メモリが必要となる。一方角度同期方式では、加工時間が長い場合や加工速度が異なる場合における不都合はないが、指令の繰り返し動作に同期して単調増加(一方向に変化)する基準角度(基準位置)が必要となるため、往復動作をするような基準位置の動きでは、角度同期方式を適用することはできなかった。
【0006】
特許文献2の図3の説明にあるように、サンプリング時に得られた参照位置がΘ(n)であり、該参照位置Θ(n)の前後のグリッド位置θ(m),θ(m+1)に対応する補正データがδ(m),δ(m+1)であったとすると、参照位置Θ(n)に対応する補正データδ(n)は次式による補間計算で求めることになる。
δ(n)=δ(m)+{Θ(n)−θ(m)}・{δ(m+1)−δ(m)}/{θ(m+1)−θ(m)}
この参照位置Θが単調増加あるいは単調減少でないと、参照位置Θに対する補正データδが複数存在することになり、正しい補正データを求めることができなくなる。
【0007】
そこで本発明は、角度同期方式の長所を生かしつつ、基準角度が与えられない場合でも角度同期方式の学習制御の適用を可能にするサーボ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工作機械又は産業機械において、互い直交する2軸を含む複数の軸の協調動作による円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる加工形状を加工する制御システムであって、前記加工形状を加工するための位置指令を前記複数の軸のサーボモータに分配する上位制御装置と、前記位置指令に基づいて各軸のサーボモータを駆動して、被駆動体を動作させる複数のサーボ制御装置と、前記サーボモータの位置又は前記被駆動体の位置を検出する位置検出部と、サンプリング周期毎に前記位置指令と検出された前記サーボモータの位置フィードバックとの偏差を演算する位置偏差演算部と、自軸又は他軸の位置指令又は位置フィードバックから、一方向に変化する基準信号を計算する基準信号生成部と、前記基準信号、前記位置指令及び前記位置偏差に基いて学習制御を行う学習制御部と、を有する、サーボモータ駆動制御システムを提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記基準信号生成部は、円弧中心を基準としたX軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、前記X軸の位置と前記Y軸の位置との比の逆正接関数により求めた角度位置を基準信号として生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記基準信号生成部は、協調動作をする互いに相手の軸の位置指令又は位置フィードバックに基づき、サンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算して基準信号を生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合に、前記基準信号生成部は、X軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値と、Y軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値との和を、基準信号として生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記加工形状がヘリカル補間の場合に、前記基準信号生成部は、ヘリカル軸の位置指令又は位置フィードバックを基準信号して生成する、サーボ制御システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置指令又は位置フィードバックから一方向に変化する基準信号を求めることにより、角度同期方式の学習制御が適用できるようになる。
【0014】
円弧形状の加工をする場合、X軸の指令位置とY軸の指令位置から基準信号を計算できる。該基準信号は単調増加で一定速となるので、基準信号として使いやすい信号が作成できる。
【0015】
基準信号として、他軸の移動量の絶対値の積算値を使用することにより、少ない計算量で単調増加の基準信号が作成できる。また、自らの指令位置ではなく、相手の指令位置を使用することで、精度が必要とされる反転時の変化量が大きく取れるので、有利である。
【0016】
X軸の移動指令とY軸の移動指令の絶対値の積算和を使用することにより、基準信号として使いやすい単調増加で一定に近い信号を少ない計算量で作成できる。また、この基準信号はほぼ加工形状の長さを表しているので、円弧だけでなく多角形にも適用可能である。
【0017】
一定で動くヘリカル軸の指令位置を基準信号とすることにより、計算が不要で、単調増加で一定速となる、使いやすい基準信号が作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るサーボ制御システムの基本構成を示す図である。
【図2】図1のサーボ制御システムが有する角度同期学習制御器の一構成例を示す図である。
【図3】発明に係るサーボ制御システムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】加工形状の一例として円弧を示す図である。
【図5】加工形状が円弧である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図6】円弧加工の場合の基準信号の第1の生成方法を説明する図である。
【図7】円弧加工の場合の基準信号の第2の生成方法を説明する図である。
【図8】円弧加工の場合の基準信号の第3の生成方法を説明する図である。
【図9】加工形状の一例として三角形を示す図である。
【図10】加工形状の一例としてR付き四角形を示す図である。
【図11】加工形状の一例として八角形を示す図である。
