説明

動圧軸受装置

【課題】 この種の動圧軸受装置のスラスト軸受部における摩耗を抑制する。
【解決手段】 動圧溝を有するスラスト軸受面8b1と、これに対向するスラスト受け面2cとの間のスラスト軸受隙間Cに潤滑油の動圧作用で圧力を発生し、軸部材2をスラスト方向に非接触支持する。スラスト受け面2cを平坦面とする一方、スラスト軸受面8b1に傾斜面11を設け、スラスト軸受隙間Cに、外径側ほどその軸方向幅を小さくした縮小部10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体(潤滑流体)の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置に関する。この軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化等が求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の1つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
この動圧軸受装置の一例として、特開2002−61641号公報(特許文献1)には、有底筒状のハウジングと、ハウジングの内部に固定された軸受部材と、軸受部材の内周面に挿入された軸部材と、軸部材と軸受部材の相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を回転自在に非接触支持するラジアル軸受部およびスラスト軸受部を備えるものが開示されている。
【0004】
ラジアル軸受部およびスラスト軸受部のうち、スラスト軸受部は、例えば軸部材のフランジ部端面とこれに対向する軸受部材の端面との間のスラスト軸受隙間に油の動圧作用で圧力を発生させて、軸部材をスラスト方向に非接触支持するものである。
【特許文献1】特開2002−61641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の動圧軸受装置では、その起動・停止時に回転側の部材と固定側の部材とが高速で摺動することが避けられない。そのため、モータを頻繁に起動・停止させる情報機器、例えばHDD−DVDレコーダや携帯電話用の記憶装置をはじめとするコンシューマ機器に使用する動圧軸受装置においては、使用条件等によって繰返しの起動・停止による摺動面の摩耗が問題となる場合がある。
【0006】
本発明の課題は、この種の動圧軸受装置におけるスラスト軸受部の摩耗を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る動圧軸受装置は、一端が開口したハウジングと、ハウジングの内部に固定された軸受スリーブと、外径側に突出したフランジ部を有し、ハウジングおよび軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、軸受スリーブと軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えるものであって、軸受スリーブのハウジング開口側の端面とこれに対向する軸部材のフランジ部の端面のうち、何れか一方が複数の動圧溝を配列した動圧溝領域を含むスラスト軸受面で、他方がスラスト軸受面と軸方向で対向するスラスト受け面であり、スラスト軸受面とスラスト受け面との間にスラスト軸受隙間が形成され、スラスト軸受隙間が、外径側ほどその軸方向幅を小さくした縮小部を有することを特徴とする。
【0008】
これにより、縮小部の最外径部の周速度の大きい箇所が最小幅となるので、動圧溝によるポンピング機能が高まり、モータの起動・停止時におけるスラスト軸受面とスラスト受け面との接触時間を短くすることができる。
【0009】
このスラスト軸受隙間は、縮小部のスラスト軸受面およびスラスト受け面のうち、少なくとも何れか一方を傾斜面とすることにより得ることができる。この場合、動圧効果の低下等を避けるため、傾斜面の半径方向幅をr、傾斜面の高さをhとし、h/r≦0.01に設定するのが望ましい。
【0010】
上記構成において、ラジアル軸受部は、ラジアル軸受隙間に複数のくさび状隙間を有する多円弧軸受で構成することができる。
【0011】
以上に述べた動圧軸受装置は、例えばHDD等のディスク装置のスピンドルモータに組込んで好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スラスト軸受部における摩耗を抑制することができるので、この種の動圧軸受装置の耐久性向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はケーシング6の外周に取付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取付けられている。ディスクハブ3は、その外周に磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体(以下、単にディスクという。)Dを一枚または複数枚保持している。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する電磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ3およびディスクハブ3に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。
【0015】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8、およびシール部材9とを主な構成要素として構成されている。なお、説明の便宜上、ハウジング7の開口部7aの側を上側、開口部7aと反対の側を下側として以下説明する。
【0016】
軸部材2は、例えばステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、円盤状のフランジ部2bとを備えている。フランジ部2bは軸部2aの下端よりも上方に設けられ、軸部2aと一体または別体をなす。なお、軸部2aの芯部あるいはフランジ部2b、もしくはその双方は、樹脂材料で形成することもできる。
【0017】
