説明

半導体パワーモジュールの劣化診断方法及び劣化診断装置

【課題】ワイヤ接合部の剥離やクラック発生による劣化を高精度かつ容易に診断可能とした半導体パワーモジュールの劣化診断方法及び劣化診断装置を提供する。
【解決手段】半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断方法において、半導体チップを複数、直列に接続して各半導体チップのオン時における飽和電圧の合計値を測定し、この合計値が閾値を超えたことから前記接合部に劣化が生じたと判断する。または、前記接合部を第1の接合部とすると共に、半導体チップとボンディングワイヤとの線膨張係数の差よりも大きい線膨張係数の差を持つようなダミー基板とボンディングワイヤとの接合部を、第2の接合部として別個に備え、第1の接合部と第2の接合部とを直列に接続して主回路電流を通流し、第2の接合部の劣化状態から第1の接合部の劣化を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パワーモジュールの故障の大きな要因の一つである、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部(以下、単にワイヤ接合部ともいう)における剥離等を予測するための劣化診断方法、及び、この方法を実施するための劣化診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体パワーモジュールが経年劣化によって寿命を迎える最大の要因は、ワイヤ接合部が剥離し、その際に発生したアークが半導体チップ表面を損傷することによって短絡破壊を起こすことである。
ここで、ワイヤ接合部が剥離する原因は、ボンディングワイヤに用いているアルミニウム等の線膨張係数とシリコン等からなる半導体チップ基板との線膨張係数が異なるため、スイッチングを連続的に繰り返して電流を通流・遮断する動作によってワイヤ及び半導体チップ基板が機械的に収縮・膨張を繰り返し、その際に相互応力が発生することに起因している。このようなメカニズムは、例えば後述する非特許文献1によって公知となっている。
【0003】
上記のワイヤ接合部の剥離による劣化を事前に予測できれば、半導体パワーモジュールの保守や寿命診断の上で非常に有効である。
このため、例えば特許文献1には、ボンディングの接合条件を変えて主回路のボンディングワイヤよりも接合強度を弱くしたダミーワイヤを設け、このダミーワイヤの剥離から主回路ワイヤの剥離を予知して半導体パワーモジュールの寿命を予測するようにしたモータ駆動装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、コネクタ等の部材に穴径等が異なる条件でダミーの金属ピンを複数、半田付けし、これらの金属ピンに対して熱衝撃回数(通電/非通電の繰り返しによる熱的な衝撃回数)と半田の劣化状況との関係を予め求めておき、前記コネクタを装着した機器について各ピンの導通試験や目視を行った場合の半田の劣化状況に基づいてその機器の使用期間に受けた熱衝撃回数を推定し、半導体素子等の寿命を判定する寿命判定方法及び装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、IGBTを流れる電流の電圧変換値とIGBTのエミッタ−ボンディングワイヤ間の電圧検出値とを、それぞれ所定の基準電圧と比較すると共に、その比較結果の論理積を演算してボンディングワイヤの接合部のクラックを検出するようにした電力用半導体素子の異常検出装置が開示されている。
【0006】
更に、特許文献4には、直流電源の両端に直列接続された複数のIGBTを同時にオンさせて短絡電流を流したときのワイヤ接合部の電圧降下を検出し、クラック等の検出や半導体パワーモジュールの寿命の推定を可能にした半導体装置の劣化保護方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−286009号公報(段落[0017]〜[0027]、図1〜図3等)
【特許文献2】特開2002−122640号公報(段落[0036]〜[0057]、図1〜図4等)
【特許文献3】特開2007−113983号公報(段落[0021]〜[0029]、図1〜図3等)
