説明

包接化合物

【課題】高屈折率な材料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。


(式中、Rは炭素数1〜20の2価の有機基、ケトン基、−C−、−C−CO−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−、又は−CO−CH−を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素、又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示す。Aは環状化合物を有する基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接化合物に関する。さらに詳しくは、光学部品の材料として好適な包接化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、プリズムを始めとする光学用素子は、従来ガラスが用いられていたが、重くて割れやすいという欠点を有することから、近年、プラスチック製品が出始めている。
光学用素子に用いられる透明なプラスチック材料としては、ポリメタクリレート、ポリカーボネート等が代表的であるが、これらは透明性、軽量性に優れているものの、屈折率がガラスに比べると低いという欠点を有している。
高屈折率の樹脂は、例えば、レンズにした場合に厚みを薄くでき、製品をコンパクトにすることが出来るという利点を有している。また、球面収差等の面でも有利となることから、近年、高屈折率樹脂の研究が盛んに進められている。
【0003】
高屈折率材料の開発は、従来から重金属、フッ素以外のハロゲン、芳香環又は硫黄を有する高分子の合成が検討されてきた。そのなかで、分子屈折率はハロゲン原子の中でヨウ素の屈折率が極めて高いことが知られている。
しかしながら、これまで報告されている含ヨウ素ポリマーの報告例はほとんどなく、合成例はあっても重合度の高いポリマーは得られていない(非特許文献1)。
【0004】
その中で、ヨウ素置換スチレン等の含ヨウ素芳香族モノマーと他のモノマーとの組み合わせによって、高屈折率樹脂を得る方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、詳細なデータの記載がない。
以上のように、含ヨウ素ポリマーの合成と屈折率特性に関する報告例は少ない。
【0005】
一方、クラウンエーテル、カリックスアレーンを始めとする種々の包接化合物は、イオン、分子認識機能を持つために抽出試薬としての応用を広く検討されている。
【非特許文献1】A.Jayakrishnan et al, J. Appl. Polym. Sci., 44, 743 (1992)
【特許文献1】特開昭54−77686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高屈折率な材料、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、側鎖にクラウンエーテル化合物等の環状化合物を有する化合物に金属塩を包接させたものが、高屈折率な材料となることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の包接化合物及びその製造方法等が提供される。
1.下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜20の2価の有機基、ケトン基、−C−、−C−CO−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−、又は−CO−CH−を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素、又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示す。Aは環状化合物を有する基を表わす。)
2.前記Mが側鎖に重合性基を有する1に記載の包接化合物。
3.下記式(2)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化4】

(式(2)中、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素、炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Mは炭素数2〜50のオキセタニル基、エポキシ基を有する単量体由来の基を表し、Xは酸素、又は硫黄原子を表す。i、j及びkはそれぞれ0〜1000の整数を示す。但し、j+kは1以上である。Aは環状化合物を有する基を表わす。)
4.前記Mが側鎖に重合性基を有する3に記載の包接化合物。
5.前記Aの環状化合物がアザクラウンエーテル化合物である1〜4のいずれかに記載の包接化合物。
6.前記金属塩の対カチオンがLi、Na、K、Mg又はCaのイオンである1〜5のいずれかに記載の包接化合物。
7.前記金属塩の対アニオンがヨウ素、臭素又は塩素のイオンである1〜6のいずれかに記載の包接化合物。
8.上記1〜7のいずれかに記載の包接化合物から得られる薄膜。
9.上記1〜7のいずれかに記載の包接化合物、又は8に記載の薄膜を硬化させて得られる3次元硬化物。
10.上記1〜7のいずれかに記載の包接化合物、又は8に記載の薄膜を加熱又は活性エネルギー線を照射して硬化させる3次元硬化物の製造方法。
11.上記1〜7のいずれかに記載の包接化合物、8に記載の薄膜又は9に記載の3次元硬化物からなる光学用材料。
12.上記屈折率が1.45〜2.00である11に記載の光学用材料。
13.上記11又は12に記載の光学用材料からなる光学部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高屈折率な包接化合物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の包接化合物は、下記式(1)又は式(2)で表わされる化合物に金属塩を包接させたものである。
【化5】

