説明

化合物半導体発光素子の製造方法

【課題】化合物半導体発光素子に含まれる透光性酸化物導電膜の光透過率の向上、シート抵抗の低減、シート抵抗の面内分布の均一化、およびコンタクト層に対するコンタクト抵抗の低減の少なくともいずれかを可能ならしめる化合物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】化合物半導体発光素子の製造方法において、基板(1)上に発光層(3)を含む化合物半導体積層体(2−5)を堆積し、この化合物半導体積層体(2−5)上に透光性酸化物導電膜(8)を堆積し、この透光性酸化物導電膜(8)はアニールされてその後に真空雰囲気中で冷却されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体発光素子の製造方法に関し、特に化合物半導体発光素子に含まれる透光性酸化物導電膜における透光性、シート抵抗、シート抵抗の面内分布、およびコンタクト抵抗の少なくともいずれかを改善し得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体発光素子を種々の照明用途に利用するためには、赤、緑および青の光の3原色を発光し得る発光素子が不可欠である。発光ダイオード(LED)に関しては、近年までは3原色のうちの青色LEDが完成されずに欠けていたので、LEDを種々の照明用途に利用することができていなかった。
【0003】
しかし、1990年代に窒化物半導体による青色LEDが開発されて以後において、LEDを用いた照明製品は、交通信号機だけに留まることなく、液晶モニターのバックライト、液晶テレビのバックライト、さらには家庭用の各種照明用途などに利用されている。
【0004】
最近では、LEDバックライトを搭載した液晶テレビが、その価格の低下に伴って急速に普及し始めている。また、LEDを用いた照明器具は、従来の照明器具に比べて低消費電力、省スペースおよび水銀フリーを可能にし、環境にも望ましいというメリットを有している。そして、2009年夏以後において、それ以前に比べて遥かに安い価格でLEDを用いた照明器具が発売され、その普及が一気に進んでいる。
【0005】
ところで、照明器具や液晶テレビのバックライトなどの光としては、白色光であることを要する。LEDを利用した白色光は、一般に青色LEDとYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)黄色蛍光体との組合せ、または青色LEDと緑色蛍光体と赤色蛍光体との組合せにより実現され得る。すなわち、LEDを利用して白色光を得るためには、いずれの場合でも青色LEDが必要となる。このようなことから、高輝度の青色LEDを安価かつ大量に提供し得る製造方法が望まれている。
【0006】
一般に、青色や青緑色などの短波長光を放射し得るLEDやレーザダイオード(LD)の発光層には、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、およびこれらの混晶などのように、V族元素として窒素を含有するIII−V族化合物半導体が用いられる。
【0007】
図6は、周知のダブルヘテロ接合型青色LEDの一例を模式的断面図で示している。この青色LEDの作製においては、サファイア基板101上に、Siドープのn型GaN下部クラッド層102、InGaN発光層103、Mgドープのp型AlGaN上部クラッド層104、およびコンタクト層105がこの順に堆積される。コンタクト層105上には透光性酸化物導電膜108が堆積され、その上の一部領域にはp側電極106が設けられる。他方、下部クラッド層102の一部がエッチングによって露出され、その露出領域上にn側電極107が設けられる。
【0008】
図5のLEDのp側電極106から電流を注入すれば、電流が酸化物導電膜108の面方向に拡散される。そして、拡散された電流がコンタクト層105および上部クラッド層104を介して発光層103内へ広い面積で注入され、これによって発光層103が広い領域で発光を生じ得る。
【0009】
発光層103から上方へ放射された光は、上部クラッド層104、コンタクト層105および透光性酸化物導電膜108を透過して外部に取り出される。透光性酸化物導電膜108として例えばITO(インジュウム錫酸化物)のような高透光性の材料を用いることにより、発光層103から放射された光が透光性酸化物導電膜108を透過するときの光損失を低減させることができる。また、ITOなどからなる酸化物導電膜108はコンタクト層105に比べて低抵抗であるので、注入電流の広範囲への拡散が促進され、発光層103における発光面積の拡大による発光効率の向上がもたらされ得る。
【0010】
一方、ITOなどの酸化物導電膜108はコンタクト層105に比べれば低抵抗であるが、そのシート抵抗は20Ω/□以上60Ω/□以下という比較的高い値を示す。しかも、酸化物導電膜においては、その部位によってシート抵抗の高いところと低いところが混在しやすい傾向にある。したがって、透光性酸化物導電膜を含む化合物半導体発光素子においては、その駆動電圧Vfが高くなったり、発光層の領域に依存して発光が不均一になりやすいという問題がある。
