説明

半導体封止用ガラス、半導体封止用外套管及び半導体電子部品

【課題】高耐熱性を有し、且つPbO等の有害成分を含まなくても、低温封止性を有する半導体封止用ガラスを提供する。
【解決手段】歪点が650℃以上であり、且つ10dPa・sにおける温度が1200℃未満であることを特徴とし、具体的には、ガラス組成として、質量%で、SiO30〜50%、Al0〜10%、CaO+SrO(CaO、SrOの合量)0〜20%、BaO15〜35%、ZrO+TiO(ZrO、TiOの合量)0〜25%、La+Nb(La、Nbの合量)0〜20%を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用ガラス、半導体封止用外套管及び半導体電子部品に関し、特に高温で使用される半導体素子、例えばサーミスタチップを封止するための半導体封止用ガラス、半導体封止用外套管及び半導体電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタは、半導体電子部品の一種であり、温度上昇により半導体素子の電気抵抗値が変化する特性(負または正の温度係数)を利用して、温度を測定し得る半導体電子部品である。
【0003】
図1に示すように、ビード型サーミスタまたはガラスサーミスタと呼ばれる半導体電子部品(サーミスタ)10は、半導体素子(サーミスタチップ)1と、金属線(リード線)2と、半導体封止用ガラス(サーミスタ封止用ガラス)3とを備えており、サーミスタ封止用ガラス3により、サーミスタチップ1とリード線2の一部が被覆封止されている。このため、高温酸化性雰囲気でも使用可能になる。なお、サーミスタチップ1として、酸化物系材料、或いは窒化物、炭化物、ホウ化物、ケイ化物等の非酸化物系材料が知られている。現在では、特性や価格等の観点から、酸化物系材料が広く使用されている。また、リード線2として、ジュメット線(Cuで被覆されたNi−Fe合金)、白金線等が広く用いられている。
【0004】
従来、サーミスタ封止用ガラスとして、PbO−SiO−B−KO系の高鉛含有ガラス(例えば、特許文献1参照)、アルカリホウケイ酸塩ガラス(例えば、特許文献2、3参照)が提案されている。
【0005】
サーミスタ封止用ガラスには、主に、以下の特性が要求される。(1)サーミスタチップの電気抵抗特性に影響を与えないように、常用最高温度(例えば700℃以上)の燃焼雰囲気で高い体積抵抗値を有すること、つまり高耐熱性を有すること、(2)リード線やサーミスタチップの耐熱温度より低い温度で封止可能であること、つまり低温封止性を有すること。なお、「常用最高温度」は、長時間使用し続けても、電気抵抗特性等の特性がほとんど劣化しない最高温度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−67534号公報
【特許文献2】特開2002−37641号公報
【特許文献3】国際公開第2006/035882号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、鉛、カドミウム、砒素等の有害成分による環境汚染が問題視されており、これらの有害成分を工業製品から除くことが求められている。よって、特許文献1に記載のサーミスタ封止用ガラスは、低温封止性を有するものの、有害成分のPbOを多量に含むため、環境汚染の問題が生じ得る。
【0008】
また、二酸化炭素の削減や酸性雨防止の環境対策の立場から、COやNOの発生を最小限にするために、熱源や発電装置の燃焼システムを最適な運転状態に保つことが求められている。このためには、燃焼雰囲気の温度を直接モニターして自動管理する必要がある。しかし、特許文献1、2に記載のサーミスタ封止用ガラスは、耐熱性が低いため、700℃以上、場合によっては500〜600℃の燃焼雰囲気下において、軟化変形しやすく、ガラスの肉厚の変化に伴い、サーミスタ特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献3に記載のサーミスタ封止用ガラスは、高耐熱性を有しているが、封止温度が高く、低温封止性を有していない。
【0010】
以上の説明から分かるように、上記要求特性(1)と(2)は両立困難な特性であり、従来のサーミスタ封止用ガラスは、上記要求特性(1)または(2)を満たしていない。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、高耐熱性を有し、且つPbO等の有害成分を含まなくても、低温封止性を有する半導体封止用ガラスを創案することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、ガラスの粘度特性(歪点、10dPa・sにおける温度)を厳密に規制することにより、上記要求特性(1)、(2)を満たすことを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の半導体封止用ガラスは、歪点が650℃以上であり、且つ10dPa・sにおける温度が1200℃未満であることを特徴とする。
