説明

加熱処理制御装置および加熱処理制御方法

【課題】高い加熱効率を図ることができると共に、被加熱物の温度分布の均一化を図ることができる加熱処理制御装置および加熱処理制御方法を提供する。
【解決手段】オフラインPC10は、シミュレーションに必要な被加熱物Wのデータと電気炉1のデータとにより、被加熱物Wの内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データとして算出する。次に、制御用PC20は、加熱温度データに応じて加熱手段の出力を制御する。このとき、温度センサからの測定温度データに基づいて推定変動温度データを算出し、この推定変動温度データに応じてヒーターKを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物への均熱処理が可能な加熱処理制御装置および加熱処理制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加熱物を加熱する際には、様々な問題が生じる。例えば、特許文献1では、鉄鋼用加熱炉の新燃焼技術においては、環境基準を満たすための排ガス中のNOxの制御を空燃比の調節により行うことが非常に難しかったが、加熱炉の仕様と燃焼機器の仕様及び操業条件に基づいてシミュレーションにより炉内各点の温度とNOx発生量を求め、発生するNOxが許容値以下となる炉内各点の温度条件を求め、炉内各点の温度がその温度以下になるように炉内温度を制御することで、炉内で発生するNOの抑制を図っている。
【0003】
また、特許文献2では、電気炉を用いた半導体製造装置においては、温度、制御アルゴリズムの開発、および温度制御操作方法の習得を、実際の装置を使用して行っていたが、ヒーター入力に対する温度出力の関係を表す伝達関数を求め、この伝達関数を温度系模擬装置の有する伝達関数として、加熱炉の温度制御シミュレーションを行うようにすることで、実際の炉の温度変化と同等の応答を示す温度系シミュレーションモデルを計算機上に作成することができ、実際の炉を使用せずとも、開発および操作方法の習得ができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−324927号公報
【特許文献2】特開2002−124481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被加熱物を加熱する際には、短時間に表面だけなく内部も含めて温度分布が均一となるような均熱処理を行うことが重要である。しかし、被加熱物の内部温度を知るには、被加熱物を削って内部に温度センサを配置する以外に直接内部温度を測定することができない。従って、被加熱物の内部温度は、表面の測定により想定するしかない。また、被加熱物の形状としては、立方体や円柱のように水平断面形状や垂直断面形状が一定のものは少なく、太い部分もあれば、細い部分もあるのが一般的である。
従来では、被加熱物を加熱しながら被加熱物の表面温度を測定し、内部温度を推測してヒーターなどの加熱手段の温度調整を行っていた。従って、太い部分や細い部分、および内部に至るまで均一に加熱することは、JISなどの基準に基づいた加熱方法や経験則による加熱方法では難しく、内部は十分に加熱されているのに更に表面を加熱し続ける過度な加熱や、または、内部の温度が不足しているにも関わらず、表面の加熱を止めてしまう加熱不足が発生することがある。
【0006】
過度な加熱となるような場合には、温度上昇を短時間に行った後に、加熱温度を一定とすれば、被加熱物への過度な加熱が防止できるだけでなく、作業時間の短縮や省エネルギー化を図ることができる。このように、被加熱物の温度分布の均一化を図る適正な加熱は、重要な問題である。
【0007】
そこで本発明は、高い加熱効率を図ることができると共に、被加熱物の温度分布の均一化を図ることができる加熱処理制御装置および加熱処理制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加熱処理制御装置は、被加熱物の形状および材質を示す被加熱物データおよび前記被加熱物を加熱する加熱手段の加熱に関する加熱データによる基礎データと、前記被加熱物が加熱されるときの目標温度を示す目標データとに基づいて、前記被加熱物の内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、前記加熱手段による時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データとして出力する目標温度演算手段と、
