説明

半導体基板上の位相シフタ並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合成器

【課題】精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供すること。
【解決手段】PBS100は、第1の光カプラ110と、第1の複屈折率調整部120と、第2の複屈折率調整部130と、第2の光カプラ140とを閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板101上に備える。第1の複屈折率調整部120及び第2の複屈折率調整部130が位相シフタとして機能する。第1の複屈折率調整部120は、第1の幅の第1の導波路部102Aと、第2の幅の第2の導波路部103Aと、第1の電極102Bと、第2の電極103Bとで構成され、ここで、第1の幅は第2の幅よりも大きい。第2の複屈折率調整部130は、第1の導波路部102Aから傾斜して配置された第3の導波路部102Cと、第2の導波路部103Bから傾斜して第3の導波路部102Cと平行に配置された第4の導波路部103Cと、第3の電極102Dと、第4の電極103Dとで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板上の位相シフタ並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合成器に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等により通信トラフィックの大容量化が求められている。そのため、波長分割多重(WDM)システムにおいて、1チャネル当たりの伝送速度の増加や波長数の増加が求められている。具体的には、WDMシステムの伝送には40Gbit/sや100Gbit/sといった高い伝送速度が求められている。
【0003】
ところが、高速化のために変調シンボルレートを高くすると、分散耐性が急激に劣化し、伝送距離が縮小してしまうという問題等があり、シンボルレートを上げずにビットレートを大きくする多値化技術や多重化技術の必要性が高まっている。マッハツェンダ型光変調器を複数並列に配置したDQPSK(Differential Quadrature Phasa Shift Keying)光変調器やDP(Dual Polarization)−QPSK光変調器等、様々なフォーマットが開発されているが、こうしたアドバンスドフォーマットでは偏波多重化技術が標準的になってきている。
【0004】
偏波多重技術において光送信器に必要な機能は、直交する偏光成分それぞれに異なる変調信号を載せることである。形にする方法として2つ考えられている。1つは、1偏波の光をそれぞれ変調し、どちらか一方の偏光を90°回転させた後に偏波ビームコンバイナ(Polarization Beam Combiner)により合波する方法(非特許文献1参照)であり、もう1つは、光変調器に光が入射される時点で2つの偏光成分を持たせ、入射後、偏光ビームスプリッタ(Polarization Beam Splitter)により直交する成分に分離して直交成分をそれぞれ変調する方法(非特許文献2参照)である。
【0005】
現在、これらの技術はLiNbO3(ニオブ酸リチウム;LN)で構成されたLN変調器を用いて実現されているが、100Gbit/sのDP−QPSKが今後普及してくると、LN変調器ではサイズが大きくなってしまう。また、半波長電圧が比較的高く、高い電圧出力を有するドライバーを使用する必要もあり、ドライバーでの消費電力が高くなる問題に直面する。現在の通信では、消費電力を下げながら、かつ小型化していくことが求められており、今後はLN変調器だけで上記問題を解決していくことに限りがある。
【0006】
そこで、これらの要求に応える1つの手段として、半導体素子に電界を与えることで屈折率を変化させ、入力電気信号を光の位相変化に変換するマッハツェンダ型の半導体変調器が注目されている。半導体変調器は、LN変調器に比べて、構成する光導波路の比屈折率差が大きく、曲げ半径を小さくできるため、小型な回路レイアウトが可能となる。また、駆動電圧もLN変調器に比べて小さくすることが可能であるため、低消費電力の観点からも注目されている。すでに、これらの半導体変調器においても、LN変調器と同じく、DQPSKなどの多値伝送フォーマットに対応した高速変調器が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroshi Yamazaki et al., “Integrated 100-Gb/s PDM-QPSK modulator using a hybrid assembly technique with silica-based PLCs and LiNbO3 phase modulators,” ECOC 2008, Mo.3.C.1, 2008.
【非特許文献2】C. R. Doerr and L. Zhang, “Monolithic 80-Gb/s Dual Poralization On-Off-Keying Modulator in InP,” OFC, PDP19, 2008.
【非特許文献3】Y. Hashizume, R. Kasahara, T. Saida, Y. Inoue, and M. Okano, “Integrated polarisation beam splitter using waveguide birefringence dependence on waveguide core width,” Electronics Letters, 6 Dec 2001, Vol. 37, No. 25, pp. 1517-1518.