ハウジング7は、一端に開口部7aを有すると共に、他端を閉じた有底円筒状に形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの他端側に一体に連続した底部7cとを備えている。このハウジング7は、例えば液晶ポリマー(LCP)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等をベース樹脂とする樹脂組成物を射出成形することで形成される。このハウジング7は、軸受スリーブ8をインサート部品として型成形(インサート成形)することもできる。あるいは、側部7bと底部7cとを別体に形成し、両者を接着、溶着(超音波溶着等)の手段で相互に結合することもできる。なお、ハウジング7は、必ずしも樹脂で成形する必要はなく、例えば金属材料をプレス加工する等して成形することもできる。側部7bのみ、あるいは底部7cのみを金属材料で成形してもよい。
【0018】
また、上記樹脂組成物には、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカ状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、各種金属粉等の繊維状または粉末状の導電性充填材を、目的に応じて適量配合することができる。
【0019】
軸受スリーブ8は、例えば、銅やアルミ(合金を含む)等の軟質金属材料、あるいは焼結金属材料で形成されている。この実施形態において、軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、例えば銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。この軸受スリーブ8は、その下端面8cをハウジング7の底部7cに当接させて、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向位置を定めた上で、接着、溶着などの固定手段によりハウジング7の内周に固定される。
【0020】
軸受スリーブ8の内周面8aの上下に離隔した領域には、図3に示すように、第一ラジアル軸受部R1および第二ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる複数の円弧面8a1がそれぞれ形成される。各円弧面8a1は、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に形成される。各偏心円弧面8a1の間には軸方向の分離溝8a2が形成される。
【0021】
軸受スリーブ8の内周面8aに軸部材2の軸部2aを挿入することにより、軸受スリーブ8の偏心円弧面8a1および分離溝8a2と、軸部2aの真円状外周面2a1との間に、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の各ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成される。ラジアル軸受隙間のうち、偏心円弧面8a1と対向する領域は、隙間幅を円周方向の一方で漸次縮小させたくさび状隙間8a3となる。くさび状隙間8a3の縮小方向は軸部材2の回転方向に一致している。
【0022】
軸受スリーブ8の上端面8bの全面または一部の環状領域には、スラスト動圧発生部として、例えば図示は省略するが、スパイラル形状の動圧溝が形成される。この実施形態において、スラスト軸受面8b1は上端面8bの動圧溝形成領域を全面または一部含むものであり、フランジ部2bの下端面2b2に形成されるスラスト受け面2cは、その全面でスラスト軸受面8b1と対向する。軸部材2の回転時には、両面8b1、2cの間に後述するスラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間が形成される(図2を参照)。
【0023】
シール部材9は、例えば樹脂材料、あるいは金属材料で環状に形成される。このシール部材9は、ハウジング7の開口部7a内周に配され、シール部材9の下端面9bと軸受スリーブ8の上端面8bとの間にフランジ部2bを収容した状態で、超音波溶着などの溶着、あるいは接着等の固定手段によりハウジング7に固定される。この場合、シール部材9の円筒状の内周面9aは、対向する軸部材2の外周面、この実施形態では軸部2aの外周面2a1との間に所定のシール空間Sを形成する。シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔も含めて、潤滑流体としての潤滑油が充満されており、潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。
【0024】
シール部材9の下端面9bは、フランジ部2bの上端面2b1と軸方向の隙間を介して対向している。軸部材2が上方へ変位すると、フランジ部2bの上端面2b1がシール部材9の下端面9bと軸方向で係合し、軸部材2を係止する。このように、本実施形態におけるシール部材9は、シール機能と抜け止めの機能を併せ持つ。
【0025】
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向し、それぞれ多円弧軸受(テーパ軸受とも称される)を構成する。上記多円弧軸受では、軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間内の潤滑油がくさび状隙間8a3の縮小側に押し込まれて、その圧力が上昇する。このような潤滑油の動圧作用によって、軸部2aを非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2がそれぞれ構成される。
【0026】
同時に、軸受スリーブ8の上端面8bに形成されたスラスト軸受面8b1と、これに対向するフランジ部2bのスラスト受け面2cとの間のスラスト軸受隙間にも、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜が形成され、この油膜の圧力によって、フランジ部2bをスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部Tが構成される。
【0027】
本発明では、図4に示すように、スラスト軸受部Tのスラスト軸受隙間Cに、その軸方向幅Wを外径側ほど縮小させた縮小部10が形成される(図中のスラスト軸受隙間Cの幅Wは誇張して描かれている)。図4は、スラスト軸受隙間Cの一部内径側領域を除いた領域に縮小部10を設けた場合を概略的に例示している。この縮小部10は、例えば図示のように、スラスト受け面2cを軸方向と直交する方向の平坦面とする一方、スラスト軸受面8b1に外径側ほどスラスト受け面2c側に接近する傾斜面11を設けることにより形成することができる。この傾斜面11には、スラスト軸受面8b1の動圧溝領域が形成されるのが望ましい。
