説明

加飾されたセメント質硬化体

【課題】意匠の自由度が高く、光沢性、鮮映性に優れ、複雑な表面形状に沿った表面性状の得られる加飾された硬化体を提供する。
【解決手段】表面粗さ(Rmax)が10μm以下であるセメント質硬化体に、金属層13を、離型層11を介して担持したキャリアフィルム20から熱転写して、鮮映性測定値(GD値)0.5以上の光沢膜を形成し、加飾されたセメント質硬化体とする。さらに、前記セメント質硬化体は、表面が平滑(表面粗さが10μm以下)な型枠を使用して成形することにより、表面研磨をすることなく、表面粗さ(Rmax)を10μm以下とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾されたセメント質硬化体に関し、特に、ホットスタンプにより、加飾されたセメント質硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、物品の表面を転写により加飾する方法としては、ホットスタンプ等が知られている。ホットスタンプは、専用の印刷層が塗られたスタンプ箔の印刷層を熱版により被印刷物に転写して印刷する方法である。例えば、物品表面を被印刷物として、熱版には印刷パターンを凸版として形成し、物品表面と熱版との間に前記スタンプ箔を置き、前記熱版により前記スタンプ箔を物品表面に対し加圧、加熱し、印刷層を物品表面に転写することにより、ホットスタンプを行う。
【0003】
コンクリート等のセメント質硬化体は、いわゆる打ち放し仕上げでは、素材の灰白色と色の不均一、ざらざら感が素材の質感を醸し出して、ある意味で魅力的である。一方で、内装建材や意匠性の要求される部材に用いるには、不満足とされる向きも否めない。
【0004】
そこで、コンクリート等のセメント質硬化体の表面処理に関し、金属溶射皮膜を用いた表面処理により、金属光沢の付与と、溶射による凹部を封孔仕上げする方法が開示されている(特許文献1)。更に、無機質板の表面に加熱発泡剤を混入した接着剤を塗布後、模様を印刷した化粧シートを重ねて凸部を形成したエンボス版を化粧シートに押し当て、凹部を形成しながら立体的な化粧を施す化粧板の製造が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−269677号公報
【特許文献2】特開平7−80995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の加飾方法では、コンクリート等の表面が金属本来の光沢を有し、同時に金属溶射皮膜の封孔処理ができるが、溶射皮膜層の形成が前提となっていた。従って、まず、溶射層を金属溶射によって、形成する必要があり、溶射で可能な金属にかなり限定され、微細な文様の表示等は困難であった。
【0007】
特許文献2では、建材等の仕上げ表面が化粧シートの意匠に凹凸を加えたものであり、比較的厚い接着層と発泡部分の態様を反映したものに限定される傾向にあった。また、エンボス版を用いるため、建材の表面が起伏している場合、この起伏に沿った化粧シートの貼付は困難であった。
【0008】
そこで、本発明においては、意匠の自由度が高く、光沢性、鮮映性に優れ、複雑な表面形状に沿った表面性状の得られる加飾されたセメント質硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、セメント質硬化体の表面性状の制御とホットスタンプ方法の制御により、課題解決の糸口を見出し、[1] 表面粗さ(Rmax)が10μm以下であるセメント質硬化体に、金属層を、離型層を介して担持したフィルム層から熱転写して、鮮映性測定値(GD値)0.5以上の光沢膜を形成されたことを特徴とする加飾されたセメント質硬化体を提供する。
【0010】
さらに、[2]前記硬化体が、表面研磨をすることなく、表面粗さ(Rmax)が10μm以下である硬化体であることを特徴とする[1]記載加飾された加飾されたセメント質硬化体を提供する。
【0011】
[3]前記金属が、金属蒸着層であることを特徴とする[1]〜[2]記載の加飾されたセメント質硬化体を提供する。
[4]前記セメント質硬化体が、セメント100重量部、粒径2mm以下の細骨材50〜250重量部、減水剤を固形分換算で0.1〜4.0重量部、及び10〜30重量部の水を含む配合物を型枠に流し込んで得た硬化体であることを特徴とする[1]〜[3]記載の加飾されたセメント質硬化体、を提供する。
【0012】