【図12】加工形状が三角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図13】加工形状がR付き四角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図14】加工形状が八角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図15】加工形状が三角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図16】加工形状がR付き四角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図17】加工形状が八角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図18】加工形態の一例としてヘリカル加工を示す図である。
【図19】ヘリカル加工を行う場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係るサーボ制御システムの基本構成を示す図である。サーボ制御システム10は、協調動作を行う互いに直交する少なくとも2軸(図示例ではX,Y,Zの3軸)を含むマシニングセンタ等の工作機械又は産業機械において使用され、各軸を駆動するX軸サーボモータ12、Y軸サーボモータ14及びZ軸サーボモータ16をそれぞれ制御するX軸サーボ制御装置18、Y軸サーボ制御装置20及びZ軸サーボ制御装置22を有する。各サーボ制御装置は、NC等の上位制御装置24から送られる各軸の位置指令(図示例ではX軸指令、Y軸指令及びZ軸指令)に基づいて速度指令を作成し、該速度指令によって各サーボモータを制御する。
【0020】
X軸サーボ制御装置18は、角度同期方式の学習制御部(学習制御器)26を有し、学習制御器26は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られる周期的なX軸の位置指令と、X軸サーボモータ12又はX軸サーボモータ12により駆動される工具等の被駆動体(図示せず)の位置フィードバック(FB)との偏差に基づいてX軸サーボモータ12の制御のための補正量を作成し、該補正量及び該偏差はゲインKpを介してX軸サーボ速度指令としてX軸サーボモータ12の制御に使用される。位置フィードバックは、X軸サーボモータ12又は被駆動体のX位置を検出する位置検出部27によって得られる。またX軸サーボ制御装置18は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部28を有し、学習制御器26は該基準信号に基づいて学習制御を行う。この詳細については後述する。
【0021】
同様に、Y軸サーボ制御装置20は、角度同期方式の学習制御部(学習制御器)30を有し、学習制御器30は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られる周期的なY軸の位置指令と、Y軸サーボモータ14又はY軸サーボモータ14により駆動される被駆動体(図示せず)の位置をフィードバックとの偏差に基づいてY軸サーボモータ14の制御のための補正量を作成し、該補正量及び該偏差はゲインKpを介してY軸サーボ速度指令としてY軸サーボモータ14の制御に使用される。位置フィードバックは、Y軸サーボモータ14又は被駆動体のY位置を検出する位置検出部31によって得られる。またY軸サーボ制御装置20は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部32を有し、学習制御器30は該基準信号に基づいて学習制御を行う。この詳細については後述する。
【0022】
本実施形態ではZ軸サーボ制御装置22は必須ではなく、その機能は従来のサーボ制御装置と同様でよい。すなわちZ軸サーボ制御装置22は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られるZ軸の位置指令と、Z軸サーボモータ16又はZ軸サーボモータ16により駆動される被駆動体(図示せず)の位置フィードバックとの偏差を求め、該偏差はゲインKpを介してZ軸サーボ速度指令としてZ軸サーボモータ16の制御に使用される。位置フィードバックは、Z軸サーボモータ16又は被駆動体のZ位置を検出する位置検出部33によって得られる。なお図1において白丸は加算器を表し、黒丸は分岐点を表す。後述する図2についても同様である。
【0023】
図2は、図1の学習制御器26の具体的構成例を示す図である。X軸サーボ制御装置26において、上位制御装置24から送られる位置指令Pcと位置フィードバックPfとから加算器35にて位置偏差Erが演算され、学習制御器26は、X軸サーボモータ又は被駆動体の位置偏差Erを第1の位置偏差として所定のサンプリング周期(例えば1ms)毎に取得する。第1の位置偏差は第1変換部34に送られ、第1変換部34は、第1の位置偏差Erを、被駆動体の1周期分の基準角度位置(後述)毎の第2の位置偏差Er′に変換する。つまりサンプリング周期に対応付けられている第1の位置偏差が、基準角度位置に対応付けられた第2の位置偏差に変換される。この変換手法自体は周知なので説明は省略する。
【0024】
第2の位置偏差ε2は、通常360度分の遅延メモリ36に記憶された被駆動体の周期動作の1周期前の第1の補正量が加算された後、新たな第1の補正量c1として遅延メモリ32に記憶される。第1の補正量c1は第2変換部38に送られ、第2変換部38は、基準角度位置毎の第1の補正量c1を、上記サンプリング周期毎の第2の補正量c2に変換する。つまり基準角度位置に対応付けられている第1の補正量が、サンプリング周期に対応付けられた第2の補正量に変換される。この変換手法自体は周知なので説明は省略する。
【0025】
学習制御器26は、第1の補正量c1の帯域を制限する帯域制限フィルタ40と、第2変換部38からの第2の補正量の位相補償及びゲイン補償を行う位相進みフィルタ42とを有してもよいが、これらのフィルタは必須の構成要素ではない。なお「帯域制限フィルタ」とは具体的には、ある周波数領域における高周波領域の信号をカットするためのローパスフィルタであり、制御系の安定性を向上させる効果がある。また「位相進みフィルタ」とは具体的には、ある周波数領域における高周波領域の信号の位相を進ませ、さらにゲインを上げるフィルタであり、位置制御、速度制御及び電流制御等の制御系の遅れやゲイン低下を補償する効果がある。なお、Y軸サーボ制御装置20の学習制御器30も学習制御器26と同様の構成とすることができる。
【0026】
