説明

化学処理用カートリッジおよびその使用方法

【課題】 サンプルを有効に利用できるカートリッジを提供する。
【解決手段】 注射針等を用いることで、ウェル21に注入口41を介して血液サンプルが注入される。ローラ6をカートリッジに押し付けながら右方に回転させると弾性部材2が弾性変形し、ウェル21に収容された血液サンプルと、ウェル22に収容された溶解液とがウェル23に到達し、両者が混合される。溶解液は界面活性剤を含んでおり、ウェル23において血球細胞が破壊される。混合液は流路45を介してウェル26に到達する。またこのとき、ウェル25に収容された磁性粒子と、ウェル24に収容された洗浄液とが、ウェル26において混合液に合流する。磁石7をウェル26からウェル31まで流路46に沿って移動させることで、磁性粒子に捕集されたDNAをウェル31に分離移送する。DNAが除去されたウェル26内の残液は、ローラによってウェル54に移送される。分離された生体高分子をカートリッジ内で解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジ、およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学反応を行わせる化学反応用カートリッジが開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−226068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
臨床用の疾病マーカーとして、DNAやタンパク質が用いられる。このような疾病マーカーは血液サンプル等から抽出することができる。しかし、通常、タンパク質はELISA法(EMA法)等により、1種類ずつ検出している。また、DNAの検出には迅速な操作が必要なため、タンパク質とは別にサンプルを採取している。
【0005】
このため、臨床検査における診断には、1つの診断項目ごとに血液等のサンプルを患者から採取しなければならない。確実な診断のためには複数のマーカーに対する検査が必要となり、サンプル数も増加するため患者の負担も大きくなる。また、バイオプシーによるサンプルは少量しか得られず、多数の検査項目に使用することは困難である。
【0006】
現在、検出時のノイズを避けるため、タンパク質の検出時にはDNAの分画を廃棄し、DNAの検出時にはタンパク質の分画を廃棄している。しかし、本来は同一サンプルから両者を検出した方が、サンプル量に無駄がなく、また、検査に対するサンプルの同一性の点で望ましい。同一サンプルを多項目に利用する方法として、オートアナライザ(全自動検査機)を使用することも考えられるが、オートアナライザは大型で高価であり、開放系での検出を行うためウイルス対策も必要となるため、一般の病院で使うことは困難である。
【0007】
本発明の目的は、上記特開2004−226068号公報に開示された化学反応用カートリッジの技術を活用することで、サンプルを有効に利用できるカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の化学処理用カートリッジは、外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、分離された生体高分子を解析する少なくとも2つの解析手段と、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジによれば、外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離することができるのでサンプルを有効に利用できるとともに、解析対象となるサンプルの同一性を確保できる。本発明の化学処理用カートリッジにおいて、サンプルの種類は限定されない。
【0009】
また、分離された生体高分子を解析する解析手段を備えることにより、分離された生体高分子をカートリッジ内で解析することができる。
【0010】
前記分離手段として、シリカビーズ、スチレンビーズ、ガラスファイバーおよびセルロースのいずれかを用いてもよい。
前記分離手段として、磁性粒子を用いてもよい。
【0011】
前記生体高分子は、DNA、RNA、タンパク質、糖鎖および代謝物のいずれかであってもよい。
【0012】
前記サンプルは体液であってもよい。
【0013】
前記複数の異なる生体高分子種は、それぞれ共通の疾病に対するマーカーであってもよい。
この場合、その疾病について多面的な解析が可能となる。なお、多数種類の疾病に対するマーカーを分離あるいは解析するように構成すれば、種々の疾病についてのスクリーニングに有効である。