【0010】
式(1)及び(2)の化合物は、側鎖に環状化合物を含有する基Aを有することを特徴とする。基Aの有する環状化合物がホストとなり、後述する金属塩をゲスト化合物として取り込み、包接化合物を形成する。
尚、包接化合物とは、空孔を持つ分子又は分子の集合体(ホスト)の中に、他の分子(ゲスト)が取り込まれている化合物の総称である。ホスト化合物として、シクロデキストリンやクラウンエーテル等の筒状、環状化合物が有名である。これらの化合物は空孔の大きさにより、取り込むゲスト分子の大きさに制約があることが知られている。
【0011】
上記式(1)において、Rは、炭素数1〜20の2価の有機基、ケトン基、−C−、−C−CO−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を表す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、iは1〜20の整数を表す。)、−CO−、−CO−CH−である。好ましくは、炭素数1〜4のアルキレン基、ケトン基、−C−又は−C−CO−である。
【0012】
及びRは、それぞれ水素、ハロゲン、重水素、又は炭素数1〜20のアルキル基である。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等がある。
及びRは、それぞれ水素、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0013】
Aは環状化合物を表し、特に溶解性向上効果が高いという理由から、クラウンエーテル、アザクラウンエーテル及びチアクラウンエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種のヘテロ環化合物から誘導される1価の有機基が好適である。
【0014】
ここで、クラウンエーテルとはエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基等の2価のアルキレンオキシ基が3個以上含まれる環状ポリエーテルを意味する。
クラウンエーテルの例としては、12−クラウン−4−エーテル、14−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、ナフチル−12−クラウン−4、ジベンゾ−14−クラウン−4−エーテル、ベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−12−クラウン−4−エーテル、ジベンゾ−15−クラウン−5−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6−エーテル等を挙げることができる。
【0015】
アザクラウンエーテルとは、上記のクラウンエーテルの酸素原子の一部を窒素原子で置き換えた化合物、即ち、含窒素環状ポリエーテルのことであり、環形成に加わらない窒素原子には水素原子又はアルキル基等の置換基が結合していてもよい。
アザクラウンエーテルの例としては、1−アザ−15−クラウン−5−エーテル、1−アザ−18−クラウン−6−エーテル、ベンゾ−1−アザ−18−クラウン−6−エーテル、4,10−ジアザ−12−クラウン−4−エーテル、4,10−ジアザ−15−クラウン−5−エーテル、4,13−ジアザ−18−クラウン−6−エーテル、5,6,14,15−ジベンゾ−1,4−ジオキサ−8,12−ジアザシクロペンタデカ−5,14−ジエン等を挙げることができる。
【0016】
チアクラウンエーテルとは、上記のクラウンエーテルの酸素原子の一部又は全部を硫黄原子で置き換えた化合物である。
チアクラウンエーテルの例としては、1−チア−15−クラウン−5−エーテル、1−チア−18−クラウン−6−エーテル、1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカン等が挙げられる。
【0017】
これらのヘテロ環化合物の中でも、溶解性向上効果、合成の容易さ等の点で、特にアザクラウンエーテルが好適である。
【0018】
は、炭素数2〜50のエチレン性不飽和二重結合を有する単量体由来の基である。
単量体として、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、アクリル酸−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−プロピルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−エチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、3−エチル−3−オキセタニルメタクリレート、3−エチル−3−オキセタニルアクリレート等の不飽和二重結合を有する環状エーテル類;メチルアクリレート、イソプロピルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシルメタクリレート、2−メチルシクロヘキシルメタクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル メタクリレート(当該技術分野で慣用名として「ジシクロペンタニルメタクリレート」といわれている)、ジシクロペンタニルオキシエチルメタクリレート、イソボロニルメタクリレート等のメタクリル酸環状アルキルエステル;シクロヘキシルアクリレート、2−メチルシクロヘキシルアクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル アクリレート(当該技術分野で慣用名として「ジシクロペンタニルアクリレート」といわれている)、ジシクロペンタニルオキシエチルアクリレート、イソボロニルアクリレート等のアクリル酸環状アルキルエステル;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸アリールエステル;マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジエチル等のジカルボン酸ジエステル;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メトキシスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、フェニルマレイミド、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、グリセロールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
式(1)中のnは1〜1000の整数であり、好ましくは1〜300である。
mは0〜1000の整数であり、好ましくは1〜300である。
尚、m=0かつn=1の場合は、単量体を意味し、この場合も本発明に属する。
【0020】
式(1)でnが1の場合である下記式(I)で表される化合物は、下記式(II)で表される化合物に、Aの環状化合物を反応させることにより得ることができる。好ましくは塩基存在下で反応を行う。
CHR=CR−R−A (I)
CHR=CR−R−X’ (II)
(式中、R、R、R及びAは上記式(1)と同様である。X’は塩素原子等のハロゲン原子を示す。)
【0021】
用いる塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン等の第3級アミン化合物、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の金属水酸化物等がある。塩基の量はフェノール水酸基に対し好ましくは1〜10倍量、より好ましくは1〜2倍量用いる。
【0022】
反応に用いる溶剤は、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタンやクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやN−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトンやシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。また、無溶媒でも反応させることができる。
【0023】
反応温度は、通常、−78〜100℃の間で行うが好ましくは−30〜70℃、より好ましくは0〜60℃である。反応温度が−78℃未満だと反応時間が長くなる恐れがあり、また反応温度が100℃を超えると副反応が起こる恐れがある。
【0024】
尚、上記(I)の化合物を単独で、又は式(1)のMに対応する単量体とともに重合することで重合体が得られる。
【0025】
上記式(2)において、R、R及びAは、それぞれ上記式(1)のR、R及びAと同様の基を示し、具体例も同様である。
は、炭素数1〜20の2価の有機基である。例えば、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等の芳香族基、及びそれらの置換化合物、エステル基、カルボニル基が挙げられる。好ましくは、メチレン基、エステル基、カルボニル基である。
【0026】
Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0027】
は、炭素数2〜50のオキセタニル基、エポキシ基を有する単量体由来の基である。
オキセタニル基を有する単量体として、例えば3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−エチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−ブチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−へキシル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
また、エポキシ基を有する単量体として、好ましくは下記式(3)で表されるエポキシ基含有(メタ)アクリレートが用いられる。
【化6】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは下記式(4)又は式(5)で表される基を示す。
【化7】

