説明

半導体レーザ装置及びその製造方法

【課題】二波長レーザ装置等のモノリシック集積レーザ装置において、1度の不純物拡散工程によって、活性層における出射端面近傍領域の各々に良好な窓領域が形成された、半導体レーザ装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、第一導電型の第1のクラッド層、出射端面近傍に第1の窓領域を有する第1の活性層、及び第二導電型の第1のクラッド層が下から順に積層されてなる、第1の波長の素子と、第一導電型の第2のクラッド層、出射端面近傍に第2の窓領域を有する第2の活性層、及び第二導電型の第2のクラッド層が下から順に積層されてなる、第2の波長の素子とを備え、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び第二導電型の第2のクラッド層の格子定数は、第1の活性層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度と第2の活性層における第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度との差異が補償されるように調整された定数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関し、特に、DVD-RAM、DVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RW、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、CD-ROM、DVD-Video、CD-DA及びVCD等の光ディスク装置、光情報処理、光通信、並びに光計測等に用いられる、半導体レーザ装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置のピックアップ用光源、並びに光情報処理、光通信、及び光計測の光源として、半導体レーザ装置が用いられている。例えば、DVD-RAMへの読み込み又は書き込みを行うためのピックアップ用光源として、波長650nm帯のAlGaInP系の赤色レーザが用いられている。また、例えば、CD-Rへの読み込み又は書き込みを行うためのピックアップ用光源として、波長780nm帯のAlGaAs系の赤外レーザが用いられている。
【0003】
DVD-RAMとCD-Rとの双方に対応するためには、1つのドライブに赤色レーザと赤外レーザとの双方が必要であり、このため、DVD用の光集積ユニットとCD用の光集積ユニットとの双方を備えたドライブが一般的に普及している。しかしながら、近年では、ドライブの小型化及び低コスト化、並びに光学系組立工程の簡素化等の要請により、DVD-RAMとCD-Rとの双方に対応することが可能な、1つの光集積ユニットを備えたドライブが求められている。
【0004】
このため、近年では、同一基板上に、波長650nm帯のAlGaInP系の赤色レーザ及び波長780nm帯のAlGaAs系の赤外レーザが集積されてなる、二波長レーザ装置が実用化されつつある(例えば、特許文献1参照)。ピックアップ用光源として、二波長レーザ装置を利用することにより、1つの光集積ユニット上に、DVD/CD両用のレーザを備えた光ディスク装置を実現することができる。
【0005】
また、DVD-RAM及びCD-R等へのデータの書き込みには、半導体レーザ装置の高出力化が要求される。
【0006】
しかしながら、半導体レーザ装置では、活性層における出射端面近傍領域において、界面準位が形成されるので、キャリアの非発光再結合が促進される。このため、活性層における出射端面近傍領域では、半導体レーザ装置内で発生するレーザ光を吸収するので、発熱による温度の上昇が起こる。
【0007】
光出力密度の増大に伴って、活性層における出射端面近傍領域では、より多くのレーザ光を吸収するので、発熱による温度の上昇が加速される。これにより、最終的には、活性層における出射端面近傍領域の温度が、各半導体層を構成する結晶の融点にまで上昇されるので、各半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分が溶融されて、レーザ発振動作の停止が引き起こされる。
【0008】
このように、半導体レーザ装置では、高出力密度の動作時に、各半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分が、損傷を受ける(以下、光学損傷と記す)。
【0009】
この問題を解決するために、窓構造を有する半導体レーザ装置が実用化されている。
【0010】
以下に、窓構造を有する半導体レーザ装置の製造方法について簡単に説明する(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
まず、基板の上に、多重量子井戸構造を有する活性層を含む複数の半導体層を形成する。続いて、スパッタ法により、複数の半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分の上に、ZnO膜を選択的に形成する。続いて、アニールにより、ZnO膜に含まれるZnを、活性層におけるZnO膜の下方に存在している部分中にまで拡散させる。
【0012】
これにより、活性層におけるZnが拡散された領域では、活性層の無秩序化によるバンドギャップの拡大を図ることができるので、活性層における出射端面近傍領域に、活性層における内部領域のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する窓領域を形成することができる。
【0013】
このように、窓構造を有する半導体レーザ装置では、活性層における出射端面近傍領域に、活性層における内部領域のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する窓領域が形成されている。
【0014】
このため、窓構造を有する半導体レーザ装置では、活性層における出射端面近傍領域において、半導体レーザ装置内で発生するレーザ光が吸収されることはないので、レーザ発振動作の停止が引き起こされることを防止することができる。
【0015】
以上のように、二波長レーザ装置において、高出力動作が可能な赤外レーザ及び赤色レーザを実現するためには、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分と赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分との双方に、窓領域を形成する必要がある。
【特許文献1】特開2001−57462
【非特許文献1】IEEE Journal of Quantum Electronics、Vol.29、No.6、p1874−1879(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、二波長レーザ装置の製造方法では、赤外レーザに窓領域を形成するためのZn拡散工程、及び赤色レーザに窓領域を形成するためのZn拡散工程の各々を同一の工程で行う場合、すなわち、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ窓領域及び赤色レーザ窓領域の各々を形成する場合、以下に示す課題が発生する。
【0017】
前述したように、赤外レーザ及び赤色レーザよりなる二波長レーザ装置では、赤外レーザ活性層としてAlGaAs混晶を用いると共に、赤色レーザ活性層としてAlGaInP混晶を用いる。
【0018】
ここで、AlGaAs混晶におけるZn拡散速度は、AlGaInP混晶におけるZn拡散速度よりも非常に小さい。
【0019】
このため、AlGaAs混晶よりなる赤外レーザ活性層に対して、窓構造としての機能を果たすために必要な量のZnを拡散させるように、Zn拡散工程の条件を調整した場合、AlGaInP混晶よりなる赤色レーザ活性層に対して、Znが過剰に拡散される。
【0020】
これにより、赤色レーザ半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分の結晶性が著しく劣化する。更には、赤色レーザ半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分中に過剰に拡散されたZnが、基板にまで到達することにより、半導体レーザ装置において、電気的短絡が発生する。
【0021】
反対に、AlGaInP混晶よりなる赤色レーザ活性層に対して、窓構造としての機能を果たすために必要な量のZnを拡散させるように、Zn拡散工程の条件を調整した場合、AlGaAs混晶よりなる赤外レーザ活性層に対して、窓構造としての機能を果たすために必要な量のZnを拡散させることができない。
【0022】
このため、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に、良好な窓領域を形成することができないので、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域において、半導体レーザ装置内で発生するレーザ光が吸収されることにより、赤外レーザ半導体層における出射端面近傍領域に存在している部分が溶融されて、赤外レーザの発振動作の停止が引き起こされる。
【0023】
このように、二波長レーザ装置の製造方法では、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ及び赤色レーザのうちのいずれか一方のレーザに良好な窓領域を形成することはできるが、他方のレーザに良好な窓領域を形成することができない。
【0024】
上記に対し、二波長レーザ装置の製造方法では、赤外レーザに窓領域を形成するためのZn拡散工程、及び赤色レーザに窓領域を形成するためのZn拡散工程の各々を別途の工程で行う場合、すなわち、2度のZn拡散工程によって、赤外レーザ窓領域及び赤色レーザ窓領域の各々を形成する場合、以下に示す課題が発生する。
【0025】
二波長レーザ装置の製造方法では、2度のZn拡散工程によって、製造工程数が増加するので、二波長レーザ装置の製造コストが増大する。更には、二波長レーザ装置の製造方法では、2度のZn拡散工程によって、赤外レーザ及び赤色レーザのうちのいずれか一方のレーザに対して、2度のZn拡散工程が施されるので、二波長レーザ装置の歩留まりが低下する。
【0026】
前記に鑑み、本発明の目的は、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分、及び赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分に対して、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnを拡散させることにより、赤外レーザ窓領域と赤色レーザ窓領域との双方が良好に形成された、半導体レーザ装置及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記の課題を解決するために、本発明に係る第1の半導体レーザ装置は、基板上に、第一導電型の第1のクラッド層、出射端面近傍に第1の窓領域を有する第1の活性層、及び第二導電型の第1のクラッド層が下から順に積層されてなる、第1の波長のレーザ光を放出する第1の素子と、基板上に、第一導電型の第2のクラッド層、出射端面近傍に第2の窓領域を有する第2の活性層、及び第二導電型の第2のクラッド層が下から順に積層されてなる、第2の波長のレーザ光を放出する第2の素子とを備え、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び第二導電型の第2のクラッド層の格子定数は、第1の活性層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度と第2の活性層における第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度との差異が補償されるように調整された定数であることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置によると、第1の活性層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度と第2の活性層における第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度との差異を補償するように、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び第二導電型の第2のクラッド層の格子定数が調整されているので、第二導電型の第1のクラッド層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度、及び第二導電型の第2のクラッド層における第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度が調整されている。
【0029】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、第1の活性層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度と第2の活性層における第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度との差異を補償するように、第二導電型の第1のクラッド層を通過して第1の活性層中へ拡散される第1の窓領域に含まれる不純物の実効的なドーズ量、及び第二導電型の第2のクラッド層を通過して第2の活性層中へ拡散される第2の窓領域に含まれる不純物の実効的なドーズ量が調整されている。