前記目標温度演算手段からの加熱温度データに応じて前記加熱手段の出力を制御する加熱制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の加熱処理制御方法は、被加熱物の形状および材質を示す被加熱物データおよび前記被加熱物を加熱する加熱手段の加熱に関する加熱データによる基礎データと、前記被加熱物が加熱されるときの目標温度を示す目標データとに基づいて、前記被加熱物の内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、前記加熱手段による時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データとして出力する目標温度演算ステップと、前記目標温度演算ステップにより加熱温度データに応じて前記加熱手段の出力を制御する加熱制御ステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、目標温度演算手段(目標温度演算ステップ)により、被加熱物データと加熱データとによる基礎データと、目標データとに基づいて均熱加熱するためのシミュレーションを行うことで、測定しにくい内部の均熱を加味した加熱温度データが出力され、この加熱温度データに応じて加熱制御手段(目標温度演算ステップ)により、加熱手段の出力を調整することで、被加熱物への適正な加熱を行うことができる。
【0011】
前記加熱制御手段は、前記被加熱物に配置された温度センサからの測定温度データに基づいて、前記加熱手段の加熱変化に応じた被加熱物の温度変化を予測温度データとして算出するときに、この予測温度データと前記目標データとの差異が最小となる前記加熱手段の出力値をシミュレーションして補正加熱データとして算出し、この補正加熱データに応じて前記加熱手段の出力を制御するのが望ましい。
被加熱物を加熱したときに目標とする温度と異なることが多い。加熱制御手段が、加熱手段の加熱度合に応じて被加熱物の温度がどのように変化するか、測定された測定温度データに基づいて被加熱物の内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションにより推定することで、加熱制御手段が単に温度が低い箇所に対応する加熱手段の出力を上昇させるだけなく、全体を把握して予測制御することで、精度の高い均熱処理を行うことができる。そして、加熱制御手段が予測温度データに応じて加熱手段の出力を制御するときに、目標温度を示す目標データと、予測した温度を示す予測温度データとの差異を算出して、この差異が最小となるような加熱手段の加熱出力をシミュレーションして算出する。そして、算出された補正加熱データに応じて加熱手段の出力を制御することで、更に精度の高い均熱処理を行うことができる。
【0012】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを、シミュレーションにより、それぞれの加熱手段の出力の変化量に対する前記加熱手段と同数の温度センサが配置されたそれぞれの測定点における温度変化量と前記加熱手段の出力値とから算出した推定変動温度データと、前記測定温度データとから算出するのが望ましい。
加熱制御手段が予測温度データを算出するときに、まず、それぞれの加熱手段の出力の変化量に対する加熱手段と同数の温度センサが配置された測定点における温度変化量と、加熱手段の出力値とから推定変動温度データを算出する。つまり、推定変動温度データは、加熱手段の出力を変化させたときに、この加熱手段に対応した測定点だけでなく他の測定点への影響を勘案した温度の変化量となる。従って、全体の測定点に対する影響を考慮することができる。
【0013】
このとき、前記加熱制御手段は、前記補正加熱データを算出するときに、式(1)に基づいて、前記測定温度データと前記推定変動温度データとから予測温度を示す予測温度データTiRを演算すると共に、演算された予測温度データTiRから式(2)に基づいて差異Eが最小となる式(3)に示す加熱手段の加熱の出力Hを演算して補正加熱データとすることができる。但し、TiRは前記温度センサからの測定温度データ、TiSは目標データ、(∂T/∂H,∂T/∂H,…,∂T/∂H)は式(4)から第i行を抽出した式である(iは1から測定点の数まで、nは1から加熱手段の数までである。)
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0014】
前記加熱制御手段は、式(2)による演算をするときに、TiSを目標温度演算手段によるシミュレーション結果である加熱温度データにより演算するのが望ましい。