【0014】
前記生体高分子は以下に示す各種疾病に係る生体高分子の少なくともいずれか1種であってもよい。
(a)肝癌におけるAFP、PIVKA-II、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、YH-206。
(b)胃癌におけるCA125、NCC-ST-439、STN(シアリルTn抗原)、CEA、CA72-4、CA19-9。
(c)膵癌におけるCA19-9、YH-206、NCC-ST-439、CA19-9、CA50、Span-1、DUPAN-2、CEA、SLX。
(d)食道癌におけるCEA、SCC、CYFRA21-1。
(e)肺癌におけるSCC、CYFRA21-1、SLX、CEA、NSE、Pro-GRP。
(f)腎癌におけるBFP。
(g)乳癌におけるCA15-3(MAM-6)、CEA、NCC-ST-439。
(h)乳癌におけるErbB-2(Her2)およびBRCA1遺伝子。
(i)卵巣癌におけるCA125、CA72-4、STN、GAT。
(j)前立腺癌におけるPSA、γ-Sm(γ-セミノプロテイン)。
(k)糖尿病におけるアディポネクチン、TNF-α、PAI−1、グリコヘモグロビン、A1c(HbA1c)、CPR(インスリン前駆物質)。
(l)心筋梗塞に対してはミオグロビン、H-FABP、CK-MBとトロポニンT。
(m)肝炎におけるHBs抗原、HBe抗原、HCV抗原。
(n)ウイルスあるいは細菌の病原体固有の遺伝子と病原体に対する抗体。
【0015】
また、本発明の化学処理用カートリッジは、外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、を備え、前記分離手段として磁性粒子を用いると共に、外部から磁石を流路に沿って移動させることで、磁石により吸引される磁性粒子を流路に沿って移動させることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジによれば、磁性粒子に捕集された生体高分子を移送することができる。
【0016】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、前記カートリッジに、外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、分離された生体高分子を解析する少なくとも2つの解析手段と、を設け、前記受け入れ手段にサンプルを注入するステップと、特定の疾病についてのマーカーとしての生体高分子を、前記分離手段により分離するステップと、分離された前記マーカーを前記解析手段により解析するステップと、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジの使用方法によれば、特定の疾病についてのマーカーとしての生体高分子を分離手段により分離するので、サンプルを有効に利用できるとともに、解析対象となるサンプルの同一性を確保できる。また、その疾病について多面的な解析が可能となる。
【0017】
前記マーカーの分離後または解析後に前記カートリッジを廃棄するステップを備えてもよい。
この場合、安全性を確保しつつ、後処理や洗浄等の作業が不要となる。
【0018】
また、本発明の化学処理用カートリッジの使用方法において、前記生体高分子は以下に示す各種疾病に係る生体高分子の少なくともいずれか1種であってもよい。
(a)肝癌におけるAFP、PIVKA-II、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、YH-206。
(b)胃癌におけるCA125、NCC-ST-439、STN(シアリルTn抗原)、CEA、CA72-4、CA19-9。
(c)膵癌におけるCA19-9、YH-206、NCC-ST-439、CA19-9、CA50、Span-1、DUPAN-2、CEA、SLX。
(d)食道癌におけるCEA、SCC、CYFRA21-1。
(e)肺癌におけるSCC、CYFRA21-1、SLX、CEA、NSE、Pro-GRP。
(f)腎癌におけるBFP。
(g)乳癌におけるCA15-3(MAM-6)、CEA、NCC-ST-439。
(h)乳癌におけるErbB-2(Her2)およびBRCA1遺伝子。
(i)卵巣癌におけるCA125、CA72-4、STN、GAT。
(j)前立腺癌におけるPSA、γ-Sm(γ-セミノプロテイン)。
(k)糖尿病におけるアディポネクチン、TNF-α、PAI−1、グリコヘモグロビン、A1c(HbA1c)、CPR(インスリン前駆物質)。
(l)心筋梗塞におけるミオグロビン、H-FABP、CK-MBとトロポニンT。