【0030】
したがって、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、1度の不純物拡散工程によって、第1の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び第2の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量の不純物が拡散されているため、出射端面近傍領域に良好な第1の窓領域を有する第1の活性層を実現すると共に、出射端面近傍領域に良好な第2の窓領域を有する第2の活性層を実現することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0031】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第1の活性層はAlGaAsを含む層であり、第2の活性層はAlGaInPを含む層であり、第二導電型の第1のクラッド層及び第二導電型の第2のクラッド層はAlGaInPを含む層であり、第1の窓領域に含まれる不純物及び第2の窓領域に含まれる不純物には、Znが含まれており、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数は基板の格子定数よりも小さく、且つ第二導電型の第2のクラッド層の格子定数よりも小さいことが好ましい。
【0032】
このようにすると、AlGaAsよりなる第1の活性層(すなわち、赤外レーザ活性層)における第1の窓領域(すなわち、赤外レーザ窓領域)に含まれる不純物(すなわち、Zn)の拡散速度とAlGaInPよりなる第2の活性層(すなわち、赤色レーザ活性層)における第2の窓領域(すなわち、赤色レーザ窓領域)に含まれる不純物(すなわち、Zn)の拡散速度との差異を補償するように、第二導電型の第1のクラッド層(すなわち、赤外レーザ第二導電型クラッド層)の格子定数が基板の格子定数よりも小さく、且つ第二導電型の第2のクラッド層(すなわち、赤色レーザ第二導電型クラッド層)の格子定数よりも小さくなるように調整されている。
【0033】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層におけるZn拡散速度との差異を補償するように、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度が、赤色レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整されているので、赤外レーザ第二導電型クラッド層を通過して赤外レーザ活性層中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量が、赤色レーザ第二導電型クラッド層を通過して赤色レーザ活性層中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量よりも多くなるように調整されている。
【0034】
したがって、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZn(例えば、2×1018 [cm-3 ]以上)が拡散されているため、出射端面近傍領域に良好な赤外レーザ窓領域を有する赤外レーザ活性層を実現すると共に、出射端面近傍領域に良好な赤色レーザ窓領域を有する赤色レーザ活性層を実現することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0035】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第二導電型の第1のクラッド層の基板に対する格子不整値は、-3.0×10-3 以上であって且つ -5.0×10-4 未満であり、第二導電型の第2のクラッド層の基板に対する格子不整値は、-5.0×10-4 以上であって且つ 2.0×10-3 以下であることが好ましい。
【0036】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第1のクラッド層)の格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第2のクラッド層)の格子不整値よりも小さくなるように調整することができる。
【0037】
ここで、第二導電型のクラッド層の基板に対する格子不整値とは、基板の格子定数をa0、第二導電型のクラッド層の格子定数をa1、及び第二導電型のクラッド層のポアソン比をμとしたときの、μ×(a1−a0)/a0で表される式を用いて算出される数値である。これらの値は、X線回折装置を用いて、容易に実測することができる。
【0038】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第二導電型の第1のクラッド層は、一般式が(AlxGa1-xyIn1-yP(0≦x≦1,0≦y≦1)で表される化合物を含んでおり、第二導電型の第2のクラッド層は、一般式が(AltGa1-tuIn1-uP(0≦t≦1,0≦u≦1)で表される化合物を含んでおり、xとtとは、x<tの関係を満たしていることが好ましい。
【0039】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第1のクラッド層)におけるAlの組成比xと赤色レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第2のクラッド層)におけるAlの組成比tとが、x<tの関係を満たしている場合においても、組成比y及び組成比uを調整することにより、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度が、赤色レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整することができる。
【0040】
例えば、赤外レーザ第二導電型クラッド層の基板に対する格子不整値が、-3.0×10-3 以上であって且つ -5.0×10-4 未満の範囲を満たすと共に、赤色レーザ第二導電型クラッド層の基板に対する格子不整値が、-5.0×10-4 以上であって且つ 2.0×10-3 以下の範囲を満たすように、組成比y及び組成比uを調整する。
【0041】
このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、組成比xと組成比tとがx<tの関係を満たしている場合においても、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度が、赤色レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも小さくなることはない。
【0042】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物は、第1の窓領域に含まれる不純物とは異なる元素であり、第二導電型の第1のクラッド層における第1の第二導電型不純物の拡散速度は、第二導電型の第1のクラッド層における第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度よりも小さいことが好ましい。
【0043】
このようにすると、赤色レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第2のクラッド層)に含まれる第2の第二導電型不純物だけでなく、赤外レーザ第二導電型クラッド層(すなわち、第二導電型の第1のクラッド層)に含まれる第1の第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0044】
具体的には、赤外レーザ第二導電型クラッド層における第1の第二導電型不純物の拡散速度が、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn(すなわち、第1の窓領域に含まれる不純物)拡散速度よりも小さくなるように、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物としてZnとは異なる元素を選択することにより、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物が、赤外レーザ第二導電型クラッド層を通過して赤外レーザ活性層における内部領域にまで拡散されることを防止することができるので、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0045】
また、具体的には、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、前述したように、赤色レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度が、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも小さくなるように調整されているため、赤色レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物としてZnを選択しても、赤色レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物Znが、赤色レーザ第二導電型クラッド層を通過して赤色レーザ活性層における内部領域にまで拡散されることがないので、赤色レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物Znの高濃度化を図ることができる。
【0046】
このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の高濃度化を図ると共に、赤色レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0047】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層及び赤色レーザ活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、赤外レーザ活性層及び赤色レーザ活性層内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0048】
更には、本発明に係る第1の半導体レーザ装置では、赤外レーザ第二導電型クラッド層に高濃度に含まれる第1の第二導電型不純物が、赤外レーザ第二導電型クラッド層を通過して、赤外レーザ活性層における内部領域にまで拡散されることがないため、赤外レーザ活性層において、キャリアの非発光再結合が促進されることはないので、半導体レーザ装置の特性が劣化することを防止することができる。
【0049】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第1の第二導電型不純物にはMgが含まれていることが好ましい。
【0050】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層における第1の第二導電型不純物(すなわち、Mg)の拡散速度は、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも小さいので、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物Mgの高濃度化を図ることができる。
【0051】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の濃度、及び第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の濃度は、6×1017 cm-3 以上であって且つ 1.6×1018 cm-3 以下であることが好ましい。
【0052】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物(例えば、Mg)の高濃度化を図ると共に、赤色レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物(例えば、Zn)の高濃度化を図ることができる。
【0053】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置において、第1の活性層及び第2の活性層のうちの少なくとも1つは、量子井戸構造であることが好ましい。
【0054】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法は、基板上に、第一導電型の第1のクラッド層、第1の活性層、及び第二導電型の第1のクラッド層を下から順に積層する工程(A)と、基板上に、第一導電型の第2のクラッド層、第2の活性層、及び第二導電型の第2のクラッド層を下から順に積層する工程(B)と、熱処理によって、不純物を少なくとも第1の活性層及び第2の活性層まで拡散させることにより、第1の活性層における出射端面近傍領域に第1の窓領域を形成すると共に第2の活性層における出射端面近傍領域に第2の窓領域を形成する工程(C)とを備え、工程(A)は、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数を調整する工程であり、且つ工程(B)は、第二導電型の第2のクラッド層の格子定数を調整する工程であることを特徴とする。