【0011】
これらの問題を改善するためには、透光性酸化物導電膜108のシート抵抗を20Ω/□以下にし、好ましくは10Ω/□以下にすることが理想的である。酸化物導電膜のシート抵抗を低減させるためには、酸化物導電膜においてアニールによってその結晶化度を高めて、それによって酸化物導電膜のシート抵抗を低減させるという手法が考えられる。しかし、アニールによって酸化物導電膜108とコンタクト層105との界面の結合状態が変化し、その界面におけるGa−O、N−O、Hの化合物などの安定な結合状態が損なわれて、コンタクト抵抗が高くなり得る問題がある。
【0012】
また、酸化物導電膜のシート抵抗を低減させるためには、その結晶中の酸素欠損密度を高めることによってキャリア密度を上昇させる手法が考えられる。しかし、そのキャリア密度の上昇に伴って酸化物導電膜の仕事関数が低下し、酸化物導電膜108とコンタクト層105との界面の酸化物導電膜側の電子ポテンシャルが上昇する。これによって酸化物導電膜からコンタクト層にホールが注入されにくくなり、結果として酸化物導電膜108とコンタクト層105との間のコンタクト抵抗が高くなるという問題がある。
【0013】
そこで、特許文献1の特開2007−287786号公報に開示された発光素子では、第1アニールと第2アニールとの2段階のアニールを行なうことにより、透光性酸化物導電膜とコンタクト層との間のコンタクト抵抗を低く保ちつつ、その酸化物導電膜のシート抵抗を低下させる試みがなされている。特許文献1の第1アニールにおいては、酸素を含む雰囲気中にて250℃以上600℃以下の温度でアニールすることにより、透光性酸化物導電膜とコンタクト層との間のコンタクト抵抗を低下させる。そして、続く第2アニールでは、酸素を含まない雰囲気(例えばNガス雰囲気)中にて200℃以上500℃以下の温度でアニールすることにより、透光性酸化物導電膜のシート抵抗を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2007−287786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
透光性酸化物導電膜として用いられるITOやIZO(インジュウム亜鉛酸化物)などの酸化物膜は、大気圧と同圧のNガス雰囲気中のアニール後にそのままNガス雰囲気中で冷却されて炉から取り出されるか、または真空雰囲気中でアニールされた場合でもNガスなどの不活性ガスを流しながら冷却されるのが従来から一般的である。しかし、この方法では、透光性酸化物導電膜のシート抵抗を十分に低減させることができず、発光素子の駆動電圧の上昇、発光層面内の不均一な発光などの問題を生じ得る。
【0016】
上述のような問題に鑑み、本発明の目的は、化合物半導体発光素子に含まれる透光性酸化物導電膜の光透過率の向上、シート抵抗の低減、シート抵抗の面内均一化、およびコンタクト層に対するコンタクト抵抗の低減の少なくともいずれかを可能ならしめる化合物半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者達は、種々の検討の結果、透光性酸化物導電膜として用いられるITOやIZOなどの酸化物膜のアニール後の冷却過程において、酸素を含まない雰囲気中の冷却として同じであっても、窒素雰囲気中冷却よりも真空雰囲気中冷却を行なった場合の方がシート抵抗の面内分布がより均一になることを見出した。
【0018】
本発明の1つの態様による化合物半導体発光素子の製造方法においては、基板上に発光層を含む化合物半導体積層体を堆積し、この化合物半導体積層体上に透光性酸化物導電膜を堆積し、この透光性酸化物導電膜はアニールされてその後に真空雰囲気中で冷却されることを特徴としている。
【0019】
なお、そのアニールは、酸素を含まないガス雰囲気中で行なわれることが好ましく、窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、または窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気中で行なわれ得る。また、そのアニールは、真空雰囲気中で行なわれてもよい。
【0020】
本発明のもう1つの態様による化合物半導体発光素子の製造方法においては、基板上に発光層を含む化合物半導体積層体を堆積し、この化合物半導体積層体上に透光性酸化物導電膜を堆積し、この透光性酸化物導電は、酸素を含む雰囲気中で第1アニールされ、続いて酸素を含まない雰囲気中で第2アニールされ、その後に真空雰囲気中で冷却されることを特徴としている。
【0021】
なお、その第2アニールは、酸素を含まないガス雰囲気中で行なわれることが好ましく、窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、または窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気中で行なわれ得る。また、その第2アニールは、真空雰囲気中で行なわれてもよい。