次に本発明に係るサーボ制御システムにおける処理の流れについて、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。先ず上位制御装置24は、予め定めた指令分配周期T(例えばT=1ms)毎に各軸の位置指令Pcを対応するサーボ制御装置に分配し、また各サーボ制御装置は位置フィードバックPfを検出する(ステップS1)。次に各サーボ制御装置は、位置指令Pc及び位置フィードバックPfから位置偏差Erを計算する(ステップS2)。学習制御すべきタイミングになったら(ステップS3)、基準信号生成部28、32は、対応する軸の位置指令又は位置フィードバックに基づいて基準信号θを生成する。ここで位置指令Pcから基準信号θを生成する場合の処理の流れはステップS4→S5→S7となり、一方位置フィードバックPfから基準信号θを生成する場合の処理の流れはステップS4→S6→S7となる。
【0027】
また基準信号生成部は、他軸の位置指令又は位置フィードバックから基準信号を生成してもよい。例えば、X軸サーボ制御装置18の基準信号生成部28は、Y軸の位置指令又は位置フィードバックから基準信号を生成することもできる。
【0028】
次のステップS8では、上述の第1変換部34において、サンプリング周期に対応付けられている位置偏差Erを、基準信号(基準角度位置)に対応付けられた位置偏差Er′に変換する。次に位置偏差Er′は、1周期前の位置偏差に加算され、基準信号毎の第1の補正量c1として遅延メモリ36に保存される(ステップS10)。なお加工形状が後述する円弧等の場合、遅延メモリ36には1周分(360度分)の補正量が保存される。次にステップS11では、第2変換部38において、遅延メモリ36に保存された1周期前の基準信号毎の第1の補正量c1を、サンプリング周期毎の第2の補正量c2に変換し、該第2の補正量が位置偏差Erに加算されて速度指令が生成される(ステップS12)。
【0029】
次に、上述のステップS7すなわち基準信号θの生成の詳細について説明する。本発明に係るサーボ制御システムを利用する工作機械又は産業機械では、円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる形状を加工することができるが、ここでは、図4に示すように、サーボ制御システムを含む工作機械が半径R(=1mm)の円弧加工を行う場合を考える。このときの工作機械の代表点(例えば工具先端)のX軸位置及びY軸位置は、例えばそれぞれ図5(a)及び(b)のように表される。この場合上位制御装置24は、ある時間t=nT(但しn=1,2,3 ...)、半径R及び送り速度F(例えばF=376.8mm/分)から、指令分配周期毎の各軸の指令位置を算出する(例えば、X(t)=R・cos(ωt)、Y(t)=R・sin(ωt)、ωt=Ft/R)。
【0030】
図4のような円弧加工の場合、学習制御の周期は円弧1回転分となるが、X軸及びY軸のいずれについても位置指令は正弦波又は余弦波形状を呈するので、単調増加又は単調減少ではなく、そのままでは角度同期式学習制御の基準位置(基準信号)として利用することはできない。そこで本発明では、X軸及びY軸の位置指令又は位置フィードバックから、円弧1回転分の単調増加の基準信号θを生成する。この点について、以下に説明する。
【0031】
図6は、円弧加工の場合の基準信号の第1の生成方法、すなわち基準信号として、X軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、三角関数により基準角度θを計算する方法を説明する図である。円弧形状の場合、X軸及びY軸の位置はそれぞれ正弦波及び余弦波で表され、上位制御装置は、半径Rの円弧指令を出力している。従って、加工開始後又は学習開始後からのt秒後のX軸の位置POSX(t)及びY軸の位置POSY(t)は、以下の式で表される。但しδは開始角度である。
POSX(t) = R・cos(wt+δ)
POSY(t) = R・sin(wt+δ)
【0032】
一方サーボとしては、基準信号θとして(wt+δ)が必要である。そこで、図6(a)に示すように、X軸の位置とY軸の位置との比の逆正接関数を利用し、具体的にはθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))なる式から求めた角度位置を基準信号として使用する。次に基準信号θを単調増加とするために、X,Yの符号によって象限を区別する。具体的には、X>0,Y>0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))、X<0,Y>0又はX<0,Y<0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))+180、X>0,Y<0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))+360とすることにより、図6(b)に示すような単調増加信号θが得られる。
【0033】
図7は、円弧加工の場合の基準信号の第2の生成方法、すなわち基準信号として、協調動作をする互いに相手の軸(X軸にとってはY軸、Y軸にとってはX軸)の位置指令又は位置フィードバックを利用する方法を説明する図である。具体的には、図7(a)に示すX軸位置の、サンプリング間隔毎の差分ΔXの絶対値を積算した値(Σ|ΔX|)が図7(b)に示されており、これがY軸の基準信号θyとして使用される。同様に、図7(c)に示すY軸位置の、サンプリング間隔毎の差分ΔYの絶対値を積算した値(Σ|ΔY|)が図7(d)に示されており、これがX軸の基準信号θxとして使用される。このように基準信号として他軸の移動量(差分)の絶対値の積算値を使用することにより、上述の第1の基準信号生成方法に比べて、非常に少ない計算量で単調増加の基準信号を作成することができる。また、他軸の指令位置を使用することにより、精度が必要とされる反転時の変化量が大きく取れるので、有利である。
【0034】
