動力発生装置、音響再生装置、インジェクション装置、位置制御装置、光スイッチング装置
【課題】電磁力利用の動力発生装置に関し低消費電力化・部品点数の削減を図る。
【解決手段】例えばMTJ素子(磁気トンネル接合素子)などの磁気メモリ素子を利用した動力発生装置とする。磁気メモリ素子は磁化状態が平行状態のときに漏洩磁界が生じるため、当該漏洩磁界を永久磁石に作用させて動力を発生する。動力の発生は磁気メモリ素子に値を書き込むことで可能となるため、駆動信号としては符号”0””1”の組み合わせで成るデジタル信号を用いることができる。これによりD/Aコンバータを不要とでき部品点数の削減が図られる。また磁気メモリ素子は一度電流を流して値を書き込めば平行状態/反平行状態を維持するものであり、従って動力を継続して得るにあたり電力を与え続ける必要性はなく、この面で低消費電力化が図られる。
【解決手段】例えばMTJ素子(磁気トンネル接合素子)などの磁気メモリ素子を利用した動力発生装置とする。磁気メモリ素子は磁化状態が平行状態のときに漏洩磁界が生じるため、当該漏洩磁界を永久磁石に作用させて動力を発生する。動力の発生は磁気メモリ素子に値を書き込むことで可能となるため、駆動信号としては符号”0””1”の組み合わせで成るデジタル信号を用いることができる。これによりD/Aコンバータを不要とでき部品点数の削減が図られる。また磁気メモリ素子は一度電流を流して値を書き込めば平行状態/反平行状態を維持するものであり、従って動力を継続して得るにあたり電力を与え続ける必要性はなく、この面で低消費電力化が図られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ素子を利用した動力発生装置と、当該動力発生装置を利用した音響再生装置、インジェクション装置、位置制御装置、及び光スイッチング装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開平9−233800号公報
【特許文献2】特開2007−218241号公報
【背景技術】
【0003】
従来、例えばボイスコイルモータなどの電磁力を利用した動力発生装置が広く普及している。これらの動力発生装置では、駆動コイルに電流を流し磁界を発生させて駆動力を得るようにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の動力発生装置は、電力を与え続けなければ、動力を発生し続けることはできない。この点を改善できれば、低消費電力化面で大きく前進することができる。
【0005】
また、従来の動力発生装置では、制御信号をデジタル信号により生成しても、動力発生装置を駆動するドライバに対しては当該制御信号をD/A変換して与える構成が一般的である。つまり、D/Aコンバータが介在する分、駆動部の小型化・部品点数の削減の面で不利となり、製品コストの削減の妨げとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、上記問題点の解決を課題とするものであり、動力発生装置を以下のように構成する。
すなわち、本技術の動力発生装置は、磁気メモリ素子と、上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部とを備える。
さらに、磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部を備えるものである。
【0007】
ここで、上記磁気メモリ素子とは、書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層(磁化自由層)と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層(参照層)とを少なくとも有し、上記磁化固定層の磁化方向に対する上記記憶層の磁化方向の変化により電気的な抵抗値の変化を生じ、該抵抗値の変化により異なる値の保持状態を示すように構成された素子を指すものである。
このような磁気メモリ素子は、上記磁化固定層と上記記憶層とで磁界の向きが一致する状態(いわゆる平行状態)のとき、漏洩磁界が生じる。一方、上記磁化固定層と上記記憶層とで磁界の向きが反対である状態(いわゆる反平行状態)では、互いに磁界を打ち消し合うことで漏洩磁界は生じないものとなる。前者の平行状態のときに発生する漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されることで、動力が生じるものである。
このとき、磁気メモリ素子は、一度これに値を書き込めば(つまり上記書込電流又は反転電流としての電流を流せば)、上記の反平行状態又は平行状態を維持するものである。すなわち、一度電流を流して上記の平行状態に遷移させた後は、上記漏洩磁界が生じ続けるものとなる。このことからも理解されるように、磁気メモリ素子を用いた本技術の動力発生装置によれば、動力を継続して得るにあたり、電力を与え続ける必要性はないものとできる。つまりこの面で、低消費電力化を図ることが可能となる。
また、値の書き換え、すなわち上記反平行状態/平行状態の切り替えは、上記書込電流/反転電流を与えさえすればよく、符号”0””1”の組み合わせで成るデジタル信号による駆動が可能である。つまり、駆動にあたってD/Aコンバータを介在させる必要性はなく、この点で部品点数の削減、回路構成の簡易化が図られる。
また、磁気メモリ素子は高速書き換えが可能であり、従って磁気メモリ素子を用いた本技術の動力発生装置によれば、高速応答が可能で、広帯域の動作を実現できる。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、低消費電力で且つ簡易な構成による動力発生装置を実現できる。
さらに、本技術によれば、高速応答が可能で、広帯域の動作が可能な動力発生装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態の動力発生装置の第1の構成例を示した図である。
【図2】磁気メモリ素子の記憶原理について説明するための図である。
【図3】実施の形態の動力発生装置の動力発生原理について説明するための図である。
【図4】実施の形態の動力発生装置の第2の構成例を示した図である。
【図5】第2の構成例における各部の動作波形を示したタイミングチャートである。
【図6】より大きな駆動力を得るための構成例について説明するための図である。
【図7】実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置の構成を示した図である。
【図8】従来のフルデジタル音響再生装置の構成を示した図である。
【図9】実施の形態の動力発生装置を適用したマイクロインジェクタの構成を示した図である。
【図10】実施の形態の動力発生装置を適用したサーボ制御ユニットの構成を示した図である。
【図11】実施の形態の動力発生装置を適用した光スイッチの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本技術に係る実施の形態について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
<1.実施の形態の動力発生装置>
[1-1.第1の構成例]
[1-2.第2の構成例]
[1-3.駆動力を大とするための構成例]
<2.実施の形態の動力発生装置の適用例>
[2-1.音響再生装置(マイクロスピーカ)]
[2-2.マイクロインジェクタ]
[2-3.サーボ制御システム]
[2-4.光スイッチ]
<3.変形例>
【0011】
<1.実施の形態の動力発生装置>
[1-1.第1の構成例]
図1は、実施の形態の動力発生装置の第1の構成例を示している。
先ず、本実施の形態では、磁気メモリ素子として、いわゆるMTJ素子(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を用いる。
【0012】
ここで、メモリ素子としては、NORフラッシュメモリ、DRAMなどが現在広く普及しているが、これらに代わる次世代のメモリ素子として、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)、MRAM(Magnetic Random Access Memory)、PCRAM(Phase-Change Random Access Memory)などの開発が進められ、一部は既に実用化されている。
【0013】
なかでもMRAMは、磁性体の磁化方向によりデータ記憶を行うために、高速かつほぼ無限(1015回以上)の書換えが可能であり、既に産業オートメーションや航空機などの分野で使用されている。
【0014】