加熱制御手段が、目標温度演算手段によるシミュレーション結果である加熱温度データをTiSにして式(2)による演算を行うことで、均熱性を考慮した加熱処理を行うことができる。
【0015】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを、シミュレーションにより、それぞれの加熱手段の出力の変化量に対する前記加熱手段より少ない数の温度センサが配置されたそれぞれの測定点における温度変化量と前記加熱手段の出力値とから算出した推定変動温度データと、前記測定温度データとから算出することができる。
加熱制御手段が、加熱手段より少ない数の温度センサが配置されたそれぞれの測定点における温度変化量に基づいて、予測温度データをシミュレーションにより算出することで、演算量を減らせることができるので、より高速に処理することができる。
【0016】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを算出するときに、前記目標温度演算手段が行うシミュレーションのための基礎データから間引いたデータを用いてシミュレーションを行うのが望ましい。
リアルタイムに加熱手段により加熱温度を変化させるためには、シミュレーション時間は短い方がよい。加熱制御手段がシミュレーションを行うための基礎データを目標温度演算手段が行うシミュレーションのための基礎データから間引いたデータを用いることで、シミュレーション時間を短縮することができるので、リアルタイムに加熱温度を制御することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、測定しにくい内部の均熱を加味した加熱温度データに応じて、加熱手段の出力を調整することで、被加熱物への適正な加熱を行うことができるので、高い加熱効率を図ることができると共に、被加熱物の温度分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係る電気炉システムを示す図である。
【図2】図1に示す電気炉システムのオフラインパーソナルコンピュータの構成を示す図である。
【図3】図1に示す電気炉システムの制御用パーソナルコンピュータの構成を示す図である。
【図4】被加熱物に装着される温度センサの位置を説明するための斜視図である。
【図5】図1に示す電気炉システムのオフラインPCによる準備段階の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】電気炉、被加熱物およびヒーターの形状と測定点とを表す基礎データを説明するための電気炉の斜視図である。
【図7】(A)および(B)は、電気炉、ヒーターの形状および位置を表すマトリクスデータの一例を示す図である。
【図8】(A)および(B)は、電気炉、被加熱物、ヒーターの形状および位置、測定点の位置を表すマトリクスデータの一例を示す図である。
【図9】電気炉、ヒーターの形状および位置、測定点の位置を表すマトリクスデータの一例を示す図である。
【図10】目標データを設定するための画面に一例を示す図である。
【図11】加熱温度データの一例を示す図である。
【図12】加熱出力データの一例を示す図である。
【図13】図1に示す電気炉システムの制御用PCによる加熱制御の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る加熱処理制御装置について、電気炉により被加熱物を加熱処理する電気炉システムを例に、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、電気炉システムは、被加熱物Wを加熱する電気炉1の均熱制御を行う機能を有するものである。
【0020】
電気炉1は、直方体状に形成され、炉内に載置された被加熱物Wを、内側面の6面にそれぞれ設けられた加熱手段であるヒーターKにより加熱する機能を備えている。本実施の形態に係る電気炉1では、各内側面のそれぞれに配置された9台のヒーターKのうち、水平方向に並ぶ3台を1セットとして個別に加熱制御している。つまり、ヒーターKが6面に配置されているため、18セットのそれぞれが均熱処理のために個別に制御される。
【0021】
電気炉システムは、オフラインパーソナルコンピュータ(以下、オフラインPCと称す)10と、制御用パーソナルコンピュータ(以下、制御用PCと称す。)20と、制御盤30とを備えている。