図8は、円弧加工の場合の基準信号の第3の生成方法、すなわち基準信号として、位置指令又は位置フィードバックの差分の絶対値の積算値(移動距離)を利用する方法を説明する図である。具体的には、図8に示すように、図7(b)に示したようなサンプリング間隔毎の差分ΔXの絶対値を積算した値(Σ|ΔX|)と、図7(d)に示したようなサンプリング間隔毎の差分ΔYの絶対値を積算した値(Σ|ΔY|)との和を基準信号θ(=Σ|ΔX|+Σ|ΔY|)とする。このように、加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合、X軸の移動指令とY軸の移動指令の絶対値の積算和を使用することで、第1の基準信号生成方法より少ない計算量で、基準信号として使いやすい単調増加かつ直線に近い信号が作成できる。
【0035】
また第3の基準信号生成方法により生成される基準信号は、ほぼ加工形状の長さ(輪郭)を表しているので、加工形状が円弧でなく、多角形等にも適用可能である。例えば加工形状が図9〜図11にそれぞれ示すような三角形、R(丸み)付き四角形、八角形の場合、X軸及びY軸の位置指令はそれぞれ図12〜図14のようになる。ここで各形状について第3の基準信号生成方法を適用すると、加工形状が三角形の場合の基準信号θは図15、R(丸み)付き四角形の場合は図16、八角形の場合は図17のようになり、いずれも単調増加かつ直線に近い基準信号となる。
【0036】
図18は、例えば図4の円弧加工においてZ軸方向の送りを加えた場合、すなわちヘリカル加工を行う場合を行う場合を示す。この場合は、図18に示すように円弧1回転でのZ軸方向の送り量に相当する時間を学習周期とすればよい。このときの基準信号θは、図19に示すようにZ軸の位置指令又は位置フィードバックに一致する(θ=Z)。このように、加工形状がヘリカル補間の場合、Z軸すなわちヘリカル軸は通常一定速で移動するので、実質的に計算が不要でかつ、単調増加で一定速となる、使いやすい基準信号が作成できる。
【0037】
上述のように本願発明は、角度同期方式の長所を生かしつつ、基準角度が与えられない場合でも、角度同期方式の学習制御の適用を可能にするサーボ制御システムを提供するものである。引用文献2も角度同期方式の学習制御を開示しているが、その対象は回転軸及び直線軸の組合せで加工を行う旋盤用途であり、基準信号が単調増加となる回転軸の位置指令または位置フィードバックを使用する。しかしマシニングセンタのように、互いに直交するX、Y軸によって形状を加工する場合、いずれの軸の位置指令も単調増加ではないので、そのまま基準信号とすることができない。本願発明ではこのような場合に、好適な基準信号を簡易な計算で得、角度同期方式の学習制御を適用するようにしている。
【符号の説明】
【0038】
10 サーボ制御システム
12 X軸サーボモータ
14 Y軸サーボモータ
16 Z軸サーボモータ
18 X軸サーボ制御装置
20 Y軸サーボ制御装置
22 Z軸サーボ制御装置
24 上位制御装置
26、30 角度同期式学習制御器
28、32 基準信号生成部
34 第1変換部
34 第1変換部
36 遅延メモリ
38 第2変換部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数軸の協調動作を行う工作機械において、加工精度を高める機能を備えたサーボ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械において複数軸の協調動作を行う場合、特に、X軸及びY軸を用いて円弧形状を加工する場合には、高精度な加工が求められる。従来の制御システムでは、サーボ制御の追従遅れ、特に反転時の遅れのため、円弧の象限部分の精度を高めることが困難であった。
【0003】
一方、繰り返し指令に対して高速かつ高精度な追従性を実現する方法として、学習制御(繰り返し制御)がある。学習制御には時間を基準として学習する時間同期方式(例えば特許文献1参照)と、角度を基準として学習する角度同期方式とがある。例えば特許文献2では、繰り返し指令されるパターンにおける形状の位置に対応して補正データを記憶しておき、位置に対応して位置偏差を補正する学習制御により、速度変動があっても位置偏差を小さくできる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−175502号公報
【特許文献2】特開2004−280772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
時間同期方式は、加工の開始から終了までの時間にわたり遅延メモリが必要となるので、加工時間が比較的長い場合は大容量の遅延メモリが必要となる。また、同じ形状の加工であって加工速度が異なる場合は、別の遅延メモリが必要となる。一方角度同期方式では、加工時間が長い場合や加工速度が異なる場合における不都合はないが、指令の繰り返し動作に同期して単調増加(一方向に変化)する基準角度(基準位置)が必要となるため、往復動作をするような基準位置の動きでは、角度同期方式を適用することはできなかった。
【0006】
特許文献2の図3の説明にあるように、サンプリング時に得られた参照位置がΘ(n)であり、該参照位置Θ(n)の前後のグリッド位置θ(m),θ(m+1)に対応する補正データがδ(m),δ(m+1)であったとすると、参照位置Θ(n)に対応する補正データδ(n)は次式による補間計算で求めることになる。
δ(n)=δ(m)+{Θ(n)−θ(m)}・{δ(m+1)−δ(m)}/{θ(m+1)−θ(m)}
この参照位置Θが単調増加あるいは単調減少でないと、参照位置Θに対する補正データδが複数存在することになり、正しい補正データを求めることができなくなる。
【0007】
そこで本発明は、角度同期方式の長所を生かしつつ、基準角度が与えられない場合でも角度同期方式の学習制御の適用を可能にするサーボ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工作機械又は産業機械において、互い直交する2軸を含む複数の軸の協調動作による円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる加工形状を加工する制御システムであって、前記加工形状を加工するための位置指令を前記複数の軸のサーボモータに分配する上位制御装置と、前記位置指令に基づいて各軸のサーボモータを駆動して、被駆動体を動作させる複数のサーボ制御装置と、前記サーボモータの位置又は前記被駆動体の位置を検出する位置検出部と、サンプリング周期毎に前記位置指令と検出された前記サーボモータの位置フィードバックとの偏差を演算する位置偏差演算部と、自軸又は他軸の