【0029】
これらの単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
式(2)中のi、j又はkは、それぞれ0〜1000の整数であり、j+kは1以上である。i、j、kは、好ましくはそれぞれ0〜500である。
【0030】
本発明において、上記式(1)及び(2)の化合物の数平均分子量は、400〜100,000が好ましく、1,000〜50,000がより好ましく、さらに2,000〜30,000が好ましい。尚、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0031】
上記式(1)又は(2)の化合物とともに、包接化合物を形成する金属塩としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の各種金属イオン等が挙げられる。
金属塩の対アニオンとしては、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素等の各イオンが挙げられる。材料の屈折率を高めるためには、分極率を高めることが一般的な手法であり、分極率を高める要素して、分子屈折率の高いフッ素以外のハロゲン原子(ヨウ素、臭素、塩素)を導入することが好ましい。これらのD線に基づく分子屈折率は、ヨウ素:5.844、臭素:8.741、塩素:5.844、フッ素:0.81であり、ヨウ素の屈折率が極めて高いことから、金属塩の対アニオンとしてヨウ素原子を用いるのが好適である。
【0032】
本発明の包接化合物は、上述した式(1)又は(2)の化合物と金属塩を、溶媒中で混合し、撹拌することで得られる。
溶媒としては極性有機溶媒が使用でき、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルプロピオネート、ジメトキシエタン、グリコール類を用いることが好ましい。
ホスト化合物である上記式(1)又は(2)の化合物の溶液を撹拝しながら金属塩を含む溶液を添加、撹拌することで選択的に包接させることができる。
【0033】
本発明の包接化合物は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解し溶液にして、対象物に塗布、乾燥することにより、薄膜とすることができる。
【0034】
本発明において、上記式(1)又は(2)のM、Mは、その側鎖に重合性基を有することが好ましい。これにより、包接化合物の重合性基に対応する重合触媒を加え、加熱又は光等の活性エネルギー線を照射することによって、3次元硬化物を得ることができる。
このような重合性基を有する単量体としては、例えば、上記の(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等を用いることが好ましい。
尚、上記式(1)のMの骨格はラジカル重合で構成されているため、側鎖にはカチオン重合性基を導入することが好ましい。一方、上記式(2)のMの骨格はカチオン重合で構成されているため、側鎖にはラジカル重合性基を導入することが好ましい。
【0035】
紫外線、可視光又は放射線等の活性エネルギー線を用いたラジカル重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジルメチルケタール、2−イソプロピルチオキサントン等が用いられる。
熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキシド、p−クロルベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシド、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物である。
これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0036】
熱カチオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、塩化アルミニウム、4塩化スズ、4塩化チタン等が用いられる。熱カチオン重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性モノマーの種類や組成によって異なるため一概に限定できないが、一般には重合性基に対して0.01〜10当量%の範囲で用いるのが好適である。重合温度及び重合時間は、重合開始剤の種類と量や重合性モノマーの種類によって大きく変化するので限定できないが、2〜40時間で重合が完結するように条件を選ぶのが好ましい。
【0037】
紫外線、可視光又は放射線等の活性エネルギー線を用いたカチオン重合の開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものとして、スルホニウム塩類、ヨードニウム塩類等が用いられる。これらの重合開始剤は、重合性基に対して0.001〜5当量%の範囲で用いるのが一般的である。
アニオン重合開始剤としては、特に制限されず公知のものが使用できる。代表的なものを例示すると、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、金属リチウム等が用いられる。
【0038】
尚、上述した開始剤には、各種増感剤や助触媒を加えてもよい。また、3次元硬化物の物性を制御するために、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、レベリング剤等の各種添加剤を加えてもよい。
さらに、3次元硬化物の特性を高める目的で、シリカや酸化チタン等無機フィラーや有機フィラーを任意の割合で加えてもよい。
【0039】
本発明の包接化合物、薄膜又はその3次元硬化物は、光学用材料として使用することができる。また、金属塩の包接量をコントロールすることにより材料の屈折率を制御することができる。この材料の屈折率は、好ましくは1.45〜2.00、より好ましくは1.50〜1.90である。
【0040】
本発明の光学用材料は、上述した本発明の包接化合物又はその3次元硬化物単体であってもよく、また、これらに種々の有機物、無機物を添加した組成物であってもよい。
添加物としては、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオレフィン、シロキサンポリマー等の各種ポリマーや、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、濡れ性改良剤等の各種添加剤を挙げることができる。また、各種感光剤を添加してもよい。
【実施例】
【0041】
合成例1
下記式(6)で示される化合物(以下(6)と略す)を合成した。
【化8】

