説明

医療用器具の製造方法及び医療用器具

【課題】医療用器具の先端部の鋏を、対象物を切断し易いように高精度に組み立てる。
【解決手段】鋏機構1300をユニットとして組み立てる。鋏機構1300は、重ねた一対のエンドエフェクタ部材1308を基端の軸部で所定の擦り合わせ状態でボルト体1217ト及びナット1219により開閉可能に締結する。ボルト体1217は軸線方向に貫通形成された中心孔1217dを有する。連結シャフト18先端に連結されるカバー1160の筒内に鋏機構1300を挿入すると共に、受動板1158に対してリンク1220a、1220bによりエンドエフェクタ部材1308を接続する。鋏機構1300とカバー1160の内面との間に形成される隙間にスペーサ1340を配置する。カバー1160の孔1307とボルト体1217の中心孔1217dとに対し、カバー1160の外面側からピン1196を嵌挿する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの先端に生体の一部や糸等を切断する鋏が設けられた医療用器具の製造方法及び該医療用器具自体に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下手術においては、患者の腹部等に小さな孔をいくつかあけて内視鏡、マニピュレータ(又は鉗子)等を挿入し、術者が内視鏡の映像をモニタで見ながら手術を行っている。このような腹腔鏡下手術は、開腹を必要としないため患者への負担が少なく、術後の回復や退院までの日数が大幅に低減されることから、適用分野の拡大が期待されている。
【0003】
一方、腹腔鏡下手術で用いるマニピュレータには、患部の位置及び大きさに応じて迅速且つ適切な手技が可能であることが望まれており、しかも患部切除、縫合及び結紮等の様々な手技が行われる。このため、本出願人は、操作の自由度が高くしかも簡便に操作することのできるマニピュレータの提案をしている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0004】
腹腔鏡下手術では、患部切除や、縫合糸の切断などの切断作業が行われることがあり、先端に鋏が設けられたマニピュレータの開発がなされている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−102248号公報
【特許文献2】特開2008−104854号公報
【特許文献3】特開2008−253463号公報
【特許文献4】特開平10−314178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公知のように、鋏は対向する一対の刃が切断対象物に対してせん断力を与えることによって切断を行う。切断対象物にせん断力を与えるためには一対の刃同士に隙間がないように十分に摺り合わせ調整がなされていることが望ましい。
【0007】
ところが、医療用マニピュレータの先端動作部は大変小さく、その先端部に鋏機構を設ける場合に、一対の刃を隙間なく高精度に組み立てることは困難であり、熟練が必要である。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、切断対象物を切断し易いように高精度に組み立てられた鋏み機構を有する医療用器具の製造方法及び該医療用器具自体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る医療用器具の製造方法は、一対の開閉部材を重ね、両開閉部材の基端側に形成された孔部に対し、軸線方向に貫通した軸孔を有したボルトの軸部を挿通させる第1工程と、前記ボルトの前記軸部に、さらに、ナットを挿通させる第2工程と、前記ボルトの頭部と前記ナットとの間で、前記重ねた一対の開閉部材を挟持すると共に、所定の擦り合わせ調整を行いながら、前記ボルトと前記ナットとを固定して、所定の擦り合わせ状態で前記一対の開閉部材を軸支した構造体を得る第3工程と、操作部から延びたシャフト先端に連結される接続筒体の筒内に前記構造体を挿入すると共に、前記操作部からの入力操作を前記開閉部材に伝達する伝達部材に対して前記開閉部材を接続する第4工程と、前記接続筒体に直径方向に貫通形成された孔部と前記ボルトの前記軸孔とに対し、前記接続筒体の外面側からピンを嵌挿して固定することで、前記一対の開閉部材を、前記ボルトの軸部を開閉軸として互いに開閉可能に軸支する第5工程とを有することを特徴とする。
【0010】
第1工程〜第3工程は狭所で行う必要がなく、しかも連動部材がないことから、構造体を高精度に組み立てることができる。第4工程及び第5工程においてボルトの軸孔にピンを嵌挿して構造体を接続筒体に組み付けることにより、簡便な組立ができるとともに、構造体における開閉部材の高精度の擦り合わせ状態が維持される。
【0011】
また、前記第4工程の後、前記第5工程の前に、さらに、前記構造体と前記接続筒体の内面との間に形成される隙間にスペーサを配置するスペーサ工程を有してもよい。スペーサを挟むことにより、開閉部材を固定した構造体の接続筒体内での位置を調整及び固定が可能となる。
【0012】
さらに、本発明に係る医療用器具は、重ねた一対の開閉部材を所定の擦り合わせ状態でボルト及びナットにより締結し、前記ボルトの軸部で互いに開閉可能に軸支した構造体と、前記構造体を収納すると共に、操作部から延びたシャフト先端に連結された接続筒体と、前記接続筒体の筒内に収納した前記構造体に対し、前記ボルトの軸線方向に貫通形成された軸孔に嵌挿され、前記一対の開閉部材を回動可能に軸支するピンと、前記操作部からの入力操作を前記開閉部材に伝達する伝達部材とを備えることを特徴とする。
【0013】
これにより、開閉部材が所定の擦り合わせ状態で軸支されるとともに、ボルトの軸線方向に貫通形成された軸孔を用いて構造体の組み付けが容易となる。
【0014】
前記接続筒体内には、前記構造体と該接続筒体の内面側との間の隙間に配置されると共に、前記ピンが嵌挿されたスペーサが設けられていてもよい。スペーサを挟むことにより、開閉部材を固定した構造体の接続筒体内でのずれが防止される。
【0015】
前記開閉部材は、互いに摺接して対象物を切断する鋏部材であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る医療用器具の製造方法及び医療用器具では、第1工程〜第3工程は狭所で行う必要がなく、しかも連動部材がないことから、構造体を高精度に組み立てることができる。第4工程及び第5工程においてボルトの軸孔にピンを嵌挿して構造体を接続筒体に組み付けることにより、簡便な組立ができるとともに、構造体における開閉部材の高精度の擦り合わせ状態が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マニピュレータの側面図である。