本実施の形態では、加熱処理制御装置をオフラインPC10と、制御用PC20とに分けて構成しているため、コンピュータを加熱処理制御装置として機能させる加熱処理制御プログラムが、オフラインPC10と制御用PC20とに、機能を分けて動作させているが、オフラインPC10と制御用PC20とを1台で構成してもよい。
【0022】
ここで、オフラインPC10の構成について、図2に基づいて説明する。図2に示すように、オフラインPC10は、目標温度演算手段11と、外部メモリ接続手段12と、表示手段13と、入力手段14と、記憶手段15とを備えている。
【0023】
目標温度演算手段11は、シミュレーションを行って、ヒーターKによる時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データを出力する。
外部メモリ接続手段12は、加熱温度データを制御用PC20へ移すために外部メモリMを接続するためのものである。本実施の形態では、外部メモリとしてUSB(Universal Serial Bus)メモリを使用しているため、外部メモリ接続手段12はUSBポートとすることができる。
【0024】
表示手段13は、LCDやCRT、有機ELディスプレイとすることができる。また、入力手段14は、数値や文字を入力するキーボードやポインティングデバイスであるマウスとすることができる。
【0025】
記憶手段15は、オフラインPC10を制御するOSや、各種のアプリケーションプログラムが格納されている他、シミュレーションを行う際の基礎データと、目標温度である目標データと、目標温度演算手段11が算出した加熱温度データなどが格納されている。基礎データは、被加熱物Wの形状および材質を示す被加熱物データと、被加熱物Wを加熱するヒーターKの仕様である形状や容量を示す加熱データとを含むデータである。目標データは、被加熱物Wを均熱に上昇、定温、下降させるときの被加熱物Wの設定温度である。
【0026】
次に、制御用PC20の構成について、図3に基づいて説明する。図3に示すように、通信手段21と、外部メモリ接続手段22と、加熱制御手段23と、表示手段24と、入力手段25と、記憶手段26とを備えている。
通信手段21は、制御盤30と通信するためのもので、ヒーターKの加熱指示を与えたり、被加熱物Wに装着された温度センサSからの測定温度データを入力したりする機能を備えている。通信手段21は、他の装置と通信できるものであれば、シリアルインタフェースでもパラレルインタフェースでもよいが、本実施の形態ではLANとしている。
外部メモリ接続手段22は、オフラインPC10からのデータが格納された外部メモリMを接続するためのものである。本実施の形態では、オフラインPC10と同様にUSBポートとすることができる。
【0027】
加熱制御手段23は、オフラインPC10によるシミュレーション結果や、温度センサSからの測定温度データに応じてヒーターKの加熱制御を行うものである。また、加熱制御手段23は、被加熱物Wに配置された温度センサSからの測定温度データに基づいて被加熱物Wの内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションする機能を備えている。
表示手段24や入力手段25は、オフラインPC10の表示手段13および入力手段14と同様の構成とすることができる。
記憶手段26は、制御用PC20を制御するOSや、各種のアプリケーションプログラムが格納されている他、外部メモリMから入力された加熱温度データ、制御盤30からの温度センサSの測定温度データや推定変動温度データ、予測温度データなどが格納されている。
【0028】
制御盤30は、制御用PC20からの加熱指示に応じてヒーターKを加熱したり、温度センサSからのアナログ信号を測定温度データとしてデジタル信号に変換して制御用PC20へ出力したりする機能を備えている。
【0029】
以上のように構成された電気炉システムの動作および使用状態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施の形態では、ヒーターKが、上述したように、電気炉1の内側壁面に、制御可能な3台を1セットとして3セットずつ、合計18セット設けられている。被加熱物Wとしては、鉄製の円柱体を使用している。この被加熱物Wには、18セットの各ヒーターKに対応させて、表面の18ヵ所に接合点を配置した熱電対を温度センサSとして装着している。具体的には、図4に示すように被加熱物Wの円形状の上面および底面に十字状に7ヵ所ずつ、胴部に90°ごとに4ヵ所に温度センサSが装着され、接合点からの配線が制御盤30に繋がっている。