【0022】
また、本発明のいずれの態様による化合物半導体発光素子の製造方法においても、冷却過程における真空雰囲気中の圧力は10Pa以下であることが好ましい。真空雰囲気中の冷却は、200℃以下の温度まで続けられることが好ましい。透光性酸化物導電膜は、インジウムを含む酸化物で好ましく形成され、ITOまたはIZOで形成され得る。透光性酸化物導電膜は、100nm以上400nm以下の厚さを有することが好ましい。
【0023】
以上のような製造方法によって、種々の性能が改善された化合物半導体発光素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、化合物半導体発光素子に含まれる透光性酸化物導電膜の光透過率の向上、シート抵抗の低減、シート抵抗の面内分布の均一化、およびコンタクト層に対するコンタクト抵抗の低減の少なくともいずれかが可能となり、駆動電圧の低減と均一な発光が可能な化合物半導体発光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の製造方法により製造され得る化合物半導体発光素子の一例を示す模式的斜視図である。
【図2】図1中の線X−Xに沿った模式的断面図である。
【図3】透光性酸化物導電膜のアニール時およびその後の冷却時の温度プロファイルの一例を示す模式的グラフである。
【図4】アニール後にガス中冷却された場合と真空中冷却された場合における透光性酸化物導電膜の平均シート抵抗の比較を示す棒グラフである。
【図5】アニール後にガス中冷却された場合と真空中冷却された場合における透光性酸化物導電膜のシート抵抗の面内均一性を比較する棒グラフである。
【図6】周知のダブルヘテロ接合型青色LEDの一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<化合物半導体発光素子>
図1は本発明の製造方法によって作製され得る化合物半導体発光素子の一例を模式的斜視図で示しており、図2は図1中の線X−Xに沿った模式的断面図である。なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わしてはいない。
【0027】
図1および図2に示された化合物半導体発光素子においては、基板1上に、下部クラッド層2、発光層3、上部クラッド層4、およびコンタクト層5がこの順に堆積されて化合物半導体積層体が形成される。そして、コンタクト層5上には透光性酸化物導電膜8が形成され、この酸化物導電膜8の一部領域上に第1の電極6が設けられる。他方、下部クラッド層2の一部がエッチングによって露出され、その露出領域上に第2の電極7が設けられる。
【0028】
ここで、下部クラッド層2、発光層3、および上部クラッド層4によりダブルヘテロ接合が形成されている。また、発光層3としては、アンドープ、n型、p型、およびn型とp型の両方の不純物を含む化合物半導体が必要に応じて選択される。そして、発光層3を挟んで、下部クラッド層2と上部クラッド層4との間にpn接合が形成される。
【0029】
<下部クラッド層>
ダブルへテロ接合構造の技術的意義に照らせば、クラッド層は発光層に比べて大きなバンドギャップを有し、そのギャップ差に基づく電位障壁によって電子および正孔を発光層内にせき止める機能を有するものである。ただし、図1および図2中の下部クラッド層2は、基板1と発光層3との間の緩衝層や、n側電極7との良好なオーミック接触のためのコンタクト層をも含み得る。このような下部クラッド層2は、例えばn型不純物がドープされた窒化物半導体層だけのみならず、アンドープ窒化物半導体層などをも含む複数層としても形成され得る。すなわち、下部クラッド層2としては、例えば低温バッファ層、AlNバッファ層、アンドープ層、n型ドーピング層、n型コンタクト層などを適宜に含み得る。
【0030】
以上のように、下部クラッド層2は、クラッド層として機能する単層であってもよいし多層であってもよいが、単層の場合にはGaN、AlGaN、InAlGaN、またはInGaNを用いることができ、これにSiを含んでいてもよいしアンドープであってもよい。また、下部クラッド層2が複数層の場合には、それはInGaN/GaN、InGaN/AlGaN、AlGaN/GaN、InGaN/InGaNなどの積層構造であってもよいし、複数の層が繰り返し積層された周期的多層構造であてもよい。さらに、それらの多層構造は、超格子構造を形成していてもよい。
【0031】
<発光層>
発光層3は、GaN障壁層とIn含有窒化物半導体の井戸層とを交互に積層させたものであることが好ましい。井戸層の好ましい厚さは、その発光する光の波長に依存するが、2〜20nmの範囲内であることが好ましい。このような発光層3の構造は、量子井戸構造に限られず、単一井戸構造、多重井戸構造、多重量子井戸構造などのいずれであってもよい。発光層3が複数の井戸層を含む場合、少なくとも1つの井戸層が発光作用を果たせばよい。このような井戸層は、例えばInGa1−pN(0<p<1)からなることが好ましい。