【図2】マニピュレータの平面図である。
【図3】トリガレバーを十分に引いたときの、先端動作部の模式側面図である。
【図4】トリガレバーを押し出したときの、先端動作部の模式側面図である。
【図5】先端動作部の模式構造図である。
【図6】先端動作部の断面側面図である。
【図7】先端動作部の断面平面図である。
【図8】先端動作部で、グリッパを閉じた状態の断面側面図である。
【図9】先端動作部の分解斜視図である。
【図10】エンドエフェクタ駆動機構の一部を示す模式構造図である。
【図11】トリガレバーを操作しないときの、エンドエフェクタ駆動機構の模式側面図である。
【図12】トリガレバーを押し出したときの、第2エンドエフェクタ駆動機構の一部断面平面図である。
【図13】トリガレバーを十分に引いたとき、第2エンドエフェクタ駆動機構の一部断面平面図である。
【図14】トリガレバーを押し出したときの、第2エンドエフェクタ駆動機構の一部断面側面図である。
【図15】鋏機構の斜視図である。
【図16】鋏機構の分解斜視図である。
【図17】先端動作部を組み立てる第1段階の模式図である。
【図18】先端動作部を組み立てる第2段階の模式図である。
【図19】先端動作部を組み立てる第3段階の模式図である。
【図20】先端動作部を組み立てる第4段階の模式図である。
【図21】先端動作部を組み立てる第5段階の模式図である。
【図22】先端動作部を組み立てる第6段階の模式図である。
【図23】第1変形例に係る先端動作部を組み立てる第1段階の模式図である。
【図24】第1変形例に係る先端動作部を組み立てる第2段階の模式図である。
【図25】第1変形例に係る先端動作部を組み立てる第3段階の模式図である。
【図26】第2変形例に係る先端動作部の模式構造図である。
【図27】作業部をロボットアームの先端に接続した手術用ロボットシステムの概略斜視図である。
【図28】鉗子の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るマニピュレータについて実施の形態を挙げ、添付の図1〜図28を参照しながら説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係るマニピュレータ10は、コントローラ11に接続されている。マニピュレータ10は、基本的には医療用である。
【0020】
コントローラ11は、マニピュレータ10の電気的な制御をする部分であり、グリップハンドル26の下端部から延在するケーブルに対してコネクタを介して接続されている。コントローラ11は、マニピュレータ10を独立的に複数台同時に制御することができる。もちろん、1台のマニピュレータ10を制御するコントローラを用いてもよい。
【0021】
マニピュレータ10は、先端動作部12に生体の一部や糸を切断する鋏機構(構造体)1300を有する。
【0022】
図1、図2に示すように、マニピュレータ10は、人手によって把持及び操作される操作部14と、該操作部14に固定された作業部16とを有する。作業部16は、作業を行う先端動作部12と、該先端動作部12と操作部14とを連接する長尺で中空の連結シャフト18とを有する。先端動作部12及び連結シャフト18は細径に構成されており、患者の腹部等に設けられた円筒形状のトラカール20から体腔22内に挿入可能であり、複合入力部24の操作により体腔22内において患部切除、糸切断等の手技を行うことができる。操作部14と作業部16とは一体構成であるが、条件に応じて分離可能な構成にしてもよい。
【0023】
以下の説明では、図1及び図2における幅方向をX方向、高さ方向をY方向及び、連結シャフト18の延在方向をZ方向と規定する。また、先端側から見て右方をX1方向、左方をX2方向、上方向をY1方向、下方向をY2方向、前方をZ1方向、後方をZ2方向と規定する。さらに、特に断りのない限り、これらの方向の記載はマニピュレータ10が中立姿勢である場合を基準として表すものとする。これらの方向は説明の便宜上のものであり、マニピュレータ10は任意の向きで(例えば、上下を反転させて)使用可能であることはもちろんである。
【0024】
操作部14は、人手によって把持されるグリップハンドル26と、該グリップハンドル26の上部から延在するブリッジ28と、該ブリッジ28の先端に接続されたアクチュエータブロック30とを有する。グリップハンドル26は、人手によって把持されるのに適した長さであり、上部の傾斜面に複合入力部24を有する。グリップハンドル26は、ブリッジ28の端部から略Y2方向に向かって延在している。このような角度にすることにより、マニピュレータ10の全体を動かす際の操作性が高まるとともに、複合入力部24の操作性が高まることが確かめられている。
【0025】
作業部16は、アクチュエータブロック30に接続されているプーリボックス32と、プーリボックス32からZ1方向に延在している連結シャフト18と、該連結シャフト18の先端に設けられた先端動作部12と、プーリボックス32からZ2方向に延在する支持部34と、該支持部34の基端側に軸支されたトリガレバー36とを有する。
【0026】
先端動作部12は、複合入力部24及びトリガレバー36の操作に基づいて3軸の動作が可能である。すなわち、基端側から順に、Y軸を基準に傾動するヨー軸動作、先端を指向する軸(中立姿勢時にはZ軸)を基準に回転するロール軸、及び開閉可能な鋏軸である。ヨー軸及びロール軸は、ヨー軸入力部56及びロール軸入力部54の左右方向の操作に基づいて、対応する所定のスイッチがオンになることによって電気的に駆動される。このとき、モータ60及び62は動作に応じて協働し、ロール軸アクチュエータ及び(又は)ヨー軸アクチュエータとして作用する。鋏軸(鋏機構1300)はトリガレバー36の操作に基づいて機械的に駆動される。
【0027】
複合入力部24は、ベースブロック50と、ベースブロック50の上に設けられたハウジング52と、ロール軸入力部54と、ヨー軸入力部56と、3つのスイッチ操作子58a、58b及び58cとを有する。トリガレバー36を引き寄せる操作をするとロッド192aも一体的に引き寄せられる。トリガレバー36については、押し引き操作によってロッド192a及び192bを操作することができ、特に初期姿勢は設定されていないが、例えば、所定の弾性体によって設定される非操作時の初期姿勢から、グリップハンドル26の方向へ接近して閉じられるようにしてもよい。
【0028】
図1及び図2に示すように、アクチュエータブロック30は、2つのモータ60及び62と、該モータ60及び62を支持するアクチュエータブラケット90と、モータ60及び62の回転方向を変換して作業部16に伝達するギア機構部92とを有する。アクチュエータブロック30は、ブリッジ28の先端に接続されている。
【0029】