MRAMには、磁気メモリ素子の近傍に配置した配線に電流を流すことで生じる電流磁界を、磁気メモリ素子に対して印加して磁化方向を変化させる(つまり記憶値を変化させる)電流磁界印加方式のものと、磁気メモリ素子に対して直接電流を流して磁化方向を変化させる磁化反転方式のものとに大別できる。
これらのうち、後者の磁化反転方式には、いわゆるスピントルク磁化反転方式があり、当該スピントルク磁化反転方式は低消費電力化等の面で有利であることが知られている。
【0015】
ここで、スピントルク磁化反転方式は、磁化方向が固定された磁化固定層を通過するスピン偏極電子が、記憶層(磁化方向が可変とされた磁性層:自由層とも呼ばれる)に進入する際に当該記憶層にトルクを与えること(これをスピントランスファトルクとも呼ぶ)を利用したもので、これら磁化固定層・記憶層が積層される方向に所定閾値以上の電流を流すことで、記憶層の磁化方向が反転するという性質を利用している。このとき、記憶情報としての”0””1”の書換えは、上記電流の極性を変えることにより行われる。
【0016】
なお、スピントルク磁化反転を利用したMRAMは、ST−MRAM(Spin Torque-Magnetic Random Access Memory)と呼ばれる。また、スピントルク磁化反転は、スピン注入磁化反転とも呼ばれる。
【0017】
スピントルク磁化反転方式では、磁気メモリ素子として、前述の電流磁界印加方式の場合と同じくMTJ素子(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を用いる場合が多い。
ここで、MTJ素子は、例えば下記の参考文献にも記載されるように、記憶層と磁化固定層との間に配される中間層として、絶縁体薄膜で構成された絶縁層を有し、当該絶縁層を設けたことによる磁気トンネル接合効果により、高い磁気抵抗変化率(MR比)を実現できる(特に参考文献1の[0002]〜[0008]などを参照)。
・参考文献1:特開2002−314164号公報
・参考文献2:特開2008−227388号公報
【0018】
図1においては、このようなMTJ素子による磁気メモリ素子を、MTJ1と表記している。
MTJ1に対しては、図中の駆動部2により、入力信号に応じた駆動電流が流される。具体的にこの場合の駆動電流は、MTJ1を構成する前述の磁化固定層、中間層(絶縁層)、記憶層の積層方向に対して流される(図中の電流I-p、電流I-ap)。
【0019】
また、本実施の形態の動力発生装置には、永久磁石3、及びこれを壁面5との間に懸架するバネ4とが設けられる。ここで壁面5は、例えば当該動力発生装置を内蔵する装置の筐体側に連接された面であり、MTJ1との相対的な位置関係は固定である。
【0020】
このような構成においては、駆動部2が入力信号に応じた駆動電流をMTJ1に流すことに応じて、MTJ1において漏洩磁界が生じ、当該漏洩磁界の発生に応じ永久磁石3が壁面5側に駆動される。すなわち、動力が発生するものである。
以下、このような実施の形態の動力発生装置の動作原理について図2及び図3を参照して説明する。
【0021】
先ず図2により、MTJ1の記憶原理について説明しておく。
図示するようにMTJ1は、磁化固定層1Aと、記憶層1Bと、これらの間に設けられた中間層としての絶縁層1Cとを少なくとも有する。
ここで、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sは、例えば図のように紙面右方向に固定されているとする。
【0022】
MTJ1の積層方向に流れる電流として、例えば図2(a)に示すように紙面下方向への電流I-pが流れると、自由層としての記憶層1Bの磁化の向きM_fは、図2(a)に示されるように磁化固定層1Aの磁化の向きと同方向に変化する(いわゆる平行状態)。
一方、MTJ1に対し図2(b)に示すような紙面上方向への電流I-ap(つまり電流I-pと逆極性の電流)が流されると、記憶層1Bの磁化の向きM_fが図2(a)の場合から反転することとなる(いわゆる反平行状態)。
このとき、記憶層1Bの磁化方向M_fの反転は、電流I-ap(又は電流I-p)として所定閾値を超える電流を流すことで生じるものとなる。
【0023】
図2(a)に示す平行状態と図2(b)に示す反平行状態とでは、いわゆる磁気抵抗効果により、MTJ1の電気的抵抗値の差が生じる。このような抵抗値の差により、符号”1”の保持状態と符号”0”の保持状態との差が示されるものである。
ここで、図2(a)の状態を符号”1”の記憶状態、図2(b)の状態を符号”0”としたとき、電流I-pは書込電流、電流I-apは反転電流と言うことができる。
【0024】
図3は、実施の形態の動力発生装置の動力発生原理について説明するための図である。
図3(a)はMTJ1の磁化が平行状態(符号”1”の記憶状態)にある場合、図3(b)は反平行状態(符号”0”の記憶状態)にある場合をそれぞれ示している。
【0025】
図3(a)において、MTJ1の磁化が平行状態のときは、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sと記憶層1Bの磁化の向きM_fとが一致しており、MTJ1に漏洩磁界が生じる。このため、図のように永久磁石3が壁面5側に駆動される(つまりMTJ1から遠ざかるように駆動される)。
一方、図3(b)の反平行状態では、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sに対し記憶層1Bの磁化の向きM_fが逆方向となることで、互いの磁界が打ち消し合い、MTJ1の漏洩磁界は大幅に小となる(或いは生じない)。従ってこの場合は、バネ4の応力により、永久磁石3はMTJ1に近づく方向に駆動される。
【0026】
このようにして、MTJ1に対する符号”0””1”の書き込み(書き換え)により、永久磁石3の往復運動を得ることができる。すなわち、動力を生じることができる。
【0027】
ここで、上記の説明からも理解されるように、本例の場合、永久磁石3を壁面5側に駆動するためには、MTJ1に電流I-pを流して符号”1”を書き込めば良く、また永久磁石3をMTJ1側に駆動するにはMTJ1に電流I-apを流して符号”0”を書き込めばよい。
このことに応じこの場合の駆動部2は、入力信号の符号”1”(例えばHigh)に応じてはMTJ1に電流I-pを流し(正極性の駆動電圧を印加し)、入力信号の符号”0”(例えばHigh)に応じてはMTJ1に電流I-apを流す(負極性の駆動電圧を印加する)ように構成される。
【0028】
上記のような実施の形態としての動力発生装置によれば、一度MTJ1に値を書き込めば(つまり書込電流又は反転電流としての電流Iを流せば)、上述の平行状態又は反平行状態が維持されることとなるため、一度MTJ1に電流I-apを流して平行状態に遷移させた後は、漏洩磁界が生じ続けるものとなる。従って本実施の形態の動力発生装置によれば、永久磁石3に対し継続して駆動力を印加し続けるにあたり(つまり継続的な動力を得るにあたり)、MTJ1に電力を与え続ける必要性はないものとできる。つまりこの面で、低消費電力化を図ることが可能となる。
【0029】
また、値の書き換え、すなわち平行状態/反平行状態の切り替えにあたっては、上記書込電流/反転電流として所定の閾値を超える電流を与えればよく、デジタル信号(2値信号)による駆動が可能である。つまり、駆動にあたってD/Aコンバータを介在させる必要性はなく、この点で部品点数の削減、回路構成の簡易化、低コスト化が図られる。
【0030】
ここで、MTJ1を始めとする磁気メモリ素子は、電流量(或いは磁気印加型の場合は磁力)が或る閾値を超えたときにのみ値の変化が有効となる特性を有する。この特性より、磁気メモリ素子を用いた本実施の形態の動力発生装置は、ノイズ耐性に優れるというメリットも有する。
【0031】
また、前述のように磁気メモリ素子は高速書き換えが可能であり、従って磁気メモリ素子を用いた本実施の形態の動力発生装置によれば、高速応答が可能で、且つ広帯域の動作が可能である。
【0032】
なお確認のために述べておくと、本技術で用いる磁気メモリ素子としては、MTJ1のような、記憶層と磁化固定層との間に絶縁層を備える磁気トンネル接合素子に限定されるものではない。
ここで、本技術における磁気メモリ素子とは、書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層(磁化自由層)と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層(参照層)とを少なくとも有し、上記磁化固定層の磁化方向に対する上記記憶層の磁化方向の変化により電気的な抵抗値の変化を生じ、該抵抗値の変化により異なる値の保持状態を示すように構成された素子であればよい。
【0033】