【0032】
<上部クラッド層>
上述したように、ダブルへテロ接合構造の技術的意義に照らせば、クラッド層は発光層に比べて大きなバンドギャップを有し、そのギャップ差に基づく電位障壁によって電子および正孔を発光層内にせき止める機能を有するものである。ただし、図1および図2中の上部クラッド層4は、蒸発防止層、キャリアブロック層、または電流拡散層として働くp型層をも含み得る。すなわち、上部クラッド層4は単層または複数層のいずれであってもよく、単層の場合にはGaN、AlGaN、InAlGaN、またはInGaNにp型不純物をドープしたものまたはアンドープのものを用いることができる。上部クラッド層4が複数層の場合には、それはInGaN/GaN、InGaN/AlGaN、AlGaN/GaN、InGaN/InGaNなどの積層構造であってもよいし、複数の層が繰り返し積層された周期的多層構造を形成していてもよい。さらに、これらの多層構造は、超格子構造を形成していてもよい。
【0033】
このような上部クラッド層4の厚さは、500nm以下であることが好ましい。なぜならば、500nmを超える厚さの上部クラッド層4を気相堆積によって形成する場合に、発光層3が高い温度で長時間にわたって熱に曝されることになり、発光層3の熱劣化によって非発光領域が増大するからである。なお、発光層3中に含まれるInの蒸発を防止するために、発光層に接して蒸発防止層を設けることが好ましく、これは上述のように上部クラッド層4に含まれ得るものである。
【0034】
<コンタクト層>
コンタクト層5は、透光性酸化物導電膜8に対する接触抵抗を低減するために設けられるものである。このようなコンタクト層5は、上部クラッド層4に比べて高濃度にp型不純物をドープした窒化物半導体であることが好ましい。なお、コンタクト層5を設けることなく、上部クラッド層4上に透光性酸化物導電膜8を形成してもよい。この場合、上部クラッド層4の上側表面近傍のp型不純物を高濃度にすることが好ましい。
【0035】
<第1電極および第2電極>
第1電極6および第2電極7は、外部回路と電気的に結線するワイヤーボンドの台座となるものである。第1電極6および第2電極7は、公知の態様で形成することができ、例えばTi、Al、Auなどの材料を用いることができる。また、第1電極6および第2電極7は単層構造に限られず、多層構造で形成とすることもできる。第1電極6および第2電極7が多層構造からなる場合には、その最上層としては厚さ500nm程度のAu層を形成することが好ましい。これにより、化合物半導体発光素子をパッケージに実装するときに、外部回路とのワイヤーボンド安定性を確保することができる。
【0036】
なお、発光層3からの発光の一部は、上部クラッド層4側の方向に発せられる。したがって、第1電極6は、発光層3から上部クラッド層4側への光取り出し方向に配置される電極となる。他方、図1および図2に示された第2電極7は、基板1が絶縁性材料からなる場合の配置を例示している。すなわち、基板1として絶縁性材料を用いる場合には、第2電極7は下部クラッド層2の一部露出領域上に設けられる。しかし、基板1として導電性材料を用いる場合には、第2電極7は基板1の底面上に形成され得る。
【0037】
<透光性酸化物導電膜>
透光性酸化物導電膜8は、発光層3からの光を透過させるとともに、コンタクト層5に対するコンタクトを形成してその表面全体に電流を拡散させることにより、その下方にある発光層3の発光面積を拡大するために設けられる。したがって、透光性酸化物導電膜8としては、コンタクト層5に比べて低抵抗の材料を用いることが好ましい。これにより、第1電極6から注入される電流を酸化物導電膜8の面方向に拡散させることができる。このような酸化物導電膜8を構成する材料としては、例えばITO、IZOなどを好ましく使用することができ、ITOを使用することが特に好ましい。なぜならば、ITOは、透光性およびコンタクト抵抗の観点から特に優れているからである。
【0038】
透光性酸化物導電膜8の厚さは、100nm以上400nm以下の範囲内にあることが好ましい。なぜならば、透光性酸化物導電膜8が100nmより薄ければその高いシート抵抗のために発光素子の駆動電圧の上昇を招き、400nmより厚ければその光透過性が低下して発光素子の光取り出し効率が低下するからである。
【0039】
<化合物半導体発光素子の製造方法>
本発明による化合物半導体発光素子の製造方法の一実施形態においては、基板1上に、III族窒化物半導体のような化合物半導体からなる半導体層2〜5を順次堆積し、コンタクト層5上に透光性酸化物導電膜8を堆積し、この酸化物導電膜8に対して酸素を含む雰囲気中の第1アニールとこれに続いて酸素を含まない雰囲気中の第2アニールを行ない、その後の冷却が真空中で行なわれる。
【0040】
透光性酸化物導電膜として用いられるITOやIZOなどの酸化物は、従来では、大気圧と同圧のN雰囲気中でアニールされ、そのままN雰囲気中で冷却されて炉から取り出される。しかし、この方法では酸化物導電膜のシート抵抗を十分に低減させることができず、発光素子の駆動電圧の上昇および発光層中の不均一な発光の原因となっている。