モータ60及び62は、円柱形状であり、アクチュエータブラケット90によってZ方向に延在する向きでX方向に並列している。Z1方向には出力軸60a、62aが設けられている。
【0030】
ギア機構部92は、アクチュエータブラケット90におけるZ1方向側の3つのプレートで囲まれた空間でX方向に対称構成として設けられている。
【0031】
ギア機構部92は、2本の駆動シャフト116a、116bと、2つの駆動傘歯車118a、118bと、2つの従動傘歯車120a、120bとを有する。
【0032】
駆動シャフト116aは、上端及び中央部がベアリングに軸支され、下端は軸孔を貫通して所定量突出して、Y方向に延在している。駆動シャフト116a及び116bには、ワイヤ1052、1054(図5参照)が巻き掛けられており、後述するワイヤガイド部160a、160bを経由して連結シャフト18の中空部分を通って先端動作部12まで延在している。ワイヤ1052、ワイヤ1054はそれぞれ同種、同径のものを用いることができる。
【0033】
トリガレバー36の人手による操作は機械的に伝達されて鋏機構1300の開閉が行われる。トリガレバー36と鋏機構1300との間で、人手による操作を機械的に伝達する手段である荷重リミッタ210a、トリガワイヤ210b、ロッド192a及び後述するエンドエフェクタ駆動機構1320a、1320b(図5参照)等は操作伝達部を形成している。
【0034】
駆動傘歯車118aと従動傘歯車120aは互いに噛合し、出力軸60aの回転を90°変換して駆動シャフト116aに伝達している。
【0035】
プーリボックス32は、第1の機能として、操作部14のギア機構部92に接続されて、駆動シャフト116a及び116bの回転を連結シャフト18に中継する機能を有し、第2の機能として、支持部34に接続されて、トリガレバー36の操作を連結シャフト18に中継する機能を有し、第3の機能として、連結シャフト18内の気密状態を維持する機能を有する。
【0036】
プーリボックス32は、その内部の空洞部にワイヤガイド部160a、160bを有する。
【0037】
ワイヤガイド部160a、160bには円筒アイドラが設けられており、駆動シャフト116a、116bによって駆動されるワイヤ1052及び1054を連結シャフト18の内部へ案内している。
【0038】
次に、支持部34とトリガレバー36の構成について説明する。
【0039】
図1に示すように、トリガレバー36は、ブリッジ28のトリガ軸28bに回動自在に軸支されており、該トリガ軸28bに軸支されるアーム部200と、該アーム部200のY2側に設けられた指輪部202と、さらにY2側に設けられた指掛け突起204と、Z2方向側に突出したラチェット爪206とを有する。指輪部202は、主に人差し指が挿入され、指掛け突起204は、主に中指及び薬指を掛けるのに適している。
【0040】
支持部34は、プーリボックス32とトリガレバー36との間に設けられた支持体210とを有する。
【0041】
該支持体210内には荷重リミッタ210a及びトリガワイヤ210bが設けられており、ロッド192a及び192bをアーム部200に中継している。荷重リミッタは、ロッド192aとアーム部200におけるトリガ軸28bよりも下の部分とを中継し、トリガワイヤはロッド192bとアーム部200におけるトリガ軸28bよりも上の部分とを中継している。
【0042】
次に、先端動作部12の構成について説明する。
【0043】
図3に示すように、先端動作部12には、ロッド192a、受動ワイヤ1252a、アイドルプーリ1140a、ガイドプーリ1142a、受動プーリ1156aを含む第1エンドエフェクタ駆動機構1320aと、これに対応した第2エンドエフェクタ駆動機構1320bが設けられている。第1エンドエフェクタ駆動機構1320a及び第2エンドエフェクタ駆動機構1320bは、鋏機構1300を開閉させる基本的な構成である。
【0044】
第1エンドエフェクタ駆動機構1320aにおける構成要素には符号にaを付し、第2エンドエフェクタ駆動機構1320bにおける構成要素には符号にbを付して区別する。第1エンドエフェクタ駆動機構1320aにおける構成要素と第2エンドエフェクタ駆動機構1320bにおける構成要素で同じ機能のものについては、煩雑とならないよう、代表的に第1エンドエフェクタ駆動機構1320aについてのみ説明する場合がある。
【0045】
図3、図4においては、理解が容易となるように、第1エンドエフェクタ駆動機構1320aと第2エンドエフェクタ駆動機構1320bを紙面上で並列して示すが、実際のマニピュレータ10に適用する場合には、図5に示すように、各プーリの軸方向(つまりY方向)に並列させ、アイドルプーリ(伝達部材)1140a及び1140bと、ガイドプーリ(伝達部材)1142aと1142bの回転軸は、それぞれ同軸上に配置するとよい。つまり、アイドルプーリ1140a及び1140bは軸1110(図5参照)に共通的に軸支することができ、ガイドプーリ1142aと1142bは軸1112に共通的に軸支することができる。ガイドプーリ1142aとガイドプーリ1142bを同軸構成とすることにより、ヨー軸動作機構が簡便になる。
【0046】
図6、図7、図8、図9に示すように、先端動作部12は、ワイヤ受動部1100と、複合機構部1102と、ユニット形式の鋏機構1300とを有し、Y方向の第1回転軸Oyを中心にして、それよりも先の部分がヨー方向に回動する第1自由度と、第2回転軸Orを中心にしてロール方向に回動する第2自由度と、第3回転軸Ogを中心として先端の鋏機構1300を開閉させる第3自由度とを有する合計3自由度の機構となっている。
【0047】
第1自由度の機構である第1回転軸Oyは、連結シャフト18の基端側から先端側に延在する軸線Cと非平行に回動可能に設定するとよい。第2自由度の機構である第2回転軸Orは先端動作部12における先端部(つまり鋏機構1300)の延在方向の軸線を中心として回動可能な機構とし、先端部をロール回転可能に設定するとよい。
【0048】
第1自由度の機構(つまりヨー方向)は、例えば±90°又はそれ以上の稼動範囲を有する傾動機構(又は屈曲機構)である。第2自由度の機構(つまりロール方向)は、例えば±180°又はそれ以上の稼動範囲を有する回動機構である。第3自由度の機構(つまり鋏機構1300)は、例えば40°又はそれ以上開くことのできる開閉機構である。
【0049】
鋏機構1300は、手術において実際の切断作業を行う部分であり、第1回転軸Oy及び第2回転軸Orは、作業を行い易いように鋏機構1300の姿勢を変えるための姿勢変更機構を構成する姿勢軸である。一般に、鋏機構1300を開閉させる第3自由度に係る機構部はグリッパ軸とも呼ばれ、ヨー方向に回動する第1自由度に係る機構部はヨー軸とも呼ばれ、ロール方向に回動する第2自由度に係る機構部はロール軸とも呼ばれる。
【0050】