位置指令又は位置フィードバックから、一方向に変化する基準信号を計算する基準信号生成部と、前記基準信号、前記位置指令及び前記位置偏差に基いて学習制御を行う学習制御部と、を有する、サーボモータ駆動制御システムを提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記基準信号生成部は、円弧中心を基準としたX軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、前記X軸の位置と前記Y軸の位置との比の逆正接関数により求めた角度位置を基準信号として生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記基準信号生成部は、協調動作をする互いに相手の軸の位置指令又は位置フィードバックに基づき、サンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算して基準信号を生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合に、前記基準信号生成部は、X軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値と、Y軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値との和を、基準信号として生成する、サーボ制御システムを提供する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のサーボ制御システムにおいて、前記加工形状がヘリカル補間の場合に、前記基準信号生成部は、ヘリカル軸の位置指令又は位置フィードバックを基準信号して生成する、サーボ制御システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置指令又は位置フィードバックから一方向に変化する基準信号を求めることにより、角度同期方式の学習制御が適用できるようになる。
【0014】
円弧形状の加工をする場合、X軸の指令位置とY軸の指令位置から基準信号を計算できる。該基準信号は単調増加で一定速となるので、基準信号として使いやすい信号が作成できる。
【0015】
基準信号として、他軸の移動量の絶対値の積算値を使用することにより、少ない計算量で単調増加の基準信号が作成できる。また、自らの指令位置ではなく、相手の指令位置を使用することで、精度が必要とされる反転時の変化量が大きく取れるので、有利である。
【0016】
X軸の移動指令とY軸の移動指令の絶対値の積算和を使用することにより、基準信号として使いやすい単調増加で一定に近い信号を少ない計算量で作成できる。また、この基準信号はほぼ加工形状の長さを表しているので、円弧だけでなく多角形にも適用可能である。
【0017】
一定で動くヘリカル軸の指令位置を基準信号とすることにより、計算が不要で、単調増加で一定速となる、使いやすい基準信号が作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るサーボ制御システムの基本構成を示す図である。
【図2】図1のサーボ制御システムが有する角度同期学習制御器の一構成例を示す図である。
【図3】発明に係るサーボ制御システムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】加工形状の一例として円弧を示す図である。
【図5】加工形状が円弧である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図6】円弧加工の場合の基準信号の第1の生成方法を説明する図である。
【図7】円弧加工の場合の基準信号の第2の生成方法を説明する図である。
【図8】円弧加工の場合の基準信号の第3の生成方法を説明する図である。
【図9】加工形状の一例として三角形を示す図である。
【図10】加工形状の一例としてR付き四角形を示す図である。
【図11】加工形状の一例として八角形を示す図である。
【図12】加工形状が三角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図13】加工形状がR付き四角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図14】加工形状が八角形である場合の、X軸及びY軸の角度位置を示すグラフである。
【図15】加工形状が三角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図16】加工形状がR付き四角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図17】加工形状が八角形である場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【図18】加工形態の一例としてヘリカル加工を示す図である。
【図19】ヘリカル加工を行う場合の、単調増加する基準信号を生成する処理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係るサーボ制御システムの基本構成を示す図である。サーボ制御システム10は、協調動作を行う互いに直交する少なくとも2軸(図示例ではX,Y,Zの3軸)を含むマシニングセンタ等の工作機械又は産業機械において使用され、各軸を駆動するX軸サーボモータ12、Y軸サーボモータ14及びZ軸サーボモータ16をそれぞれ制御するX軸サーボ制御装置18、Y軸サーボ制御装置20及びZ軸サーボ制御装置22を有する。各サーボ制御装置は、NC等の上位制御装置24から送られる各軸の位置指令(図示例ではX軸指令、Y軸指令及びZ軸指令)に基づいて速度指令を作成し、該速度指令によって各サーボモータを制御する。
【0020】