【非特許文献4】大家重明、張吉夫、岡部隆博、「閃亜鉛鉱形結晶の電気光学効果」、レーザー研究、社団法人レーザー学会、1987年1月、第15巻、第1号、pp. 2-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、マッハツェンダ型の半導体変調器における偏波多重化を実現する方法として、マイクロオプティクスを利用した偏波制御が主流である。しかしながら、半導体を利用しているため変調器は小さく作製できるのに、偏波制御する箇所でのサイズがマイクロオプティクスといえども大きく、素子全体のサイズが大きくなり、半導体を利用しているメリットを小さくしてしまっている。また、アライメントが煩雑であり、時間がかかるので製造コストがかかる。
【0009】
したがって、半導体基板上にPBCやPBSをモノリシック集積することが求められている。そうすればアライメントを要さず、半導体変調器における偏波制御を小型に実現可能である。
【0010】
そこで、マッハツェンダ型光回路を導波路幅の異なるアーム導波路で構成すると、TE偏光とTM偏光の屈折率差である複屈折率が上下のアーム導波路で異なることを利用することが考えられる。導波路幅により複屈折率を制御することにより、マッハツェンダ型光回路の出力において、TE偏光とTM偏光との間に半波長の位相差を与えることができる。このため、無偏光光を入射すると、偏波で出力が異なる回路、つまりPBSが実現でき、相反性から反対に、TE偏光およびTM偏光をそれぞれ入力とすると合波されて1つの導波路に出力されるPBCが実現できる(非特許文献3参照)。
【0011】
しかしながら、そのようなマッハツェンダ型光回路を設計通りに再現良く製造することは非常に難しい。特に、半導体光導波路は、導波路幅がわずかに設計からずれても、その導波路の実効屈折率が大きく変化してしまう。そこで、製造したマッハツェンダ型光回路の複屈折率に対する調整機構が必要となる。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供すること、並びにそれを用いた偏波分離器及び偏波合成器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、第1の複屈折率調整部と、前記第1の複屈折率調整部に接続された第2の複屈折率調整部とを閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板上に備え、前記第1の複屈折率調整部は、第1のアーム導波路が有する第1の幅の第1の導波路部と、前記第1のアーム導波路と並列に配置された第2のアーム導波路が有する第2の幅の第2の導波路部と、前記第1の導波路部上の第1の電極と、前記第2の導波路部上の第2の電極とで構成され、前記第1の幅は第2の幅よりも大きく、前記第2の複屈折率調整部は、前記第1のアーム導波路が有する、前記第1の導波路部から傾斜して配置された第3の導波路部と、前記第2のアーム導波路が有する、前記第2の導波路部から傾斜して前記第3の導波路部と平行に配置された第4の導波路部と、前記第3の導波路部の上の第3の電極と、前記第4の導波路部の上の第4の電極とで構成されていることを特徴とする位相シフタである。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第3及び第4の導波路部が、前記第2の複屈折率調整部において、TE偏光およびTM偏光に対する単位電圧当たりの屈折率変化率の偏波面依存性が抑制される方向に配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記半導体基板の主面方位は(100)であり、前記第1及び第2の導波路部は、01−1方向に配置されており、前記第3及び第4の導波路部は、010方向に配置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第4の態様は、第2の態様において、前記半導体基板の主面方位は(100)であり、前記第1及び第2の導波路部は、01−1方向に配置されており、前記第3及び第4の導波路部は、010方向から±5°の範囲ずらして配置されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第5の態様は、第1の光カプラと、前記第1の光カプラに接続された、第1から第4のいずれかの態様の位相シフタと、前記位相シフタに接続された第2の光カプラとを備えることを特徴とする偏波分離器である。
【0018】