ワイヤ受動部1100は、一対の舌片部1058の間に設けられており、ワイヤ1052、ワイヤ1054のそれぞれの往復動作を回転動作に変換して複合機構部1102に伝達する部分である。ワイヤ受動部1100は、軸孔1060a、1060aに挿入される軸1110と、軸孔1060b、1060bに挿入される軸1112とを有する。軸1110及び1112は、軸孔1060a、1060bに対して、例えば圧入若しくは溶接により固定される。軸1112は第1回転軸Oyの軸上に配置される。
【0051】
軸1112のY方向両端には、Y方向に対称形状の歯車体1126及び歯車体1130が設けられている。歯車体1126は、筒体1132と、該筒体1132の上部に同心状に設けられた歯車1134とを有する。歯車体1130は、歯車体1126と略同形状であって、該歯車体1126に対してY方向に配置されている。歯車体1130は、筒体1136と、該筒体1136の下部に同心状に設けられた歯車1138とを有する。歯車1134及び歯車1138は、後述するギア体1146のフェイスギア1165の上端部及び下端部に噛合する。
【0052】
筒体1136は筒体1132と略同径、同形状である。筒体1132及び筒体1136には、ワイヤ1052及び1054が所定の固定手段によって一部が固定されて巻き掛けられている。ワイヤ1052及び1054の巻き掛けられる角度は、例えば1.5回転(540°)である。
【0053】
ワイヤ1052及び1054(図5参照)を回転動作させることにより、歯車体1126及び歯車体1130を軸1112に対して回転させることができる。歯車体1126と歯車体1130を同方向に同速度で回転させると、ギア体1146は軸1112を基準として揺動し、ヨー方向動作が行われる。歯車体1126と歯車体1130を逆方向に同速度で回転させると、ギア体1146は第2回転軸Orを基準として回転し、ロール回転動作が行われる。歯車体1126と歯車体1130を異なる速度で回転させると、ギア体1146は、ヨー方向動作とロール回転動作の複合動作が行われる。つまり、歯車体1126、歯車体1130及びギア体1146は差動機構(例えば、特許文献3における図23に示される構成に相当する。)を構成している。
【0054】
先端動作部12の機構は差動機構に限らず、例えば、ワイヤ1052が歯車1134を介してフェイスギア1165を駆動するのに対してワイヤ1054は主軸部材1144を直接的に回転駆動する形式(例えば、特許文献3における図7に示される構成に相当する。)としてもよい。
【0055】
軸1110の略中央部にはアイドルプーリ1140aが回転自在に軸支されており、軸1112の略中央部にはガイドプーリ1142aが回転自在に軸支されている。アイドルプーリ1140aは、ガイドプーリ1142aに巻きかける受動ワイヤ1252aの巻き掛け角度を常に一定(両側あわせて約180°)に保つためにある。アイドルプーリ1140aの代わりに、ガイドプーリ1142aに受動ワイヤ1252aを1巻き以上してもよい。アイドルプーリ1140a及びガイドプーリ1142aは、受動ワイヤ1252a(図11参照)又は軸1110、1112に対するすべり、及び摩擦による摩耗を低減するために、表面を滑らかにし、又は摩擦の少ない材質を用いるとよい。ガイドプーリ1142aは、姿勢変更機構におけるヨー軸Oyに設けられている。
【0056】
軸1112における、歯車体1126とガイドプーリ1142aとの間、及びガイドプーリ1142aと歯車体1130との間には主軸部材1144が回転自在に軸支されている。主軸部材1144は、複合機構部1102に向けて突出する筒部を有する。主軸部材1144の軸心部には方形の孔1144aが設けられている。主軸部材1144のZ2方向端部には、ガイドプーリ1142aのY方向両面を保持するとともに軸1112が挿通する孔を有する2枚の補助板1144bが設けられている。補助板1144bはZ1方向に向かって幅広となる山形であって、糸等の異物の侵入を防止する。
【0057】
複合機構部1102は、鋏機構1300の開閉動作機構と、該鋏機構1300の姿勢を変化させる姿勢変更機構とを含む複合的な機構部である。
【0058】
複合機構部1102は、主軸部材1144の筒部周面に対して回転自在に嵌挿されたギア体1146と主軸部材1144の先端に設けられたナット体1148と、Z2方向端部が孔1144aに挿入される断面四角の伝達部材1152と、該伝達部材1152のZ2方向端部に対してピン1154により回転自在に軸支される受動プーリ(伝達部材)1156aと、受動板(伝達部材)1158と、円筒状のカバー(接続筒体)1160とを有する。
【0059】
主軸部材1144におけるギア体1146と当接する部分には、樹脂製のスラスト軸受部材1144cが設けられている。ナット体1148におけるギア体1146と当接する部分には、樹脂製のスラスト軸受部材1148aが設けられている。スラスト軸受部材1144c及び1148aは低摩擦材であって、当接部分の摩擦及びトルクを低減するとともに、フェイスギア1165に負荷が直接的にかかることを防止する。スラスト軸受部材1144c及び1148aは、いわゆる滑り軸受である。
【0060】
ギア体1146は、段付き筒形状であって、Z2方向の大径部1162と、Z1方向の小径部1164と、大径部1162のZ2方向端面に設けられたフェイスギア1165とを有する。フェイスギア1165は、歯車1134及び歯車1138に噛合する。ギア体1146は、ナット体1148が主軸部材1144に対して抜けることを防止する。大径部1162の外周には、ねじが設けてある。
【0061】
受動板1158は、Z2方向の凹部1166と、該凹部1166の底面に設けられた係合部1168と、Y方向両面にそれぞれ設けられた軸方向のリブ1170と、リンク孔1172とを有する。係合部1168は、伝達部材1152の先端に設けられたきのこ状の突起1174に係合する形状である。この係合により、受動板1158と伝達部材1152は、相対的なロール軸の回転が可能になる。受動板1158の幅はカバー1160の内径に略等しい。
【0062】
カバー1160は、複合機構部1102の略全体を覆う大きさであり、複合機構部1102及び鋏機構1300に異物(生体組織、薬剤、糸等)が入り込むことが防止される。
【0063】
カバー1160は、内面で対向する向きに設けられて受動板1158の2つのリブ1170が嵌る軸方向の2本の溝1175と、先端部においてY方向に対面する一対のベース1304と、ベース1304の先端近傍にそれぞれ設けられた孔1307とを有する。一対のベース1304における各対向面は、後述する鋏機構1300、スペーサ1340等を保持可能なように平面となっている。
【0064】