【0055】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法によると、工程(A)において、第二導電型の第1のクラッド層を形成する際に、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数を予め調整すると共に、工程(B)において、第二導電型の第2のクラッド層を形成する際に、第二導電型の第2のクラッド層の格子定数を予め調整することにより、第1の活性層における不純物拡散速度と第2の活性層における不純物拡散速度との差異を補償するように、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び第二導電型の第2のクラッド層の格子定数を予め調整することができる。
【0056】
これにより、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、第1の活性層における不純物拡散速度と第2の活性層における不純物拡散速度との差異を補償するように、第二導電型の第1のクラッド層における不純物拡散速度、及び第二導電型の第2のクラッド層における不純物拡散速度を予め調整することができるので、工程(C)において、第二導電型の第1のクラッド層を通過して第1の活性層中へ拡散される不純物の実効的なドーズ量、及び第二導電型の第2のクラッド層を通過して第2の活性層中へ拡散される不純物の実効的なドーズ量を調整することができる。
【0057】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、1度の不純物拡散工程によって、第1の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び第2の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量の不純物を拡散させることができるので、第1の活性層における出射端面近傍領域に良好な第1の窓領域を形成すると共に、第2の活性層における出射端面近傍領域に良好な第2の窓領域を形成することができる。
【0058】
このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、第1の窓領域と第2の窓領域との双方を良好に形成することができるため、第1の活性層における出射端面近傍領域及び第2の活性層における出射端面近傍領域において、光学損傷が発生することを防止することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0059】
また、このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、1度の不純物拡散工程によって、第1の窓領域と第2の窓領域との双方を形成することができるので、半導体レーザ装置の歩留まりの向上を図ると共に製造コストの低減を図ることができる。
【0060】
また、このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、第1の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び第2の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量の不純物を拡散させることができる。
【0061】
すなわち、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、従来例のように、第1の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び第2の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中のうちのいずれか一方に、不純物が過剰に拡散されることがない。
【0062】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に不純物が過剰に拡散されることにより、該部分の結晶性が著しく劣化することを防止すると共に、活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に過剰に拡散された不純物が、基板にまで到達することがないので、電気的短絡が発生することを防止することができる。
【0063】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法において、工程(A)は、第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の濃度を更に調整する工程であり、且つ工程(B)は、第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の濃度を更に調整する工程であることが好ましい。
【0064】
このようにすると、工程(A)において、第二導電型の第1のクラッド層を形成する際に、第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の濃度を調整すると共に、工程(B)において、第二導電型の第2のクラッド層を形成する際に、第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の濃度を調整することにより、第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の高濃度化を図ると共に第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0065】
このため、本発明に係る第1の半導体レーザ装置の製造方法では、第1の活性層及び第2の活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、第1の活性層及び第2の活性層内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0066】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置は、基板上に、第一導電型のクラッド層、出射端面近傍に窓領域を有する活性層、及び第二導電型のクラッド層を備え、第二導電型のクラッド層の格子定数は、活性層における窓領域に含まれる不純物の拡散速度に基づいて調整されており、且つ第二導電型のクラッド層に含まれる第二導電型不純物は、窓領域に含まれる不純物とは異なる元素であり、第二導電型のクラッド層における第二導電型不純物の拡散速度は、第二導電型のクラッド層における窓領域に含まれる不純物の拡散速度よりも小さいことを特徴とする。
【0067】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置によると、活性層における窓領域に含まれる不純物の拡散速度に基づいて、第二導電型のクラッド層の格子定数が調整されているため、第二導電型のクラッド層における窓領域に含まれる不純物の拡散速度が調整されているので、第二導電型のクラッド層を通過して活性層中へ拡散される、窓領域に含まれる不純物の実効的なドーズ量が調整されている。
【0068】
このため、本発明に係る第2の半導体レーザ装置では、活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量の不純物が容易に拡散されているので、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する活性層を容易に実現することができる。
【0069】
更には、本発明に係る第2の半導体レーザ装置によると、第二導電型のクラッド層における第二導電型不純物の拡散速度が、第二導電型のクラッド層における窓領域に含まれる不純物の拡散速度よりも小さくなるように、第二導電型のクラッド層に含まれる第二導電型不純物として、窓領域に含まれる不純物とは異なる元素を選択することにより、第二導電型のクラッド層に含まれる第二導電型不純物が、第二導電型のクラッド層を通過して活性層中に拡散されることを防止することができるので、第二導電型のクラッド層に含まれる第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0070】
このため、本発明に係る第2の半導体レーザ装置では、活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、活性層内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0071】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置において、活性層はAlGaAsを含む層であり、第二導電型のクラッド層はAlGaInPを含む層であり、窓領域に含まれる不純物には、Znが含まれており、第二導電型のクラッド層の格子定数は、基板の格子定数よりも小さいことが好ましい。
【0072】
このようにすると、AlGaAsよりなる活性層(すなわち、赤外レーザ活性層)における窓領域に含まれる不純物(すなわち、Zn)の拡散速度に基づいて、第二導電型のクラッド層(すなわち、赤外レーザ第二導電型クラッド層)の格子定数が、基板の格子定数よりも小さくなるように調整されているので、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散の促進が図られている。
【0073】
このため、本発明に係る第2の半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZn(例えば、2×1018 [cm-3 ]以上)が容易に拡散されているので、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する赤外レーザ活性層を容易に実現する。
【0074】
更には、このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層における第二導電型不純物の拡散速度が、赤外レーザ第二導電型クラッド層における窓領域に含まれる不純物(すなわち、Zn)の拡散速度よりも小さくなるように、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第二導電型不純物として、Znとは異なる元素を選択することにより、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第二導電型不純物が、赤外レーザ第二導電型クラッド層を通過して赤外レーザ活性層中に拡散されることを防止することができるので、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第二導電型不純物の高濃度化を図ることができる。
【0075】
このため、本発明に係る第2の半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、赤外レーザ活性層内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0076】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置において、第二導電型不純物にはMgが含まれていることが好ましい。
【0077】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層における第二導電型不純物(すなわち、Mg)の拡散速度は、赤外レーザ第二導電型クラッド層におけるZn拡散速度よりも小さいので、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第二導電型不純物Mgの高濃度化を図ることができる。
【0078】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置において、第二導電型不純物の濃度は、6×1017 cm-3 以上であって且つ1.6×1018 cm-3 以下であることが好ましい。
【0079】
このようにすると、赤外レーザ第二導電型クラッド層に含まれる第二導電型不純物(例えば、Mg)の高濃度化を図ることができる。
【0080】
本発明に係る第2の半導体レーザ装置において、活性層は、量子井戸構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0081】
本発明に係る第1の半導体レーザ装置及びその製造方法によると、第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び第二導電型の第2のクラッド層の格子定数が調整されているため、1度の不純物拡散工程によって、第1の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び第2の活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量の不純物を拡散させることができるので、出射端面近傍領域に良好な第1の窓領域を有する第1の活性層を実現すると共に、出射端面近傍領域に良好な第2の窓領域を有する第2の活性層を実現することができる。
【0082】
このように、本発明に係る第1の半導体レーザ装置及びその製造方法では、第1の窓領域と第2の窓領域との双方を良好に形成することができるため、第1の活性層における出射端面近傍領域及び第2の活性層における出射端面近傍領域において、光学損傷が発生することを防止することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0083】