また、本発明の第6の態様は、第1の光カプラと、前記第1の光カプラに接続された、第1から第4のいずれかの態様の位相シフタと、前記位相シフタに接続された第2の光カプラとを備えることを特徴とする偏波合成器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1の複屈折率調整部と、第1の複屈折率調整部に接続された第2の複屈折率調整部とを閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板上に備える位相シフタであって、第1の複屈折率調整部を構成する上下のアーム導波路と、第2の複屈折率調整部を構成する上下のアーム導波路とを傾斜させていることにより、精度の高い複屈折率調整が可能な半導体基板上の位相シフタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るPBSの変形形態を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るPBSの製造方法を説明するための図である。
【図4】第2の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図5】閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の屈折率楕円体を示す図である。
【図6】第4の実施形態に係るPBSを示す図である。
【図7】第4の実施形態に係るPBSの変形形態を示す図である。
【図8】従来のRZカーバーを示す図である。
【図9】図6のPBSの動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係るPBSを示す。PBSとして説明するが、PBCとしても機能することは上述の通りである。PBS100は、第1の光カプラ110と、第1の光カプラ110に接続された第1の複屈折率調整部120と、第1の複屈折率調整部120に接続された第2の複屈折率調整部130と、第2の複屈折率調整部130に接続された第2の光カプラ140とを閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板101上に備える。第1の複屈折率調整部120及び第2の複屈折率調整部130が位相シフタとして機能する。
【0023】
第1の複屈折率調整部120は、第1のカプラ110に接続された第1のアーム導波路102が有する第1の幅の第1の導波路部102Aと、第1のカプラ110に第1のアーム導波路102と並列に接続された第2のアーム導波路103が有する第2の幅の第2の導波路部103Aと、第1の導波路部102A上の第1の電極102Bと、第2の導波路部103A上の第2の電極103Bとで構成され、ここで、第1の幅は第2の幅よりも大きい。
【0024】
第2の複屈折率調整部130は、第1のアーム導波路102が有する、第1の導波路部102Aから傾斜して配置された第3の導波路部102Cと、第2のアーム導波路103が有する、第2の導波路部103Bから傾斜して第3の導波路部102Cと平行に配置された第4の導波路部103Cと、第3の導波路部102Cの上の第3の電極102Dと、第4の導波路部103Cの上の第4の電極103Dとで構成される。第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cの傾斜角は、角度がついていればよく、たとえば、30°とすることができる。
【0025】
図1では、上下のアーム導波路の長さが等しくなるように2度曲げているが、2度曲げることは必ずしも必要でない。しかし、2度曲げにより上下のアーム導波路を等長に近づけることができ、帯域が広くできるので好ましい。
【0026】
本実施形態に係るPBS100は、GaAs、InP等の閃亜鉛鉱型構造を有する化合物半導体に形成された光導波路において、電圧を印加した際の屈折率変化に対する偏波面依存性および結晶方位依存性が存在することを利用する。一般に、半導体光導波路は偏波面依存性を有するが、閃亜鉛鉱型構造を有する化合物半導体では、TE偏光に対する屈折率変化に光導波路に平行な結晶方位が大きく影響する。第1の複屈折率調整部120と第2の複屈折率調整部130を構成する光導波路の方向を変えることにより、単位電圧当たりの屈折率変化率が異なる2種類の複屈折率調整機構が得られる。これらの複屈折率調整機構を以下のように用いることで、高精度の複屈折率調整をすることができる。
【0027】
まず、光源としてASE光を用いて、第1の光カプラ110に導く。たとえば、先球ファイバを用いて第1の光カプラ110の入力導波路端面から入力を行う。次いで、第1の複屈折率調整部120において、第1の電極102B又は第2の電極103Bに電圧を印加し、偏波消光比がどこかの観測波長内で最大になるように調整を行う。このとき、最大偏波消光比が得られる波長は、動作波長と一致しなくてもよい。出力の観測は、偏波保持の先球ファイバを用いて第2の光カプラ140の出力導波路端面からの出力を集め、ファイバーインライン型のPBSを介して各偏波の出力をスペクトルアナライザに導入し、スペクトルを見ながら調整を実施する。この状態で、第2の複屈折率調整部130の第3の電極102C又は第4の電極103Dに電圧を加える。スペクトルが変化するので、動作波長と最大偏波消光比が得られる波長が一致する方向に印加電圧を微調整する。目的波長に近くなるとともに、偏波消光比がやや劣化する。そこで、再度偏波消光比を改善するように第1の複屈折率調整部120の電圧を調整し、偏波消光比を改善する。第1の複屈折率調整部120における偏波消光比の調整と、第2の複屈折率調整部130での波長の調整とを繰り返し実施し、目的の動作波長で目的の偏波消光比を最終的に得る。調整は複数回の繰り返しが必要で多少手間と時間はかかるが、所望の特性を有する位相シフタを得ることが可能である。