溝1175にリブ1170が嵌ることにより受動板1158が軸方向にガイドされる。受動板1158の係合部1168には突起1174が係合することから、受動プーリ1156aは孔1144a内において、受動板1158及び伝達部材1152とともに軸方向に進退可能であるとともに、伝達部材1152を基準としてロール回転が可能である。カバー1160は、ギア体1146の大径部1162に対して螺入、圧入等の手段により固定されている。
【0065】
カバー1160は、ギア体1146と基部側で結合(螺合、圧入、溶接等)されており、ギア体1146の回転とともにカバー1160及び鋏機構1300はロール軸動作を行う。
【0066】
図10に示すように、アイドルプーリ1140aは、同軸上の第1層アイドルプーリ1232と第2層アイドルプーリ1234の2枚が並列して構成されており、ガイドプーリ1142aは、同軸上の第1層ガイドプーリ1236と第2層ガイドプーリ1238の2枚が並列して構成されている。
【0067】
図11に示すように、ロッド192aのZ1方向端部は、ワイヤ係合部1250aによって受動ワイヤ1252aの両端部に接続されている。
【0068】
受動ワイヤ1252aは、一部がワイヤ係合部1250aに接続された環状の可撓性部材であり、ワイヤ以外にもロープ、樹脂線、ピアノ線及びチェーン等を用いることができる。ここで、環状とは広義であり、必ずしも全長にわたって可撓性部材が適用されている必要はなく、少なくとも各プーリに巻き掛けられる箇所が可撓性部材であればよく、直線部は剛体で接続されていてもよいことはもちろんである。
【0069】
受動ワイヤ1252aは、駆動部材のロッド192aから、アイドルプーリ1140aのX1方向を通り、X2方向に向かい、ガイドプーリ1142aのX2方向の面を通り受動プーリ1156aのX2方向面に至る。受動ワイヤ1252aは、さらに、受動プーリ1156aのZ1方向面に半周巻き掛けられてX1方向面に至り、ガイドプーリ1142aのX1方向の面を通り、X2方向に向かいアイドルプーリ1140aのX2方向を通りワイヤ係合部1250aに至る経路で配設されている。
【0070】
つまり、受動ワイヤ1252aは、ワイヤ係合部1250aを基点及び終点とする一巡の経路を構成し、アイドルプーリ1140aの両側方を通り、受動プーリ1156aに巻き掛けられ、アイドルプーリ1140aとガイドプーリ1142aとの間で交差して、略8字形状をなす。これにより、ワイヤ係合部1250a及び受動ワイヤ1252aは、ロッド192aを介してトリガレバー36に対して機械的に接続されていることになる。
【0071】
アイドルプーリ1140a、ガイドプーリ1142a及び受動プーリ1156aは略同径であり、受動ワイヤ1252aがあまり屈曲しないように、レイアウト上の可能な範囲で適度に大径にしている。ワイヤ係合部1250aは、受動ワイヤ1252aが過度に屈曲しないように、アイドルプーリ1140aよりも適度に離れた位置に設けられており、受動ワイヤ1252aの両端部はワイヤ係合部1250aを頂部として鋭角を形成している。アイドルプーリ1140aとガイドプーリ1142aとの間は狭く、例えば、受動ワイヤ1252aの幅と略等しい隙間が形成されている。
【0072】
アイドルプーリ1140a、ガイドプーリ1142a及び受動プーリ1156aには、受動ワイヤ1252aの抜け止めのために、上面及び下面に小さいフランジを設け、又は側面を凹形状にしてもよい。
【0073】
図11から明らかなように、第1エンドエフェクタ駆動機構1320aでは、基端側から先端側に向かって、受動ワイヤ1252a、アイドルプーリ1140a、ガイドプーリ1142a及び受動プーリ1156aが中心線に沿って配置されている。鋏機構1300は、リンク1220、受動板1158及び伝達部材1152等を介して受動プーリ1156aに連結されている。
【0074】
このように構成される第1エンドエフェクタ駆動機構1320aでは、ロッド192a(図11参照)をZ2方向に引き寄せると、平面視で、第1層アイドルプーリ1232及び第2層ガイドプーリ1238は反時計方向に回転し、第2層アイドルプーリ1234及び第1層ガイドプーリ1236は時計方向に回転する。このように、アイドルプーリ1140a及びガイドプーリ1142aは、それぞれ同軸上で2枚のプーリが並列する構成であることから、当接する受動ワイヤ1252aの動きに従って逆方向に回転可能であり、動作がスムーズである。
【0075】
図6、図7、図8及び図9に示すように、第2エンドエフェクタ駆動機構1320bは、第1エンドエフェクタ駆動機構1320a(図11参照)に対して、基本的には、折り返しプーリ(円柱部材、伝達部材)1350が付加された構成である。受動プーリ1156a及び受動プーリ1156bは同軸構成となっている。
【0076】
主軸部材1144には、ピン1352が挿入及び固定される径方向の軸孔1354が設けられている。軸孔1354は、孔1144aを経由して主軸部材1144の筒部を貫通している。
【0077】
伝達部材1152には、ピン1352が挿通可能な幅で軸方向に延在する長孔1356が設けられている。伝達部材1152は、作業部16の軸心よりY1方向にややオフセットした位置に設けられるが、先端の突起1174だけは軸心に配置させるとよい(図11参照)。もちろん、伝達部材1152は中心に配置してもよい。
【0078】
ピン1154は、伝達部材1152を通り抜けてY2方向に突出し受動プーリ1156bを軸支する。受動プーリ1156bは、受動ワイヤ1252bが2巻き可能な幅を有する。孔1144aは、受動プーリ1156a、1156b及び伝達部材1152が挿入可能な高さを有する。受動プーリ1156a及び1156bは、孔1144a内でピン1154によって同軸に軸支されており、独立的に回転自在である。
【0079】
ピン1352は、孔1144a内でY1方向からY2方向に向かって、長孔1356及び折り返しプーリ1350の中心孔に挿入されて、伝達部材1152と受動プーリ1156a及び1156bが軸方向に進退可能である。折り返しプーリ1350はピン1352に軸支されて回転自在であり、位置は固定である。折り返しプーリ1350は受動ワイヤ1252bが2巻き可能な幅を有する。また、折り返しプーリ1350を2層化することにより、開閉動作のときに反対方向に回転できる構成となり、受動ワイヤ1252bとプーリの摩擦を低減させることができる。
【0080】
図12、図13及び図14に示すように、第2エンドエフェクタ駆動機構1320bにおいては、受動プーリ1156bよりも先端側に折り返しプーリ1350が設けられ、受動ワイヤ1252bは、受動プーリ1156bと折り返しプーリ1350とにわたって巻き掛けられている。つまり、受動ワイヤ1252bは、駆動部材のロッド192bのワイヤ係合部1250bから、アイドルプーリ1140bのX1方向を通り、X2方向に向かい、ガイドプーリ1142bのX2方向を通り受動プーリ1156bのX2方向面に至る。受動ワイヤ1252bはそのままZ1方向に向かって延在し、折り返しプーリ1350のX2方向の面に達し、該折り返しプーリ1350のZ1方向の面に半回転巻き付けられてZ2方向に折り返す。