【特許文献4】特開2009−22084号公報(段落[0018]〜[0021]、図1,図2等)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三菱電機技報 Vol.77,No.9,p.51−54(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した特許文献1では、ダミーワイヤの剥離をもって寿命診断の指標としているが、このダミーワイヤが剥離した際に半導体チップが短絡破壊を起こすことが懸念される。つまり、半導体チップ表面からワイヤが剥離する際には、発生するアークによってチップ表面がダメージを受けるため、これによってコレクターエミッタ間のようなアーム間で短絡破壊が生じるおそれがある。
また、特許文献1によれば、接合強度の弱いダミーワイヤを接合する箇所は、主回路のチップでも良いし別の部位でも良いとされている。しかし、ダミーワイヤの剥離をもって検出するためには、例えば銅ベース基板のように電流が殆ど流れない部位に接合したとしても、この種の部位ではジュール熱による熱衝撃が殆ど生じないので、寿命を推定することが困難である。
【0010】
特許文献2は、劣化検出の対象が金属ピンを半田付けした接合部であり、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部ではないため、この特許文献2に係る従来技術をそのままワイヤ接合部の劣化診断に適用することはできない。
また、特許文献2では、対象とする製品が電子部品または電子部品搭載装置であり、半導体パワーモジュールとは扱う電力も異なるので、この従来技術を半導体パワーモジュールの劣化検出に適用することは困難である。
【0011】
特許文献3では、劣化を検出するために、IGBTを流れる電流の電圧変換値や電圧検出値を基準電圧と比較する動作が不可欠である。しかし、例えばワイヤ接合部が破壊に至るまでの抵抗値の上昇は数十〔mΩ〕であり、電流を50〔A〕流したときの電圧にしてわずか0.1〜0.25〔V〕の変化に過ぎない。このような微少な電圧の変化を確実に検出するためには、基準電圧に厳密さが要求されることになり、言い換えれば、ワイヤ接合部の劣化を高精度に診断することが困難である。
すなわち、特許文献3に係る従来技術は、既知の大電流を流すモードが存在し、しかも0.1〜0.25〔V〕程度の電位差を検出できる精度を備えている場合に初めて実現可能であり、例えば電流値がそれほど大きくない場合や、印加電圧が300〔V〕や600〔V〕になるような場合には、劣化検出精度が低下するという懸念がある。
【0012】
更に、特許文献4では、劣化検出時に例えば500〔A〕の短絡電流を流してワイヤ接合部に1.0〜2.5〔V〕の電圧上昇を生じさせることを想定しているが、このように短絡電流の通流モードを別個設定することは、劣化診断動作を煩雑化させる原因となる。
【0013】
そこで、本発明の解決課題は、ワイヤ接合部の剥離やクラック発生による劣化を高精度かつ容易に診断可能とした半導体パワーモジュールの劣化診断方法及び劣化診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため請求項1に係る劣化診断方法は、半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断方法において、
前記半導体チップを複数、直列に接続して各半導体チップのオン時における飽和電圧の合計値を測定し、この合計値が閾値を超えたことから前記接合部に劣化が生じたと判断するものである。
【0015】
請求項2に係る劣化診断装置は、半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断装置において、
前記半導体チップを複数、直列に接続するスイッチ手段と、
直列に接続された複数の前記半導体チップをすべてオンさせてこれらの半導体チップの直列回路に一定電流を通流する手段と、
各半導体チップのオン時における飽和電圧の合計値を測定する手段と、
前記合計値が閾値を超えたことから前記接合部に劣化が生じたと判断する手段と、を備えたものである。
【0016】
請求項3に係る劣化診断方法は、半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断装置において、
前記接合部を第1の接合部とすると共に、
前記半導体チップとボンディングワイヤとの線膨張係数の差よりも大きい線膨張係数の差を持つようなダミー基板とボンディングワイヤとの接合部を、第2の接合部として別個に備え、
第1の接合部と第2の接合部とを直列に接続して主回路電流を通流し、
第2の接合部の劣化状態から第1の接合部の劣化を予測するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体パワーモジュールにおける主要な劣化要因である、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を、半導体チップ(半導体素子)のオン時の飽和電圧に基づいて高精度に診断することができる。また、ワイヤ接合部に実際に剥離やクラック等が発生する前に、ダミー基板側の第2のワイヤ接合部の劣化状態に基づいて半導体チップ側の第1のワイヤ接合部の劣化を予測することも可能である。