【0042】
三つ口ナスフラスコに、4−ビニル安息香酸1.23g(8.3mmol)を塩化メチレン5mLに溶解させた。その後、窒素雰囲気下で塩化チオニル13mLを加え、室温で、13時間反応させた。反応終了後、過剰の塩化チオニルを減圧留去することにより、黄色粘性液体である4−ビニルベンゾイルクロリドを1.32g(収率:96%)得た。
次に、ナスフラスコに、1−アザ−18−クラウン−6−エーテル0.790g(3mmol)をクロロホルム5mLに溶解させ、微量のヒドロキノンモノメチルエーテル、トリエチルアミン0.364g(3.6mmol)を加えて窒素雰囲気下にした。その後、4−ビニルベンゾイルクロリド0.60g(3.6mmol)をクロロホルム5mLで希釈し、1N塩酸で1回、飽和炭化水素ナトリウム水溶液で2回、水で2回洗浄を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤をろ過後、溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)により単離を行った。得られた溶液を減圧留去することにより無色粘性液体の(6)を得た。構造確認は、IR、H−NMRにより行った。
・IR(KRS、cm−1):1630、1510、1463、1121
H−NMR(600MHz、CDCl):
δ(ppm) 3.59〜3.60(m、24H)、5.29〜5.31(m、1H)、5.77〜5.80(m、1H)、6.69〜6.70(t、1H)、7.37〜7.38(d、2H)、7.41〜7.42(d、2H)
【0043】
合成例2
下記式(7)で示される化合物(以下(7)と略す)を下記の方法で合成した。
【化9】