【0041】
本発明の製造方法はこのような従来の問題を改善し得るものであり、透光性酸化物導電膜8のアニール後の冷却を真空中で行なうことにより、その透光性酸化物導電膜の光透過率の向上、コンタクト層5に対するコンタクト抵抗の低減、およびシート抵抗の面内均一性の改善の少なくともいずれかを図ることができる。本発明による化合物半導体発光素子の製造方法の各ステップが、以下においてより詳細に説明される。
【0042】
<化合物半導体層の堆積>
まず、基板1の温度を例えば1050℃に調整し、窒素と水素とを含むキャリアガスを用いて、III族元素原料ガス、Siを含むドーピングガス、およびアンモニアガスをMOCVD(有機金属気相堆積)装置内に導入することにより、基板1上に下部クラッド層2を結晶成長させる。
【0043】
ここで、下部クラッド層2を形成するためにMOCVD装置内に導入されるIII族元素原料ガスとしては、例えばTMG((CHGa:トリメチルガリウム)、TEG((CGa:トリエチルガリウム)、TMA((CHAl:トリメチルアルミニウム)、TEA((CAl:トリエチルアルミニウム)、TMI((CHIn:トリメチルインジウム)、またはTEI((CIn:トリエチルインジウム)などを利用することができる。また、Siを含むドーピングガスとしては、例えばSiH(シラン)ガスなどを用いることができる。
【0044】
引続いて、下部クラッド層2上にIn含有井戸層と障壁層とを交互に堆積することによって、発光層3が形成される。そして、発光層3上には上部クラッド層4が形成される。この際、基板温度は上部クラッド層4を結晶成長させるのに適した温度に設定され、窒素および水素を含むキャリアガスと、III族元素原料ガスと、Mgを含むドーピングガスと、アンモニアガスとをMOCVD装置内に導入することにより、発光層3上に上部クラッド層4を結晶成長させる。続いて、上部クラッド層4の上には、コンタクト層5が形成される。
【0045】
なお、上部クラッド層4を結晶成長させるに適した基板温度は、上部クラッド層4がGaNまたはAlGaNからなる場合に950℃以上1300℃以下であることが好ましく、1000℃以上1150℃以下であることがより好ましい。このような基板温度で上部クラッド層4を結晶成長させることにより、上部クラッド層4の結晶性を良好にすることができる。
【0046】
Mgを含むドーピングガスとしては、例えばCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)または(EtCp)Mg(ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム)などを利用することができる。なお、(EtCp)Mgは常温常圧の条件下で液体なので、その条件下で固体であるCpMgに比べて、MOCVD装置内への導入量を変化させるときの応答性が良好であって、その蒸気圧を一定に保ちやすい。
【0047】
上部クラッド層4の形成に用いられるIII族元素原料ガスおよびアンモニアガスとしては、下部クラッド層2および発光層3の形成の場合と同様の種類のガスを用いることができる。以上のようにして、下部クラッド層2、発光層3、上部クラッド層4、およびコンタクト層5を含む化合物半導体積層体が形成され得る。
【0048】
<透光性酸化物導電膜の堆積>
コンタクト層5上には、電子線蒸着法またはスパッタ蒸着法を用いることにより、透光性酸化物導電膜8が堆積される。なお、コンタクト層5を省略して、上部クラッド層4上に透光性酸化物導電膜8を直接堆積してもよい。スパッタ蒸着法により透光性酸化物導電膜8を堆積する場合、スパッタリング室内にターゲットおよびスパッタガスを導入してスパッタ電力を印加することにより、透光性酸化物導電膜8が成膜される。
【0049】
<第1アニール>
上述のようにして堆積された透光性酸化物導電膜8に対しては、酸素を含む雰囲気中で第1アニールが行なわれる。このように酸素を含む雰囲気中でアニールを行なうことにより、透光性酸化物導電膜8を構成する材料を結晶化させることができ、その光透過率を向上させるとともに、コンタクト層5に対するコンタクト抵抗を低下させることができる。すなわち、酸素を含む雰囲気中におけるアニールでは、透光性酸化物導電膜8の結晶化度を高めることができ、酸化物導電膜8のシート抵抗を低下させることができる。
【0050】
なお、第1アニールは、450℃以上700℃以下の温度で行なうことが好ましい。これによって、酸化物導電膜8のシート抵抗を低減させる効果を高めることができる。また、第1アニールは、3分以上30分以下の時間で行なうことが好ましく、20分以下の時間で行なうことがより好ましい。
【0051】
<第2アニールおよび冷却>
第1アニール後には、酸素を含まない雰囲気中で透光性酸化物導電膜8の第2アニールが行なわれる。本発明では、この第2アニール後において真空中で冷却が行なわれることを最も重要な特徴としている。