(m)肝炎におけるHBs抗原、HBe抗原、HCV抗原。
(n)ウイルスあるいは細菌の病原体固有の遺伝子と病原体に対する抗体。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化学処理用カートリッジによれば、外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離することができるのでサンプルを有効に利用できるとともに、解析対象となるサンプルの同一性を確保できる。
【0020】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法によれば、特定の疾病についてのマーカーとしての生体高分子を分離手段により分離するので、サンプルを有効に利用できるとともに、解析対象となるサンプルの同一性を確保できる。また、その疾病について多面的な解析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明による化学処理用カートリッジの実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
以下、図1を参照して、実施例1の化学処理用カートリッジについて説明する。本実施例は、単一のサンプルに基づいてDNAおよびタンパク質を同時解析するためのカートリッジである。
【0023】
図1(a)は本実施例のカートリッジの平面図、図1(b)はウェルおよび流路に沿った断面を示すカートリッジの断面図である。
【0024】
図1(b)に示すように、本実施例のカートリッジの容器は、基板1と、基板1に重ね合わされる弾性部材2とを備える。
【0025】
弾性部材2の裏面(図1(b)において下面)には、その表面(図1(b)において上面)側に凹んだ所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、カートリッジ基板1と弾性部材2との間に空間を生み出すことで、図1(a)および図1(b)に示すように、サンプルを受け入れるウェル21と、予め溶解液が収容されたウェル22と、サンプルと溶解液を混合するためのウェル23と、予め洗浄液が収容されたウェル24と、予め磁性粒子が流動液とともに収容されたウェル25と、サンプル、洗浄液および磁性粒子を混合するためのウェル26と、PCR増幅を行うためのウェル31と、ウェル31に接続されたウェル31aと、ウェル21へサンプルを注入するための注入路41と、ウェル21およびウェル23を接続する流路42と、ウェル22およびウェル23を接続する流路43と、ウェル23およびウェル26を接続する流路45と、ウェル26およびウェル31を接続する流路46と、ウェル26に接続された流路47と、ウェル31に接続された流路48と、が形成されている。
【0026】
また、図1(a)および図1(b)に示すように、基板1には、DNA解析のためのDNAチップ51およびタンパク質解析のためのタンパクチップ52が埋め込まれている。また、DNAチップの表面(図1(b)において上面)側には弾性部材2の凹部によるウェル53が、タンパクチップ52の表面(図1(b)において上面)側には弾性部材2の凹部によるウェル54が、それぞれ形成され、流路48はウェル53に、流路47はウェル54に、それぞれ接続されている。さらに、ウェル54には、2次抗体が流動液とともに収容されたウェル55が接続されている。
【0027】
次に、本実施例のカートリッジを用いた解析方法について説明する。
【0028】
最初に、注射針等を用いることで、ウェル21に注入口41を介して血液サンプルが注入される。
【0029】
次に、図1(b)に示すように、ローラ6をカートリッジに押し付けながら右方に回転させると弾性部材2が弾性変形し、ウェル21に収容された血液サンプルと、ウェル22に収容された溶解液とが、それぞれ流路42および流路43を介してウェル23に到達し、両者が混合される。溶解液は界面活性剤を含んでおり、ウェル23において血球細胞が破壊される。
【0030】
さらにローラ6を回転させると、混合液は流路45を介してウェル26に到達する。またこのとき、ウェル25に収容された磁性粒子と、ウェル24に収容された洗浄液とが、ウェル26において混合液に合流する。
【0031】
次に、ローラ6を停止させ、図1(a)および図1(b)に示すように、磁石7をウェル26からウェル31まで流路46に沿って移動させることで、磁性粒子に捕集されたDNAをウェル31に移送する。磁気粒子は、核酸を吸着する能力が有り、核酸が結合した状態で磁気によって集めることが可能な粒子全般の中から適宜選択される。
【0032】