本発明では半導体素子の短絡破壊を未然に防止できるため、防爆の観点からも極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る劣化診断装置の構成図である。
【図2】IGBTに対して所定のパワーサイクルで加速劣化試験を行った際の飽和電圧Vce (sat)の推移を示したグラフである。
【図3】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、U相上アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図4】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、V相上アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図5】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、W相上アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図6】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、U相下アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図7】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、V相下アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図8】「6in1」タイプの半導体パワーモジュールを構成する6個の半導体スイッチのうち、W相下アームの劣化診断を行う場合の回路構成図である。
【図9】「2in1」タイプの半導体パワーモジュールを3個用いた劣化診断装置の回路構成図である。
【図10】「1in1」タイプの半導体パワーモジュールを6個用いた劣化診断装置の回路構成図である。
【図11】本発明の第2実施形態におけるワイヤ接合部の説明図である。
【図12】通常のワイヤ接合部の説明図である。
【図13】主回路ワイヤとダミーワイヤとを用いたワイヤ接合部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明の要旨は、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を未然に予測することにあり、具体的には以下の二つの方法によって実現される。
【0020】
まず、第1の劣化診断方法(これを第1実施形態とする)は、ワイヤ接合部の劣化が進むと、それによって半導体チップのオン時の飽和電圧が上昇するため、この飽和電圧を測定して劣化診断を行うものである。ただし、この飽和電圧は上昇値が小さく、劣化診断を行う上では検出精度を高めにくい。そこで、使用している半導体チップを複数、直列に接続することにより飽和電圧を加算し、検出精度を確保した上で飽和電圧をモニタするものである。
【0021】
また、第2の劣化診断方法(これを第2実施形態とする)は、ボンディングワイヤと半導体チップ(半導体チップの基板)との線膨張係数の差よりも大きな差をボンディングワイヤとの間に生じるような導電性のダミー基板を別途設け、このダミー基板上にワイヤボンディングを施して第2のワイヤ接合部を形成すると共に、この第2のワイヤ接合部に主回路電流を流して劣化状態を観察することにより、半導体チップ上の第1のワイヤ接合部の剥離等の劣化を予測するものである。
【0022】
最初に、第1実施形態について説明する。この実施形態は、通電/非通電による熱衝撃の繰り返しによりワイヤ接合部が劣化する過程で、IGBT等の半導体チップのオン時におけるコレクタ−エミッタ間の飽和電圧が約0.1〜0.25〔V〕程度、上昇する現象に着目している。この現象に関しては、パワーサイクル評価や実機による評価を通じてデータが蓄積されている。
一例として、図2は、IGBTを用いて、ΔT=100〔K〕、ON(通電)時間=1〔sec〕、OFF(非通電)時間=9〔sec〕のパワーサイクルで加速劣化試験を行った際の、IGBTのオン時におけるコレクタ−エミッタ間の飽和電圧Vce(sat)の推移を示したグラフである。なお、上記のΔTは、オン/オフに伴うワイヤ接合部の温度変化量である。