本発明は、表面粗さ(以降、Rmaxと称す)が10μm以下のセメント質硬化体であれば、金属層を、離型層を介して担持したフィルム層から熱転写して、所定の鮮映度が得られる。
【0013】
Rmaxが10μm以下のセメント質硬化体を得るには、モルタルやコンクリート等のセメント質硬化体の表面研磨によって、通常の手段でおこなうことができる。表面研磨手段は、ブラスト処理、金属製研磨剤による研磨、ダイヤモンド研磨、炭化ケイ素粉末研磨等々である。
【0014】
更に、表面研磨後に、または、表面研磨に替えて、セメント質硬化体と熱転写箔の密着性向上のために、プライマリー塗装などの処理を妨げるものではない。こうして、Rmaxが、10μm以下のセメント質硬化体を得ることができる。
【0015】
また、表面研磨をせず、Rmaxが10μm以下のセメント質硬化体を得るには、例えば、0打フロー値(「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定したフロー値)が230mm以上の高流動モルタル、又はスランプフロー値が50cm以上の高流動コンクリートを、表面が平滑(表面粗さが10μm以下)な型枠を使用して成形すればよい。このような型枠としては、ポリエチレンやポリウレタン製等の樹脂型枠や金属型枠等が挙げられる。
【0016】
そして、このセメント質硬化体表面に、熱転写を行えば、その表面がきめ細やかで、高級感のある意匠を実現できる。
【0017】
また、熱転写箔は、後述するように、材質を限定した柔軟なキャリアフィルムで担持された熱転写層を含む。このとき、セメント質硬化体の表面に起伏が形成されていても、滑らかな角のないデザインであって、Rmaxが、10μm以下ならば、この起伏に沿った転写が可能となって、立体的表面を形成し、意匠性が向上する。
【0018】
セメント質硬化体の好ましい材料と配合割合の1例を説明する。
セメント質硬化体は、少なくとも、セメント100重量部に対して、最大粒径2mm以下の細骨材50〜250重量部、減水剤(固形分換算)0.1〜4.0重量部、及び水10〜30重量部を含む配合物の硬化体であれば、配合物の0打フロー値を230mm以上にすることができ、表面が平滑(表面粗さが10μm以下)な型枠を使用して成形すれば、表面研磨を行わなくても該硬化体のRmaxを10μm以下にすることができるので好ましい。
【0019】
セメントの種類は限定するものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントを使用することができる。
細骨材としては、粒径2mm以下の細骨材を用いることができる。ここで、細骨材の粒径とは、85%重量累積粒径である。細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂及びこれらの混合物を使用することができる。
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。なお、減水剤は、液状又は粉末状どちらでも使用可能である。
【0020】
なお、セメント質硬化体は、上記材料に加えて、ブレーン比表面積4000〜10000cm/gの無機粉末(例えば、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉末、石英粉末等)やBET比表面積2〜20m/gの微粉末(例えば、シリカフューム、石灰石粉末等)、さらには繊維(金属繊維や有機質繊維)や粗骨材等を含むことができる。
【0021】
表面粗さ(Rmax)が10μm以下である前記硬化体に、金属層を、離型層を介して担持したフィルム層から熱転写する。鮮映性測定値(GD値)を、本願の意匠性の判定に用いることは、客観的評価の基準として好ましい。本願においては、このGD値が、0.5以上の光沢膜を形成することができる。
【0022】
セメント質硬化体への金属層の熱転写を可能にする熱転写箔について、図1に基づき説明する。
【0023】
図1は、本発明に用いる熱転写箔の積層構造を模式的に示す図である。熱転写箔100は、キャリアフィルム20の片面に、離型層11、保護着色層12、金属層13、および接着層14が順次積層する。保護着色層12、金属層13、および接着層14は、併せて熱転写層10を構成する。熱転写箔100は、連続テープ状であることが好ましい。
【0024】