次に、ローラ6の回転を再開し、DNAが除去されたウェル26内の残液を流路47に移送する。またこのとき、ウェル31aに予め収容されている試薬をウェル31に移送する。残液の流路47への移送時は、流路46は封止手段により封止される。この封止手段は、例えば磁石7をカートリッジに押し付けて封止するようにしてもよい。なお、ローラ6の移動経路と封止手段の封止位置は、お互いが接触しないような位置に適切に制御される。或いはウェル26以降の移送は図示しない他のローラを用いてそれぞれの流路ごとに行うようにしても良い。
【0033】
ウェル31a内の試薬には、プライマ、デオキシリボヌクレオチド混合液およびDNA合成酵素が含まれており、ウェル31の温度を制御することで、ウェル31においてDNAのPCR増幅が行われる。ウェル31の温度は、例えばヒータやペルチエ素子を用いた装置により制御される。
【0034】
次に、ローラ6を回転させると、ウェル31において生成されたPCR副産物が、流路48を介しウェル53に移送される。またこのとき、流路47内の残液がウェル54に移送されるとともに、ウェル55内の2次抗体がウェル54において残液に合流する。
【0035】
ウェル53に移送されたPCR副産物内のDNAはDNAチップの特定のプローブに結合するため、蛍光によるDNA解析を行うことができる。
【0036】
また、ウェル54に移送された残液内のタンパク質は、抗原抗体反応によりタンパクチップ52に捉えられ、DNA解析と同様にタンパク質解析を行うことができる。なお、カートリッジの構成部材を介して励起光の照射および蛍光の取り込みを行うことで、DNAチップ51およびタンパクチップ52をカートリッジから取り出すことなく、DNA解析およびタンパク質解析が可能となる。
【0037】
DNA解析およびタンパク質解析に際して、例えば、カートリッジの領域56(図1(a))をカメラで撮像することで、必要な画像を同時に取り込むことができる。
【0038】
上記実施例では、同一サンプルから複数のタンパク質と、DNAについて同時に検査できる。このため、貴重なサンプルの使用量が少量で済み、患者の負担を軽減できる。
【0039】
また、サンプルの同一性が確保されるため、検査の信頼性を向上させることができる。
【0040】
さらに、検査結果が短時間で判明し、解析時間が大幅に短縮される。また、検査の自動化を図ることが容易であり、カートリッジの取り扱いに関し特殊な技能や装置も要求されないため、検査にかかる人的、物的負担を軽減できる。
【0041】
さらにまた、上記実施例ではカートリッジを用いることで、DNA検査を迅速に実施できる。一般に、血液サンプル等からDNAを検査する場合、クエン酸ナトリウム、EDTAまたはヘパリンによって凝固成分を沈殿させたサンプルでは、SNPsに必要なPCR反応が阻害される。このため、DNA検出には新鮮血または迅速に冷凍させた血液を使い、操作に習熟した者がサンプルを取り扱う必要がある。しかし、本発明によるカートリッジによれば、簡単な操作により、迅速に決められた処理が実行されるため、操作の負担がなく、安定したDNA検出が可能となる。
【実施例2】
【0042】
以下、図2を参照して、実施例2の化学処理用カートリッジについて説明する。本実施例は、特定の疾病に関わる遺伝子の変異(SNPs(一塩基多型))と、遺伝子の変異に関連するタンパク質を同時に検出するためのカートリッジを示している。
【0043】
遺伝子解析にはリアルタイムPCR法が用いられる。リアルタイムPCR法は、PCRによるDNAの増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法であり、電気泳動が不要で迅速性と定量性に優れている。この方法は、未知濃度のサンプルに対し一定条件の温度サイクルを与えてPCR増幅し、一定の増幅産物量が得られるまでのサイクル数を求めるものである。予め、段階希釈した既知量のDNAに対し、同一条件で増幅産物量が同量に到達するまでのサイクル数を示す検量線を作成しておけば、検量線に基づいてサンプル中のDNA量を測定することができる。
【0044】
図2(a)は本実施例のカートリッジの平面図、図2(b)はウェルおよび流路に沿った断面を示すカートリッジの断面図である。
【0045】
図2(b)に示すように、本実施例のカートリッジの容器は、基板101と、基板101に重ね合わされる弾性部材102とを備える。
【0046】