【0023】
サンプルとしては、定格が50〔A〕で300〔μmφ〕のワイヤが6本張ってあるIGBTの半導体チップを用い、この半導体チップを25〔℃〕の雰囲気下で空冷フィンに固定した状態にしてパワーサイクル評価を行った。
図2に示すように、供試サンプルは4個あるが(N〜Nとする)、いずれのサンプルも13000〔Cy〕(サイクル)までに、飽和電圧Vce(sat)が試験開始時から0.1〜0.25〔V〕程度上昇している(ちなみに、サンプルNは16000〔Cy〕後に破壊した)。
ここで、供試サンプルには一般的なIGBTを用いており、特別な素子構造を有していない。すなわち、飽和電圧Vce(sat)の上昇は、ワイヤ接合部の劣化に伴って発生する一般的な現象の一つといえる。
【0024】
このように、オン時の飽和電圧Vce(sat)に着目すればワイヤ接合部の劣化傾向は検出可能であるが、電圧の変化幅が0.1〜0.25〔V〕と微小であるため、これを劣化診断に用いるためには精度の向上が要請される。
そこで、本実施形態では、複数の半導体チップを直列に接続してオン時の飽和電圧Vce(sat)を直列個数分、加算することとした。
【0025】
例えば、三相インバータのように、6個で一組の半導体チップをパワーモジュールとして用いる場合には、6個の半導体チップを直列に接続してオン時のコレクタ−エミッタ間の飽和電圧Vce(sat)の合計値を検出することにより、半導体チップが単独の場合に比べて約6倍の電圧値を得ることができる。
図2の例で考えると、最も変化が少なかった場合でもVce(sat)の合計値が0.1〔V〕×6=0.6〔V〕、最も変化が大きかった場合には0.25〔V〕×6=1.5〔V〕となり、検出が一層容易になる。
【0026】
測定上、0.1〜0.25〔V〕程度の電圧は、誤差との切り分けが困難であるが、上述したように複数の半導体チップを直列に接続して飽和電圧Vce(sat)の合計値を求めることにより、検出精度が向上する。すなわち、このように数百〔mV〕オーダーの電圧においては、半導体チップの直列接続による数倍の信号強度の増加でも、検出しきい値付近にあったものが検出しきい値を超えることが期待できるため、格段に検出し易くなる。
【0027】
さて、前後するが、図1は本実施形態に係る劣化診断装置の構成図である。
この劣化診断装置は、本発明を三相インバータに適用し、IGBT等の6個の半導体素子Q〜Qを直列に接続してオン時のコレクタ−エミッタ間の飽和電圧Vce(sat)を検出するためのものである。
なお、図1において、1は「6in1」タイプの半導体パワーモジュール、2は連動C接点スイッチ、3は飽和電圧評価用の測定装置、31は観測・制御部、32はパルス電源、33は変流器、Bは直流電源、P,Nは直流入力端子、U,V,Wは交流出力端子である。
【0028】
ここで、連動C接点スイッチ2は、通常運転時と飽和電圧評価時とで全ての接点が連動して切り替わるスイッチであり、飽和電圧評価時に直流電源Bを半導体素子Q〜Qのゲート−エミッタ間に挿入するための接点S〜S、及び、6個の半導体素子Q〜Qを直列に接続するための接点S〜S13、並びにパスを有している。なお、図示例は、飽和電圧評価時の接続状態である。
【0029】
この劣化診断装置による飽和電圧評価時の動作としては、連動C接点スイッチ2を図1の状態にして、観測・制御部31の動作により、半導体素子Q〜Qの直列回路にパルス電源32からパルス電圧を印加し、上記直列回路に流れる一定電流を変流器33により検出して観測・制御部31に送る。観測・制御部31では、入力された電流に基づいて上記直列回路における半導体スイッチ6個分の飽和電圧Vce(sat)の合計値を演算し、この合計値が所定の閾値を超えたか否かによってワイヤ接合部の劣化状態を評価する。そして、観測・制御部31は、必要に応じて警報表示を行ない、インバータの制御装置に対して運転停止を指令する。
なお、上記の閾値は、例えばワイヤ接合部の剥離状態と飽和電圧Vce(sat)の合計値との関係を予め求めておき、この関係に基づいて決定すればよい。
【0030】
参考のために、図3〜図8は、「6in1」タイプの半導体パワーモジュール4を構成する6個の半導体素子Q〜Qのそれぞれについて、1個ずつ劣化診断を行う場合の劣化診断装置の構成図である。
これらの図から明らかなように、U,V,W各相上下アームの半導体素子Q〜Qを個別に評価する場合には、測定装置3や直流電源Bの配線や調整に要する時間も半導体素子の数に比例して増加するが、図1のように6個の半導体素子Q〜Qを直列に接続して飽和電圧Vce(sat)の合計値に基づき一括で評価することにより、配線や調整等に要する時間が1/(半導体素子の個数)で済むという利点がある。
