説明

化合物半導体単結晶の製造方法

【課題】単結晶表面からのV族元素の局所的な解離及びIII族元素の液垂れを抑制する方法を提供する。
【解決手段】不活性ガスを充填した耐圧容器1内に収容したるつぼ4に原料5と液体封止剤6とを収納して加熱し、種結晶7を原料融液9に接触させつつ種結晶7とるつぼ4とを相対的に移動させて単結晶10を成長させるLECによる化合物半導体単結晶の製造方法において、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さをh(mm)、るつぼ4の内径をD1(mm)、目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.19≦h/{(D1−D2)/2}≦0.52の範囲になるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体単結晶の製造方法に関し、特に、液体封止引き上げ法(Liquid Encapsulated Czochralski法。以下、LEC法と略す。)により化合物半導体の単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs等のIII−V族化合物半導体単結晶の製造方法として、不活性ガスを充填した耐圧容器内に収容したるつぼに原料と液体封止剤とを収納して加熱し、種結晶を原料融液に接触させつつ前記種結晶と前記るつぼとを相対的に移動させて単結晶を成長させるLEC法が知られている。
【0003】
LEC法により結晶成長させる際には、単結晶の軸方向(引き上げ方向)における液体封止剤の温度勾配を緩やかにすることにより、成長中の単結晶固体と原料融液との界面形状が緩やかな凸型になるよう制御することが好ましい。例えば、特許文献1には、液体封止剤の厚さを8mm〜15mmに制限することにより液体封止剤の温度勾配を緩やかにして、界面形状を緩やかな凸型に制御する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−196573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液体封止剤の厚さを8mm〜15mmに制限したとしても、液体封止剤の上方に引き上げた単結晶の表面からV族元素が局所的に解離し、III族元素が液垂れを起こし、液垂れ箇所を基点として多結晶化してしまう場合があった。
【0005】
本発明の目的は、単結晶表面からのV族元素の局所的な解離及びIII族元素の液垂れを抑制することが可能な化合物半導体単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、不活性ガスを充填した耐圧容器内に収容したるつぼに原料と液体封止剤とを収納して加熱し、種結晶を原料融液に接触させつつ前記種結晶と前記るつぼとを相対的に移動させて単結晶を成長させるLECによる化合物半導体単結晶の製造方法において、前記液体封止剤の上方に引き上げられた前記単結晶の外径が目標とする外径に到達した時の前記液体封止剤の厚さをh(mm)、前記るつぼの内径をD1(mm)、前記目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.19≦h/{(D1−D2)/2}≦0.52の範囲になるようにした化合物半導体単結晶の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、前記液体封止剤の上方に引き上げられた前記単結晶の外径が目標とする外径に到達した時の前記液体封止剤の厚さをh(mm)、前記るつぼの内径をD1(mm)、前記目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.25≦h/{(D1−D2)/2}≦0.31の範囲になるようにした第1の態様に記載の化合物半導体単結晶の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、前記液体封止剤として三酸化硼素を用いる第1または第2の態様に記載の化合物半導体単結晶の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、前記化合物半導体単結晶はGaAs,InP,GaP,InAsのいずれかである第1または第2の態様に記載の化合物半導体単結晶の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる化合物半導体単結晶の製造方法によれば、単結晶表面からのV族元素の局所的な解離及びIII族元素の液垂れを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