【0044】
アンプル管に、合成例1で合成した式(6)の化合物を0.3g(0.76mmol)、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.004g(3mol%)、ジメチルホルムアミド(DMF)を0.25mL加え、凍結脱気を数回行い封管した。
室温にて解凍後、60℃で20時間反応させた。反応終了後、良溶媒としてテトラヒドロフラン、貧溶媒としてn−へキサンを用い、再沈精製を2回行った、溶液をデカンテーションし、減圧乾燥させることにより白色粘性固体である(7)を0.25g(収率:83%)得た。
得られた化合物の分子量をGPC法で測定したところ、数平均分子量1.29×10、分散度2.3であった。GPC法の測定条件は以下の通りであった。
(a)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(SEC):
東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフィー(SEC)HLC−8020型
(b)カラム:TSKgelG1000H
(c)展開溶媒:DMF
(d)標準物質:ポリスチレン
【0045】
合成例3
ナスフラスコ(10ml)に式(6)の化合物0.3g(0.75mmol)をとり、DMF 1.0mlに溶解させた。開始剤としてAIBN 0.0040g(3mol%)を加え、60℃で20時間反応させた。反応母液をクロロホルムで希釈した後、ヘキサンに沈殿し乾燥させ固体を得た。H−NMRにより式(7)の化合物であることを確認した。
図1にH−NMRスペクトルを示す。
【0046】
合成例4
DMF 1.0mlに代えて、トルエン1.0mlを使用した他は、合成例3と同様にして式(7)の化合物を得た。
【0047】
合成例5
ナスフラスコ(10ml)に式(6)の化合物0.38g(1.0mmol)、開始剤としてAIBN 0.0049g(3mol%)をとり、DMF 0.33mlに溶解させた。それをアンプル管に移し、数回凍結・脱気をした後封管して60℃で20時間反応させた。反応母液をクロロホルムで希釈した後ヘキサンに沈殿し乾燥させそれぞれ固体を得た。H−NMRにより式(7)の化合物であることを確認した。
図2にH−NMRスペクトルを示す。
合成例3〜5の反応条件及び結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

表中、収率及び変換率は、ヘキサン不溶分のH−NMRスペクトルから計算した。数平均分子量及び分子量分布は、合成例2と同様にして測定した。屈折率は、後述する実施例と同様に測定した。
【0049】
合成例6
下記式(8)で示される化合物(以下(8)と略す)を下記の方法で合成した。
【化10】

【0050】
アンプル管に式(6)の化合物0.243g(0.563mmol)とスチレン0.0196g(0.188mmol)(仕込み比75:25)、開始剤としてAIBN 0.00370g(3mol%)をそれぞれ加え、トルエン1.0mlに溶解させた。二方コックを取り付け、凍結・脱気を数回行い封管した。室温にて解凍後、60℃で20時間反応を行った。
反応終了後、良溶媒としてクロロホルム、貧溶媒としてヘキサンを用いて沈殿させた。デカンテーション後、析出した固体を減圧乾燥させることにより固体を得た。構造確認はH−NMRスペクトルにて行った。
【0051】
合成例7
式(6)の化合物の量を0.143g(0.375mmol)、スチレンの量を0.0389g(0.375mmol)(仕込み比50:50)とした他は、合成例6と同様にして、合成した。
【0052】
合成例8
式(6)の化合物の量を0.0746g(0.188mmol)、スチレンの量を0.0585g(0.563mmol)(仕込み比25:75)とした他は、合成例6と同様にして、合成した。
図3にH−NMRスペクトルを示す。また、合成例6〜8の反応条件及び結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