ここで、実施の形態の動力発生装置において、永久磁石3の駆動手法としては、当該永久磁石3の位置を単純に上限位置/下限位置の2値で変位させる2値駆動と、PWM(Pules Width Modulation)やPDM(Pulse Density Modulation)信号などのいわゆる1ビットデジタル信号を用いて、永久磁石3の駆動量を調整可能とする変位量可変駆動との2種を挙げることができる。
これらの駆動手法の選択は、例えばバネ4の懸架手法により行うことができる。
具体的に、上記2値駆動の場合には、バネ4として比較的応答速度の早い特性のものを用いるなどして、単純にMTJ1が平行状態のときは永久磁石3が壁面5に最も近づく位置(上限位置)に、また反平行状態のときは永久磁石3がMTJ1に最も近づく位置(下限位置)となるように構成すればよい。
【0034】
一方、上記変位量可変駆動の場合は、例えばパルスデューティ又はパルス密度が50%の状態、換言すれば、PWM信号又はPDM信号の1周期としての単位時間内でMTJ1が平行状態、反平行状態となる時間長が半々となる状態において、永久磁石3が中間位置となる(つまり永久磁石3の運動の平衡点が得られる)ように、バネ4の選定(例えばダンピング特性など)を行うものとすればよい。
【0035】
[1-2.第2の構成例]
続いて、本実施の形態の動力発生装置の第2の構成例について説明する。
第2の構成例は、MTJ1の駆動を単極駆動により実現するものである。
図4は、第2の構成例としての動力発生装置の構成例を示している。なお図4において、既にこれまでで説明済みとなった部分と同様の部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
図示するように第2の構成例では、第1の構成例の場合に備えられていた駆動部2に代えて駆動部2’が設けられ、またMTJ1に対して直列にコンデンサC1が接続される。
図のようにコンデンサC1は、MTJ1とアース(GND)との間に挿入されている。
【0037】
この場合の駆動部2’は、入力信号がHighのときに、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路に対して電流I-p(書込電流)を流すように構成される。
【0038】
図5は、第2の構成例における各部の動作波形を示したタイミングチャートである。具体的には、図4に示す入力信号、コンデンサC1の放電電流、MTJ1の磁化状態のそれぞれについての波形を示している。
なおこの図では入力信号がPWM信号とされた場合を例示している。
また図5において、MTJ1の磁化状態は図中「P」が平行状態、「AP」が反平行状態を表す。
【0039】
図5において、入力信号がHighのときは、駆動部2’により書込電流としての電流I-pが[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路に流される。これによっては、MTJ1が平行状態(P)に変化すると共に、この場合は、コンデンサC1に対する充電も行われることになる。
【0040】
入力信号がLowとなると、駆動部2’による電流I-pの供給が停止される。このことに応じて、コンデンサC1の放電が開始される。つまりこれにより、図4に示す電流I-ap、すなわちMTJ1に対する反転電流が流されることになる。この結果、入力信号がLowの期間では、MTJ1の磁化状態は反平行状態(AP)となる。
【0041】
このことからも理解されるように、MTJ1に対してコンデンサC1を直列接続した第2の構成例によれば、コンデンサC1の放電によって反転電流である電流I-apをMTJ1に対し流すことができるため、駆動部2’としては、第1の構成例の場合のように反転電流を流すための負極性側の駆動を行う必要は無い。すなわち、入力信号がHighの期間に対応して書込電流(I-p)を流すための正極性側の駆動さえ行えばよいものである。
このとき、入力信号がLowの期間においては、駆動部2’による出力信号レベルは0レベル(GNDレベル)でよく、従って該期間での消費電力が削減される。
【0042】
ここで、コンデンサC1の静電容量(キャパシタンス)は、MTJ1の平行状態→反平行状態への変化を生じさせる電荷の総量に応じた値に設定する。例を挙げると、例えばMTJ1が直径100nm程度のサイズであれば、適正な反転電流のレベルは100μA程度が要求される。これをパルスとして与えた場合、20ns程度で反転が完結することとなる。この際に印加される電圧は1.2V程度であり、従って必要となるC1の静電容量は、C=QVより、120fFと見積もることができる。
なお、この条件での駆動周波数の上限は500MHz程度と計算できる。
【0043】
[1-3.駆動力を大とするための構成例]
ここで、実施の形態の動力発生装置の用途によっては、MTJ1が1つのみでは十分な駆動力が得られないとされる場合も想定され得る。そのような場合には、例えば次の図6に示すような構成を適宜採用することで、駆動力の調整を行うものとすればよい。
なおこの図6では第2の構成例のようにコンデンサC1を接続する構成を前提とした場合を例示しているが、もちろん第1の構成例を採用する場合にも好適に適用できるものである。
【0044】
図6(a)は、[MTJ-コンデンサC1]直列接続回路を1つの基板6上に複数並列に設けた構成である。
また図6(b)は、図6(a)に示した基板6を複数積層した積層体7とすることで、所望の駆動力を得るようにした構成である。
【0045】
<2.実施の形態の動力発生装置の適用例>
上記により説明した実施の形態としての動力発生装置の具体的な適用例について、以下に幾つかの例を挙げる。
なお、以下の各適用例では、実施の形態の動力発生装置として、図4に示した第2の構成例([MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路を備えるもの)の動力発生装置を用いる場合を例示するが、もちろん、第1の構成例の動力発生装置も用いることができる。
【0046】
[2-1.音響再生装置(マイクロスピーカ)]
図7は、実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置の構成を示している。
先ず、図中のDSP(Digital Signal Processor)8は、入力される音声信号(例えばリニアPCM等のデジタル音声信号)に対し、イコライジング処理や例えばリバーブ効果等の各種音響効果等を与えるための音声信号処理を施すことが可能に構成される。
DSP8による音声信号処理が施された音声信号は、ΔΣ変調器9によるΔΣ変調を受け、PWM信号に変換される。
【0047】
ΔΣ変調器9により得られたPWM信号は、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路を備えたマイクロスピーカ10に対して供給される。
マイクロスピーカ10は、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路と、MTJ1の近傍に配置された放音部10Aとを備えている。
【0048】
図示は省略したが、放音部10Aは、MTJ1の近傍に配置された永久磁石(マグネット)と、当該永久磁石がMTJ1の漏洩磁界に応じて駆動されることで生じる動力により振動し音声を発する振動板とを備えて構成される。
この場合、上記振動板を振動させるための構成としては、図1や図4に示したようにバネ4により懸架した上記永久磁石の動力を利用して振動を与える構成とすることもできるし、或いは、上記振動板に直接上記永久磁石を固着して振動を与える構成とすることもできる。後者の構成が採られる場合、上記振動板がバネ4としての機能、すなわちMTJ1が反平行状態のときに上記永久磁石をMTJ1側に押し戻す弾性体としての機能も担うことになる。
【0049】
なお本適用例の場合、ΔΣ変調器9が、MTJ1を駆動するという意味で、先に説明した駆動部2’に相当するものとなる。
【0050】
ここで、図8は、従来のフルデジタル音響再生装置の構成を示している。
この図8に示されるように、従来のフルデジタル音響再生装置は、ΔΣ変調器9で得られたPWM信号に基づき、スイッチングアンプ11が入力電圧Vinをスイッチングし、このスイッチング出力をLPF(ローパスフィルタ)12を介して得た信号により、スピーカ13を駆動するものとしている。
【0051】
このような従来のフルデジタル音響再生装置の構成によれば、出力段においてD/A変換器が不要となるものの、図7に示した構成と比較すると、スイッチングアンプ11とLPF12とを要することが分かる。つまりこの点からも理解されるように、本実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置によれば、従来のフルデジタル音響再生装置との比較でも、構成の簡略化、ひいては部品点数の削減や小型化、さらには製品コストの削減が図られるものとなる。