作業者は、まず、準備段階(目標温度演算ステップ)として、オフラインPC10の表示手段13を見ながら入力手段14を操作して基礎データを入力する(図5のステップS100)。ここで、基礎データについて、詳細に説明する。
【0030】
基礎データは、被加熱物データと加熱データとを含むデータである。被加熱物データは、被加熱物Wの形状および材質を示すデータである。加熱データは、加熱手段であるヒーターKの加熱に関するデータである。本実施の形態では、電気炉1であるためヒーターKの形状および容量を示すデータである。本実施の形態では、被加熱物データにおける被加熱物Wの形状と、加熱データにおけるヒーターKの形状と、電気炉の形状とを、電気炉1を垂直方向に所定間隔ごとにスライスした仮想平面ごとに壁面や被加熱物W、ヒーターKをそれぞれ数値で定義したマトリクスデータとしている。本実施の形態では、マトリクスデータによる電気炉1および被加熱物Wの形状の定義を数値で行っているが、数値とする以外に英文字や記号など、それぞれが識別できる識別データとすることもできる。
【0031】
本実施の形態では、図6に示すように、仮想平面を、電気炉1を垂直方向に34等分した平面(Z=0〜33)としている。例えば、図7から図9に示すように、マトリクスデータでは、仮想平面が縦に27、横に19に分割され、電気炉1の壁面が「0」、空間(空気)が「−1」、被加熱物Wが「−2」、第1から第18のぞれぞれのヒーターKが「1」〜「18」、第1から第18のぞれぞれの測定点が「−3」〜「−20」として表現されている。なお、図5においてはマトリクスデータの底部壁面からZ=0,1,9,33の一部のみを図示している。
【0032】
また、被加熱物データとして、被加熱物Wの材質、密度、比熱、熱伝導率を設定する。加熱データに含まれるヒーターKの容量は、電気炉1が変更とならない限りは変更はないので、予め設定されている。
また、被加熱物Wが加熱されるときの目標温度(目標値)を示す目標データを設定する(ステップS110)。目標データは、被加熱物Wの設定温度を直接入力してもよいが、本実施の形態では、表計算ソフトを使用して、図10に示すように、室温、最大温度、最大温度までの昇温速度、最大温度の保持時間、最大温度からの冷却速度を入力して、実行ボタンB1を押下すると、温度カーブのグラフ表示と、被加熱物Wの温度とが自動的に算出され、目標データとして設定されるようにしている。
【0033】
このように基礎データおよび目標データが設定されると、作業はオフラインPC10を操作してシミュレーションを実行する。この実行操作により目標温度演算手段11は、基礎データおよび目標データを読み込み、被加熱物Wの内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、ヒーターKによる時間ごとの加熱温度を加熱温度データとして出力し、記憶手段15に格納する(ステップS120)。
【0034】
シミュレーションは、ヒーターKの容量および形状と出力とに応じた熱が、空気を媒体とする空間に伝熱し、被加熱物Wに放射され、被加熱物Wの表面から熱伝導率および比熱に応じた伝熱速度により内部へ浸透する状態を推定して、目標データで設定された温度とするための経過時間ごとのヒーターKごとの設定温度を加熱温度データとして出力する(図11参照)。本実施の形態では、60秒ごとのヒーターKの温度を出力している。
【0035】
作業者は、記憶手段15に格納された加熱温度データと、目標データとを、外部メモリ接続手段12に装着した外部メモリMに保存する(ステップS130)。次に、作業者は、この外部メモリMを制御用PC20へ装着して(ステップS140)、入力手段25を操作して、加熱温度データと、目標データとを外部メモリMから読み出して記憶手段26へ格納する(ステップS150)。これで準備段階は終了する。
【0036】
作業者は、制御用PC20を操作して、被加熱物Wへの加熱を開始する。この操作により加熱制御手段23は、この加熱温度データに基づいて、図12に示すような経過時間ごとのヒーターKの出力を割合で表現した加熱出力データを生成して、加熱時間(経過時間)ごとに通信手段21を介して加熱出力データを制御盤30へ送信する(図13のステップS200)。
【0037】
制御盤30は、この加熱出力データに基づいて電圧を制御してヒーターKに通電して加熱する。そして、制御盤30は、被加熱物Wの表面に装着された温度センサSにより測定された温度を測定温度データとして、制御用PC20へ送信する。
制御用PC20では、加熱制御手段23が、ステップS210にて測定温度データを受信して、被加熱物Wの内部を含む全体を均熱加熱するために、シミュレーションの結果に基づいてヒーターKの出力を調整する。