GaAs等のIII−V族化合物半導体単結晶を成長させる際には、上述のLEC法のほか、垂直温度勾配凝固法(Vertical Gradient Freeze法)、垂直ブリッジマン法(Vertical Boat法)等が一般的に用いられている。これらの方法により化合物半導体単結晶を成長させる際には、成長中の単結晶固体と原料融液との界面の形状(固液界面形状)を制御することが重要となる。単結晶を効率よく成長させる固液界面形状は、一般に、原料融液側に対して緩やかな凸型が好ましいとされている。
【0012】
但し、成長中の単結晶の径方向の全面に亘って固液界面形状を凸型にすることは困難であり、単結晶の側面付近において部分的に凹面部が形成されてしまう場合がある。固液界面形状が部分的に凹型になると、単結晶中の転位が結晶成長とともに凹面部に集積して、多結晶の発生につながってしまう。
【0013】
単結晶の側面付近において部分的に凹面部が形成されてしまう現象は、LEC法による結晶成長において顕著に見受けられる。その理由は、原料融液から単結晶中に取り込まれた熱が、単結晶の側面から液体封止剤中へと放出されるためと考えられる。B等の液体封止剤は熱伝導率が小さいため、単結晶の軸方向における液体封止剤の温度勾配は急峻となり、単結晶側面から液体封止剤中への放熱が起こりやすくなる。そして、この急峻な温度勾配が、成長させた単結晶内に大きな熱応力を生じさせ、転位などの結晶欠陥を増加させてしまう場合がある。すなわち、液体封止剤の急峻な温度勾配が固化後の単結晶内の温度差を大きくさせ、単結晶内の熱応力(熱歪)を増大させるのである。例えば、温度勾配が緩やか(例えば5℃/cm〜40℃/cm)なVGF法によって成長させた単結晶の転位密度は、温度勾配が急峻(例えば100〜200℃/cm)なLEC法によって成長させた単結晶の転位密度に比べて1桁少ない場合もある。
【0014】
固液界面形状における凹面部の形成を抑制するには(すなわち、単結晶側面からの放熱を抑制するには)、単結晶の軸方向における液体封止剤の温度勾配を緩やかにすることが効果的である。るつぼ内の加熱は、るつぼの外周を取り囲むように設けたヒータによって行うことが一般的である。この場合、液体封止剤の温度勾配を緩やかにする方法として、るつぼの外周に設けるヒータを、個別に温度調整可能な複数のヒータユニットからなるゾーンヒータとして構成しつつ、液体封止剤に最も近いヒータユニットの出力を相対的に高める方法が考えられる。しかしながら、上述したようにBなどの液体封止剤は熱伝導率が小さいため、かかる方法により液体封止剤の温度勾配を緩やかにすることは困難である。
【0015】
また、単結晶の軸方向における液体封止剤の温度勾配を緩やかにする他の方法として、るつぼを収容した耐圧容器内の不活性ガスの温度を上げることにより液体封止剤を加熱する方法も考えられる。しかしながら、かかる方法では、液体封止剤の上方へ引き上げられた単結晶の表面までもが昇温されてしまい、引き上げられた単結晶の表面からV族元素が局所的に解離し、III族元素が液垂れを起こしてしまう場合がある。そして、引き上げられた単結晶の側面が、軸方向に沿って幅数mm、深さ数mmにわたって侵食され、かかる侵食箇所(液垂れ箇所)が結晶の成長界面、つまり単結晶固体と原料融液との界面(固液界面)まで進行し、結晶内に面方位の部分的なズレを引き起こし、多結晶化を招いてし
まう場合がある。
【0016】
また、単結晶の軸方向における液体封止剤の温度勾配を緩やかにする他の方法として、るつぼ内への原料充填時に一緒に充填する液体封止剤の量を増やし、結晶成長中の液体封止剤の厚さを増やす方法も考えられる。但し、液体封止剤が厚すぎると種付けの様子を確認することが困難になってしまう場合がある。さらに、成長開始時の種結晶と原料融液との間の温度勾配が極めて小さくなって(種結晶と原料融液との温度差が小さすぎて)種結晶へ熱が逃げ難くなり、安定的に結晶を成長させる(安定的に種付けする)ことが困難になってしまう場合がある。すなわち、種結晶と原料融液との温度勾配が小さすぎて固化と溶融とが繰り返されやすくなり、種結晶から面方位がずれた状態で結晶成長してしまう部位が発生し、多結晶化やツイン等の不良が発生しやすくなり、種付け不良の際には種付けのやり直しが必要となってしまう。また、単結晶の外径制御の反応速度が遅れやすくなり、特に、結晶が長くなるほど単結晶の外径乱れが大きくなる場合がある。
【0017】
これに対し、液体封止剤の厚さを8mm〜15mmに制限することにより単結晶の軸方向における液体封止剤の温度勾配を緩やかにして界面形状を制御する方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1によれば、液体封止剤の厚さを8mm超とすることで、原料融液からのAs元素の揮発を抑制できるとある。また、液体封止剤の厚さを15mm未満とすることで、結晶成長初期段階で結晶頭部からの放熱が不足し、固液界面形状が凹型になってしまい、凹面部に転位が集中して多結晶化してしまうことを抑制できるとある。