【0028】
なお、スペクトルアナライザを用いた調整方法を説明したが、これに限らない。波長可変レーザー、偏光子と光パワーメーターなどを組み合わせて用いて測定しても調整は可能である。
【0029】
また、本実施形態に係るPBSは、図2に示すように、第1の複屈折率調整部120と第2の複屈折率調整部130の配置順序を入れ替えても同様に機能することに留意されたい。
【0030】
また、第2の実施形態における説明から分かることであるが、半導体基板101の主面方位が(100)である場合、第1の導波路部102A及び第2の導波路部103Aと、第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを、011方向に対称軸を有しないように配置することが必要である。この場合には、第1の複屈折率調整部120と第2の複屈折率調整部130の屈折率変化率が同じになり、2種類の複屈折率調整機構を設けることができないからである。
【0031】
製造方法
図3を参照して、本実施形態に係るPBSの製造方法を説明する。はじめに、図3(a)に示すように、半絶縁性(SI(semi−insulating))−InP基板50上に第1のn型電極層51(n+−InP)を成長し、その上に第1のn型クラッド層52(n−InP)を形成し、第1のn型クラッド層52上には、第1の中間層53(i−InGaAsP)、多重量子井戸(MQW)コア層54、第2の中間層55(i−InGaAsP)が形成されている。
【0032】
第2の中間層55(i−InGaAsP)の上に第1の低濃度クラッド56(i−InP)を形成した後、第1の低濃度クラッド56(i−InP)の上には、電子バリアとして機能するp型クラッド層57(p−InP)が形成される。p型クラッド層57の上には、第2のn型クラッド層58(n−InP)が形成され、さらにその上に、第2のn型電極層59(n+−InP)が順に積層されている。
【0033】
ここで、多重量子井戸コア層54は、動作光波長で電気光学効果が有効に働くように構成され、例えば、1.5μm帯のデバイスであれば、InGaAlAsのGa/Al組成を変えた層を、それぞれ量子井戸層と量子バリア層にした多重量子井戸構造とすることができる。また、第1の中間層53は、光吸収で発生したキャリアをヘテロ界面でトラップされないようにするための接続層として機能する。
【0034】
本実施形態に係るPBSを製造するには、まず、上下のアーム導波路を電気的に分離するために、アーム導波路間に分離溝を形成する。なお、変調電極と位相調整電極が分かれているマッハツェンダ構造の場合は、その間にも分離溝を設けて電気的分離を行う。これは、電気的分離がなされていないと、片方のアーム導波路に変調のため印加した電圧が他方のアーム導波路の変調に影響を及ぼすためである。分離溝は、第2のn型電極層59から電子バリアとして機能するp型クラッド層57までの一部を標準的なフォトリソグラフィー、パターニングしウエットエッチング技術を用いて、アーム導波路の何処かに幅数ミクロンの溝として取り除くことにより形成する。
【0035】
なお、本実施形態においては、分離溝により電気的分離を行ったが、電極が接触する変調部周辺以外を石英のハードマスクを用いて第2のn型電極層59から電子バリアとして機能するp型クラッド層57までを除去した後、半絶縁性のInPで再度成長し置き換えを実施して電気的分離を行ってもよい。
【0036】
次に、図3(b)に示すように、ドライエッチング技術を用いて第2のn型電極層59(n+−InP)から第1のn型クラッド層中間52までの層をエッチングすることにより、ハイメサ型の導波路構造を形成する。そして、第1のn型クラッド層52をエッチングすることにより、第1のn型電極層51を露出させる。
【0037】
最後に、図3(c)に示すように、変調電極、位相調整電極となる第1のn型電極60を第2のn型電極層59上に、接地電極となる第2のn型電極61を第1のn型電極層51上にそれぞれ形成する。なお、必要に応じて、パッシベーション膜を堆積し、メサ表面を保護するようにしてもよいし、ポリマーなどを利用してハイメサ構造を保護してもよい。
【0038】
マッハツェンダ型光変調器の実装方法
本実施形態に係るPBS100は、第1の電極102B、第2の電極103B、第3の電極102D及び第4の電極103Dに変調信号を入力することにより、変調機能を持たせて光変調器として機能させることができる。その実装方法を説明する。