【0013】
本発明の半導体封止用ガラスは、歪点が650℃以上、好ましくは670℃以上、好ましくは680℃以上、より好ましくは690℃以上、更に好ましくは700℃以上である。歪点は、耐熱性の指標になる特性であり、歪点が高い程、耐熱性が向上する。歪点を650℃以上に規制すれば、上記要求特性(1)を満たすことができ、サーミスタ等の半導体電子部品の常用最高温度が700℃以上になりやすい。なお、サーミスタ等の半導体電子部品の耐熱性は、半導体封止用ガラスの耐熱性に依存する。
【0014】
本発明の半導体封止用ガラスは、10dPa・sにおける温度が1200℃未満、好ましくは1130℃以下、より好ましくは1090℃以下、更に好ましくは1060℃以下である。10dPa・sにおける温度は、封止温度に相当し、この温度が低い程、低温封止性が向上する。10dPa・sにおける温度を1200℃未満に規制すれば、リード線(例えば、白金線、Niメッキジュメット線、Fe−Ni合金線等)の耐熱温度以下の低温で封止可能になり、更には封止装置の寿命を延ばすことができる。
【0015】
第二に、本発明の半導体封止用ガラスは、1010dPa・sにおける温度が700℃以上(好ましくは750℃以上、特に800℃以上)であることを特徴とする。1010dPa・sにおける温度は、一般的に、外力を加えたときに、ガラスが初めて変形する温度に相当し、長時間の保持によりガラスの角が僅かに軟化変形するものの、リード線やサーミスタチップと反応しない温度である。1010dPa・sにおける温度を700℃以上に規制すれば、サーミスタ等の半導体電子部品の常用最高温度が700℃以上になりやすい。
【0016】
第三に、本発明の半導体封止用ガラスは、軟化点が800℃以上(好ましくは840℃以上、特に870℃以上)であることを特徴とする。軟化点は、一般的に、ガラスが僅かに軟化変形する温度であり、短時間の保持であれば、ガラスの角は僅かな軟化変形に留まり、長時間の保持であれば、ガラスの肉厚の変化に伴い、サーミスタ特性に悪影響を及ぼすおそれがある温度である。よって、軟化点は、サーミスタ等の半導体電子部品の最高使用温度、つまり短時間であれば、使用に耐え得る最高温度に相当する。軟化点を800℃以上に規制すれば、最高使用温度が850℃以上になりやすい。
【0017】
次のようにして、歪点、軟化点、102.5dPa・sにおける温度、10dPa・sにおける温度、1010dPa・sにおける温度を求めることができる。まずASTM C338に準拠するファイバー法により歪点、軟化点を測定し、更に白金球引き上げ法により102.5dPa・sにおける温度、10dPa・sにおける温度を算出する。次いで、これらの温度と粘度の値をFullcherの式に当てはめて、1010dPa・sにおける温度を算出する。
【0018】
第四に、本発明の半導体封止用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 30〜50%、Al 0〜10%、CaO+SrO(CaO、SrOの合量) 0〜20%、BaO 15〜35%、ZrO+TiO(ZrO、TiOの合量) 0〜25%、La+Nb(La、Nbの合量) 0〜20%を含有することを特徴とする。
【0019】
第五に、本発明の半導体封止用ガラスは、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0020】
第六に、本発明の半導体封止用ガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が60〜100×10−7/℃であることを特徴とする。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、直径約3mm、長さ約50mmの円柱状の測定試料を用い、自記示差熱膨張計で測定した平均値を指す。
【0021】
第七に、本発明の半導体封止用ガラスは、液相粘度が103.5dPa・s以上であることを特徴とする。次のようにして、液相粘度を測定することができる。粒径300〜500μmに粉砕されたガラス粉末をボート状の白金容器に入れ、温度勾配炉で24時間保持した。次に、温度勾配炉から白金容器を取り出した後、ガラスの表面を顕微鏡で観察して、結晶の初相が析出する温度を算出し、これを液相温度とする。最後に、白金球引き上げ法により、液相温度におけるガラスの粘度、つまり液相粘度を算出する。