【0052】
酸素を含まない雰囲気中でのアニールによって、透光性酸化物導電膜の透光性を低下させることなく、シート抵抗を低減させることができる。そして、真空中での冷却によって、透光性酸化物導電膜のシート抵抗の面内分布を均一化することができる。
【0053】
第2アニールは、真空雰囲気中、窒素雰囲気中、アルゴン雰囲気中、または窒素とアルゴンとの混合雰囲気中で行なうことが好ましく、真空雰囲気中で行なうことが最も好ましい。冷却時の真空雰囲気は、大気圧に比べて顕著に減圧された雰囲気を意味し、その圧力は10Pa以下であることが好ましい。また、真空冷却は、200℃以下の温度になるまで続けられることが好ましい。
【0054】
図3のグラフは、第2アニール時およびその後の冷却時の温度プロファイルを模式的に例示している。すなわち、このグラフにおいて、縦軸はアニール炉の温度を表し、横軸は時間を表している。そしてグラフ中の実線は炉内が真空状態であることを表し、破線は炉内が大気圧状態であることを表している。
【0055】
真空雰囲気中で第2アニールを行なうことにより、透光性酸化物導電膜の結晶中に酸素欠陥を形成してキャリア密度を上昇させることによって、その酸化物導電膜のシート抵抗を低減させることができる。さらに、アニール時と同圧の真空雰囲気中で冷却することによって、酸化物導電膜中におけるシート抵抗の面内分布の均一性を高めることができる。
【0056】
図4の棒グラフは、第2アニール後にガス中で冷却した場合と真空中で冷却した場合における酸化物導電膜のシート抵抗の平均値を比較して示している。このグラフにおいて、縦軸は相対的なシート抵抗(Ω/□)を表し、左の棒はガス中冷却された場合のシート抵抗を表し、そして右の棒は真空中冷却された場合のシート抵抗を表している。図4の結果から、ガス中冷却と真空中冷却との相違は、酸化物導電膜の平均シート抵抗値に対して顕著が影響を及ぼさないことがわかる。
【0057】
なお、第2アニールは、第1アニールの温度以下の温度で行なわれることが好ましい。また、第2アニールは、1分以上30分以下の時間で行なうことが好ましい。これによって、透光性酸化物導電膜8において、光透過率とコンタクト層5に対するコンタクト抵抗を損なうことなく、10Ω/□以下のシート抵抗を得ることができる。
【0058】
図5の棒グラフは、第2アニール後にガス中冷却した場合と真空中冷却した場合における透光性酸化物導電膜のシート抵抗の面内均一性を比較して示している。図5に示されているように、ガス中冷却された酸化物導電膜の面内におけるシート抵抗のばらつきが約5%であったのに比べて、真空中冷却された酸化物導電膜の面内におけるシート抵抗のばらつきは約半分である約2%であり、良好な面内均一性が得られている。
【0059】
このことについて、以下のような理由が考えられる。アニール後の冷却を開始した直後では、酸化物導電膜は未だ酸素欠陥を発生させるのに十分な高温である。この状態でガス中冷却する場合、冷却ガスにより温度分布が生じ、酸化物導電膜内においてさらなる酸素欠損が発生する部分と発生しないまま冷却される部分とが生じ、結果としてシート抵抗の面内均一性が低下すると考えられる。他方、アニール後に真空中冷却する場合、冷却ガスによる温度分布が生じないので、酸化物導電膜全体が均一に冷却されてシート抵抗の面内分布のばらつきが小さくなると考えられる。
【0060】
なお、図4における平均シート抵抗値は、4端子法によって酸化物導電膜上の73点で測定された値が算術平均されて求められた。また、図5におけるシート抵抗の面内均一性は、それら73点のシート抵抗の最大値と最小値の差を73点の平均シート抵抗値の2倍で割って算出された。
【0061】
<第1電極および第2電極の形成>
上述の第1電極6と第2電極7は、公知のフォトリソグラフィ、電子線蒸着、およびリフトオフ法などを利用して形成され得る。
【0062】
以上において本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に開示された種々の技術的事項を適宜に選択して組み合わせることをも予定している。また、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって限定的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の実施形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法によって、化合物半導体発光素子に含まれる透光性酸化物導電膜における透光性、シート抵抗、シート抵抗の面内分布、およびコンタクト抵抗の少なくともいずれかを改善することができ、そのように改善された化合物半導体発光素子はLED照明、液晶TVのバックライトなどに好ましく利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1、101 基板、2、102 下部クラッド層、3、103 発光層、4、104 上部クラッド層、5、105 コンタクト層、6 第1電極、7 第2電極、8、108 透光性酸化物導電膜、106 p側電極、107 n側電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に発光層を含む化合物半導体積層体を堆積し、