弾性部材102の裏面(図2(b)において下面)には、その表面(図2(b)において上面)側に凹んだ所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、カートリッジ基板101と弾性部材102との間に空間を生み出すことで、図2(a)および図2(b)に示すように、サンプルを受け入れるウェル121と、予め溶解液が収容されたウェル122と、サンプルと溶解液を混合するためのウェル123と、予め洗浄液が収容されたウェル124と、予め磁性粒子が流動液とともに収容されたウェル125と、サンプル、洗浄液および磁性粒子を混合するためのウェル126と、PCR増幅を行うためのウェル131およびウェル132と、ウェル131に接続されたウェル131aと、ウェル121へサンプルを注入するための注入路141と、ウェル121およびウェル123を接続する流路142と、ウェル122およびウェル123を接続する流路143と、ウェル123およびウェル126を接続する流路145と、ウェル126およびウェル131を接続する流路146と、ウェル126に接続された流路147と、ウェル131およびウェル132を接続する流路148と、が形成されている。
【0047】
また、図2(a)および図2(b)に示すように、基板101には、タンパク質解析のためのタンパクチップ152が埋め込まれている。また、タンパクチップ152の表面側には弾性部材102の凹部によるウェル154が形成され、流路147はウェル154に接続されている。さらに、ウェル154には、2次抗体が流動液とともに収容されたウェル155が接続されている。
【0048】
次に、本実施例のカートリッジを用いた解析方法について説明する。
【0049】
最初に、注射針等を用いることで、ウェル121に注入口141を介して血液サンプルが注入される。
【0050】
次に、図2(b)に示すように、ローラ6をカートリッジに押し付けながら右方に回転させると弾性部材102が弾性変形し、ウェル121に収容された血液サンプルと、ウェル122に収容された溶解液とが、それぞれ流路142および流路143を介してウェル123に到達し、両者が混合される。溶解液は界面活性剤を含んでおり、ウェル123において血球細胞が破壊される。
【0051】
さらにローラ6を回転させると、混合液は流路145を介してウェル126に到達する。またこのとき、ウェル125に収容された磁性粒子と、ウェル124に収容された洗浄液とが、ウェル126において混合液に合流する。
【0052】
次に、ローラ6を停止させ、図1(a)および図1(b)に示すように、磁石7をウェル126からウェル131まで流路146に沿って移動させることで、磁性粒子に捕集されたDNAをウェル131に移送する。
【0053】
次に、ローラ6の回転を再開し、DNAが除去されたウェル126内の残液を、流路147を介してウェル154に移送するとともに、ウェル55内の2次抗体をウェル154に合流させる。またこのとき、ウェル131aに予め収容されている試薬をウェル131に移送する。残液の流路147への移送時は、流路146は封止手段により封止される。この封止手段は、例えば磁石7をカートリッジに押し付けて封止するようにしてもよい。なお、ローラ6の移動経路と封止手段の封止位置は、お互いが接触しないような位置に適切に制御される。或いはウェル26以降の移送は図示しない他のローラを用いてそれぞれの流路ごとに行うようにしても良い。
【0054】
ウェル154に移送された残液内のタンパク質は、抗原抗体反応によりタンパクチップ152に捉えられ、適時、タンパク質解析が行われる。タンパク質解析に際して、例えば、カートリッジの外部から励起光を照射するとともにタンパクチップ152の領域をカメラで撮像することで、タンパクチップ152をカートリッジから取り出さずに必要な画像を取り込むことができる。
【0055】
一方、ウェル131a内の試薬には、プライマ、デオキシリボヌクレオチド混合液、DNA合成酵素およびリアルタイム検出用プローブが含まれており、ウェル131において特定DNAのPCR増幅が開始される。検出用プローブを付加する方法として、例えば、インターカレータ法が知られている。この方法は、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発するインターカレータ(例えば、SYBR(商標名)Green 1)を検出用プローブとして用いるものである。インターカレータは、PCR反応によって合成された2本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターできる。
【0056】
図2(b)に示すように、ウェル131およびウェル132は、ヒータあるいはペルチエ素子を用いた温度制御装置81および温度制御装置82により、それぞれ一定温度(例えば、60℃と95℃程度)に制御される。
【0057】