【0038】
ここで、加熱制御手段23による均熱処理(加熱制御ステップ)について詳細に説明する。
加熱制御手段23は、TiRを予測した温度を示す予測温度データ、TiSを目標温度である目標データとしたときに、式(5)にて示される予測温度と目標温度との差分の二乗和から差異Eを算出する。
【数5】

【0039】
予測される温度と、目標データが示す温度との差異Eが小さい方が理想的な温度制御であるといえる。従って、予測温度データTiRを目標温度である目標データTiSに近づけるようなヒーターKの出力を求める必要がある。
【0040】
このとき、予測温度を示す予測温度データTiRは、式(6)により求められる。
但し、(∂T/∂H,∂T/∂H,…,∂T/∂H)は式(7)から第i行を抽出した式で、ヒーターKの出力変化量に対する測定点の温度変化量の割合によって表される影響度、Hは式(8)によるヒーターKの出力、TiRは温度センサSからの測定温度データである。iは1から測定点の数まで、nは1から加熱手段の数までである。
【数6】

【0041】
【数7】

【0042】
【数8】

【0043】
式(7)では、上述したように、ヒーターKの出力変化量に対する測定点の温度変化量の割合を影響度Aとして算出している。この影響度Aの行列式から第i行を抽出した式((∂T/∂H,∂T/∂H,…,∂T/∂H))に式(8)に示されるヒーターKの出力Hを示す行列式を乗算することで、ヒーターKの出力により上昇または下降する温度が推定変動温度データとして算出できる。
式(7)に示す影響度Aを算出することで、あるヒーターKを加熱したときのそれぞれの測定点に対する影響を算出することができるので、ある測定点の温度が目標温度と比較して低いからといって、この測定点に対応するヒーターKを単に差分温度ほど昇温するのではなく、それぞれのヒーターKの出力を上げたとき、または下げたときの全体の測定点に対する影響を考慮して、全部のヒーターKの出力を個別に決定することができる。
【0044】
この影響度Aの行列式から第i行を抽出した式((∂T/∂H,∂T/∂H,…,∂T/∂H))とヒーターKの出力Hとを乗算した推定変動温度データを算出する際には、加熱制御手段23が基礎データに基づいてシミュレーションを行って算出する。本実施の形態では、温度センサSからの測定温度データを入力して温度制御を行うまでの一連の制御を60秒ごとに行う必要がある。従って、このシミュレーションは、短時間に終了させる必要がある。
よって、このときのシミュレーションは、基礎データであるマトリクスデータの配列から間引いた基礎データを使用する。例えば、形状に関する基礎データを図7から図9に示す27×19のマトリクスデータとしているが、一つおきにとした14×10とする。そうすることで、加熱制御手段23によるシミュレーションの演算数が少なくなるためリアルタイムに影響度Aをシミュレーションすることができる。
【0045】
このように、加熱制御手段23は、ステップS220にて影響度Aの行列式から第i行を抽出した式((∂T/∂H,∂T/∂H,…,∂T/∂H))とヒーターKの出力H(式(8)参照)の行列式とを乗算し、ステップS230にて、この乗算結果に測定温度データTiRを加算して予測温度データTiRを算出し(式8参照)、ステップS240にて予測温度データTiRと目標データTiSとの二乗和による差異E(式(5)参照)を演算し、最適化手法により差異Eが最小となるようなヒーターKの出力Hを算出するまで、ステップS220からステップS250までのシミュレーションと上記演算を行う。
この最適化手法は、例えば、表計算ソフトの一例であるエクセル(登録商標)での最適化ソルバーを使用することができる。
【0046】
加熱制御手段23は、最適化手法により算出されたヒーターKの出力Hを、補正加熱データとして、制御盤30へ送信する(ステップS260)。この補正加熱データは、加熱データと同様に、それぞれのヒーターKに対する出力を割合で示すものである。
制御盤30は、この補正加熱データによりヒーターKの出力を調整する(ステップS270)。
【0047】
加熱制御手段23および操作盤30が、ステップS200からステップS270までの制御を、設定された時間ごと(本実施の形態では60秒ごと)に行うことで、被加熱物Wに対して適正な加熱温度を設定することができる。従って、被加熱物Wを加熱し過ぎたり、加熱不足となったりすることが防止できるので、高い加熱効率を図ることができると共に、被加熱物の温度分布の均一化を図ることができる。
【0048】