更には、本発明に係る第1の半導体レーザ装置及びその製造方法では、1度の不純物拡散工程によって、第1の窓領域と第2の窓領域との双方を形成することができるので、半導体レーザ装置の歩留まりの向上を図ると共に製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0085】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法について、図1(a) 〜(d) 、図2(a) 及び(b) 、並びに図3(a) 〜(d) を参照しながら説明する。
【0086】
図1(a) 〜(d) 、図2(a) 及び(b) 、並びに図3(a) 〜(d) は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程断面図である。
【0087】
ここで、図1(a) 〜(d) 及び図3(a) 〜(d) は、半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程断面図であって、具体的には、図4で示すIIId-IIId線における要部工程断面図であり、図2(a) は、半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程上面図であって、図2(b) は、半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程斜視図である。
【0088】
まず、図1(a) に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法により、基板100の上に、赤外レーザn型クラッド層101、量子井戸構造を有する赤外レーザ活性層102、赤外レーザp型クラッド層103を下から順に積層する。
【0089】
このとき、MOCVD法による赤外レーザ半導体層(101〜103)の形成条件を調整することにより、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数は、容易に且つ高精度に制御されており、具体的には、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が、-2.0×10-3 ±0.5×10-3 の範囲内を満たすように設定されている。
【0090】
次に、図1(b) に示すように、赤外レーザ半導体層(101〜103)における所望の領域を選択的に除去することにより、基板100を露出させる。
【0091】
次に、図1(c) に示すように、MOCVD法により、露出された基板100の上に、赤外レーザ半導体層(101〜103)を覆うように、赤色レーザn型クラッド層104、量子井戸構造を有する赤色レーザ活性層105、赤色レーザp型クラッド層106を下から順に積層する。
【0092】
このとき、MOCVD法による赤色レーザ半導体層(104〜106)の形成条件を調整することにより、赤色レーザp型クラッド層106の格子定数は、容易に且つ高精度に制御されており、具体的には、赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値が、0±0.5×10-3 の範囲内を満たすように設定されている。
【0093】
このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値よりも小さくなるように設定されている。ここで、p型クラッド層(103又は106)の基板100に対する格子不整値とは、基板100の格子定数をa0、p型クラッド層(103又は106)の格子定数をa1、及びp型クラッド層(103又は106)のポアソン比をμとしたときの、μ×(a1−a0)/a0で表される式を用いて算出される数値である。これらの値は、X線回折装置を用いて、容易に実測することができる。
【0094】
次に、図1(d) に示すように、赤色レーザn型クラッド層104、赤色レーザ活性層105、赤色レーザp型クラッド層106における、赤外レーザ半導体層(101〜103)の上面及び側面に存在している部分を選択的に除去する。
【0095】
次に、図2(a) に示すように、赤外レーザp型クラッド層103における出射端面近傍領域200a以外の部分の上に、例えば、SiO2 よりなる絶縁膜201aを形成すると共に、赤色レーザp型クラッド層106における出射端面近傍領域200b以外の部分の上に、例えば、SiO2 よりなる絶縁膜201bを形成する。ここで、出射端面近傍領域(200a及び200b)の共振器方向の長さlは20μmであって、全体の共振器方向の長さLは1300μmである。
【0096】
次に、図2(b) に示すように、絶縁膜(201a及び201b)をマスクとして、窒素雰囲気であって且つ600°の温度の下、120分間の加熱を施すことにより、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域に存在している部分、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域に存在している部分にZnを拡散させる。
【0097】
これにより、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域に存在している部分、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域に存在している部分の無秩序化によるバンドギャップの拡大を図る。このようにして、赤外レーザ半導体層(101〜103)における出射端面近傍領域に赤外レーザ窓領域を形成すると共に、赤色レーザ半導体層(104〜106)における出射端面近傍領域に赤色レーザ窓領域を形成する。
【0098】
次に、図3(a) に示すように、絶縁膜(201a及び201b)を除去した後、赤外レーザp型クラッド層103における所望の領域を選択的にエッチングすることにより、ストライプ形状のリッジ103aを形成すると共に、赤色レーザp型クラッド層106における所望の領域を選択的にエッチングすることにより、ストライプ形状のリッジ106aを形成する。ここで、断面形状がメサ(台地)形状である、リッジ(103a及び106a)の上辺の幅(wa及びwb)は1μmであって、リッジの下辺の幅(Wa及びWb)は3μmである。
【0099】
次に、図3(b) に示すように、選択エピタキシャル成長により、基板100の上に、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103aの上面以外の部分、及び赤色レーザp型クラッド層106におけるリッジ106aの上面以外の部分を埋め込むようにして、半導体層を再成長させる。このようにして、基板100の上に、リッジ103aの上面及びリッジ106aの上面を露出させるように、電流ブロック層107を形成する。
【0100】
次に、図3(c) に示すように、エピタキシャル成長により、赤外レーザp型クラッド層103、赤色レーザp型クラッド層106、及び電流ブロック層107の上に、半導体層を再成長させる。このようにして、基板100の上に、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103aの上面及び赤色レーザp型活性層106におけるリッジ106aの上面を覆うように、コンタクト層108を形成する。
【0101】
次に、図3(d) に示すように、コンタクト層108及び電流ブロック層107における、赤外レーザ半導体層(101〜103)と赤色レーザ半導体層(104〜106)との境界近傍領域に存在している部分に対してエッチングを行う。
【0102】
これにより、基板100を露出させるように、電流ブロック層107及びコンタクト層108における、赤外レーザの素子形成領域以外の部分及び赤色レーザの素子形成領域以外の部分を選択的に除去する。
【0103】
このように、赤外レーザと赤色レーザとの素子分離を行うことにより、赤外レーザp型クラッド層103の上に、電流ブロック層107a及びコンタクト層108aを形成すると共に、赤色レーザp型クラッド層106の上に、電流ブロック層107b及びコンタクト層108bを形成する。
【0104】
続いて、図3(d) に示すように、蒸着法を用いて、コンタクト層108aにおける出射端面近傍領域(図2(a):200a参照)以外の部分上に、赤外レーザp側電極109aを形成すると共に、コンタクト層108bにおける出射端面近傍領域(図2(a):200b参照)以外の部分上に、赤色レーザp側電極109bを形成する。
【0105】
続いて、図3(d) に示すように、蒸着法を用いて、基板100における赤外レーザn型クラッド層101及び赤色レーザn型クラッド層104が形成されている側の面と相対している側の面の上に、n側電極110を形成する。
【0106】
以上のようにして、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置を製造する。
【0107】
以下に、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置について、表1及び図4を参照しながら説明する。
【0108】
表1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置における、基板及び各半導体層についての、材料、導電型、膜厚、及びキャリア濃度を示す表である。
【0109】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の構造を示す斜視図である。
【0110】
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置における、基板及び各半導体層についての、材料、導電型、膜厚、及びキャリア濃度について、以下に示す[表1]に記す。
【0111】
【表1】

【0112】
但し、赤外レーザp型クラッド層103の膜厚において、膜厚1.4[μm]とは、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103a部分の膜厚であり、また、膜厚0.2[μm]とは、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103a以外の部分の膜厚である。
【0113】
同様に、赤色レーザp型クラッド層106の膜厚において、膜厚1.4[μm]とは、赤色レーザp型クラッド層106におけるリッジ106a部分の膜厚であり、また、膜厚0.2[μm]とは、赤色レーザp型クラッド層106におけるリッジ106a以外の部分の膜厚である。
【0114】
但し、電流ブロック層(107a及び107b)の膜厚は、電流ブロック層における基板100に対して垂直な方向に再成長させた部分の膜厚を言う。
【0115】
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103を構成する材料である、(Al0.7 Ga0.3 )y In1-y P:Zn におけるyは、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が、-2.0×10-3 ±0.5×10-3 を満たす値となるように設定されている。
【0116】
一方、赤色レーザp型クラッド層106を構成する材料である、(Al0.7 Ga0.3 )u In1-u P:Zn におけるuは、赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値が、0±0.5×10-3 を満たす値となるように設定されている。
【0117】
このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値は、-3.0×10-3 以上であって且つ -5.0×10-4 未満の範囲内に調整されており、赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値は、-5.0×10-4 以上であって且つ 2.0×10-3 以下の範囲内に調整されている。
【0118】
すなわち、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値よりも小さくなるように調整されている。
【0119】
以下に、AlGaInPよりなるp型クラッド層における、格子不整値とZn拡散速度との関係について、図5を参照しながら説明する。
【0120】
図5は、AlGaInPよりなるp型クラッド層における、格子不整値とZn拡散深さとの相関性を示す図である。
【0121】
具体的には、Zn拡散の条件(窒素雰囲気・600℃の温度・120分間の加熱)が一定の下、AlGaInPよりなるp型クラッド層の格子不整値を変えながら、該p型クラッド層に対してZn拡散を行った場合における、該p型クラッド層のZn拡散深さを測定する。
【0122】
ここで、図5の横軸は、p型クラッド層の格子不整値を示しており、格子不整値はEを用いて表されており、例えば、-3.0E-03とは、-3.0×10-3 のことである。
【0123】
また、図5の縦軸は、p型クラッド層におけるZnが注入される側の面を基準、すなわち、0[μm]としてプロットしており、基準とされた面からp型クラッド層内にZnが拡散された領域までの深さ方向に沿った距離、すなわち、p型クラッド層におけるZn拡散深さ[μm]を示している。
【0124】
図5に示すように、p型クラッド層の格子不整値が0以上(具体的には、0.0E+00〜約1.7E−03)の場合、Zn拡散深さは、p型クラッド層の格子不整値に依存することなく、ほぼ一定の値(具体的には、約0.1[μm])を示す。
【0125】