【0022】
第八に、本発明の半導体封止用ガラスは、500℃における体積抵抗値(Ωcm)がLog10ρで5以上であることを特徴とする。ここで、「500℃における体積抵抗値log10ρ」は、ASTM C−657に準拠した方法で測定した値を指す。
【0023】
第九に、本発明の半導体封止用外套管は、上記の半導体封止用ガラスにより作製されていることを特徴とする。
【0024】
第十に、本発明の半導体電子部品は、半導体素子と、金属線と、金属線の一部を被覆封止する半導体封止用外套管とを備える半導体電子部品において、半導体封止用外套管が上記の半導体封止用外套管からなることを特徴とする。
【0025】
第十一に、本発明の半導体電子部品は、半導体素子と、金属線と、金属線の一部を被覆封止する半導体封止用外套管とを備える半導体電子部品において、半導体封止用外套管が上記の半導体封止用外套管からなり、且つ半導体素子が700℃以上の温度を測定可能な高温型サーミスタチップであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】半導体電子部品(サーミスタ)の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の半導体封止用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 30〜50%、Al 0〜10%、CaO+SrO 0〜25%、BaO 15〜35%、ZrO+TiO 0〜25%、La+Nb 0〜20%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有量を限定した理由は以下の通りである。
【0028】
SiOは、ガラスのネットワークフォーマーであり、歪点を高める成分であり、また化学的耐久性、特に耐酸性を高める成分であり、その含有量は30〜50%、好ましくは31〜45%、より好ましくは35〜40%である。SiOの含有量が30%より少ないと、化学的耐久性が低下しやすくなる。一方、SiOの含有量が50%より多いと、高温粘度が高くなり過ぎたり、またリード線や半導体素子の熱膨張係数に整合させ難くなる。また、SiOの含有量が50%より多いと、液相粘度が低下しやすくなる。なお、SiOの含有量が35%以上であれば、歪点が650℃以上になりやすい。
【0029】
Alは、歪点を高める成分であり、また化学的耐久性、特に耐酸性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.5〜5%である。Alの含有量が10%より多いと、高温粘度が高くなりやすく、溶融性が低下しやすくなる。なお、Alの含有量を5%以下にすれば、外套管を製造する際、ガラスが失透する事態を防止しやすくなる。
【0030】
CaO+SrOの含有量は0〜25%、好ましくは1〜20%、より好ましくは5〜15%である。CaO+SrOの含有量が25%より多いと、液相温度が低下しやすくなり(或いは液相粘度が上昇しやすくなり)、半導体封止用外套管を作製し難くなる。なお、CaO+SrOの含有量を17%以下にすれば、化学的耐久性が低下する事態を防止しやすくなる。
【0031】
CaOは、高温粘度(特に10dPa・sにおける温度)を低下させて、溶融性、成形性、低温封止性を高めるとともに、歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%である。CaOの含有量が10%より多いと、液相温度が低下しやすくなり(或いは液相粘度が上昇しやすくなり)、半導体封止用外套管を作製し難くなる。なお、CaOの含有量を8%以下にすれば、化学的耐久性が低下する事態を防止しやすくなる。
【0032】
SrOは、高温粘度(特に10dPa・sにおける温度)を低下させて、溶融性、成形性、低温封止性を高めるとともに、歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜8%である。SrOの含有量が10%より多いと、液相温度が低下しやすくなり(或いは液相粘度が上昇しやすくなり)、半導体封止用外套管を作製し難くなる。なお、SrOの含有量を8%以下にすれば、化学的耐久性が低下する事態を防止しやすくなる。
【0033】
BaOは、高温粘度(特に10dPa・sにおける温度)を顕著に低下させて、溶融性、成形性、低温封止性を高めるとともに、CaOやSrOに比べて、耐失透性を低下させ難い成分であるが、歪点を低下させる成分でもあり、その含有量は15〜35%、好ましくは20〜32%、より好ましくは25〜30%である。BaOの含有量が15%より少ないと、10dPa・sにおける温度が上昇しやすくなるため、低温封止性が低下し、半導体封止用外套管の寸法精度が低下しやすくなる。一方、BaOの含有量が35%より多いと、ガラスが失透しやすくなるため、成形性が低下し、半導体封止用外套管の寸法精度が低下しやすくなる。なお、BaOの含有量を30%以下にすれば、歪点の低下を防止しやすくなる。