【0018】
しかしながら、液体封止剤の厚さを8〜15mmに制限したとしても、液体封止剤の上方に引き上げた単結晶の表面からV族元素が局所的な解離(揮散)してしまう場合があった。また、単結晶の軸方向(引き上げ方向)の温度勾配が急峻になってしまい、単結晶が得られたとしても、転位密度が大きくなってしまう場合があった。
【0019】
そこで発明者等は、単結晶表面からのV族元素の局所的な解離を抑制する方法について鋭意研究を行った。その結果、液体封止剤の上方に引き上げられた単結晶の外径が目標とする外径(単結晶の外径制御の基準値でもあり、定径ともいう)に到達した時の液体封止剤の厚さをh(mm)、るつぼの内径をD1(mm)、目標とする外径(定径)をD2(mm)としたときに、h/{(D1−D2)/2}の値が所定の範囲内にすることにより、V族元素の局所的な解離や転位密度の増加を抑制できるとの知見を得た。本発明は、発明者等が得たかかる知見を基になされた発明である。
【0020】
(1)GaAs単結晶製造装置の構成
以下に、本発明の一実施形態にかかるGaAs単結晶製造装置の構成例を、図1を参照しながら説明する。
【0021】
LEC法によるGaAs単結晶製造装置は、耐圧容器としてのチャンバ1と、単結晶を引き上げる為の引上軸2と、原料の容器である熱分解窒化硼素(以下PBNと略す。)製のるつぼ4と、このるつぼ4を受ける為のるつぼ軸3と、チャンバ1内の昇温手段としての抵抗加熱ヒータ8と、を有する構造となっている。
【0022】
チャンバ1は、気密に封止可能な耐熱・耐圧容器として構成されている。チャンバ1内は、図示しない排気口により真空排気され、図示しないガス供給口により不活性ガスが充填されるように構成されている。排気口やガス供給口に接続する配管は、例えばグラファイト等の耐熱材料とすることが好ましい。るつぼ4は、開口部を上方に向けた形でチャンバ1内に収容されるように構成されている。また、抵抗加熱ヒータ8は、るつぼ4の周囲を取り囲む形でチャンバ1内に配置される。抵抗加熱ヒータ8は、その発熱体の中心領域が後述するGaAs融液9と液体封止剤6との界面付近、或いはかかる界面よりも下方に
くるように配置される。
【0023】
引上軸2は、チャンバ1内の気密を保持しつつチャンバ1の上壁(天井壁)を垂直に貫通するとともに、回転および昇降自在に構成されている。引上軸2の下端には、種結晶7を取り付けることができるように構成されている。チャンバ1の外部から引上軸2を操作することで、種結晶7をチャンバ1内にて回転および昇降させることが可能なように構成されている。なお、引上軸2の上部には、図示しない重量センサが設けられている。
【0024】
るつぼ軸3は、チャンバ1内の気密を保持しつつチャンバ1の下壁(底壁)を貫通するとともに、回転自在に構成されている。るつぼ軸3の上端は、るつぼ4を下方から支持するように構成されている。チャンバ1の外部からるつぼ軸3を回転させることで、るつぼ4をチャンバ1内にて回転させることが可能なように構成されている。
【0025】
(2)化合物半導体単結晶の製造方法
次に、前述のGaAs単結晶製造装置を使用した化合物半導体単結晶の製造方法について説明する。
【0026】
先ず、原料としてのGaAs多結晶5と液体封止剤としての三酸化硼素(B)とを充填したるつぼ4を、チャンバ1内のるつぼ軸3上に設置する。又、引上軸2の下端に、成長させる単結晶の元となる種結晶7を取り付ける。この種結晶7のうち、GaAs融液9と接する面(下面)を(100)面とする。
【0027】
次いで、チャンバ1内を真空排気した後、チャンバ1内に不活性ガスを充填する。その後、抵抗加熱ヒータ8に通電してチャンバ1内の温度を昇温させ、るつぼ4内のGaAs多結晶5を融解させ、原料融液としてのGaAs融液9を生成する。その結果、GaAs融液9の上面は全面に亘って液体封止剤6により封止された状態となり、GaAs融液9からのAs元素の揮発が抑制される。
【0028】
続いて、引上軸2とるつぼ軸3とを、回転方向が互いに逆になるようにそれぞれ回転させる。この状態で、引上軸2の下端に取り付けた種結晶7を、GaAs融液9に接触するまでゆっくりと下降させる。
【0029】