X軸サーボ制御装置18は、角度同期方式の学習制御部(学習制御器)26を有し、学習制御器26は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られる周期的なX軸の位置指令と、X軸サーボモータ12又はX軸サーボモータ12により駆動される工具等の被駆動体(図示せず)の位置フィードバック(FB)との偏差に基づいてX軸サーボモータ12の制御のための補正量を作成し、該補正量及び該偏差はゲインKpを介してX軸サーボ速度指令としてX軸サーボモータ12の制御に使用される。位置フィードバックは、X軸サーボモータ12又は被駆動体のX位置を検出する位置検出部27によって得られる。またX軸サーボ制御装置18は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部28を有し、学習制御器26は該基準信号に基づいて学習制御を行う。この詳細については後述する。
【0021】
同様に、Y軸サーボ制御装置20は、角度同期方式の学習制御部(学習制御器)30を有し、学習制御器30は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られる周期的なY軸の位置指令と、Y軸サーボモータ14又はY軸サーボモータ14により駆動される被駆動体(図示せず)の位置をフィードバックとの偏差に基づいてY軸サーボモータ14の制御のための補正量を作成し、該補正量及び該偏差はゲインKpを介してY軸サーボ速度指令としてY軸サーボモータ14の制御に使用される。位置フィードバックは、Y軸サーボモータ14又は被駆動体のY位置を検出する位置検出部31によって得られる。またY軸サーボ制御装置20は、上位制御装置24から送られる各軸指令に基づいて、単調増加又は一方向に変化する基準信号θを作成する基準信号生成部32を有し、学習制御器30は該基準信号に基づいて学習制御を行う。この詳細については後述する。
【0022】
本実施形態ではZ軸サーボ制御装置22は必須ではなく、その機能は従来のサーボ制御装置と同様でよい。すなわちZ軸サーボ制御装置22は、所定の加工を行うための、上位制御装置24から送られるZ軸の位置指令と、Z軸サーボモータ16又はZ軸サーボモータ16により駆動される被駆動体(図示せず)の位置フィードバックとの偏差を求め、該偏差はゲインKpを介してZ軸サーボ速度指令としてZ軸サーボモータ16の制御に使用される。位置フィードバックは、Z軸サーボモータ16又は被駆動体のZ位置を検出する位置検出部33によって得られる。なお図1において白丸は加算器を表し、黒丸は分岐点を表す。後述する図2についても同様である。
【0023】
図2は、図1の学習制御器26の具体的構成例を示す図である。X軸サーボ制御装置26において、上位制御装置24から送られる位置指令Pcと位置フィードバックPfとから加算器35にて位置偏差Erが演算され、学習制御器26は、X軸サーボモータ又は被駆動体の位置偏差Erを第1の位置偏差として所定のサンプリング周期(例えば1ms)毎に取得する。第1の位置偏差は第1変換部34に送られ、第1変換部34は、第1の位置偏差Erを、被駆動体の1周期分の基準角度位置(後述)毎の第2の位置偏差Er′に変換する。つまりサンプリング周期に対応付けられている第1の位置偏差が、基準角度位置に対応付けられた第2の位置偏差に変換される。この変換手法自体は周知なので説明は省略する。
【0024】
第2の位置偏差ε2は、通常360度分の遅延メモリ36に記憶された被駆動体の周期動作の1周期前の第1の補正量が加算された後、新たな第1の補正量c1として遅延メモリ32に記憶される。第1の補正量c1は第2変換部38に送られ、第2変換部38は、基準角度位置毎の第1の補正量c1を、上記サンプリング周期毎の第2の補正量c2に変換する。つまり基準角度位置に対応付けられている第1の補正量が、サンプリング周期に対応付けられた第2の補正量に変換される。この変換手法自体は周知なので説明は省略する。
【0025】
学習制御器26は、第1の補正量c1の帯域を制限する帯域制限フィルタ40と、第2変換部38からの第2の補正量の位相補償及びゲイン補償を行う位相進みフィルタ42とを有してもよいが、これらのフィルタは必須の構成要素ではない。なお「帯域制限フィルタ」とは具体的には、ある周波数領域における高周波領域の信号をカットするためのローパスフィルタであり、制御系の安定性を向上させる効果がある。また「位相進みフィルタ」とは具体的には、ある周波数領域における高周波領域の信号の位相を進ませ、さらにゲインを上げるフィルタであり、位置制御、速度制御及び電流制御等の制御系の遅れやゲイン低下を補償する効果がある。なお、Y軸サーボ制御装置20の学習制御器30も学習制御器26と同様の構成とすることができる。
【0026】
次に本発明に係るサーボ制御システムにおける処理の流れについて、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。先ず上位制御装置24は、予め定めた指令分配周期T(例えばT=1ms)毎に各軸の位置指令Pcを対応するサーボ制御装置に分配し、また各サーボ制御装置は位置フィードバックPfを検出する(ステップS1)。次に各サーボ制御装置は、位置指令Pc及び位置フィードバックPfから位置偏差Erを計算する(ステップS2)。学習制御すべきタイミングになったら(ステップS3)、基準信号生成部28、32は、対応する軸の位置指令又は位置フィードバックに基づいて基準信号θを生成する。ここで位置指令Pcから基準信号θを生成する場合の処理の流れはステップS4→S5→S7となり、一方位置フィードバックPfから基準信号θを生成する場合の処理の流れはステップS4→S6→S7となる。
【0027】
また基準信号生成部は、他軸の位置指令又は位置フィードバックから基準信号を生成してもよい。例えば、X軸サーボ制御装置18の基準信号生成部28は、Y軸の位置指令又は位置フィードバックから基準信号を生成することもできる。
【0028】
次のステップS8では、上述の第1変換部34において、サンプリング周期に対応付けられている位置偏差Erを、基準信号(基準角度位置)に対応付けられた位置偏差Er′に変換する。次に位置偏差Er′は、1周期前の位置偏差に加算され、基準信号毎の第1の補正量c1として遅延メモリ36に保存される(ステップS10)。なお加工形状が後述する円弧等の場合、遅延メモリ36には1周分(360度分)の補正量が保存される。次にステップS11では、第2変換部38において、遅延メモリ36に保存された1周期前の基準信号毎の第1の補正量c1を、サンプリング周期毎の第2の補正量c2に変換し、該第2の補正量が位置偏差Erに加算されて速度指令が生成される(ステップS12)。
【0029】