【0081】
受動ワイヤ1252bは受動プーリ1156bのZ2方向の面に半回転巻き付けられてX2側を通って再度折り返しプーリ1350に至り、再び該折り返しプーリ1350のZ1方向の面に半回転巻き付けられてZ2方向に折り返す。この後、受動ワイヤ1252bはガイドプーリ1142bのX1方向からアイドルプーリ1140bのX2方向に至り、ロッド192bのワイヤ係合部1250bに接続される。ワイヤ係合部1250a及び受動ワイヤ1252bは、ロッド192bを介してトリガレバー36に対して機械的に接続されていることになる。
【0082】
先端動作部12の構造について理解を容易にするために、その模式図を図5に示す。
【0083】
このように構成される先端動作部12では、図3に示すように、人手によりトリガレバー36を十分に引くと、ロッド192aは受動ワイヤ1252aを引き寄せ、受動プーリ1156a、伝達部材1152をZ2方向に移動させることから鋏機構1300を閉じさせることができる。つまり、ロッド192aや受動ワイヤ1252a、受動プーリ1156a等の伝達部材が牽引されることにより鋏機構1300が閉じられる。
【0084】
次に、鋏機構1300について説明する。
【0085】
図15及び図16に示すように、鋏機構1300はユニット形式であって、一対のエンドエフェクタ部材1308の刃1302が動作をするいわゆる両開き型である。
【0086】
各エンドエフェクタ部材1308は、L字形状であって、Z1方向に延在する刃1302と、該刃1302に対して略35°に曲がって延在するレバー部1310と、L字形状の屈曲部に設けられた軸孔1216とを有する。レバー部1310の端部近傍には孔1218が設けられている。軸孔1216には、ボルト体1217が挿入されることにより一対のエンドエフェクタ部材1308は第3回転軸Ogを中心として開閉自在となる。
【0087】
ボルト体1217は、六角ヘッド(頭部)1217aと、該六角ヘッド1217aから延在する滑らかなシャフト(軸部)1217b及びねじ部1217cと、中心孔(軸孔)1217dとを有する。中心孔1217dは、ボルト体1217の軸線方向に貫通形成されている。シャフト1217bは、2つの軸孔1216と適度な公差で嵌合する径であり、2つの軸孔1216の合計長さよりも僅かに短く設定されている。
【0088】
ねじ部1217cは、2つの軸孔1216を通って反対側(Y2側)に突出し、2枚のナット1219が、いわゆるダブルナットとして螺設・締結される。すなわち、鋏機構1300は、一対のエンドエフェクタ部材1308を重ね、各エンドエフェクタ部材1308の軸孔1216に対し、ボルト体1217のシャフト1217bを挿通させる工程(第1工程)と、ボルト体1217の先端のねじ部1217cに、ナット1219を螺設する工程(第2工程)と、六角ヘッド1217aとナット1219との間で、重ねたエンドエフェクタ部材1308を挟持すると共に、所定の擦り合わせ調整を行いながら、ボルト体1217とナット1219とを固定して、所定の擦り合わせ状態とする工程(第3工程)とによって組み立てられる。
【0089】
ボルト体1217の六角ヘッド1217a及びナット1219は六角形状である必要はなく、所定の工具によって規定トルクで締め合わせることができれば円柱、二面幅形状等でもよい。ボルト体1217とナット1219との固定は、必ずしもダブルナット形式である必要はなく、シングルナットに所定の緩み止め(例えば、溶接や緩み止め剤)をしてもよい。
【0090】
ナット1219によれば、六角ヘッド1217aとの間で重ねた一対のエンドエフェクタ部材1308を、隙間なく、且つ適度に強く締め合わせて固定することができ、一対の刃1302を所定の擦り合わせ状態に維持することができる。また、このような擦り合わせ状態を、先端動作部12に組み込む以前の鋏機構1300としてのユニット単体で実現することができ、組立作業効率が向上し、非熟練者であっても組立作業を行うことができる。さらに、一対のエンドエフェクタ部材1308は、シャフト1217bの回りでスムーズに回転可能である。
【0091】
鋏機構1300の組立は、近傍に他の障害物のない場所で行うことができる。また、擦り合わせ調整についても、この段階では他に連動する部材がないことから、開閉動作を何度か繰り返しながら容易に行うことができる。仮に、鋏機構1300がカバー1160内あると、狭所であってしかもリンク1220や受動板1158等の連動する部材が存在することから、擦り合わせ調整が困難であることは容易に想像されよう。
【0092】
さらに一対の刃1302は、開状態において互いに反対方向(Y1方向及びY2方向)にやや反り返るように形成されており、鋏機構1300が閉じるときに刃1302同士の間に隙間が生じることを一層防止し、切断対象物を適切に切断することができる。
【0093】
図6〜図8に示すように、ユニットとして予め組み立てられた鋏機構1300は、カバー1160の筒内に収納され、ボルト体1217の中心孔1217dは2つの孔1307と同軸状に配置され、これらの孔1307及び中心孔1217dに対してピン1196が圧入後固定され、少なくともピン1196が孔1307に対して圧入及び(又は)溶接などにより固定されればよい。一対のエンドエフェクタ部材1308が回動可能となるように軸支される。
【0094】
レバー部1310と受動板1158は、リンク1220(図9参照)により連接される。リンク1220には、両端近傍においてピン1222及び1224が同方向に突設されている。ピン1222及び1224は、リンク1220の所定の孔に圧入されることによって突設する形態でもよい。各リンク1220の一端のピン1222は孔1218に挿入され、他端のピン1224は受動板1158のリンク孔1172挿入されて連接される。
【0095】
カバー1160内には、鋏機構1300と該カバー1160のY方向側内面側との間の隙間に配置されると共に、ピン1196が嵌挿されたスペーサ1340が設けられている。スペーサ1340には、ピン1196を回避するためのZ2方向に開口する孔1340aが設けられている。
【0096】
スペーサ1340を挟むことにより、鋏機構1300のカバー1160内でのずれが防止される。
【0097】
次に、先端動作部12の組立・製造方法について説明する。先端動作部12(及び12a)を組み立てる際には、予め鋏機構1300はユニットとして組み立てられているものとする(図15参照)。また、カバー1160を除き、受動板1158及びそれより基端側部分は組み立てられており、受動板1158の2つのリンク孔1172にはそれぞれリンク1220のピン1224が反対方向から挿入されているものとする。図17〜図25において、2つのリンク1220のうちY1側をリンク1220a、Y2側をリンク1220bと区別し、同様にエンドエフェクタ部材1308についても1308a及び1308bと区別する。図17〜図25は理解が容易となるように模式で表し、2つのリンク孔1172は実際にはX方向にずれて設けられているが、ここでは同一断面上に示す。