種結晶7がGaAs融液9に接触したら、抵抗加熱ヒータ8の設定温度を徐々に下げつつ、引上軸2を一定の速度で上昇させる。その結果、種結晶7の下部から単結晶10の成長が開始され(種付けがなされ)、かかる単結晶10の外径(直径)が徐々に太く成長し(増径部13が成長し)、単結晶10の結晶頭部11から結晶肩部12が形成されていく。単結晶10の外径が目標とする外径(定径)に達したら、単結晶10の外径が一定になるように抵抗加熱ヒータ8の設定温度等を調整しつつ、引上軸2の回転及び上昇を継続させて所定の長さの単結晶10を製造する。すなわち、引上軸2の上部に設けられた図示しない重量センサにより成長中の単結晶10の重量を測定し、単位時間あたりの増加重量が減っていれば(すなわち外径が細っていれば)抵抗加熱ヒータ8の出力値を下げ、単位時間あたりの増加重量が増えていれば(すなわち外径が太っていれば)抵抗加熱ヒータ8の出力値を上げるように抵抗加熱ヒータ8への通電量をフィードバック制御しつつ、単結晶10を製造する。
【0030】
このとき、液体封止剤6の上部(上面側)に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径(定径)に到達した時の液体封止剤6の厚さをh(mm)、るつぼ4の内径をD1(mm)、目標とする外径(定径)をD2(mm)としたときに、0.19≦h/{(D1−D2)/2}≦0.52の範囲になるように、好ましくは、0.25≦h/{(D1−D2)/2}≦0.31の範囲になるように、るつぼ4に充填する三酸化硼素(B
)の量、抵抗加熱ヒータ8の設定温度、引上軸2の回転速度及び上昇速度、るつぼ軸3の回転速度をそれぞれ調整する。
【0031】
(3)本実施形態にかかる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0032】
本実施形態によれば、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さをh(mm)、るつぼ4の内径をD1(mm)、目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.19≦h/{(D1−D2)/2}になるようにする。その結果、抵抗加熱ヒータ8の発熱帯の中心と液体封止剤6とが近い場合であっても、液体封止剤6の表面温度が下がり、液体封止剤6の上面に引き上げられた直後(液体封止剤6から出た直後)の単結晶10の温度が下がる。その結果、液体封止剤6の上面に引き上げられた単結晶10の表面からAs元素(V族元素)の局所的な解離が抑制され、Ga元素(III族元素)の液垂れを抑制できる。
【0033】
また、本実施形態によれば、0.19≦h/{(D1−D2)/2}とすることにより、GaAs融液9からAs元素(V族元素)が著しく揮発(揮散)してしまうことを抑制できる。すなわち、液体封止剤6の厚さh(mm)が上述の関係式を満たすことにより、本来の目的である液体封止効果が安定的に得られるため、地震や機械的不具合によるGaAs単結晶製造装置の振動、チャンバ1内の雰囲気の圧力変化等により、GaAs融液9からAs元素(V族元素)が著しく揮発(突沸)してしまうことを抑制できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、0.19≦h/{(D1−D2)/2}とすることにより、単結晶10の軸方向(引き上げ方向)の温度勾配が緩やかになる。すなわち、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さh(mm)が上述の関係式を満たすことにより、高温のGaAs融液9と低温の雰囲気ガス(液体封止剤6の上方の雰囲気ガス)との距離が長くなり、液体封止剤6内の単結晶10の軸方向の温度勾配が緩やかになる。その結果、単結晶10中の転位密度を減少させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態によれば、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さをh(mm)、るつぼ4の内径をD1(mm)、目標とする外径をD2(mm)としたときに、h/{(D1−D2)/2}≦0.52となるようにする。その結果、種結晶7の下部における単結晶10の成長開始(種付け)の様子を確認し易くなる。
【0036】
また、本実施形態によれば、h/{(D1−D2)/2}≦0.52とすることにより、単結晶10の成長開始時における種結晶7とGaAs融液9との温度勾配が小さくなりすぎず(種結晶と原料融液との温度差を確保でき)、種結晶へ熱を逃がしやすくなり、安定的に単結晶を成長させる(安定的に種付けする)ことが可能となる。
【0037】
また、本実施形態によれば、h/{(D1−D2)/2}≦0.52とすることにより、単結晶10の外径制御における反応速度の低下を抑制し(すなわち、上述した抵抗加熱ヒータ8へのフィードバック制御の反応速度の低下を抑制し)、単結晶10の外径をより均一化させることが可能となる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。図2は、本発明の実施例を比較例とともに説明する表図である。