このように、p型クラッド層の格子不整値が0以上、すなわち、圧縮応力の場合、Zn拡散速度は、ほぼ一定の値を示し、p型クラッド層の格子不整値に殆ど依存しない。
【0126】
一方、図5に示すように、p型クラッド層の格子不整値が0以下(具体的には、-2.0E−03〜0.0E+00)の場合、Zn拡散深さは、p型クラッド層の格子不整値が小さくなるに従って、ほぼ一定の割合で大きくなる。
【0127】
例えば、図5に示すように、p型クラッド層の格子不整値が0(すなわち、0.0E+00)の場合のZn拡散深さは約0.1[μm]であるのに対し、p型クラッド層の格子不整値が-2.0×10-3 (すなわち、-2.0E−03)の場合のZn拡散深さは約0.3[μm]であり、p型クラッド層の格子不整値が0 から-2.0×10-3 へ変化することにより、Zn拡散深さは0.1[μm]から0.3[μm]へ変化している。
【0128】
このように、p型クラッド層の格子不整値が0以下、すなわち、引張り応力の場合、Zn拡散速度は、p型クラッド層の格子不整値が小さくなるに従って、ほぼ一定の割合で大きくなる。
【0129】
本発明では、(Al0.7 Ga0.3 )y In1-y Pよりなる赤外レーザp型クラッド層103の格子不整値が0よりも小さく、且つ(Al0.7 Ga0.3 )u In1-u Pよりなる赤色レーザp型クラッド層106の格子不整値よりも小さくなるように調整する。これにより、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整することができる。
【0130】
ここで、本発明の効果を有効に説明するために、従来例に係る半導体レーザ装置及び本発明に係る半導体レーザ装置について、以下に示す測定を行った。
【0131】
但し、以下の測定に用いた従来例に係る半導体レーザ装置では、赤色レーザ活性層に対して、窓構造としての機能を果たすために必要な量のZnが拡散されるように、Zn拡散工程の条件が調整された下、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ窓領域と赤色レーザ窓領域との双方が形成されている場合を具体例に挙げて説明する。
【0132】
まず、従来例に係る半導体レーザ装置及び本発明に係る半導体レーザ装置について、2次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)の測定による評価を行った。
【0133】
以下に、SIMSの測定結果について、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0134】
図6は、従来例に係る半導体レーザ装置の窓領域における、SIMSの測定結果を示す図である。
【0135】
また、図7は、本発明に係る半導体レーザ装置の窓領域における、SIMSの測定結果を示す図である。
【0136】
図6及び図7に示すスペクトルAは、赤外レーザ窓領域における、SIMSの測定結果を示しており、図6及び図7に示すスペクトルBは、赤色レーザ窓領域における、SIMSの測定結果を示している。
【0137】
また、図6及び図7に示す横軸は、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合では、赤外レーザ活性層における赤外レーザp型クラッド層が形成されている側の面を基準、すなわち、0[μm]としてプロットしており、基準とされた面から各半導体層までの深さ方向に沿った距離、すなわち、各半導体層における深さ[μm]を示している。
【0138】
同様に、図6及び図7に示す横軸は、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合では、赤色レーザ活性層における赤色レーザp型クラッド層が形成されている側の面を基準、すなわち、0[μm]としてプロットしており、基準とされた面から各半導体層までの深さ方向に沿った距離、すなわち、各半導体層における深さ[μm]を示している。
【0139】
ここで、各半導体層とは、図6及び図7に示すように、p型クラッド層、活性層、及びn型クラッド層のことであり、具体的には、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合では、赤外レーザp型クラッド層、赤外レーザ活性層、及び赤外レーザn型クラッド層における、Znが拡散されてなる窓領域に存在している部分であり、同様に、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合では、赤色レーザp型クラッド層、赤色レーザ活性層、及び赤色レーザn型クラッド層における、Znが拡散されてなる窓領域に存在している部分である。
【0140】
従来例に係る半導体レーザ装置における、SIMSの測定結果について以下に説明する。
【0141】
従来例に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層の格子不整値と赤色レーザp型クラッド層の格子不整値とが互いに等しいので、図6に示すように、p型クラッド層の領域では、赤外レーザ及び赤色レーザのいずれの場合においても、ほぼ同様のスペクトルを示す。
【0142】
しかしながら、前述したように、AlGaAs混晶よりなる赤外レーザ活性層におけるZn拡散速度は、AlGaInP混晶よりなる赤色レーザ活性層におけるZn拡散速度よりも非常に小さい。
【0143】
このため、図6に示すように、活性層の領域では、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合、赤外レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度が急激に減少しているのに対し、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合、赤色レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度が急激に減少することはなく、赤色レーザ活性層中へ充分な量のZnが拡散されている。
【0144】
具体的には、図6に示すように、活性層の領域では、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合、深さが進むに従い、赤外レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度が、約1017 [cm-3 ]にまで急激に減少しているのに対し、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合、深さが進むに従い、赤色レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度が増加しており、赤色レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度は、約5×1019 [cm-3 ]である。
【0145】
ここで、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する活性層を実現するためには、活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZn(具体的には、2×1018 [cm-3 ]以上)を拡散させることにより、活性層におけるZnが拡散された領域の無秩序化によるバンドギャップの拡大を図らなければならない。このため、活性層における窓領域に存在している部分のZn濃度が、2E18[cm-3 ]、すなわち、2×1018 [cm-3 ]以上の濃度を満たす必要がある。
【0146】
従来例に係る半導体レーザ装置では、図6に示すように、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合、赤色レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度は、約5×1019 [cm-3 ]であり、2×1018 [cm-3 ]以上の濃度を満たしているのに対し、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合、赤外レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度は、約1017 [cm-3 ]にまで急激に減少しているので、2×1018 [cm-3 ]以上の濃度を満たしていない。
【0147】
このように、従来例に係る半導体レーザ装置では、赤色レーザの場合、赤色レーザ活性層中には、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されているのに対し、赤外レーザの場合、赤外レーザ活性層中には、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されていないことが確認された。
【0148】
本発明に係る半導体レーザ装置における、SIMSの測定結果について以下に説明する。
【0149】
本発明に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層の格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層の格子不整値よりも小さくなるように調整されているため、赤外レーザp型クラッド層におけるZn拡散速度は、赤色レーザp型クラッド層におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整されているので、図7に示すように、p型クラッド層の領域では、深さが進むに従い、赤外レーザp型クラッド層のZn濃度が、赤色レーザp型クラッド層のZn濃度よりも増加している。
【0150】
このように、本発明に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整されているので、赤外レーザp型クラッド層を通過して赤外レーザ活性層中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量が、赤色レーザp型クラッド層を通過して赤色レーザ活性層中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量よりも多くなるように調整されている。
【0151】
このため、本発明に係る半導体レーザ装置では、図7に示すように、活性層の領域では、赤外レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度が急激に減少しているにもかかわらず、赤外レーザ活性層中へ拡散されるZn濃度は、2×1018 [cm-3 ]以上の濃度を満たしており、赤外レーザ活性層中には、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されていることが確認された。
【0152】
次に、従来例に係る半導体レーザ装置及び本発明に係る半導体レーザ装置について、電流−光出力特性の測定による評価を行った。
【0153】
以下に、電流−光出力特性の測定結果について、設計光出力が200[mW]である二波長レーザ装置を具体例に挙げて、図8及び図9を参照しながら説明する。
【0154】
図8は、従来例に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について示す図である。
【0155】
また、図9は、本発明に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について示す図である。
【0156】
図8及び図9に示すスペクトルAは、赤外レーザの電流−光出力特性について示しており、図8及び図9に示すスペクトルBは、赤色レーザの電流−光出力特性について示している。
【0157】
従来例に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について以下に説明する。
【0158】
従来例に係る半導体レーザ装置では、図8に示すように、赤色レーザ(:スペクトルB参照)の場合では、電流が増加するに従い、光出力が一定の割合で増加しており、電流が約290[mA]の付近では、光出力が設計光出力値である200[mW]に到達している。
【0159】
一方、従来例に係る半導体レーザ装置では、図8に示すように、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合では、電流が増加するに従い、光出力が一定の割合で増加しており、電流が約200[mA]の付近では、約170[mA]の光出力値まで達してはいるものの、電流が約200[mA]以降では、光出力が急激に減少している。
【0160】
このように、従来例に係る半導体レーザ装置では、前述した図6に示すように、赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中には、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されているため、赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域において、光学損傷が発生することを防止することができるので、レーザ発振動作の停止を引き起こすことなく、設計光出力値である200[mW]を達成することができる。
【0161】