なお、本実施の形態1では、式(5)により予測温度と目標温度との差分の二乗和から差異Eを算出しているが、TiSを目標温度である目標データとせずに、目標温度演算手段11により算出した加熱温度データとすることができる。
これは、オフラインPC10の目標温度演算手段11による均熱加熱するためのシミュレーションにより、被加熱物Wの内部を均一に加熱するような各測定点の温度曲線をそれぞれ求めることができるからである。従って、TiSを加熱温度データとすることで、被加熱物Wを均熱に加熱することが可能である。
しかし、目標温度演算手段11によるシミュレーションの精度が低く、実際に被加熱物Wを加熱したときに、内部を含む全体の状態が、シミュレーション結果と大きく乖離するようなときには、TiSを目標温度である目標データとするのが望ましい。
【0049】
また、本実施の形態では、電気炉1により被加熱物Wを加熱する場合を説明したが、局部加熱装置においても、同様に実施することができる。局部加熱装置の場合には、基礎データとしてのマトリクスデータにおいて、被加熱物の表面に加熱手段が接触した状態や内部で誘導加熱される状態を定義することで対応が可能である。
また、本実施の形態では、水平方向に並ぶ3台のヒーターKを1セットとして全部で18セットのヒーターKを加熱制御しているが、シミュレーションの複雑さ処理時間に問題がなければ、ヒーターK全部を個々に加熱制御するようにしてもよい。
【0050】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る加熱処理制御装置について説明する。本実施の形態2に係る加熱処理装置の構成については、実施の形態1と同様であるため説明は省略する。
実施の形態1では、加熱手段であるヒーターKが設置されている箇所が18ヵ所、このヒーターKに対応させて測定点が18点で行っているが、実施の形態2では測定点をヒーターKより少ない数で加熱処理を行うことを特徴としている。
本実施の形態2では5ヵ所で加熱処理を行っている。この5ヵ所については、例えば、上面の中央部、円周面の90°ごとの4ヵ所とすることができるが、経験的に測定箇所を決定してもよい。
【0051】
決定された測定点は、基礎データとして定義される。例えば、実施の形態1では、第1から第18のそれぞれの測定点が「−3」から「−20」として表現されていたが、実施の形態2では測定点が5ヵ所であるため「−3」から「−7」として表現される。従って、「−8」から「−20」は被加熱物Wを示す「−2」へ変更する。
【0052】
ヒーターKより少ない数とした測定点の評価は、図5のステップS120に示すオフラインPC10によるシミュレーションを行って確認することができる。この確認により均熱となっていなければ、再度、新たな測定点を設定し直してシミュレーションをやり直す。このようにして測定点を決定する。
このように測定点が決定されれば、加熱制御手段23によるステップS220からステップS250(図13参照)までの実際の加熱処理を行う。
このように設定されたことで、式(7)は式(9)となる(但し、mはヒーターKより少ない測定点の数)。
【数9】

【0053】
最適化手法は、実施の形態1と同様に、エクセル(登録商標)での最適化ソルバーが使用できる。ここで、VBAモジュール「定数定義」の中のPublic Constant NUM_MPの値を「18」から「5」へ変更する。そうすることで、測定点が18ヵ所から5ヵ所に減少し、「−3」から「−7」が有効であることを制御用PC20へ設定できる。
【0054】
このように測定点をヒーターKより少ない数とすることで、演算量を減らせることができるので、シミュレーションを高速に処理することができる。従って、測定温度が入力される時間間隔内(本実施の形態では60秒。)にシミュレーションを終え、補正するためのヒーターKの出力を決定する必要があるが、確実に間に合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、被加熱物を均熱する際の加熱処理に好適であり、特に、被加熱物の周囲全体を加熱する電気炉に最適である。また、本発明は、電気炉だけでなく、被加熱物の一部をバーナーや誘導電流により加熱する局部加熱装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 電気炉
10 オフラインパーソナルコンピュータ
11 目標温度演算手段
12 外部メモリ接続手段
13 表示手段
14 入力手段
15 記憶手段
20 制御用パーソナルコンピュータ
21 通信手段
22 外部メモリ接続手段
23 加熱制御手段
24 表示手段
25 入力手段
26 記憶手段