また、スイッチングアンプ部11やLPF12が不要であれば、その分、高効率化、低ノイズ化を図ることができる。
【0052】
なお確認のため述べておくと、本適用例の場合は、放音部10A内の永久磁石についての駆動手法として、前述の変位量可変駆動が実現されるように構成することとなる。
【0053】
[2-2.マイクロインジェクタ]
図9は、実施の形態の動力発生装置を適用したマイクロインジェクタ20の構成を示している。
図示するようにマイクロインジェクタ20内には、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路、永久磁石3、バネ4と共に、噴射口を有する噴射部21と、当該噴射部21の上記噴射口を開/閉するためのスライド蓋22とが設けられる。
図のように、スライド蓋22は、その一端側が永久磁石3と接続され、その他端側がバネ4を介して壁面5側に連接されている。
駆動部2’によるMTJ1の駆動に応じて永久磁石3の位置が紙面の左右方向において変位することで、これに連動してスライド蓋22も紙面左右方向に変位し、結果、噴射部22の噴射口を開/閉することができる。
【0054】
なお、本適用例の場合、永久磁石3の駆動手法としては、前述の2値駆動と変位量可変駆動の何れかを採ることが考えられる。すなわち、単純に上記噴射口の開状態/閉状態を2者択一的に切り替えるのであれば、前述の2値駆動を採用すればよく、また噴射量の調整を可能とするのであれば、前述の変位量可変駆動を採用すればよい。
【0055】
[2-3.サーボ制御システム]
図10は、実施の形態の動力発生装置を適用したサーボ制御ユニット25の構成を示している。
図示するようにサーボ制御ユニット25においては、先の図4に示した動力発生装置と同様に[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路、永久磁石3、バネ4が設けられた上で、永久磁石3の動力により駆動される所定の駆動対象物26と、当該駆動対象物26の位置と当該駆動対象物26の目標位置との誤差を検出するように構成された位置検出部27と、サーボフィルタ28と、PWM変調器29とが設けられる。
位置検出部27による検出信号は、フィードバック信号としてサーボフィルタ28に入力される。サーボフィルタ28は、上記フィードバック信号に所定のフィルタ処理(サーボ演算)を施すことにより、駆動対象物26の位置を上記目標位置に一致させるためのサーボ信号を生成する。
PWM変調器29は、サーボフィルタ28にて得られた上記サーボ信号をPWM変調し、これにより得られたPWM信号によりMTJ1を駆動する。具体的には、PWM信号がHighの期間に対応して流されるべき電流I-pのみを流すようにMTJ1を駆動する。
【0056】
このような構成により、駆動対象物26の位置を上記目標位置で一定とするためのサーボ制御(フィードバック制御)が実現される。
【0057】
ここで、上記による説明では、サーボ制御ユニット25の具体的な適用例については言及していないが、例えば一例として、光ディスクシステムにおけるサーボ制御ユニットとする場合には、駆動対象物26は対物レンズに相当するものとなり、位置検出部27はトラッキングエラー信号又はフォーカスエラー信号等のエラー信号を生成するための部位(光ディスクからの反射光を受光するフォトディテクタ、及び受光信号からエラー信号を算出する演算部などから成る)に相当するものとなる。
【0058】
なお、図10では駆動対象物26が永久磁石3に直接接続されるものとして示しているが、もちろん、駆動対象物26を何らかの部材を介して永久磁石3に連接する構成とすることもできる。
【0059】
[2-4.光スイッチ]
図11は、実施の形態の動力発生装置を適用した光スイッチ30の構成を示している。
光スイッチ30において、駆動部2’、MTJ1、コンデンサC1、永久磁石3、及びバネ4については、図4の場合と同様に設けられる。
この場合は、図中の光路32により導かれる光を、光路33A又は光路33Bの何れかにスイッチングするためのメカ機構として、可動スイッチ31が設けられている。
【0060】
可動スイッチ31は、永久磁石3の紙面左右方向への変位に応じた動力が印加されることで、光路32により導かれる光を光路33A又は光路33Bの何れかに択一的に導くように構成されている。すなわち、光路33Aと光路33Bのうち何れか一方を選択するように構成されている。
【0061】
本適用例の場合、永久磁石3の駆動手法としては前述の2値駆動を採用すればよい。
【0062】
<3.変形例>
以上、本技術に係る実施の形態について説明したが、本技術は、これまでで説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えばこれまでの説明では、動力発生装置が永久磁石3を懸架するバネ4を有するものとしたが、本技術の動力発生装置は必ずしもバネ4を有する必要はない。例えば、MTJ1によって永久磁石3を重力が作用する方向とは逆方向に駆動するように構成した場合には、少なくとも永久磁石3の下限位置を定めるストッパを設けておくことで、前述の2値駆動、或いは変位量可変駆動を実現可能となる。
【0063】
またこれまでの説明では、磁気メモリ素子の磁化方向が面内に平行な方向に設定される場合を例示したが、磁気メモリ素子の磁化方向は面内に垂直な方向に設定することもできる。
【0064】
また、本技術に係る動力発生装置の適用例は上記によるものに限定されるものではなく、あくまで代表的な例を示したものに過ぎない。例えば、光スイッチ30以外の各種スイッチや、各種アクチュエータへの適用が可能である。またモータや発電機などへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 MTJ、1A 磁化固定層、1B 記憶層、1C 絶縁層、M_s,M_f 磁化方向、2,2’ 駆動部、3 永久磁石、4 バネ、5 壁面、C1 コンデンサ、6 基板、7 積層体、8 DSP、9 ΔΣ変調器、10 マイクロスピーカ、10A 放音部、20 マイクロインジェクタ、21 噴射部、22 スライド蓋、25 サーボ制御ユニット、26 駆動対象物、27 位置検出部、28 サーボフィルタ、29 PWM変調器、30 光スイッチ、31 可動スイッチ、32,33A,33C 光路
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ素子を利用した動力発生装置と、当該動力発生装置を利用した音響再生装置、インジェクション装置、位置制御装置、及び光スイッチング装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開平9−233800号公報
【特許文献2】特開2007−218241号公報
【背景技術】
【0003】
従来、例えばボイスコイルモータなどの電磁力を利用した動力発生装置が広く普及している。これらの動力発生装置では、駆動コイルに電流を流し磁界を発生させて駆動力を得るようにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の動力発生装置は、電力を与え続けなければ、動力を発生し続けることはできない。この点を改善できれば、低消費電力化面で大きく前進することができる。
【0005】
また、従来の動力発生装置では、制御信号をデジタル信号により生成しても、動力発生装置を駆動するドライバに対しては当該制御信号をD/A変換して与える構成が一般的である。つまり、D/Aコンバータが介在する分、駆動部の小型化・部品点数の削減の面で不利となり、製品コストの削減の妨げとなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、上記問題点の解決を課題とするものであり、動力発生装置を以下のように構成する。
すなわち、本技術の動力発生装置は、磁気メモリ素子と、上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部とを備える。
さらに、磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部を備えるものである。
【0007】
ここで、上記磁気メモリ素子とは、書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層(磁化自由層)と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層(参照層)とを少なくとも有し、上記磁化固定層の磁化方向に対する上記記憶層の磁化方向の変化により電気的な抵抗値の変化を生じ、該抵抗値の変化により異なる値の保持状態を示すように構成された素子を指すものである。