キャリアフィルム20は、熱転写層10を支持し、熱転写箔100から熱転写層10の転写後は、単独で回収されることが好ましい。キャリアフィルム20としては、転写時のサーマルパッド32からの熱で溶融しないものを選定する。そのため、キャリアフィルム20は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PE(ポリエチレン)が好ましい。例えば、厚みが、12μm〜25μm程度の2軸延伸PETフィルムが用いられる。この材質、厚みならば、セメント質硬化体の表面に起伏が形成されていても、それが、滑らかな角のないデザインであって、Rmaxが、10μmならば、この起伏に沿った転写が可能となって、立体的表面を形成し、意匠性が向上する。
【0025】
離型層11は、キャリアフィルム20上に形成し、サーマルパッド32で加熱された熱転写層10が、キャリアフィルム20から容易に剥離するために用いることができる。離型層11は、1μm程度の厚みとし、その全部または一部がセメント質硬化体表面に転写移行してもよく、あるいは、セメント質硬化体に全く移行しなくともよい。離型層11は、具体的には、パラフィンワックス、カルナバワックス等のワックス等の樹脂を主成分とすることができる。
【0026】
保護着色層12の厚みは、1μm程度で、熱転写箔製造時、金属層13をキャリアフィルム20に付着させる層である。また加飾、熱転写時には、熱転写層10がキャリアフィルム20から剥がれ、セメント質硬化体に固着し、金属層13を保護するという機能を持つ。着色作用は任意である。保護着色層12の主成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン系樹脂、フッ素樹脂などの1種または2種以上を使用できる。フッ素樹脂を用いて、加飾後のセメント質硬化体の耐候性、耐薬品性を高めることもできる。
【0027】
金属層13は、銅、スズ、アルミニウム、クロム、金、銀等のいずれかの金属を含む。金属層13は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法や、化学蒸着法、電着、化学めっき等により製膜される。より好ましくは、金属層13は真空蒸着法により製膜される。真空蒸着では、高真空炉の中で金属片を蒸発させ、蒸発した金属が金属微粒子となり、保護着色層12に付着する。
【0028】
金属層13は、十分な金属光沢を得るために、厚さが20nm以上である。さらに確実に要求される金属光沢を得るために、好適には、厚さが30nm以上である。
【0029】
真空蒸着では、真空度、蒸着温度、蒸着処理速度等の蒸着条件を変化させた試料を用いて、電子顕微鏡で金属層形成条件を確認して、真空蒸着条件を調整することができる。
【0030】
接着層14(厚みは2μm程度)は、熱転写箔製造においては、金属層13を保護し、また熱転写時には、金属層13とセメント質硬化体を接着する機能を持つ。材料としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体などの1種または2種以上を主成分とするもの、及び/又は各種ワックスを用いてもよい。
【0031】
図2に示すホットパッドを用いた転写では、台上にセメント質硬化体をセットした。加熱したホットパッドが巻き出した転写箔を硬化体に押し付け、転写箔を加熱しながら加圧し、ホットパッドを離して転写層のみを硬化体表面に残した。転写済みのキャリアは、ロールに巻き取った。
【0032】
なお、硬化体表面と転写箔の間の空気を吸引する装置(図示せず)を設け、転写箔をホットプレスしながら、クランプ状態で、転写箔と硬化体の間にトラップされる空気を吸引して抜くことにより、転写箔を、硬化体に沿わせて密着させる熱転写を行うこともできる。
【発明の効果】
【0033】
複雑な表面形状に対応し、意匠の自由度が高いセメント質硬化体への加飾を実現でき、光沢性や鮮映性に極めて優れる加飾されたセメント質硬化体を実現できる。そして、これを利用したセメント二次製品(舗装版、床版等)の意匠性をたかめ、その用途を広範にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に用いる熱転写箔を説明する模式図である。
【図2】本発明の加飾された硬化体の製造方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
より具体的に実施形態を記載する。
セメント質硬化体は、セメント100重量部に対して、最大粒径2mm以下の細骨材100重量部、ポリカルボン酸系減水剤(固形分換算)0.6重量部、及び水20重量部を含む配合物について、配合物の0打フロー値を230mm以上であることを確認して、表面が平滑(表面粗さが10μm以下)な樹脂型枠を使用して成形した。脱型後、表面研磨を行わなくても該硬化体のRmaxを9μmのモルタル硬化体を得た。