【0031】
また、「6in1」タイプではなく、「2in1」タイプや「1in1」タイプの半導体パワーモジュールを複数使用してインバータ等を構成する場合には、内部に直列接続用のスイッチやパスを設けることなく、個々のパワーモジュールを直列接続すれば良いので、比較的容易に評価することが可能である。
例えば、図9は「2in1」タイプの半導体パワーモジュール5を3個用いた劣化診断装置の構成図であり、図10は「1in1」タイプの半導体パワーモジュール6を6個用いた劣化診断装置の構成図である。これらの図9,図10において、C,Cはコレクタ、E,Eはエミッタを示す。
【0032】
なお、図1,図9,図10において、測定装置3としては、例えばテクトロニクス社製の「Curve Tracer」等を用いることができるが、複数の半導体素子の直列回路に評価用の電圧を印加して電流を検出し、この検出電流を電圧に変換して閾値と比較する等の機能を備えていれば、他の測定装置、測定設備を用いてもよい。
また、半導体パワーモジュールがインバータに組み込まれているような状態では、評価のたびにパワーモジュールをインバータ装置本体から外さなくても、インバータに備えられた直流入力端子P,N、交流出力端子U,V,Wから直接評価することも可能である。更に、インバータの制御装置にシーケンスを組んで評価モードを設定しておく等、自動化するためのソフトウェア等を用意しておけば、インバータの実使用状態にて劣化診断モードを実行することにより、オンラインにて自動評価することもできる。
【0033】
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
この第2実施形態に係る劣化診断方法では、Si等の半導体チップとボンディングワイヤとの線膨張係数の差よりも大きな差がボンディングワイヤとの間に存在するようなダミー基板を別途設け、このダミー基板上にワイヤボンディングを施して第2の接合部を形成する。そして、この第2の接合部の劣化状態を観測することにより、半導体チップ上のボンディングワイヤによる第1の接合部が実際に剥離する前にその劣化を予測するようにしたものである。ここで、第1の接合部と第2の接合部とを直列に接続し、第2の接合部にも主回路電流を通流させることが必要である。
【0034】
先に「発明が解決しようとする課題」として説明したように、半導体チップ自体にダミーワイヤを接合してモニタすると、ワイヤの剥離時に発生するアークによって短絡破壊を生じるおそれがある。
そこで、第2実施形態では、半導体チップにダミーワイヤを直接接合せずに、別途設けたダミー基板をダミーワイヤの接合先としたものである。
【0035】
すなわち、本実施形態では、図11に示す如く、半導体パワーモジュールのチップ(半導体チップ)10に対してボンディングワイヤ9を従来どおりに接合し(この接合部を第1の接合部とする)し、新たに設けた導電性のダミー基板11に半導体チップ10と同じ大きさの主回路電流が流れるように、このダミー基板11を主回路配線上の一部に配置してボンディングワイヤ(一種のダミーワイヤ)12により接合する(この接合部を第2の接合部とする)。なお、図11において、7は絶縁性基板、8は銅ベース基板である。
図示されていないが、銅ベース基板8及び半導体チップ10が配置される絶縁性基板7と、ダミー基板11が配置される絶縁性基板7とは、分離して形成してもよい。
【0036】
ここで、ダミー基板11とボンディングワイヤ12との線膨張係数の差は、半導体チップ10とボンディングワイヤ9との線膨張係数の差よりも十分に大きく設定する。
以下の表1は、基板材料(シリコン、ニッケル鋼)及びワイヤ材料(アルミニウム、亜鉛、セレン、リチウム、インジウム)についての線膨張係数を示したものである。
【表1】

【0037】
表1において「Ref.」として示すように、図11の半導体チップ10の基板材料にシリコン(線膨張係数が2.4×10−6)を用い、ボンディングワイヤ9の材料にアルミニウム(同じく23.1×10−6)を用いたとする。この場合、本実施形態では、基板材料とワイヤ材料との線膨張係数の差が更に大きくなるような組み合わせで、ダミー基板11及びボンディングワイヤ12の材料を選定する。例えば、ダミー基板11の材料をニッケル鋼(同じく0.13×10−6)とした場合、ボンディングワイヤ12の材料はアルミニウム(同じく23.1×10−6)のままでもよく、表1に記載された別の材料でも良い。勿論、ダミー基板11及びボンディングワイヤ12には、表1に記載されていない他の材料を選定してもよい。