このような磁気メモリ素子は、上記磁化固定層と上記記憶層とで磁界の向きが一致する状態(いわゆる平行状態)のとき、漏洩磁界が生じる。一方、上記磁化固定層と上記記憶層とで磁界の向きが反対である状態(いわゆる反平行状態)では、互いに磁界を打ち消し合うことで漏洩磁界は生じないものとなる。前者の平行状態のときに発生する漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されることで、動力が生じるものである。
このとき、磁気メモリ素子は、一度これに値を書き込めば(つまり上記書込電流又は反転電流としての電流を流せば)、上記の反平行状態又は平行状態を維持するものである。すなわち、一度電流を流して上記の平行状態に遷移させた後は、上記漏洩磁界が生じ続けるものとなる。このことからも理解されるように、磁気メモリ素子を用いた本技術の動力発生装置によれば、動力を継続して得るにあたり、電力を与え続ける必要性はないものとできる。つまりこの面で、低消費電力化を図ることが可能となる。
また、値の書き換え、すなわち上記反平行状態/平行状態の切り替えは、上記書込電流/反転電流を与えさえすればよく、符号”0””1”の組み合わせで成るデジタル信号による駆動が可能である。つまり、駆動にあたってD/Aコンバータを介在させる必要性はなく、この点で部品点数の削減、回路構成の簡易化が図られる。
また、磁気メモリ素子は高速書き換えが可能であり、従って磁気メモリ素子を用いた本技術の動力発生装置によれば、高速応答が可能で、広帯域の動作を実現できる。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、低消費電力で且つ簡易な構成による動力発生装置を実現できる。
さらに、本技術によれば、高速応答が可能で、広帯域の動作が可能な動力発生装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態の動力発生装置の第1の構成例を示した図である。
【図2】磁気メモリ素子の記憶原理について説明するための図である。
【図3】実施の形態の動力発生装置の動力発生原理について説明するための図である。
【図4】実施の形態の動力発生装置の第2の構成例を示した図である。
【図5】第2の構成例における各部の動作波形を示したタイミングチャートである。
【図6】より大きな駆動力を得るための構成例について説明するための図である。
【図7】実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置の構成を示した図である。
【図8】従来のフルデジタル音響再生装置の構成を示した図である。
【図9】実施の形態の動力発生装置を適用したマイクロインジェクタの構成を示した図である。
【図10】実施の形態の動力発生装置を適用したサーボ制御ユニットの構成を示した図である。
【図11】実施の形態の動力発生装置を適用した光スイッチの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本技術に係る実施の形態について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
<1.実施の形態の動力発生装置>
[1-1.第1の構成例]
[1-2.第2の構成例]
[1-3.駆動力を大とするための構成例]
<2.実施の形態の動力発生装置の適用例>
[2-1.音響再生装置(マイクロスピーカ)]
[2-2.マイクロインジェクタ]
[2-3.サーボ制御システム]
[2-4.光スイッチ]
<3.変形例>
【0011】
<1.実施の形態の動力発生装置>
[1-1.第1の構成例]
図1は、実施の形態の動力発生装置の第1の構成例を示している。
先ず、本実施の形態では、磁気メモリ素子として、いわゆるMTJ素子(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を用いる。
【0012】
ここで、メモリ素子としては、NORフラッシュメモリ、DRAMなどが現在広く普及しているが、これらに代わる次世代のメモリ素子として、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)、MRAM(Magnetic Random Access Memory)、PCRAM(Phase-Change Random Access Memory)などの開発が進められ、一部は既に実用化されている。
【0013】
なかでもMRAMは、磁性体の磁化方向によりデータ記憶を行うために、高速かつほぼ無限(1015回以上)の書換えが可能であり、既に産業オートメーションや航空機などの分野で使用されている。
【0014】
MRAMには、磁気メモリ素子の近傍に配置した配線に電流を流すことで生じる電流磁界を、磁気メモリ素子に対して印加して磁化方向を変化させる(つまり記憶値を変化させる)電流磁界印加方式のものと、磁気メモリ素子に対して直接電流を流して磁化方向を変化させる磁化反転方式のものとに大別できる。
これらのうち、後者の磁化反転方式には、いわゆるスピントルク磁化反転方式があり、当該スピントルク磁化反転方式は低消費電力化等の面で有利であることが知られている。
【0015】
ここで、スピントルク磁化反転方式は、磁化方向が固定された磁化固定層を通過するスピン偏極電子が、記憶層(磁化方向が可変とされた磁性層:自由層とも呼ばれる)に進入する際に当該記憶層にトルクを与えること(これをスピントランスファトルクとも呼ぶ)を利用したもので、これら磁化固定層・記憶層が積層される方向に所定閾値以上の電流を流すことで、記憶層の磁化方向が反転するという性質を利用している。このとき、記憶情報としての”0””1”の書換えは、上記電流の極性を変えることにより行われる。
【0016】
なお、スピントルク磁化反転を利用したMRAMは、ST−MRAM(Spin Torque-Magnetic Random Access Memory)と呼ばれる。また、スピントルク磁化反転は、スピン注入磁化反転とも呼ばれる。
【0017】
スピントルク磁化反転方式では、磁気メモリ素子として、前述の電流磁界印加方式の場合と同じくMTJ素子(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を用いる場合が多い。
ここで、MTJ素子は、例えば下記の参考文献にも記載されるように、記憶層と磁化固定層との間に配される中間層として、絶縁体薄膜で構成された絶縁層を有し、当該絶縁層を設けたことによる磁気トンネル接合効果により、高い磁気抵抗変化率(MR比)を実現できる(特に参考文献1の[0002]〜[0008]などを参照)。
・参考文献1:特開2002−314164号公報
・参考文献2:特開2008−227388号公報
【0018】
図1においては、このようなMTJ素子による磁気メモリ素子を、MTJ1と表記している。
MTJ1に対しては、図中の駆動部2により、入力信号に応じた駆動電流が流される。具体的にこの場合の駆動電流は、MTJ1を構成する前述の磁化固定層、中間層(絶縁層)、記憶層の積層方向に対して流される(図中の電流I-p、電流I-ap)。
【0019】
また、本実施の形態の動力発生装置には、永久磁石3、及びこれを壁面5との間に懸架するバネ4とが設けられる。ここで壁面5は、例えば当該動力発生装置を内蔵する装置の筐体側に連接された面であり、MTJ1との相対的な位置関係は固定である。
【0020】
このような構成においては、駆動部2が入力信号に応じた駆動電流をMTJ1に流すことに応じて、MTJ1において漏洩磁界が生じ、当該漏洩磁界の発生に応じ永久磁石3が壁面5側に駆動される。すなわち、動力が発生するものである。
以下、このような実施の形態の動力発生装置の動作原理について図2及び図3を参照して説明する。
【0021】
先ず図2により、MTJ1の記憶原理について説明しておく。
図示するようにMTJ1は、磁化固定層1Aと、記憶層1Bと、これらの間に設けられた中間層としての絶縁層1Cとを少なくとも有する。
ここで、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sは、例えば図のように紙面右方向に固定されているとする。
【0022】
MTJ1の積層方向に流れる電流として、例えば図2(a)に示すように紙面下方向への電流I-pが流れると、自由層としての記憶層1Bの磁化の向きM_fは、図2(a)に示されるように磁化固定層1Aの磁化の向きと同方向に変化する(いわゆる平行状態)。
一方、MTJ1に対し図2(b)に示すような紙面上方向への電流I-ap(つまり電流I-pと逆極性の電流)が流されると、記憶層1Bの磁化の向きM_fが図2(a)の場合から反転することとなる(いわゆる反平行状態)。
このとき、記憶層1Bの磁化方向M_fの反転は、電流I-ap(又は電流I-p)として所定閾値を超える電流を流すことで生じるものとなる。
【0023】