次に、上述のステップS7すなわち基準信号θの生成の詳細について説明する。本発明に係るサーボ制御システムを利用する工作機械又は産業機械では、円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる形状を加工することができるが、ここでは、図4に示すように、サーボ制御システムを含む工作機械が半径R(=1mm)の円弧加工を行う場合を考える。このときの工作機械の代表点(例えば工具先端)のX軸位置及びY軸位置は、例えばそれぞれ図5(a)及び(b)のように表される。この場合上位制御装置24は、ある時間t=nT(但しn=1,2,3 ...)、半径R及び送り速度F(例えばF=376.8mm/分)から、指令分配周期毎の各軸の指令位置を算出する(例えば、X(t)=R・cos(ωt)、Y(t)=R・sin(ωt)、ωt=Ft/R)。
【0030】
図4のような円弧加工の場合、学習制御の周期は円弧1回転分となるが、X軸及びY軸のいずれについても位置指令は正弦波又は余弦波形状を呈するので、単調増加又は単調減少ではなく、そのままでは角度同期式学習制御の基準位置(基準信号)として利用することはできない。そこで本発明では、X軸及びY軸の位置指令又は位置フィードバックから、円弧1回転分の単調増加の基準信号θを生成する。この点について、以下に説明する。
【0031】
図6は、円弧加工の場合の基準信号の第1の生成方法、すなわち基準信号として、X軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、三角関数により基準角度θを計算する方法を説明する図である。円弧形状の場合、X軸及びY軸の位置はそれぞれ正弦波及び余弦波で表され、上位制御装置は、半径Rの円弧指令を出力している。従って、加工開始後又は学習開始後からのt秒後のX軸の位置POSX(t)及びY軸の位置POSY(t)は、以下の式で表される。但しδは開始角度である。
POSX(t) = R・cos(wt+δ)
POSY(t) = R・sin(wt+δ)
【0032】
一方サーボとしては、基準信号θとして(wt+δ)が必要である。そこで、図6(a)に示すように、X軸の位置とY軸の位置との比の逆正接関数を利用し、具体的にはθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))なる式から求めた角度位置を基準信号として使用する。次に基準信号θを単調増加とするために、X,Yの符号によって象限を区別する。具体的には、X>0,Y>0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))、X<0,Y>0又はX<0,Y<0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))+180、X>0,Y<0ならθ(t)=tan-1(POSY(t)/POSX(t))+360とすることにより、図6(b)に示すような単調増加信号θが得られる。
【0033】
図7は、円弧加工の場合の基準信号の第2の生成方法、すなわち基準信号として、協調動作をする互いに相手の軸(X軸にとってはY軸、Y軸にとってはX軸)の位置指令又は位置フィードバックを利用する方法を説明する図である。具体的には、図7(a)に示すX軸位置の、サンプリング間隔毎の差分ΔXの絶対値を積算した値(Σ|ΔX|)が図7(b)に示されており、これがY軸の基準信号θyとして使用される。同様に、図7(c)に示すY軸位置の、サンプリング間隔毎の差分ΔYの絶対値を積算した値(Σ|ΔY|)が図7(d)に示されており、これがX軸の基準信号θxとして使用される。このように基準信号として他軸の移動量(差分)の絶対値の積算値を使用することにより、上述の第1の基準信号生成方法に比べて、非常に少ない計算量で単調増加の基準信号を作成することができる。また、他軸の指令位置を使用することにより、精度が必要とされる反転時の変化量が大きく取れるので、有利である。
【0034】
図8は、円弧加工の場合の基準信号の第3の生成方法、すなわち基準信号として、位置指令又は位置フィードバックの差分の絶対値の積算値(移動距離)を利用する方法を説明する図である。具体的には、図8に示すように、図7(b)に示したようなサンプリング間隔毎の差分ΔXの絶対値を積算した値(Σ|ΔX|)と、図7(d)に示したようなサンプリング間隔毎の差分ΔYの絶対値を積算した値(Σ|ΔY|)との和を基準信号θ(=Σ|ΔX|+Σ|ΔY|)とする。このように、加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合、X軸の移動指令とY軸の移動指令の絶対値の積算和を使用することで、第1の基準信号生成方法より少ない計算量で、基準信号として使いやすい単調増加かつ直線に近い信号が作成できる。
【0035】
また第3の基準信号生成方法により生成される基準信号は、ほぼ加工形状の長さ(輪郭)を表しているので、加工形状が円弧でなく、多角形等にも適用可能である。例えば加工形状が図9〜図11にそれぞれ示すような三角形、R(丸み)付き四角形、八角形の場合、X軸及びY軸の位置指令はそれぞれ図12〜図14のようになる。ここで各形状について第3の基準信号生成方法を適用すると、加工形状が三角形の場合の基準信号θは図15、R(丸み)付き四角形の場合は図16、八角形の場合は図17のようになり、いずれも単調増加かつ直線に近い基準信号となる。
【0036】
図18は、例えば図4の円弧加工においてZ軸方向の送りを加えた場合、すなわちヘリカル加工を行う場合を行う場合を示す。この場合は、図18に示すように円弧1回転でのZ軸方向の送り量に相当する時間を学習周期とすればよい。このときの基準信号θは、図19に示すようにZ軸の位置指令又は位置フィードバックに一致する(θ=Z)。このように、加工形状がヘリカル補間の場合、Z軸すなわちヘリカル軸は通常一定速で移動するので、実質的に計算が不要でかつ、単調増加で一定速となる、使いやすい基準信号が作成できる。
【0037】