本実施例では、ローラ6を駆動することにより、それぞれのPCR副産物を、所定のサイクルに従ってウェル131およびウェル132の間で往復移動させる。
【0058】
ウェル間を往復するPCR副産物の増幅産物量は、励起光を照射しながら流路148をカメラによって撮像することで、蛍光量に基づいてリアルタイムに計測される。図2(a)に示す領域150をカメラで撮影する場合には、単一の画像に基づいてDNAおよびタンパク質の両者を解析できる。
【0059】
上記実施例では、同一サンプルから複数の疾病マーカータンパク質と、その疾病に関係する遺伝子の変異を同時に検査できる。このため、貴重なサンプルの使用量が少量で済み、患者の負担を軽減できる。
【0060】
また、サンプルの同一性が確保されるため、検査の信頼性を向上させることができる。
【0061】
さらに、検査結果が短時間で判明し、解析時間が大幅に短縮される。また、検査の自動化を図ることが容易であり、カートリッジの取り扱いに関し特殊な技能や装置も要求されないため、検査にかかる人的、物的負担を軽減できる。
【0062】
上記実施例では、1種類のDNAについての解析を行っているが、解析対象数は任意に選択できる。
【0063】
本発明によるカートリッジは、特定の疾病についての検査に用いることができる。例えば、血液から乳癌の可能性を検査する場合には、4種類の腫瘍マーカータンパク質と、ERRB遺伝子変異を検出し、多角的な検査を行うことができる。
【0064】
図3に、疾病検査のターゲットとなるタンパク質、糖鎖およびDNAを例示している。本発明のカートリッジは各臓器における癌を始めとする生活習慣病等の疾病検査に広範に応用される。検査項目はSNPs(一塩基多型)とタンパク質の組み合わせに限らず、遺伝子上での複数SNPs検出、血中の癌マーカー遺伝子の増加検出も行うことができる。
【0065】
カートリッジの構成は、検査内容に応じて適宜選択できる。上記実施形態では、DNAチップあるいはタンパクチップをカートリッジに内蔵することで、DNAやタンパク質を検出しているが、抗原抗体反応までの処理をカートリッジ内で行い、キャピラリー電気泳動においてタンパク質の検出を行ってもよい。この場合、キャピラリー電気泳動による検出装置にサンプルを移動させるための排出路をカートリッジに設けることができる。また、この場合、例えば、タンパク質の検出に関しては、抗原抗体反応させるウェルの数を適宜設けることで、ウェル数に応じ、例えば、10種類程度までのタンパク質検出な可能なカートリッジを構成できる。
【0066】
また、抗体と結合した状態のタンパク質の移動度をあらかじめ調べ、キャピラリー電気泳動で検出されるピークが重複しないように各ウェルにタンパク質の種類を振り分けてもよい。この場合、各ウェルで反応させる抗体数を2−3種にすることも可能であり、1回のアッセイで検出可能なマーカータンパク質の数を、ウェルの数より大きくすることができる。
【0067】
タンパク質とDNAの分離方法は適宜選択可能である。例えば、磁性粒子に代えて、シリカビーズ、スチレンビーズ、ガラスファイバー、セルロース等を用いるなど、電荷を帯びる性質を利用してもよい。
【0068】
上記実施例では、DNAとタンパク質を分離する例を示したが、ポリアニリン鎖を付加したビーズによって、DNAとmRNAをカートリッジ内で分離することもできる。
【0069】
上記実施例では、タンパク質の解析を例示したが、糖鎖や代謝物に対する吸着体を用いることで、カートリッジ内において糖鎖や代謝物の分離、あるいは同時解析を行ってもよい。例えば、糖鎖に結合するタンパク質をその糖鎖に対する吸着体として利用できる。
【0070】
図3にも示したように、ウイルスや細菌等の病原体が疾病の原因となる場合、病原体そのもののDNA、RNA、あるいはタンパク質や、その病原体に対抗して生じた免疫系の抗体などを、その疾病のマーカーとして分離、あるいは検出してもよい。例えば、病原体のDNAと、病原体に対抗する免疫系の抗体とをセットとして検出するようなカートリッジを構成することもできる。
【0071】
具体的には、疾病に対する検査として、
・腫瘍(癌)検査としては、免疫化学的手法による肝癌におけるAFP、PIVKA-II、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、YH-206の検査または、胃癌におけるCA125、NCC-ST-439、STN(シアリルTn抗原)、CEA、CA72-4、CA19-9の検査または、膵癌におけるCA19-9、YH-206、NCC-ST-439、CA19-9、CA50、Span-1、DUPAN-2、CEA、SLXの検査または、食道癌におけるCEA、SCC、CYFRA21-1の検査または、肺癌におけるSCC、CYFRA21-1、SLX、CEA、NSE、Pro-GRPの検査または、腎癌におけるBFPの検査または、乳癌におけるCA15-3(MAM-6)、CEA、NCC-ST-439の検査または、乳癌におけるErbB-2(Her2)およびBRCA1遺伝子の検査または、卵巣癌におけるCA125、CA72-4、STN、GATの検査または、前立腺癌におけるPSA、γ-Sm(γ-セミノプロテイン)の検査、