【0039】
まず、後の行うへき開が実施できる程度まで基板裏面に研磨を実施する。裏面に固定半田が接着するように金属膜を蒸着した後、各チップにへき開し、入出力導波路がある端面に無反射コートを実施する。
【0040】
次いで、当該チップをチッカアルミで構成されたサブマウントに、標準的なチップボンダーで搭載したのちに加熱固定し、続いて終端抵抗、コンデンサ、サーミスタ(抵抗変化として温度検出する温度センサ)、高速信号を伝送するための配線板を同じくチップボンダーで搭載し、リフロ―により固定を実施する。
【0041】
素子固定されたサブマウント上の配線や素子、およびチップの電極をワイヤーボンディングにより結線した後、CuWからなるマウントにサブマウントを再度負リフロ―固定し、YAGレーザーを用いて入出力導波路の先に、入出力光をコリメートするレンズを固定する。これらのCuWマウントに搭載されたものを両端にファイバ固定ができるようになった気密パッケージ内に実装し、レンズ付きの入出力ファイバをYAG固定し、パッケージに設けられた高周波の差動信号入力端子にRF入力コネクタとしてGPPOコネクタを装着しモジュールの形にする。ここでは、レンズの固定はYAGレーザーを用いて行ったが、この限りではない。また、RF入力コネクタとしてGPPOを用いたが、これもその他の所望周波数の信号が入力できるRF入力用端子であれば問題ない。
【0042】
(第2の実施形態)
図4に、第2の実施形態に係るPBSを示す。PBS400は、第1の実施形態に係るPBS100と傾斜角θを除いて同一である。第2の実施形態に係るPBS400では、傾斜角θを適切に選択して、第2の複屈折率調整部130において、TE偏光およびTM偏光に対する単位電圧当たりの屈折率変化率が等しくなる方向に第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを配置している。換言すると、屈折率変化率の偏波面依存性が抑制されるように傾斜角θを選択している。
【0043】
2種類の複屈折率調整機構を用いて高精度の複屈折率調整を行う方法も、第1の実施形態に係るPBSと同様であるが、第2の複屈折率調整部130の屈折率変化率が偏波無依存であるため、調整が簡単になる。具体的には、第1の複屈折率調整部120により、偏波消光比が最大になるように調整を行い、第2の複屈折率調整部130により、偏波消光比の劣化を抑えて最大偏波消光比が得られる波長だけをシフトすることが可能となる。偏波消光比の劣化がほとんどないため、再度第1の複屈折率調整部120の電圧を微調することで、動作波長で最大偏波消光比を得ることができ、調整時間を短縮することができる。
【0044】
半導体基板101の主面方位が(100)である場合、第1の導波路部102A及び第2の導波路部103Aを、01−1方向に配置し、第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを、010方向に配置し、傾斜角θを45°とすると、第2の複屈折率調整部130における屈折率変化率の偏波面依存性を抑制することができる。以下、傾斜角θ=45°が適切な理由を説明する。
【0045】
半導体導波路におけるポッケルス効果およびQCSEの説明
第1の実施形態において説明したように、コア層に多重量子井戸層(MQW:multiple quantum wells)を持つ半導体導波路に電圧を印加すると、ポッケルス効果に加えて、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE: quantum−confined Stark effect)による屈折率変化を生じる。
【0046】
InPをはじめとする閃亜鉛鉱型構造(ジンクブレンド型構造)の化合物半導体に電界を印加した際のポッケルス効果による屈折率変化は、屈折率楕円体で記述することができる(非特許文献4参照)。
【0047】
閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の屈折率楕円体は、電圧印加前の屈折率をn0として以下のように示される。ここで、r41は、閃亜鉛鉱型構造の化合物半導体の電気光学定数であり、Eは、光導波路に印加した電界の強度である。
【0048】
【数1】

【0049】
この式は、xyを入れ替えても不変であるから、y=xで記述される直線に対して対称である楕円体を示すことが容易に分かる。そこで、x軸およびy軸からそれぞれ45°回転した軸を新たにx’軸およびy’軸とし、軸を変換することで以下の式を得る。
【0050】
【数2】

【0051】
短軸側の半径がa、長軸側の半径がbである屈折率楕円体が描ける。
【0052】