上述のように本願発明は、角度同期方式の長所を生かしつつ、基準角度が与えられない場合でも、角度同期方式の学習制御の適用を可能にするサーボ制御システムを提供するものである。引用文献2も角度同期方式の学習制御を開示しているが、その対象は回転軸及び直線軸の組合せで加工を行う旋盤用途であり、基準信号が単調増加となる回転軸の位置指令または位置フィードバックを使用する。しかしマシニングセンタのように、互いに直交するX、Y軸によって形状を加工する場合、いずれの軸の位置指令も単調増加ではないので、そのまま基準信号とすることができない。本願発明ではこのような場合に、好適な基準信号を簡易な計算で得、角度同期方式の学習制御を適用するようにしている。
【符号の説明】
【0038】
10 サーボ制御システム
12 X軸サーボモータ
14 Y軸サーボモータ
16 Z軸サーボモータ
18 X軸サーボ制御装置
20 Y軸サーボ制御装置
22 Z軸サーボ制御装置
24 上位制御装置
26、30 角度同期式学習制御器
28、32 基準信号生成部
34 第1変換部
34 第1変換部
36 遅延メモリ
38 第2変換部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械又は産業機械において、互い直交する2軸を含む複数の軸の協調動作による円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる加工形状を加工する制御システムであって、
前記加工形状を加工するための位置指令を前記複数の軸のサーボモータに分配する上位制御装置と、
前記位置指令に基づいて各軸のサーボモータを駆動して、被駆動体を動作させる複数のサーボ制御装置と、
前記サーボモータの位置又は前記被駆動体の位置を検出する位置検出部と、
サンプリング周期毎に前記位置指令と検出された前記サーボモータの位置フィードバックとの偏差を演算する位置偏差演算部と、
自軸又は他軸の位置指令又は位置フィードバックから、一方向に変化する基準信号を計算する基準信号生成部と、
前記基準信号、前記位置指令及び前記位置偏差に基いて学習制御を行う学習制御部と、を有する、サーボモータ駆動制御システム。
【請求項2】
前記基準信号生成部は、円弧中心を基準としたX軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、前記X軸の位置と前記Y軸の位置との比の逆正接関数により求めた角度位置を基準信号として生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項3】
前記基準信号生成部は、協調動作をする互いに相手の軸の位置指令又は位置フィードバックに基づき、サンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算して基準信号を生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項4】
前記加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合に、前記基準信号生成部は、X軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値と、Y軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値との和を、基準信号として生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項5】
前記加工形状がヘリカル補間の場合に、前記基準信号生成部は、ヘリカル軸の位置指令又は位置フィードバックを基準信号して生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項1】
工作機械又は産業機械において、互い直交する2軸を含む複数の軸の協調動作による円弧、多角形、又はそれらの組み合わせからなる加工形状を加工する制御システムであって、
前記加工形状を加工するための位置指令を前記複数の軸のサーボモータに分配する上位制御装置と、
前記位置指令に基づいて各軸のサーボモータを駆動して、被駆動体を動作させる複数のサーボ制御装置と、
前記サーボモータの位置又は前記被駆動体の位置を検出する位置検出部と、
サンプリング周期毎に前記位置指令と検出された前記サーボモータの位置フィードバックとの偏差を演算する位置偏差演算部と、
自軸又は他軸の位置指令又は位置フィードバックから、一方向に変化する基準信号を計算する基準信号生成部と、
前記基準信号、前記位置指令及び前記位置偏差に基いて学習制御を行う学習制御部と、を有する、サーボモータ駆動制御システム。
【請求項2】
前記基準信号生成部は、円弧中心を基準としたX軸とY軸の位置指令又は位置フィードバックから、前記X軸の位置と前記Y軸の位置との比の逆正接関数により求めた角度位置を基準信号として生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項3】
前記基準信号生成部は、協調動作をする互いに相手の軸の位置指令又は位置フィードバックに基づき、サンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算して基準信号を生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項4】
前記加工形状がX軸とY軸の補間形状の場合に、前記基準信号生成部は、X軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値と、Y軸の位置指令又は位置フィードバックのサンプリング周期毎の移動量の絶対値を積算した値との和を、基準信号として生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【請求項5】
前記加工形状がヘリカル補間の場合に、前記基準信号生成部は、ヘリカル軸の位置指令又は位置フィードバックを基準信号して生成する、請求項1に記載のサーボモータ駆動制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−58824(P2012−58824A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198856(P2010−198856)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】
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