説明

加工ロボットの軌道追従装置と方法

【課題】従来の倣い制御または力制御による加工速度を超える高速で、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗の影響なしに、高精度の倣い加工をすることができる加工ロボットの軌道追従装置と方法を提供する
【解決手段】(A)ワーク1のCADモデルから軌道データDを生成して記憶装置24に記憶し、(B)軌道データDを目標軌道として加工工具3を位置制御するとともに動作中の加工反力を計測しておき、(C)加工後に、計測した加工反力の計測値から目標押付力で動作するように目標軌道を修正する学習を実施し、この加工と学習を繰返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームの手先に工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットにおいて、位置決め精度が低いロボットアームを使って、高精度な加工を実現するための技術として、例えば特許文献1〜4、及び非特許文献1が既に提案されている。
【0003】
特許文献1の「研磨方法」は、工具の押付力を一定にするように制御しながら加工することで、目標軌道とワークとのずれを補償するものである。
特許文献2の「ロボットのオフライン教示方法」は、予め計測した結果に基づき位置、姿勢、寸法を修正した3次元モデルを基に、ロボット動作をオフラインで教示するものである。
【0004】
特許文献3の「マニピュレータ用追従装置及び追従制御方法」は、教示した軌道を目標軌道として繰返し学習することで、ロボットの目標軌道への追従誤差を補償するものである。なお、繰返し学習によるロボットの追従精度改善技術は、非特許文献1に開示されている。
特許文献4の「ワーク加工装置とその制御方法」は、衝撃的な加工反力が発生しても加工精度を維持しかつ工具の破損を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2852828号公報、「力覚センサを有するロボットによる研磨方法」
【特許文献2】特開平11−296218号、「ロボットのオフライン教示方法」
【特許文献3】特開平7−266267号公報、「マニピュレータ用追従装置及び追従制御方法」
【特許文献4】特開2010−253613号公報、「ワーク加工装置とその制御方法」
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】南條義人、有本卓、「ロボット軌道追従のための学習制御系の設計指針」、日本ロボット学会誌 Vol.11 No.7,pp.1047〜1055,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手段は、倣い制御の性質上、押付力の目標値への追従性と工具の送り速度とがトレードオフの関係にある。速度を上げ過ぎると押付力の目標値への追従性が低くなり、加工精度が低下するため、加工精度を高くするには、送り速度を低く設定しなければならないという問題点があった。
【0008】
特許文献2の手段は、予め計測した結果に基づき位置、姿勢、寸法を修正した3次元モデルを基に、ロボット動作をオフラインで教示するので、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗により、加工精度が低下する問題点があった。
【0009】
特許文献3の手段は、高精度加工のロボット目標軌道を教示するのは困難であるという問題があった。
特許文献4の手段は、倣い治具を用いて倣い加工を行うため、ワークの加工部分の周辺形状によっては、この方式が適用できないという問題点があった。
【0010】
言い換えれば、従来の倣い加工は、倣い速度を低く設定しなければならないため、高速での加工ができない。
また、ロボットアームの手先に工具を取り付け、加工経路に沿って動作させて加工する加工ロボットの場合、高速で位置制御しても、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗により、ワークに対する押付け力が大きく変動する。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、従来の倣い制御または力制御による加工速度を超える高速で、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗の影響なしに、高精度の倣い加工をすることができる加工ロボットの軌道追従装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、ロボットアームの先端に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置であって、
加工工具が受ける外力を計測する力覚センサと、
加工工具の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データを記憶する記憶装置と、
力覚センサによる計測値に基づき前記軌道データの目標値を演算しロボットコントローラに出力する軌道制御装置とを備え、該軌道制御装置により、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)前記軌道データを目標軌道として加工工具の移動を位置制御するとともに動作中の加工反力を計測しておき、
(C)加工後に、計測した加工反力の計測値から目標押付力で動作するように前記目標軌道を修正する学習を実施し、この加工と学習を繰返す、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従装置が提供される。
【0013】
また本発明によれば、ロボットアームの先端に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従方法であって、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)前記軌道データを目標軌道として加工工具の移動を位置制御するとともに動作中の加工反力を計測しておき、