【0028】
このように、スラスト軸受隙間Cに縮小部10を形成することにより、縮小部10の最外径部がスラスト軸受隙間Cの最小幅部Wminとなる。軸部材2の回転中は、この縮小部10の最外径部の周速が大きいことから、動圧溝のポンピング作用が大きくなる。従って、低回転速度でも十分な動圧作用を得ることができ、動圧軸受装置1の接触開始回転速度を低く抑えることができる。これにより、スラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cとの摺動接触によるスラスト軸受部Tでの摩耗を抑制することが可能となり、モータの起動・停止が頻繁に行われる用途に好適な動圧軸受装置1を提供することができる。
【0029】
ここで、接触開始回転速度とは、それよりも小さい速度ではスラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cとが接触し、それよりも大きい速度では両面8b1、2cが非接触となる回転速度をいう。接触開始回転速度が低くなれば、モータの起動直後あるいは停止直前のスラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cとの接触時間が短くなるので、スラスト軸受部Tでの摩耗を抑制することができる。
【0030】
かかる効果は、スラスト軸受隙間Cが縮小部10を有する限り得られるものであり、図示のようにスラスト軸受面8b1に傾斜面11を設ける他、スラスト軸受面8b1を平坦面とする一方、スラスト受け面2cに傾斜面を形成してもよく、あるいはスラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cの双方に傾斜面を形成してもよい。また、傾斜面11は、図4に示すように、断面がストレートなテーパ状とする他、例えば図示は省略するが、断面が半径Rの円弧である曲面(2以上の半径の異なる円弧を組合わせた複合曲面も含む)とすることもできる。
【0031】
以上の効果を確認するため、本発明品と比較品について、接触開始回転速度の理論計算を行った。ここで、本発明品は、図4に示すように縮小部10を有するスラスト軸受隙間であり、比較品は、図5に示すように軸方向幅を外径側ほど拡大させた拡大部10’を有するスラスト軸受隙間である(図5では、図4に示す部材と対応する箇所に「’」の符号を付している)。
【0032】
理論計算は以下の文献を参考に行った。
Jiasheng Zhu and Kyosuke Ono, 1999, "A Comparison Study on the Performance of Four Types of oil Lubricated Hydrodynamic Thrust Bearings for Hard Disk Spindles", Transactions of the ASME, Vol.121, JANUARY 1999, pp.114-120.
【0033】
また、この理論計算で使用した計算条件(DF法、Sommerfeldの境界条件)は以下のとおりである。
【0034】
回転部質量W 6.5g
スラスト軸受部外径Do 6.5mm
スラスト軸受部内径Di 2.5mm
溝深さho 7μm
溝本数k 16
溝角度α 30deg
丘溝比γ 1
潤滑油粘度η 5.97mPa・s
ただし、スラスト軸受隙間の最小幅Wminは0.05μmとした。
【0035】
以上の条件に基づく理論計算結果を図6に示す。なお、図中横軸の「平面度」は、図4および図5に示す傾斜面11の高さhを表す。
【0036】
図示のように本発明品Aは、比較品Bに比べて接触開始回転速度が低く、従って、モータの起動直後あるいは停止直前のスラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cとの接触時間の短縮化に有効であることが判明した。また、図6の結果から、スラスト軸受面8b1の平面度(傾斜面11の高さh)が大きすぎると、接触開始回転速度が大きくなり、却って動圧効果が低減するので、平面度hには上限があると考えられる。この観点から本発明者らが検証したところ、傾斜面11の高さhと半径方向幅rとの比(h/r)が0.01を超えると接触開始回転速度が著しく上昇することが判明した。従って、h/rの値は0.01以下、望ましくは0.004以下とするのがよい。
【0037】
なお、図5に示す比較品は、接触開始回転速度については本発明品に劣るものの、スラスト軸受面8b1とスラスト受け面2cの接触時の接触面圧が低くなるという利点を有するので、モータの起動・停止の頻度が少ない例えば業務用の情報機器(サーバ用HDD、業務用LBP等)ではむしろ好結果を得られる場合もある。
【0038】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0039】
以上の実施形態では、シール空間Sを、シール部材9の円筒状の内周面9aと、これに対向する軸部2aの外周面2a1との間に形成した場合を例示したが、これ以外の形態を採ることも可能である。例えば図7は、ハウジング7外部側(図7では上側)に向けて径方向隙間幅を漸次拡大させたテーパ状のシール空間S’を形成した場合を例示したものである。
【0040】
また、図8には、ハウジング7の軸方向寸法を縮小して、動圧軸受装置1の小サイズ化を図るため、シール部材9の内周面9aと、フランジ部2bの外周面2b3とを対向させ、この対向面間にテーパ状のシール空間S’を形成したものが例示されている。
【0041】
さらに、軸部材2の抜止めを考慮したものとして、例えば図9に示すような構成を挙げることができる。同図におけるシール空間S’は、フランジ部2bに設けられた軸方向の段差によって区画形成された外周面のうち、上側の外周面2b3と、これに対向するシール部材9の内周面9aとの間に形成される。また、段によって区画形成された上端面2b1のうち外径側の端面2b4は、シール部材9の下端面9bと対向する。
【0042】
このような構成とすることで、シール空間S’には、遠心力および毛細間力によるシール作用が生じ、潤滑油の外部への漏れ出しが防止される。また、軸部材2の上方への相対変位時、フランジ部2bの外径側端面2b4がシール部材9の下端面9bと軸方向で係合することで、軸部材2の抜止めがなされる。