【0034】
ZrO+TiOの含有量は0〜25%、好ましくは0.5〜20%、より好ましくは5〜15%が好ましい。ZrO+TiOの含有量が25%より多いと、ガラスが失透しやすくなるため、液相温度が低下しやすくなる。なお、ZrO+TiOの含有量が5%以上であれば、歪点が650℃以上になりやすい。
【0035】
ZrOは、耐熱性や化学耐久性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは1〜5%である。ZrOの含有量が10%より多いと、ガラスが失透しやすくなるため、液相温度が低下しやすくなる。なお、ZrOの含有量が1%以上であれば、歪点が650℃以上になりやすい。
【0036】
TiOは、化学的耐久性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは3〜12%、より好ましくは5〜12%である。TiOの含有量が15%より多いと、ガラスが失透しやすくなるため、液相温度が低下しやすくなる。
【0037】
La+Nbの含有量は0〜20%、好ましくは1〜18%、より好ましくは5〜15%である。La+Nbの含有量が20%より多いと、高温粘度が上昇しやすくなるため、溶融性、成形性、低温封止性が低下しやすくなる。
【0038】
Laは、耐熱性、溶融性、成形性、低温封止性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0.1〜12%、より好ましくは3〜10%である。Laの含有量が15%より多いと、歪点が650℃未満になりやすい。なお、Laの含有量が3%以上であれば、液相温度が低下しやすくなり(或いは液相粘度が上昇しやすくなり)、半導体封止用外套管を作製しやすくなる。
【0039】
Nbは、高温粘度(特に10dPa・sにおける温度)を顕著に低下させて、溶融性、成形性、低温封止性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0.1〜12%、より好ましくは3〜10%である。Nbの含有量が15%より多いと、高温粘度が上昇しやすくなるため、溶融性、成形性、低温封止性が低下しやすくなる。
【0040】
上記成分以外にも、以下の成分を添加することができる。
【0041】
MgOは、歪点を高める成分であるとともに、高温粘度を低下させる成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜8%が好ましい。MgOの含有量が10%より多いと、液相温度が低下しやすくなり(或いは液相粘度が上昇しやすくなり)、半導体封止用外套管を作製し難くなる。なお、MgOの含有量が8%以下であれば、化学的耐久性を高めやすくなる。
【0042】
ZnOは、高温粘度(特に10dPa・sにおける温度)を低下させる成分であり、その含有量は0〜20%、0〜15%、特に0〜10%が好ましい。ZnOの含有量が20%より多いと、ガラスが失透しやすくなる。なお、ZnOの含有量が15%以下であれば、歪点が650℃以上になりやすく、ZnOの含有量が5%以下であれば、1010dPa・sにおける温度が700℃以上になりやすい。
【0043】
LiOは、熱膨張係数を上昇させる成分であり、高温粘度を低下させる成分であるが、化学的耐久性や電気絶縁性を大幅に低下させる成分であり、その含有量は0〜5%、特に実質的に含有しないこと、つまり0.1%未満が好ましい。
【0044】
NaOは、熱膨張係数を上昇させる成分であり、また高温粘度を低下させる成分であり、その含有量は0〜8%、特に0〜4%が好ましい。NaOの含有量が8%より多いと、歪点が650℃以上になりやすい。なお、NaOの含有量が4%以下であれば、500℃における体積抵抗値(Ω・cm)がLog10ρで5以上になりやすい。
【0045】
Oは、熱膨張係数を上昇させる成分であり、またNaOには劣るものの、高温粘度を低下させる成分であり、更にはNaOに比べると、体積抵抗値の低下幅が小さい成分であり、その含有量は0〜18%、特に0〜14%が好ましい。KOの含有量が18%より多いと、歪点が650℃未満になりやすい。なお、KOの含有量を14%以下にすれば、化学的耐久性の大幅な低下を回避することができる。
【0046】