一方、従来例に係る半導体レーザ装置では、前述した図6に示すように、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中には、窓構造としての機能を果たすために必要な量のZnが拡散されていないため、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域において、光学損傷が発生することによって、レーザ発振動作の停止が引き起こされるので、設計光出力値である200[mW]を達成することができない。
【0162】
本発明に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について以下に説明する。
【0163】
本発明に係る半導体レーザ装置では、図9に示すように、赤外レーザ(:スペクトルA参照)の場合においても、電流が増加するに従い、光出力が一定の割合で増加しており、電流が約240[mA]の付近では、光出力が設計光出力値である200[mW]に到達している。
【0164】
このように、本発明に係る半導体レーザ装置では、前述した図7に示すように、赤色レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中だけでなく、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中にも、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されているため、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域において、光学損傷が発生することを防止することができるので、レーザ発振動作の停止を引き起こすことなく、設計光出力値である200[mW]を達成することができる。
【0165】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置によると、赤外レーザ活性層102におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層105におけるZnの拡散速度との差異を補償するように、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数が基板100の格子定数よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の格子定数よりも小さくなるように調整されているので、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整されている。
【0166】
このため、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層102におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層105におけるZn拡散速度との差異を補償するように、赤外レーザp型クラッド層103を通過して赤外レーザ活性層102中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量が、赤色レーザp型クラッド層106を通過して赤色レーザ活性層105中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量よりも多くなるように調整されている。
【0167】
したがって、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されている(図7参照)ため、出射端面近傍領域に良好な赤外レーザ窓領域を有する赤外レーザ活性層102を実現すると共に、出射端面近傍領域に良好な赤色レーザ窓領域を有する赤色レーザ活性層105を実現することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供する(図9参照)ことができる。
【0168】
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、[表1]に示すように、赤外レーザp型クラッド層103を構成する材料は、(Alx Ga1-x )y In1-y P(Alの組成比x=0.7)であり、赤色レーザp型クラッド層106を構成する材料は、 (Alt Ga1-t )u In1-u P(Alの組成比t=0.7)である場合を具体例として挙げている。
【0169】
しかしながら、本発明はこれに限定されることはなく、半導体レーザ装置の設計上の理由により、赤外レーザp型クラッド層103におけるAlの組成比x、及び赤色レーザp型クラッド層106におけるAlの組成比tは適宜調整されている。
【0170】
一般に、半導体層におけるAlの組成比が小さくなる程、該半導体層におけるZn拡散速度は小さくなる。
【0171】
しかしながら、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、組成比xと組成比tとが、x<tの関係を満たしている場合においても、組成比y及び組成比uを調整することにより、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度よりも大きくなるように調整することができる。
【0172】
具体的には、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が、-3.0×10-3 以上であって且つ -5.0×10-4 未満の範囲を満たすと共に、赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値が、-5.0×10-4 以上であって且つ 2.0×10-3 以下の範囲を満たすように、組成比y及び組成比uを調整する。
【0173】
このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、組成比xと組成比tとが、x<tの関係を満たしている場合においても、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度よりも小さくなることはない。
【0174】
本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法によると、図1(a) に示すように、MOCVD法による赤外レーザ半導体層(101〜103)の形成工程の際に、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数を容易に且つ高精度に制御すると共に、図1(c) に示すように、MOCVD法による赤色レーザ半導体層(104〜106)の形成工程の際に、赤色レーザp型クラッド層106の格子定数を容易に且つ高精度に制御することにより、赤外レーザ活性層102におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層105におけるZn拡散速度との差異を補償するように、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数が基板100の格子定数よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の格子定数よりも小さくなるように予め調整することができる。
【0175】
これにより、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザ活性層102におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層105におけるZn拡散速度との差異を補償するように、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度が、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度よりも大きくなるように予め調整することができるので、図2(b) に示すように、Zn拡散工程の際に、赤外レーザp型クラッド層103を通過して赤外レーザ活性層102中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量が、赤色レーザp型クラッド層106を通過して赤色レーザ活性層105中へ拡散されるZnの実効的なドーズ量よりも多くなるように調整することができる。
【0176】
このため、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、1度のZn拡散工程によって、図7に示すように、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域200aに存在している部分中、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域200bに存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnを拡散させることができるので、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域200aに良好な赤外レーザ窓領域を形成すると共に、赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域200bに良好な赤色レーザ窓領域を形成することができる。
【0177】
このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザ窓領域と赤色レーザ窓領域との双方を良好に形成することができるため、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域200a及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域200bにおいて、光学損傷が発生することを防止することができるので、図9に示すように、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0178】
また、このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、図2(b) に示すように、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ窓領域と赤色レーザ窓領域との双方を形成することができるので、半導体レーザ装置の歩留まりの向上を図ると共に製造コストの低減を図ることができる。
【0179】
また、このように、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、図7に示すように、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域200aに存在している部分中、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域200bに存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnを拡散させることができる。
【0180】
このため、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、従来例のように、赤色レーザ半導体層(104〜106)における出射端面近傍領域200bに存在している部分中に、Znが過剰に拡散されることがないので、赤色レーザ半導体層(104〜106)における出射端面近傍領域200bに存在している部分の結晶性が著しく劣化することを防止することができる。
【0181】
更には、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、従来例のように、赤色レーザ半導体層(104〜106)における出射端面近傍領域200bに存在している部分中に過剰に拡散されたZnが、基板100にまで到達することがないので、半導体レーザ装置において、電気的短絡が発生することを防止することができる。
【0182】
尚、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置及びその製造方法では、二波長レーザ装置を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、三波長レーザ装置等のモノリシック集積レーザ装置においても、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置及びその製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0183】
(第2の実施形態)
今後、DVD-RAM等へのデータの書き込みの更なる高速化及び多層化へ対応するために、半導体レーザ装置に求められる光出力は、300[mW]〜400[mW]の光出力であり、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置が求められている。
【0184】
そこで、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様に、1度のZn拡散工程によって、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する赤外レーザ活性層及び赤色レーザ活性層を実現することを目的とするだけでなく、更には、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【0185】
ここで、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を実現するためには、活性層内へより多くの電流が注入されなければならない。
【0186】