図2(a)に示す平行状態と図2(b)に示す反平行状態とでは、いわゆる磁気抵抗効果により、MTJ1の電気的抵抗値の差が生じる。このような抵抗値の差により、符号”1”の保持状態と符号”0”の保持状態との差が示されるものである。
ここで、図2(a)の状態を符号”1”の記憶状態、図2(b)の状態を符号”0”としたとき、電流I-pは書込電流、電流I-apは反転電流と言うことができる。
【0024】
図3は、実施の形態の動力発生装置の動力発生原理について説明するための図である。
図3(a)はMTJ1の磁化が平行状態(符号”1”の記憶状態)にある場合、図3(b)は反平行状態(符号”0”の記憶状態)にある場合をそれぞれ示している。
【0025】
図3(a)において、MTJ1の磁化が平行状態のときは、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sと記憶層1Bの磁化の向きM_fとが一致しており、MTJ1に漏洩磁界が生じる。このため、図のように永久磁石3が壁面5側に駆動される(つまりMTJ1から遠ざかるように駆動される)。
一方、図3(b)の反平行状態では、磁化固定層1Aの磁化の向きM_sに対し記憶層1Bの磁化の向きM_fが逆方向となることで、互いの磁界が打ち消し合い、MTJ1の漏洩磁界は大幅に小となる(或いは生じない)。従ってこの場合は、バネ4の応力により、永久磁石3はMTJ1に近づく方向に駆動される。
【0026】
このようにして、MTJ1に対する符号”0””1”の書き込み(書き換え)により、永久磁石3の往復運動を得ることができる。すなわち、動力を生じることができる。
【0027】
ここで、上記の説明からも理解されるように、本例の場合、永久磁石3を壁面5側に駆動するためには、MTJ1に電流I-pを流して符号”1”を書き込めば良く、また永久磁石3をMTJ1側に駆動するにはMTJ1に電流I-apを流して符号”0”を書き込めばよい。
このことに応じこの場合の駆動部2は、入力信号の符号”1”(例えばHigh)に応じてはMTJ1に電流I-pを流し(正極性の駆動電圧を印加し)、入力信号の符号”0”(例えばHigh)に応じてはMTJ1に電流I-apを流す(負極性の駆動電圧を印加する)ように構成される。
【0028】
上記のような実施の形態としての動力発生装置によれば、一度MTJ1に値を書き込めば(つまり書込電流又は反転電流としての電流Iを流せば)、上述の平行状態又は反平行状態が維持されることとなるため、一度MTJ1に電流I-apを流して平行状態に遷移させた後は、漏洩磁界が生じ続けるものとなる。従って本実施の形態の動力発生装置によれば、永久磁石3に対し継続して駆動力を印加し続けるにあたり(つまり継続的な動力を得るにあたり)、MTJ1に電力を与え続ける必要性はないものとできる。つまりこの面で、低消費電力化を図ることが可能となる。
【0029】
また、値の書き換え、すなわち平行状態/反平行状態の切り替えにあたっては、上記書込電流/反転電流として所定の閾値を超える電流を与えればよく、デジタル信号(2値信号)による駆動が可能である。つまり、駆動にあたってD/Aコンバータを介在させる必要性はなく、この点で部品点数の削減、回路構成の簡易化、低コスト化が図られる。
【0030】
ここで、MTJ1を始めとする磁気メモリ素子は、電流量(或いは磁気印加型の場合は磁力)が或る閾値を超えたときにのみ値の変化が有効となる特性を有する。この特性より、磁気メモリ素子を用いた本実施の形態の動力発生装置は、ノイズ耐性に優れるというメリットも有する。
【0031】
また、前述のように磁気メモリ素子は高速書き換えが可能であり、従って磁気メモリ素子を用いた本実施の形態の動力発生装置によれば、高速応答が可能で、且つ広帯域の動作が可能である。
【0032】
なお確認のために述べておくと、本技術で用いる磁気メモリ素子としては、MTJ1のような、記憶層と磁化固定層との間に絶縁層を備える磁気トンネル接合素子に限定されるものではない。
ここで、本技術における磁気メモリ素子とは、書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層(磁化自由層)と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層(参照層)とを少なくとも有し、上記磁化固定層の磁化方向に対する上記記憶層の磁化方向の変化により電気的な抵抗値の変化を生じ、該抵抗値の変化により異なる値の保持状態を示すように構成された素子であればよい。
【0033】
ここで、実施の形態の動力発生装置において、永久磁石3の駆動手法としては、当該永久磁石3の位置を単純に上限位置/下限位置の2値で変位させる2値駆動と、PWM(Pules Width Modulation)やPDM(Pulse Density Modulation)信号などのいわゆる1ビットデジタル信号を用いて、永久磁石3の駆動量を調整可能とする変位量可変駆動との2種を挙げることができる。
これらの駆動手法の選択は、例えばバネ4の懸架手法により行うことができる。
具体的に、上記2値駆動の場合には、バネ4として比較的応答速度の早い特性のものを用いるなどして、単純にMTJ1が平行状態のときは永久磁石3が壁面5に最も近づく位置(上限位置)に、また反平行状態のときは永久磁石3がMTJ1に最も近づく位置(下限位置)となるように構成すればよい。
【0034】
一方、上記変位量可変駆動の場合は、例えばパルスデューティ又はパルス密度が50%の状態、換言すれば、PWM信号又はPDM信号の1周期としての単位時間内でMTJ1が平行状態、反平行状態となる時間長が半々となる状態において、永久磁石3が中間位置となる(つまり永久磁石3の運動の平衡点が得られる)ように、バネ4の選定(例えばダンピング特性など)を行うものとすればよい。
【0035】
[1-2.第2の構成例]
続いて、本実施の形態の動力発生装置の第2の構成例について説明する。
第2の構成例は、MTJ1の駆動を単極駆動により実現するものである。
図4は、第2の構成例としての動力発生装置の構成例を示している。なお図4において、既にこれまでで説明済みとなった部分と同様の部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
図示するように第2の構成例では、第1の構成例の場合に備えられていた駆動部2に代えて駆動部2’が設けられ、またMTJ1に対して直列にコンデンサC1が接続される。
図のようにコンデンサC1は、MTJ1とアース(GND)との間に挿入されている。
【0037】
この場合の駆動部2’は、入力信号がHighのときに、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路に対して電流I-p(書込電流)を流すように構成される。
【0038】
図5は、第2の構成例における各部の動作波形を示したタイミングチャートである。具体的には、図4に示す入力信号、コンデンサC1の放電電流、MTJ1の磁化状態のそれぞれについての波形を示している。
なおこの図では入力信号がPWM信号とされた場合を例示している。
また図5において、MTJ1の磁化状態は図中「P」が平行状態、「AP」が反平行状態を表す。
【0039】
図5において、入力信号がHighのときは、駆動部2’により書込電流としての電流I-pが[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路に流される。これによっては、MTJ1が平行状態(P)に変化すると共に、この場合は、コンデンサC1に対する充電も行われることになる。
【0040】
入力信号がLowとなると、駆動部2’による電流I-pの供給が停止される。このことに応じて、コンデンサC1の放電が開始される。つまりこれにより、図4に示す電流I-ap、すなわちMTJ1に対する反転電流が流されることになる。この結果、入力信号がLowの期間では、MTJ1の磁化状態は反平行状態(AP)となる。
【0041】
このことからも理解されるように、MTJ1に対してコンデンサC1を直列接続した第2の構成例によれば、コンデンサC1の放電によって反転電流である電流I-apをMTJ1に対し流すことができるため、駆動部2’としては、第1の構成例の場合のように反転電流を流すための負極性側の駆動を行う必要は無い。すなわち、入力信号がHighの期間に対応して書込電流(I-p)を流すための正極性側の駆動さえ行えばよいものである。
このとき、入力信号がLowの期間においては、駆動部2’による出力信号レベルは0レベル(GNDレベル)でよく、従って該期間での消費電力が削減される。
【0042】