【0039】
(実施例1)
本実施例では、るつぼ4の内径D1を275mmとした。そして、るつぼ4に充填するGaAs多結晶を24kgとし、るつぼ4に充填するBを1.8kgとした。そして、引上軸2の回転速度を5rpmとしつつ、るつぼ軸3の回転速度を15rpmとした。そして、抵抗加熱ヒータ8によりるつぼ4内のGaAs多結晶5の温度を1238℃以上まで昇温して、上面が液体封止剤6により封止されたGaAs融液9を生成した。そして、引上軸2を降下させて、種結晶7をGaAs融液9にゆっくりと接触させて種付けを行った。種付け後、抵抗加熱ヒータ8の設定温度を−3.0〜−6.0℃/hrの勾配で徐々に下げるとともに、引上軸2の引き上げ速度を2〜10mm/hrの範囲で調整させつつ増径部13を成長させて単結晶10を成長させた。そして、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径(定径)D2である110mmまで到達したら、引き上げ速度を10mm/hrで固定しつつ、単結晶10の外径が一定になるように制御しつつ結晶成長を継続させた。なお、液体封止剤6の上部に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径(定径)D2に達した時の液体封止剤6の厚さhは24mmであった。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.29であった。そして、同条件にて、長さが約420mmの結晶を10回(10本)製造した。
【0040】
本実施例によれば、単結晶10の成長開始(種付け)の様子を容易に確認できた。また、種結晶7とGaAs融液9との温度勾配が小さくなりすぎず、安定的に単結晶10を成長させることができ、結晶全体に亘って単結晶化となっていることが確認できた。そして、外径乱れの小さい単結晶10を得ることができた。また、単結晶10の表面からのAs元素の局所的な解離及びGa元素の液垂れ、GaAs融液9からのAs元素の揮発がともに抑制できており、単結晶10中の転位密度が低減できていることが確認できた。なお、単結晶10中の転位密度はEPD(Etch Pit Density)測定器により測定した。
【0041】
(実施例2)
本実施例においては、るつぼ4内に充填するBの量を実施例1よりも削減し、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを21mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.25とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、実施例1とほぼ同様の効果が確認できた。
【0042】
(実施例3)
本実施例においては、るつぼ4内に充填するBの量を実施例1よりも増加させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを26mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.31とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、実施例1とほぼ同様の効果が確認できた。
【0043】
(実施例4)
本実施例においては、るつぼ4内に充填するBの量をさらに増加させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを30mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.36とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、種結晶7とGaAs融液9との温度勾配が小さくなり、単結晶の成長(種付け)が比較的不安定になったものの、実施例1とほぼ同様の効果が確認できた。すなわち、種結晶と原料融液との温度勾配が小さすぎて固化と溶融とが繰り返され、種付け時に多結晶化やツイン等の不良が発生し、種付けのやり直しが必要となる場合があったものの、実施例1とほぼ同様の効果が確認できた。
【0044】
(比較例1)