【0098】
図17に示すように、先ず、受動板1158及びリンク1220の部分をカバー1160で覆う。このとき、カバー1160の溝1175にリブ1170を嵌めることによりカバー1160を適切な向きにガイドする。前記の通り、カバー1160は、ギア体1146の大径部1162に対して固定する。
【0099】
次いで、図18に示すように、鋏機構1300をカバー1160の近傍位置で適正な向きに用意しておき、リンク1220aをY1方向に引き上げる。リンク1220aはピン1224がリンク孔1172に適度に深く挿入されており、しかもカバー1160内は狭いことから、ピン1224はリンク孔1172から抜け出てしまうことはない。
【0100】
さらに、図19に示すように、鋏機構1300の基端部分をカバー1160内にZ1方向から挿入し、エンドエフェクタ1308bにおける孔1218にリンク1220bのピン1222を挿入させるとともに、ボルト体1217の中心孔1217dがカバー1160の孔1307と同軸となるように配置する(第4工程)。
【0101】
このとき、鋏機構1300は、カバー1160内におけるY1側側面に沿って挿入し、適度な位置でY2側に下ろすとよい。また、リンク1220aは、鋏機構1300に当たらないようにピン1224を軸中心として適当な向きに避けておくとよい。これらの一連の作業は、一対のベース1304の間でX方向の露呈部から指又は所定の工具を挿入して行うことができる。工具としては、ピンセット等の簡便で一般的なものを用いることができる。
【0102】
次に、図20に示すように、リンク1220aを適正な向きに設定した後にY2方向に下ろし、先端側のピン1222をエンドエフェクタ部材1308aにおける孔1218に挿入する(第4工程)。
【0103】
このように、カバー1160の筒内に鋏機構1300を挿入すると共に、伝達部材である受動板1158に対してエンドエフェクタ部材1308を接続する工程(第4工程)は、上記の順序でなくてもよく、図17に示す状態から図19に示す状態に組み立てられればよい。
【0104】
さらに、図21に示すように、カバー1160内で、鋏機構1300及びリンク1220aのY1側に生じた空間部に対して、スペーサ1340をZ1方向から挿入する(スペーサ工程)。これにより、鋏機構1300のY方向のがたつきがなくなるとともに、リンク1220aのピン1222及び1224が孔1218及びリンク孔1172からの脱落が防止される。スペーサ1340は、孔1340aがカバー1160の孔1307の直下になるように配置する。
【0105】
最後に、図22に示すように、ピン1196を孔1340a、孔1307及び中心孔1217dに対してピン1196に圧入後固定し、一対のエンドエフェクタ部材1308が回動可能となるように軸支する(第5工程)。
【0106】
このようにして組立・製造された先端動作部12では、鋏機構1300が予めユニットとして組み立てられていることから、その擦り合わせ状態がそのまま維持され、切断対象物を適切に切断することができる。また、動的な擦り合わせ調整をカバー1160内の狭所で行う必要がなく、非熟練者であっても容易な組立が可能となる。
【0107】
次に、先端動作部12の第1の変形例である先端動作部12aにかかる組立・製造方法について図23〜図25を参照しながら説明する。
【0108】
この先端動作部12aは、六角ヘッド1217a及びリンク1220a、1220bがY方向に適度に厚く構成されている。これにより、鋏機構1300は、スペーサ1340がなくてもカバー1160内で安定して保持され、リンク1220a及び1220bのピン1222及び1224の孔1218及びリンク孔1172からの脱落が防止される。ボルト体1217の高さは一対のベース1304間の距離に合わせて設定するとよい。逆に一対のベース1304の距離を狭くしてもよい。先端動作部12aについては、煩雑とならないように、各構成部材については先端動作部12のそれと同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0109】
図23に示すように、先ず、鋏機構1300を受動板1158の近傍位置で適正な向きに用意しておき、リンク1220a及び1220bを装着する。
【0110】
次に、図24に示すように、鋏機構1300の基端部、受動板1158及びリンク1220の部分をカバー1160で覆う。このとき、カバー1160の溝1175にリブ1170を嵌めることによりカバー1160を適切な向きにガイドする。カバー1160は、ボルト体1217の中心孔1217dがカバー1160の孔1307と同軸となるように配置する。
【0111】
最後に、図25に示すように、ピン1196を孔1307及び中心孔1217dに対してピン1196に圧入後固定し、一対のエンドエフェクタ部材1308が回動可能となるように軸支する。
【0112】
このような先端動作部12a及びその組立・製造方法では、前記の先端動作部12と比較してスペーサ1340が不要であることから、構成及び組立作業が簡便である。
【0113】
次に、先端動作部12の第2の変形例としての先端動作部12bを図26に示す。
【0114】
図26に示すように、先端動作部12bは、前記の先端動作部12(図23参照)と比較して第1エンドエフェクタ駆動機構1320aを有している点で共通するが、第2エンドエフェクタ駆動機構1320bが省略された構成となっている。
【0115】
先端動作部12bは、前記の両開き型の鋏機構1300に代えて片開き式の鋏機構1300aが設けられている。鋏機構1300aは、固定刃1202とピン1196を中心として軸開閉動作をする可動刃1212と、伝達部材1152をZ1方向に弾性付勢するスプリング1305とを有している。可動刃1212は、伝達部材1152が進退することにともなってリンク1220を介して開閉駆動される。すなわち、トリガレバー36をZ2方向に引くと第1エンドエフェクタ駆動機構1320aによって伝達部材1152もZ2方向に変位し、可動刃1212は図26における反時計方向に回動して鋏機構1300aが閉動作をする。一方、トリガレバー36を開放すると、伝達部材1152はスプリング1305の付勢によってZ1方向に変位し、鋏機構1300aは開状態に復帰する。また、トリガレバー36はZ1方向に復帰する。
【0116】
この場合の鋏機構1300aについても、前記の鋏機構1300と同様に予めユニットとして組み立てておくことにより、適切な擦り合わせ状態がそのまま維持されるとともに、組立が容易である。