ここで、コンデンサC1の静電容量(キャパシタンス)は、MTJ1の平行状態→反平行状態への変化を生じさせる電荷の総量に応じた値に設定する。例を挙げると、例えばMTJ1が直径100nm程度のサイズであれば、適正な反転電流のレベルは100μA程度が要求される。これをパルスとして与えた場合、20ns程度で反転が完結することとなる。この際に印加される電圧は1.2V程度であり、従って必要となるC1の静電容量は、C=QVより、120fFと見積もることができる。
なお、この条件での駆動周波数の上限は500MHz程度と計算できる。
【0043】
[1-3.駆動力を大とするための構成例]
ここで、実施の形態の動力発生装置の用途によっては、MTJ1が1つのみでは十分な駆動力が得られないとされる場合も想定され得る。そのような場合には、例えば次の図6に示すような構成を適宜採用することで、駆動力の調整を行うものとすればよい。
なおこの図6では第2の構成例のようにコンデンサC1を接続する構成を前提とした場合を例示しているが、もちろん第1の構成例を採用する場合にも好適に適用できるものである。
【0044】
図6(a)は、[MTJ-コンデンサC1]直列接続回路を1つの基板6上に複数並列に設けた構成である。
また図6(b)は、図6(a)に示した基板6を複数積層した積層体7とすることで、所望の駆動力を得るようにした構成である。
【0045】
<2.実施の形態の動力発生装置の適用例>
上記により説明した実施の形態としての動力発生装置の具体的な適用例について、以下に幾つかの例を挙げる。
なお、以下の各適用例では、実施の形態の動力発生装置として、図4に示した第2の構成例([MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路を備えるもの)の動力発生装置を用いる場合を例示するが、もちろん、第1の構成例の動力発生装置も用いることができる。
【0046】
[2-1.音響再生装置(マイクロスピーカ)]
図7は、実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置の構成を示している。
先ず、図中のDSP(Digital Signal Processor)8は、入力される音声信号(例えばリニアPCM等のデジタル音声信号)に対し、イコライジング処理や例えばリバーブ効果等の各種音響効果等を与えるための音声信号処理を施すことが可能に構成される。
DSP8による音声信号処理が施された音声信号は、ΔΣ変調器9によるΔΣ変調を受け、PWM信号に変換される。
【0047】
ΔΣ変調器9により得られたPWM信号は、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路を備えたマイクロスピーカ10に対して供給される。
マイクロスピーカ10は、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路と、MTJ1の近傍に配置された放音部10Aとを備えている。
【0048】
図示は省略したが、放音部10Aは、MTJ1の近傍に配置された永久磁石(マグネット)と、当該永久磁石がMTJ1の漏洩磁界に応じて駆動されることで生じる動力により振動し音声を発する振動板とを備えて構成される。
この場合、上記振動板を振動させるための構成としては、図1や図4に示したようにバネ4により懸架した上記永久磁石の動力を利用して振動を与える構成とすることもできるし、或いは、上記振動板に直接上記永久磁石を固着して振動を与える構成とすることもできる。後者の構成が採られる場合、上記振動板がバネ4としての機能、すなわちMTJ1が反平行状態のときに上記永久磁石をMTJ1側に押し戻す弾性体としての機能も担うことになる。
【0049】
なお本適用例の場合、ΔΣ変調器9が、MTJ1を駆動するという意味で、先に説明した駆動部2’に相当するものとなる。
【0050】
ここで、図8は、従来のフルデジタル音響再生装置の構成を示している。
この図8に示されるように、従来のフルデジタル音響再生装置は、ΔΣ変調器9で得られたPWM信号に基づき、スイッチングアンプ11が入力電圧Vinをスイッチングし、このスイッチング出力をLPF(ローパスフィルタ)12を介して得た信号により、スピーカ13を駆動するものとしている。
【0051】
このような従来のフルデジタル音響再生装置の構成によれば、出力段においてD/A変換器が不要となるものの、図7に示した構成と比較すると、スイッチングアンプ11とLPF12とを要することが分かる。つまりこの点からも理解されるように、本実施の形態の動力発生装置を適用した音響再生装置によれば、従来のフルデジタル音響再生装置との比較でも、構成の簡略化、ひいては部品点数の削減や小型化、さらには製品コストの削減が図られるものとなる。
また、スイッチングアンプ部11やLPF12が不要であれば、その分、高効率化、低ノイズ化を図ることができる。
【0052】
なお確認のため述べておくと、本適用例の場合は、放音部10A内の永久磁石についての駆動手法として、前述の変位量可変駆動が実現されるように構成することとなる。
【0053】
[2-2.マイクロインジェクタ]
図9は、実施の形態の動力発生装置を適用したマイクロインジェクタ20の構成を示している。
図示するようにマイクロインジェクタ20内には、[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路、永久磁石3、バネ4と共に、噴射口を有する噴射部21と、当該噴射部21の上記噴射口を開/閉するためのスライド蓋22とが設けられる。
図のように、スライド蓋22は、その一端側が永久磁石3と接続され、その他端側がバネ4を介して壁面5側に連接されている。
駆動部2’によるMTJ1の駆動に応じて永久磁石3の位置が紙面の左右方向において変位することで、これに連動してスライド蓋22も紙面左右方向に変位し、結果、噴射部22の噴射口を開/閉することができる。
【0054】
なお、本適用例の場合、永久磁石3の駆動手法としては、前述の2値駆動と変位量可変駆動の何れかを採ることが考えられる。すなわち、単純に上記噴射口の開状態/閉状態を2者択一的に切り替えるのであれば、前述の2値駆動を採用すればよく、また噴射量の調整を可能とするのであれば、前述の変位量可変駆動を採用すればよい。
【0055】
[2-3.サーボ制御システム]
図10は、実施の形態の動力発生装置を適用したサーボ制御ユニット25の構成を示している。
図示するようにサーボ制御ユニット25においては、先の図4に示した動力発生装置と同様に[MTJ1-コンデンサC1]直列接続回路、永久磁石3、バネ4が設けられた上で、永久磁石3の動力により駆動される所定の駆動対象物26と、当該駆動対象物26の位置と当該駆動対象物26の目標位置との誤差を検出するように構成された位置検出部27と、サーボフィルタ28と、PWM変調器29とが設けられる。
位置検出部27による検出信号は、フィードバック信号としてサーボフィルタ28に入力される。サーボフィルタ28は、上記フィードバック信号に所定のフィルタ処理(サーボ演算)を施すことにより、駆動対象物26の位置を上記目標位置に一致させるためのサーボ信号を生成する。
PWM変調器29は、サーボフィルタ28にて得られた上記サーボ信号をPWM変調し、これにより得られたPWM信号によりMTJ1を駆動する。具体的には、PWM信号がHighの期間に対応して流されるべき電流I-pのみを流すようにMTJ1を駆動する。
【0056】
このような構成により、駆動対象物26の位置を上記目標位置で一定とするためのサーボ制御(フィードバック制御)が実現される。
【0057】
ここで、上記による説明では、サーボ制御ユニット25の具体的な適用例については言及していないが、例えば一例として、光ディスクシステムにおけるサーボ制御ユニットとする場合には、駆動対象物26は対物レンズに相当するものとなり、位置検出部27はトラッキングエラー信号又はフォーカスエラー信号等のエラー信号を生成するための部位(光ディスクからの反射光を受光するフォトディテクタ、及び受光信号からエラー信号を算出する演算部などから成る)に相当するものとなる。
【0058】
なお、図10では駆動対象物26が永久磁石3に直接接続されるものとして示しているが、もちろん、駆動対象物26を何らかの部材を介して永久磁石3に連接する構成とすることもできる。
【0059】
[2-4.光スイッチ]
図11は、実施の形態の動力発生装置を適用した光スイッチ30の構成を示している。
光スイッチ30において、駆動部2’、MTJ1、コンデンサC1、永久磁石3、及びバネ4については、図4の場合と同様に設けられる。
この場合は、図中の光路32により導かれる光を、光路33A又は光路33Bの何れかにスイッチングするためのメカ機構として、可動スイッチ31が設けられている。
【0060】
可動スイッチ31は、永久磁石3の紙面左右方向への変位に応じた動力が印加されることで、光路32により導かれる光を光路33A又は光路33Bの何れかに択一的に導くように構成されている。すなわち、光路33Aと光路33Bのうち何れか一方を選択するように構成されている。