前記化合物半導体積層体上に透光性酸化物導電膜を堆積し、
前記透光性酸化物導電膜はアニールされてその後に真空雰囲気中で冷却されることを特徴とする化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記真空雰囲気中の圧力は10Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記真空雰囲気中の冷却は200℃以下の温度まで続けられることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記透光性酸化物導電膜はインジウムを含む酸化物からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記透光性酸化物導電膜はITOまたはIZOからなることを特徴とする請求項4に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記透光性酸化物導電膜は100nm以上400nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記アニールは酸素を含まないガス雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記アニールは窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、または窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項7に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記アニールは真空雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
基板上に発光層を含む化合物半導体積層体を堆積し、
前記化合物半導体積層体上に透光性酸化物導電膜を堆積し、
前記透光性酸化物導電は、酸素を含む雰囲気中で第1アニールされ、続いて酸素を含まない雰囲気中で第2アニールされ、その後に真空雰囲気中で冷却されることを特徴とする化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記真空雰囲気中の圧力は10Pa以下であることを特徴とする請求項10に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記真空雰囲気中の冷却は200℃以下の温度まで続けられることを特徴とする請求項10または11に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記透光性酸化物導電膜はインジウムを含む酸化物からなることを特徴とする請求項10から12のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記透光性酸化物導電膜はITOまたはIZOからなることを特徴とする請求項13に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記透光性酸化物導電膜は100nm以上400nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項10から14のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記第2アニールは酸素を含まないガス雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記第2アニールは窒素ガス雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、または窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項16に記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記第2アニールは真空雰囲気中で行なわれることを特徴とする請求項10から15のいずれかに記載の化合物半導体発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記請求項1から18のいずれかに記載の製造方法により形成されている化合物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−79747(P2012−79747A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220779(P2010−220779)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】