は、高温粘度を低下させる成分であり、また500℃における体積抵抗値を高める成分であり、その含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Bの含有量が20%より多いと、歪点が650℃未満になりやすく、またガラスが失透しやすくなる。なお、Bの含有量を5%以下にすれば、排ガス環境等の高温酸性雰囲気下において、ガラスが変形または侵食される事態を防止しやすくなる。
【0047】
WO、Taは、歪点を高めるとともに、高温粘度を低下させる成分であり、その含有量はそれぞれ0〜5%が好ましい。WO、Taの含有量がそれぞれ5%より多いと、バッチコストが高騰しやすくなる。
【0048】
は、失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜3%、特に0.01〜1%が好ましい。Pの含有量が3%より多いと、封止時にガラスが分相し、不透明になりやすく、結果として、半導体電子部品の検査の際、欠陥を発見し難くなり、また分相により、耐酸性が低下しやすくなる。
【0049】
上記以外にも、高温粘度の調整、化学的耐久性の改良、清澄性の向上等の目的で、SnO、SO、Sb、F、Cl等を各々3%以下添加することができる。なお、Asも良好な清澄効果を有するが、環境的観点から、実質的に含有しないこと、つまり0.1%未満が好ましい。なお、既述の通り、環境的観点から、PbOも実質的に含有しないことが好ましい。
【0050】
サーミスタの場合、ガラス中のFe2+の量が多くなると、ガラスが赤外線を吸収しやすくなり、温度を正確に計測し難くなる。このような理由から、Feの含有量は2%以下が好ましく、また質量比Fe2+/全Feの値は0.4以下が好ましい。酸化雰囲気中でガラスを溶融すれば、質量比Fe2+/全Feの値が0.4以下になりやすい。
【0051】
本発明の半導体封止用ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は60〜100×10−7/℃、特に70〜90×10−7/℃が好ましい。このようにすれば、サーミスタチップ等の半導体素子、リード線との熱膨張係数に整合しやすくなるため、半導体素子とリード線を封止する際に、不当な応力が残留し難くなり、結果として、クラックが発生し難くなり、半導体封止用外套管が破損し難くなる。
【0052】
本発明の半導体封止用ガラスにおいて、液相粘度は103.5dPa・s以上、特に104.0dPa・s以上が好ましい。このようにすれば、ダンナー法、ベロ法、ダウンドロー法、アップドロー法等を用いて半導体封止用外套管を作製する際、成形時に結晶が析出し難く(失透し難く)なる。なお、成形時に結晶が析出すると、その近傍のガラスの粘度が高くなって、半導体封止用外套管の寸法精度が低下しやすくなる。
【0053】
本発明の半導体封止用ガラスにおいて、500℃における体積抵抗値(Ωcm)はLog10ρで5以上が好ましい。このようにすれば、サーミスタチップ等の半導体素子の電気抵抗特性に悪影響を及ぼし難くなる。つまり、500℃における体積抵抗値(Ωcm)がLog10ρで5未満であると、サーミスタチップ等の半導体素子が存在しない箇所において、リード線間に僅かに電気が流れて、あたかも半導体素子と平行して抵抗体を有する回路が生じたようになり、半導体電子部品の特性を変化させてしまうおそれがある。
【0054】
本発明の半導体封止用ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度が1400℃以下であることが好ましい。このようにすれば、溶融温度が低下しやすくなるため、溶融時における燃焼エネルギーが小さくなり、また溶融炉の寿命が長くなり、更には溶融効率も向上する。
【0055】
次に、半導体封止用ガラス、半導体封止用外套管の製造方法を説明する。
【0056】
まず各種のガラス原料を調合、混合する。ガラス原料は、通常、複数の成分からなる鉱物や不純物を含むが、このような場合、ガラス原料の成分分析値を考慮して、所望のガラス組成になるように調合すればよい。続いて、Vミキサー、ロッキングミキサー、攪拌羽根が付いたミキサー等の混合機で各種のガラス原料を混合し、投入原料を得る。
【0057】
次に、投入原料を溶融炉に投入し、溶融ガラスを得る。溶融炉は、溶融ガラスを得るための溶融槽と、溶融ガラス中の泡を除去するための清澄槽と、清澄された溶融ガラスを成形に適当な粘度まで下げて、成形装置に導くための通路(フィーダー)等で構成される。溶融炉は、バーナーまたは電気通電により加熱される。投入原料は、通常、1300〜1600℃の溶解槽で溶融されて、更に1400〜1600℃の清澄槽に入る。清澄糟から出た溶融ガラスは、フィーダーを通って成形装置に移動していく過程で、温度が低下し、成形に適した粘度103.5〜10dPa・sになる。