【0061】
本適用例の場合、永久磁石3の駆動手法としては前述の2値駆動を採用すればよい。
【0062】
<3.変形例>
以上、本技術に係る実施の形態について説明したが、本技術は、これまでで説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えばこれまでの説明では、動力発生装置が永久磁石3を懸架するバネ4を有するものとしたが、本技術の動力発生装置は必ずしもバネ4を有する必要はない。例えば、MTJ1によって永久磁石3を重力が作用する方向とは逆方向に駆動するように構成した場合には、少なくとも永久磁石3の下限位置を定めるストッパを設けておくことで、前述の2値駆動、或いは変位量可変駆動を実現可能となる。
【0063】
またこれまでの説明では、磁気メモリ素子の磁化方向が面内に平行な方向に設定される場合を例示したが、磁気メモリ素子の磁化方向は面内に垂直な方向に設定することもできる。
【0064】
また、本技術に係る動力発生装置の適用例は上記によるものに限定されるものではなく、あくまで代表的な例を示したものに過ぎない。例えば、光スイッチ30以外の各種スイッチや、各種アクチュエータへの適用が可能である。またモータや発電機などへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 MTJ、1A 磁化固定層、1B 記憶層、1C 絶縁層、M_s,M_f 磁化方向、2,2’ 駆動部、3 永久磁石、4 バネ、5 壁面、C1 コンデンサ、6 基板、7 積層体、8 DSP、9 ΔΣ変調器、10 マイクロスピーカ、10A 放音部、20 マイクロインジェクタ、21 噴射部、22 スライド蓋、25 サーボ制御ユニット、26 駆動対象物、27 位置検出部、28 サーボフィルタ、29 PWM変調器、30 光スイッチ、31 可動スイッチ、32,33A,33C 光路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と
を備える動力発生装置。
【請求項2】
上記磁気メモリ素子に対し直列にコンデンサが接続され、
上記素子駆動部は、上記磁気メモリ素子と上記コンデンサとによる直列接続回路に対して上記電流を流すように構成される
請求項1に記載の動力発生装置。
【請求項3】
上記磁気メモリ素子は、
上記電流として書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層と、これら記憶層と磁化固定層との間に挿入されたトンネル絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子とされる
請求項2に記載の動力発生装置。
【請求項4】
上記動力発生部は、
上記磁性体が、上記入力信号の符号「0」又は「1」に応じて上限位置又は下限位置に駆動されるように構成されている
請求項3に記載の動力発生装置。
【請求項5】
上記入力信号がPWM(Pulse Width Modulation)信号又はPDM(Pulse Density Modulation)信号とされ、
上記動力発生部は、
上記磁性体の運動による動力を弾性体に印加するように構成されており、且つ、
上記入力信号のパルスデューティ又はパルス密度が50%の状態で上記磁性体の運動の平衡点が得られるように構成されている
請求項4に記載の動力発生装置。
【請求項6】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
上記動力発生部により生じた動力に応じて音声を発する振動板と
を備える音響再生装置。
【請求項7】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
噴射口を有する噴射部と、
上記動力発生部により生じた動力に基づいて上記噴射部における上記噴射口の開閉制御を行う開閉制御部と
を備えるインジェクション装置。
【請求項8】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
上記磁性体の動力により駆動される駆動対象物と、
上記駆動対象物の位置と上記駆動対象物の目標位置との誤差を検出する位置誤差検出部と
を備えると共に、
上記素子駆動部が、
上記位置誤差検出部により検出された誤差信号に基づき生成された上記入力信号に基づいて上記磁気メモリ素子を駆動することで、フィードバック制御ループが形成される
位置制御装置。
【請求項9】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
光路のスイッチングを可能とする可動機構を有する光路選択機構部と
を備えると共に、
上記動力発生部により生じた動力に基づいて上記光路選択機構部における上記可動機構が駆動されることで、上記光路のスイッチングが行われるように構成されている
光スイッチング装置。
【請求項1】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と
を備える動力発生装置。
【請求項2】
上記磁気メモリ素子に対し直列にコンデンサが接続され、
上記素子駆動部は、上記磁気メモリ素子と上記コンデンサとによる直列接続回路に対して上記電流を流すように構成される
請求項1に記載の動力発生装置。
【請求項3】
上記磁気メモリ素子は、
上記電流として書込電流/反転電流が流されることで磁化の方向が変化する記憶層と、上記書込電流/反転電流によっては磁化の方向が変化しないように構成された磁化固定層と、これら記憶層と磁化固定層との間に挿入されたトンネル絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子とされる
請求項2に記載の動力発生装置。
【請求項4】
上記動力発生部は、
上記磁性体が、上記入力信号の符号「0」又は「1」に応じて上限位置又は下限位置に駆動されるように構成されている
請求項3に記載の動力発生装置。
【請求項5】
上記入力信号がPWM(Pulse Width Modulation)信号又はPDM(Pulse Density Modulation)信号とされ、
上記動力発生部は、
上記磁性体の運動による動力を弾性体に印加するように構成されており、且つ、
上記入力信号のパルスデューティ又はパルス密度が50%の状態で上記磁性体の運動の平衡点が得られるように構成されている
請求項4に記載の動力発生装置。
【請求項6】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
上記動力発生部により生じた動力に応じて音声を発する振動板と
を備える音響再生装置。
【請求項7】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
噴射口を有する噴射部と、
上記動力発生部により生じた動力に基づいて上記噴射部における上記噴射口の開閉制御を行う開閉制御部と
を備えるインジェクション装置。
【請求項8】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
上記磁性体の動力により駆動される駆動対象物と、
上記駆動対象物の位置と上記駆動対象物の目標位置との誤差を検出する位置誤差検出部と
を備えると共に、
上記素子駆動部が、
上記位置誤差検出部により検出された誤差信号に基づき生成された上記入力信号に基づいて上記磁気メモリ素子を駆動することで、フィードバック制御ループが形成される
位置制御装置。
【請求項9】
磁気メモリ素子と、
上記磁気メモリ素子に対して入力信号の符号”0””1”に応じた方向の電流を流すことで上記磁気メモリ素子の磁化状態を平行/反平行に変化させる素子駆動部と、
磁性体を有し、上記磁化状態が平行状態のときに上記磁気メモリ素子に生じる漏洩磁界に応じて上記磁性体が駆動されるように構成されることで、上記磁性体の運動に応じた動力を生じる動力発生部と、
光路のスイッチングを可能とする可動機構を有する光路選択機構部と
を備えると共に、
上記動力発生部により生じた動力に基づいて上記光路選択機構部における上記可動機構が駆動されることで、上記光路のスイッチングが行われるように構成されている
光スイッチング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−175774(P2012−175774A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34317(P2011−34317)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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