【0117】
上記のような鋏機構1300、1300aを備える先端動作部12〜12bは、マニピュレータ以外の用途にも、例えば、図27に示す手術用ロボットシステム700や図28に示す鉗子800にも適用可能である。
【0118】
図27に示すように、手術用ロボットシステム700は、多関節型のロボットアーム702と、コンソール704とを有し、作業部16はロボットアーム702の先端に接続されている。ロボットアーム702の先端には前記のマニピュレータ10と同じ機構が設けられている。ロボットアーム702は、作業部16を移動させる手段であればよく、据置型に限らず、例えば自律移動型でもよい。コンソール704は、テーブル型、制御盤型等の構成を採りうる。
【0119】
ロボットアーム702は、独立的な6以上の関節(回転軸やスライド軸等)を有すると、作業部16の位置及び向きを任意に設定できて好適である。先端のマニピュレータ10は、ロボットアーム702の先端部708と一体化している。マニピュレータ10は、前記のトリガレバー36の代わりにモータ712を有し、該モータ712が2本のロッド192a及び192bを駆動する。
【0120】
ロボットアーム702は、コンソール704の作用下に動作し、プログラムによる自動動作や、コンソール704に設けられたジョイスティック706に倣った操作、及びこれらの複合的な動作をする構成にしてもよい。コンソール704は、前記のコントローラの機能を含んでいる。作業部16には、鋏機構1300を含む先端動作部12が設けられている。
【0121】
コンソール704には、操作指令部としての2つのジョイスティック706と、モニタ710が設けられている。図示を省略するが、2つのジョイスティック706により、2台のロボットアーム702を個別に操作が可能である。2つのジョイスティック706は、両手で操作し易い位置に設けられている。モニタ710には、軟性鏡による画像等の情報が表示される。
【0122】
ジョイスティック706は、上下動作、左右動作、捻り動作、及び傾動動作が可能であり、これらの動作に応じてロボットアーム702を動かすことができる。ジョイスティック706はマスターアームであってもよい。ロボットアーム702とコンソール704との間の通信手段は、有線、無線、ネットワーク又はこれらの組合わせでよい。
【0123】
ジョイスティック706には、トリガレバー36が設けられており、該トリガレバー36を操作することによりモータ712を駆動可能である。
【0124】
図28に示すように、鉗子800の基本構成は、電動アクチュエータのない従来型のものであり、先端部に鋏機構1300が適用されている。鉗子800は、手元操作部802と、該手元操作部802から延在する細径のシャフト804と、先端動作部806とを有し、先端動作部806に鋏機構1300が設けられている。手元操作部802は指を挿入して開閉可能な一対のハンドルから構成されており、該ハンドルの開閉に応じて鋏機構1300が開閉する。
【0125】
鋏機構1300及び1300aは、例えば、内視鏡(医療用器具)の先端部(接続筒体)に適用することもできる。
【0126】
本発明に係る医療用器具の製造方法及び医療用器具は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0127】
10…マニピュレータ(医療用器具) 12、12a、12b、806…先端動作部
14…操作部 16…作業部
18…連結シャフト 1152…伝達部材
1158…受動板 1160…カバー
1196、1222、1224…ピン 1216…軸孔
1217…ボルト体 1217a…六角ヘッド(頭部)
1217b…シャフト(軸部) 1217c…ねじ部
1217d…中心孔 1218、1307…孔
1219…ナット 1220、1220a、1220b…リンク
1300、1300a…鋏機構(構造体)
1302…刃 1304…ベース
1308、1308a…エンドエフェクタ部材(開閉部材)
1340…スペーサ 1340a…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の開閉部材を重ね、両開閉部材の基端側に形成された孔部に対し、軸線方向に貫通した軸孔を有したボルトの軸部を挿通させる第1工程と、
前記ボルトの前記軸部に、さらに、ナットを挿通させる第2工程と、
前記ボルトの頭部と前記ナットとの間で、前記重ねた一対の開閉部材を挟持すると共に、所定の擦り合わせ調整を行いながら、前記ボルトと前記ナットとを固定して、所定の擦り合わせ状態で前記一対の開閉部材を軸支した構造体を得る第3工程と、
操作部から延びたシャフト先端に連結される接続筒体の筒内に前記構造体を挿入すると共に、前記操作部からの入力操作を前記開閉部材に伝達する伝達部材に対して前記開閉部材を接続する第4工程と、
前記接続筒体に直径方向に貫通形成された孔部と前記ボルトの前記軸孔とに対し、前記接続筒体の外面側からピンを嵌挿して固定することで、前記一対の開閉部材を、前記ボルトの軸部を開閉軸として互いに開閉可能に軸支する第5工程と、
を有することを特徴とする医療用器具の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の医療用器具の製造方法において、
前記第4工程の後、前記第5工程の前に、さらに、前記構造体と前記接続筒体の内面との間に形成される隙間にスペーサを配置するスペーサ工程を
有することを特徴とする医療用器具の製造方法。
【請求項3】
重ねた一対の開閉部材を所定の擦り合わせ状態でボルト及びナットにより締結し、前記ボルトの軸部で互いに開閉可能に軸支した構造体と、
前記構造体を収納すると共に、操作部から延びたシャフト先端に連結された接続筒体と、
前記接続筒体の筒内に収納した前記構造体に対し、前記ボルトの軸線方向に貫通形成された軸孔に嵌挿され、前記一対の開閉部材を回動可能に軸支するピンと、
前記操作部からの入力操作を前記開閉部材に伝達する伝達部材と、
を備えることを特徴とする医療用器具。
【請求項4】
請求項3記載の医療用器具において、
前記接続筒体内には、前記構造体と該接続筒体の内面側との間の隙間に配置されると共に、前記ピンが嵌挿されたスペーサが設けられている
ことを特徴とする医療用器具。
【請求項5】
請求項3又は4記載の医療用器具において、
前記開閉部材は、互いに摺接して対象物を切断する鋏部材であることを特徴とする医療用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−227438(P2010−227438A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80479(P2009−80479)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】