【0043】
また、この図示例では、シール部材9は、その下端面9bの、外径側端面2b4と対向しない箇所を下方に向けて突出させた形態をなす。そのため、シール部材9の下方突出部9cを軸受スリーブ8の上端面8bに当接させることで、シール部材9の軸方向の位置決めが容易になされる。
【0044】
図10は、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2を構成する多円弧軸受の他の実施形態を示すものである。この実施形態では、図3に示す構成において、各偏心円弧面8a1の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ回転軸心Oを中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおいて、ラジアル軸受隙間(最小隙間)は一定となる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0045】
図11では、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域が3つの円弧面8a1で形成されると共に、3つの円弧面8a1の中心は、回転軸心Oから等距離オフセットされている。3つの偏心円弧面8a1で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間は、円周方向の両方向に対してそれぞれ漸次縮小した形状を有している。
【0046】
以上に説明した第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用してもよい。また、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とするほか、軸受スリーブ8の内周面の上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としてもよい。
【0047】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2として、多円弧軸受を採用した場合を例示しているが、これ以外の軸受で構成することも可能である。ラジアル軸受部R1、R2を構成可能な軸受としては、例えば図示は省略するが、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受隙間に面する領域(ラジアル軸受面となる領域)に、複数の軸方向溝形状の動圧溝を形成したステップ軸受が挙げられる。あるいは、軸方向溝に代えて、へリングボーン形状やスパイラル形状の傾斜溝を形成し、これら傾斜状の動圧溝により潤滑流体の動圧作用を発生させる構成を採ることもできる。
【0048】
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を生じ得る流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図2】動圧軸受装置の縦断面図である。
【図3】ラジアル軸受部の断面図である。
【図4】スラスト軸受隙間を概略図示する拡大断面図である。
【図5】比較品のスラスト軸受隙間を概略図示する拡大断面図である。
【図6】接触開始回転速度の理論計算結果を示す図である。
【図7】シール空間の他の構成例を示す拡大断面図である。
【図8】シール空間の他の構成例を示す拡大断面図である。
【図9】シール空間の他の構成例を示す拡大断面図である。
【図10】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図11】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
2c スラスト受け面
3 ディスクハブ
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
8b1 スラスト軸受面
9 シール部材
10 縮小部
11 傾斜面
C スラスト軸受隙間
S、S’ シール空間
R1、R2 ラジアル軸受部
T スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口したハウジングと、前記ハウジングの内部に固定された軸受スリーブと、外径側に突出したフランジ部を有し、前記ハウジングおよび前記軸受スリーブに対して相対回転する軸部材と、前記軸受スリーブと前記軸部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置であって、
前記軸受スリーブのハウジング開口側の端面とこれに対向する前記軸部材のフランジ部の端面のうち、何れか一方が複数の動圧溝を配列した動圧溝領域を含むスラスト軸受面で、他方がスラスト軸受面と軸方向で対向するスラスト受け面であり、
前記スラスト軸受面と前記スラスト受け面との間に前記スラスト軸受隙間が形成され、
該スラスト軸受隙間が、外径側ほどその軸方向幅を小さくした縮小部を有することを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項2】
前記縮小部のスラスト軸受面およびスラスト受け面のうち、少なくとも何れか一方が傾斜面であることを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置。
【請求項3】
前記傾斜面の半径方向幅をr、傾斜面の高さをhとし、h/r≦0.01に設定したことを特徴とする請求項2記載の動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル軸受部が多円弧軸受で構成されていることを特徴とする請求項1記載の動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載された動圧軸受装置を有するディスク装置のスピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−194383(P2006−194383A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8113(P2005−8113)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】