(C)加工後に、計測した加工反力の計測値から目標押付力で動作するように前記目標軌道を修正する学習を実施し、この加工と学習を繰返す、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の装置と方法によれば、ワークからの反力を計測し、計測した計測値から目標押付力で動作するように目標軌道を修正する学習を繰返すので、この繰返し学習によって、工具の押付力が一定になるように、目標軌道が毎回修正される。
従って、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗があっても、押付力が一定になるように目標軌道が常に修正されるので、ロボットアームの弾性変形や加工工具の減耗の影響なしに、高精度の倣い加工をすることができる。
また、目標軌道に基づき、高速の加工速度で加工工具を(力制御ではなく)位置制御してワークを加工するので、高精度の倣い加工を高速で実施することができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の軌道追従装置を備えた加工ロボットの構成図である。
【図2】本発明の軌道追従方法の全体フロー図である。
【図3】ステップS3の学習動作のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の軌道追従装置を備えた加工ロボットの構成図である。
この図において、1はワーク(被加工部材)、2はワーク保持装置、3は加工工具、10は加工ロボット、20は本発明の軌道制御装置である。
【0018】
ワーク1は、加工工具3により、バリ取り、C面取り、又はラウンドエッジ加工される被加工部材であり、例えば鋳鉄等の硬い材質からなる。
ワーク1は、この例ではワーク保持装置2により所定位置に正確に固定される。所定位置は、加工ロボット10の作動範囲内において予め設定された位置である。
【0019】
ワーク保持装置2は、ワーク1を所定位置に正確に固定する。
【0020】
加工ロボット10は、ロボットアーム12の先端に加工工具3を取り付け、加工経路に沿って動作させてワーク1を加工する。
なお加工ロボット10は、この例では、多関節ロボットであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボットであってもよい。
このような加工ロボット10の場合、高速で位置制御しても、ロボットアーム12の弾性変形や加工工具3の減耗により、ワーク1に対する押付け力が通常大きく変動する。
【0021】
加工工具3は、ロボットアーム12の先端に取り付けられ、ワーク1を加工する。
この例において、加工工具3は、ワーク1を加工する工具3aとこれを回転駆動する駆動装置3b(この例では電動スピンドルモータ)とからなる。
工具3aは、ブラシ、クッションサンダ(砥粒入りの樹脂のスポンジ)、砥石、超硬カッター、等である。
また、駆動装置3bは、往復駆動する駆動装置でも代替可能であり、電動スピンドルモータはエアモータでも代替可能である。
【0022】
加工ロボット10は、ロボットコントローラ16を備える。ロボットコントローラ16は、例えば数値制御装置であり、指令信号によりロボットアームの先端を6自由度(3次元位置と3軸まわりの回転)に制御する。
【0023】
図1において、本発明の軌道制御装置20は、力覚センサ22、記憶装置24、及び軌道制御PC26を備える。
【0024】
力覚センサ22は、例えばロードセルであり、3次元的に移動可能なロボットアームの先端に取り付けられ、これに作用する外力を検出するようになっている。
この力覚センサ22で検出される外力は、好ましくは6自由度の外力(3方向の力と、3軸まわりのトルク)であるが、本発明はこれに限定されず、ワーク1に対する押付力が検出できる限りで、その他の力センサであってもよい。
【0025】
記憶装置24は、加工工具3の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データDを記憶する。
軌道データDは、例えば、ワーク座標系における加工工具3の3次元位置(x,y,z)と姿勢(a,b,c)で表され、姿勢パラメータa,b,cは、例えばオイラー角などである。また、加工工具3の押付け方向は、ワーク座標系における単位ベクトル(vx,vy,vz)で表される。
なお、本発明は、加工工具3の位置、姿勢、及び押付け方向を設定できる限りで、これらの座標系と姿勢パラメータの定義(一般に、姿勢表現には多種の定義のパラメータが使用されている)に限定されない。
【0026】
軌道制御PC26は、例えば、制御PCであり、力覚センサ22による計測値に基づき、軌道データDの目標値を演算し、ロボットコントローラ16に出力する。
軌道制御PC26は、この例では、ロボットコントローラ16と別個に設けられているが、ロボットコントローラ16と軌道制御PC26を同一の制御PCで構成してもよい。
【0027】
図2は、本発明の軌道追従方法の全体フロー図である。
上述した装置を用い、本発明の軌道追従方法は、S1〜S3の各ステップ(工程)からなる。
(A)ステップS1(軌道データ生成ステップ)では、ワーク1のCADモデルから軌道データDを生成して記憶装置24に記憶する。
【0028】
(B)ステップS2(位置制御ステップ)では、軌道データDを目標軌道として加工工具3の移動を位置制御するとともに、動作中の加工反力を計測しておく。
【0029】
(C)ステップS3(学習ステップ)では、ステップS2の終了後、計測した計測値から(次回の動作において)目標押付力で動作するように目標軌道を修正する学習を実施する。
このステップS2とステップS3とを繰り返すことによって加工時の押付け力を目標押付力に近づけながら、加工を繰り返すことができ、工具が次第に減耗したとしても、一定の加工が得られる。
【0030】