【0036】
熱転写箔100の製造に関しては、まず、厚さ10μm程度の2軸延伸PETフィルム等からなるキャリアフィルム20を用意した。
【0037】
キャリアフィルム20の片面に1μm厚の離型層11を形成した。ワックスを水により溶解した塗工液を用意し、この塗工液をキャリアフィルム20に塗布した後、乾燥することにより行った。保護着色層12は、離型層11にポリエステル樹脂をアルコールにより溶解した塗工液を塗布して形成した。
【0038】
ついで、保護着色層12に金属層13を形成した。金属層をアルミニウムとし、金属層13の厚みが70nm以下となる条件で真空蒸着を行った。金属層の厚さが20nm未満では所望の金属光沢感がでにくい。また、金属層13の厚さが70nmより厚いと、表面が乱反射を起こすため光沢がでにくくなるため、金属層の厚みが50nm以下となるような条件で真空蒸着を行うことが好適であった。そこで、40nm厚の金属層を形成した。
【0039】
次いで、樹脂を有機溶剤に溶解させた塗工液をアルミニウム金属層13に塗布した後、乾燥することにより、接着層14を形成し、本実施形態の熱転写箔100を製造した。
【0040】
さらに、前記モルタル硬化体に熱転写し、加飾されたセメント質硬化体を次のように製造した。図2に示す熱転写装置30は、熱転写箔をスクロールさせる一対の熱転写箔ローラ31と、セメント質硬化体設置台(図示せず)を備えた。一対の熱転写箔ローラ31の中間位置に、熱転写箔100を加熱してセメント質硬化体に熱転写層10を熱転写するためのサーマルパッド32を設けた。図(a)、図(b)は、それぞれ転写前後の作動状態を示した。サーマルパッド32は、ガイド33に沿って上下し、セメント質硬化体を加圧する弾力体であり、セメント質硬化体の起伏する表面形状にフィットした熱転写をおこなった。
【0041】
熱転写時には、熱転写箔ローラ31が回転して熱転写箔100をスクロールさせた。そして、サーマルパッド32が、熱転写箔100を加熱しながら、セメント質硬化体40に圧接させることにより、セメント質硬化体に熱転写層10が熱転写され、加飾セメント質硬化体を製造した。熱転写箔100とセメント質硬化体40の間の空気は、設置台に備えた空気吸引孔(図示せず)より減圧して取り除いた。
【0042】
得られた加飾されたセメント質硬化体は、鮮映性測定値(GD値)0.5以上の光沢膜が形成され、美麗な外観を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、意匠の自由度が高く、光沢性、鮮映性に優れ、起伏のある表面形状に沿った加飾されたセメント質硬化体を提供する等、その用途を広範囲とすることができる。
【符号の説明】
【0044】
10:熱転写層
11:離型層
12:保護着色層
13:金属層
14:接着層
100:熱転写箔
20:キャリアフィルム
30:熱転写装置
31:熱転写箔ローラ
32:サーマルパッド
33:ガイド
40:セメント質硬化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さ(Rmax)が10μm以下であるセメント質硬化体に、金属層を、離型層を介して担持したフィルム層から熱転写して、鮮映性測定値(GD値)0.5以上の光沢膜を形成したことを特徴とする加飾されたセメント質硬化体。
【請求項2】
前記セメント質硬化体が、表面研磨をすることなく、表面粗さ(Rmax)が10μm以下である硬化体であることを特徴とする請求項1記載の加飾されたセメント質硬化体。
【請求項3】
前記金属層が、金属蒸着層であることを特徴とする請求項1又は2記載の加飾されたセメント質硬化体。
【請求項4】
前記セメント質硬化体が、セメント100重量部、粒径2mm以下の細骨材50〜250重量部、減水剤を固形分換算で0.1〜4.0重量部、及び10〜30重量部の水を含む配合物を型枠に流し込んで得た硬化体であることを特徴とする請求項1乃至3記載の加飾されたセメント質硬化体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1412(P2012−1412A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140339(P2010−140339)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】