【0038】
なお、参考のために、図12は半導体チップ10とボンディングワイヤ9との通常の接合部を示し、図13は、特許文献1のように主回路ワイヤとしてのボンディングワイヤ9とダミーワイヤ13とを用いた接合部を示している。
【0039】
上述したように、本実施形態は、半導体チップ上の第1の接合部よりも、基板とワイヤとの線膨張係数の差が大きくなるような第2の接合部をダミー基板上に形成し、これらの第1,第2の接合部に同じ大きさの電流が流れるようにしたものである。
すなわち、一般に、基板とワイヤという二部材の線膨張係数の差が大きい接合部の方が、熱衝撃(熱収縮)による機械的ストレスが大きく影響し、クラック発生や剥離等の劣化が早く進む。従って、ダミー基板11とボンディングワイヤ12とによる第2の接合部が劣化したことを目視等により確認できたら、半導体チップ10とボンディングワイヤ9とによる第1の接合部がまもなく劣化することを予測可能であり、これによって劣化の早期診断やある程度の寿命予測が可能になる。
【0040】
ここで、ワイヤ接合部に衝撃を発生させる熱源は、半導体素子の導通時に流れる電流によるジュール熱であり、電流値の2乗及び抵抗値によって決まる値である。電流値に関しては、半導体チップ10側の第1の接合部にダミー基板11側の第2の接合部を直列に接続することで主回路と同一の電流を流すことが可能であるが、第2の接合部の抵抗値については、ダミー基板11やボンディングワイヤ12の材質、組み合わせによって相違する可能性がある。
そこで、半導体チップ10側の第1の接合部に加わる熱衝撃と同等以上の熱衝撃がダミー基板11側の第2の接合部に加わるように、ダミー基板11の大きさやボンディングワイヤ12の本数、線径によって抵抗値を調整することが望ましい。
【0041】
この実施形態において、第2の接合部が万が一、剥離しても、この接合部は半導体チップ10側の第1の接合部と離れているため、半導体チップ10側が短絡破壊に至る可能性は極めて低く、電路開放の破壊モードで装置を停止することができる。従って、半導体パワーモジュールを適用したインバータやサーボ装置等においても、より安全に運転することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1,4,5,6:半導体パワーモジュール
2:連動C接点スイッチ
3:測定装置
31:観測・制御部
32:パルス電源
33:変流器
7:絶縁性基板
8:銅ベース基板
9,12:ボンディングワイヤ
13:ダミーワイヤ
10:半導体パワーモジュールのチップ
11:ダミー基板
〜Q:半導体素子
B:直流電源
〜S13:接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断方法において、
前記半導体チップを複数、直列に接続して各半導体チップのオン時における飽和電圧の合計値を測定し、この合計値が閾値を超えたことから前記接合部に劣化が生じたと判断することを特徴とする半導体パワーモジュールの劣化診断方法。
【請求項2】
半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断装置において、
前記半導体チップを複数、直列に接続するスイッチ手段と、
直列に接続された複数の前記半導体チップをすべてオンさせてこれらの半導体チップの直列回路に一定電流を通流する手段と、
各半導体チップのオン時における飽和電圧の合計値を測定する手段と、
前記合計値が閾値を超えたことから前記接合部に劣化が生じたと判断する手段と、
を備えたことを特徴とする半導体パワーモジュールの劣化診断装置。
【請求項3】
半導体パワーモジュールを構成する半導体チップとボンディングワイヤとの接合部の劣化を診断するための劣化診断装置において、
前記接合部を第1の接合部とすると共に、
前記半導体チップとボンディングワイヤとの線膨張係数の差よりも大きい線膨張係数の差を持つようなダミー基板とボンディングワイヤとの接合部を、第2の接合部として別個に備え、
第1の接合部と第2の接合部とを直列に接続して主回路電流を通流し、
第2の接合部の劣化状態から第1の接合部の劣化を予測することを特徴とする半導体パワーモジュールの劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−18025(P2012−18025A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154545(P2010−154545)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】