しかしながら、活性層内へ注入される電流が増加するに従って、発光に寄与しない電流(以下、無効電流と記す)が増加する。無効電流は発熱を引き起こす原因となるので、活性層内に発生する無効電流が増加するに従って、活性層内の温度が上昇する。
【0187】
このため、活性層内において、発熱による光出力飽和(以下、熱飽和と記す)が引き起こされるため、所望の光出力を達成することができないので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を実現することができない。したがって、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を実現するためには、活性層内に発生する無効電流の低減を図ることが必要である。
【0188】
そこで、無効電流の低減を図るための手段として、p型クラッド層に含まれる不純物の高濃度化が挙げられる。
【0189】
これにより、p型クラッド層において、擬フェルミ準位のシフトを図ることができるため、p型クラッド層内から活性層内へ注入される電子に対するエネルギー障壁を高めることができるので、活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができる。
【0190】
このように、p型クラッド層に含まれる不純物の高濃度化を図ることにより、活性層内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、活性層内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を実現することができる。
【0191】
そこで、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、p型クラッド層に含まれる不純物の高濃度化を図ることにより、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供する。
【0192】
以下に、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置について、350[mW]の光出力動作が可能な二波長レーザ装置を具体例に挙げて説明する。
【0193】
ここで、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の構成要素は、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の構成要素と同様であるので、本実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した図4を参照しながら説明する。したがって、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様の説明は繰り返し行わない。
【0194】
本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置における、基板及び各半導体層についての、材料、導電型、膜厚、及びキャリア濃度について、以下に示す[表2]に記す。
【0195】
【表2】

【0196】
但し、赤外レーザp型クラッド層103の膜厚において、膜厚1.4[μm]とは、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103a部分の膜厚であり、また、膜厚0.2[μm]とは、赤外レーザp型クラッド層103におけるリッジ103a以外の部分の膜厚である。
【0197】
同様に、赤色レーザp型クラッド層106の膜厚において、膜厚1.4[μm]とは、赤色レーザp型クラッド層106におけるリッジ106a部分の膜厚であり、また、膜厚0.2[μm]とは、赤色レーザp型クラッド層106におけるリッジ106a以外の部分の膜厚である。
【0198】
但し、電流ブロック層(107a及び107b)の膜厚は、電流ブロック層における基板100に対して垂直な方向に再成長させた部分の膜厚を言う。
【0199】
本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置について、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と比較しながら、以下に詳細に説明する。
【0200】
本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様に、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数及び赤色レーザp型クラッド層106の格子定数は、赤外レーザ活性層102におけるZn拡散速度と赤色レーザ活性層105におけるZn拡散速度との差異を補償するように調整されている。
【0201】
具体的には、赤外レーザp型クラッド層103を構成する材料である、(Al0.7 Ga0.3 )y In1-y P:Mgにおけるyは、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が、-2.0×10-3 ±0.5×10-3 を満たす値となるように設定されている。
【0202】
一方、赤色レーザp型クラッド層106を構成する材料である、(Al0.7 Ga0.3 )u In1-u P:Znにおけるuは、赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値が、0±0.5×10-3 を満たす値となるように設定されている。
【0203】
このように、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様に、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値よりも小さくなるように調整されている。
【0204】
このため、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様に、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域に存在している部分中、及び赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZnが拡散されているので、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様の効果を得ることができる。
【0205】
更には、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と比較して、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物及び赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物の高濃度化が図られている。
【0206】
前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103のキャリア濃度が5×1017 [cm-3 ]であり、赤色レーザp型クラッド層106のキャリア濃度が3×1017 [cm-3 ]である(前述した[表1]参照)。
【0207】
これに対し、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、[表2]に示すように、赤外レーザp型クラッド層103のキャリア濃度が1.5×1018 [cm-3 ]であり、赤色レーザp型クラッド層106のキャリア濃度が1.5×1018 [cm-3 ]である。
【0208】
このように、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物Mgの濃度、及び赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物Znの濃度は、6×1017 [cm-3 ]以上であって且つ 1.6×1018 [cm-3 ]以下の範囲内に調整されている。
【0209】
このため、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザ活性層102及び赤色レーザ活性層105内に発生する無効電流の低減を図ることができるため、赤外レーザ活性層102及び赤色レーザ活性層105内において、熱飽和が引き起こされることを防止することができるので、より一層高出力(例えば、350[mW]の光出力)動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0210】
ここで、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物としてZnを用いる(前述した[表1]参照)のに対し、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、[表2]に示すように、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物としてMgを用いる。
【0211】
このように、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103におけるp型不純物(例えば、Mg)拡散速度が、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度よりも小さくなるように、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物として、Znとは異なるp型不純物が選択されている。
【0212】
このため、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物Mgが、赤外レーザp型クラッド層103を通過して、赤外レーザ活性層102における内部領域にまで拡散されることを防止することができるので、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物Mgの高濃度化を図ることができる。
【0213】
更には、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物Mgが、赤外レーザp型クラッド層103を通過して、赤外レーザ活性層102における内部領域にまで拡散されることがないため、赤外レーザ活性層102において、キャリアの非発光再結合が促進されることはないので、半導体レーザ装置の特性が劣化することを防止することができる。
【0214】
一方、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、[表2]に示すように、赤色レーザp型クラッド層106に高濃度に含まれるp型不純物としてZnを用いる。しかしながら、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、赤色レーザp型クラッド層106におけるZn拡散速度が、赤外レーザp型クラッド層103におけるZn拡散速度よりも小さくなるように調整されているため、赤色レーザp型クラッド層106に高濃度に含まれるp型不純物Znが、赤色レーザp型クラッド層106を通過して、赤色レーザ活性層105における内部領域にまで拡散されることがないので、赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物Znの高濃度化を図ることができる。
【0215】
以下に、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法について簡単に説明する。
【0216】
尚、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の構成要素は、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の構成要素と同様であるので、本実施形態に係る半導体レーザ装置は、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法と同様の工程を経て製造することができる。
【0217】
本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、前述した図1(a) に示すように、MOCVD法による赤外レーザ半導体層(101〜103)の形成工程の際に、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数を容易に且つ高精度に制御するだけでなく、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物Mgの濃度を容易に且つ高精度に制御する。
【0218】
同様に、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、前述した図1(c) に示すように、MOCVD法による赤色レーザ半導体層(104〜106)の形成工程の際に、赤色レーザp型クラッド層106の格子定数を容易に且つ高精度に制御するだけでなく、赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物Znの濃度を容易に且つ高精度に制御する。
【0219】