・生活習慣病に関わる検査として糖尿病に対するアディポネクチン、TNF-α、PAI−1、グリコヘモグロビン、A1c(HbA1c)、CPR(インスリン前駆物質)の検査、
・心筋梗塞に対してはミオグロビン、H-FABP、CK-MBとトロポニンTの検査、
・感染症としては、肝炎におけるHBs抗原、HBe抗原、HCV抗原の検査、またはウイルスあるいは細菌の病原体固有の遺伝子と病原体に対する抗体の同時測定検査、
であり、上記各種疾病の遺伝子またはマーカーの発現レベルまたは(および)各遺伝子多型の検査を行う。
【0072】
本発明のカートリッジにおいて分離対象、あるいは解析対象となる生体高分子として、DNA、RNA、タンパク質、糖鎖、代謝物等を挙げることができる。
【0073】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジ、およびそのようなカートリッジを使用する場合、に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例1のカートリッジの構成を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はウェルおよび流路に沿った断面を示すカートリッジの断面図。
【図2】実施例2のカートリッジの構成を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はウェルおよび流路に沿った断面を示すカートリッジの断面図。
【図3】疾病検査のターゲットとなるタンパク質、糖鎖およびDNAを例示する図。
【符号の説明】
【0075】
21、121 ウェル(受け入れ手段)
25、125 ウェル(分離手段)
51 DNAチップ(解析手段)
52 タンパクチップ(解析手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、
外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、
外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、
分離された生体高分子を解析する少なくとも2つの解析手段と、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジ。
【請求項2】
前記分離手段として、磁性粒子を用いることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項3】
前記分離手段として、シリカビーズ、スチレンビーズ、ガラスファイバーおよびセルロースのいずれかを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項4】
前記生体高分子は、DNA、RNA、タンパク質、糖鎖および代謝物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項5】
前記サンプルは体液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項6】
前記複数の異なる生体高分子種は、それぞれ共通の疾病に対するマーカーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項7】
前記生体高分子は以下に示す各種疾病に係る生体高分子の少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
(a)肝癌におけるAFP、PIVKA-II、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、YH-206。
(b)胃癌におけるCA125、NCC-ST-439、STN(シアリルTn抗原)、CEA、CA72-4、CA19-9。
(c)膵癌におけるCA19-9、YH-206、NCC-ST-439、CA19-9、CA50、Span-1、DUPAN-2、CEA、SLX。
(d)食道癌におけるCEA、SCC、CYFRA21-1。