本比較例においては、るつぼ4内に充填するBの量を実施例2よりも削減させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを15mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.18とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、引き上げ直後の単結晶の表面からのAs元素の局所的な解離と、単結晶の表面におけるGa元素の液垂れが認められた。
【0045】
(比較例2)
本比較例においては、るつぼ4内に充填するBの量をさらに削減させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを10mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.12とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、GaAs融液9からのAs元素の著しい揮発が認められた。また、引き上げ直後の単結晶の表面からのAs元素の局所的な解離、単結晶の表面におけるGa元素の液垂れ、多結晶化が認められた。
【0046】
(比較例3)
本比較例においては、るつぼ4に充填するBの量を実施例4よりも増加させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを44mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.53とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、種結晶7とGaAs融液9との温度勾配が小さくなりすぎて、単結晶の成長(種付け)が困難となった。また、単結晶の外径制御の反応速度が遅れやすくなり、単結晶が長くなるにつれて外径乱れが大きくなった。
【0047】
(比較例4)
本比較例においては、るつぼ4に充填するBの量をさらに増加させ、液体封止剤6の上方に引き上げられた単結晶10の外径が目標とする外径に到達した時の液体封止剤6の厚さhを50mmとした。すなわち、h/{(D1−D2)/2}=約0.61とした。その他の条件は、実施例1とほぼ同じである。その結果、種結晶7とGaAs融液9との温度勾配が小さくなりすぎて単結晶の成長(種付け)を行うことができなかった(多結晶が成長された)。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態にかかるGaAs単結晶製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例を比較例とともに説明する表図である。
【符号の説明】
【0049】
1 チャンバ(耐圧容器)
4 るつぼ
5 GaAs多結晶(原料)
6 液体封止剤
7 種結晶
9 GaAs融液(原料融液)
10 単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスを充填した耐圧容器内に収容したるつぼに原料と液体封止剤とを収納して加熱し、種結晶を原料融液に接触させつつ前記種結晶と前記るつぼとを相対的に移動させて単結晶を成長させるLECによる化合物半導体単結晶の製造方法において、
前記液体封止剤の上方に引き上げられた前記単結晶の外径が目標とする外径に到達した時の前記液体封止剤の厚さをh(mm)、前記るつぼの内径をD1(mm)、前記目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.19≦h/{(D1−D2)/2}≦0.52の範囲になるようにした
ことを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記液体封止剤の上方に引き上げられた前記単結晶の外径が目標とする外径に到達した時の前記液体封止剤の厚さをh(mm)、前記るつぼの内径をD1(mm)、前記目標とする外径をD2(mm)としたときに、0.25≦h/{(D1−D2)/2}≦0.31の範囲になるようにした
ことを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記液体封止剤として三酸化硼素を用いる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記化合物半導体単結晶はGaAs,InP,GaP,InAsのいずれかである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−208992(P2009−208992A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52903(P2008−52903)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】