これにより、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザp型クラッド層103の格子定数が基板100の格子定数よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の格子定数よりも小さくなるように調整すると共に、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物Mg及び赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物Znの高濃度化を図ることができる。
【0220】
このため、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法と同様に、赤外レーザp型クラッド層103の基板100に対する格子不整値が0よりも小さく、且つ赤色レーザp型クラッド層106の基板100に対する格子不整値よりも小さくなるように調整するので、前述した図2(b) に示すように、1度のZn拡散工程によって、赤外レーザ活性層102における出射端面近傍領域200aに良好な窓領域を形成すると共に赤色レーザ活性層105における出射端面近傍領域200bに良好な窓領域を形成することができるので、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0221】
更には、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザp型クラッド層103に含まれるp型不純物Mg及び赤色レーザp型クラッド層106に含まれるp型不純物Znの高濃度化を図ることができるため、赤外レーザ活性層102及び赤色レーザ活性層105内に発生する無効電流の低減を図ることができるので、前述した本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置と比較して、より一層高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【0222】
また、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物としてMgを用いる。
【0223】
このため、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法では、MOCVD法による赤外レーザ半導体層(101〜103)の形成工程(前述した図1(a) 参照)後に行われる、MOCVD法による赤色レーザ半導体層(104〜106)の形成工程(前述した図1(c) 参照)及びZn拡散工程(前述した図2(b) 参照)等の際に、熱(例えば、Zn拡散工程では600℃の熱)によって、赤外レーザp型クラッド層103に高濃度に含まれるp型不純物Mgが、赤外レーザp型クラッド層103を通過して、赤外レーザ活性層102における内部領域にまで拡散されることを防止することができる。
【0224】
尚、本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置では、二波長レーザ装置を具体例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、三波長レーザ装置等のモノリシック集積レーザ装置、又は単体の赤外レーザ装置に対しても本発明を有効に適用することができる。
【0225】
例えば、単体の赤外レーザ装置に対して本発明を適用した場合、赤外レーザ活性層におけるZn拡散速度に基づいて、赤外レーザp型クラッド層の格子定数が、基板の格子定数よりも小さくなるように調整することにより、赤外レーザ活性層におけるZn拡散の促進を図ることができる。
【0226】
このため、赤外レーザ活性層における出射端面近傍領域に存在している部分中に、窓構造としての機能を果たすために適度な量のZn(例えば、2×1018 [cm-3 ]以上)を容易に拡散させることができるので、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する赤外レーザ活性層を容易に実現することができる。
【0227】
更には、単体の赤外レーザ装置に対して本発明を適用した場合、前述した本発明の第2の実施形態に係る半導体レーザ装置と同様に、赤外レーザp型クラッド層に含まれるp型不純物Mgの高濃度化を図ることにより、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を実現することができる。
【0228】
このように、単体の赤外レーザ装置に対して本発明を適用することにより、出射端面近傍領域に良好な窓領域を有する赤外レーザ活性層を容易に実現すると共に、高出力動作が可能な半導体レーザ装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明は、窓構造を有する半導体レーザ装置及びその製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】(a) 〜(d) は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程断面図である。
【図2】(a) 及び(b) は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程図である。
【図3】(a) 〜(d) は、本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の製造方法を示す要部工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る半導体レーザ装置の構造を示す斜視図である。
【図5】AlGaInPよりなるp型クラッド層における、格子不整値とZn拡散深さとの相関性を示す図である。
【図6】従来例に係る半導体レーザ装置の窓領域における、SIMSの測定結果を示す図である。
【図7】本発明に係る半導体レーザ装置の窓領域における、SIMSの測定結果を示す図である。
【図8】従来例に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について示す図である。
【図9】本発明に係る半導体レーザ装置における、電流−光出力特性について示す図である。
【符号の説明】
【0231】
100 基板
101 赤外レーザn型クラッド層
102 赤外レーザ活性層
103 赤外レーザp型クラッド層
103a リッジ
104 赤色レーザn型クラッド層
105 赤色レーザ活性層
106 赤色レーザp型クラッド層
106a リッジ
107、107a、107b 電流ブロック層
108、108a、108b コンタクト層
109a 赤外レーザp側電極
109b 赤外レーザp側電極
110 n側電極
200a、200b 出射端面近傍領域
201a、201b 絶縁膜
l、L 長さ
wa、wb、Wa、Wb 幅




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第一導電型の第1のクラッド層、出射端面近傍に第1の窓領域を有する第1の活性層、及び第二導電型の第1のクラッド層が下から順に積層されてなる、第1の波長のレーザ光を放出する第1の素子と、
前記基板上に、第一導電型の第2のクラッド層、出射端面近傍に第2の窓領域を有する第2の活性層、及び第二導電型の第2のクラッド層が下から順に積層されてなる、第2の波長のレーザ光を放出する第2の素子とを備え、
前記第二導電型の第1のクラッド層の格子定数及び前記第二導電型の第2のクラッド層の格子定数は、前記第1の活性層における前記第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度と前記第2の活性層における前記第2の窓領域に含まれる不純物の拡散速度との差異が補償されるように調整された定数であることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記第1の活性層はAlGaAsを含む層であり、
前記第2の活性層はAlGaInPを含む層であり、
前記第二導電型の第1のクラッド層及び前記第二導電型の第2のクラッド層はAlGaInPを含む層であり、
前記第1の窓領域に含まれる不純物及び前記第2の窓領域に含まれる不純物には、Znが含まれており、
前記第二導電型の第1のクラッド層の格子定数は前記基板の格子定数よりも小さく、且つ前記第二導電型の第2のクラッド層の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記第二導電型の第1のクラッド層の前記基板に対する格子不整値は、-3.0×10-3 以上であって且つ -5.0×10-4 未満であり、
前記第二導電型の第2のクラッド層の前記基板に対する格子不整値は、-5.0×10-4 以上であって且つ 2.0×10-3 以下であることを特徴とする請求項2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記第二導電型の第1のクラッド層は、一般式が(AlxGa1-xyIn1-yP(0≦x≦1,0≦y≦1)で表される化合物を含んでおり、
前記第二導電型の第2のクラッド層は、一般式が(AltGa1-tuIn1-uP(0≦t≦1,0≦u≦1)で表される化合物を含んでおり、
前記xと前記tとは、x<tの関係を満たしていることを特徴とする請求項2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物は、前記第1の窓領域に含まれる不純物とは異なる元素であり、
前記第二導電型の第1のクラッド層における前記第1の第二導電型不純物の拡散速度は、前記第二導電型の第1のクラッド層における前記第1の窓領域に含まれる不純物の拡散速度よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記第1の第二導電型不純物にはMgが含まれていることを特徴とする請求項5に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の濃度、及び前記第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の濃度は、6×1017 cm-3 以上であって且つ 1.6×1018 cm-3 以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記第1の活性層及び前記第2の活性層のうちの少なくとも1つは、量子井戸構造であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
基板上に、第一導電型の第1のクラッド層、第1の活性層、及び第二導電型の第1のクラッド層を下から順に積層する工程(A)と、
前記基板上に、第一導電型の第2のクラッド層、第2の活性層、及び第二導電型の第2のクラッド層を下から順に積層する工程(B)と、
熱処理によって、不純物を少なくとも前記第1の活性層及び前記第2の活性層まで拡散させることにより、前記第1の活性層における出射端面近傍領域に第1の窓領域を形成すると共に前記第2の活性層における出射端面近傍領域に第2の窓領域を形成する工程(C)とを備え、
前記工程(A)は、前記第二導電型の第1のクラッド層の格子定数を調整する工程であり、且つ
前記工程(B)は、前記第二導電型の第2のクラッド層の格子定数を調整する工程であることを特徴とする半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A)は、前記第二導電型の第1のクラッド層に含まれる第1の第二導電型不純物の濃度を更に調整する工程であり、
前記工程(B)は、前記第二導電型の第2のクラッド層に含まれる第2の第二導電型不純物の濃度を更に調整する工程であることを特徴とする請求項9に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項11】
基板上に、第一導電型のクラッド層、出射端面近傍に窓領域を有する活性層、及び第二導電型のクラッド層を備え、
前記第二導電型のクラッド層の格子定数は、前記活性層における前記窓領域に含まれる不純物の拡散速度に基づいて調整されており、且つ
前記第二導電型のクラッド層に含まれる第二導電型不純物は、前記窓領域に含まれる不純物とは異なる元素であり、
前記第二導電型のクラッド層における前記第二導電型不純物の拡散速度は、前記第二導電型のクラッド層における前記窓領域に含まれる不純物の拡散速度よりも小さいことを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項12】
前記活性層はAlGaAsを含む層であり、
前記第二導電型のクラッド層はAlGaInPを含む層であり、
前記窓領域に含まれる不純物には、Znが含まれており、
前記第二導電型のクラッド層の格子定数は、前記基板の格子定数よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の半導体レーザ装置。
【請求項13】
前記第二導電型不純物にはMgが含まれていることを特徴とする請求項12に記載の半導体レーザ装置。
【請求項14】
前記第二導電型のクラッド層に含まれる前記第二導電型不純物の濃度は、6×1017 cm-3 以上であって且つ1.6×1018 cm-3 以下であることを特徴とする請求項12に記載の半導体レーザ装置。
【請求項15】
前記活性層は、量子井戸構造であることを特徴とする請求項11に記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−35668(P2007−35668A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212226(P2005−212226)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】