図5は、z=0平面での切断面を示している。この楕円の半径は、図中のSベクトルの方向に光が伝搬した際に、電界EがZ軸方向に印加されている状態での屈折率を示している。実際のウェーハの向きから考えると、主面方位が(001)の基板を使用した場合において、01−1方向のオリエーテーションフラット(OF)に平行な方向に、電界強度がx’方向に振動するTE波として伝搬するとき、ポッケルス効果によりbの屈折率になり、変化量としてはb−n0となる。また、電界を印加しない場合の屈折率n0よりも大きい値を示す。逆に、OFに垂直な011方向に伝搬する場合は、n0より小さな値となることが分かる。いずれの場合も、y’方向に電界が振動するTM波として進行する場合は、屈折率楕円体のz方向はn0であり、外部電界によりポッケルス効果により変調されないことが分かる。また、OFに対して45°の010方向に伝搬する光では、図5の楕円と元の屈折率を示す円との交点を示すので、偏波状態によらずポッケルス効果による屈折率変化は起こらないことが分かる。
【0053】
ここまでは、ポッケルス効果だけを考慮して考えてきたが、実際の素子のコアが多重量子井戸(MQW)からなる場合、ポッケルス効果に加えて、QCSEが足される形になる。しかし、QCSEは、第1次近似的には結晶方位に依存しない。n(QCSE)を、電界Eを印加した際のQCSEによる屈折率変化量とすると、ポッケルス効果の説明に用いたn0をn0’=n0+n(QCSE)とし、n0をn0’に置き換えた屈折率楕円体が描ける。
【0054】
以上のことから、外部電界Eを印加した際の屈折率変化量を、TE偏光およびTM偏光についてまとめると以下のようになる。ここで、ポッケルス効果による屈折率変化量をPと示し、QCSEによる変化量をQとしている。
【0055】
【表1】

【0056】
表1は、単位電界強度Eを印加した際の屈折率変化量を示すことになるが、導波路の縦方向に電界をかける行為は、平行平板からなるコンデンサに電界を印加するのと同じであり、電界強度は電圧に比例する。つまり、単位電圧当たりの屈折率変化量のP、Qの作用を示しているとしても差支えがない。
【0057】
なお、上述の説明でOFに平行な方向を01−1方向としたが、0−11方向も等価である。また、OFに垂直な方向を011方向としたが、0−1−1方向も等価である。また、OFに対して45°の方向を010方向としたが、00−1方向、0−10方向、001方向も等価である。
【0058】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係るPBSは、図4に示した第2の実施形態に係るPBS400とほぼ同一であるが、傾斜角θが若干異なる。第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを、010方向から若干ずらして配置している。
【0059】
QCSEは、厳密には閉じ込め係数が異なるため、010方向に光導波路を配置してもTE偏光とTM偏光で同一とはならない。そこで、010方向からややずらすことで、QCSEに起因する屈折率変化率が偏波無依存になるようにする。
【0060】
Q(TE)>Q(TM)の場合、傾斜角θが45°よりも高い角度に、つまり、OFの01−1方向に垂直な方向に近づくように第2の複屈折率調整部130の第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを傾けることでポッケルス効果の係数が負に働き(表1参照)、QCSEに起因する屈折率変化率は変わらないが、ポッケルス効果の寄与により実効的にTE偏光とTM偏光で同じ屈折率変化率を実現できる角度が存在する。
【0061】
逆にQ(TM)>Q(TE)の場合は、OFの01−1方向に水平な方向に傾けることで、ポッケルス係数が正の方向で働き、TE偏光とTM偏光で同じ屈折率変化率を実現できる角度が存在する。
【0062】
発明者らが実験的に調べたところでは、01−1方向に垂直に近くなる方向に2°傾けることで、第2の複屈折率調整部130における調整の際に偏波消光比の劣化なく波長のみを個別に調整することができた。実際の製造では、ウェーハに設けられているOFの角度誤差等もあるので、第2の複屈折率調整部130の第3の導波路部102C及び第4の導波路部103Cを010方向から±5°の範囲傾ければよい。
【0063】
(第4の実施形態)
図6に、高速の光変調が可能なPBSを示す。PBS600は、第1の光カプラ610と、第1の複屈折率調整部620と、高速変調部650と、第2の光カプラ640とを半導体基板601上に備える。高速変調部650を構成する光導波路は、単位電圧当たりの屈折率変化率がTE偏光とTM偏光でほぼ等しくなるように、010方向に配置されている。
【0064】
図6のPBS600では、簡単のため、第1の複屈折率調整部620が設計通りに製造され、複屈折率の調整機構が不要な場合を考えている。第1から第3の実施形態で説明してきた本発明に係る位相シフタを用いる場合には、図7のような配置を採ることが考えられる。図6の構成は、RF信号を入れると、PBSでありながら高速の光変調が実現できる。用途としてRZカーバーとして使用することができる。第1の光カプラ710、第2の複屈折率調整部730、第1の複屈折率調整部720、高速変調部750、第2の光カプラ740がこの順に接続されている。