【0058】
次いで、成形装置で溶融ガラスを管状に成形する。成形法として、ダンナー法、ベロ法、ダウンドロー法、アップドロー法等が適用可能である。
【0059】
得られたガラス管を所定の寸法に切断すれば、半導体封止用外套管を作製することができる。ガラス管の切断加工に際し、ガラス管をダイヤモンドホイールカッターで個別に切断することも可能であるが、多数のガラス管を結束させた後にダイヤモンドホイールカッターで切断する方法が大量生産に適している。
【0060】
次に、半導体封止用外套管による半導体素子の封止方法を説明する。
【0061】
最初に、半導体封止用外套管内において、半導体素子を両側から挟み込んだ状態になるように、ジュメット線、白金線等の金属線を固定する。次に、1400℃以下の温度に加熱し、半導体封止用外套管を軟化変形させて半導体素子を封止する。このようにして、サーミスタ等の半導体電子部品を作製することができる。
【0062】
なお、本発明の半導体封止用ガラスは、半導体封止用外套管として使用する以外にも、例えば、粉末状に粉砕した後にペースト化し、これを半導体素子に巻き付けて焼成することにより、半導体素子を封止することもできる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0064】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1〜10)、比較例(試料No.11)を示している。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
まず、表中のガラス組成になるように、得率や不純物量を考慮して、酸化シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウム、珪酸ジルコン、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化タンタル、リン酸塩、硫酸ナトリウム等を調合し、V型ミキサーで十分に混合した。
【0068】
次に、調合済み原料を溶融炉に投入し、1500〜1600℃で溶融した後、ダウンドロー法で管状に成形した。次に、得られたガラス管を適当な長さ(例えば1m)に切断した。なお、溶融ガラスの流下速度、空気圧および引っ張り速度により、ガラス管の内径と肉厚を制御した。
【0069】
続いて、結束器具を用いて、1000本のガラス管を一体的に固定し、これを松ヤニ等の樹脂が各ガラス管の間に入り込むように樹脂槽に浸漬させた後、樹脂槽から取り出して冷却することにより、棒状体を得た。この棒状体をダイヤモンドカッターで長さ1〜4mmに切断して、1000本のガラス管が一体化したペレットを得た。その後、樹脂を除去してガラス管同士の結束を外し、洗浄、乾燥することにより、所定の長さの半導体封止用外套管を得た。なお、このようにして得られる半導体封止用外套管は、ビード型サーミスタ封止用外套管の場合、内径0.6〜2.1mm、肉厚0.2〜0.8mmである。
【0070】
また、表中に示すガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金坩堝を用いて1500〜1600℃で6時間溶融した後、溶融ガラスを所定の形状に成形、加工して、各評価に供した。各試料について、密度、熱膨張係数α、歪点Ps、1010dPa・sにおける温度、軟化点Ts、10dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度、液相温度TL、液相粘度log10ηTL、500℃における体積抵抗値log10ρを測定した。その結果を表1、2に示す。
【0071】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した値である。
【0072】
熱膨張係数αは、直径約3mm、長さ約50mmの円柱状の測定試料として、30〜380℃の温度範囲において、自記示差熱膨張計により測定した線熱膨張係数の平均値である。
【0073】
次のようにして、歪点Ps、1010dPa・sにおける温度、軟化点Ts、10dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度を求めた。まずASTM C338に準拠するファイバー法により歪点Ps、軟化点Tsを測定し、更に白金球引き上げ法により10dPa・sにおける温度、102.5dPa・sにおける温度を算出した。次いで、これらの温度と粘度の値をFullcherの式に当てはめて、1010dPa・sにおける温度を算出した。
【0074】