ステップS3の学習は、調整用ワークを用いて実施してもよい。この場合、繰返し学習は、加工時の押付け力と目標押付力との差が所定の閾値以下になるまで実施するのがよい。
【0031】
図3は、ステップS3の学習動作のブロック図である。この図において(A)は、短期メモリとログデータの関係、(B)はログデータに基づく学習動作を示している。
【0032】
図3(A)において、短期メモリには、k回目の学習動作における目標軌道が記憶されており、この目標軌道に沿ってロボットが作動し、k回目の力計測値がログデータとして記憶される。ここでkは1以上の整数である。
【0033】
図3(B)において、φはP学習ゲイン、ψはI学習ゲインであり、φ>0、ψ=0の場合がP形学習、φ>0、ψ>0の場合がPI形学習である。
【0034】
ログデータのk回目の力計測値fと目標押付力fとの差から、力誤差eが求められる。例えば、力誤差e=f−fの関係がある。
次いで、P形学習では、力誤差eにP学習ゲインφを積算する。また、PI形学習では力誤差eを積分したものにI学習ゲインψを積算したものを更に加算したものを軌道の補正量Δu=φe+ψ∫edtとする。
【0035】
一方、短期メモリのk回目の目標軌道uと長期メモリの目標軌道uθから忘却係数αを加味して、k+1回目の目標軌道uk+1=u(1−α)+uθ・α+Δuが求められる。長期メモリの目標軌道uθは、低頻度で更新される目標軌道であり、例えば50回に1回、長期メモリuθに短期メモリuをコピーする。また忘却係数αは0〜1の値(例えば0.1)であり、目標軌道uの繰返し学習を安定化させる機能を有する。
【0036】
k+1回目の目標軌道uk+1を短期メモリに入力して、k+1回目の目標軌道とする。
ロボットはこのk+1回目の目標軌道uk+1に沿ってロボットが作動し、k+1回目の動作結果がログデータとして記憶される。
【0037】
上記学習動作の詳細は、非特許文献1に開示されている。
この繰返し学習によって、加工時の押付け力を目標押付力に近づけながら、加工を繰り返すことができ、工具が次第に減耗したとしても、一定の加工が得られる。
なお、学習動作はこの例に限定されず、その他の学習制御系、例えば、神経回路モデルを利用した学習制御系であってもよい。
【0038】
上記本発明の装置と方法によれば、ワーク1からの反力を計測し、計測した計測値から目標押付力で動作するように目標軌道を修正する学習を繰返すので、この繰返し学習によって、加工工具3の押付力が一定になるように、目標軌道が毎回修正される。
従って、ロボットアーム12の弾性変形や加工工具3の減耗があっても、押付力が一定になるように目標軌道が常に修正されるので、ロボットアーム12の弾性変形や加工工具3の減耗の影響なしに、高精度の倣い加工をすることができる。
また、目標軌道に基づき、高速の加工速度で加工工具3を(力制御ではなく)位置制御してワーク1を加工するので、高精度の倣い加工を高速で実施することができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0040】
1 ワーク(被加工部材)、2 ワーク保持装置、
3 加工工具、
10 加工ロボット、12 ロボットアーム、
16 ロボットコントローラ、
20 軌道制御装置、22 力覚センサ、
24 記憶装置、26 軌道制御PC(制御PC)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従装置であって、
加工工具が受ける外力を計測する力覚センサと、
加工工具の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データを記憶する記憶装置と、
力覚センサによる計測値に基づき前記軌道データの目標値を演算しロボットコントローラに出力する軌道制御装置とを備え、該軌道制御装置により、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)前記軌道データを目標軌道として加工工具の移動を位置制御するとともに動作中の加工反力を計測しておき、
(C)加工後に、計測した加工反力の計測値から目標押付力で動作するように前記目標軌道を修正する学習を実施し、この加工と学習を繰返す、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従装置。
【請求項2】
ロボットアームの先端に加工工具を取り付け、加工経路に沿って動作させてワークを加工する加工ロボットの軌道追従方法であって、
(A)ワークのCADモデルから前記軌道データを生成して記憶装置に記憶し、
(B)前記軌道データを目標軌道として加工工具の移動を位置制御するとともに動作中の加工反力を計測しておき、
(C)加工後に、計測した加工反力の計測値から目標押付力で動作するように前記目標軌道を修正する学習を実施し、この加工と学習を繰返す、ことを特徴とする加工ロボットの軌道追従方法。
【請求項3】
前記(B)において、加工工具の押付け方向は力制御を優先し、該押付け方向に直交する方向は位置制御を優先する、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。
【請求項4】
前記(C)において、計測した計測値と目標押付力との差が所定の閾値以下になるまで、学習を繰返す、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。
【請求項5】
前記(C)において、加工中、常に学習を繰返す、ことを特徴とする請求項2に記載の軌道追従方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176478(P2012−176478A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41773(P2011−41773)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】