(e)肺癌におけるSCC、CYFRA21-1、SLX、CEA、NSE、Pro-GRP。
(f)腎癌におけるBFP。
(g)乳癌におけるCA15-3(MAM-6)、CEA、NCC-ST-439。
(h)乳癌におけるErbB-2(Her2)およびBRCA1遺伝子。
(i)卵巣癌におけるCA125、CA72-4、STN、GAT。
(j)前立腺癌におけるPSA、 γ-Sm(γ-セミノプロテイン)。
(k)糖尿病におけるアディポネクチン、TNF-α、PAI−1、グリコヘモグロビン、A1c(HbA1c)、CPR(インスリン前駆物質)。
(l)心筋梗塞におけるミオグロビン、H-FABP、CK-MBとトロポニンT。
(m)肝炎におけるHBs抗原、HBe抗原、HCV抗原。
(n)ウイルスあるいは細菌の病原体固有の遺伝子と病原体に対する抗体。
【請求項8】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、
外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、
外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、
を備え、
前記分離手段として磁性粒子を用いると共に、外部から磁石を流路に沿って移動させることで、磁石により吸引される磁性粒子を流路に沿って移動させることを特徴とする化学処理用カートリッジ。
【請求項9】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送または封止することで化学的処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、
前記カートリッジに、
外部からサンプルを受け入れる受け入れ手段と、
外部から受け入れたサンプルに含まれる複数の異なる生体高分子種を分離する分離手段と、
分離された生体高分子を解析する少なくとも2つの解析手段と、
を設け、
前記受け入れ手段にサンプルを注入するステップと、
特定の疾病についてのマーカーとしての生体高分子を、前記分離手段により分離するステップと、
分離された前記マーカーを前記解析手段により解析するステップと、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項10】
前記マーカーの分離後または解析後に前記カートリッジを廃棄するステップを備えることを特徴とする請求項9に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項11】
前記生体高分子は以下に示す各種疾病に係る生体高分子の少なくともいずれか1種であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。
(a)肝癌におけるAFP、PIVKA-II、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、YH-206。
(b)胃癌におけるCA125、NCC-ST-439、STN(シアリルTn抗原)、CEA、CA72-4、CA19-9。
(c)膵癌におけるCA19-9、YH-206、NCC-ST-439、CA19-9、CA50、Span-1、DUPAN-2、CEA、SLX。
(d)食道癌におけるCEA、SCC、CYFRA21-1。
(e)肺癌におけるSCC、CYFRA21-1、SLX、CEA、NSE、Pro-GRP。
(f)腎癌におけるBFP。
(g)乳癌におけるCA15-3(MAM-6)、CEA、NCC-ST-439。
(h)乳癌におけるErbB-2(Her2)およびBRCA1遺伝子。
(i)卵巣癌におけるCA125、CA72-4、STN、GAT。
(j)前立腺癌におけるPSA、γ-Sm(γ-セミノプロテイン)。
(k)糖尿病におけるアディポネクチン、TNF-α、PAI−1、グリコヘモグロビン、A1c(HbA1c)、CPR(インスリン前駆物質)。
(l)心筋梗塞におけるミオグロビン、H-FABP、CK-MBとトロポニンT。
(m)肝炎におけるHBs抗原、HBe抗原、HCV抗原。
(n)ウイルスあるいは細菌の病原体固有の遺伝子と病原体に対する抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101428(P2007−101428A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293155(P2005−293155)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】