表中、収率及び変換率は、ヘキサン不溶分量から計算した。組成は、H−NMRスペクトルのクラウンエーテル部の芳香族プロトンとスチレン部の芳香族プロトンの積分値を比較することで算出した。数平均分子量及び分子量分布は、合成例2と同様にして測定した。
【0054】
実施例1〜3
上記で合成した(7)0.1gをテトラヒドロフラン(1ml)に溶解させた。この溶液にそれぞれヨウ化カリウム(KI)、塩化カリウム(KCl)、又は臭化カリウム(KBr)0.1gを加え、60分間撹拌し、包接化合物を合成した。
【0055】
撹拌終了後の溶液0.2mlをシリコンウエハー上に滴下し、スピンコータ(浅沼製作所株式会社製)により塗布した。次いで、この溶液が塗布されたシリコンウエハーを室温で24時間減圧乾燥後、エリプソメータ(ガードナー社製、115B型)により波長632.8nmにおける屈折率測定を5回行い、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均を屈折率とした。
包接前後の屈折率差を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
包接していない(7)の屈折率は1.554、包接化合物の屈折率は1.568〜1.608であり、包接前後で屈折率が0.014〜0.054増加し、包接前の屈折率との差はKI>KBr>KClであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の包接化合物は、金属イオンの対アニオンを変えることで屈折率調整可能で、さらに高屈折率を有する材料である。この材料は、光学レンズ、光学フィルム等の光学部品、光学フィルムを用いた液晶表示装置等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】合成例3で合成した式(7)の化合物のH−NMRスペクトルである。
【図2】合成例5で合成した式(7)の化合物のH−NMRスペクトルである。
【図3】合成例8で合成した式(8)の化合物のH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜20の2価の有機基、ケトン基、−C−、−C−CO−、−C−(CH−(iは1〜20の整数を示す。)、−C−O−(R−(Rはアルキレン基又はアルキレンオキシ基を表し、iは1〜20の整数を示す。)、−CO−、又は−CO−CH−を表し、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素、又は炭素数1〜20のアルキル基を表し、Mは炭素数2〜50のエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の基を表し、mは0〜1000の整数を示し、nは1〜1000の整数を示す。Aは環状化合物を有する基を表わす。)
【請求項2】
前記Mが側鎖に重合性基を有する請求項1に記載の包接化合物。
【請求項3】
下記式(2)で表わされる構造を有する化合物に金属塩を包接させた包接化合物。
【化2】

(式(2)中、R及びRはそれぞれ水素、ハロゲン、重水素、炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を示し、Mは炭素数2〜50のオキセタニル基、エポキシ基を有する単量体由来の基を表し、Xは酸素、又は硫黄原子を表す。i、j及びkはそれぞれ0〜1000の整数を示す。但し、j+kは1以上である。Aは環状化合物を有する基を表わす。)
【請求項4】
前記Mが側鎖に重合性基を有する請求項3に記載の包接化合物。
【請求項5】
前記Aの環状化合物がアザクラウンエーテル化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の包接化合物。
【請求項6】
前記金属塩の対カチオンがLi、Na、K、Mg又はCaのイオンである請求項1〜5のいずれかに記載の包接化合物。
【請求項7】
前記金属塩の対アニオンがヨウ素、臭素又は塩素のイオンである請求項1〜6のいずれかに記載の包接化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の包接化合物から得られる薄膜。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の包接化合物、又は請求項8に記載の薄膜を硬化させて得られる3次元硬化物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の包接化合物、又は請求項8に記載の薄膜を加熱又は活性エネルギー線を照射して硬化させる3次元硬化物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の包接化合物、請求項8に記載の薄膜又は請求項9に記載の3次元硬化物からなる光学用材料。
【請求項12】
屈折率が1.45〜2.00である請求項11に記載の光学用材料。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の光学用材料からなる光学部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−67978(P2009−67978A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18937(P2008−18937)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】