次のようにして、液相温度TLを測定した。粒径300〜500μmに粉砕されたガラス粉末をボート状の白金容器に入れ、温度勾配炉で24時間保持した。次に、温度勾配炉から白金容器を取り出した後、ガラスの表面を顕微鏡で観察して、結晶の初相が析出する温度を算出し、これを液相温度とした。
【0075】
液相粘度log10ηTLは、上記のFullcherの式と液相温度から算出した値である。
【0076】
500℃における体積抵抗値log10ρは、ASTM C−657に準拠した方法で測定した値である。
【0077】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜10は、歪点が650℃以上であり、且つ10dPa・sにおける温度が1200℃未満であるため、半導体封止用ガラスとして好適であると考えられる。一方、試料No.11は、10dPa・sにおける温度が1310℃であるため、低温封止性が劣っていた。なお、試料No.1〜10は、不純物としてFeを10〜250ppm(質量)含んでおり、質量比Fe2+/全Feの値が0.4以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上の説明から明らかなように、本発明の半導体封止用ガラスは、高耐熱性を有し、且つPbO等の有害成分を含まなくても、低温封止性を有するため、サーミスタ、特に高温型サーミスタに好適に使用可能であり、また自動車等のエンジン、ボイラー等の温度測定用サーミスタに好適に使用可能である。さらに、本発明の半導体封止用ガラスは、シリコンダイオード、発光ダイオード等の半導体電子部品にも好適に使用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 半導体素子(サーミスタチップ)
2 金属線(リード線)
3 半導体封止用ガラス(サーミスタ封止用ガラス)
10 半導体電子部品(サーミスタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪点が650℃以上であり、且つ10dPa・sにおける温度が1200℃未満であることを特徴とする半導体封止用ガラス。
【請求項2】
1010dPa・sにおける温度が700℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用ガラス。
【請求項3】
軟化点が800℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体封止用ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、質量%で、SiO 30〜50%、Al 0〜10%、CaO+SrO 0〜25%、BaO 15〜35%、ZrO+TiO 0〜25%、La+Nb 0〜20%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項5】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項6】
30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が60〜100×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項7】
液相粘度が103.5dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項8】
500℃における体積抵抗値(Ωcm)がLog10ρで5以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体封止用ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の半導体封止用ガラスにより作製されていることを特徴とする半導体封止用外套管。
【請求項10】
半導体素子と、金属線と、金属線の一部を被覆封止する半導体封止用外套管とを備える半導体電子部品において、
半導体封止用外套管が請求項9に記載の半導体封止用外套管からなることを特徴とする半導体電子部品。
【請求項11】
半導体素子が700℃以上の温度を測定可能な高温型サーミスタチップであることを特徴とする請求項10に記載の半導体電子部品。


【図1】
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【公開番号】特開2011−184216(P2011−184216A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48866(P2010−48866)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】