30 制御盤
K ヒーター
W 被加熱物
M 外部メモリ
S 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物の形状および材質を示す被加熱物データおよび前記被加熱物を加熱する加熱手段の加熱に関する加熱データによる基礎データと、前記被加熱物が加熱されるときの目標温度を示す目標データとに基づいて、前記被加熱物の内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、前記加熱手段による時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データとして出力する目標温度演算手段と、
前記目標温度演算手段からの加熱温度データに応じて前記加熱手段の出力を制御する加熱制御手段とを備えたことを特徴とする加熱処理制御装置。
【請求項2】
前記加熱制御手段は、前記被加熱物に配置された温度センサからの測定温度データに基づいて、前記加熱手段の加熱変化に応じた被加熱物の温度変化を予測温度データとして算出するときに、この予測温度データと前記目標データとの差異が最小となる前記加熱手段の出力値をシミュレーションして補正加熱データとして算出し、この補正加熱データに応じて前記加熱手段の出力を制御する請求項1記載の加熱処理制御装置。
【請求項3】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを、シミュレーションにより、それぞれの加熱手段の出力の変化量に対する前記加熱手段と同数の温度センサが配置されたそれぞれの測定点における温度変化量と前記加熱手段の出力値とから算出した推定変動温度データと、前記測定温度データとから算出する請求項2記載の加熱処理制御装置。
【請求項4】
前記加熱制御手段は、前記補正加熱データを算出するときに、式(1)に基づいて、前記測定温度データと前記推定変動温度データとから予測温度を示す予測温度データTiR*を演算すると共に、演算された予測温度データTiR*から式(2)に基づいて差異Eが最小となる式(3)に示す加熱手段の加熱の出力Hを演算して補正加熱データとする請求項3記載の加熱処理制御装置。但し、TiRは前記温度センサからの測定温度データ、TiSは目標データ、(∂Ti/∂H1,∂Ti/∂H2,…,∂Ti/∂Hn)は式(4)から第i行を抽出した式である(iは1から測定点の数まで、nは1から加熱手段の数までである。)
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【請求項5】
前記加熱制御手段は、式(2)による演算をするときに、TiSを目標温度演算手段によるシミュレーション結果である加熱温度データにより演算する請求項4記載の加熱処理制御装置。
【請求項6】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを、シミュレーションにより、それぞれの加熱手段の出力の変化量に対する前記加熱手段より少ない数の温度センサが配置されたそれぞれの測定点における温度変化量と前記加熱手段の出力値とから算出した推定変動温度データと、前記測定温度データとから算出する請求項2記載の加熱処理制御装置。
【請求項7】
前記加熱制御手段は、前記予測温度データを算出するときに、前記目標温度演算手段が行うシミュレーションのための基礎データから間引いたデータを用いてシミュレーションを行う請求項2から6のいずれかの項に記載の加熱処理制御装置。
【請求項8】
被加熱物の形状および材質を示す被加熱物データおよび前記被加熱物を加熱する加熱手段の加熱に関する加熱データによる基礎データと、前記被加熱物が加熱されるときの目標温度を示す目標データとに基づいて、前記被加熱物の内部を含む全体を均熱加熱するためのシミュレーションを行って、前記加熱手段による時間ごとの加熱温度を示す加熱温度データとして出力する目標温度演算ステップと、
前記目標温度演算ステップによる加熱温度データに応じて前記加熱手段の出力を制御する加熱制御ステップとを含むことを特徴とする加熱処理制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−93818(P2012−93818A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238195(P2010−238195)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(392017392)熱産ヒート株式会社 (9)
【Fターム(参考)】