【0065】
通常、これをこれまでの方法で実現しようとすると、図8のように、それぞれの偏波用にRZカーバーとなるMZを配置しその後PBSを配置する構成となる。この場合は、TE用、TM用駆動用のMZとなるので、それぞれ異なるRF振幅で駆動する必要がある。つまり使用するユーザは、駆動ドライバーの設定を異なる設定にしなくてはならない。駆動振幅の違いよっては異なるドライバーを用意する必要が出てくる。または、MZの長さを変えて変調効率がTE偏光とTM偏光で同じになるようにする。異なるバイアス電圧で使用することで、RF振幅一定とする方法などがある。いずれにせよ、この構成では、RZカーバーとしてそれぞれの偏波用にドライバー、およびその周辺回路を用意しなくてはならない。
【0066】
図6の構造では、TE偏光とTM偏光の変調効率が同じなのでそれぞれの偏波用にRZカーバーを用意する必要性がない。1つのMZでPBSとRZカーバーを提供できる。同時に、ドライバーおよびその周辺回路の数も減少させることができ、消費電力低減、スペース低減、コスト低減の効果が得られる。
【0067】
また、無偏光または45°偏波を入力とした場合、この構成でRFを45°の電極に入力すると、ある出力から交互にTE波およびTM波が出力される偏波変調器も構成可能である(図9)。
【符号の説明】
【0068】
100、400 PBS
101 半導体基板
102 第1のアーム導波路
102A 第1の導波路部
102B 第1の電極
102C 第3の導波路部
102D 第3の電極
103 第2のアーム導波路
103A 第2の導波路部
103B 第2の電極
103C 第4の導波路部
103D 第4の電極
110 第1の光カプラ
120 第1の複屈折率調整部
130 第2の複屈折率調整部
140 第2の光カプラ
600 PBS
610 第1の光カプラ
620 第1の複屈折率調整部
640 第2の光カプラ
650 高速変調部
700 PBS
710 第1の光カプラ
720 第1の複屈折率調整部
730 第2の複屈折率調整部
740 第2の光カプラ
750 高速変調部
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の複屈折率調整部と、前記第1の複屈折率調整部に接続された第2の複屈折率調整部と
を閃亜鉛鉱型構造を有する半導体基板上に備え、
前記第1の複屈折率調整部は、第1のアーム導波路が有する第1の幅の第1の導波路部と、前記第1のアーム導波路と並列に配置された第2のアーム導波路が有する第2の幅の第2の導波路部と、前記第1の導波路部上の第1の電極と、前記第2の導波路部上の第2の電極とで構成され、前記第1の幅は第2の幅よりも大きく、
前記第2の複屈折率調整部は、前記第1のアーム導波路が有する、前記第1の導波路部から傾斜して配置された第3の導波路部と、前記第2のアーム導波路が有する、前記第2の導波路部から傾斜して前記第3の導波路部と平行に配置された第4の導波路部と、前記第3の導波路部の上の第3の電極と、前記第4の導波路部の上の第4の電極とで構成されていることを特徴とする位相シフタ。
【請求項2】
前記第3及び第4の導波路部は、前記第2の複屈折率調整部において、TE偏光およびTM偏光に対する単位電圧当たりの屈折率変化率の偏波面依存性が抑制される方向に配置されていることを特徴とする請求項1記載の位相シフタ。
【請求項3】
前記半導体基板の主面方位は(100)であり、
前記第1及び第2の導波路部は、01−1方向に配置されており、
前記第3及び第4の導波路部は、010方向に配置されていることを特徴とする請求項2記載の位相シフタ。
【請求項4】
前記半導体基板の主面方位は(100)であり、
前記第1及び第2の導波路部は、01−1方向に配置されており、
前記第3及び第4の導波路部は、010方向から±5°の範囲ずらして配置されていることを特徴とする請求項2記載の位相シフタ。
【請求項5】
第1の光カプラと、
前記第1の光カプラに接続された、請求項1から4のいずれかに記載の位相シフタと、
前記位相シフタに接続された第2の光カプラと
を備えることを特徴とする偏波分離器。
【請求項6】
第1の光カプラと、
前記第1の光カプラに接続された、請求項1から4のいずれかに記載の位相シフタと、
前記位相シフタに接続された第2の光カプラと
を備えることを特徴とする偏波合成器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−247580(P2012−247580A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118501(P2011−118501)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】